ウマ娘名作文学『山月記』

  • 1読み手24/04/20(土) 18:30:08

    その昔、中国が「唐」と呼ばれていた時代。

    隴西に「李徴(りちょう)」と言う一人の若者が居た。


    李徴 dice1d114=9 (9)

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:30:49

    待ってました!

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:30:52

    まぁ確かに自尊心はすごそうだな…

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:31:10

    読み手さん?!また意外なところを

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:31:27

    来たわね

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:31:51

    詩の名人になるわよ!

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:32:44

    まぁダスカも高潔な悩める秀才って感じはする

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:34:46

    このレスは削除されています

  • 9読み手24/04/20(土) 18:35:29

    李徴は若くして国家試験に主席で合格するほどの秀才でした。
    学校では常に優等生のように振る舞っていましたが、その実とても自信家で、自分が1番でないと気が済まない性格の持ち主でした。

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:35:59

    山月記でも書けるのか…
    主さんエミュ精度もそうだけど普通に文学への造詣が深いな

  • 11読み手24/04/20(土) 18:37:05

    そんな李徴でしたが唯一、親友の「袁傪(えんさん)」には心を開いて共に切磋琢磨して勉学に励んでいました。


    袁傪 dice1d114=37 (37)

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:37:34

    瞳の形状的にダスカだと虎じゃなくて龍になりそう

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:37:46

    エンサンフラッシュ

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:38:04

    アンブレラデート……

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:38:20

    >>13

    ちくしょう先越された

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:38:23

    ま…また史実

  • 17読み手24/04/20(土) 18:47:21

    「李徴、また大官様に無礼を働いたと聞きましたが…。」
    「そうなのよ〜!聞いてよ袁傪!アイツったら、まだ若いからって人を「小僧」「小僧」って呼ぶのよ!?だからアタシも頭に来ちゃって、去り際につま先思いっきり踏んでやったわ!フン!」
    「はぁ…。せっかく頭は良いのですから不祥事はおやめ下さいね。そんな態度では将来お役所仕事など務まりませんよ…。」
    「その事なんだけどね、袁傪。アタシ、詩人になろうと思ってるの!」
    「………はい?」

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:48:37

    タイガースカーレット?

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:49:32

    ここでアンブレラデート引くの持ってるな

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:53:18

    このレスは削除されています

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:53:38

    ダスカが最終的に🐯になるのか

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 18:54:59

    獣のような瞳はしてるから

  • 23読み手24/04/20(土) 18:58:55

    「確かにあなたの詠む詩はとても素晴らしいですが…。」

    袁傪が何か言おうとしましたが、李徴は更に続けます。

    「…誰かに手綱を握られるような人生はダメだわ。確かに、今はまだ子供だから仕方なーくアタシも受け入れてやってるけど、常に1番…そう、アタシは人の上に立つべき存在じゃないといけないの。役所で働くにも、生まれは庶民だから最終的な限界はあるわよね。」
    「それはまぁ…そうですけど…。」
    「だ・か・ら!得意な詩で1番を目指してやるのよ。どうやら有名な詩人たちにはお偉い様たちも頭が上がらないらしいじゃない!あれだけアタシを頭が良い面倒臭い小僧だって見下してるヤツらに吠え面かかせてやるんだから!」

    目を輝かせながら先の見えない将来を語る李徴を見て、袁傪は友人として心配をする他無かったのでした。

  • 24読み手24/04/20(土) 19:09:00

    学校を卒業する日、役所で働くこととなった袁傪は未だに詩人になると言い続けている李徴を引き止めようと思い立ちました。

    「李徴、やはりあなたも役所で働きましょう。あなたほどの秀才が唐の役に立てないというのは…。」
    「うるさいわね!アタシはもう決めたの!せっかくお別れに来たのにそんな言い草!?」
    「お、落ち着いて…!」
    「アンタなんかもう知らない!…友達なんかじゃない…!…どーせアンタも、賢いアタシが妬ましいんでしょ!?アイツらと同じなのね!もう…知らない!袁傪のバカッ!」
    「り…李徴!」

    袁傪は李徴を呼び止めましたが、涙声のまま李徴は遠くへ走り去ってしまいました。

  • 25読み手24/04/20(土) 19:11:12

    程なくして詩人となった李徴は結婚し、子宝にも恵まれました。


    李徴の妻 dice1d114=81 (81)

    李徴の子 dice1d114=110 (110)

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 19:11:34

    このままじゃダスカがラムちゃんコスをしてしまう……っ

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 19:13:19

    それっぽい色合いの家族に

  • 28読み手24/04/20(土) 19:21:25

    妻子も出来、順風満帆な生活を送っていると思われた李徴でしたが、自らの詩は思ったよりも評価されず、しばらく経つと経済的に困窮していきました。

    「う、うーん…この棚の配置が悪いのかな…。やっぱりこの家全体の氣が…。」
    「…いい加減、その胡散臭いの信じるのやめたら?お金無いのに変な鏡とか黄色いただの紐とか買ってさ…。」
    「ふ、風水をバカにしちゃダメだよ!そもそも、お金無いのはあなたの詩が売れないからじゃん!」
    「くっ……。そ、そうね…。」
    「あっ…ゴメン…。」
    「お父さん…お母さん…。」

    精神的にも余裕が無くなってきた李徴は、恥を承知でとある決心をする事にしました。

  • 29読み手24/04/20(土) 19:33:05

    「…アタシ、役所で働いてみる…。」
    「あ、あんなに嫌がってたのに…?」
    「そうするしか無いでしょ…!?安定した生活をするには、それしか無いのよ…。もう「アタシが1番」だとかは、言ってられないのよ…。」

    李徴は役所で働くために東へ向かいました。

  • 30読み手24/04/20(土) 19:35:42

    やはり頭は良かったので役所で働けるようにはなりましたが、職無しで何年も過ごしていたのもあり、李徴は地方で働くことになりました。


    李徴の上司 dice1d114=39 (39)

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 19:41:08

    パワハラ(物理)しそう

  • 32読み手24/04/20(土) 19:43:55

    「それでは李徴さん、来てもらって早速悪いのですけれど、この仕事をやってもらってもよろしくて?私、こういうデスクワークというものはとってもうざったらしい気持ちになってしまいまして…。申し訳ございませんわ。」
    「い、いきなりですか…?わ、分かりました…。」

    それからと言うもの…。

    「李徴さん、この仕事もよろしくて?」
    「李徴さん、この仕事も頼みますわ。」
    「李徴さん、申し訳ないのですけれどこれも…。」
    「あの、李徴さん。あの仕事はどうなったのですか?まだ終わってらっしゃらないのかしら…?」
    「李徴さん、あの案件の納期は明日ですわよ?何をしていらっしゃるの?」
    「李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん。李徴さん…

  • 33読み手24/04/20(土) 19:47:01

    「李徴さん、今度河南の方へ出張がありますの。李徴さんお一人で行ってきてもらってもよろしいですわね?」
    「はい…。」


















    アタシ、もう…ダメだな…。

  • 34読み手24/04/20(土) 19:55:50

    河南への出張へ赴いた際、自尊心を悉く砕かれた李徴は遂に発狂した。

    「アタシが…1番なのに…。アタシが!!!1番なんだから!!!!!」

    ある夜に突然顔色を変えて布団から起き上がったと思えば、わけのわからないことを叫びながら窓から飛び降りて、深い深い茂みの中へと消えていった。

    彼は二度と帰って来なかった。
    付近を捜索したが、誰も何も見つけることは出来なかった。

  • 35読み手24/04/20(土) 19:59:31

    随分と時が経って、御史(偉い役職)となった袁傪はお付きのものを2名連れ、南の方を訪れていた。


    お付きA dice1d114=62 (62)

    お付きB dice1d114=33 (33)

  • 36二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:00:32

    むん!

  • 37二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:01:04

    童貞キラー隊

  • 38二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:02:56

    >>37

    今のところこの話DKしか出てきてないぞ

  • 39読み手24/04/20(土) 20:07:59

    「袁傪さん!今回の出張も無事に済みそうですねっ!帰りにお土産でも買って帰ります?」

    「もう…遊びに来たんじゃないわよ。」

    「ふふっ…いいじゃないですか。納豆とか、ありますかね?」

    「わーい!やったーっ!」

    「まったく…。もう夜遅いんだから手短にお願いね…。」


    3人が宿の売店に赴くと、店員さんが声をかけてきました。


    店員 dice1d114=76 (76)

  • 40二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:10:33

    多分お土産用の人形とか売ってる

  • 41二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:12:34

    マーチャンなら元のダスカを覚えているだろう

  • 42二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:13:47

    ちょうどよく繋がりを持った子が

  • 43二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:14:13

    このご一行いい匂いしそう

  • 44二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:15:12

    >>40

    ほどよくふわふわしてるのでお付きBが買っていきそう

  • 45読み手24/04/20(土) 20:20:05

    「こんばんは、お役所の皆さん。身支度されてる様子ですけれど、そろそろお帰りになられるのです?」
    「はい。走れば明日の朝には都に着くと思いますし、最後にお土産を…と。」
    「では、お土産にこのマーチャン人形などどうでしょう?可愛いマーチャンがいつでもあなたの側に居てくれますよ。」

    (…店員さんに似てるけど…自作のグッズなのかしら…?)と、お付きのアドマイヤベガは思いました。
    店員さんは人形の手を動かして、フリフリと可愛らしく手を振らせています。

    「ありがとうございます。では…この豆腐を一丁。」
    「では私はこの蜘蛛さんのお守りを買いまーす!」
    「えっ…?えっと………その、人形で。」
    「お買い上げありがとうございます。大切にして下さいね。あ、それとですねお客様、帰り道は『人喰い虎』さんに気をつけて下さいね。」
    「人喰い虎…?」

  • 46二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:22:17

    アヤベさん優しい…

  • 47二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:23:27

    出張で来た土産屋で豆腐買うなよ

  • 48読み手24/04/20(土) 20:32:02

    「はい。結構前からこの辺りでよく出るのです。こういうお月様が綺麗な日の夜は人喰い虎さんが出てきまして、旅人をガブリと食べてしまうと…。」
    「ひーっ!そ、そんなぁ!え、袁傪さぁん!それなら朝出発しませんか…!?」
    「しかし…明日の昼までには都に戻らないといけません。そういうスケジュールにしてあります。時間は守らないと…。」
    「ううう…。」
    「本当に行ってしまわれるのですか?」
    「フフッ…上がうるさいので。それと、いくら虎と言えども私たちが本気で走れば追いつかないでしょう。御忠告ありがとうございました店員さん。では。」
    「あうぅ…やっぱり朝に出ましょうよぉ…。」
    「………じゃ。」

    お礼を言った袁傪一行が宿を出ると、ポツリポツリと雨が降ってきました。

    「おやおや、雨ですか。」

    ザーッ…

    「…涙でしょうか。」

  • 49読み手24/04/20(土) 20:38:25

    「雨まで降ってきましたよぉ!」
    「足元に気をつけてくださいね!」
    「袁傪さんこそ、気を付けて…。」

    3人が雨降りしきる夜道を走っていると、突然草むらから1匹の虎が恐ろしい牙を向けて袁傪に襲いかかってきました。

    「「「うわーっ!」」」

  • 50読み手24/04/20(土) 20:43:30

    袁傪が喰われると思ったその時、虎が我に返ったようにその恐ろしい牙を仕舞ったかと思えば、逃げ帰るように草むらの方へ戻って行きました。

    「ア、アタシはまた…なんてことをしそうに…。」
    「え…?」

    びっしょりと冷や汗をかいた袁傪はおもむろに立ち上がると、草むらに向かって話しかけました。

    「その声…もしかして李徴ではありませんか…?」

  • 51二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:44:14

    1番盛り上がるところ

  • 52二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:44:48

    こ、こんなにふかふかになって……

  • 53二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:44:48

    キッショ、なんで分かるんだよ

  • 54二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:46:16

    ちゃんとウマ娘なのね

    >>私たちが本気で走れば追いつかないでしょう

  • 55読み手24/04/20(土) 20:48:45

    「………!」

    しばらく草むらから返事はありませんでしたが、しばらくすると啜り泣くような鳴き声と共に返事が帰ってきました。

    「……そうよ。アタシは李徴。アンタは……。」
    「私は袁傪…!覚えていますか、李徴…?」
    「…………………うん。忘れないわけ、無いじゃない。……友達…なんだから。」
    「李徴…!」

  • 56二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 20:50:17

    精度の高いマーチャンエミュがさらっと挿入されている +114514点

  • 57読み手24/04/20(土) 20:58:36

    袁傪は先ほどの身に降りかかった恐怖も、雨に降られることも忘れて旧友との再会を喜びました。

    「どうして姿を見せてくれないのですか?」
    「………こんな姿になっちゃったからよ。アンタもさっき見たでしょ。アレが今のアタシ。今この姿をもう一度アンタたちに見せたらまた怖がられるに決まってる。だから見せない。」
    「そんな…。」
    「…………でも、やっぱり懐かしいわね。部下2人も連れてさ、アンタも偉くなったじゃない。」
    「フフッ…そうですか?」

    後で考えれば不思議ではあるが、袁傪はこの出来事を全く疑おうとはしなかった。
    まるで何事も無かったかのように、雨が降る中、旧友との久しぶりの会話を楽しんだ。
    袁傪の今の地位、李徴探しに袁傪も出向かったこと、李徴の子供が大きくなったこと…。

  • 58読み手24/04/20(土) 21:05:12

    そして袁傪は少し深呼吸をした後にこの事を聞いてみた。

    「李徴…何故あなたは虎に…?」
    「…………声がしたの。」
    「声?」
    「うん…アタシが居なくなったっていう日の夜に、夢の中で聞いてるだけでうざったらしい声がしてね…。」

    草むらの声は続けます。

  • 59読み手24/04/20(土) 21:22:33

    「夢の中で、アタシに向かってしつこく『走りに行こうぜ』って、そんな声がしたの。アンタ誰?って聞いても、答えずに『先行くぜ』って行っちゃって。それで、追いかけたの。」













    「はぁっ…!はぁっ…!待ってよ…!……待ちなさいよ…っ!!!」

    アタシは必死に、なんかうざったい声を追いかけたの。
    …なんか、負けたくなくて。必死に走ったの。

    「待って…!待ってよ…っ!」
    「おいおい!置いてくぞー!」
    「このっ…!だから、待ちなさいよ!────!」

    「…え?」

    気がつくとね。アタシは手をついて、4つの脚で走ってたの。
    周りは芝生で、なんかよく分からない白いのがあって…そして、たくさんの人…。
    前を走るアイツを絶対に超えたくて、そんな状態でも夢中で走ったの。

    ワァァ…!!!

  • 60読み手24/04/20(土) 21:28:26

    「アタシが…1番なんだから!!!」














    また気が付いたら川があって、顔を見てみたの。
    そうしたら、もう…虎だった。
    なんで虎になっちゃったのかは分からないけど、自然と受け入れてる自分が居たわ。

  • 61読み手24/04/20(土) 21:34:33

    その後は、虎としての日々。
    ノロノロ動いてるヤツを見かけたら走って行って…。
    歯向かってくる動物なんかは蹴飛ばして…。
    いったいこれまでどんな酷いことをしてきたのかしら。
    あのね、袁傪。アタシ、日に日に人としての自我が無くなっていくのを感じるの。
    全力で走りたいって、何もかも無視して走り出したいって。そう思うようになるの。

    多分、"アタシ"が居なくなったほうがアタシは幸せなんだろうけどさ。でもさ、やっぱり…生きたいの…。人として生きていたかったの…。

  • 62読み手24/04/20(土) 21:37:46

    本当に夢のような話に軽く混乱しながらも、袁傪は友の語りを静かに聴いていました。

    「あのね、袁傪…。最後に頼みがあるの。」
    「なんですか?」
    「詩を詠むからさ、書き留めてほしいの。詩人としては…あんまりだったけど、せめてさ、アタシが生きてた証をこうして刻んで欲しいの。」
    「…わかりました。聴きましょう。」

  • 63読み手24/04/20(土) 21:48:51

    偶因狂疾成殊類 災患相仍不可逃
    今日爪牙誰敢敵 当時声跡共相高
    我為異物蓬茅下 君已乗軺気勢豪
    此夕溪山対明月 不成長嘯但成噑


    たまたま心を病んじゃって、人とは全然違う生き物になっちゃった。こんな災難続きで、もう逃げる事なんて出来ないわね。
    今、この爪や牙に誰が進んで歯向かうんだろう。
    ううん、誰も歯向かえない。
    昔はアタシもアンタもとっても良い評判だったわね。
    アタシは人じゃなくなって草むらの中に居るけど…アンタはとってもいい感じじゃない。
    これからはこの山と谷を照らす月に向かって、言葉も喋れずに、詩も詠めずに、ただただ吠えるだけなのかしら。

  • 64読み手24/04/20(土) 21:59:21

    草むらから聴こえてくる詩をお付きが丁寧に書き上げる。
    袁傪は友の詠む詩に聴き入ることしか出来なかった。

    「……なるほどね。」

    詩を詠み終えた虎が、ふと言葉を紡ぐ。

    「アタシ、なんで虎になったのか分かったわ。…自由になりたかったのよ。ずーっとずーっと、1番になる1番になるって…。"1番になること"に縛られて生きてた。詩人として大成しなかった時も、地方で働いた時も、ずっとその想いは変わらなかった。でもね。やっぱり自分でも辛かったんでしょうね。壊れて、何もかも嫌になって、自然に出て、走って、今のアタシは自由。本当はこうなるのが良かったんだ…。」

    虎はすすり泣く。

    「あの子たちには言っといてよ。アタシは死んだって。そうしたら真に自由になれる。もちろんアンタもそう思ってよ。李徴は死んだって。そう、思ってよ。」

  • 65読み手24/04/20(土) 22:07:57

    「…アンタ、都に帰るんでしょ?色々引き留めちゃって悪かったわね。雨もまた強くなってきたし、さっさと行きなさい。ぐすっ…これで、お別れなんだから…。」
    「李徴…。」
    「なによぉ…。雨が目に入っただけよ…!」
    「…ちょっと待ってくださいね。」

    袁傪はおもむろに立ち上がると、お付きの人が持っていた傘を広げて草むらの近くへ座った。

    「……これで、雨は目に入りませんね。」
    「…………ぐすっ…。」

    李徴は更に目を擦ったのだった。

  • 66読み手24/04/20(土) 22:13:07

    しばらくすると不思議なことに雨が上がった。
    雲も晴れて、空には綺麗な月が見えている。

    「…では、私たちはもう行きます。」
    「うん…。」
    「でもやっぱり…最後は姿を見せてお別れしたかったです…。襲われた時は暗かったですし、雨も強くて、あまり李徴の姿は見えなかったので…。」
    「それで良いのよ。それで…。」
    「李徴さんさようならー!」
    「…じゃあね。」

    袁傪一向は草むらに向かって別れを告げ、歩き始めた。

  • 67読み手24/04/20(土) 22:18:28

    しばらく歩いて、袁傪がふと李徴の居た方を見やると、そこには月明かりに照らされた4本脚の不思議な生き物が立っていた。
    顔は長く、脚は細く、虎の柄など身体には一つもありはしなかったが、何と形容すればいいのか分からない。
    しかし、その遠目から見ても分かるほどの有り余る闘争本能は、まさしく「虎」としか言いようが無かった。

  • 68二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:22:49

    叙述トリック!
    そういうのもあるのか

  • 69二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:23:29

    なるほど……

  • 70読み手24/04/20(土) 22:23:36

    「────────!!!」

             嘶いた
    虎は、月に向かって吠えた。

    人としての最後の自我がそうしたのか、本能なのかは分からなかったが、袁傪は友への真の別れの言葉ように聞こえた。

    「………さようなら。」

           嘶き
    虎…いや、友は叫び終わると、再びその身を草むらに隠し、二度と出てくる事は無かった。

    「………………なれましたね。自由に。」

    おしまい

  • 71二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:26:22


    こうして振り返るとダスカ・フラッシュ・マーチャンは神引きだと思う

  • 72読み手24/04/20(土) 22:28:46

    お疲れ様でした。今回は前回のスレの最後にダイスで決まった『山月記』をお送りしました。
    山月記に決まってすぐに思い浮かんだことがちゃんと出来てよかったです。これがウララちゃんとかビッグちゃんとかだと、可愛すぎちゃって難しかったかも…?
    あとやっぱり原作でセリフのある登場人物が李徴と袁傪だけなので、頑張って引いた他の登場人物が疎かになってしまいましたね…。反省です。
    ではまた、次のお話でお会いしましょう。
    改めてお疲れ様でした。

  • 73二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:30:22

    乙 なかなかいい人選だったし、最後の展開で膝叩いちゃった 相変わらず展開がうまいなあ

  • 74二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:31:01

    おつです
    自由の形は虎じゃなくて……なんですね。成る程!

  • 75読み手24/04/20(土) 22:31:18
  • 76二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:36:04

    鳥肌が立ったSSは初めてでした…!
    お疲れ様でした!次回も楽しみにしています!

  • 77二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 22:52:34

    アンブレラデートも拾いつつ、虎へのミスリードも入れるとは...

  • 78二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:54:35

    今回も面白かった

    こういう系だといつかそのうちロミオとジュリエットとかギリシャ神話とかも見て見たいな

  • 79二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:58:22

    いやあ面白かった

    記憶違いなら申し訳ないんだが、読み手さんのスレでブレーメンの音楽隊ってもうやってたっけ?
    もしやってなかったら見てみたいなあ

  • 80二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 00:11:41

    今回も素晴らしいお話だった
    次回も楽しみにしております!

  • 81二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 09:17:29

    山月記きてるやん!乙
    書き込んだあとに登場人物2人しかいないと指摘された時は肝が冷えましたが綺麗な締め方で相変わらずお見事です

  • 82二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 09:30:25

    楽しく読ませていただきました

    可能だったら落窪物語、は長すぎるでしょうか
    ダメでしたら雨月物語の「菊花の契り」で

  • 83二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 16:01:30

    カフカを…

  • 84二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 19:38:38

    駆け込み訴えか瓶詰地獄をお願いします

オススメ

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