- 1二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:46:35
- 2二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:46:53
"天候に恵まれ良好なバ場状態で迎えることが出来ました。"
"少人数ながら、豪華なメンバーが集まりました。"
"半円状の特殊なコースで行われるこのレース、偽りの直線に偽りのカーブ。夢か現か幻か!?"
"虹の旅路は1600m、栄光を手にするのは誰でしょうか!?"
"グレード1競走レインボーステークス、まもなく発走です!"
歓声と共に実況がこだまする。
……あれ!? なんでわたし、ゲート前にいるの!?
それに、勝負服まで着てるし!?
見渡す限りの青空、そして雲海。私がいる場所は地上ではなく空の上。足元は虹色の芝の様なもの。
空の上!? なんで!?
「どうしたの? 緊張してる? そういう時は笑顔笑顔! ほら、スマイルスマイル!」
混乱している私に話しかけてきたのは隣の枠のウマ娘。
栃栗毛で笑顔が印象的な子。
学園でも見たこと無い子だけど、どの路線で走ってるんだろう?
「あ、いえ、大丈夫です! 初めてのコースで少し戸惑っているだけですから……」
「そーなの? でも大丈夫大丈夫! このコース、とっても気持ちいいから!」
うーん、やっぱり状況が飲み込めない。 - 3二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:10
「このコース、緩やかなカーブの連続だから結構な曲者だよ」
もう一人、話しかけてきた。
目付きが鋭くて、背の高い鹿毛のウマ娘。
「ありがとうございます。結構特殊なんですね、このコース」
「そうさ、でも、一度走れば慣れるよ。ここなら怪我の心配もないしね」
怪我の心配がない? 特殊な芝なのかな?
疑問を口にしようとすると鹿毛の子が話始めた。
「ここはね、虹の上なんだ。地べたとは違う。だから脚に負担がかからなのさ」
虹の上? ますますわからない……。
わたし、おかしくなったのかなあ。
頭がどうにかなりそうなわたしを尻目に、その子は話を続ける。
「まあ深く考えるのはやめておきな。夢か現か幻か? あたしたちもわからないんでね」
「ところで君、桜花賞ウマ娘だろ? ここから見てたよ。一回手合わせしてみたかったんだ。」
「へ? わたしのこと、ご存じなんですか?」
「ああ知っているとも。こいつらともここで話してたんだ。いつか一緒に走ってみたいってね」
「なんせ今日のメンバーは全員ティアラ路線で走っていたからね」
「え、そうなんですか?」
「そうさ、こう見えてあたしはエリ女を勝ってるし、この子だってマイル重賞2勝だ」
「ゲートの前で集中してる栗毛の子がいるだろ? あの子は桜花賞ウマ娘」 - 4二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:31
「そっちで空を見上げている芦毛の子は重賞3勝、そしてオークス2着だ」
「な、豪華なメンバーだろ?」
まさかそんなすごい人たちと一緒に走れるなんて……もしかして、これは夢なのかな?
「おっと、そろそろ枠入りだ。それじゃあターフで踊ろうぜ? お嬢さん」
「頑張ろうねー! 私の末脚でぶち抜いてあげるからね!」
……とにかく今はレースに集中しよう。
ここが何処なのか、それはレースの後に聞こう。
1番が栗毛の子、2番が栃栗毛の子、3番がわたし、4番が鹿毛の子、5番が芦毛の子。
名前、聞けなかったから後で聞いておこう。みんなのレース、見てみたいもの。
"各ウマ娘、続々と枠入り、最後に5番が入りまして体勢完了!"
「出ろー!」
係員の声と共にゲートから発せられるモーターの囁き、鉄の扉の歓声。
考えるのは後、今はただゴールに向かって走るだけ。
"スタートしました! 横一線、揃ったスタートです!"
"さあ、先行争い誰が行くか!? ハナを切るのは1番! 2バ身後ろで番手追走は3番ラインクラフト!"
"さらに3バ身程切れて内に4番、外目追走2番、1バ身切れて最後方5番という展開です。"
"隊列早々決まりました。さあ、ペースはどうか!?"
少人数のせいか隊列は直ぐに決まった。
ひとまず取りたいポジションは取れた。後は仕掛けどころだけ。 - 5二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:46
偽りの直線に偽りのカーブ。半円状のコースが見せる幻惑。
直線のつもりで走れば外によれてしまう。カーブのつもりで曲がれば内に刺さってしまう。
ゲート裏で鹿毛の子に教えて貰った通り。自分のペースを保たないと。
"前半800m通過、時計は46秒フラットと計測されました。やや速いペースです!"
少し速い。前の子から少し離され始めている。でも、ここで焦れば終いが甘くなる。焦るなわたし。
"おおっと、5番ここで進出開始! ポジションを上げていきます!"
"3番ラインクラフトの後ろに付けました!"
最後方にいた芦毛の子が動き始めた。早仕掛け? いや違う。ここに来てわたしをマークしている。
焦るな、焦るな、焦るな! ここで急いてはいけない。冷静に冷静に。
後ろからの殺気に惑わされるな! 焦るなわたし!
"各ウマ娘、動きが激しくなってきました! バ群が一気に凝縮され団子状態となりました! 夢の旅路は残り400!"
"虹の端にたどり着くのは誰だ!? 各ウマ娘、一斉にスパート!!"
バ場の感じだと内の潜った方が伸びる。でも、最内は開かない。
なら、外に出すか? いや、それも厳しい。外に出ようにも蓋をされている。
強引に潜り込む? どうする、どうする!?
"1番まだ先頭キープ! リードは1バ身程! おおっと1番外によれた! しかし体勢立て直しました!"
来た! ここだ、これで内に進路を取れる!
虹を蹴り上げ一気に抜け出す。後はゴール板まで駆け抜けるだけ。 - 6二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:04
"3番ラインクラフト、一気に内へ潜り込む! 抜けた抜けた抜けた!! 先頭3番ラインクラフト!!"
"1番も粘るがリードを開いていく!"
負けない、負けない。勝ちたい、勝ちたい!
"残り200、150、100! このまま押し切るか!!"
後ろからの殺気を感じる。来る、来る、来る!
後ろを見る余裕なんてない。でもわかる。どんな表情で追いすがっているか。
"3番ラインクラフト、リードは3バ身! ここで大外強襲2番! しかし届かない!!"
"3番ラインクラフト、押し切ってゴールイン!! 夢を掴んだ!!"
"勝ったのは3番ラインクラフト!! 番手追走から一気に抜け出し押し切りました!!"
"2着は最後方からの追い込んだ2番、そして1番は逃げ粘って3着!"
減速し、息を整え電光掲示板に目をやる。1着3番の掲示。勝った、わたしが勝ったんだ。 - 7二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:22
「強いね~、届かなかったよ……。おめでと!」
「バ場を読み切るなんて大したもんだ。君の勝ちだ。おめでとう」
栃栗毛の子と鹿毛の子からの祝福。
「ありがとうございます! また、レースしましょう! 次も負けません!」
「今回は負けましたが、次は負けませんわ」
「あなた、強いのね。おめでとう、そしてありがとう」
栗毛の子と芦毛の子からも祝福。
「はい、ありがとうございます! 一緒に走れて光栄です! でも、次も負けませんから!」
わたし、勝ちましたよ! トレーナーさん!
そういえば、トレーナーさんどこで見てくれているんだろう?
観客席には見当たらない。どこにいるのかな?
……クラフト、クラフト!
どこからか声が聴こえる。トレーナーさんの声。
一体どこに……辺りを見渡そうとすると急に視界が沈む。
地面が抜けて!? いや、違う。わたしの身体が透けて、虹から落ちていく!
手を伸ばすも掴めるものはなく、空を切るだけ。 - 8二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:51
一緒に走った4人はそこに佇み、落ちて行くわたしを見ている。
助けて! そう叫ぼうしても声が出ない。代わりに頭の中で4人の声が響く。
"ここで見てるからね! しばらく来ちゃダメだよ!"
"長生きしてから来な。待っててやるよ"
"運命は変えられます。精進なさって"
"レース、ありがとう。私の分も頑張って"
返事は出来ない。みんなの名前も聞けない。でも、わたしは忘れない。みんなのこと。
いつかまた、一緒に走るんだ。それまでは忘れない。
意識が遠退いてゆく。
……クラフト、クラフト!
目を開けると、いつもの河川敷。そうだった。わたし、ここで日向ぼっこをしていたんだ。
目の前には心配そうにのぞき込むトレーナーさん。
「起きたか! クラフト、何ともないか?」
「あ、すみません。眠ってしまったみたいです」
「何ともないなら良いんだが……何か夢でも見ていたのか?」
「もしかして、顔に出てましたか?」 - 9二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:49:09
「ああ、楽しそうに見えたんだ」
「……歩きながらお話ししますね。でも、笑わないでくださいね?」
「大丈夫、そんなことは思わないさ」
いつもの散歩道を一緒に歩きながら夢で見たことをトレーナーさんに話す。
我ながら子供っぽい夢だから、少し恥ずかしい。
虹の上でレースをしたこと。同じティアラ路線のウマ娘たちと一緒に走れたこと。そして、勝ったこと。
トレーナーさんは約束通り、笑わないでいてくれた。
「素敵な夢だね。もしかして、あんな虹だったかい?」
トレーナーさんは立ち止まり、空を指さす。
眠りに落ちる前に見た虹が、確かにそこに有った。なんて言うんだっけ、あの虹。かん、かん何とかアークだっけ。
「環水平アーク、だね。春から秋口まで見られる現象だよ。」
"環水平アーク"って言うんだ。あの虹……みんなはまたレースしてるのかな?
「きっと、みんなあの虹から見ていてくれるよ。だから、頑張ろうな!」
「はい! トレーナーさん! いっぱい勝ちましょう!」
みんな、大分先になるかもしれないけど、待っててね。
また、レースしようね。 - 10二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:49:39
以上
虹の上、もし走れたら素敵だね - 11二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 13:36:18
- 12二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 14:38:32
- 13二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 20:13:20
いいな
- 14124/03/30(土) 20:46:40
- 15二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 02:38:44
美しい…
- 16124/03/31(日) 11:30:22
虹は奇麗で良いよな
- 17二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:23:04
レース描写いいな
焦るな焦るな!のとこの緊張感すき - 18二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:26:41
こっちではみんな生きて引退出来てればいいな…
- 19二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:30:09
- 20124/03/31(日) 21:44:49
- 21二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 21:47:03
- 22二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 00:55:54
怪奇が多いウマ娘世界やし有りそう
- 23二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 12:10:50
初めて読んだ時涙が出た
名作をありがとう - 24124/04/01(月) 22:20:41
- 25二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 23:54:25
良き…
- 26二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 04:24:29
- 27124/04/02(火) 09:48:16
- 28二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 21:00:47
とても素晴らしいものを読めた
時を超えたクイーン達との夢のレースは忘れることなんてことは出来ませんね
いつかウマ娘になった時はちゃんと帰ってきてね - 29二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 21:08:05