- 1二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:37:30
『!新着メッセージ!』
眩しくて目を開ける。まだ2時、明日は休日、それを確認し、眠い目を擦りながらメッセージを開いた
(招待状…ドバイのレース?ウチが.…?)
冒頭を翻訳すると
『私を覚えているか、トランセンド。
レパードステークスの後、が話しかけた私だあの時私が君の飛躍の一歩を目にでき、
こうして緑ができたことを幸運に思う
よって偉大な君をドバイのG1、ドバイワールドカップに招待する
遠い異国の地で不安に思うだろう。君とその関係者には最高の待遇での遠征を約束しよう
良い返事を待っている』
下には本物だと言う証明、遠征の詳細、国から直接待したウマ娘のリストが載っていた
(マジじゃん...トレちゃんにも連絡せねば)
興奮も眠気には勝てなかったので、今日は寝ることにした
朝、真っ先にパソコンのメールを確認した。
夢じゃない、それがなにより嬉しい
1週間後の12時、URAを通じて公に出走表明をするらしいからすぐ決めなきゃいけないことが沢山ある。トレちゃんに相談せねば、、
とりあえずトレちゃんに電話をかけてみる
プルルルルル…プルルルルル…
『もしもし...トラン?』
『やほー、愛バのトラちゃんだよん。さっそくだけど超重要機密報告!』
『待て当てる、、あのクラファンの抽選当たったのか?!』
『不正解!正解はドバイのレースに招待された、でしたー』
『ガチ?』
『ガチのガチのマジ』
『落ち着こう、トラン。とりあえずトレーナー室で現実を確かめよう』
『りょーかい。ハーゲン◯ッツよろ!』 - 2二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:39:49
移動中、トレセン生の間でドバイ出走関連の噂は聞こえなかった
結構厳重な情報を持っていることにゾクゾクする
(セキュリティやば。ウチのパソコンも知られてたし、ウチもまだまだだねん)
そう考えてるうちに着き、トレーナー室の扉を開ける
「やっぽートレちゃん、大丈夫そ?灰になってるけど」
「トラン、俺を殴ってくれ」
とりあえずぺちんってした
「目、覚めた?」
「覚めた。レース出る?」
「出るよん」
「了解」
「トレちゃん、もうちょいなんかないの?」
「俺はなぁ!初めてできた愛バがな、!G1も獲ってくれて、ドバイにも招待されてでもうよくわかんないんだよぉ!」
「脳焦げ焦げだねぇ、トレちゃん。トレーニング頑張っからさ、期待してて待てよー」
出走を表明してからは早かった
そのあと出走メンバーの娘と顔合わせして(知りあいだけども)
チーム日本ってのも作って併走して、楽しくて。
誰が勝っても納得できるようなそんな雰囲気
ウチの伝手でその娘たちの環境もカンペキ!情報屋冥利に尽きるってもんだよねー。
んで、今レース大体1ヶ月前
向こうに慣れるために前乗りする事になった
飛行機に乗った長旅
トレちゃん達も、日本の子達も、フルコース飛行食にガッチガチ。可愛いかったなー
今目を瞑れば直ぐに明日になる明日も、その明日も、直ぐに過ぎていく緊張なんて無い。心配なんてない。後悔なんて。ない
レース、楽しみだなぁ - 3二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:42:58
ドバイに着いた翌日、早速調整を始めた
ウチらへの応援メッセージを流してるテレビを軽く体操しながら聴いていた。
和やかだったお茶の間が突如、切り替わった
….神様は残酷だ
地震震度7、東北。あの温泉街。あの子達は無事なのか確信できない。
津波の映像は言葉も出ないくらいで。絶句したウチが、日本に居ても出来たことは少ない。そんなことわかってる。理解してる。
ウチら『チーム日本」が出来ることはただ一つ
「勝つよ、絶対」
チーム日本のトレーニング室、沈黙の中思わず声が出た
誰も泣いてはいない。ただ視線を交える。
そこからの毎日は何もなかった。
ただ淡々と時を重ねていった。そこからずっと、レース前日までガジェットのことを忘れるくらい、トレーニングに没頭した
気を使う豪華な式典とか、パーティーとかは行かなくても良くなった
正直ありがたいけど、招待してくれたあの人にも申し訳ないし、淡白な日々を送ることになった
_________
今日はレース。実感が湧かない。
パドックに向かう。脚の震えが止まらない。
心配の声が聞こえる。同情の声が聞こえる。
その中で異様に明るい、幼くて高い声が響いた
『トラちゃん!かっこいい!はしるのみられるのたのしみ!』
(そっか、あの東北の遠い地の子達も、楽しみにしてくれてる。ラジオなら、聴ける…よね)
なら、こんな顔は見せられない。
(ウチらしく、ソクゾクできて、ソクゾクさせれる走りを!)
パドックではただ礼をした。精一杯の感謝と敬意を込めて。 - 4二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:44:06
『さあ思いを背負った日本のウマ娘ドバイワールドカップ初制覇なるか!?』
『スタートしました、まず先陣を切ったのはトランセンド』
いつも通り得意の前へ行って、競り合ってくる娘は居ないことを確認して位置をキープする
(嘘みたいに脚が軽い...!)
薄情だと思われても仕方ないくらい、ウチはレースを楽しんでいる
ターフの上の熱狂は今日消える事なく鮮烈な今を映し出す。それが希望になると信じて。
『トランセンドが世界の強豪を引き連れて1コーナーを曲がる!得意なペースに持ち込みました』
(情報によるとそろそろくるはず…)
そう。これこそウチがレースで元気を出してもらう作戦
(来た…!)
テレビカメラがラチからウチを覗く
ウチもテレビカメラをガン見する。遠くからでもスタンドがざわついているのが分かった
ウチはここに居る。その意味を込めてガン見しながら走る
実況さんがウチの名前言ってれば完璧。
けど、音なんてもう聞こえない
(これだ!このアガってゾクゾクする感じ!)
気づけば日本のウマ娘に並びかけられた
逃げてるウチのスタミナはゼロ?
そんなの関係ない!全力を越える、超越する、してみせる!
体力の限界に耐える。その愉悦が堪らない
だけど抜かされていく、彼女が前に押し出されていくようだった
(ウチはウチらしく走れた!それでいい!)
『今!ゴールイン!』
『日本のウマ娘がワンツーを決めました!日本ウマ娘ドバイワールドカップ初制覇です!』 - 5二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:47:50
1着でゴールした彼女は世界の歓声を一身に浴び、輝いていた
今のウチはそれを純粋な気持ちで祝福できた
彼女は決して涙を見せず懸命に手を振った
「さて、ウチはアレを描かなきゃね」
駆け寄ってきたトレちゃんから棒を貰って、あちこちへと動き回る
『彼女』が去った後のターフに”HOPE”を描く
みんなそれを待ってくれて、テレビにも実況にも拾って貰えた
ウチはそれで満足。礼をしてターフを後にした - 6二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:51:17
…『彼女』は強い
控室に戻ると彼女はただ座っていた
トレーナーも追い出して、ウチが来て、チーム日本が揃った時
ターフで涙を見せなかった彼女は泣き崩れた
ウチも、もう1人の8着の子も、堰を切ったように溜め込んだものを吐き出した
そこには悔しさや彼女への思いをぶつけるものもあった
「泣くことさえ禁じてきた。
だから、ここだけは当事者でもない私達が泣く事をどうか許してほしい」
どこまでも彼女は健気だ
これでドバイワールドカップは終わった
どこまでも刻まれ続ける、長い旅の記憶と記録
それはあの1通のメールからだった。
『!新着メッセージ!』 - 7二次元好きの匿名さん24/04/20(土) 23:55:37
おしまい。
ここまで読んでくださりありがとうございます
多分沢山書かれているであろうトランのドバイss
余談ですが『彼女』はヴィクトワールピサ、8着の娘というのはブエナビスタです - 8二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 00:14:37
こうやって多くの人を勇気付けるの良いよね……
励ましの言葉も大切だけどこう言う姿見ると心が奮い立つ…… - 9二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 00:21:50
王道の良いSSだと思いました。読んでいて楽しかったです。
(SSを読み書きする人はシナリオを知ってると思うので、ネタバレ含めて感想書きます。拙かったら消してください)
公式シナリオは時系列を捩じっているけど、実際にはこのようにドバイで…ですよね。シナリオでは「2着でも健闘!」という感じでしたが、実際には日本人に勇気を与えたとはいえ、人知れず涙を流していたと思います。でも人前でトランは泣かず笑顔で帰国することでしょう。負けたことと、日本に勇気を与えたことは両立するのですから。
トランは他人の思いを背負って走って、その上で他人のために"正しく"振る舞える良い子ですよね。僕も大好きです。 - 10二次元好きの匿名さん24/04/21(日) 07:34:17