(SS注意)花のように、蝶のように

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:46:10

    全身の筋肉が悲鳴を上げる。肺がもっと酸素を、酸素をもってこいと喚く。隣では暴君が同じように息を切らしている。体感は互角。勝負の行方は判定に委ねられた。

    永遠にも思われた数分の後、掲示板の一番上に、15 の数字が映し出された。

    勝った。勝った!
    この事実を噛み締めようとした矢先、青い塊が猛然と駆け寄ってきた。

    「ジェンティルっ!」
    ぎゅ、と他人の身体が密着する感覚と、そこから一拍置いてふわ、と身体が浮く感覚。

    私のトレーナーが私を抱きしめて、そのまま抱き上げていた。
    「やった!やったな!!」
    「なっ…!?」

    スーツ姿で駆けつけてきたからか汗だくで、同じく汗だくの私といい勝負だ。額を流れる汗もそのままに、私に顔を近づけてまくしたてる。
    「絶対勝てると信じてた!」
    「ちょっ…!」

    「君は最高だ!ありがとう!」
    「やめっ…」
    そしてあろうことか、私を抱き上げたままぐるぐると回り始める。回転する視界の中でも、周りのウマ娘たちが、(すごいものを見てしまった)という顔でこちらに注目しているのがわかった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:47:01

    思わずトレーナーの両頬を手で抑え、目を見ながらつとめて冷静に問いかける。

    「トレーナー。何をしているの」
    すると、トレーナーも自分が何をしでかしたのか自覚したらしく、慌てて私を地面に下ろした。

    時間にして精々十数秒なのに、なぜだか立った足の裏が頼りなくて、地面に立った感覚がずいぶん久しぶりに感じられた。それを誤魔化すように、あえて厳格な調子で尋ねる。

    「急に駆けつけてきたと思ったら、これはどういうことかしら?」
    「ごっ、ごごごめん!ついその、嬉しくて、グスッ…我慢できなくて…その…本当にギリギリの勝負で、どっちがかつかっ、さいご、までっ、わからなくてっ…グシュッ…」
    トレーナーはよほど感極まったのか、途中から嗚咽混じりの鼻声になっている。

    「気持ちはわかりますが、このジェンティルドンナのトレーナーなのだから、戯れもほどほどになさい。それと涙を拭きなさい」
    指を突きつけながら諭すと、トレーナーはすまなそうにションボリとした。
    「さ、すぐにライブよ。急ぎなさいトレーナー」
    「はい…」

    「さすがジェンティルさん…!全然動じてない…」
    「あしらい方も堂に入っているわ…!」
    「まさに淑女って感じ…」
    周囲のヒソヒソ声を聞きながら、私はウイニングライブの準備をするべくトレーナーを伴って控室に向かったのだった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:50:42

    その夜。

    私はベッドにうつ伏せになっていた。レースの後は興奮して寝つけないこともあるが、大抵はその熱も覚めて疲れで眠りに落ちる。
    でも今日は、その熱が冷めてくれない。それどころか時間が経つごとに熱を増してくる感覚すらある。

    原因はわかりきっていた。昼間の一件。同室者が不在で人の気配もないからか、より一層意識してしまう。

    ふだん柔和で力仕事のイメージもないトレーナーの、想像よりも逞しい二の腕の感触。抱き上げられたときの重力のないあの感覚。自分より背丈のある生き物に身体をあずけるあの感じ。

    (何年ぶりだろう)
    まだ物心つくかつかないかの頃に、父様に抱き上げられたような記憶がある。しかしそれももうずいぶん薄っすらとしたもので。
    (なんだか、安心した)

    けれどあんなに家族以外の男の人と密着して、あまつさえ、抱き上げられるなんて…!
    (あんな情熱的なの、はじめて…!)
    いつもよりずっとトレーナーの顔が近くにあった。普段意識しなかったけれど、まつ毛が長くて目立たないけれど整った顔立ち。
    (悪くなかった。涙まで流して)
    しかし激しいレース直後で、滝のように汗をかいているのに、あの男ときたらデリカシーなく抱きついてきて──!

    (匂い、気にならなかったかしら…?)
    そう思った途端、顔が一層熱くなった気がして、レースの後よりも心臓がばくばくと跳ねた。

    (──ッッッ!!!)
    その理由もよくわからないまま、枕に顔を埋めて、ベッドで脚をジタバタとさせる。貴婦人らしからぬはしたない行い。

    けれど、せめてこの正体不明のドキドキを少しでも発散したい乙女心を、どうか許してほしい。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:51:29

    ─────⏰─────
    「なーにが乙女心だ!ベッドどころか部屋半分なくなってんじゃねーか!オメー自分のパワー考えろよな」
    「違うの……違うのよ……」
    「こりゃゴルシちゃん建設でも一週間はかかるぜ?愛しのトレぴの部屋にでも泊まっとけば?」
    「なっ…!?できるわけないでしょうそんなこと!!今度はトレーナーの部屋がなくなるわよ!」
    「わかってんなら少しはセーブしろよなー」

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:52:44

    おわり


    丁重に抱き上げなさい|あにまん掲示板bbs.animanch.com

    の概念をリサイクルしたら寮の部屋が半分吹き飛んでいました

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 01:54:15
  • 7二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 02:00:33

    お疲れ様です、良い物を見させていただきました。
    乙女ジェンティル素晴らしかったです。

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 04:23:41

    いい…

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 04:37:45

    いいですよね困惑しながらされるがままにグルグル回されてるの

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 04:58:07

    このレスは削除されています

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 09:56:24

    ジェントレのおへやにお泊まり編もください

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 10:14:57

    乙女なジェンティル最高…
    良いものを読ませてくれてありがとう

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 17:46:13

    >>11

    そしてトレーナーの家は半壊した

  • 14124/04/08(月) 18:02:51

    >>7

    コメントありがとうございます!自分には似合わないと思っていながらも少女漫画的なシチュエーションに心のなかでは薄々憧れてると尚の事よくないですか(早口)


    >>8

    コメントありがとうございます!ジェンティルは「いい」。検定教科書に載せていきたいですね


    >>9

    コメントありがとうございます!ジェンティルは体躯が立派なぶん、周りの大人たちから抱っこされなくなって久しいのでは?と思って書いたので言及してくださって嬉しいです!

  • 15124/04/08(月) 18:07:16

    >>11

    コメントありがとうございます!ウワーッすごい誘惑…!ふ、筆が乗れば…!


    >>12

    コメントありがとうございます!育成ストーリーのトレーナーは、ジェンティルを常日頃からナチュラルに女の子扱いするスパダリだったりしませんかね(早口)


    >>13

    安いもんだ、(ジェンティルの乙女ムーブが見られるなら)部屋の一つくらい

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 18:20:49

    イイぞ…これ…ありがとう…

  • 17124/04/08(月) 21:20:36

    >>16

    コメントありがとうございます!

    ジェンティルは「いい」。何度でも再確認したいですね

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