(SS)おひさまぱっぱか快晴レース

  • 1二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:46:35

    「良い天気……」



    暑くもなく、寒くもない穏やかな休日。いつもの河川敷。
    すこしぼんやりとした春の空。まばらに浮かんだ雲がゆったりと進む。

    少し、日向ぼっこをしよう。こんなにもいい天気なのだから。
    原っぱに寝転んで空を見上げると、あるものが視界に入る。

    お日様と一緒に虹が出ている……雨、降ってないのに。
    なんて言うんだっけ、これ。かん、何とかアークだっけ。
    思い出せそうで思い出せない。



    思い出そうとしているうちに意識が夢世界へと歩を進める。
    虹や雲の上、もし走れたら気持ちいいのかな? 閉じ行く瞼と共に意識は夢へと旅立つ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:46:53

    "天候に恵まれ良好なバ場状態で迎えることが出来ました。"
    "少人数ながら、豪華なメンバーが集まりました。"

    "半円状の特殊なコースで行われるこのレース、偽りの直線に偽りのカーブ。夢か現か幻か!?"
    "虹の旅路は1600m、栄光を手にするのは誰でしょうか!?"

    "グレード1競走レインボーステークス、まもなく発走です!"

    歓声と共に実況がこだまする。

    ……あれ!? なんでわたし、ゲート前にいるの!?
    それに、勝負服まで着てるし!?

    見渡す限りの青空、そして雲海。私がいる場所は地上ではなく空の上。足元は虹色の芝の様なもの。

    空の上!? なんで!?

    「どうしたの? 緊張してる? そういう時は笑顔笑顔! ほら、スマイルスマイル!」

    混乱している私に話しかけてきたのは隣の枠のウマ娘。
    栃栗毛で笑顔が印象的な子。
    学園でも見たこと無い子だけど、どの路線で走ってるんだろう?

    「あ、いえ、大丈夫です! 初めてのコースで少し戸惑っているだけですから……」
    「そーなの? でも大丈夫大丈夫! このコース、とっても気持ちいいから!」

    うーん、やっぱり状況が飲み込めない。

  • 3二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:10

    「このコース、緩やかなカーブの連続だから結構な曲者だよ」

    もう一人、話しかけてきた。
    目付きが鋭くて、背の高い鹿毛のウマ娘。

    「ありがとうございます。結構特殊なんですね、このコース」
    「そうさ、でも、一度走れば慣れるよ。ここなら怪我の心配もないしね」

    怪我の心配がない? 特殊な芝なのかな?
    疑問を口にしようとすると鹿毛の子が話始めた。

    「ここはね、虹の上なんだ。地べたとは違う。だから脚に負担がかからなのさ」

    虹の上? ますますわからない……。
    わたし、おかしくなったのかなあ。
    頭がどうにかなりそうなわたしを尻目に、その子は話を続ける。

    「まあ深く考えるのはやめておきな。夢か現か幻か? あたしたちもわからないんでね」
    「ところで君、桜花賞ウマ娘だろ? ここから見てたよ。一回手合わせしてみたかったんだ。」

    「へ? わたしのこと、ご存じなんですか?」

    「ああ知っているとも。こいつらともここで話してたんだ。いつか一緒に走ってみたいってね」
    「なんせ今日のメンバーは全員ティアラ路線で走っていたからね」

    「え、そうなんですか?」

    「そうさ、こう見えてあたしはエリ女を勝ってるし、この子だってマイル重賞2勝だ」
    「ゲートの前で集中してる栗毛の子がいるだろ? あの子は桜花賞ウマ娘」

  • 4二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:31

    「そっちで空を見上げている芦毛の子は重賞3勝、そしてオークス2着だ」
    「な、豪華なメンバーだろ?」

    まさかそんなすごい人たちと一緒に走れるなんて……もしかして、これは夢なのかな?

    「おっと、そろそろ枠入りだ。それじゃあターフで踊ろうぜ? お嬢さん」
    「頑張ろうねー! 私の末脚でぶち抜いてあげるからね!」

    ……とにかく今はレースに集中しよう。
    ここが何処なのか、それはレースの後に聞こう。

    1番が栗毛の子、2番が栃栗毛の子、3番がわたし、4番が鹿毛の子、5番が芦毛の子。
    名前、聞けなかったから後で聞いておこう。みんなのレース、見てみたいもの。

    "各ウマ娘、続々と枠入り、最後に5番が入りまして体勢完了!"

    「出ろー!」
    係員の声と共にゲートから発せられるモーターの囁き、鉄の扉の歓声。
    考えるのは後、今はただゴールに向かって走るだけ。

    "スタートしました! 横一線、揃ったスタートです!"
    "さあ、先行争い誰が行くか!? ハナを切るのは1番! 2バ身後ろで番手追走は3番ラインクラフト!"

    "さらに3バ身程切れて内に4番、外目追走2番、1バ身切れて最後方5番という展開です。"
    "隊列早々決まりました。さあ、ペースはどうか!?"

    少人数のせいか隊列は直ぐに決まった。
    ひとまず取りたいポジションは取れた。後は仕掛けどころだけ。

  • 5二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:47:46

    偽りの直線に偽りのカーブ。半円状のコースが見せる幻惑。
    直線のつもりで走れば外によれてしまう。カーブのつもりで曲がれば内に刺さってしまう。
    ゲート裏で鹿毛の子に教えて貰った通り。自分のペースを保たないと。

    "前半800m通過、時計は46秒フラットと計測されました。やや速いペースです!"

    少し速い。前の子から少し離され始めている。でも、ここで焦れば終いが甘くなる。焦るなわたし。

    "おおっと、5番ここで進出開始! ポジションを上げていきます!"
    "3番ラインクラフトの後ろに付けました!"

    最後方にいた芦毛の子が動き始めた。早仕掛け? いや違う。ここに来てわたしをマークしている。
    焦るな、焦るな、焦るな! ここで急いてはいけない。冷静に冷静に。
    後ろからの殺気に惑わされるな! 焦るなわたし!

    "各ウマ娘、動きが激しくなってきました! バ群が一気に凝縮され団子状態となりました! 夢の旅路は残り400!"
    "虹の端にたどり着くのは誰だ!? 各ウマ娘、一斉にスパート!!"

    バ場の感じだと内の潜った方が伸びる。でも、最内は開かない。
    なら、外に出すか? いや、それも厳しい。外に出ようにも蓋をされている。

    強引に潜り込む? どうする、どうする!?

    "1番まだ先頭キープ! リードは1バ身程! おおっと1番外によれた! しかし体勢立て直しました!"

    来た! ここだ、これで内に進路を取れる!
    虹を蹴り上げ一気に抜け出す。後はゴール板まで駆け抜けるだけ。

  • 6二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:04

    "3番ラインクラフト、一気に内へ潜り込む! 抜けた抜けた抜けた!! 先頭3番ラインクラフト!!"
    "1番も粘るがリードを開いていく!"

    負けない、負けない。勝ちたい、勝ちたい!

    "残り200、150、100! このまま押し切るか!!"

    後ろからの殺気を感じる。来る、来る、来る!
    後ろを見る余裕なんてない。でもわかる。どんな表情で追いすがっているか。

    "3番ラインクラフト、リードは3バ身! ここで大外強襲2番! しかし届かない!!"
    "3番ラインクラフト、押し切ってゴールイン!! 夢を掴んだ!!"

    "勝ったのは3番ラインクラフト!! 番手追走から一気に抜け出し押し切りました!!"
    "2着は最後方からの追い込んだ2番、そして1番は逃げ粘って3着!"

    減速し、息を整え電光掲示板に目をやる。1着3番の掲示。勝った、わたしが勝ったんだ。

  • 7二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:22

    「強いね~、届かなかったよ……。おめでと!」
    「バ場を読み切るなんて大したもんだ。君の勝ちだ。おめでとう」

    栃栗毛の子と鹿毛の子からの祝福。

    「ありがとうございます! また、レースしましょう! 次も負けません!」

    「今回は負けましたが、次は負けませんわ」
    「あなた、強いのね。おめでとう、そしてありがとう」

    栗毛の子と芦毛の子からも祝福。

    「はい、ありがとうございます! 一緒に走れて光栄です! でも、次も負けませんから!」

    わたし、勝ちましたよ! トレーナーさん!
    そういえば、トレーナーさんどこで見てくれているんだろう?

    観客席には見当たらない。どこにいるのかな?

    ……クラフト、クラフト!

    どこからか声が聴こえる。トレーナーさんの声。
    一体どこに……辺りを見渡そうとすると急に視界が沈む。

    地面が抜けて!? いや、違う。わたしの身体が透けて、虹から落ちていく!
    手を伸ばすも掴めるものはなく、空を切るだけ。

  • 8二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:48:51

    一緒に走った4人はそこに佇み、落ちて行くわたしを見ている。
    助けて! そう叫ぼうしても声が出ない。代わりに頭の中で4人の声が響く。

    "ここで見てるからね! しばらく来ちゃダメだよ!"

    "長生きしてから来な。待っててやるよ"

    "運命は変えられます。精進なさって"

    "レース、ありがとう。私の分も頑張って"

    返事は出来ない。みんなの名前も聞けない。でも、わたしは忘れない。みんなのこと。
    いつかまた、一緒に走るんだ。それまでは忘れない。

    意識が遠退いてゆく。



    ……クラフト、クラフト!

    目を開けると、いつもの河川敷。そうだった。わたし、ここで日向ぼっこをしていたんだ。
    目の前には心配そうにのぞき込むトレーナーさん。

    「起きたか! クラフト、何ともないか?」
    「あ、すみません。眠ってしまったみたいです」

    「何ともないなら良いんだが……何か夢でも見ていたのか?」
    「もしかして、顔に出てましたか?」

  • 9二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:49:09

    「ああ、楽しそうに見えたんだ」
    「……歩きながらお話ししますね。でも、笑わないでくださいね?」
    「大丈夫、そんなことは思わないさ」

    いつもの散歩道を一緒に歩きながら夢で見たことをトレーナーさんに話す。
    我ながら子供っぽい夢だから、少し恥ずかしい。

    虹の上でレースをしたこと。同じティアラ路線のウマ娘たちと一緒に走れたこと。そして、勝ったこと。
    トレーナーさんは約束通り、笑わないでいてくれた。

    「素敵な夢だね。もしかして、あんな虹だったかい?」
    トレーナーさんは立ち止まり、空を指さす。

    眠りに落ちる前に見た虹が、確かにそこに有った。なんて言うんだっけ、あの虹。かん、かん何とかアークだっけ。

    「環水平アーク、だね。春から秋口まで見られる現象だよ。」
    "環水平アーク"って言うんだ。あの虹……みんなはまたレースしてるのかな?

    「きっと、みんなあの虹から見ていてくれるよ。だから、頑張ろうな!」
    「はい! トレーナーさん! いっぱい勝ちましょう!」



    みんな、大分先になるかもしれないけど、待っててね。
    また、レースしようね。

  • 10二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 05:49:39

    以上
    虹の上、もし走れたら素敵だね

  • 11二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 13:36:18

    ちなみに環水平アークってこういう現象


    環水平アーク - Wikipediaja.wikipedia.org
  • 12二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 14:38:32

    恐らくラインクラフト以外の出走ウマ娘のモデルとなった馬はそれぞれエガオヲミセテ、ホクトベガ、サンエイサンキュー、シャダイソフィアかな?

  • 13二次元好きの匿名さん24/03/30(土) 20:13:20

    いいな

  • 14124/03/30(土) 20:46:40

    >>12

    正解

    伝わったようで嬉しいゾ


    >>13

    ありがとナス

  • 15二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 02:38:44

    美しい…

  • 16124/03/31(日) 11:30:22

    >>15

    虹は奇麗で良いよな

  • 17二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:23:04

    レース描写いいな
    焦るな焦るな!のとこの緊張感すき

  • 18二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:26:41

    >>12

    こっちではみんな生きて引退出来てればいいな…

  • 19二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 17:30:09

    急に「虹の彼方へ行こう」が強烈な重みを持つじゃん……
    いや、うまぴょい伝説ってもともとそういう曲だったのかもしれないな……

  • 20124/03/31(日) 21:44:49

    >>17

    ありがとナス

    レース中の駆け引きって良いよね


    >>19

    たまげたなあ

  • 21二次元好きの匿名さん24/03/31(日) 21:47:03

    >>19

    そうだとするとだいぶ解釈変わってくるな

    あっちでも虹の彼方杯やってるのかもね

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 00:55:54

    >>21

    怪奇が多いウマ娘世界やし有りそう

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 12:10:50

    初めて読んだ時涙が出た
    名作をありがとう

  • 24124/04/01(月) 22:20:41

    >>23

    感想感謝

    名作とは照れるね

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/01(月) 23:54:25

    良き…

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 04:24:29

    すき

  • 27124/04/02(火) 09:48:16

    >>25

    ありがとう


    >>26

    やったぜ。

    ありがとうございます!

  • 28二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 21:00:47

    とても素晴らしいものを読めた
    時を超えたクイーン達との夢のレースは忘れることなんてことは出来ませんね
    いつかウマ娘になった時はちゃんと帰ってきてね

  • 29二次元好きの匿名さん24/04/02(火) 21:08:05

    >>28

    感想感謝

    皆の実装をオレハマッテルゼ

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています