- 1◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 21:19:54
- 2◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 21:20:41
参考にしたスレです
ここだけおかべが|あにまん掲示板bbs.animanch.com - 3◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 21:28:12
2010年、12月。
この日は有馬記念が開催された日であり、中山競馬場には実に10数万人もの人間が詰めかけていた。
しかし、全てのレースが終了しても、まだ大勢の人間が競馬場を埋め尽くしていた。
彼らの目的はただ1つ。この日、競走生活を終える1人と1頭を送り出すためだった。
群衆は静かに、ターフに仲良く寄り添う“桜の女王”と“シンボリの勝負服を着た老騎士”を見つめていた。 - 4二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 21:40:09
懐かしい概念
- 5◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 21:42:04
「僕だって歳をとるからね。馬に負担をかけてしまうことが増えてきて、もう57になるから、ここが潮時だと思っていたんですよ」
静かに微笑むのは、O部元騎手。
引退後は競馬評論家として活動する彼は、年齢を鑑みても非常に若々しい。
「だけど。引退を決めて、最後にルドルフに挨拶をしに行ったら、待っていろって言われてしまって。お前に桜を授ける奴を用意するって言われてしまえば、僕はそれを受け入れる以外無いでしょう?」
ルドルフ━━シンボリルドルフ号は、かつてO部氏が手綱を握った、競馬史に名を残す七冠馬。
“皇帝”の異名を持つかの馬は引退後種牡馬入りし、代表産駒トウカイテイオーを輩出するなど活躍したが。ここ2000年代ではとんと父の名でも母父の名でも聞かなくなっていた。
そして2004年に種牡馬を引退、功労馬として余生を過ごしていた。
そんな“皇帝”のラストクロップの中にいたのが、母トウカイナチュラルの━━後にシンボリレグナントと名付けられる牝馬だった。 - 6二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 21:49:46
おおこれのssか期待
- 7◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 21:56:53
━━その知らせが届いたのは、僕がルドルフに最後の挨拶をしに向かい、「待っていろ」と言われたからと引退を撤回して、無様を晒しながらも必死に駆け回っていた時だった。
知らせの相手は因縁友誼久しいシンボリ牧場。何事かと折り返してみれば、電話口で興奮したような、上擦った叫び声。
「ルドルフのラストクロップに、ものすごい仔が1頭いるんです。一度見に来ていただけませんか?」
瞬時に僕はその仔がルドルフの言っていた「桜を授ける仔」なのだと理解した。
予定を開けて向かったシンボリ牧場で、僕は。
「━━ルドルフ……」
その仔馬は、一歳を迎えたばかりだというのに、まるでこちらの全てを見透かしているかのように静かに佇み、僕を見つめている。
その立ち姿。ベルベットのような毛並み。瞳。月の形が特徴的な流星。その全てがルドルフに瓜二つで、しかし牝馬ならではのしなやかさを持ち合わせた“彼女”は。まさに支配者そのものだった。
「すごいでしょう?もう牧場は大騒ぎですよ!ルドルフの再来だって。是非おかべさんに乗ってほしいって!」
担当者の興奮もわかる。僕だって、一瞬ルドルフを重ねた。かの皇帝の再来を夢見てもなんら不思議ではない。彼女はきっと七冠馬になれる。
……だけど、僕は。
「もう僕は57です。これだけ素晴らしい馬なら、もっと若く優秀な騎手に回せば━━」
そう口にした瞬間。 - 8◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 22:08:04
(クオリティは期待しないでください)
《━━━━ッッッッ!!!!!》
“彼女”が、咆哮をあげた。
まるで牡馬のような力強い咆哮に、ビリビリと体が震える。
僕も、担当者も、周りの全てが静まり返るなか。“彼女”はその黒曜石のような瞳に怒りを滲ませ、僕のすぐ前に歩み寄ってきた。
《ヒトミミから聞いたのよ》
幼さが残る、鈴のような軽やかな声。
《あんた、アタシのお父様の相棒だったんでしょう?アタシもお父様以上に勝ちたいのよ》
“彼女”が僕の手に擦り寄る。滑らかでいて、ふわふわとした感触が掌に広がる。
《だから決めてたのよ。アタシはあんたと行くってね》
理知的な光を宿した“彼女”の瞳に射抜かれ。そこに宿る期待に。
ここまで言われては、僕も腹を括るしかないだろう。
“彼女”はルドルフが、僕の騎手人生を照らしてくれた彼が残した、僕へのプレゼントだ。
“彼女”を導くことが僕の最後の役目ならば、それを僕の全てを使ってまっとうするまで。
「……これから、よろしくお願いします」
ふふん。“彼女”は僕の言葉を聞いて、満足そうに鼻を鳴らした。 - 9◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 22:11:08
(とりあえずここまで……
おかべくんのねっとりとした文章は真似できないのでご了承ください)
(あと今更ですが史実で勝ってる馬が彼女に負ける描写があります。ダイワスカーレットごめんなさい) - 10二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 22:17:44
乙
まあ仮想ssだからしゃーない - 11◆8ucyADYXiE24/04/08(月) 23:14:14
「シンボリレグナントは非常に賢い馬であった」
当時のニュース記事やインタビュー動画を多数振り返っても、この言葉は必ず出てくる。
レースの時ですら、鞍上の指示を無視して自分の走りたいように、勝てる道筋を自分で見つけて走り抜けるのだと、全戦に渡り手綱を握ったO部氏は言う。
「一番“それ”を実感したのは、ドバイデューティーフリー(※現在はドバイターフに名称変更)かな。最後の直線でも全然前を捉えられなくて焦っていた僕を笑って、勝手にスパートをかけ始めたんですよ。当然ゴールまではまだ遠い、しかし抑えようにも無視するんです。《そこで大人しく見てなさい》とでも言わんばかりにね……」
ドバイデューティーフリーは、シンボリレグナントの名を世界に知らしめた名レースだ。
最終コーナーまで中団で揉まれていたシンボリレグナントがわずかな隙間を縫って馬群を強行突破、恐ろしい末脚で加速し悠々と先頭を走っていたグラディアトラスを捉えるとそのまま抜き去り、3馬身半の着差をつけて勝利を勝ち取った。
この時叩き出したレコードは後に同じく日本馬のジャスタウェイに更新されたものの。シンボリレグナントという馬がどういう馬なのかを証明するには十分すぎるものであった。
「調教もとても素直に従うし、一度ミスしたら次からは絶対に同じ過ちはおかさない。手がかからなかった、というべきかな。……レース面では、だけど」
含むような言い方に、思わず同意してしまう。
シンボリレグナントは非常に聡明な馬であったが、同時に気位が非常に高く。厩舎や牧場にいる時は我が儘、かつ乱暴な振る舞いが目立ったと言う。
「でも、我が儘に振る舞っていい場所をちゃんと弁えていたから。本当に、ルドルフによく似た仔でした」 - 12二次元好きの匿名さん24/04/08(月) 23:46:55
おもしろいので保守
- 13◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 00:33:33
シンボリレグナントは、父シンボリルドルフと同じルーティーンを組んでいた。
調教はシンボリ牧場で行い、レースが近くなると厩舎に入るという手法、いわゆる外厩である。
最初期は美浦の縁ある厩舎に所属していたものの、水が口に合わなかったのか、厩務員を2人も病院送りにするほど大暴れをし、ハンガーストライキを始めてしまったのでシンボリ牧場に連れ戻され。予定していた新馬戦に出走できず。
その後改めて受け入れ先を探した結果、当時厩舎を開業したばかりであった栗東・I江厩舎に所属が決まった。
しかし、そこでも一悶着あったのだった━━
「もうあの時は焦りましたよ。来て早々機嫌の悪いジャーニー(※ドリームジャーニー号)がレグナントに喧嘩を売ったと思ったら、レグナントも応戦してしまって。止めに入った全員が蹴り飛ばされてしまって、めも結局他の厩舎の方々にも手伝ってもらったので、馬の方はお互いかすり傷ですみましたけど……。正直、胃が爆発したかと思いましたね」
今やすっかりベテランの調教師であるI江氏だが、当時は開業したての新人。
ドリームジャーニーとシンボリレグナントは、その誕生背景から多数の期待を寄せられており、また両馬ともに大層な気性難であることから、なるべく関わらせないように調整していたらしい。それも、早々に水泡に帰す結果となってしまったが。
I江氏はそっと左手を撫でる。手の甲には、引き攣ったような痛々しい傷跡が残っている。
「その時、レグナントに蹴り飛ばされてできた傷なんですよ」
穏やかな表情のまま、I江氏は語る。
「私も、“彼女”には桜の夢を見せてもらいましたから」 - 14二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 06:21:30
この文体、さてはハルウララ唯一の産駒の人か
- 15◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 08:39:30
(覚えていてくださる方がいたとは……)
今更ですが、このスレでは馬視点(普通に会話している)と関係者へのインタビュー視点がころころと変わります
おかべ氏はレグナントと普通に会話できている設定です
ご了承のほどよろしくお願いします - 16◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 08:51:33
アタシはシンボリレグナント。
父は七冠馬シンボリルドルフ、母はトウカイナチュラル。父も母も同じ兄がトウカイテイオー。
アタシが生まれた時は、父も兄も世間から半ば忘れられていたようなものだったらしい。
《血を繋ぐ。優秀な仔を、次代に》
それが、アタシ達の種族の使命。アタシが生まれた、理由。
だから、本来なら“スイートレグナント”になるはずだったんだけど。父の後継者に、父の再来を、兄の再来を願われて、アタシは“シンボリレグナント”になった。
━━ヒトミミは、アタシが父に瓜二つだと言う。見た目だけじゃなくて、中身も。
アタシからすれば、集中する時としない時と、あと譲れない時の区別をつけているだけに過ぎないのだけれど。
《それがヤベェってことなんじゃねーの?》
隣を歩いていたちっさいのが横槍を入れてくる。
こいつの名前はドリームジャーニー。アタシが生まれ育った場所から、知らない同族がたくさんいる場所に連れて来られた時に生意気だと喧嘩を売られ、アタシも気分が悪かったから憂さ晴らしを兼ねて買って大喧嘩をしてから、何故か気に入られてしまったので大抵一緒に練習をする牡馬だ。
……喧嘩をした時にヒトミミをたくさん振り払った気がするけれど、その後白い布を巻いてるヒトミミがたくさんいた気がするけれど、まぁ気のせいだろう。 - 17二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 09:15:52
ハルウララ唯一の産駒の人、というとヒカリデユールの娘の人か...?
懐かしい... - 18◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 09:18:40
《なによ。あんただってアタシのこと言えないでしょうが。どれだけヒトミミが気に入らないのよ、今日だってお世話をしてくれるヒトミミに怪我させたって聞いたんだけど》
《ハッ、俺の機嫌を損ねたニンゲンが悪い。俺は無実だっつーの》
どうもこのちびっ子は自分のルールを捻じ曲げられるのが嫌いらしく。朝のルーティンを邪魔されたからと新入りのヒトミミを馬房の隅に追い詰めて“遊んで”いたらしい。
おかげでそのヒトミミは体の怪我こそ軽いものの、メンタル的に散々なダメージを負ってしまったらしく。
「あれはもう駄目だろうな」とアタシを迎えに来てくれたヒトミミがこぼしていたのを聞いた。
《ところで、そろそろアタシ達もデビュー戦ね》
ヒトミミの計算で、アタシ達は今2歳。季節は夏が終わりに近づく頃。
そろそろデビュー戦に出て、本格的に走り始める時期。
アタシの、夢への一歩が始まる時期。 - 19◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 09:19:43
《……前から思ってたんだけどよ、レグ》
ジャーニーがアタシを静かに射抜く。
《お前、何でそんなレースに気合い入っているわけ?》
《なんで、って……。それがアタシの夢だからに決まってるじゃない。桜の勝利を、あの人に届けるのがアタシの使命なんだから》
《……お嬢様ってのは大変なんだな……》
あんただって父親の初年度なんだから、結果を残さなかったら大変でしょうに。ヒトミミがそう言っていたんだけど。
と言ったら《親父になんか会ったことすらねェよ》と返されてしまった。えっ、アタシ週に1回は父と対面させられて、「⚪︎かべに桜を届けろ」って圧をかけられてたんだけど???
周りにいた同族に聞いても、返事はジャーニーと同じ。えぇ……この話終わらせよ……
《俺は割とすぐデビュー戦だけど、お前はちょっと日が空くんだな》
《えぇ。お互い、頑張りましょうね》
ほどほどに真面目にやるわ、と言ってジャーニーは馬房に帰って行った。
アタシのデビュー戦は、10月終わりの新馬戦。今のところ一番得意なマイルでのデビューとなる。
アタシが、みんなに託された夢も、同じ距離。
負けられない、と気合いを入れる。
だけど……そこでアタシは、未来のライバルとなる一頭の牝馬と出会い、苦い汁を吸うことになる。
この時のアタシは、まだ知らなかったけれど。 - 20◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 10:30:14
「……正直なところ、僕は新馬戦で負けるつもりは無かった。レグナントも完璧な仕上がりで、僕だってその日は他の騎乗をすべて断って、万全の態勢で望んだんだ」
シンボリレグナントの新馬戦。ある意味では伝説のレースだった。
皇帝のラストクロップ、トウカイテイオーの全妹。鞍上は父の主戦騎手。シンボリが自信を持って送り出した、最後の最高傑作。
言い方は悪いが、話題性には事欠かなかった。
本馬場入場の際、全兄と同じようにステップを踏みながら現れ、新馬戦にもかかわらず詰めかけた競馬ファンを歓喜させた。
1番人気に推され、挑んだその結果は━━
「たかが新馬戦と言いますけれどね。僕はレグナントに申し訳なくて仕方なかった」
ハナ差の2着。僅かに届かず、僅差で負けた。
1着は……後に64年ぶりに牝馬によるダービー制覇を果たすことになる名馬、ウオッカ。
レース後、ウオッカを射殺さんばかりの形相で睨みつけるシンボリレグナントと、必死に見ないふりをしているウオッカの姿が、複数の動画にて確認できる。
場内は落胆の雰囲気に包まれ、勝者を讃える声はほぼ無かったと言う。
ただ、互いの鞍上だけは互いを讃えあっていた。
それが当たり前なのだと、O部氏は言う。
「その時はウオッカの方が強かった。それだけの話なんですよ」
レグナントにとっても、いい勉強になったと思っています?O部氏は笑う。
確かにシンボリレグナントはデビュー戦こそ敗北したものの、翌週の未勝利戦をdice1d10=5 (5) 馬身差を付けてアッサリと勝利。
続いてGⅢ(当時の格付け)東京スポーツ杯2歳ステークスに出走。
盟友・ドリームジャーニーと初めて共に走ったこのレースでも最初から最後まで流して完勝。
2歳のシーズンを3戦2勝にて終えている。
- 21◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 16:31:23
「当時は散々言われたものです。親子無敗三冠ができたかもしれないのに、って」
そんなこと、よほど好条件が重ならないと無理でしょう?と苦笑するO部氏に、思わず同意をしてしまう。
引退して久しいシンボリレグナントだが、コントレイルという親子無敗三冠を成し遂げた馬が現れてから、また言われることが増えたように感じる。
「でもね、そんな外野の言葉なんて、全然耳に入らなかった。だって始まったばかりだったから。ルドルフだって3回“も”負けているんだし、そもそも競馬には“絶対”なんてことは無いんだ。ルドルフは、そう言われていたけれど」
O部氏が懐から取り出したのは、使い古された1つの蹄鉄。微かにローマ字で文字が彫られた、少し小さめの蹄鉄。
「これはレグナントが桜花賞でつけていた蹄鉄なんです」
O部氏は嬉しそうに語る。
その目は遠く。きっとその視線の先には、2007年桜花賞の光景が広がっているのだろう。
O部氏はこの桜花賞勝利で八大競走完全制覇を成し遂げる偉業を果たしている。
これは2024年現在(※取材当時)においてもO部氏の他には3人しかいない大記録である。
「2007年の初戦はシンザン記念だったかな。ダイワスカーレットとの初対決だったね……」 - 22◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 18:20:03
スキンシップはてのひらでする。これは常識で、当たり前。馬の気を落ち着けるためのものなのだから。
なるべく力を入れずに、優しく毛並みに沿って撫でていく。
首筋、肩、背中。顔は最後にタッチングをする。具体的にはレグナントの心に大きな落ち着きが現れるまで。
剣呑さが宿る瞳が柔らかくなったそのタイミングで、割れ物を扱うように、そっと彼女の麗しい顔に手を添える。
甘えるように擦り寄ってきたことで、ようやく機嫌が良くなったらしい。僕は静かに彼女から身を離す。途端に耳を絞り始めたので、慌ててタッチングを再開する。
「きみは本当に甘えん坊だね」
ふるる、と鼻を鳴らすレグナントはとても愛らしい。
新馬戦を惜敗して底辺まで落ち込んでいた機嫌も、未勝利戦と東スポ杯を暴力的なレース運びで制したことで、すっかり良くなったらしい。
盟友・ドリームジャーニーと宿敵・ウオッカはそれぞれ朝日杯FSと阪神JFを制したことで早々にGⅠ馬になったが。彼女はこのまま放牧に出し、翌年早々のシンザン記念に出すことが決定した。
ある意味、敗北したことで“無敗”に対する重圧が無くなり、レースをある程度選べるようになったからともいう。
《目的はあくまでも桜花賞だもの。そこを勝つために必要ならば、アタシは従うまでよ》
僕の手からバナナを優雅に食べながら、レグナントはふんと鼻を鳴らす。
ルドルフはりんご、特にふじりんごが大好きだけれど。レグナントは匂いですら耳を絞るほどりんごが嫌いで、バナナに目がない。そっくり親子だけれど、違うところがたくさんあって、毎日がとても新鮮で、美しく感じる。 - 23◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 18:43:13
「いや、レグナントが素直に従うのはO部さんくらいですよ!!僕らなんて2,3日に1回は蹴りが飛んできて、ってうわぁ!?」
ちょっと煩いわよ!と嘶いたかと思った瞬間、鋭い回し蹴りが担当者に飛ぶ。慣れているのか、かなりアクロバティックな動きで翻し……盛大に転倒した。
はらはらする僕のそばで、レグナントはニヤリと笑みすら浮かべている。
「もう勘弁してくださいよレグナントさん〜」
《だってあんた反応が面白いんだもの》
「O部さんみたいに馬語はわからないんだけど何となく馬鹿にされてるのは感じる……」
とても微笑ましい光景だけれど、いつまでも眺めているわけにはいかない。
「それで、桜花賞の後をどうするか、という話だったかな?」
「はい。ウオッカがダービーにも登録しているんで、一部陣営から“ダービーに出て変則三冠を”という声が上がっているんです」
「あくまでも登録段階だろう?まだウオッカがダービーに出ると決まったわけじゃない……。それに、桜花賞に勝ったならば、牝馬三冠ルートに進むべきだ」
シンボリレグナントは、少なくとも今現在はマイルが最適距離だと見ている。
確定していないあやふやな状況で決めるには時期早ではないだろうか。
「まぁ、兎にも角にもまずはシンザン記念に集中するべきだね」
「そうですね。その時のことはその時決めればいいですもんね」
俺、レグナントがシンボリを再興してくれるって信じてるんで!
明るく言い切った言葉に、僕も同意した。 - 24◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 18:51:51
(話のテンポが悪い……一年ぶりに文字書いたからまとめるのが下手になってる……)
(目が滑る文章でマジで申し訳ない……) - 25二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 19:01:28
普通に読みやすいしテンポいいと思う
続き待ってるよ - 26二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 19:35:25
相変わらずの丁寧なレース選びと繊細な文章で本当に特集記事や伝記を読んでいるようでした
ありがとうございます - 27◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 20:20:29
(感想ありがとうございます、励みになります!)
年が明けて、2007年1月8日。シンザン記念。
東スポ杯後すぐに放牧に出され、故郷のシンボリ牧場にて脚部を中心に念入りなケア(全兄・トウカイテイオーが脚部故障に悩まされたことから)と緻密な調整を行ったことで、少々頼りなかった馬体が少しずつ成長していったシンボリレグナント。
それでもやはり、当日一番人気となった牝馬━━後にライバルとなるダイワスカーレットと比べると、やはり印象としては「細い」の一言に尽きるだろうか。
ダイワスカーレット、ウオッカ両馬は一見すると牡馬に見える筋肉質な馬体が特徴であり、シンボリレグナントはやはり一般的な牝馬の馬格という域からは出ていなかった。
この年のシンザン記念は、ダイワスカーレットとシンボリレグナント以外は牡馬。並ぶとますます細さが際立つ。
しかし。彼女は「皇帝」シンボリルドルフの娘である。
鞍上・O部騎手を以ってして「ルドルフの再来、もしかしたらそれ以上」と言わしめた牝馬である。
後に「勝つ時は理不尽なまでに勝ちを知らしめる」とまで言われたシンボリレグナントは、背中にかつての父の相棒を背負い、2番人気ながらも、まるで自分が勝者だと言わんばかりの覇気を身に纏い、ゲートに収まった。
dice1d10=5 (5) 馬身差で勝利
- 28◆8ucyADYXiE24/04/09(火) 20:39:48
「正直さ、あれが一番理不尽だと思ったね」
そう答えるのは、ダイワスカーレットの主戦騎手を勤めたA藤氏。
スタートから3番手に控え、途中で同父のアドマイヤオーラに並びかけられて振り払おうとしたものの翻されて一馬身半をつけられたというのに、最後方にいたはずのシンボリレグナントがいつの間にかその五馬身前にいたのだから。出走馬陣営どころか、シンボリレグナント陣営以外の人間の目が点になったような出来事であった。
これを理不尽と言わずに何と言えばいいのか、とA藤氏は悔しげな表情を浮かべる。
「追い込んだと思えば逃げるし。対策してきてもあっさりかわされるし。もう当時はどうやって勝てばいいのか全然分からへんかった」
「アドマイヤオーラに仕返しをされたんなら、まだ納得がいった。このレースだって、後ろからのレースを試してみたいって気持ちもあったし。結果として、一瞬で溜まりきる脚ではないってことが分かっただけ良かったと思うしか無かったよな……」
アドマイヤオーラ陣営ですら、オーラの勝ちを確信していたという。
事実、直線で追い縋るダイワスカーレットを振り切ってラストスパートだと正面に意識を向けた時、もうシンボリレグナントはゴール板のすぐ手前にいた。
パトロールビデオを見る限り、ギリギリまで控えて体力を温存、オーラ・スカーレットが競り合っているのを横目に大外に出てスパートをかけ、猛進するローレルゲレイロらを悠々とちぎり捨ててゴールイン。
O部氏の手腕と、それに応えたシンボリレグナントの1人と1頭勝ちであった。
「正直、もう戦うのはごめんやと思ったわ。まぁ牝馬な以上、無理なことやとは思っていたけど」
遠い目になるA藤氏。
それもそのはず、ダイワスカーレットとシンボリレグナント、そしてウオッカの三つ巴は、それぞれが引退するまで続く因縁となったのだから。
このシンザン記念は、その始まりに過ぎなかったのだから…… - 29二次元好きの匿名さん24/04/09(火) 23:49:22
保守
- 30◆8ucyADYXiE24/04/10(水) 08:33:42
*
シンザン記念勝利後、シンボリレグナント陣営は次走を桜花賞のトライアルレースであるチューリップ賞と決定した。
このレースには前年の阪神JFを制したウオッカ、シンボリレグナントへのリベンジを誓うダイワスカーレット両馬も出走表明。後の牝馬黄金時代の幕開けとなるレースとなった。
「このレースは桜花賞と同じコースを走るから。結果はどうにしろ、事前にレグナントにコースを覚えさせる良い機会だと思っています。ウオッカ、ダイワスカーレットは間違いなく強敵ですが、レグナントには何の不安もありません」
「ようやくリベンジができる機会が来たと思います。
今年の牝馬三冠レースは、間違いなくスカーレットがかつてないほどしっかりとしたレースをすると信じています。ただ、このレースではウオッカ、シンボリレグナントよりも上手に立ち回り、彼女の実力を全て発揮しないと、2頭には勝てないとも思っています」
「ダイワスカーレットとは初対決となりますが、当然油断は一切していません。我々としては、ウオッカのことを信じて、送り出す。そして1着を獲って帰ってくることを。それだけを願っています」
三冠トライアルレースにもかかわらず、この日の阪神競馬場には実に10万を超える観客が殺到。
オッズも直前まで慌ただしく動き、最終的に1.2倍で1番人気にシンボリレグナントが推された。2.4倍の2番人気にウオッカ、4.8倍の3番人気にダイワスカーレット。4番人気のローブデコルテを18.9倍にまで突き放していた。 - 31◆8ucyADYXiE24/04/10(水) 08:52:06
*
「まぁ、ウオッカにしてやられましたね。最終的に競り負けてしまったのは、今でも本当に悔しい」
チューリップ賞のレースはダイワスカーレットが折り合いを保ったまま先頭を走る方で進んだ。
O部氏騎乗のシンボリレグナントは中団で足を溜め、最終直線にかかった瞬間、スパートを開始した。
「まさかウオッカがそのまま食いついてくるとは思ってもいなかったですね。ダイワスカーレットと挟まれる形になって、なんとか抵抗したけれど、結局ハナ差で負けちゃって。レグナントを宥めるのが本当に大変でした。2度と同じ過ちは犯さない彼女が、新馬戦と同じように負けてしまったのですから……」
新馬戦と、チューリップ賞。
見比べてみても、確かに同じタイミングで息を入れ、結局それが原因で2着となっている。
この息を入れる癖は、当歳時のシンボリレグナントが考えて自発的に始めたことだという。
非常に分かりやすいため、陣営はこの癖を直す努力を重ねてきたのだが。長年染みついた癖はなかなか抜けず、結局翌年の天皇賞・秋まで治ることは無かった。
「暴れに暴れて、僕以外の担当者達はほぼどこかしら怪我を負わされたけれど。桜花賞には出れるよ、と伝えたらコロっと機嫌がよくなっちゃって。切り替えは早いんですよ。ウオッカへのリベンジは桜花賞で果たそう、って意識が切り替わってくれて良かったです」
手の中で蹄鉄を転がしながら、O部氏は記憶を2007年へと戻していたように思う。
「夢はきっと叶うから。彼女が、ルドルフが僕にくれた贈り物が、そう証明してくれたんです」 - 32◆8ucyADYXiE24/04/10(水) 10:21:07
《負けたら出れないって思ってたの。レース出走の仕組みって複雑ね》
《いやまず仕組みのガワを知ってるだけヤバいぞお前》
負けるのは別に嫌じゃない。他の同族達から学べることも多いから。特におかべさんが名指しで教えてくれた、ウオッカとダイワスカーレット。
特にウオッカ。2度もアタシが同じ相手に、同じ敗北を喫するなんて。「もうちょっとフェイントかける努力しようぜ?」って!!!あの野郎!!
おかげ様でアタシのテンションは最低限を突破。桜に出れないかもとモヤモヤしていたら、「2着だから出走権あるよ」って言われて一安心。焦っちゃったじゃない。
アタシの、生まれた意味が。走る理由が無くなっちゃうかと思ったの。
《お前のその熱意はどこから来るんだよ……》
《だって、それがアタシの存在意義だもの》
《レースなんか何も考えずに走って、勝てる時に勝ちゃいいだけの話だろ?お前くらいだぞ、ニンゲンみたいな理由で走ってるやつ》
……確かにそうかもしれない。この間のレースだって、あの子達も「負けたくないから勝ちに行く」「あたしが一番って証明する!」と言っていた子達がほとんど……というかアタシ以外の全員がそうだった。
そもそも、アタシ達の種族はヒトミミの言葉は「何となくわかる」程度らしい。アタシはほぼ完璧に理解できるけれど。ジャーニーも「多少言いたいことが理解できる」程度とか。
でも、ずっとそうやって、生まれた時から言われてきたんだから。アタシ、よくヒトミミを怪我させてしまうけれど、たくさん愛してもらっていることはよく分かるから。
アタシが返せるのは、レースで結果を出すことくらいしかできないのだから。
《あんたも次は三冠コースでしょう?お互い頑張りましょうね》
《……無茶だけはすんなよ》
心配してくれるなんて。
あんなクソ生意気チビ助にも他馬を労わる気持ちはあるのね、勉強になったわ。 - 33二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 18:04:03
- 34二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 18:05:12
面白いし待ってるよ
- 35二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 18:37:11
これかな
そのサラブレッドはハルウララの唯一の子にして|あにまん掲示板メイセイオペラに続く、日本競馬史上2頭目の地方競馬場所属のまま中央のGⅠを制したdice1d2=@2 (2)@1:牡馬2:牝馬だった。これは、そんな競走馬の物語。bbs.animanch.comタイトル通りのロマン架空馬(ゴリウー)(気性セントサイモン)の話
- 36◆8ucyADYXiE24/04/10(水) 21:36:01
(思いついた時に更新するので進みは亀です。ご了承ください)
*
チューリップ賞こそはハナ差でウオッカに譲ったものの、シンボリレグナント陣営は「本命は桜花賞」と切り替え、調整を重ねた。
この頃には鞍上・O部氏の八大レース完全制覇目前として報道が加熱。勝てば完全制覇の上、57という日本史上最年長でのG I制覇となる。
シンボリレグナントが調整を行っているシンボリ牧場には、常に報道陣が張り込んでいたという。
「そういうのは全部断っていたんです。レグナントはカメラが少し苦手で、すぐ機嫌が悪くなってしまう。桜花賞を万全の態勢で挑むためにも、僕への取材すら断っていたくらい」
僕がレグナントに乗るごとに若返っているのはなぜですか、って聞かれて返答に困った時もあったなぁ、と回想するO部氏。
(恐らくかつての相棒の娘に乗っているからモチベーション等も上がっているだろうから、というくらいしか思い浮かばないが……)
「I江厩舎にまで張り込んでる、って向こうから連絡が来たから、かなりギリギリまで調整することが出来たよ。その点に関しては、メディアに感謝しています」
*
アタシが走る意味。みんなの夢。桜のレースには、あのウオッカとダイワスカーレットも出るらしい。
他にはアストンマーチャンやローブデコルテだったかしら。アストンマーチャン、何故か忘れてはいけないような気がするのよね、会ったことすら無いのだけど。
まぁ、どれだけ有力な同族が来たって構わない。
だって、勝つのはアタシなんだから。
勝って、アタシのワガママで背中に乗ってくれているあの人に、父に、みんなに桜を届けたいの。
アタシね、桜を届けても勝ち続けたいなって思ってる。桜だけじゃない。樫も華も、届けてみせる。
アタシは桜だけでは終わらない、終われない。前までは桜だけで満足だと思っていたけれど、今は違う。
ウオッカ。ダイワスカーレット。あんた達のおかげで「走りたいから勝ちたい」って思えるようになったんだから。
だから。全力で叩き潰してあげる。
それこそが、アタシがあんた達にできる「誠意」ってやつだと思ってるから。
それで潰れるわけが無い、って信じているわ。 - 37二次元好きの匿名さん24/04/10(水) 23:17:12
保守
- 38二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 07:47:33
待ってます
- 39◆8ucyADYXiE24/04/11(木) 08:42:31
*
2007年4月8日。桜花賞、当日。
後に牝馬黄金時代と謳われた、開幕のレース。
この後世代を率いていくウオッカ、シンボリレグナント、ダイワスカーレットは勿論のこと。フィリーズレビュー勝利からの連覇を狙うアストンマーチャン等も参戦した、世紀の対戦の第一幕。
レースが行われた阪神競馬場には10万を超える観客が詰めかけ、熱気に包まれていた。
1番人気はここまで負け無し、3連覇中のウオッカ。2番・3番人気に接戦を繰り広げたシンボリレグナントとアストンマーチャン。4番人気にダイワスカーレット。
この4頭だけが単勝オッズが10倍を切り、残りの14頭はすべて30倍を超えていた。
「……桜、綺麗だね」
ゲートへと向かうわずかな時間。僕はコース傍に花開く桜並木に目を奪われた。
━━どれほど、待ち望んだだろうか。渇望して、挑んで、その度に僕の手のひらから零れ落ちる、桜の冠。
やがて還暦を迎える年齢まで無様を晒して、皇帝の、ルドルフのような馬に再び出会うことを。桜を勝つことを夢見て、一度は諦めて、鞭を置こうとした。
そのルドルフが、僕にくれた贈り物。
シンボリレグナント。在りし日のルドルフによく似た、でも違うところもたくさんある、彼の娘。
何も不安は無い。この日に向けて、やれることは全てやった。
後は、レグナントが最大限に力を出せるように、僕が導くだけ。
「さぁ、行こう」
任せなさい、と答えるように、彼女は小さく嘶いた。 - 40◆8ucyADYXiE24/04/11(木) 08:46:13
桜花賞着差:1+ dice1d5=4 (4)
勝ち確定なので着差ダイスです
- 41◆8ucyADYXiE24/04/11(木) 09:16:30
*
桜花賞は逃げると見られていたショウナンタレントが控え、様子を伺うようにアマノチェリーランがハナを奪って先頭を走り、スローペースとなった。
スピードに勝るアストンマーチャンがやや掛かり気味に外から2番手へと上がっていき、それをマークするダイワスカーレット。ウオッカ・シンボリレグナントはそれを見守る形となった。
互いが互いを意識し合っていた4頭の対決は、シンボリレグナントが最終コーナーに入る前にラストスパートをかけ始めたことで始まった。
O部騎手の鋭い鞭の一振りで加速し始めたシンボリレグナントが力強く素早く伸びていき、ダイワスカーレットもそれに続くように加速。釣られるようにウオッカもスパートを開始し、アストンマーチャンはそれにやや遅れるように追従した。
しかし、どれほどA藤騎手が押しても、シンボリレグナントとの距離は開くばかり。
アストンマーチャンはあまりにハイペースとなった終盤で少しずつ後退していき、ウオッカも残り200メートルでダイワスカーレットに突き放された。
シンボリレグナントは最終直線でダイワスカーレットを突き放すと、手を緩めることなく加速し続けた。
もはや独走状態。O部騎手はゴール手前から涙で前が見えなくなっていたという。
そしてO部騎手は大きく右手を挙げながら、シンボリレグナントと共に悠々と入選した。
見事ウオッカに雪辱を果し、O部騎手はこれが初の桜花賞制覇。八大競争完全制覇、およびシンボリレグナントは全兄トウカイテイオーと併せて史上15組目の兄妹クラシック制覇となった。
またO部騎手は中央競馬最高齢でのG I制覇となり、2024年現在でも破られていない。 - 42◆8ucyADYXiE24/04/11(木) 09:32:55
*
「ルドルフが、レグナントが、僕に最高のプレゼントをくれました……!!」
ウイニングランの際に滂沱の涙を流し、10万を超える観客からの「O部コール」に迎えられ、関係者とも抱き合って歓喜の涙を流したO部騎手は、目を赤くして勝利インタビューに望んだ。
途中言葉に詰まり、嗚咽が止まらなくなり中止となったが、O部騎手の胸の内を思うと当然であろうと思う。
自分の競馬人生を変えたかつての相棒の娘で、唯一勝てていなかった桜花賞を勝つ。
これがどれほどの感情か。それはきっとO部騎手にしか言語化できないであろうものなのは容易に想像がつく。
「レグナントは本当によく頑張ってくれました。これなら、自信を持って牝馬三冠に挑めると思います」
競馬には絶対は無い、とはよく言われるが。何故かシンボリレグナントならアッサリと三冠を取ってしまう“確信”がある。
彼女の父が、絶対がある競走馬と言われていたように。
ただ、今は大健闘をしたシンボリレグナントとO部騎手に。そして惜しくも敗れてしまった優駿達に、溢れるばかりの拍手と感謝を送りたい。 - 43◆8ucyADYXiE24/04/11(木) 19:08:53
*
「いや、ホントに完敗だった。スカーレットは完璧なパフォーマンスだったよ、それは間違いない。5馬身前にシンボリレグナントがいただけだよ……」
A藤氏は、桜花賞までの戦術模索により、ダイワスカーレットの末脚が「瞬発力」ではなく緩やかに加速していく「持続力」であることを掴んでいた。
故に連敗時のように一気に加速させるのではなく、今までよりも事前にある程度スピードを上げておいてから、並ばれる前にスパートをかけ始めることで、「瞬発力」に秀でていると分析したウオッカ・シンボリレグナントを振り切る戦術を実行した。
「事実、ウオッカは俺の予想通りに振り切ることができた。ただ、シンボリレグナントが瞬発力と持続力の両方を備えていたとは完全に想定外。あそこまで伸びに伸びるとはね」
桜花賞に於けるダイワスカーレットの動きは、勝ち馬でもおかしくないほど完璧なものであったことは間違いない。負けたとはいえ、打ち負かすと決めたウオッカにはA藤氏の見立て通りの作戦勝ちをしている。
「最終コーナーに入る前にシンボリレグナントがスパートをかけ始めて、焦ってしまった。前回までの2戦で同じような負け方をしたのに、勝負所を間違えてしまった。その後も、ずっと研究の繰り返しだよ。どうやったらシンボリレグナントに勝てるのか、ってね……」 - 44二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 21:58:06
保守
- 45二次元好きの匿名さん24/04/11(木) 23:50:10
保守
- 46◆8ucyADYXiE24/04/12(金) 00:32:34
*(保守ありがとうございます)
「正直どうしてウオッカが負けたのかは分かりません。これといった敗因は無く、小さな出来事の積み重ねではとは思いますが……」
そう話すのは、2008年の京都記念までウオッカの主戦騎手を勤めたS位氏。
「ただ、スローペースだったのが、シンボリレグナントがハイペースに変えてしまった。持続力で競り負けた、が敢えて上げる一番近い敗因ですかね」
前走のチューリップ賞、そして新馬戦で勝ち越していたことから、ある意味でシンボリレグナントを“知っている”と驕っていた側面もある、とS位氏は続ける。
「レグナントの癖ですら作戦に入れて、息を入れてしまうタイミングでゴールさせるなんて、普通出来ないですよ。こればかりはO部さんの作戦勝ちですよね。ウオッカは本当に頑張ってくれました」
この後、ウオッカは優駿牝馬(オークス)ではなく東京優駿(日本ダービー)出走へと舵を切る。
当時は無謀であると非難されたが、オーナーがタニノギムレット産駒でダービーを獲ることを目標としており、その娘であるウオッカはそれを叶える水準を満たしていたからでもあるが……
「“ダービーに逃げた”なんて滅多に言われないですよね」
当時、シンボリレグナントはその馬格からマイラーであると評されており、ウオッカがオークスに出れば「ほぼ確実」とも評されていた為、ダービー出走を表明したウオッカ陣営は“逃げた”と非難された。
「結果的にダービーに勝てたので良かったんです。もうレースが終わるまで気が気じゃなくて……」
2頭の再戦は牝馬三冠最後のレース、秋華賞まで待つこととなった。
「再戦より勝てるレースを選択した。今なら自信を持って言えますね」
S位氏はそうキッパリと言い切った。 - 47◆8ucyADYXiE24/04/12(金) 00:58:23
*
桜花賞をレコードで勝利(2021年にソダシが更新)したシンボリレグナントは、予定通り次走を優駿牝馬に定めた。
1600から2400まで一気に距離が伸びるため、マイラーであると評されていたシンボリレグナントには優駿牝馬までの短い時間を全て体づくりに費し、ギリギリまでシンボリ牧場で調整された。
「ウオッカはダービーに行った。これは半分想定内。まさかダイワスカーレットが感冒で出走回避するとは……」
不幸を喜ぶのは不謹慎であるが、シンボリレグナント側としては少しでも勝率を上げられるのでありがたい話であった、と後に関係者は語る。
オークス制覇に当たってぶつかるであろう2頭が揃って不在。桜花賞4着馬のアストンマーチャンは距離の問題で未出走。
目下、ライバルはローブデコルテのみという状況であった。
「不思議だね。距離の問題があるというのに、何も不安に感じないんだ」
O部はシンボリレグナントの首筋を優しく撫でる。
桜を制し、一皮剥けた彼女は、どことなく一回り大きくなったように感じる。これでもまだ馬体重は400前半であり、体高がそれなりに高いので薄っぺらく見えるのだが。
やはりルドルフとそっくりな外見のせいだろうか。O部はぼんやりと思う。
━━そのO部も、桜花賞を獲ってから明らかに若返って見えると騒がれているのだが。
「三冠を獲ったら海外遠征の話も出ているんだ」
彼女の父は、海外で故障し引退した。そのことは今なおO部の心に深く刺さっている。
シンボリの名を持つもので、出来ればルドルフの血縁で海外で勝つ。
O部は、シンボリの関係者は、それを望んでいた。
「何はともあれ、まずはオークスを勝たないとね」
任せなさいよ。そう“彼女”が胸を張った、気がした。 - 48二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 07:51:27
保守
- 49二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 10:27:19
このレスは削除されています
- 50◆8ucyADYXiE24/04/12(金) 10:29:42
*
ダイワスカーレットは感冒により直前で出走取り消し。ウオッカは日本ダービーへ。
圧倒的パフォーマンスを見せた上位2頭が不在となり、1番人気に推されたのは桜花賞馬シンボリレグナント。
2番人気はフローラステークスを豪快に差し切ったベッラレイア。3番人気にザレマ。トライアルレース2着のミンティエアー。カタマチボタンとローブデコルテの桜花賞出走組がそれに続いた。
しかしオッズは1番人気シンボリレグナントがマイラーであると見られ、距離延長の不安から2.3倍。上記の出走馬の他、NHKマイルC覇者ピンクカメオなどにも人気が分散し、単勝万馬券無しという混戦状態でのスタートとなった。
まず魅せたのは2番人気ベッラレイア。スタートで躓き出遅れた1番人気シンボリレグナントを横目に、いつもより良好なスタートを切ると6番手辺りをキープしながら軽快に追走。早めにスパートをかけると坂上で堂々と先頭に立った。
その直後、ローブデコルテの急襲が始まった。
「桜花賞は出遅れて、追い込んだけれど5着に終わってしまいました。だから、スタートだけはとにかく失敗しないようにと気をつけていました」
ローブデコルテの鞍上・F永氏の回想通り、壁を乗り越えたローブデコルテは流れに沿って好位置に……ベッラレイアの後ろにつけることができ、最終直線でのラストスパートで叩き合い。追い込んできたラブカーナを振り切ってゴールインできたかと思っていたのだが……
「ローブデコルテは強くて、上手い競馬をしていた。でも、1馬身先に“紅き桜の君臨者”がいたんです。1番いてほしくない馬が、そこにいた」
スタートで出遅れ、後方付近でのレースとなってしまったシンボリレグナント。O部氏にとっても想定外の事態であったが、すぐに力の温存ができると切り替えた。
前に行きたがるシンボリレグナントを抑え、第3コーナー辺りから緩やかにスパートを掛けつつ追走。ローブデコルテの急襲と同時に加速を始めると、ベッラレイア・ローブデコルテとの叩き合い、2頭を振り切って1馬身差でゴールイン。捲り切り、叩き合いを見事に制して勝利を掴んだのだった。 - 51◆8ucyADYXiE24/04/12(金) 14:24:39
(あれこれ下手したら1スレで終わらん可能性無い……?)
- 52二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 18:30:18
かつて父にダービーの勝ち方を教えられた男が、今度は
行きたがる娘にオークスの勝ち方を教えたことになるな。
O部さんからしたら初めてオークス制覇した時から、もう37年目のオークス何だなぁ… - 53二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 18:32:17
O部さんは正確には初制覇から36年目のオークス制覇
でしたね…失礼しました - 54◆8ucyADYXiE24/04/12(金) 18:44:43
- 55二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 22:07:44
そういやこっちのユタカはレジェンドの年齢超えてから
でないとG1記録抜けないのか… - 56二次元好きの匿名さん24/04/12(金) 22:10:14
相談役も60超えないと最年長勝利にならないという
- 57◆8ucyADYXiE24/04/13(土) 05:39:38
*
━━終わってみれば、距離延長の不安は杞憂でしたね。
「そうですね(笑)。最初こそ出遅れてしまったけれど、そこで力を温存できたから最後の力比べを制することができた一面もあるかな、と僕は思っているけれど。うん、レグナントは本当によく堪えてくれました」
━━道中、前に行きたがっているシンボリレグナントをO部さんが抑えているようにも見えていますが?
「レグナントはああ見えて先頭を取りたがる子なんですよ。とにかく自分の前に馬が走っているのが気に食わないタイプ。新馬戦から抑えていたんだけれど、目に見える形で出たのがオークスだったんです」
改めてパトロールビデオを見返すと、確かに前に行きたそうにするシンボリレグナントをO部氏はさりげなく手綱を引いて抑えている。
「正直、ローブデコルテを一番警戒しました。現にゴールギリギリまで追い抜けなかったことで、それが間違いではなかったと実感しました。F永君はよく此方を研究してきたな、と思いましたね」
結果、2着に敗れたローブデコルテであったが、彼女はオークスの後アメリカンオークスに出走するため渡米。鞍上はI田騎手に変わってしまったものの、出遅れをカバーし切る凄まじい末脚でパンティーレイドを抜き去り、アメリカンオークスを制覇している。
「オークスを勝ったことで中距離も問題なく行けることがわかったのは大きな収穫。これはもう秋華賞ももらったぞ、なんて騒いでいましたね」
この後、シンボリレグナントは放牧に出され、次走は秋華賞と発表された。
前哨戦を使うことも考えられたが、最終的に直接乗り込むことが決定。
感冒でオークスを回避したダイワスカーレット、凱旋門賞を取り止め国内に専念することとなったウオッカ等との三冠最後の冠を賭けての戦いが始まったのだった。 - 58二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 10:55:29
直行か
疲労多めだったのかな - 59二次元好きの匿名さん24/04/13(土) 18:20:28
保守
- 60◆8ucyADYXiE24/04/13(土) 21:30:02
*
《は〜……生き返るわぁ》
今の季節、ちょっと暑いけれど、ヒトミミが“ゴクラク”と言うのがちょっとわかる気がする。
アタシが今いるのは、ヒトミミが“オンセン”と呼ぶところ。細長い深みに暖かい水が入っていて、そこにしばらく浸けられる。
樫のレースを勝った後、本当なら夏も走る予定だったのだけれど。アタシの前脚が腫れて痛みを感じちゃって。だから故郷のオンセンに浸かりながら治療中。
一瞬焦ったけれど、しっかり休んでいれば早く治ると言われてひと安心。
初めての距離で無理させてごめんね、とおかべさんに謝られてしまったの。アタシの方こそ焦って前に行こうとしちゃってごめんなさい。
「レグナントは本当に気持ちよさそうに入るなぁ」
ぽんぽん、とアタシの頭を撫でてくれるのは、アタシが生まれた時から世話してくれるヒトミミ。
「O部さんもうすぐ来るよ」と言われて引っ張られる。あ、もう終わりなのね。
ざばざばと気持ち良い自ら上がる。体を振るって水分を飛ばしていたら、慌ててタオルで拭われる。
「脚、だいぶよくなったなぁ」
ここに帰ってきた時は痛くて仕方なかったけれど、今はちょっと違和感を感じる程度。痛くないだけで嬉しいの。
「いつもいつも、俺達のために走ってくれてありがとうなぁ」
秋のレースも頑張ろうなぁ。
当たり前じゃない。アタシを誰だと思ってんのよ。
《いたっ》
「ちょ、せっかく治りかけているのにまた怪我をされたら俺達まとめて再起不能になるー!!」
うるさいわね、ちょっと滑っただけよ。 - 61二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 04:01:57
アニメにも出てたあのタイプの温泉か
- 62◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 08:36:59
(そうですね、イメージはそれです)
*
牝馬三冠最後のレース、秋華賞。
特に2007年は牝馬の戦績が全体的に高い上に層が厚く、この年の秋華賞もG I馬及びG I級馬に重賞馬など、多数の猛者達が集っていた。
牝馬として64年ぶりにダービーを制したウオッカ。
二冠牝馬シンボリレグナント。
G I勝ちこそないものの、上記2頭と接戦を繰り広げたダイワスカーレット。
そのダイワスカーレットにローズSで肉薄したベッラレイア。
アメリカンオークス覇者のローブデコルテ。
以上5頭が上位を占め、オッズと人気が目まぐるしく入れ替わる混戦模様であったが。最終的に二冠牝馬シンボリレグナントが一番人気、二番人気にダイワスカーレット。ウオッカが3番人気、4番・5番にローブデコルテとベッラレイアとなった。
「この時はやはり脚部に不安があって、初めてバンテージを巻いての出走でした。全兄が脚の故障に泣かされたので、打てる手は打ちきりましたね……」
それでも、本番では1番人気に推された。
「レグナントも夏を超えて成長していたんだけれどね。やっぱウオッカやダイワスカーレットに比べたら細いな、って思っちゃって。でも、こちらだって負けられないから。当日までろくに眠れませんでした」
このレースに勝てばシンボリレグナントは三冠馬となる。親子で三冠馬となった前例は無い。
レースと路線が違えど、シンボリレグナントの三冠達成への期待は非常に高かった。
そしてO部氏も、牡牝クラシック三冠達成への王手がかかっていた。これは当時、両方のクラシック三冠を達成した騎手がいなかったためである。
「緊張はしましたけれど、レグナントがいつも以上に落ち着いていましてね。秋になって、内面も成長してくれたから。安心してレースに望むことができました」
- 63二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 12:18:30
保守
- 64◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 18:41:37
(進みが遅くて申し訳ないです……)
*
牝馬三冠最後のレース。第12回秋華賞は、やや強引に先頭に躍り出て軽快に飛ばすヒシアス.ペン、好スタートを切ったダイワスカーレットがそれに続く形で始まった。
この2頭がやや後続を突き放し、ウオッカは中段の後方に、ベッラレイアは折り合いに専念するために後方2番手に。1番人気シンボリレグナントはまたもやスタートに躓き、馬群からやや離れた最後方でレースを進めることになってしまった。
この時の実況や観客は悲鳴を上げ、早くも三冠の夢は潰えたか……という空気になっていたという。
しかし。彼女は二冠牝馬。かの皇帝の血を引く、君臨者である。
「またゲートを出るのに失敗して、やらかしたと一瞬おもいましたけれどね。スローペースであったことに救われたかな、第3コーナー辺りで中段前方にまでもっていけました。あと少し遅かったらダイワスカーレットに逃げ切られていましたね……」
シンボリレグナントが中段の先頭に躍り出た時、ダイワスカーレットがヒシア.スペンから先頭を奪取し、後続を待たずしてロングスパートを開始した。
これを見たシンボリレグナント、ウオッカも馬群を抜けてスパートを開始。シンボリレグナントはダイワスカーレットの外に並ぶと、そのまま一進一退の叩き合いへともつれ込んだ。
他の馬達も我先にと仕掛けを開始。スタンドは一気に歓声に沸き、その大歓声に迎えられて最終直線となった。
「俺もスカーレットも必死やった。桜花賞負けて、オークスは出れんくて、もう後が無かったからね。でもさ、シンボリレグナントはどれだけ振り切ろうとしても全然引き離されてくれない。むしろ加速さえしてくる。しかもO部さん、鞭すら入れてなかったし。もう泣きそうやった」
シンボリレグナント、ダイワスカーレット両馬は叩き合いながら叩き合いながらも追い縋ってくるレインダンスとウオッカ、大外を追い込んできたベッラレイア、好位で粘るラブカーナらを完封。
しかしゴール直前にシンボリレグナントが遂にダイワスカーレットを追い抜き、叩き合いを制してアタマ差で入線。
ここに、第3代牝馬三冠馬が誕生したのだった。 - 65◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 18:42:51
(ヒシアス.ペンの名前に変なコンマが入っているのは、そのままだとNGワード判定食らったからです)
- 66二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 19:06:05
え?牝三冠とっちゃうんだ…
- 67◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 20:01:53
(牝馬三冠とドバイデューティーフリーは勝ち確で進めていきます。気に障ったらすみません)
- 68◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 20:51:45
*
このレースを制した者が名実ともに三歳牝馬のナンバーワン。
そんな頂上決戦となった秋華賞を制し、見事三冠馬となったシンボリレグナント。
鞍上・O部氏は57歳という年齢で牝馬三冠を制覇。
またシンボリルドルフとの親子三冠という偉業も達成した。
レース後。シンボリレグナントの陣営は抱き合って涙。スタンドも勝者となったシンボリレグナント、O部氏を讃えるコールで感動を伝えた。
牡馬を含めても世代ナンバーワンではないか?という比較が真剣に語られるほどの壮絶な叩き合い。出遅れをカバーした鮮やかな走り。
また、叩き合いにこそ負けてしまったものの2着に食い込んだダイワスカーレット。上がり最速で3着に滑り込んだレインダンス、4着に終わったが久方ぶりの不利を跳ね除けて能力の高さを示したウォッカ、鋭い末脚を見せたベッラレイアなど、5着以内に入った馬達は素晴らしい見どころを魅せてくれた。
「その日はまったく現実感が無くて、次の日にニュースを見てようやくジワジワと実感が沸いてきましたね。シンボリの方々と、年末までお祭り騒ぎでした」
O部氏は興奮冷めやらぬといった様子で語る。
かつてのお手馬の娘に桜花賞をもらっただけでなく、現在O部氏のみのクラシック・牝馬三冠の両方を達成するという偉業まで与えられた。その胸に吹き荒れる感情は、きっと言葉では語り尽くせぬものだろう。
「ただ、この後跛行してしまって。結局年内は休むことになってしまって……」
……シンボリレグナントは次走にジャパンカップを選んでいたのだが、レース後の放牧にて左前脚跛行を発症。
大事を取り、予定を全てキャンセル。年内全休になったのだった。
「僕が再び彼女に乗れたのは、ドバイに行く少し前だったかな……」 - 69二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 21:05:21
こっちだとレグナントとダスカはシービーとエース
みたいな関係性感じるな…脚質とかの違いでも - 70二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 21:18:59
短期間で2度脚やってんの怖い
トウカイテイオーみたいなことにはならんでほしい - 71二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 21:54:37
保守
- 72◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 22:33:55
*
「ダイワスカーレットが桜花賞も秋華賞も獲れなかったのは、俺のせいなんや」
ダイワスカーレットの主戦騎手を務めたA藤氏はそう言って項垂れた。
……桜花賞の5馬身差の敗北。感冒によるオークス回避。もう後がない、と当時精神的に追い詰められていたというA藤氏。
空いた時間は全て対シンボリレグナント対策に当て、周りからも心配されていたと当時を振り返る。
「スカーレットは間違いなく二冠牝馬になれた。それだけの実力が確かにあったんや。俺がもっとしっかり乗れていれば……。O部さんにも心配されて、ローズステークス直前で倒れて、ようやく正気に戻ったんかな」
あわや乗り替わりの危機を経て、A藤氏は不安定な気持ちのまま秋華賞に望んだ。そんなA藤氏に、ダイワスカーレットは。
「スカーレットの強みは先行力と長くいい脚を使ってくれること。あのレースは、間違いなく強い走りをしてくれた。シンボリレグナントがめっちゃ出遅れてくれたし、これは勝った、って早めにラストスパートをかけたんです」
まさか、シンボリレグナントがそのタイミングで真横で叩き合いを仕掛けてくるとは。完全に想定外だった、と語る。
互いに一歩も引かぬ壮絶な叩き合いは、シンボリレグナントに軍配が上がった。スルリと抜け出した二冠牝馬に、A藤氏は潔く負けを認めた。
「三冠はシンボリレグナントに譲ったった。次は負けへん。悔しいけれど、スカーレットを勝たせられなかったのは一生後悔するけれど、負けたもんは仕方ない。そう思えたんや」
この後、ダイワスカーレットはエリザベス女王杯、ジャパンカップ、有馬記念というローテーションを決行。
特にエリザベス女王杯からのジャパンカップは中一周という短い間隔であり、陣営に批判があったものの、ダイワスカーレットはエリザベス女王杯とジャパンカップを先行逃げで勝利、有馬記念はマツリダゴッホとの叩き合いの末同着勝利。G I3勝を挙げた。
ようやく能力通りの勝ち方ができた、とA藤氏は有馬記念後の合同インタビューで人目も憚らず涙した。同着とはいえ、3歳牝馬の有馬記念勝利は史上初の快挙であった。
「この後はドバイ遠征の予定やったけど、目の怪我で回避。ようやくシンボリレグナントと戦えたのは、秋天やったなぁ……」
そしてそれが、最後の戦いとなったのだった。 - 73二次元好きの匿名さん24/04/14(日) 23:00:35
ダスカのG1勝利数、強引に辻褄合わせに来て草
そして、こんな化け物牝馬を寄せ付けなかったレグナントの株が無限に上がりそう - 74◆8ucyADYXiE24/04/14(日) 23:55:03
(強引なのはマジで勝ち鞍奪いまくっちゃたので……この後の展開的にここでしか修正できなかったです。やっぱ辻褄合わせ難しい)
- 75二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 06:39:55
保守
- 76二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 11:05:17
これがダスカの早期引退の遠因と言われそうだな
でもクラシック年に宝塚もきついローテか - 77◆8ucyADYXiE24/04/15(月) 12:20:36
*
《なんでお前まででっかくなってんだよ裏切り者!!!!》
《……逆にあんたはなんでチビのままなのよ……》
うっさいこれから成長するんだよ!!と暴れてヒトミミを振り飛ばしているのは、久方ぶりに会うチビ助ことドリームジャーニー。
記憶にある姿とほぼ変わらないんだけど……かろうじて筋肉ついたね、としか言えないちんまりとした体に、慰めの言葉すらかけれない。
まぁ、舐めてかかった年下を威嚇して秒で従えていたので、ボスの座は揺るいでないみたい。アタシも軽く威嚇して身の程を分からせておいた。
《つかダービーにメスが来る!って楽しみにしてたら来たの可愛いけどムキムキ女だった。俺ら纏めて負かされたし、割とショックだった》
《あー……ウオッカね。強いのよ、あの子》
《知ってる。目の前で味わわされたわ》
ジャーニーは今年に入ってから、ステップレースは勝ったけれど、G Iだと負けが続いている。
当馬いわく《乗ってるニンゲンが合わねェ》らしい。
アタシはこいつと走ったことが無いから何も言えないけれど、去年G I勝ってるんだから実力はあると思ってる。
オスなのにチビというハンデを跳ね除けて走り続けている時点で評価に値する。まだ3歳だし、まだまだチャンスはあると思うわ。
《お前、脚やったって聞いたけど大丈夫かよ?》
《あら、心配してくれるの?大丈夫よ、早めに治ったけど念の為に休んでいるだけだから》
《……無理はすんな。俺らは脚やるだけで最悪死ぬ生き物なんだからよ》
《……ええ。肝に銘じておくわ》
アタシの兄も脚を故障した結果、死にはしなかったけれど1年以上の戦線離脱を余儀なくされている。
アタシはメスだから、怪我をしたら多分走ることなく引退になりそう。それは困る。
……次は年明けにどこか走ってから海外に行く、と言われた。この国とは環境もガラリと変わるでしょうし、全力を出すにも慎重にならないといけないわね。
《……でも、そうしないと走れなくなっちゃうから》
来年もその先も。アタシはあの人と一緒に走り続けるのよ。 - 78二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 19:39:50
そういえば、このころまだジャーニーの鞍上はIさんじゃないのか
- 79二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 19:45:50
- 80二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 19:59:14
保守
- 81二次元好きの匿名さん24/04/15(月) 23:07:08
保守
- 82二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 01:07:24
保守
- 83◆8ucyADYXiE24/04/16(火) 07:25:20
*
シンボリレグナントの牝馬三冠。ウオッカの64年振り牝馬のダービー制覇。ダイワスカーレットの3歳牝馬によるジャパンカップ-有馬記念制覇。
その他にも牝馬が牡馬を圧倒するという、牝馬黄金時代の幕開けとなった2007年が終わり、2008年が始まった。
この年はウオッカ、シンボリレグナント、ダイワスカーレットがドバイ遠征を表明しており、更なる海外での躍進に競馬界は沸いていた。
特にウオッカ陣営は前年凱旋門賞遠征が頓挫していたこともあり、レースは違えどもリベンジに燃えていた。
三冠牝馬シンボリレグナントも、前年秋華賞後に跛行し全休していたが回復。ドバイまで京都金杯(4着)を挟みつつ、脚部に最新の注意を払いながらの調整を重ねていた。
しかし、同じくドバイに向け調整していたダイワスカーレットが調教中にウッドチップで眼を負傷。その傷は重く、ドバイ遠征見送りとなってしまったのだ。
陣営は国内に目標を改め、海外遠征は夏以降を想定となった。
「2頭にはダイワスカーレットの分まで頑張ってほしい、とは送りました。彼女らの実力は何よりも僕らが知っているので」
こうして予定外のアクシデントはあったが、ウオッカ・シンボリレグナントは同じ飛行機でドバイへと飛び立った。
この時ドリームジャーニー以外とは馴れ合わず威嚇すらするほど他馬との関係に難があったシンボリレグナントがウオッカに何かしらしでかさないかと不安視されたものの、ウオッカとは何となく打ち解けていたようで、構って欲しいと顔を押し付けられてうんざりしつつも威嚇も耳も絞らないシンボリレグナントの画像や動画が残っている。
「ライバルとして認識していたようですけど、レース以外で会ったことがないのが功を期したみたいです」
そうしてほぼ予定通りにドバイに到着。
慣れぬ異国の地で、レースに向けての最終調整が始まった。 - 84◆8ucyADYXiE24/04/16(火) 07:53:12
*
《地面が似てるけど違うというのが面白いわね》
《そうかぁ?走りにくくて仕方ないぜ〜?》
《あんたは口じゃなくて脚を動かす!!》
《俺持続力無いんだって!!無茶言うな!》
後ろから泣き言が飛んでくるがスルー。なんだかんだ脚は動いてるし、アタシについてきているので、問題は無いでしょう。
飛行機というものに揺られ、ほぼ動けないストレスからどうにかなりそうにはなったけれど、ウオッカが構ってくれるのでいい感じに気を紛らわすことができ。ようやく辿り着いたドバイという異国の地。
漂う空気すら未知のもので一瞬2人して固まったけれど、一晩も過ごせばある程度は慣れる。ヒトミミはいつもと変わらないしね。
ウオッカは次の日から調教を始めていたけれど、アタシは背中の人を待ってからのスタートだったので少し遅れて。あの人、お年だけど引っ張りだこなんですって。少し誇らしい。
「調教ではどちらもいい走りができてますね」
「……いいどころか最高タイム出ているんですがね。本当にありがとうございます、ウオッカと併走していただいて」
「こちらこそ。レグナントはドリームジャーニー以外の馬が近くにいたことがなくて。いやいたんですけど気迫や威嚇されて遠巻きにされていたみたいで……ここに来て友達が出来たみたいで、よかったです」
《なぁ!俺たち友達だって!》
《違うわよ!ライバルだって言ってんでしょ!?》
《だってスカーレットだってお前と仲良くなりたいし、いつか倒したいって言ってたぜ?》
《後者は受けて立つけど前者はお断りよ!こら顔を押し付けるな擦り寄るな!》
「仲良しですねぇ」
「……これが若者達の間でいう“つんでれ”ってものなのかな」
微笑ましい光景を挟みつつ、目前のドバイデューティーフリーに向けての調整は終盤に入っていた。
「お互い、全力で行きましょう」
「ええ」 - 85◆8ucyADYXiE24/04/16(火) 10:46:10
(馬ウオッカの口調悩んでアップできませんでした。保守ありがとうございます)
- 86二次元好きの匿名さん24/04/16(火) 17:36:36
ウオッカって牝馬にモテたらしいけども、レグナント
は牡馬勝りだからウオッカにそういう目は向けない…
むしろウオッカの方から矢印向いてるのは草。 - 87◆8ucyADYXiE24/04/16(火) 23:48:07
*
2008年3月28日、ドバイデューティーフリー当日。
良馬場での開催となり、脚部に爆弾を抱えるシンボリレグナントにとっては絶好のチャンス。
ウオッカは昨年アドマイヤムーンで同レースの勝ちを挙げたT氏に乗り替わりとなり、何としてでも勝ちに行くという意思を隠そうともしていなかった。
また、このレースにはアドマイヤオーラが参戦。鞍上はダイワスカーレット主戦のA藤氏。この馬もまた骨折で長期療養を余儀なくされ、年明けのレースで復活したことで招待を受けたものであった。
「ダービーを勝ってからずっと1着が遠いんです。ここで是が非でも勝ちに行きたい」
直前インタビューで真剣な眼差しで語る調教師の姿が今でも思い浮かぶ。
シンボリレグナント陣営はと言えば、こちらもただ一言「勝つのは我々です」と言い切っていた。
「ずっとずっと、僕の夢だった。ルドルフの仔で海外レースを勝つのが。記者会見も何を話したのか覚えてなくて、後で見返して全員で羞恥心に苛まれましたね……」
「この2頭には負け越しですがね。こちらにも矜持がある。負けるつもりはありません」
3つの陣営がそれぞれ火花を飛ばし合っていたが、ここはドバイ。海外である。
当然各国から名だたる名馬たちが集っており、厳しい戦いが予想された。
しかし、日本から参加した3頭も名馬である。昨年日本調教馬が勝利していることもあり、今年も……と願うファンが多かったと聞く。 - 88◆8ucyADYXiE24/04/16(火) 23:54:43
「でもね、僕はこのレース、ちょっと諦めてしまった時があって。……情けない僕をどう思ったのか、レグナントが自分の意思で道を切り拓いたんだ。だから、あのレースは完全に彼女が自分で掴み取ったものだった」
微笑むO部氏。
今だからこそドバイデューティーフリー。そこでO部氏はその展開に勝ちを諦めたという。
鞍上からの指示が来ず、焦れたのか……シンボリレグナント自身が勝手に行動し始めたのだと話し始めた。
「あのレースはいつも通りに出遅れてから始まったね……」 - 89◆8ucyADYXiE24/04/17(水) 01:30:03
*
これはどういうことだ、とシンボリレグナントは憤慨していた。
ゲートで一瞬躓き出遅れてしまったのは自業自得なのでまぁいい。問題は目の前にある“壁”だ。
馬群が固まって目の前を走っている。そこから離れて一頭が悠々と先頭を走る。そこはアタシの場所だ、とシンボリレグナントは頭に血が昇っていくのを感じていた。
彼女は先頭を誰かに取られるのが嫌いだ。だけど戦法的に最初から先頭には立てない。
だから一旦誰かに譲るのだ。今だけそこに座れ、と。必ずそこから引き摺り下ろすのだ、と。
そこはアタシがいるべき場所なのだから、と。
なのに、最後尾を走る自分の前にあるのは、それを阻止するかのような馬の壁。
外に出ようにも狙ったように移動されタイミングが掴めない。
こいつら、アタシをとことん邪魔しに来ている、ともはやシンボリレグナントは噴火する寸前であった。
が。
《……!!》
見えた。アドマイヤオーラと知らぬ馬の間から先頭を走る馬を追い抜ける道筋が。
ここを通れば勝てる。距離はもう無い。ここでスパートをかけようと踏ん張った彼女は。
《なんで止めるのよ!?見えてるのよ勝ち筋が!!》
この時O部は馬群に突っ込んで行こうとするシンボリレグナントが暴走しかけていると見ていた。
それに彼自身、出遅れと“前が壁”の状況に半ば勝利を諦め、彼女の脚に負担を掛けぬ走りをすることに意識を切り替えつつあった。
くいくいと引っ張られる手綱。見えている勝ち筋があるのに行けないもどかしさ。シンボリレグナントの噴火は、アッサリと訪れた。 - 90◆8ucyADYXiE24/04/17(水) 01:54:15
《……もういいわ、勝手にする。あんたはそこでしがみついていなさいな》
側から見ればいきなり吠えたシンボリレグナントは、その咆哮に驚いたアドマイヤオーラらの間に突っ込んで行った。
慌てて手綱を引く鞍上を無視し、まるでダンスを踊るかのように軽やかに馬群を縫い走る。
それに感化されたように追い縋る後続を無視し、遂に馬群を突破。先頭を走る不届ものを射程範囲に入れた。
ゴールまでの距離は短い。だがそれがどうした。
《勝つのは、アタシなんだから!!》
そのまま更にスピードを上げていく。後続がどんどん突き放されていく中、4番手にいたウオッカもスパートを開始。
2頭の牝馬は凄まじい勢いと気迫で距離を詰めつつ、先頭を走っていたジェイペグ(南アフリカ)と並び立った。
《━━!?》
《その座、引き摺り落とさせてもらうわ》
《祭りってヤツだな!!》
一進一退。ほぼ横並びで叩き合う3頭。だがゴール200メートルでウオッカが力尽きたのか半馬身後退。
しかしシンボリレグナントとジェイペグは止まらない。まるで殺し合うかのような殺気が飛び交うデッドヒート。
そして2頭はほぼ同時に入線。半馬身遅れてウオッカが続く。アドマイヤオーラは馬群からうまく抜け出せず離されてのゴールインだった。
目視での着差が確認不能であったため、すぐさまパトロールビデオと写真での審議が行われた。
結果、同着。パトロールビデオも5枚用意されたゴールをした瞬間の写真も、きっちり2頭が並んでいたことを証明した。
タイムは1:46:20。同着ではあるが、出遅れによる不利を覆し、壮絶な追い込みを魅せての勝利であった。
ウオッカは半馬身差の3着。アドマイヤオーラは9着の大健闘であった。
「シンボリレグナントが来るまで待機して、来たらついていって最後に抜かす。って戦法を決めていたのに出遅れるしなかなか来ないしで焦りましたよ(笑)まぁ、ちゃんと来てくれたんで、そこでラストスパートをはじめて。ウオッカ、強かったですよ。予定外だったのはシンボリレグナントが最後まで伸びていたことですかね?(中略)O部さん達はマイラーって言ってますけど、あの馬は多分距離長い方がいいかもしれないですね」(ウオッカ鞍上:T氏へのレース後インタビューより一部抜粋) - 91二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 07:29:05
保守
- 92二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 07:41:35
こういうところは親譲りな面もあるんだろうか
- 93二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 10:36:46
このレスは削除されています
- 94二次元好きの匿名さん24/04/17(水) 19:18:04
- 95◆8ucyADYXiE24/04/17(水) 19:21:29
(すいません消し忘れてました……ご指摘ありがとうございます)
*
「すごいでしょう。僕、このレースは一切指示していないんです。全てレグナントが自分で考えて行動しているんです。この歳になって、競馬を教えてもらうことになるとは思いませんでしたよ……」
当時のレース動画を見ながら、O部氏は当時を振り返るように呟く。
何度見返しても、斜行など他の馬の迷惑にならないよう見事な身のこなしで馬群を抜き去り、ウオッカを伴いながら捲り上げ、ジェイペグとの叩き合い。シンボリレグナントが牝馬である、という事実を忘れてしまいそうなほどの、荒々しくも豪快な勝ち方であった。
「彼女には、勝ち筋がしっかり見えていたんですよ。僕が控えるように指示したから、怒って自分でレースを始めることを決めてしまったんです。勝つことはできましたけれど、ジェイペグには喧嘩を売り続けるし、ウオッカ以外の馬は萎縮してしまって、引き上げるのも大変でした。僕もしばらく無視されて、へこみそうになりましたね……」
……当時の写真や動画を振り返ると、馬とは思えぬ咆哮を上げたり他馬を威嚇し引き下がらせたりと、割とやりたい放題しているシンボリレグナントと、それを宥めるように側にいるウオッカの姿が確認できる。
「やっぱり海外であれだけの激走をしたんで、脚に疲労が溜まってしまって。次はヴィクトリアマイルを予定していたんだけど、白紙。安田記念まで休養させることにしたんです」
初めて「親友」ドリームジャーニーと同じレースを走ることとなったシンボリレグナント。
この秋に起こる悲運へのカウントダウンは、もう始まっていた。
- 96◆8ucyADYXiE24/04/17(水) 19:24:25
いや見返してこれ3歳レースやんけって気づいて消した気になってました……
推敲したのに…… - 97◆8ucyADYXiE24/04/17(水) 21:25:41
*
《なんだかんだ、お前と走るの初めてだよな》
《……そういえばそうね》
脚はひたすら全力疾走。上に乗るヒトミミの静止は聞かない。ジャーニー、よくわからない敷き詰められたチップを巻き上げるように回転してるみたいに足が動きつつアタシの横をしっかり確保してるから、やっぱ見かけによらないんだなぁ、って思う。
……海外から帰ってきて、周りのヒトミミにちやほやされながら体を休めたアタシは、次なるレースに向けて調教開始。
なんとジャーニーと同じレースを走るというのだから、いつも以上に気合いが入るというものだ。
《同着だって?とりあえずおめでとう》
《ありがとう。来年は必ず勝つわ。ところであんた上のヒトミミ変わったと聞いたけど?》
アタシの上のヒトミミが言っていたことを思い出す。なんでもジャーニーみたいなキショーナン?を扱うプロフェッショナルなのだとか。
ジャーニーは《ああ……》と口を開く。
《とりあえず骨がある奴だな。俺が部屋の隅にまで追い詰めて首噛んで血が流れてもニコニコしてやがった。おもしれー奴だよ》
《はぁ!?あんたそれ一歩間違えたら死……》
《手加減はしてやったが?》
《アタシ達の力とヒトミミの体の貧弱さを理解しなさいよ……》
とんでもない事実をサラッと言い放ったジャーニーに、思わず足を止めてしまう。ヒトミミの指示はとりあえず無視する。
その時のジャーニーの顔といったら。おもちゃを手に入れた仔馬みたいに目をキラキラさせて、顔は笑みの形に緩んでいる。
そう。あんたもようやく手の合うヒトミミに出会えたの。
《次、負けないから》
《はっ、言ってろ。勝つのは俺だから》
2頭並んでもう一回走る。ああ。やっぱり走るのは楽しい。
だから。━━脚がちょっと痛いくらい、我慢できるの。 - 98◆8ucyADYXiE24/04/18(木) 00:35:44
感想や指摘、保守ありがとうございます
亀更新なのに♡もつけていただいて励みになっています
ここから折り返しとなりますので、また完結までゆっくりにはなりますが、最後まで見ていただけたら幸いです - 99二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 07:49:53
保守
- 100◆8ucyADYXiE24/04/18(木) 10:15:38
すみません今日の更新は21時ごろになります
- 101二次元好きの匿名さん24/04/18(木) 18:14:26
保守しときます
- 102◆8ucyADYXiE24/04/18(木) 21:21:58
(保守感謝です)
*
(駄目だ、追いつけない……!!)
2008年安田記念。
ドバイデューティーフリーでの激走から一番人気に推されたシンボリレグナントの鞍上で、O部は必死に前を走るウオッカに追い縋る。
いつもの出遅れ、ドリームジャーニーと後方で走り、一気に馬群を抜いてハナを取る。今回もいつもと変わらぬ作戦を取る予定だった。
ウオッカが鞍上・I田騎手からの渾身の鞭を受けながら加速していなければ、今頃先頭を走っていたはずだった。
(いや、僕が諦めてはだめだ、もうレグナントに失望されたくない……だけど、)
3馬身半が遠い。それに、シンボリレグナントは敢えてこれ以上全力を出さぬように走っている予感がする。いつもより汗も多く流している。一体どうしたというのだろうか。
結局香港から参戦したアルマダを抜き去ることが精一杯となり、ウオッカに3馬身差で負けることになってしまったのだった。
*
負けた。だけど、昔ほどむかつきはしなかった。
アイツ、とっても強くなってた。
ウオッカ。あんたは本当に素晴らしい子。アタシが3度も負けるだけある。オスしかいないレースで勝つだけある。
できるなら、もっと万全な状態であんたと、ジャーニーと戦いたかった。
言い訳はしない。体調を整えてくるのも走るために必要なこと。だけど、今脚のことを背中のヒトミミに伝えたら、もしかしたらもう走れなくなるかもしれない。
だから、黙っている。できる範囲で、全力で走るの。
「レグナント……」
《アタシは大丈夫。次は負けないから》
嬉しそうに擦り寄ってくるウオッカを適当にあしらいつつ、不安げにアタシを見てくるジャーニーには笑顔を向けて。
大丈夫。きっとなんとかなるから。 - 103◆8ucyADYXiE24/04/19(金) 07:58:54
*
安田記念はまさかのウオッカに三度の敗北を喫することとなった。
シンボリレグナントのレース運びに特段改善点は見られず、輸送疲れによるものであると判断された。ただウオッカの方が強いレースをした、ということだ。
陣営は次走をファン投票一位を獲得した宝塚記念とした。
この頃になると体が成長したのか、マイラーといわれていた頃よりも幾分か体に厚みが増し、風格が出てきていたとO部氏は語る。
「なんと言いますか、少しずつルドルフに似通ったオーラを出すようになってきていましたね。体も成長して、これなら秋古馬狙えそうだな、と。もし4歳の戦績がよかったら凱旋門賞も視野に入れてました」
かつてシンボリルドルフで挑もうとして、志半ばで夢破れた芝レースの最高峰。
そのレースにルドルフの娘で挑戦することができれば、O部氏はそれをずっと夢に見ていた。
「僕にとってシンボリレグナントは“夢はきっと叶うから”を教えてくれた子。だから、是が非でも共にロンシャンを走ることを願っていたのだけど……」
O部氏の瞳から涙がこぼれ落ちる。
この次のレースと決めた宝塚記念で、彼もシンボリレグナントも陣営も、その後を大きく左右させる出来事に遭遇する。
それが結果的に歴史的偉業と繋がることになるのだが、この時点ではまだ“悲運”としか言いようのない、「悪夢のような」出来事であった…… - 104二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 10:23:10
このレスは削除されています
- 105◆8ucyADYXiE24/04/19(金) 10:24:12
(本日も21時前後に続きを上げます。
ネタバレになりますが、彼女はかの有名な秋天には出走すらできませんでした)
トリ間違いのため再レス - 106二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 17:23:24
保守
- 107二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 19:49:13
お疲れ様
- 108◆8ucyADYXiE24/04/19(金) 22:00:19
*
安田記念で敗北を喫したとはいえ、彼女は皇帝の娘。三冠牝馬だ。
宝塚記念人気投票一位、当日も一番人気に推され、シンボリレグナントは背に老戦士を乗せて堂々と入場する。
他者を寄せ付けぬ威風堂々とした佇まいに詰めかけたファンは歓喜の叫びを上げ、競馬場が爆発したかのように揺れる。
そして、素面であったはずのシンボリレグナントがブリンカーを付けていることに首を傾げる。
「安田記念後から落ち着きが無くて。あれ(=ブリンカー)を付けて、多少落ちついたんです」(調教師の回想より)
この宝塚記念はライバルのウオッカ・ダイワスカーレットが共に出走を断念している。特にリベンジに燃えていたダイワスカーレット陣営は、またしても直前でそれが叶わなくなってしまったことに涙したと言う。
「ただ、ここで戦えなくても次がある。決着をつけるのはそこで、と決心していたんやけどね……」(主戦騎手・A藤氏より)
いつもなら多少は走り回るというのに、ゲート入りの時までなるべく動かず、まだ然程高い気温でもないのにだらだらと汗を流し、どことなく右脚を庇うように歩くさまに、O部氏は嫌な予感をヒシヒシと感じていた。
「彼女はルドルフと同じくらい賢い馬でしたが、仕草などで分かりやすいんですよ。だから右脚に何かしらがあって、でも僕達に隠そうとしていたんでしょうね……」
いつもとまるで様子が違うその姿に、O部氏は一番人気だとかそんなものは関係ない、シンボリレグナントの身の方が大事だとその場で出走取り消しを表明。
シンボリレグナントは右脚に触れられた瞬間悲鳴をあげて暴れ出し、現場に急行した馬運車によって競馬場を後にした。
一番人気を背負い、ウオッカもダイワスカーレットもいない中、走れば確実に勝つだろうと評された桜の君臨者のまさかの棄権に、詰めかけたファンからは悲鳴と怒号が。
レースそのものは20分遅れでスタートし、エイシンデピュティが初のG I勝利を飾ったものの、それを素直に祝福する声は少なかった。
「誰もがシンボリレグナントを心配し、勝ったエイシンデピュティを讃える声はほとんど無かった。この子を見てくれ、頑張ったこの子を褒めてやってくれ、ってどれだけ思ったか……」
もちろんシンボリレグナントがなにも悪くないのはわかっているんですが、とエイシンデピュティをG I勝利に導いた騎手・U氏は苦々しく語る。 - 109◆8ucyADYXiE24/04/19(金) 22:46:14
*
「検査の結果、シンボリレグナントは右第三足根に“あと少しで骨折に至る酷いヒビ”が入っていることが判明しました。更に左後脚に剥離骨折寸前の症状も見つかりました。全治におおよそ6ヶ月以上はかかる見込みです……」
シンボリレグナントは、満身創痍であった。
全兄・トウカイテイオーのように骨折とまでは行かずとも、瀬戸際で最悪の事態にならなかっただけという、非常に重い故障であった。
「年内は全休とし、彼女の治療に専念します。現役を続けるのか引退するのか、それは怪我の回復を見て、慎重に判断していきたいと思っています」
……何度も言うが、シンボリレグナントは牝馬である。牝馬三冠、ドバイデューティーフリーのG Iを四つ勝ち、サンデーサイレンスとキングカメハメハの血を持たないサラブレッドであったため、繁殖牝馬として非常に注目を集めていた。
後にこの時、シンボリ牧場には「怪我が完治したらディープインパクトとの交配を」という打診があったことが関係者への取材で判明している。
このまま引退してもいいのでは?
まだ彼女が走る姿を見たい。
そもそもシンボリレグナントの不調を見抜けなかったのか?
陣営には嘆願と批判の声が連日届けられていたと語る。
「意外と愛されていたんだな、と失礼なこと思いましたね……」
シンボリ牧場には、その時届けられたファンレターや花束、手作りのぬいぐるみなどが今も大切に保管されていた。
その一つ一つを我々に説明しながら、生まれた当初から今に至るまでシンボリレグナントの世話を担当している厩務員・〇〇氏は語る。
「ルドルフに似て風格から牝馬に思えないし、あの気性でしょう?僕らは慣れてるし可愛い子にしか見えないんですけど、ぶっちゃけ牝馬には見えないんですよレグって。だから、これだけ多くのひとに愛されているとは正直予想外だったといいますか、」
ただ、このファンからの心が詰まった贈り物こそが、シンボリレグナントの現役続行を決めた一手であったことは間違いない。
「まぁ、スタリオンとかからは色々言われましたけどね。レグナントがやれるとこまでやりたいって、せめてあと3つG Iを勝ちたいって思ったんですよ」
彼女が競馬場に帰ってきたのは、故障から約10ヶ月近い未来の2009年産経大阪杯。
そこから、シンボリレグナントの新たな物語が始まったのだ━━ - 110二次元好きの匿名さん24/04/19(金) 22:47:48
しみじみとした口調でものすごく欲張りなこと言ってて笑うんよ
- 111二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 08:17:00
もしかしなくてもシンボリの人達の脳は焼け野原
- 112◆8ucyADYXiE24/04/20(土) 11:06:22
*
やってしまった。そう思った時、アタシはレースに参加することなく牧場へと帰ってきていた。
今朝から激しく痛む脚をなんとか誤魔化しきれたと思ったいたのだけど、背中のヒトミミはそんなアタシに誤魔化されてくれなかった。
脚を触られ、痛みに悲鳴を上げればすぐさま乗り物に乗せられて、なんか色んな見慣れないことをされて精神的にひどく疲れてしまった。
そうしてアタシは、骨が折れる寸前だと言われて。
目の前が、真っ黒になった。
アタシ、まだ4つしかG I勝ってない。
父の7勝までまだ3つもあるのに、ここでアタシは終わりなの?まだ、ウオッカ達とも決着をつけていないのに。
このまま引退の可能性しかないの?アタシは牝だもの、ヒトミミはそう判断してもおかしくはない。
だけど。
「レグ、辛いだろうけど頑張ろう」
ファンもお前が帰ってくるのを待っているから。
目の前のたくさんのプレゼントに、アタシは涙を堪えきれなかった。
決して大衆受けする気性でないことは自覚している。父のような比類なき強さでもない。負けるとヤジを飛ばしてくるヒトミミだって大勢いる。
だけど、こんなふうにアタシを応援してくれるヒトミミ達がいる。
《……待ってて。きっと、帰るから》
次会う時はアタシの走りで、あなたたちに感謝を告げたいな。 - 113二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 11:33:58
すごい…すごく面白いです!
あの…とても!とても面白くて好きです! - 114二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 15:47:21
文豪がいる
- 115二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 19:28:08
保守
- 116◆8ucyADYXiE24/04/20(土) 20:42:03
(感想・保守ありがとうございます。飛び上がって喜んでます)
*
《い、生きてるーーー!!?!?》
《勝手に殺すなドチビ》
厩舎に到着するなりヒトミミを振り払ってこちらまで全力疾走してくるチビ助に蹴りを1発。
病み上がりのくせに何してんだ馬鹿!とキレながら泣く器用なことをするジャーニーに、こいつ他馬を心配する心あったんだと感心してしまう。
……本当に長くて辛い日々だった。
アタシ達の種族は動かないと生きれないのに動くと折れかけた脚は痛むし、なんか痛い尖ったやつはいっぱい刺されるし。痛くてろくに眠れない時だってあった。なんであの時のアタシ、普通に走れていたんだろうって思っちゃうくらい。
治ったら治ったで、落ちた筋肉や鈍ったレース感覚を取り戻すための調教。思っていた以上に走れなくなってて笑っちゃった。
《だって、だって、⚫︎けぞえが“もう戻ってこないかも”って言ってたしぃ……!!!》
《それは、……ごめんなさい、心配かけたわね》
相変わらずのチビ助に安堵しつつも、アタシだって戻ってこられないと半ば覚悟していた分、なんかが込み上げてきて泣いてしまった。
アタシ達の言葉が分からないヒトミミの目には顔を突き合わせてぼろぼろ泣く馬が2頭というわけのわからない光景に見えているのだろうけれど、どうか許してほしい。
《大丈夫。アタシ、もう無理はしないから》
《……次やろうとしたらお前と子作りするからな……》
ちょっとそれは。あんたのキャリアにも傷がつくからやめてほしい。
だけど、それほど心配させてしまったということだろうということもわかっているから。
《肝に銘じておくわ》
さぁ、夢の続きを見せに行きましょう。 - 117二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 21:11:12
- 118二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:23:59
ドリジャ「コイツとヤるんなら台を使ってやってもいい」
くらいにはふっとい矢印向いてる - 119◆8ucyADYXiE24/04/21(日) 01:49:19
*
━━よくぞ帰ってきてくれました!シンボリレグナント、堂々の入場です!
よく晴れた絶好のレース日和。
その日の阪神競馬場には、大勢の競馬ファンがひしめき合っていた。
名を呼ばれた瞬間、お帰りなさい。待っていたぞ。暖かい声と拍手が響き渡る。
昨年故障により戦線離脱し、あわや引退説まで囁かれた2007年牝馬三冠馬シンボリレグナントが、このレースより復帰したのだ。
4歳シーズンをほぼ棒に振ってしまった彼女であったが、実に10ヶ月ぶりに阪神競馬場に現れたその姿は、故障離脱前よりも厚みが出て逞しくなっていた。
「……もう、僕は君に乗れないと絶望していた」
暖かな声援の中、O部はその目に涙を滲ませながら、シンボリレグナントの首筋を撫でる。
━━あの日。彼女の故障が発覚した日から、O部はルドルフの下へ謝罪に行く日々であった。
大切な相棒の大切な娘の不調に気付けず、あとほんの少しで命すら失われていたかもしれない。せっかくルドルフが僕を信じて預けてくれたのに、僕は彼女を死に追いやりかけていた。
謝るO部にルドルフは「俺の娘はそんなことで折れるほどヤワじゃない。そんなことより娘についてやれ」と言わんばかりに噛みつき。なんとか無様を晒しつつ、遂にこの日を迎えることができた。
「また君と。夢を見れることを光栄に思うよ」
復帰したとはいえ、今後彼女がレースに勝てるかと言われると厳しいかもしれない。もしかしたら、一度も勝てずに引退となるかもしれない。
だけど。シンボリレグナントの全兄は、奇跡を見せた。復活してみせた。
ならば、やることはひとつだけ。
「行けるところまで、君と。共に歩んで行こう」 - 120二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 08:50:35
保守あげ!
- 121二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 09:32:37
保守
- 122◆8ucyADYXiE24/04/21(日) 15:20:28
(今日もしかしたら更新できないかもしれないです…
本当に申し訳ない) - 123二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 20:31:43
- 124◆8ucyADYXiE24/04/21(日) 20:32:34
*
G I馬が7頭も揃うというGⅡとは思えないほど豪華な競演となった、2009年産経大阪杯(GⅡ、当時のグレード)。
この13頭立てのレースを制したのは、3番人気のドリームジャーニー。断然1番人気のディープスカイとの叩き合いをハナ差で制し、珍しく前目に付け2頭の隙を伺いつつも追い縋る4番人気シンボリレグナントの猛進を振り切り、重賞5勝目を挙げた。
復帰戦となったシンボリレグナントは、ドリームジャーニーの武器である豪脚の前になすすべなく、必死に追い上げるもディープスカイにアタマ差の3着。
しかし復帰戦としてはかなり良い内容のレースであった、とO部氏は振り返る。
「変なタイミングで息を入れてしまう癖も抜けて、馬体も故障前よりうんと良くなった。勝つに越したことはないけれど、初戦であまり無理はさせたくはなかったですから。最悪回って来ればいい、くらいの気持ちでいたんですが、レグナントの方が久しぶりのレースにはしゃいでいたようで……」
それとも、親友を通り越して“恋人”とまで称されるほど仲の良かったドリームジャーニーと走れることに喜びすぎたのか。
(もうあまりにも見慣れてしまった)盛大な出遅れ。しかしそこからO部氏が抑えるのも無視して中段前目……ちょうどドリームジャーニーの真後ろにつける形でレースを進めることとなってしまった。
「いつもと違う展開になってしまって焦ったけれど、持久力を測るチャンスだとも思ったんです。まぁ、最後はスパートを掛けるのが少し遅くて届かなかったんですけれど……」
しかし、約10か月も故障離脱した上での復帰初戦3着はむしろかなりの上出来ではないかと思う。
「次はヴィクトリアマイルと安田記念を睨んで、安田記念に決めました。両方出るという意見もありましたが、復帰したてのレグナントに無理はさせたくないと……」 - 125◆8ucyADYXiE24/04/21(日) 20:51:50
(なんか投稿できそうなので行けるとこまで書きます)
*
《あんた、意外と強かったの……》
《……これでも走りにはプライドがあるんでね》
復帰して最初のレースは、こいつに負けた。
強かった。アタシより小さな脚から繰り出されるパワーに、アタシは完敗した。
結果は3着で、怪我明けにしてはとても良いレースだったとは言われたけれど、レース中はテンション上がっちゃっていつもと違うことしちゃったし、無駄に体力消費しちゃったし。反省点も多くあった。2着のあいつ、なんかダイワスカーレットと同じ匂いがするのだけど、身内かしら。
そうそう。ダイワスカーレット。あの子もう引退しちゃったんだって。最後に戦ったのいつかしら、もう遠い昔のように感じる。
だからこそ、次のレースには絶対に出たい。
だって、ウオッカも走るんだから。
せめてウオッカとは決着をつけたい。だから……
《あんま気を張るなっての。せっかく綺麗な顔してんのに勿体ねェ》
《……あんたいつから他馬を口説くようになったのよ》
《祖父の血。つか俺がこんなこと言うのお前だけだし》
ちょっとやめてちょうだい。恥ずかしくて仕方ないじゃないの。 - 126二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 00:00:17
相変わらずの文章力…
ところでリアルにシンボリレグナントがいたら繁殖どうなるんだろ
サンデーキンカメフリーってアドバンテージだと思うんだが - 127◆8ucyADYXiE24/04/22(月) 08:57:20
*
安田記念。シンボリレグナントにとってはウオッカに3度目の敗北を喫することとなった、因縁のあるレース。
「このレースで、ウオッカに勝つ。それが当面の目標でした」
ウオッカは当然連覇を狙い、出走予定だ。……もう一方のライバルであったダイワスカーレットは引退しており、再戦叶わぬ夢となってしまった。
だからこそ、ウオッカとは。是が非でもぶつかり合い、勝ちを取りに行きたい。
故障明けではあるが、体づくりを一からやり直し、弱点を克服する調教も成功した。やれるだけのことはすべてやった。
「天皇賞・春も想定していたんですけど、この一年は得意距離に専念しようかな、と。多分凱旋門賞は状況次第ですかね。とにかく牝馬三冠とドバイにプラスしてG I勝ちを増やしたいってところです」
当時、シンボリレグナントはマイル〜中距離馬と見られていた。ここから一年かけて距離を伸ばし、長距離適正を見ていく予定だったと当時のシンボリ牧場場長は語る。
まずは安田記念、最終目標は年末の有馬記念。シンボリレグナントの、新たな挑戦。
「こう言ってはなんですが、あの故障が結果的には良い方向に進んでくれた、ということかな、って。いや故障はしないに限るんですけれど……」
*
今度走るレースは、ウオッカも走るらしい。
このアタシが3回も負けた相手。オスどもを相手にダービーを勝ち上げたあいつ。秋のレースでダイワスカーレットと激戦を繰り広げたと聞いて、アタシもそこにいたかったと暴れたのは記憶に新しい。
《もう、あんたには負けないんだから》
連覇なんかさせてやらない。アタシにだって“三冠馬”としてのプライドというものがあるの。
父に追いつき、父の戦績を超えるには、ここで絶対に勝ちたい。
《待っていなさいな》
そのレースで、アタシはもっともっと強くなってみせるから。 - 128◆8ucyADYXiE24/04/22(月) 14:01:01
本日も21時頃の投稿予定です
- 129二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:11:35
保守
- 130二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:27:12
今日はない感じですかね?
保守 - 131◆8ucyADYXiE24/04/22(月) 23:33:19
(仕事でした遅くなってすみません)
*
2009年安田記念。
この年の安田記念は、かの“桜の女王”の復活を讃える8万のコール。連覇を狙った“ダービー牝馬”の敗北に悲鳴が上がるレースとなった。
連覇がかかるウオッカの最大のライバルと目されたのは、ディープスカイ。
勝ち馬のことは頭に無かったと話すのは。
「残りの距離がどんなに短くても大丈夫。前が開けば必ず勝てる。そう確信していました。……認めます。シンボリレグナントを舐めていました」
当時ウオッカの鞍上であったT騎手はそう回想する。
この当時、ウオッカがレースをすることができたのは残り200メートルから。絶好のスタートを切ったものの前を塞がれてしまい、何度も進路を取り直したものの、一向にスペースが開くどころか横一列になってしまった馬群の前に、なす術は無かった。
「狙った位置からはずれるし、本当にヘタクソな乗り方をしてしまった。ウオッカには申し訳ないことをしてしまいました」
並の馬なら諦めているだろう展開で、観客の悲鳴や怒号も飛び交う中、ウオッカは諦めなかった。
残り200メートルで外に出て、僅かな隙間を突いて2頭の馬に接触しながら突破。その先には4馬身前の先頭にいたディープスカイの真後ろ。
さらに横に移動し、残り100メートル地点で追い上げを開始。遂にディープスカイを捉え、そのまま先頭で入線……することができれば、前代未聞の大偉業であったのだが。 - 132◆8ucyADYXiE24/04/22(月) 23:34:14
「理不尽というのはこのことなんだろうな、って思いました」
少しレースを巻き戻す。
シンボリレグナントはこのレースは7番人気。
三冠牝馬ではあるが大怪我による長期離脱と、ウオッカには3度敗北していたこと、他にも有力な馬がいたことでの人気分散であった。
いつも通り後方から馬群を追走する形でレースを進めつつ力を温存。
「後でレースを見返しましたけれど、200くらいまで後方にいたはずなんですよシンボリレグナントは。ウオッカ以上にまともなレースができなかったはずなのに、なんでそこからウオッカを差し切れたんでしょうかね……」
競り合っていたカンパニーを振り切り、横一列に並んでいた馬群をスーパーホーネットに接触しつつ突破。
“シンボリレグナントが飛んでいる!”と実況に評された豪脚で前方との距離を詰めていき、残り20メートル辺りでウオッカを捉え、4分の1馬身差をつけて先頭で入線。
故障離脱から10ヶ月。シンボリレグナントはGⅠ・5勝目(うち海外1)を挙げた。
完全復活を果たした、圧巻の、見事な勝ち方であった。
「ウオッカは本当に頑張ってくれました。あんな酷いレースだったのに、最後までよく諦めないでいてくれました。……勝ちたかった。勝たせてやりたかったなぁ……」
本当に悔しかったです。
T氏は珍しく顔に悔しさを滲ませながら、そう回想を結んだ。 - 133二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:43:31
O部さん最年長G1勝利騎手記録更新しまくってるなぁ…
- 134二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 00:37:29
保守
- 135二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 00:58:13
巷で女王や姫って呼ばれてたのが段々と殿下になってそう
- 136二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 08:59:18
保守
- 137◆8ucyADYXiE24/04/23(火) 10:00:44
本日も21時〜から更新したいと思います。
保守・感想いつもありがとうございます - 138二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 17:38:40
楽しみにしてます
- 139二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 19:53:20
保守
- 140◆8ucyADYXiE24/04/23(火) 21:27:08
*
《い、生きてるーーーー!??!!!》
《えっなんかすごく既視感あるわってウオッカ止まりなさいこっちくんな!!!》
レースに勝った瞬間、牡共を蹴散らしながら全力ダッシュしてくる馬鹿にタックルされる。なんとか踏ん張れたものの、アタシ一応脚の怪我で長期離脱していたってこと忘れてないかしらこの子?
《だ、だってお前全然見かけないしっ、ドリジャがもしかしたら死んだかもとかいうからよぉ……!!スカーレットも心配していたぜ?お前と再戦するまでは引退できないって頑張ってて……!!》
《だ、大丈夫……?》
《今日だってすっげー悔しいけどお前が勝ったからノーカン!!おめでとう!!!》
アタシの首に顔を擦り付けながらシャワーみたいに涙を流すウオッカに、またもや既視感を感じつつも、ああこの子も心配してくれていたんだ、とぼんやりと思う。
この子、アタシのことちゃんと覚えていてくれたんだ。ドバイであれだけ懐かれていたけれど、慣れぬ異国の地で見知った顔がいないからだと思ってた。アタシあんまり他の馬に好かれてないし。
《いやいや、お前モテてるんだぞ?圧が強すぎて遠巻きにされてるだけだって》
《ええ……》
そのままぴったりと寄り添ってくるウオッカの言葉には首を傾げてしまう。
今でもアタシが顔を向けるとサッと目を逸らすのに?まぁ将来的な商売道具見せつけられても困るのだけど。まだ母親になる予定は無い。
《またこれからも一緒に走れるんだよな!今度は最後までよろしくな》
《……ええ。引退してしまったあの子の分まで、盛大に暴れてやりましょう》
次はちょっと長めのレースだと聞いている。ジャーニーも参戦予定だとか。ふふ。すっごく楽しみ。
《あっでも次、俺出ないかもしれない》
《 は ? 》
よし、久方ぶりに暴れるとしますか。 - 141◆8ucyADYXiE24/04/23(火) 22:04:31
*
故障から10ヶ月。最後の勝ちであるドバイデューティーフリーから15ヶ月。
シンボリレグナント、1年と3ヶ月ぶりの勝利であった。
衰え説もウオッカに勝てない説も全て覆し、鞍上・O部氏にも最年長GⅠ勝利をプレゼント。
見事な復活Vに、故郷であるシンボリ牧場はお祭り騒ぎであったという。
この勝利で劇的な復活を見せたこともあり、宝塚記念ファン投票ではウオッカに次ぐ2位を獲得。予定通り、次走を宝塚記念とした。
シンボリレグナント参戦を受け、当初は見送りを決めていたウオッカはそれを撤回し参戦を決定。また同厩舎であるドリームジャーニー、リベンジを誓うディープスカイらも参戦。
またしてもGⅠ馬が複数集う、混沌としたレースになろうとしていた。
「この辺りから牝馬限定戦より混合戦に絞っていました。牝馬の中でトップクラスなのは最早わかり切ったことですから。マイルは勝ったので、あとは中距離・長距離を走ろうか、と。馬格の成長で、距離延長もいけるだろうと踏んでの判断です」
直前の追い切りはドリームジャーニーと。
というよりドリームジャーニー以外とは差が開きすぎ、またシンボリレグナントが手を抜いてしまうので調教にならないと判断され、ほぼ固定していると語る。
「正直、どちらが勝ってもおかしくないです。当日が本当に楽しみですよ」
また、主戦騎手・O部氏も意気込んでいた。
「もうね、彼女に乗る毎に新しい発見や教えてもらうことがあって、本当に楽しいんです。レグナントのおかげで、他の子に乗っても負担をかけることが減って。全て彼女のおかげです。だからこそ、勝てるならどのレースにも。それが“恩返し”というものでしょう?」
GⅠ勝利で一皮剥け、より高みに昇ったシンボリレグナント。
だが次走では、同厩舎の“夢”に阻まれることとなる…… - 142二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 23:26:37
皇帝も宝塚の縁なかったし、娘もやっぱり宝塚は
鬼門だな… - 143二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 06:35:29
安田宝塚連戦って、今基準で考えると結構負担大きそうだよなあ
- 144二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 15:20:17
ほしゅ
- 145◆8ucyADYXiE24/04/24(水) 19:45:02
本日の更新は22時〜頃を予定しています
- 146◆8ucyADYXiE24/04/24(水) 23:59:44
*
ふと、思い出したことがある。
アタシの父は宝塚記念というレースを勝つことができなかったらしい。正しくは怪我をしてしまい直前で出走そのものが叶わなくなったとか。どれほど無念だったのか、今のアタシには痛いほどわかる。
アタシの背中の人は、だからこそこのレースを勝ちたいのだと言っていた。父の娘であるアタシと、何が何でも。
だから。
《いい加減下がりなさいよドチビ!!そこはアタシの座る場所よ!!》
《うっせぇなテメェが下がれゴリラ!!こっちだって勝ちに来てんだよ!!》
《お前ら走りながら喧嘩すんなよなー……》
なんかアタシがファン投票とやらで一番だったらしいこのレース。本当にアタシにファンがいるのか、今でも半信半疑なのだけれど。
そうして出たレースにはジャーニーとウオッカもいてご満悦。他の子は前回のレースで見かけた子がちらほら。なんか遠巻きにされているのには最早慣れた。
《こっちだって譲れないのよ!!ああもうその小さな体のどこにそんなスタミナがあんのよー!!》
《親父の血だな!お前はもう5つも勝ってんだから十分すぎるだろ俺に譲れ!!》
《ここに俺もいるぞー!!》
いつも通りレースを始めて、ジャーニーの背後を陣取りつつ《尻小さいなぁ》と思っていたらあっという間に加速し始めて、ちょっとぶつかりながらも慌てて追いかけたらウオッカともども3頭横並びで先頭を大激走。外野の声も後ろからの同族達の足音や声も煩いけれど、こちらは真剣にはしっているんだから。
ウオッカはわかるのだけど、ジャーニーがなんでその体でここまで走れるのか本当に疑問。脚の回転?がアタシ達より速いのはわかるけれど……ってもうゴール前じゃない!!
《まけない、っんだから!!!》
アタシ達はほぼ横並びでレースを終えた。お疲れ様、と背中の人に首筋を撫でられる。
僅差すぎてまだ誰が勝ったかわからない。だけど、手応えはあった。少なくとも、ウオッカには勝ってる自信がある。
《とりあえず、あんた達アタシに引っ付くのやめなさいよ……》
暑苦しくて仕方ないわ。 - 147◆8ucyADYXiE24/04/25(木) 00:14:32
*
━━宝塚記念は惜しくも2着でしたね。
「はい。本当に、心底悔しかったですよ。僕もレグナントも手応えがあって、勝てたと思っていたんですがね。……ドリームジャーニーとI添くんが一枚上手でした」
2008年天皇賞・秋を彷彿させる大接戦。2009年宝塚記念は、ドリームジャーニーがハナ差で勝利という形で幕を閉じた。
シンボリレグナントは2着。3着ウオッカともハナ差という、近年でも類に見ない接戦であった。
「でも、出れずに終わるよりはずっといい結果でした。長年僕の中に燻っていた感情が、レグナントによって昇華されていったんです」
父シンボリルドルフは直前になって跛行で回避している。
O部氏は「あの時走っていれば」という思いをずっと抱いていたと語る。
故障による回避なので仕方ない、とは思いつつも、それでもシンボリルドルフが宝塚記念に出ていれば、どんなパフォーマンスを見せてくれただろうか、と。
「レグナントは、僕が見たかった夢を見せてくれる子なんです。何度でも言います。彼女に会えて、主戦になれて、本当によかった」
きっと、シンボリレグナントは競馬の神がO部氏に渡した最後の贈り物なのだろう。
この後のことを考えると、筆者はそうとしか思えないのだ。 - 148二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 08:22:33
保守
- 149二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 10:36:38
ドリジャとの子がGⅠ勝ったら笑う
- 150二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 15:43:00
ドリジャと仲良いし、子どもは作りそう
関係者的には「ドリジャが婿入り」なのか「レグナントが嫁入り」なのかは分からないけど - 151◆8ucyADYXiE24/04/25(木) 21:05:04
*
━━秋のレースも、かなりの大盛り上がりでした。一番印象に残っているレースはありますか?
「うーん……。敢えて選ぶのなら、やっぱりジャパンカップかな。秋天や有馬記念も良い内容だったよ。全てが良いレースだったから、どれが、とは言い切れないですね」
シンボリレグナントが秋に走ったのは4戦。毎日王冠、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念。
脚を故障し復帰したばかりの彼女には多すぎるのではないか、と批判も起きたが。しっかりと結果を叩き出したことで鎮火している。
夏は例年通り放牧に出て、秋初戦に毎日王冠を選択。
逃げるウオッカをマークするように動くカンパニーの背を追う形でレースを進め、逃げ粘るウオッカとカンパニーをゴール前で交わし、クビ差で勝利を上げた。
その勢いで出走した天皇賞・秋だが、直線で交わしたはずのカンパニーに再び差し返されて勝利ならず。
3戦目のジャパンカップでは、ウオッカ・オウケンブルースリとの叩き合い勝負となり、並んだところで決勝線となったため写真判定。結果、ウオッカと同着勝利となり、これでGⅠ・6勝目。ウオッカともども史上初の日本調教牝馬によるジャパンカップ制覇の栄誉を得た。
2009年締めくくりとなった有馬記念は、ドリームジャーニーともどもハイペースの中を後方待機する形でレースを進めていたが、直線でブエナビスタを交わした後わずかに前に出ていたドリームジャーニーを捉え切ることができず、“親友”の春秋グランプリ制覇を見届ける形となってしまう2着に終わった。
「ドリームジャーニーに負けたのが一番悔しかったみたいでね、レース後に寄ってきた彼にすごい形相で威嚇していましたね……」
(当時のパトロールビデオに、嬉しそうに駆け寄ってくるドリームジャーニーを馬とは思えぬ咆哮で威嚇し、その後必死にご機嫌取りをされているシンボリレグナントの姿が残っている)
「でも、国内専念したこともあって、十二分に戦績を積むことが出来ました。だからこそ、2010年はもう一度海外に、凱旋門賞に挑もうと話し合ったのです」
シンボリの者達が、O部氏が望んで、挑む前に夢破れた栄光を掴みに行こう。
「走らない後悔より走った後悔。僕はずっと、ずっと後悔して、心残りだったんです。だけど、最後の最後になって、チャンスが転がり込んできた。なら、やるべきことはやるべきだと思ったんです」 - 152◆8ucyADYXiE24/04/25(木) 21:11:19
(1スレで収めたいので2009年秋シーズンまるまる泣く泣くカットしました……
文章まとめる能力が低下してて泣きそう) - 153二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:08:11
保守
- 154◆8ucyADYXiE24/04/26(金) 07:33:37
本日も21〜ごろを予定しております
よろしくお願いします - 155二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 13:54:17
これは海外遠征コースか?
- 156◆arz0EZC99224/04/26(金) 21:31:52
*
2010年。シンボリレグナントは6歳のシーズンを迎えた。
「GⅠは6つ勝っている。せめてあとひとつ。それが凱旋門賞なら、これ以上の幸福は無い。そうシンボリがO部さんともども一丸となって動いた一年でした」
偉大なる父に追いつき、追い越すために。あの当時シンボリルドルフが成し遂げられなかった、挑むことすら叶わなかった“もしも”を、今この手に。
牝馬で6歳ということもあり、繁殖入りをしてその血を繋ぐという面でも、この年が最初で最後のチャンス。
そうして2戦ほど国内で走り、間に合えば6月末のサンクルー大賞、遅くても7月末に開催されるキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(以降キングジョージと呼称)からフォワ賞を経由して凱旋門賞へ挑むというプランが組み立てられた。
「その後国内レースを走るかは、その時にならないとわかりません。まずは凱旋門賞。そこが最大の目標ですから」
シンボリレグナントのローテーションが発表された時、6歳という年齢と牝馬という性別。すでにGⅠを6つも勝っている実績もあるにも関わらずまだ走らせるのか。馬柱を汚すのか。もし何かあったらどうするのか。非難の声の方が大きいと感じたと語る。
「もちろん、こちらとしてはそう言われることは重々承知していました。だけど、夢を見れて、そのチャンスがあるなら挑戦したいと思うのは至極当然のことだと思っています。レグナントの父に、シンボリルドルフに、お前の娘は最高なんだと、良い知らせを届けたかったんです」
この当時、シンボリルドルフは29歳。サラブレッドとしてはかなりの高齢馬であった。
とても29とは思えぬ若々しい姿であったものの、年齢を鑑みればいつ“迎え”が来てもおかしくはない。
だからこそ、の想いであった。
「その後の戦績を見ても、この時の決断は間違っていなかった。そうだと思いませんか?」
取材に応じてくれたシンボリ牧場の関係者は、子供っぽく笑いながら、そう我々に語りかけた。 - 157二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 22:57:48
レグナントは遂に曽祖父が走った舞台に挑戦か…
- 158◆8ucyADYXiE24/04/26(金) 23:27:46
なんかトリップ間違えてる……ごめんなさい
謎にホスト規制巻き込まれてWi-Fi使えない……
*
《は?海外?ドバイじゃなくてか?》
《ええ。ヨーロッパのレースを中心に走るんですって》
《……なら、もう日本では走らないのか?俺、お前と走れなくなるのか……??》
《闇堕ちしないの。少なくとも2戦は日本で走るわよ。どのタイミングで行くかはアタシ次第になるって聞いたわ》
《ならよかったわ!これで今世のお別れだったら⚫︎けぞえに八つ当たりしてたところだったわ》
《……あんた、相変わらず背中のひとに対する扱いが雑ね……》
だってあいつ、俺にそう扱われると嬉しそうにする変人だし。
あっけらかんと言い切るジャーニーに半ば呆れるものの、確かにあのヒトミミはジャーニーのやることなすことをニコニコしながら見ている変人だったわと思い出す。
アタシが言えたことじゃないけれど、ジャーニーってチビ助のくせにボスだし。気性難だし。父親の影響からかマイルールが存在してて、それを捻じ曲げられるのが何よりも嫌いで。(でもアタシだけは邪魔しても怒られないの。不思議)
Oべさん?あのヒトミミさんも大抵変わってる方だから……
《とりあえずあんたと同じレースを走って、でもGⅠは走らない。5月あたりでアタシの体調が良ければ海外ですって》
《ふーん。俺はよくわからんが、怪我だけはすんなよ》
《大丈夫。もう無茶はしないから》
《……お前の大丈夫はアテにならねェんだよなぁ》
ジト目で睨まれ、アタシはそっと目を逸らす。
し、仕方なかったのよあの時は。アタシもなりふり構っていられなかっただけなの。もう本当に無理はしないから。
《負けんなよ。俺が認めたメスなんだから胸を張れ》
《……ありがとう。でもまずは目先のレースからね》
これから先は未知の世界。
だけど、すごく楽しみにしているアタシがいた。 - 159◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 01:58:41
(ただいまスレ主のIPが規制対象となっており、接続が不安定です。指定時間に投稿出来ない可能性がありますので、その時は保守をお願いします)
- 160二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 07:47:30
保守!
- 161◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 08:15:20
*
「6月まで走らないというのもひとつの手ではあったけれど、僕としてはある程度走っておきたくて。でもドバイやサウジは考えていなかった。かと言ってGⅠを走ってレグナントに負担をかけたくもなかった。だから……」
━━だから京都記念と産経大阪杯を使ったんですね。
「はい。2つとも最高のレースでまとめてくれました。これなら不安無しとしてサンクルー大賞に出そうか、とシンボリの方々と協議決定しましたね」
特に2月20日の京都記念は、前年二冠牝馬であり有馬記念でシンボリレグナントの3着に終わったブエナビスタがリベンジに燃え、鞍上Y山騎手の腹を括った渾身の騎乗に翻弄されかけたものの、スローペースを無視して早めのスパートをかけて直線に入る前に追い抜き、そのままオウケンブルースリやドリームジャーニーらが追い上げてくる中を5馬身もちぎり捨てて勝利を上げている。
続いて産経大阪杯は親友ドリームジャーニーに1番人気は譲ったものの、仲良くスタートで出遅れ後方からレースを進め、そのまま4コーナー辺りで揃って捲り気味に進出。大外から叩き合い、テイエムアンコールの好意からの追走をものともせず叩き合いを制して勝利した。
「歳をとって、というと女性であるレグナントには失礼かもしれないけれど、年齢を重ねてルドルフに貫禄が似てきて。レースも行儀良く運ぶことが出来てきて、これならチャンスがあるかも、と腹の底から歓喜が滲み出てくるのを止められませんでした」
当時の反応を探ってみても、やはり親子。牝馬であるのにそのどっしりと構える姿は、かの皇帝に瓜二つ。
不思議と安心感を得ることができる風格であった。 - 162◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 08:31:30
「残念なこと、と言えばウオッカが引退してしまったことですね。ジャパンカップが最後の戦いになってしまって……」
ウオッカもまた6歳シーズンを走っていたが、ドバイマクトゥームチャレンジにて鼻出血を発症。これが2回目であったこともあり、予定していたドバイワールドカップをも断念し、3月終わりに正式に登録抹消。引退となっていた。
「ただ、ダイワスカーレットの時とは違って、不完全燃焼ではなかったのが救いです。“次は互いの子で決着をつけましょう”。そう約束しましたから」
━━だから、シンボリレグナントには憎たらしいほど強い、酷いほど強いまま引退してほしい。その方が、倒し甲斐がありそうなので……。
「世界が相手で、しかも凱旋門賞は最高で2着。だけど、不安は無かった。だって、シンボリレグナントは“夢を叶える”子でしたから」
かつて曽祖父が初めて日本調教馬として挑み、父は出走することも叶わず、同郷の“星”は踊る勇者に翻弄され。
それ以外にも自信を持って送り出された名馬達が、なお重すぎる凱旋門の扉に阻まれ、涙を呑んできた頂へ。
シンボリレグナント。桜の君臨者の挑戦が、始まった。 - 163二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 13:18:37
保守ついでに6歳産経大阪杯までの成績
2006
新馬戦(負け:順位不明)
未勝利戦(1着)
東京スポーツ杯2歳<GⅢ(当時)>(1着)
2007
シンザン記念<GⅢ>(1着)
チューリップ賞<GⅢ(当時)>(2着)
桜花賞<GⅠ>(1着)
優駿牝馬<GⅠ>(1着)
秋華賞<GⅠ>(1着)
2008
ドバイデューティーフリー(当時)<GⅠ>(1着)
安田記念<GⅠ>(競走除外)
2009
産経大阪杯<GⅡ(当時)>(3着)
安田記念<GⅠ>(1着)
宝塚記念<GⅠ>(2着)
毎日王冠<GⅡ>(1着)
天皇賞・秋<GⅠ>(負け:順位不明)描写的に2着あたり?
ジャパンカップ<GⅠ>(1着)ウオッカと同着
有馬記念<GⅠ>(2着)
2010
京都記念<GⅡ>(1着)
産経大阪杯<GⅡ(当時)>(1着)
18戦12勝(うちGⅠ6勝)
- 164◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 18:26:02
*
サンクルー大賞は、フランス・サンクルー競馬場で開催される芝2400のレースである。
フランス競馬における上半期総決算に位置付けられており、フランス版宝塚記念と言えば、なんとなくその立ち位置がわかるかと思う。
かつてエルコンドルパサーが勝利しており、歴代優勝馬には日本でも馴染みある優駿が見れる。
「レグナントも最初こそは洋芝に苦戦して、ちょっと走らせただけでも疲労困憊だったんです。でもすぐに順応して、むしろ日本で走るより伸びやかに、楽しそうに走るようになりまして。調教タイムも馬鹿みたいによくて、これはあり得るぞ、って期待に胸が膨らみましたね」
しかし、サンクルー競馬場は芝の丈も長く、また起伏に富んだコースが特徴。牝馬なので斤量面での負担はそこまででないものの、やはり環境がガラリと違うこのレースを無事に走り切れるのか。という不安もあったと語る。
「結果としては想像以上で。あの日のシンボリレグナントは、世界一の優駿でしたから」
*
「もう、来ることはないだろうと思っていたのだけど……」
久しぶり、フランスよ。
O部はゲートインまでの間、レグナントの首筋を優しく撫でながら空を見上げた。
タイキシャトルのジャック・ル・マルワ賞以来だろう。あの当時ですら騎手としては高齢で、もうこんなチャンスは訪れないだろうと確信していたのだが。
「まさかルドルフの子で、海外遠征に行けるとは。あの当時の僕に言っても信じないだろうなぁ」
なんなら今の自分ですら夢心地である。
彼女に、シンボリレグナントに出会ってから6年ほど経っているが。まさか騎手人生の最期になって、このような優駿に出会い、学ばされ、歓喜と絶望と夢を同時に味わうことになるとは。 - 165◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 18:44:12
《おかべさん?どうかしたの?》
「……なんでもないよ。少し、昔を思い出していただけ」
ふうん。シンボリレグナントは馬場を確かめるように踏みしめながら、これから戦うこととなる欧州の優駿達を睨め付けていた。
このレースのシンボリレグナントは3番人気。1番人気は同じく牝馬であったが、O部もシンボリレグナントも倒すべきは彼女ではないとわかっていた。
《大丈夫。アタシ達はいつものレースをすればいいだけよ》
「そうだね。ペースに惑わされず、いつも通りに。君ならきっとできるから」
《あら、おかべさんもよ?アタシとあなたで、勝利するの》
ゲートインの時間だ。レグナントのおかげで緊張も溶けた。
彼らが注意している、O・P騎乗のプルマニアが隣にいる。こちらにしきりに顔を寄せているが、シンボリレグナントは涼しい顔をして無視している。
「さぁ、行こう」
ゲートが開く。ああ、初めて出遅れずに良いスタートを切れた。
シンボリレグナントが、楽しそうに笑っている。
《Let’s dance, shall we!おかべさん!》
アタシの力、見せてあげるわ! - 166◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 19:03:42
*
アタシがしばらくいるここはフランスというらしい。
ドバイよりも芝が長いし地面の起伏はすごいしコースも綺麗な楕円じゃないしで最初はほんっっっとうに苦労した。
しかも踏み込んだら踏み込んだだけ脚が沈むから、ちょっと走っただけですごく疲れてしまった。なるほど、アタシの先輩達が敗北を喫してきた理由がよくわかるというもの。
だけど蹄鉄を変えてもらって、慣れてきたら日本よりも走りやすくて。体力も筋力もついてきて、これは楽しいぞって思ったの。ひとりぼっちで早くもジャーニーが恋しくなっていたけれど、これならジャーニー連れてきたかったわ。ここで走ればあのチビ助も成長するでしょう。
《日本出身だから、ってなによ!最初にゴールした奴が勝者なのよ!》
ゲートを初めてうまく出ることができて、でも予定通りアタシは後ろに下がる。やろうと思えば前でレースすることもできたけれど、レース前に現地の奴らに小馬鹿にされたので徹底的に叩き潰してやろうかと。
煽ってくる馬鹿を威嚇して引き下がらせ、ついでにここでスパートをかける。あらOべさん止めないで。アタシここからでも勝てるから、落ちないようにしがみついていなさいな。
《……ねぇ、知っているかしら?アタシ、とっても強いのよ》
残り1200くらい。これくらいなら大丈夫。
止めるOべさんの指示を無視して、アタシは外に出て加速。スピードは緩めない。驚愕の声を上げる彼らを横目に、先頭を走る目をつけていた、ゲートでアタシにちょっかいをかけてきた奴に並び、抜かす。
《はぁ!?おまえさっきまで後ろの方にいたよな!?》
《アタシ、後ろからのレースが得意なの。覚えておきなさい。そして、》
アタシが勝つところをそこで見ているといいわ。
驚いている牡の競り合おうと寄せてきたのを翻して、アタシはラストスパートをかける。
先頭には誰もいない。後ろから足音も聞こえない。ヒトミミの驚愕に上擦った声と、Oべさんの感嘆の声だけをBGMに、アタシはそのままゴールを通過した。
「C'est une sacrée participation!!!!」
現地の人がそう繰り返し叫ぶなか、アタシだけが笑っていた。
《ざまぁみろ!》 - 167◆8ucyADYXiE24/04/27(土) 19:05:30
(フランス語は一応「とんでもない大番狂せ」と言っています
ネット翻訳なので間違っていたらすみません) - 168二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 20:04:07
保守
- 169二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 22:00:00
保守
- 170◆8ucyADYXiE24/04/28(日) 00:35:29
- 171◆8ucyADYXiE24/04/28(日) 09:02:47
本日は夕方〜夜に更新予定です。
もう終盤。シンボリレグナントの物語も終わりに近づいてきました - 172二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 15:32:52
もう既に父を超えている娘
- 173二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 15:33:37
保守
- 174二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 23:38:03
これ次スレいってしまうか?
- 175◆8ucyADYXiE24/04/29(月) 02:13:18
*
「この時の僕、本当に何もしていないんです。レグナントがまた自分で考えて動いたんです。すごいでしょう?プルマニアだって3着馬と離れていたのに、そこから更に5馬身も離しているんですから!!」
興奮冷めやらぬO部氏の視線は変わらずパトロールビデオに縫い止められている。
本当に恐ろしさすら感じられるほどの末脚。追い込みである。そしてほぼ1000メートル以上先からのロングスパートによるスタミナ勝負。事前の、スタミナ切れやパワー不足などの指摘を見事に振り切った圧勝撃。
2着馬プルマニアの主戦騎手・P騎手を以ってして「2度と戦いたくない」と言わしめるだけある。
「でも、ここが終わりではなかったので。ある意味凱旋門賞でもレグナントらしい走りができると確信が持てて、本当に良かったです」
*
《お疲れかい、お嬢さん!》
《ふっざけんじゃないわよ!まだまだやれるんだから!》
《はは、可愛い顔が台無しだ!》
爽やかに笑うクソガキに怒りのボルテージが上がっていくのが分かるけれど、どうも1馬身が遠い。そこから距離を詰めることができない。
キングジョージというらしいこのレースは、前走ったところとはまた違う場所で行われている。知ってる?ここ、三角形のレース場なの。シンプルに走りにくいったらありゃしない。
だけどそこはアタシ。歳下のダービー馬2頭を直線で軽々と追い抜かし、さぁラストスパートだと思っていたら。
《レディ!僕と素敵なワルツを踊ろう》
なんか変なのが来た。そしてアタシを抜かして離されかけたので慌てて追いかけて。後続はもはやはるか後方。だけどゴールギリギリになってようやくアタシは半馬身を詰めることができて。
《あ゛ーーーーッッッッ!!!悔しい!!!》
そのまま変なのに負けてしまった。
なんか近寄ってきて話しかけられるけど無視! でも懲りない。殺気を出してもニコニコしている。
なんなのよコイツ本当にわからない。
ジャーニー助けて。 - 176二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 10:00:45
2010のKGってことはハービンジャーか
- 177二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 13:39:21
後々種牡馬として出会いそうだけどジャーニーに
比べてすごい淡泊に接しそう - 178二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:26:02
保守
- 179二次元好きの匿名さん24/04/29(月) 23:37:38
保守
- 180◆8ucyADYXiE24/04/30(火) 01:30:14
*
「そうそう。キングジョージはハービンジャーが強かった。最後の最後まで、あの半馬身がどうしても抜けなくて。サンクルーを勝ったから少し浮かれていたところで現実を突きつけられた気分でした」
とはいえ、レース内容そのものは悪くなく。
前レースのパフォーマンスでマークされてはいたが難なくかわし、おにぎりとも称される三角形のコースをうまく利用して加速。悲観するほどではないとO部氏含めた陣営は切り替えた。
その頃、日本国内ではシンボリレグナントの親友であるドリームジャーニーと同父のナカヤマフェスタが宝塚記念でG I初勝利。凱旋門賞出走を表明して世間を賑わせていた。
「来るなら来い、という気持ちでしたね。レグナントは帯同馬がいなかったので、初対面であれど同じ日本馬がいれば刺激になるかな、と……」
*
《誰よその金ピカ》
久方ぶりの日本!!!ああ2ヶ月ちょっとなのにもう懐かしい。
2戦を終えて1勝1敗。まぁまぁ良い戦績で終えたアタシは日本に帰ってきていた。
ちょっとだけ休んでから、凱旋門へ向けて再び向こうに行くのですって。
別にレースに出るわけでは無いけれど、友達に会えないのは寂しかろうとジャーニーに会わせてくれました。ヒトミミは素晴らしい存在です。
で、久しぶりのチビ助に顔が綻んで、隣にいる既に一回りほど大きな派手な毛並みの同族がこちらを睨んでいたわけだ。
歳下に舐められるのは腹立つので威嚇しまくったらジャーニーを盾にして震えてやんの。
《俺の弟。今年デビュー》
《……あらまぁ。なら悪いことしちゃったかしら。震えちゃってるし》
《気にすんな、力量も分からんのに喧嘩売ったコイツが悪い》
《……にいさぁん……》
ほら名乗れ、と無理やり押し出された彼の名はオルフェーヴルというらしい。響きが素敵だと褒めたらドヤ顔。自尊心が高めなのかしら。 - 181◆8ucyADYXiE24/04/30(火) 01:41:30
《さっきはごめんなさいね。アタシ達は上下関係厳しくやっているから》
《……俺が、悪いから。だいじょーぶです》
《……愚弟、そいつは俺のメスだから手ェ出すなよ》
《誰と誰が交わるのか決めるのは、ニンゲンだよ。兄さん》
《よぉしお前表出ろや》
聞いたらまだ2歳だったとかで。ちょっと大人気なかったわ。
ところで最後なんの会話していたのかしら。よくわからないまま喧嘩が始まってしまった。
アタシは兄弟ともあんまりというかほぼ関わったことがないので、仲良く喧嘩してるあの子達がちょっぴり羨ましい。
今更関わりたいとも思わないけれどね。Oべさんやヒトミミがたくさん構ってくれるし。
《レグ、帰ってきたってことはもうこっちで走るってことか?》
《いいえ。少し休んだらまた行くわ。下手したら冬まで会えないかも》
《……なら今のうちにお前を吸っておくか》
言うが早いか、アタシの首筋に顔を埋めて深呼吸をするジャーニー。これウオッカにもやられたのよねぇ……
オルフェーヴルくんはお断り。いくらジャーニーの弟だからって初対面の相手を懐に入れるほど寛容でもない。
せめてジャーニーと同じ数G I勝ってからなら検討するわ。
《そうしたら、俺ともやってくれますか?》
《ええ。二言は無いわ》
《……わかりました》
あら。なんだか笑顔が怖いわこの子。
まるで何か企んでいる時のジャーニーみたい。 - 182二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 09:12:06
やはりやばい兄弟だった
- 183◆8ucyADYXiE24/04/30(火) 18:55:31
*
8月が終わりに近づき、しかしまだ暑さが残る中。
シンボリレグナントはナカヤマフェスタと共にフランスへと渡った。
両馬共にローテーションは同じ。しかし、現地ではサンクルー大賞とキングジョージで派手な追い込みを見せたシンボリレグナントの方が評価が高かったと言う。
「ダンシングブレーヴみたいだ、って。恐れ多かったんですが、そう評価していただけているという嬉しさもありました」
ダンシングブレーヴは1986年の凱旋門賞を制した競走馬。日本で著名な産駒にキングヘイローやテイエムオーシャン。他にはコマンダーインチーフやホワイトマズルなどがいる。
後方からラスト1ハロン10.8の脚を使って豪快に差し切るだけでなく、1馬身弱を付けての勝利を飾り、141という最高峰のレーディングを与えられた名馬である。
「そう評価していただけた。なら、我々はその評価に相応しい勝ち方をしなければ。シンボリレグナントも、よく理解してくれていました」
その一方で、ナカヤマフェスタ陣営も何もしていなかった訳ではない。
シンボリレグナント側に頭を下げて併走を頼み、洋芝の走り方から蹄鉄までの全てにおいて打てる手を打っていっていた。
「僕らだって、フェスタだって勝ちに来たんです。勝算だってあると踏んでいます。だから、彼をどうか見ていてほしい」
まずは、前哨戦に当たるフォワ賞へ。
それぞれの夢を乗せた戦いが始まった。 - 184◆8ucyADYXiE24/04/30(火) 19:43:52
*
今レース中なのだけど、走ってる数が少なくて、今のところほぼ縦長の順通り。ちょっと退屈。これどこからスパート始めようかしら、と悩んで、視界に同じ日本から来た……ナカヤマフェスタ、が入る。ジャーニーを宝塚で負かしたオス。血縁関係でもあるらしい。
気性が荒いと聞いていたのだけど、話してみたらマイルール絶対遂行ホースなだけで割と神経質っぽいけど良い子だった。凱旋門は亡くなってしまった最初の馬主さんの夢だから勝ちたいのだと闘志を目に宿らせて。こういうタイプが好き。
《……さて。そろそろ始めますか》
現在彼は3番手。先頭の子と追い比べを始めようとしている。外はガラ空き。くっ、と一旦力を抜いてから、大地を蹴り上げてスピードを出す。あっという間に縮む距離。ヒトミミの歓声が聞こえる。ふふん。もっと褒めなさい。アタシという勝者を讃えなさい!
《Oべさんしがみついていなさいよ!》
斜行されかけたので更に外に出て、そのまま更にスパート。あいつ後でシメる。頑張って追い比べをしている2頭に追いつき、抜かす!
《はぁ!?》《えっいつの間にぃ!?》の声を後ろに更に加速!
抜かしてもスピードは落とさない。ぐんぐん離れていくアタシ以外の足音。風を切って大地を蹴って、この1人とアタシの旅がすごく大好き。
「……お疲れ様、レグナント」
レコード更新だって。背中のヒトが嬉しそうにアタシを撫でる。おめでとうって笑ってくれる。そして歓声。ほんと、病みつきになる。
フェスタくんは2着だったみたい。後ろからトコトコとこちらにやって来る。
《あんた、強いな。おめでとう》
《あら、ありがとう。あんたもなかなかいい脚してるじゃない。これが初戦だとは思えないわね》
《付きっきりで走り方を指導されたんでね。これで走れなかったら、あんたの顔に泥を塗ることになる》
《別に。アタシは気にしないのに……》
《俺が気にするんです。でも、次は勝つ》
ギロリと殺意すら見える闘気を向けられて。アタシは笑ってしまう。最後に笑うのはアタシだと決まっているんだから。
《受けて立つわよ》 - 185◆8ucyADYXiE24/04/30(火) 21:25:03
*
━━遂に来た。この場所まで。
O部は曇り空を見上げ、込み上げる感動に泣きそうになるのを堪える。
どれほど夢に見ただろうか。どれほど夢に見て、2度と叶わぬ夢であると突きつけられて涙に濡れただろうか。
まさか。この歳になって、かつての相棒の娘に乗って凱旋門賞に出ることが叶うとは。騎手をやめないでよかった。O部は初めてそう思った。
泣くにはまだ早い。この涙は、勝った時のために。
「日本からはナカヤマフェスタとヴィクトワールピサ……か」
ヴィクトワールピサもまた、凱旋門に挑む同志であると同時にライバルである。
当然、ある程度慣れてレースの勝ち負けが出来ているとはいえ、シンボリレグナントがすんなり勝てるとも思っていない。だが。
《強そうな子がいっぱーい!!》
この子は僕に夢を見せてくれた子だから。
諦めていた桜を届けてくれて、僕を支えてくれた子だから。
《ね、Oべさん!今日も勝ちましょうね!》
無邪気に笑うこの子が、凱旋門を開くところを見てみたいから。
「━━うん。僕も全力で君をサポートするから」
ルドルフよ。どうか娘に加護を。
見返りは凱旋門賞制覇で、どうだい? - 186二次元好きの匿名さん24/04/30(火) 23:18:09
こっちの世界だとナカヤマ、レグナント、そして
後のオルフェとかで凱旋門適正の頂点とか言われそう - 187◆8ucyADYXiE24/05/01(水) 00:12:50
あと3戦(ネタバレ)なんですけど、スレの残りからして中途半端なところで切れそう……
次スレ立てたいけど現在ホス規制中……(自宅Wi-Fiが規制対象)
なので明日次スレ立てて凱旋門からやりたいところです - 188◆8ucyADYXiE24/05/01(水) 08:50:27
また夜に立てます
- 189二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 17:47:52
わかりました
- 190◆8ucyADYXiE24/05/01(水) 19:47:52
*(おまけ。またの名をサイドストーリー)
(ミスパーフェクト→桜の君臨者への感情)
あいつが復帰したらしい。
このアタシを負かし続けたオンナ。憎いほど強くて、美しかったあいつ。そんなあいつが復帰して、更に強くなって。ウオッカ達と切磋琢磨しているとニンゲンから聞いて、悔しくて仕方なかった。
どうして。どうしてアタシはその場にいないのよ。
あいつとの決着はついていない。そう、“まだついていない”のに。
怪我をしたアタシが悪いのはわかっている。でも、あいつだって同じ条件だった。
なのにアタシは引退して、あいつは勝ちを積み重ねている。
《……わかってた、のにね》
アタシ達はニンゲンが決めたレースを走ることしかできないけれど、それでも怪我をしたと聞いた時は“また次がある”と楽観視していた。
まさか、アタシの方が怪我をして引退してしまうことになるなんて。
アタシ達は基本的に一期一会で、何度も顔を合わせることは珍しいのだとわかっていたのに。
《不完全燃焼、とはこのことを言うのかもね……》
アタシのお腹の中には子供がいる。アタシの血を引く我が子が。
━━出来うることなら、アタシ自身があいつに引導を渡したかった。アタシを支えてくれて、共に泣いてくれたニンゲンの為にも、あいつに勝ちたかった。
だけど。もうそれは叶わない。ならば、
《……早く引退しなさいよ、シンボリレグナント》
憎たらしいほど強くて、美しいあなたへ。
このアタシが認めたライバルのひとりへ。
《アタシの子が、あんたの子を倒すんだから》
小さく宣戦布告をした。 - 191◆8ucyADYXiE24/05/01(水) 20:16:04
*(サイドストーリーその2)
(拝啓、我が最愛の相棒と娘へ)
可能性があるのならば、それに賭けるのが当然。
私はずっと、かつての相棒への恩を返し、不甲斐ない彼を叱咤激励する機会を伺っていた。
私もかなり歳を取ったが、相棒はそれ以上に老け込み、思い通りに乗れない苦しみを私に訴える。
私が出来ることと言えば、ただ相棒の嘆きを聞いてやることくらいだ。この体では抱きしめてやることすらできない。顔を寄せ、その手が懐かしい手つきで私を撫でるのを、じっと見守る。
そんな日が繰り返されたある日。ひどく思い詰めた顔の相棒がやって来た。決意を込めた目が私を見据える。
「ルドルフ。僕は引退しようと思っているんだ」
此奴が年老いているのは分かっていた。
老体に鞭を打ち、私という幻影を追って今なお一線で這いずり回っていることも知っていた。
何より、桜の勝利を私に伝えると言っていたのに。此奴は。
《老いたな、おかべくん》
老いは此奴の頭まで侵食してしまったのか。
私は約束を反故されるのが嫌いだ。何よりもお前が分かっているだろう。
逃げることは、約束を果たさず行くことは許さない。
《━━ああ、そうか》
ふと、頭を過ったのは。私の最後の子供たちのこと。
その中に、とても懐かしいオンナとの子がいることを思い出した。
トウカイテイオー。私の息子の母との、娘。
あの子は、もしかしたらこのために……。 - 192◆8ucyADYXiE24/05/01(水) 20:31:18
私は相棒の手から体を離す。すぐにでも話を通さなければいけない。幸い、ここには私達の言葉を理解できるニンゲンが複数いる。
帰り際、後ろを振り返り、唖然とする相棒へと笑う。
《どうせお互い老いさらばえるだけの身だ。ならもう少しだけ無様を晒して待っていてくれないか?》
お前が再び道を進めるように、その手助けをしてやる。だから、2度とそのようなことを言うな。
果たしてその言葉が正しく通じたようで。相棒は我が娘と桜の勝利を飾り、泣きながら報告しに来て。
どんどんと若々しくなっていく相棒の嬉しそうな、楽しそうな様子に此方まで気持ちが良くなっていく。
《我が娘。本当にありがとう》
シンボリレグナント。私の娘。
私が不甲斐ないばかりに、シンボリの後継となってしまった子。
お前に相棒を託して正解だった。嫉妬することもあるが、私は相棒が喜ぶ姿を見ることが一番だったから。
三冠を取った時。怪我をした時。復帰して勝利した時。海外で勝った時。すべてが痛烈な想い出となって我が身に刻まれている。
「ルドルフ、もう少しやな」
ニンゲンに声をかけられる。
もうすぐ娘は相棒を背に、かつて我が友シリウスシンボリが挑み無念の結果となった凱旋門賞を走る。
聞く限りでは現地人気も高く、前哨戦は共に高いレーディングを得ており、不安は無いとのことだ。とりあえず幸先は良さそうとのことで一安心。
私はテレビに映る我が子と相棒を見る。
本来ならばあの日、私も走るはずだったのに。怪我で引退して叶わぬ夢となった場所に、娘がいる。
《……第一は無事に。次に勝利を》
凱旋門賞まで、あと少し。
異国の地に桜が咲くことを、祈っている。 - 193二次元好きの匿名さん24/05/01(水) 21:32:00
保守
- 194◆8ucyADYXiE24/05/02(木) 00:01:59
すみません急用のため次スレは昼頃に立てます
- 195二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 07:27:50
保守
- 196◆8ucyADYXiE24/05/02(木) 07:55:08
- 197二次元好きの匿名さん24/05/02(木) 17:24:28
乙です
とりあえず埋めますか - 198二次元好きの匿名さん24/05/03(金) 04:49:43
ウメ