- 1二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:01:12
「────アースって、本当に褒め上手だよなあ」
少し照れた様子で立ち去っていく子を見送りながら、俺はそう呟いた。
そんな俺の言葉を聞いて、隣に立っているウマ娘が、耳をぴこんと反応させる。
緩やかなウェーブを描く黒鹿毛のサイドテール、きりっと鋭い目つき、それでいて優しいな眼差し。
担当ウマ娘のサウンズオブアースは、少し意外そうな表情で言葉を返す。
「そうかい? それぞれのムジカを、溢れる魅力をそのまま口にしているだけなんだけどな」
「それが出来るのが褒め上手なんじゃないかな、それに、君はその魅力を見つけるのも上手だしね」
例えば、先刻の話。
廊下をともに歩いていた最中、突然アースは花瓶を持った子に声をかけた。
『グラッツィエッ!』
『ふえ!?』
『アニマートな花々をソステヌート出来ているのは、君がいたからだったんだね、お嬢さん』
『えっ、いや、その、これはあたしが勝手にやってることで』
『ベニッシモッ! ……おかげで私達はいつもブリッランテな気持ちでいることが出来ているんだよ』
『もっ、もう、大袈裟ですよぉ……』
そういう彼女の顔は真っ赤ではあったものの、とても嬉しそうに見えた。
仰々しくはあるものの、自分のやっていることを真っ直ぐに褒められるのは、嬉しいことだろう。
それに、飾られた花をお世話している人なんて、俺は気にしたこともなかった。
そういうところをしっかりと見ている観察眼もまた、彼女の類まれない素質の一つなのである。 - 2二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:01:28
「そういうところも、見習わなくちゃいけないな……トレーナーが何を言っているんだって感じだけど」
「いいや、誰だって最初はプリンチピアンテさ、ただ、トレーナーがそういうつもりならば」
アースはくるりと踊るようにステップを踏むと、俺に向き合った。
そして、こちらの目をじっと見つめて、少しだけ楽しそうな笑顔で、言葉を紡ぐ。
「どうだろう────私というプビリッコに、エチュードを奏でてみるというのは」 - 3二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:01:41
トレーナー室。
アースは椅子に腰かけながら、尻尾をゆらゆらと動かしていた。
その瞳はきらきらと輝いていて、まるでコンサートの開演を待ちわびているよう。
そして俺はそんな彼女のの目の前で、少し照れながら頬を掻いていた。
「……本当に、やる?」
「ああ、君の言葉は誰かを導く篝火になり得る、だとすればそのメロディーアを奏でていくべきさ」
俺は君を導ければ十分なんだけど、という言葉は飲み込んだ。
きっと、アースなりに俺の先々のことを考えてくれているのだろう。
そんな彼女の気遣いを、無下にはしたくない。
それに、実際褒める練習の相手とすれば、彼女はぴったりな人選であった。
今の時代、俺が褒め言葉だとしれば相手にとってそうじゃなければ、問題になる可能性だってある。
気心知れた彼女相手であれば、万が一妙なことを言ってしまって、ある程度はフォローが効く。
まあ、もちろん、そうならないように気を付けるのが前提ではあるが。
「よし、あんまり気の利いたことは言えないかもしれないけど、やってみるよ」
「ふふ、楽しみにしているよ、君のソロを」
微笑みを浮かべるアースを前に、深呼吸を一つ。
彼女が他人を褒めている姿、言葉を思い出しながら、俺は口を開く。 - 4二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:01:55
「えっと、君の、エネルジコな走りは、とても素晴らしい、と思う」
「うん、メゾピアノな響きではあるけど、悪くない」
「……それに楽器を扱っている姿は、とてもグラツィオーソで」
「音楽は私にとってインポルタンテだからね、そう言って貰えると嬉しいよ」
「…………後、友達と一緒に居る時の君は、アマービレで」
「ああ、彼女達と奏でるオペレッタは、私にとって大切なひと時さ」
……どうにも、言葉が上滑りしているような感覚がある。
アースは特に気にした様子もないけれど、彼女の言う褒め言葉とは明らかに質が違った。
もちろん、すぐに彼女と同じように喋れるわけではないし、時間をかけたって無理なのはわかっている。
ただ、根本的な部分で何かが間違っているような、そんなことを感じるのだ。
俺が言葉に詰まっていると、アースは少し困ったような笑みを浮かべた。
「トレーナーは、少し勘違いをしているね」
「……勘違い?」
「ああ、いいかいトレーナー、『相手を褒める』ということは『相手が喜ぶことを言う』ことではないんだ」
アースの言葉が、俺の中ですとんと落ちた。
ぽっかり空いていたピースが、ぴったりと埋まったような、そんな心地。
彼女の言う通り、先ほどの俺は、彼女の喜びそうな言葉を選び、それを口にしていた。
しかし、それは褒める、という行為ではないのだ。 - 5二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:02:10
「私にコラパルテしてくれるのは嬉しい────けれど、それでは真に輝くメロディーアにはならない」
アースは、少し変わった言葉遣いをする。
そしてそれを、彼女はどんな相手に対しても、変えることはしない。
しかし、彼女の言葉は誰に対しても良く響き、その想いはしっかりと伝わる。
それは、心からの言葉を、そのまま口に出しているからだ。
アースは俺の顔にそっと触れて、顔を近づけると、小さくも優しい声色でそっと囁いた。
「私は、君のサウンズを聞きたいな?」
……これは、とんだ大失態だな。
自らの浅はかさを痛感しながら、俺はため息を吐く。
そして、息の届きそうな距離いるアースから少しだけ離れて、改めて向き直った。
「アース、もう一度チャンスをくれないかな」
「……ふふ、瞳にコンフォートな光を感じるよ、今なら素晴らしい音色が聴けそうだ」
アースは耳をピンと立ち上げて、目を閉じる。
俺はそんな彼女の両肩に手をおいて、じっと見つめながら、言葉を紡いだ。
心からの想いを乗せて、ただ真っ直ぐ、はっきりと、そして簡潔に。
「アース────俺は、君が好きだ」
「…………………………えっ?」
アースは目を見開いて、呆気にとられたような顔になった。 - 6二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:02:27
「トッ、トレーナー、今のは……!?」
「君の、力強くて、それでいて優しい足音を響かせるような走りに、俺は一目惚れしたんだ」
「なっ……!?」
「そして、音楽に関わる時の君の真摯な態度や、真剣な顔つきが見て、何度も惚れ直している」
「……っ!」
「友達と一緒に面白おかしくやっている君の姿はとても楽しそうで、可愛らしくて、とても魅力的だよ」
ああ、なるほど。
アースが誰かを褒める時、どこか心地良さそうな理由がわかった。
思っていることを正直に伝えるというのは、こんなに気分が爽快になるものなのか。
素晴らしい学びを得ながら、俺は彼女の様子をちらりと窺う。
アースは、少しばかり目を逸らして、その頬をほんのりと染め上げていた。
……あれ、何か意外な反応だ。
実は案外、褒められることには慣れていないのだろうか。
だとすれば悪いことをしてしまったな、そう思いつつ、俺は彼女の問いかける。
「えっと、アース、大丈夫?」
「……トレーナーが急にスフォルツァンドになったから、驚いただけさ」
そう言って、アースは少しだけ恨めしそうな目で、こちらに向き直る。
その口元は少しだけ緩んでいて、なんとも複雑な表情となっていた。
怒っている、というわけではないと思うのだけど。
まあ、切り上げ時かな、そう考えて俺は彼女から身を退こうとした。 - 7二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:02:41
しかしそれは────ちょこんと服を摘まむ彼女の手によって、遮られる。
「……アース?」
問いかけるも、言葉は返ってこない。
アースは顔を俯かせて、ただ俺の服を摘まんで、動かなかった。
しばらく沈黙が続いて、どうしたものかと考え始めた頃、彼女は顔を上げた。
恥ずかしそうなはにかんだ笑顔で、呟くような小さな声を、彼女はハッスル。
「……もう少しだけ、君の、私へのインノを聴かせて欲しい、な」 - 8二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:03:31
お わ り
早く実装して欲しい - 9二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 03:32:22
とても素晴らしいものを読ませて頂きました、ありがとう……
てかホントにエミュ上手いな、ワードチョイスとかどういう判断でこうしたのか気になるくらいには〝声が聞こえる〟もん - 10二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 06:49:12
いいなぁ
- 11124/04/03(水) 07:10:02
- 12二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 12:16:14
良き…
- 13二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 19:52:27
めっっちゃ好きです
雰囲気とかアースの魅力がすごい詰まってるなと思いました
アース実装、自分も待ってます - 14124/04/03(水) 22:30:33
- 15二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 22:48:13
アースのエミュより大変そうなのが「上っ面を真似てどこか滑っているトレーナー」なんですけど脳ミソ何で出来てるんですかね
- 16二次元好きの匿名さん24/04/03(水) 22:48:52
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- 17124/04/04(木) 08:39:13