- 1二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 00:52:55
それはある日のランニング中でした。これまでただの空き地だったところにアスファルトが敷かれ、聞き慣れないエンジン音が響くその空間。普段なら新しいお店が出来たんだとスルーしてしまうところですが、フェンスの張り紙にレースの文字があるとなれば話は別です。
「あの空き地、そんな施設になったんだ」
「トレーナーさんもご存知じゃなかったんですね」
「たまに通ることはあっても、あんまりあの辺りまで行くことはないかな。それにしてもカートか、ちょっと面白そう」
卓上の画面を見るトレーナーさんの表情はいつになく明るく、興味津々といった様子でした。お店の説明ではだいたい50キロから60キロぐらい出るということで、普段の私たちがレースで走る速度に近い速度域で競うようです。
「普段スズカが感じている速度を自分も味わってみたいと思ってね」
「それならおんぶして走ってみてもいいですよ」
「その状態で全速出されるのはちょっと怖いかな……」
冗談っぽく言ったつもりでしたが、トレーナーさんは案外本気で捉えてしまっていたようで。そのギャップに思わず笑みがこぼれます。それにしても、確かに普段のレースと同じ速度でこんな複雑なコースを走ってみるのも少し楽しそう。
「せっかくですし、今度行ってみませんか?」 - 2二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 00:54:50
約束をしてからの一週間はあっという間で、ついにその日がやってきました。トレーナーさんの車でお店までやってきて受付を済ませると、あとはもうヘルメットを被って乗るだけ。少し尻尾が引っかかるのは気になりますが、しっかりシートの中にしまい込んで椅子に座ります。
「思ったより低いな、こんなに地面スレスレだとは思ってなかった」
「お店の人が言ってました、椅子が低いから体感速度はウマ娘のレースよりも速いって」
「あはは、それだと普段のスズカが見ている景色には近づけないかもね」
「でも、私、ちょっとドキドキしてきました。負けませんよ、トレーナーさん」
右足をゆっくり踏み込むと、後ろのエンジンが大きな音を立て車が前へと進んでいきます。私の意思で進んでいることには違いないのですが、普段走るときとは少し違う、不思議な感覚。バイザーの中に吹いてくる風は普段と同じ心地だけれど、地面スレスレに置かれたシートに座っていることもあり、流れる景色は違って見えます。
「……凄い、普段と同じ速度なのに、こんなに景色が違うなんて」
コーナーに差し掛かりハンドルを左右にひねると、クイッと向きが変わっていきます。そしてまたアクセルを踏んでどんどん加速していくと、今度は急なコーナーに。すかさず左足でブレーキを踏み込むと、急激に体がシートへと押し付けられます。これまで味わったことの無いような感覚に逆らいながら、ハンドルを切ってコーナーを抜けていきました。少しでも速く一周を走り抜けるという目的は、私たちが走るレースと同じだというのに、こうも違って感じるものでしょうか。
「トレーナーさん。次はレースしましょう。一度、こうしてトレーナーさんと競ってみたかったんです」 - 3二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 00:56:22
最初の走行を終えて、カートに降りるなり私はトレーナーさんに挑戦状を叩きつけました。いつも支えてくれるトレーナーさんと平等な条件で競える。いつかやってみたいと思っていましたが、今日はその絶好のチャンスです。
「勝負なら俺も負けないよ」
「望むところです、必ず、先頭で駆け抜けます」
かくして始まった私とトレーナーさんのレース、スタート位置は私が前で、後ろからトレーナーさんが追いかける形に。スタートしてすぐは私のペースが良くて、どんどん後ろを置き去りにしていきました。このまま逃げ切ってみせようと思っていましたが、中盤ぐらいからトレーナーさんが周回ごとに追い込んできます。気付けば真後ろにピッタリとつかれて、いつでも追い抜こうというプレッシャーをかけつづけてきていました。
「次のコーナーで、まだまだっ」
ほんの少しコーナーの奥までアクセルを踏み込み、そして強くブレーキに踏み変えます。突然これまであったはずの後ろの感覚がなくなって、車がクルリと変な方向を向いてしまいました。幸いにも速度は落ちていたので痛くはありませんが、気付けばコース端のタイヤにぶつかってしまいました。
「うう……負けちゃいました」
「序盤のスズカが早くて、正直追いつけないと思ってたよ」
「限界ギリギリでブレーキを踏んでみたつもりでしたが、難しいですね」
真剣勝負でトレーナーさんに負けたのはとても悔しいですが、それでも今日の経験は普段のレースにも何か活かせそうな気がします。
「トレーナーさん、ありがとうございました」
「こちらこそ、スズカと本気で競えて楽しかったよ」
また機会があれば、今度こそはトレーナーさんに負けない。そんな闘争心はひっそりしまい込んで、今日はただ新しい経験に感謝です。 - 4二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 00:59:29
今週末は日本GPだったり桜花賞だったり、色々イベントが目白押しでした。
スズカさんと普段のレースではない、カートレースで本気の勝負をしてみたいとちょっと思ったので書いてみました。
ウマ娘たるもの自分の脚じゃないとみたいな拘りはあるんでしょうか。まぁマルゼンさんみたいなパターンもあるので一概に言えないところはありそうですが - 5二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:06:14
ちなみにオマケ情報ですが、だいたいレンタルカートは50~60キロくらいなので競馬の速度域に近い速度でのレースが楽しめます
シート位置の関係で体感は120キロくらいになると言われますが、肌で感じる風の感触は60キロ相応なのでジョッキーたちの感覚を一部だけでも楽しめるかもしれないですね - 6二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:07:16
マシンという人とウマ娘が対等になれる条件というシチュエーションって良いよね
トレーナーとならスズカはどんな速さでも感じたくなると思う
いいお話ありがとう - 7二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:19:08
新しい視点 うーんそう来たかあ~
スズカさんとモータースポーツ、相性良さそう - 8二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 07:41:51
同じ景色を見たいというのはスズカさんが何度か言及してるところですが、それならトレーナーが同じ速度域に来るのもアリかなと思いますね
- 9二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 07:48:56
レーシングカート乗るとめっちゃ楽しいよね
コースによるかも知らんけど免許持ってたらさらに速度あげられたりする - 10二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 08:09:09
普通車免許の方で乗れるマシン変わるところは知らないですね.....でも理にはかなってる気がします
一定のタイム突破でライセンス付与されて、エンジン換装した車体に乗れるというのは、自分の行くお店で設定ありましたね
- 11二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 08:28:09
初めてでブレーキング勝負を挑んだり後輪のトラクション感じ取ってるスズカさんの闘争心とセンスが高すぎて震えるべ……
もしかしてマルゼンさんよりめちゃくちゃ運転上手いんじゃないですか……? - 12二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 08:43:36
- 13二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 08:49:10
- 14二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 09:11:03
1994年5月1日といえばスズカの誕生日ですが
ちょうどまさにこの日に事故でこの世を去った伝説のレーシングドライバーがいてね
あまりよくないことだとは分かっていても、その二者の生涯をつい重ねてしまいがちになるんだな
- 15二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 09:13:44
- 16二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 12:14:16
若干オカルトめいたところはありますが、セナも大人気の中で起きた事故というところに多少類似性を見出す要素ですね......5/1という日も馬産的にはちょっと遅めなのもまた
- 17二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 18:19:18
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- 18二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 18:19:42
アメリカ競バに挑戦して、そのときに見かけたレースに第二の人生を見出す......結構悪くないですね
現役を退いたウマ娘のセカンドキャリアとしてのレーサー、ちょっと推してみたいです
闘争心は十分、フィジカルもウマ娘の基礎スペックを鑑みればチャンスは十分ありそう