【SS】ヒシアマゾンへの想い

  • 1◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:21:45

    少し長めのSSとなりましたので、2スレ目から開始します。

  • 2◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:21:55

    トン……と褐色の手が触れてくる。冷えているのか、柔らかくも刺さるような感触が手に伝わってくる。

    「トレ公……」

    彼女に、ヒシアマゾンに呼ばれる。それだけなのに何を言いたいのか伝わってくる。そしてその顔を見れば、少しばかり赤みがかっていた。
    それが羞恥から来るものか、期待から来るものか。加えるように、今日の彼女はいつにもまして妖艶な雰囲気を纏っていた。それにまるで目が合わせられず、つい目が逃げてしまった。それが不満なのか、彼女はその体すべてをこちらに寄せてくる。それがわざとだというのは理解できた。そして、不意に女性の象徴ともいうべき部分が、腕に当たる。
    流れるように、私の手と彼女の手が強く繋がれる。優しく指が撫でられ、甘い声が喉から漏れてしまう。そうやって絡みあい、境界が蕩け、消えていくような感触。それに閉じ込められてしまいそうで、意識が奪われてしまいそうで。それでも誘惑は止まらなかった。いや、彼女にとっては誘惑ですらないのだろう。ただの触れ合い程度、それ以上は踏み込んでいない……つもりなのだ。だが彼女が繰り出したそれは、あまりにも刺激的で、私の理性を根底から突き崩すには十分な威力と衝撃があった。
    彼女が更に近づいてくる。まるで麻薬じみて彼女の匂いが鼻をくすぶる。香水のようにそれが纏いつく。まるで火の付いたロウソクのようにじっくりとゆっくりと……自分が溶けていき、ついに、ヒシアマゾンと私は手のひらをくっつけ、薄氷を扱うように丁寧に指を交えてしまった。
    まるで禁忌を犯しているかのような背徳感。隣にヒシアマゾンがいるという高揚感。そして、二人の息が混じり合うほどの距離感。その全てが心臓の鼓動を速まらせ、体の芯から燃えるような何かが湧き出てくる。ヒシアマゾンはおろか、私でさえこの何かは説明できないだろう。だが、それが良かった。それで良かった。一度でも言葉にしてしまえば、簡単に崩れてしまいそうなほど儚いとお互いに理解していた。だからこそ、愛おしい。だからこそ大事にしたいと、お互いの胸にその言葉を置き、街を歩む。

  • 3◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:22:07

    イルミネーションが光り輝く中、私たち二人は歩いていく。
    今日だけは、と誰が聞くわけでもない言い訳をして、私たちは歩む。時々、彼女に似合いそうな服を横目に流したり、他愛のない話をしながら、二人で歩く。いつもより足取りは軽い。
    そんな時だった。ふわりとした風が頬を通り過ぎ、ヒシアマゾンの髪が揺れ動く。

    「今日は寒いな、トレ公……」

    確かにそうだねと答えながら、マフラーを巻きなおしてあげる。私が前に編んだ……少し下手くそだけど、頑張って作ったもの。ところどころ、ほつれたりしているが、それでもまだ使ってくれていたことに笑みがこぼれていたらしく

    「なんだい、その顔」

    と突っ込まれる。何でもないよと返しつつ、彼女を見ていたら、少しだけ悪戯心がわいた。
    少しだけ立ち止まり、彼女と向き合う。不思議そうに見つめてくる彼女の耳に、ふぅー……と吐息をかける。街中だからか、それとも知り合いの誰かに見られるかもしれないからかは知らないが、声を我慢する顔がどうにも可愛くて、また意地悪をしたくなる。でもこれ以上やってしまったら、彼女に嫌われるなと思い、踏みとどまった。私がした悪戯に怒る彼女の顔も、また麗しく、愛らしい。そんなことを思っていると、またも彼女は体を寄せてきた。悪戯をした罰と言うには、あまりにも甘美で魅惑的なものだった。そういう意味では確かに罰なのかもしれない。
    もう年も明けたというのに、街中はまだまだ冬本番といった様子だった。雪こそ降っていないものの、気温はかなり低く、耳当てをしていなければ寒さで震えていただろう。そんな中で手を繋ぎ、肩を並べ、寄り添いながら、歩く。それだけで十分すぎるぐらい幸せで、満たされているはずなのに、もっと欲しくなる。
    さすがに強欲だ。そう自嘲しながら、また歩き出す。ゆっくりと、一歩ずつ確かめるように。彼女が離れないようにしっかりと握って。

  • 4◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:22:17

    今日という何もない日、特別な日だなんて口が裂けても言えないような日なのに、隣にはヒシアマゾンがいる。三年も隣にいたからだろう、私にとって彼女はとても大きな存在となり、いつの間にか、かけがえのないウマ娘になっていた。彼女のためになら命だって捨てられるだろう。私の全てと言ってもいいほど大切な存在。でも彼女にとってはそうじゃないのだろう、とも感じているのも事実だった。彼女は誰であれ手を差し伸べるお節介で、世話焼きで、面倒見の良い、美浦寮の長なのだ。そんな彼女のことが私は好きだ。だが、私はそれがどういう種類の"好き"なのか、それが理解できるほど、経験も語彙もなかった。恋慕か、憧憬か、親愛か。もしかしたら嫉妬や独占欲と言った見せられないような醜い感情なのかもしれない。
    いくら考えてもわからないだろう。わかる必要もないと思っている。ただ、一つ言えることがあるとすれば、それはヒシアマゾンの隣にいるということが、今の私の一番幸せな時間だということだ。この時間がいつまでも続けばいいのにと思う。でもきっと、いつかこんな至福の時間も終わりが来るのだろうとも思う。その時、私はどんな顔をすれば良いのだろうか。

    「トレ公……?」

    いつの間にか思考の海に浸っていたようで、彼女に話しかけられて我に返る。加えるように聞かれた質問に、特に何もないよ、と返す。すると彼女はどこか悲しげな表情を浮かべた後、いつものように笑ってくれた。
    あぁ、この笑顔を守れるのなら。
    そんなことを考えながら、私もまた笑った。そしてまた他愛ない話をしながら、私たちは歩む。長いようで、短い帰り道。その時間はあっという間に過ぎ去っていき、気が付けば学園の門が見えてきていた。

  • 5◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:22:27

    楽しい時間ほど過ぎるのが早い。改めて残酷な現実だ、と名残惜しく思いながら、手を離す。もう少しだけ一緒に居たかった。もう少しだけ隣を歩きたかった。そんな気持ちを抑えながら、彼女に別れを告げる。
    また明日、と。
    その言葉を聞いた彼女は目線を下に、寂しそうな顔を見せた。これは仕方のないことなんだ。そう自分に言い訳して、トレーナー寮に歩を進めようとしたとき、不意に服の袖を引かれた。

    「あのさ……この後、暇かい……? あと……ほんの少しだけ付き合って欲しいんだ」

    振り返るとそこには恥ずかしげに目を逸らしながら、何かを期待するように目を反らすヒシアマゾンがいた。
    私は彼女のお願いを断れるはずもなくもちろん、と答え、彼女についていく。
    彼女が着いた先は小さな公園だった。まだ夕方だというのに人影はなく、街灯だけが私たちを照らしていた。ベンチに座っていると、彼女は少しだけ待ってとくれと言い残してどこかへ行ってしまった。
    一人になった途端、心に喪失感が広がっていった。どれだけ自分の中の"ヒシアマゾン"という要素が強かったのか、冷たい風が痛いほどに理解させてくる。
    しばらく待っていると、彼女が帰ってきた。手には温かい缶コーヒーを持っていて、手渡してくれる。一言、お礼を言って並んで座る。
    そして無言のまま、温かい飲み物で喉を鳴らして身体の内側から暖を取る。沈黙に耐えきれなくなって、私はつい聞いてしまった。
    どうしてお出かけに誘ってくれたんだ。
    彼女は少し驚いたような顔をした後、そんなの当たり前だろ、と満面の笑みで返してくれた。それから二人で少しだけバカみたいな話をして笑い合った。本当に楽しかった。幸せだった。でも、だからこそ怖かった。これから先の未来も彼女と歩いていきたい。でもそれと同じくらい、彼女を失うのが怖い。なにより、彼女の顔から笑顔が失われるのが、一番怖かった。
    だからだろう、私は心の底で願ってしまった。傲慢で、我儘で、どうしようもなく身勝手な願いだとしても、それが裏返ったとしてもなお、願わずにはいられなかった。


    どうか彼女が永遠に幸せでありますように、と。

  • 6◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:23:18
  • 7◆DF7Hj.bbAk22/01/25(火) 22:24:22

    >>6

    誤字訂正

    (最後くらいちゃきっとシメてほしかった)


    30日CPチャレンジ二九日目お題:ホットなことをする

    30日CPチャレンジ三十日目お題:ホットなことをする

  • 8二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 22:35:22

    最終回にふさわしい未来を感じさせる雰囲気が良き

  • 9二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 22:35:49

    愛だ……最高かよ

    30日チャレンジ完走おめでとうございます!

  • 10二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 22:46:36

    完走者を讃えよ!

  • 11二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 22:47:06

    あえてトレーナーの性別を明かさず、ただヒシアマゾンの幸せのみを願う
    締めにふさわしく素晴らしい。
    そして30日やりとげたスレ主よ、ありがとう!

  • 12二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 22:51:05

    最終日にふさわしい力作…感服し申した
    まこと、大義でした!

  • 13二次元好きの匿名さん22/01/25(火) 23:40:19

    すごい……
    あげてやるぜ

  • 14二次元好きの匿名さん22/01/26(水) 00:21:36

    アツアツだわ…

  • 15二次元好きの匿名さん22/01/26(水) 00:39:51

    良いね…

  • 16二次元好きの匿名さん22/01/26(水) 07:33:04

    朝にもあげよう

  • 17二次元好きの匿名さん22/01/26(水) 13:06:31

    スレ主

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