【SS・微百合】私は、彼が嫌いだ。

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:54:54

    トレーナーがいない。
    早朝、いつも朝練に来る私よりも早く来て、おはようとあいさつしてくれる桐生院トレーナーが、今日はまだ来ていない。
    欠かしたことはないけど、私はみんなと比べて、朝練に来るのが特別早い方ではない。
    トレーナーがいない。
    こんなの、初めてだ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:55:29

    困惑している私に、唐突に声が投げられた。
    彼は桐生院トレーナーの同期で、ハルウララちゃんのトレーナー。
    ちょうど学園に来たタイミングで、茫然としている私を見掛けて、声を掛けてくれたそうだ。

    ちなみに早朝とは言え、彼は、朝練の場にはまず居ない。
    いつも真っ直ぐに、自身のトレーナー室に向かう。
    なぜなら、少なくとも私は、ウララちゃんが朝練をしている姿を、今まで一度も見たことがない。

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:56:04

    私はいつもいるはずの桐生院トレーナーがいないということを告げると、彼は少し苦笑いし、自分のせいだと謝った。
    なんでも、昨夜、遅くまで電話に付き合わせてしまったそう。
    彼女のことだから遅刻の心配はないだろうが、よかったら、迎えに行ってあげてくれないか、と。
    昨夜も君の話ばかりだった。朝一番に君に会えたら、きっと喜ぶから、と。
    当然トレーナーがいなくても、そもそも自主練の範疇である朝練自体は可能であるが、どうせ身が入らないことはわかりきっていたので、私は、快く了承した。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:56:26

    私は、彼が嫌いだ。

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:56:50

    トレーナー寮の彼女の部屋には、私は何度か、行ったことがあった。
    だから、真っ直ぐ迷わず、向かうことができる。

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:57:17

    ウララちゃんのトレーナーは自分が彼女を付き合わせてしまったと言っていたが、事の真相がその真逆なのは、彼の眼の下のくまを見るまでもなく明白だった。
    つつくと必死で否定するけど、桐生院トレーナーが彼のことをどう思っているかなんて、たぶん、誰でも知っている。
    たぶん、彼でも知っている。

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:58:48

    私は、彼が嫌いだ。

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 22:59:21

    私が遅刻しない程度には留めたが、少しゆっくり目に、部屋までついた。
    何故か預けられていた部屋の鍵を使い、そっとドアノブを開け、静かに、忍び込む。

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:00:00

    さほど広くもない、トレーナー寮の一室。
    部屋の中央に、無地のグレーのラグと、その上に、小さな卓袱台。
    壁には沢山の本棚があり、資料や書類は整頓され、荒れも汚れも見当たらない。
    私は客間を奥に進み、私室へと向かう。
    端の方に最低限の化粧鏡や小さな箪笥はあるものの、彼女の部屋は客間を含めて、どこか殺風景にすら感じる。
    部屋の中央にあるベッドの布団は人の形に盛り上がっており、僅かにゆっくりと上下している様子が見てとれた。

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:00:44

    普段はきりっとした大人の女性という印象しか見えない彼女も、すっぴんで、幸せそうに眠る寝顔は、もしかしたら私よりも歳下に見えるかも知れない程にあどけなかった。
    横向きで眠る彼女の顔に掛かった一房の髪を、指先でそっと避ける。
    やっぱり。綺麗だし、可愛らしい。

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:01:09

    いつも私のために、全身全霊を尽くしてくれる。
    最初はぎこちなかったけど、今は、私に真正面から向き合ってくれる。
    私の、大切な、大好きな、トレーナー。
    そんな彼女の幸せそうな寝顔なら、私はいつまでだって眺めていられる。そんな気がした。

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:01:39

    少し動いて、肩の布団がずれた。
    手には、スマホが握られていた。

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:01:53

    私は、彼が嫌いだ。

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:02:16

    この幸せそうな女性は、知らない。
    彼が先日、去年に学園の理事長代理になった人と、牧場でデートしていたことを。
    それ以来、その二人の仲が、より親密になっていることを。
    私は私のトレーナーを、全力で応援したい。けど、どうすれば良いのかわからない。
    自分の経験の無さが、恨めしかった。

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:02:38

    私は、彼女が好きな彼が嫌いだ。
    それ以上に、何もできない自分が嫌いだ。

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:03:09

    さて。そろそろ起こさなくては、私たちは揃って遅刻の憂き目にあってしまう。
    でも。もう少しだけ、この寝顔を見ていたい。
    だけどやっぱり。眺めているばかりじゃなくて、私たちはお互いに、声を投げ合っていたい。
    声が聞きたい。話したい。
    そうだな、どうやって起こそうか。
    起きたらまず、なんて声を掛けようか。
    驚くかな。やっぱり、驚くよね。

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:03:27

    私は、彼女が大好きだ。

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:03:51

    やがて彼女の目が、ゆっくりと開かれた。
    のんびりしている間に色々なチャンスを逃したことを少し残念に思いながらも、私の、今日の第一投。

    「………トレーナー、おはよう、ございます。」

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:05:48

    私は、彼女が大好きだ。

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:09:19

    終わりです。
    久々にURAやった&エルフィー涼花コンビ見てたらこれくらいありかなと出入り自由ミーク概念生やして見ました。
    お読みいただけたなら幸いです。

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:30:41

    最高だよ…

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:35:54

    >>21

    ありがとうございます!

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:37:03

    滔々と語ってる感じがしてすごく好き

  • 24二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:38:39

    良いねミークの心境描画すき
    文章構成が掲示板だからできる魅せ方で良き

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:43:51

    甘い 切ない 好き…

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:52:45

    >>23

    ありがとうございます。言葉少ななふんわりミーク好き。

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:54:28

    >>24

    ありがとうございます。ミークは出力は弱いけど、入力(他者の感情や自分自身の感情)は敏感ですごく色んなことを考えてるんじゃないかなって思います。

  • 28二次元好きの匿名さん24/04/04(木) 23:55:13

    >>25

    ありがとうございます。そうそう上手くいかないもどかしさが伝えられたなら幸いです。

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