- 1二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:29:46
残暑の候、僕とシーザリオは秋華賞に向けてトレーニングをしていた。
アメリカンオークスを圧勝した帰国後、シーザリオは怪我をしてしまい一時は現役が怪しまれたが、幸いな事に回復が著しく早くもうトレーニングを再開できている。残念ながらBCには間に合わなかった。だが秋華賞には間に合った。ライバル達は強力だがシーザリオならきっと勝ってくれる。
しかし暑いなー。天気予報では最高でも30℃行かないはずだったのに。これじゃ35℃越してるんじゃないか?
シーザリオが今目の前を走りすぎて行った。怪我明けでもその力強いフットワークと美しいストライドは変わらない。
「はっ、はっ、はっ……ッ」
・・・ただし今日は少しおかしい。暑さでひどく発汗している。シーザリオ本人は気づいていないようだが。フォームは崩れていないが熱中症が怖い。
「ストップー!シーザリオ!」
声を発した刹那、シーザリオは速度を緩め始めた。そして早足で僕の元へ向かってきた。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:30:27
「そんなに急がなくてもいいよ」
「いえ。指導を待つわけにはいきませんので。トレーナー。ご用件は」
「指導というか...いや、指導か。よし、今日はもうトレーニング上がろっか」
「・・・それは...どういうことでしょうか」
少々不満気に見えた。
誤解を解くために僕はシーザリオの肩や首元を指差した。
「すごい汗だよ。ほら、熱中症を起こすかもしれないからさ」
シーザリオは手で肩触り、目を見開いた。手にはびっしょりの汗が光っていた。やっぱり気づいていなかったか。シーザリオの極限まで鍛え上げられている集中力がよく分かる。時間を忘れてトレーニングし続けていたこともあったなあ。まさに“質実剛健”だ。
「気付きませんでした・・・。9月だというのに。・・・トレーナーもすごい汗ですよ」
えっ?背中を触ると確かに
みまもっていた(みまもっていた!)僕の手にはびっしょり汗がついていた。
「本当だ...。動いてないのに。でも問題ないよ。シーザリオが気づかなかったのは大丈夫。僕が常に見てるから。逆に言うとそれだけ走りに向き合えていたってことだよ。取り敢えず水分補給しよう」
そう言って僕は双眼鏡をどかして脇のベンチに冷やしてあるウマリスエットを渡した。冷気が気持ちいい。
「どうも!」
シーザリオは勢いよく、されど上品に全てを飲み干した。
「作るけど、いる?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
寸秒、時間をずらしていたから、僕とシーザリオだけのトレーニングコースに沈黙が流れた。
「・・・そうだ!塩おにぎりを食べない?お腹も空いたでしょ?」
「塩おにぎり、ですか?」
シーザリオの口調が柔らかくなっている。彼女の内部でスイッチが切り替わった、つまりオフモードに入ったようだ。このままオフに今日はしておかないと。
「美味しくて手軽で塩分を豊富に含んでいるから熱中症対策にも良いんだよ。シーザリオはお菓子作りをよくするしおにぎりは握ったこと…あるよね?」
「もちろんありますよ!米を使ったケーキを焼いたこともありますし、米料理は得意な方です」
「よかった!じゃあ作ろうか!」
「え、今、ですか?」
「君も知ってる教え子が教えてくれたんだ。“趁热打铁”だから」
「ああ。あの方ですか。この前来てましたよ?」
「ええ!本当に?悪いことしたなあ」
- 3二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:31:08
🕰
うへえ…来年のトレ試験問題制作ってまじかよ…。いや、取り敢えず今は急ごう。疲れているシーザリオを待たせてはいけない。
理事長との用を済ませてからトレーナー室に行くと、シーザリオが丁度入って行くところだった。・・・オフモードだな。よし。
「ごめん!待たせた?」
「いえ、丁度ですよ」
「ならよかった。シーザリオは何もしなくて良いから、そこで休んでおいて」
こう言っておかないと絶対に無理をする。 - 4二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:32:27
僕はトレーナー室のキッチンに向かい、最近新調した棚からおひつを取り出した。
「おひつですか…」
シーザリオは物珍し気な目で見ていた。
「今どき珍しいかもね…よし、じゃあ握ろっか。はい」
俺は机の塩をとりシーザリオに渡した。
「素手で…握るんですか?」
シーザリオはやや困惑しているように見えた。しまった。
「いや、ごめん!僕がいつもそうしてるからつい癖で…ラップ用意するね?それとも手袋?」
「いや。一度やってみます」
「本当に?気を遣わなくても」
「気など遣っていません。私がやってみたいだけですから」
そういうとシーザリオは塩を手にまぶし、握り始めた。両手に広げてエアコンの風に吹かれる、時間を忘れて創られた、手にできた結晶が、窓から差し込む西日に光っている。
僕も握り始めた。
「シーザリオ、流石!お菓子作り得意なだけあるね」
「トレーナーも上手ですね」
そうこうしているうちに完成した。
「わあ!美味しそう!」 「ふふ、美味しそうです!」
「じゃあ」 「「いただきます」」
シーザリオが先に頬張り始めた。
顔からぱぁーっと光が溢れ出る。オンの姿からは想像もできない。
「美味しいです!」
「よかった!じゃあ僕も」
うん。美味しい。塩気が汗の流れた体によく効く。実に美味しい。
「ふふ、トレーナー!ほっぺにご飯粒がついてますよ?」
頬を触って確かめた。・・・Oh…なんと三粒も。
「本当だ」
「美味しいですし気づきませんよね」
僕はもう一口おにぎりを味わってから言った。
「おいしいね、シーザリオ」 - 5二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:33:50
- 6二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:36:18
なにこの...なに?
- 7二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:37:47
爽やかだなあ(>>5から目をそらしながら)
- 8二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:38:49
>>そういうとシーザリオは塩を手にまぶし、握り始めた。両手に広げてエアコンの風に吹かれる、時間を忘れて創られた、手にできた結晶が、窓から差し込む西日に光っている。
ここ無理あるだろw頑張ったな
- 9二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:39:37
9月だというのに
たくさん汗をかいた
シーザリオ
またがっていた(またがっていた!)
僕の手にはびっしょりシーザリオの汗
両手を広げて吹かれる 時間を忘れた 手にできた結晶を
僕はおひつを開けて おにぎりを握った
おいしいね シーザリオ - 10二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:39:43
(みまもっていた!)まで読んだ
- 11二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:40:02
>>みまもっていた(みまもっていた!)僕の手にはびっしょり汗がついていた。
- 12二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 21:55:29
回復イベントたすかる(思考停止)
- 13二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 22:13:24
こいつら汗かいちゃったんだ!!
- 14二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 22:13:55
- 15二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 22:15:20
缶詰版も欲しい
- 16二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 22:40:53
おもろい
- 17二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 23:17:03
とんでもない怪文書をとんでもない怪文書に書き換えただけじゃねえか!!(それはそれとして好きですありがとう)
- 18二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 23:25:36
ほのぼのSSのはずなのに所々抜け切れていない狂気が垣間見えるな
- 19二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 23:32:18
なんとか爽やかなSSになるようまとめているものの所々原文の狂気に負けてて府中芝2400
- 20二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 23:33:45
ところどころ原文の狂気が見え隠れするの好き
- 21二次元好きの匿名さん24/03/26(火) 23:34:36
隠しきれない素材の味
- 22二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:02:04
ありがとう
- 23二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:02:35
“”“”“”“9月だというのに”“”“”“”“
- 24二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:04:36
おいしいねシーザリオで締めるな
- 25二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:05:32
やっぱり手にできた結晶の部分とかあまりにも狂気と突飛な発想すぎてなかなか難しいな
- 26二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:09:21
- 27二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 00:13:06
なんせ原文はここ最近の気候変動を感じられたり「両手を広げて吹かれる 時間も忘れた」って一文で本当に楽しいひと時なのが伝わってくる名文でも有るからある意味アレンジが効かねえんだな
それをここまでの形に持って行ったのは素直にすごいと思った(小波) - 28二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 01:04:12
なるほど~こう解釈すれば原作怪文書の気持ち悪さもぐっと薄れて
やっぱだめだわ