- 1二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 18:47:00
ぼちぼちとニュースで桜の開花や花見の話題が取り扱うようになっていくこの頃。ここ最近ほど、菜種梅雨と言われるように連日の雨模様。この雨が降り止む時には花や虫らが生き生きとし始める。それまでの間は、その春の様子を待ち遠しく想いながら、雨が過ぎ去るまでじっと待つのが普通だ。
だが、俺が担当しているウマ娘、ミスターシービーは逆に生き生きと雨が降る中、外に出ていく。その様子はまるで、蝶や桜より一足早く春を満喫しているかのように渡り歩く。
ただ、トレーナーとしている身としては、雨に濡れた彼女が風邪をひかれるのは困る。シービーは一人暮らしをしているものだから、濡れた後の後始末のことを考えるとなおさら心配してしまう。そのため、LANEで連絡を取りながらも、彼女の様子を確認するために彼女が住んでいるアパートに通う日々が続いていた。
「ふぅ、いい湯だった。ねぇ、トレーナーも入ってきたら」
「俺はずぶ濡れになってないからな。寮に帰ってから入るよ」
「…ふーん、入ったら気持ちいいのに」
「いや、入らないからな」
こちらの気も知らずに、風呂上がりで上機嫌のシービーは料理をしている俺の横に来る。
今日のシービーの雨の行動は裸足になって、足が泥だらけになりながらも河川敷を楽しく駆け抜けるものだった。連日の雨で柔らかくなった新芽と土を裸足で踏み込みながら、走る感覚は春ならではの醍醐味らしい。
そのせいで、彼女は全身びしょ濡れ。着ている制服は汚れたのでクリーニング出すしかないだろう。でも、楽しそうに駆け抜けるシービーを見ていると止める気は起きなかった。ただ、それで具合が悪くなったら意味がない。そこで、彼女の身体を温めさせるには湯船に浸かるのが一番。
その為、シービーの部屋に訪れ、彼女がお風呂に入っている間に、俺は夕食の準備をしていて、その後は今に至る。 - 2二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 18:47:49
「その…シービー、風呂上がりでちょっと喉乾かない。何か飲みたいものある?」
少し強引に話の話題を逸らす。これ以上、シービーからその話の話題に触れられるのは困る。
「んー、じゃあ、今日は暖かいココアが飲みたい気分かな」
「了解。作るからリビングで待っててね」
「オッケー。あっ、せっかくだから、キミも少し休憩取らない?」
「えっ……、でも、夕飯の途中だし」
「この休憩が終わったら、アタシも手伝うからさ。ほらほら、座ってゆっくりしよよー」
シービーの突発的な提案に俺は戸惑うものの、彼女はそんな俺のことなどお構いなしにマグカップとココアパウダーを用意する。
俺は経験則から、こうなったシービーは止まらない。一応、彼女も手伝うと言っているので、料理を中断。冷蔵庫から牛乳を取り出して、ホットココアの作成に取り掛かった。
「はい、シービー」
「うん、ありがとう。あっ、トレーナーソファじゃなくて、そこに座ってもらえる」
二人分のココアを作り終えて、隣にいるシービーにココアを渡す。ココアを渡した彼女とリビングに向かったのだが、シービーは妙なことにソファではなく床に座るよう促された。
「はぁ、分かったよ」
疑問を持ちつつ、彼女に言われるままにそこに座る。座った直後、背中から爽やかながらも甘い、まるで森林にいるかのような香りと共にシービーが背中にもたれかかってきた。さしずめ彼女と背中合わせで座っている状態にいる。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 18:48:29
「……シービー?」
「ここ数日にトレーナーを玄関から送る時に、キミの背中広いなぁと感じてねぇ。何となくもたれかかったら、気持ちいいじゃないかなと思ったわけでやってみたわけ」
どうしたの意味を込めて、彼女の名前を読んだら、後ろから答えてくれた。表情は見えないが声からしていたずらに成功して、満足したかのように思える。
「うん、これも悪くないかな。キミはどう?」
「……うーん、悪くないと思うけど、部屋ではなく、例えば夜空の星空の下でやるとか」
「へぇ~。案外、キミもロマンチスト
だね」
シービーに今の背中合わせの感想聞かれて、少し悩んだ後に答えた。そしたら、彼女から感心した声が聞こえる。
「そうかもね。シービーはこのままがいいかな?」
「うん、今はこのままでいたいな」
シービーと背中合わせのまま、ココアをすする。なんだか背中越しにシービーを感じるのは不思議な感じだ。ただ、嫌な気分ではなく、むしろ心をくすぐるものがある。
しばらく無言で二人してココアを味わっていると……。
「ねぇ、トレーナー」
背中からシービーに呼びかけられる。それに俺は小さく頷きつつ答える。
「なに?」
「キミはアタシとの日々、楽しい?」 - 4二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 18:49:34
「うん、楽しいよ」
シービーからのその問いに俺は間髪入れずに答える。それを聞いた彼女は安堵したように呟いた。
「ふふっ、ありがとう。キミもアタシと同じ想いで嬉しいな」
シービーのその言葉は、いつものような冗談交じりではなく、どこか切実さを感じ取れた。
「そういえば、シービーって、山菜にも詳しいよなぁ」
「まぁ、それなりに詳しいかな」
「だったら、二人で山菜を取りしながらキャンプしてみたいなぁ。春だから山菜も生えるだろうし。それで夜は今みたいに背中合わせで星空を眺めるとか」
「へぇ~、面白そう。ふふっ、キミも少しは分かって来たかな。ねぇ、もっとその話、聞かせてくれない」
しっとりした雰囲気になったから、明るい話題を振ったら、シービーも乗ってくれた。そこから、俺とシービーは山菜が取れる時期やどんな場所でキャンプをしたいか等、いろいろと雑談した。表情は見えないものの彼女の声色が明るくなったのを聞くと、彼女のお気に召す話題を提供できたらしい。
「トレーナー。いっぱいお喋りしたから、お腹空いちゃった。ご飯の続き作ろう」
「俺も同じ。作りに戻ろうか」
「うん。そういえば、今日の夕飯は何?」
「今日はね……」
こうして、俺とシービーは夕食の残りを調理すべく台所へと向かう。背中合わせでの会話は顔は見えずとも、シービーの息遣いや声色からどんな表情をしているのかを案外読み取れるものだった。それは自由な彼女との繋がりをより深く感じられたひと時だった。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 18:51:53
以上で終わりです
- 6二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 19:05:48
- 7二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 20:27:33
よき!!!
- 8二次元好きの匿名さん24/03/27(水) 20:30:31
Good
次回作にも期待