ウマ娘名作文学『坊ちゃん』2

  • 1読み手24/04/22(月) 06:44:38

    〜これまでのあらすじ〜

    無鉄砲な性格の「坊ちゃん」(演:カツラギエース)は家政婦「清(きよ)」(演:ファインモーション)の愛を受けながらヤンチャな学生生活を過ごす。

    東京理科大学を卒業した坊ちゃんは四国のとある小学校で数学の先生として働くことになるが、生徒たちからの手酷いイジメに合う。

    ぼんやりしていて自主性の無い校長の「タヌキ」(演:アストンマーチャン)や、年中赤いシャツを着ている教頭の「赤シャツ」(演:ウイニングチケット)、赤シャツの腰巾着をしている口達者な「野だ」(演:ナカヤマフェスタ)など、他の教員たちからも良い扱いをされなかった坊ちゃん。

    しかし、いつも顔色が悪そうな「うらなり」(演:エアグルーヴ)と、同じく数学教師で坊ちゃんと似たところのある「山嵐」(演:ミスターシービー)だけは坊ちゃんの味方をしてくれていた…。


    前スレ(後半荒らされましたが、管理済みです)

    ウマ娘名作文学『坊ちゃん』|あにまん掲示板このお話の地の文は全て主人公「坊ちゃん」のものです。2レス目からお話が始まります。長いお話なので鯖落ちやホスト規制などで日を跨ぐかもしれませんが、どうぞお付き合いくださいませ。坊ちゃん dice1d1…bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 06:51:20

    建て乙です

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 06:54:50

    >>1

    たておつ

  • 4読み手24/04/22(月) 07:07:00

    あたしは山嵐の言うように下宿を出ることにした。
    荷物もまとめていざ出るかと思った去り際、主人が「何か不都合でもあった?」と大きな図体を揺らしながら申し訳無さそうに聞いてきて、あたしはよくわからなかった。
    不都合があったから出ていってほしいんじゃねぇのかと思いながらも「じゃ」と一言だけ言って下宿を後にした。

  • 5読み手24/04/22(月) 07:11:42

    不思議なことだが、下宿先であたしが住んでいた部屋には次の日から野だがしれっと住んでいた。

    「前の下宿先は貧相なところでな。賭けをしたんだ。あんたが本当に出ていくか、出ていかないか…。結果はこの通りさ。」

    釣りをしに行った時から思っていたが、やはりコイツはずるいヤツだとあたしは思った。

  • 6読み手24/04/22(月) 07:23:23

    山嵐とは少しばかり喧嘩をしちまったから、今頼れる人はうらなり君だけだ。
    あたしは下宿を出たその足でうらなり君の家へ行ってみると、顔色の悪くないうらなり君と言ったような、そっくりの母親が出てきた。
    うらなり母は息子と同じく親切な人で、あたしが同じ学校で教師をしておりますと言うと大変喜んだ様子でそのままお菓子をくれた。なんだか清を思い出した。
    うらなり母は新しい下宿先に心当たりがあるって言うんで案内してもらうと、前の下宿先よりも良さそうなところを紹介してくれた。
    前の下宿先は主人の重さに耐えきれてねぇのか床がところどころ軋んでいたり凹んだりしていたが、そんなこともなかった。部屋も前より広かったし、あたしは即決でここに住むことにした。

  • 7読み手24/04/22(月) 07:26:16

    新しい下宿先の婆さんも良い人そうだった。
    なんだか婆さんに違わずぽわぽわしているが噂好きで、色んな話をあたしに聞かせてくれる。
    …話す時にやたらキリッとするのは面白いからやめてくれと言うと、「申し訳ありません。ですが、クセですので」とこれまた真面目に答えてくれた。愉快な婆さんだ。

  • 8読み手24/04/22(月) 07:38:00

    婆さんと話をしていると、恋の話になった。
    弱った。あたしはこの手の話があんまり好きじゃない。
    ガキの頃は男とばかりつるんでたし、思春期は全て勉強に励んでいたから、あたしは女性と付き合ったことは無かった。
    何故だか貞操を捨てる時は将来の妻だけにと決め込んでいたので遊郭なんかへは勿論行ったこと無かったし、周辺で親しくしていた異性などそれこそ清ぐらいだった。

    「でも先生も隅に置けませんね。東京に奥様を置いているんでしょう?」

    …恋の話になると言葉が砕けるみたいだ。スイッチの切り替わりがよく分からない。
    何の勘違いをしているんですかと聞いてみたら、「とぼけていらっしゃるんですか?毎日のように東京から手紙は来ていませんかと私に尋ねるのに」と少し笑いながら答えた。
    ああ、それは多分清からの手紙が来ているか聞いたからだ。正直その勘違いを訂正するのが面倒臭かったので、清を東京に置いてきた妻として話すことにした。ごめんな清。

  • 9読み手24/04/22(月) 07:48:11

    「でも…手紙来られないんですね。心配じゃありませんか?」
    「いやまぁもう歳だから筆を取るのも…じゃなかった。あの…仕事もあるからさ、忙しいんだろうよ。」
    「まぁ、夫婦揃って共働きですか?性が出ますね。奥様は何の仕事をしているんですか?」
    「えっと…人の身の回りの世話をしたりだとかしています。」
    「家政婦さんとかですかね?…でも、気をつけて下さい先生。何か間違いなどあるかもしれませんので。」

    急に真面目に喋り始めた。
    間違いとは何だと聞いてみると、「勤め先で他の男とうっかり…など」と目線を逸らしながら言ってきた。
    清は今は働いていないし、そもそも70を越えたお婆さんだ。アハハと笑っていると、婆さんは続けた。

    「古賀くん(うらなり君)の許嫁さんも、そのように余裕ぶっていたら盗られてしまったのですよ。」

    驚いた。うらなり君に許嫁が居たと言うのか。
    ちょっと気になったので婆さんに許嫁とはどんな女性か聞いてみた。

    「この辺で1番綺麗なお方で、学校の先生方は『マドンナ』というあだ名を付けていますよ。」

    あたしは驚くしか無かった。

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 07:54:00

    このレスは削除されています

  • 11読み手24/04/22(月) 07:55:58

    赤シャツと野だがニヨニヨしながら松の下に置きたいと言っていた「マドンナ」がうらなり君の許嫁だと言うのだ。てっきり芸者か何かだと思っていたが、婆さんが言うには「滅相もない。良いとこの家の娘さんです」とのことらしい。
    うらなり君と一緒に写った写真があると言うのでどれ、どれほどの女かと思って見てみると、白い歯を見せてニカニカと笑う、愉快そうな背の低い女性だった。 
    驚いた。あたしが野だに引っ張られて想像したマドンナそっくりだった。

  • 12読み手24/04/22(月) 07:58:57

    用事があるので一旦ここまでです。続きは今夜になります。
    もし、また変な書き込みが出た際は夜にちゃんと管理はしますが、皆さんも見かけ次第通報などしていただけると助かります。

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 08:15:13

    グル×タマか…

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 08:23:47

    ここら辺から山嵐とのちょっとした確執も無くなってバディものみたいになってくるから楽しみっすね

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 08:44:13

    やっぱマドンナ役で笑う

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 11:57:02

    この後なんか登場人物出るっけ

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:06:18

    >>16

    特には居なかったような気もする

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:18:46

    たぶん出たとしても赤シャツの贔負の芸者がちょろっと出るぐらいじゃない?

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:25:41

    ネタバレするけどこの後吉川が██まみれになる

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 19:26:47

    マドンナタマモクロス

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 20:21:55

    昨日から今原作読み返してるけど明らかに途中でホームシックになってるんだ
    でホームってどこかというと清のところ
    「嫌いじゃないし悪い人じゃないけどしょうがない婆さんだ」みたいな評価から聖人扱いになるからわかりやすい

  • 22読み手24/04/22(月) 21:05:57

    あたしが盗られたってどういうことだ?と聞いてみると、婆さんは気乗りしなさそうだったが語ってくれた。

    「古賀くん(うらなり君)のお父様はこの辺りでもかなりの権力者でした。マドンナが古賀くんの許嫁だったのも親同士の仲が良かったためです。しかし、最近になって亡くなりまして…。お家の勢いも薄くなっていってしまったのです。お父様が亡くなってからは忙しいのかいつも青ざめた顔をするようになりました。」

    なるほどうらなり君がああなのはそういう事情かと思っていたら婆さんは話を続けた。

  • 23読み手24/04/22(月) 21:13:40

    「古賀くんが忙しくなってからマドンナとは少しばかり疎遠になったようでして。その隙に教頭先生がマドンナを嫁に欲しいと足繁く家に通うようになったのです。マドンナも悪い子ですよ。そんな教頭先生を気に入ってしまうんですから。」

    これは驚いた。ここで赤シャツの名が出るのか。
    人が弱っている間に許嫁を盗ろうとはなんという男だ。

  • 24読み手24/04/22(月) 21:24:41

    あたしが目に見えて憤ると、婆さんはそうだそうだと言いながらまた喋り始めた。

    「堀田くん(山嵐)はご存知ですよね。彼は古賀くんの友人でして、その事を聞いて今の先生のようにとてもお怒りになられたんです。」

    やはり山嵐はあたしに似たところのある気持ちのいい男だ。
    バッタ足音事件の時といい、こういう面倒ごとは見過ごさないタチなのだろう。

    「そして教頭先生とそのことで言い合いになりましてね。教頭先生が「2人の仲が続いている限りは応援する。でも今後どうするのかはお嬢さん次第だ」と言ってその場は治ったんですが、それ以来堀田くんと教頭先生は険悪な関係になったのです。」

    あたしはそんな気持ちのいい男があそこまでの嘘八百を並べるのかと、また疑うようになった。
    何か盛大に勘違いをしてるんじゃねぇかと思うようになってきた。

  • 25読み手24/04/22(月) 21:34:14

    そこから3日ほど経って、学校から帰って来たら婆さんがニコニコしながら封筒を持って来ていた。

    「奥様からですよ。良かったですね!」

    ああ、そういえばそんな嘘をついたっけと思いつつも、あたしは内心ウキウキしながら清から来た手紙を受け取って自分の部屋で読み始めた。
    「久々に文字を書くものだから兄に2、3度見てもらいつつ下書きを書いて清書をしました。遅れて申し訳ございません。」との書き始めだった長ったらしい手紙は、全てがひらがなだったのであまりにも読みにくかったが、それだけあたしの事をまだ想ってくれているのかと思えば思うほど嬉しかったし、愛おしかった。

  • 26読み手24/04/22(月) 21:51:55

    あたしがじっくりと清からの手紙を読んでいると婆さんが晩飯を持ってきてくれた。
    「長いお手紙ですね。いい奥さんじゃありませんか」とキャイキャイしながら言ってきたので、なんだか恥ずかしかった。
    晩飯を見やるとまたサツマイモを煮たヤツだ。昨日も一昨日もその前も芋だった。
    前の下宿先と違って婆さんはあまりにも良い人だし面白い人であるが、唯一飯がまずいのだけが欠点だ。
    ここは田舎なのでどこも大体は飯が美味いが、婆さんの飯だけは何故だか違った。天ぷら蕎麦も団子も禁止にされた今、この飯だけがあたしの晩飯なのだがこうも芋ばかりではうらなり君みたいに顔の色が変わってしまうかもしれない。
    でもまぁやっぱり婆さんは良い人なので、文句は大っぴらに言わなかった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 22:00:17

    (おにぎりを作ると思った)

  • 28読み手24/04/22(月) 22:10:27

    清からの手紙を読んでいたので銭湯に行くのが遅れちまった。
    銭湯に行くのには汽車を使うので駅で待っていると、うらなり君が1人で立っていた。
    あの婆さんからの話を聞いて以来、前から顔色のことで気の毒に思っていたうらなり君が更に気の毒に思えちまって、ついつい声をかけた。

    「こんばんは。今日は遅いじゃないですか。」

    挨拶の時は「〇〇だ」とか強張った口調で喋っててなんだと思ったが、どうやら学校でだけそういう風になるらしく、外ではこうして礼儀正しい。
    分野は違えど婆さんと同じような感じだろう。
    あたしはうらなり君が駅で汽車を立って待っているのさえ気の毒に思えて、「遠慮せずに座れよ」と言ってやった。「ありがとうございます」と、うらなり君はあたしの横に腰掛けた。

  • 29二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 22:12:07

    >>25

    元がアイルランド設定だから全部ひらがなのお手紙は想像しやすいな

  • 30読み手24/04/22(月) 22:23:38

    しばらく話し込んでいると「古賀」と、女の大きな声が聞こえた。
    なんだなんだと辺りを見てみたらそこにはマドンナが立っていた。
    写真で見るより実物の方がチンチクリンに思えて、うらなり君はよくもまぁこんな成りで他の男になびきそうになるような女を好きになってしまったもんだとまた気の毒に思った。

    「遠山さん(マドンナ)、あなたも銭湯ですか?」

    へぇ、珍しい。うらなり君がニコニコデレデレしている。あんな顔を見るのは初めてだ。

    「いや、ちょっと野暮用あってな。今さっき終わったところやから列車乗ってそんまま帰ろおもて。そしたら古賀が見えたから声かけた感じや。」

    なんだマドンナ。やけに変な喋り方をする。
    あたしはこの人生で初めてこんな喋り方をする人間を見かけた気がする。そもそもマドンナと言うぐらいなのだから外国の言葉かとも思ったが、ところどころ若干意味は理解できたのでやっぱり日本語だ。

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 22:25:32

  • 32二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 22:27:52

    関西弁は外国語だった

  • 33読み手24/04/22(月) 22:34:02

    うらなり君とマドンナが喋っていると、また1人人影が見えた。

    「ごめーん!遅くなって…って、わぁっ!」

    おや、あれは赤シャツじゃないか。
    うらなり君に最初気付いていなかったのかマドンナにだけ喋りかけて、その後気付いて「わぁっ」とはなんとも失礼なヤツだ。
    さっきまで色艶の良さそうだったうらなり君の顔色がまた悪くなるのが見えた。仕方もないだろう。おそらくマドンナの言っていた"野暮用"とは赤シャツとのことなんだろうなとあたしでも察しがついた。

    「あ、教頭先生もこんばんは…。」
    「こ、こんばんは古賀先生…!」
    「あ!古賀!えっと…これはやなぁ…!」

    はぁ…あたしはなんて修羅場を見ているのだろうか。
    やっぱり恋愛は苦手だ。人のものでさえ辟易すんだから自分のなんてよっぽどだ。

  • 34読み手24/04/22(月) 22:39:36

    オロオロしてたら汽車が来た。
    赤シャツがなんか忙しなく乗り込んで、その後マドンナが乗り込んだ。
    うらなり君は肩を落としてトボトボ歩いてたので「大丈夫か?」とあたしは一緒になって乗ってやった。まったく気の毒だ。本当の本当に気の毒だ。

  • 35読み手24/04/22(月) 22:55:40

    銭湯ではうらなり君と一緒になった。
    気も紛れるかなと思ってこっちから話を振ったが「ええ」とか「はい」とかしか言わなくなっちまってて、こっちから話すのをやめた。
    赤シャツは見かけなかった。まぁ風呂はいっぱいあるんだから会わないこともあろうよ。

    風呂から上がって辺りを散歩する。あたしの日課だ。こうすると髪もよく乾く。
    今日はやけに月が綺麗だ。昼みたいに明るい。
    散歩中、あたしがバカにされて出禁になった団子を出してくれる茶屋の前を通って、他にもお汁粉やら刺身やら書いてある店の暖簾をくぐりたくなるのをグッと堪えていると、遠くの方で月明かりに照らされた二つの影が見えた。
    二つの影はテッペンの辺りの一部がピタリとくっ付いていて、流石のあたしでも何をしているのか理解が出来た。
    こんな道の真ん中で大胆なカップルだと思って早足ですれ違うと「ん?」とあたしは思った。
    気になったのでもう一度引き返してみると、先ほどの二つの影は赤シャツとマドンナだった。

    「わ、わぁっ!い、行こっ!!!」

    赤シャツはマドンナを連れて慌ててどこかへ走って行ってしまった。
    あたしはうらなり君のことを考えると辛くて、同じぐらい顔が青くなりそうだった。

  • 36二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:00:15

    100年前からNTRってジャンルあったんだねとなる

  • 37読み手24/04/22(月) 23:07:49

    あの日以来、仲違いした山嵐とは今も口を利けていない。
    貸しはいらねぇと思って初日に奢ってくれたかき氷代を職員室の机の上に置いたが、受け取る様子も無くホコリをかぶっていた。
    会議の時やうらなり君に関する話を聞く限りでは気持ちのいい男なんだろう。
    実は会議の後に謝ろうと思って喋りかけたら「なに?」とだけ言われてそのまま歩いて去られたから、こっちもムキになってそれ以来だ。

  • 38二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:08:01

    畜ゾーやりたい放題ですね

  • 39読み手24/04/22(月) 23:13:52

    逆に、気持ちの良くない男である赤シャツとはたまに喋る仲だ。自分でも妙に思う。
    次の日に赤シャツの方から喋りかけてきたので「昨日は2回ほど会いましたね」と言うと、「うん、駅と湯船でだよね」とナチュラルにマドンナとの密会は無かったことにされていた。近くにうらなり君が居たからだろう。
    これを聞いてあたしはやはり赤シャツは曲者だと思った。
    最初は声がデカくてニコニコしているヤツかと思ったが、思ったより腹の中は読めないモノだ。

  • 40二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:21:27

    >>36

    江戸時代には北斎が大蛸×海女という疑似触手ものを描いていた国だぞ

  • 41読み手24/04/22(月) 23:26:52

    「ねーねー!今日ちょっと時間ある!?お話があるんだ!」

    赤シャツがそんなことを言ってきた。
    あたしもお前に話したいこといっぱいあるぜとか言いかけたし、銭湯へ行く暇も惜しかったが行くことにした。

    赤シャツは教頭の立場だから既に下宿なんて出て、立派な家を構えていた。売り払ったあたしの実家と同じぐらいに思う。ただ、こんな広い家に一人暮らしらしい。
    玄関の前でごめんくださいと言うと、赤シャツとは違う人間が出てきた。

    「ウェーイ!お客さんご来訪カモン☆来てくれてマジ感謝丸的な!?靴アウトオブぬぎぬぎして、廊下ぶっかました先の個室でしばらくしたら爆上げっから、ちょっち待ってねしくよろちゃん!」

    ………どうやら外国人のようだ。
    まるで意味が分からなかったので、適当に廊下の突き当たりの部屋に入ってみた。
    しばらくしたらその部屋にうるさく入って来てお茶を出してくれたので、どうやら正解だったらしい。

    ………でもこの外国人どこかで…。

  • 42読み手24/04/22(月) 23:34:31

    しばらくすると赤シャツがやって来た。
    あの外国人に置いていったお茶を啜ると、赤シャツは喋り始めた。

    「実は、キミの給料を上げることになったんだ!嬉しい!?嬉しいでしょ!」
    「はぁ…。」
    「…なんだかビミョーだね!あんまり嬉しくない?」
    「いや…何で急にそうなったのかなって…。あたし、生徒に舐められてばっかで良い先生出来てるとはあんまし思えねぇからさ…。」
    「いやー、実は今度学校を辞める人が出てね…。」
    「辞める?誰がですか?」
    「古賀先生!」

    …は?

  • 43読み手24/04/22(月) 23:46:48

    うらなり君が学校を辞める?どうしてそんな急に…昨日駅で喋った時はそんなそぶり一つも無かったのに。

    「…こ、古賀くんはここで生まれた人じゃないですか。どうしてそんな…。」
    「本人の希望だよ!宮崎の延岡の方でここよりも給料の良い学校があってね!そこに行くことになったんだ。」
    「はぁ…。後任とかは居るんすか?」
    「うん!その新しい子を安く雇うから、キミのお給料が上がるよって話だよ!忙しくなるね!」
    「働く時間は増えるんすか?」
    「えっと…減るかもね!でもキミにはその分責任を持ってもらおうと思って!」

    なんか妙だ。
    責任を持ってもらおうったってそもそも数学の主任は山嵐で、あたしはいわゆるサブでしか無い。
    もちろんうらなり君が担ってる英語なんて出来もしないから責任を持つべきとか言われても何を持てばいいのかと思う他なかった。

  • 44二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 07:55:04

    続き待機ほしゅ

  • 45読み手24/04/23(火) 08:00:15

    そういえば聞いてねぇことがあったから帰りに赤シャツに聞いてみた。

    「あの…教頭は1人暮らしなんだよな?」
    「そうだよ!」
    「あたしの対応をしてくれたあの…うるさいのは誰だ?」
    「あぁ!お茶を置いたりしてくれた?それならアタシの弟だね!」

    なるほど弟か。確かにやかましさは似ていると、妙に納得した。

  • 46読み手24/04/23(火) 08:01:22

    下宿に帰ってモヤモヤしていると、婆さんが晩飯を運んできてくれた。
    今日も芋か?と聞いたら「今日はおにぎりです」と答えた。おぉ、米なんて握れたんだと思って食べたらなんだか塩っ気が強すぎてやっぱりまずかった。

  • 47読み手24/04/23(火) 08:03:01

    婆さんはうらなり君と顔見知りなので、ふと今日の転勤の話を聞かせてやるとやっぱり知っていた。
    相変わらずこの婆さんは何でも知っているなと感心したが、あたしの天ぷら蕎麦だとか団子だとかの話も知ってそうで、そもそもするつもりも無かったが邪険に扱うのはやめとこうと思った。

    「しっかしよぉ、古賀くんも古賀くんだよな。マドンナもお家もキッパリ諦めて延岡まで好き好んで行くなんて…よっぽど給料が良いのか自然が好きなのかねぇ。」
    「え?好き好んでなんてとんでもない。とても気の毒な話ですよ。」
    「え?でも教頭がそう言ってたぜ?」
    「教頭さん…!?またあの人…。」

    婆さんはしばらく黙ってしまった。
    何か知ってるようなので、聞かせてくれと婆さんに言ったら真剣な口調で喋り始めた。

  • 48読み手24/04/23(火) 08:04:39

    「…少し前、古賀くんのお母様が学校にお話をしに行きました。話の内容は『古賀くんの給料を上げてくれ』というものです。」
    「給料を…?」
    「はい。この前、古賀くんのお父様が亡くなられた話はしましたよね?そこから徐々に古賀家の生活は苦しくなりまして、その流れで先ほどの話をしたそうです。ですが先日、古賀くんが学校から呼ばれたら教頭先生と古川先生(野だ)が居たらしくて…。」

  • 49読み手24/04/23(火) 08:05:40

    「ごめんね古賀先生!相談してくれたところ悪いけど、キミの給料は上げれなさそうなんだ…!」
    「そうですか…。学校も大変なのにこちらも変なことを言って申し訳…
    「でもねっ!延岡の学校が人手に困ってるらしくて、そこならここよりも給料良いよ!希望通りで良かったね!もう手続きは済ませといたから、安心してね!」
    「て、手続きは済ませたって…。私はまだ生まれ育ったここに居たいんです!そんなこと急に言われても…。」
    「アンタの代わりは既に雇う手筈になってる。もう変えれないことだ。」
    「そんな…。」
    「まぁ良いじゃないか。延岡の方は自然が豊かだそうだ。遊びは少ないかもしれんが、そもそもアンタは遊びに行ったりするタチじゃないだろ?お母さんと空気のいいとこで過ごすといいさ。」
    「………。」

  • 50二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 08:06:07

    ここでおにぎりネタを拾ってくるのか
    脱帽

  • 51二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 08:06:22

    しょっぱいねシーザリオ

  • 52読み手24/04/23(火) 08:07:25

    「と、こんな具合だったようです。」

    なんてヤツらだ。そんなの相談じゃなくて命令じゃねぇか。
    うらなり君を無理矢理異動させた結果浮いて出てきた金なんか受け取れるかよと思って、あたしは肩を震わせてもう一度赤シャツの家へ向かった。

  • 53読み手24/04/23(火) 08:10:14

    ホスト規制で書き込めなかった分を載せて、続きは今夜となります。
    もしかしたら今夜で完結するかもしれませんので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

  • 54二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 08:35:29

    乙です
    本当におにぎりを作るとは
    甘いとしょっぱいのしかないのかわいそうだな

  • 55二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 11:49:34

    うらなりくん不憫すぎん?救いは無いのですか~?

  • 56二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 19:25:56

    >>55

    原作では……

  • 57二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 19:29:39

    >>55

    原作ではそれっきり…

  • 58読み手24/04/23(火) 20:08:36

    赤シャツの家に着いたあたしは、赤シャツの家の戸を強く叩いてやった。
    そうするとまた赤シャツの弟が出てきやがった。弱った。コイツは外国の言葉を使うから苦手なんだ。

    「え〜!?どういう風のぶん回し!?めちゃさっき来たばっかな先生じゃ〜ん☆ウェイウェーイ!」
    「ゴホン…兄貴はどうした?」
    「奥のほーでヨッシーとワンダホーってカンジ!カントゥーヤしてぱないぐらいテンアゲ的な!?」

    相変わらず何を喋っているのか分からないので、あたしは勝手に上がって部屋の襖を一つ一つ開けて行った。
    しばらくすると1番奥の部屋から赤い顔をした赤シャツが出てきた。顔まで赤くなってちゃ赤シャツどころか「赤」そのものって感じだ。
    あたしを見て「あれ〜?」とか不思議そうに呆けているのでこっちから切り込んでやった。

  • 59読み手24/04/23(火) 20:18:32

    「教頭先生。さっきの増給の話だけど無しにしてくれ。受け取れねぇよ。」
    「なんでなんで〜!?お給料が上がるのは良いことじゃん!」

    呂律が回ってない。顔も赤いし酔ってんのか?

    「酔ってんなら目ぇ覚まさせてやるよ!だから、古賀くんを陥れて出てきた金なんて、一銭ももらえねぇって言ってんだ!」

    あたしがそう言ってやると赤シャツはいつに無く暗い怖い目で喋り出した。

    「それ、誰から聞いたの?」

    見たこともない赤シャツの顔に思わず身震いしそうになったが堪えた。
    宿の婆さんがうらなり君のお母さんから聞いた話をあたしに聞かせてくれたんだと言うと、赤シャツはいつもの調子に戻ってアハハと笑い始めた。

    「それは宿のお婆さんが嘘つきだよ!単純だなぁ坊ちゃん先生は!アハハハハ!」

    この野郎…野だに続いてコイツも「坊ちゃん」って呼びやがって…!

  • 60読み手24/04/23(火) 20:29:21

    「あの婆さんは飯は不味いが、それ以外はこの辺の人間と違ってよく人の出来た婆さんだ。婆さんのことを悪く言うんなら許さねぇぞ。」
    「じゃあキミは自分の上司の言うことは信じれなくて、泊めさせてくれてるだけのお婆さんの言うことを信じるってこと!?」

    あたしは何も言えなくなっちまった。
    コイツ…伊達に東大を出てねぇ。変に頭の回転が早いヤツだ。

    「……確かに婆さんは万が一、億が一嘘つきかもしれねぇが、それでも増給はゴメンだぜ。」
    「まぁそれならそれで良いよ!でも2〜3時間でそんなに意見が変わっちゃアタシたちもキミのこと信じれなくなっちゃうな!」

    へっ!ハナっから信頼なんざしてねぇくせに良く言う。
    舌で負けたあたしはとにかく増給はゴメンだと言い捨てて1人で帰った。

    「…ん?」

    玄関に野だがいつも履いている靴が見えた。
    そうか。赤シャツは野だと飲んでいたのかと思っていると、奥の方から「来るに賭けてよかったぜ〜!」と呂律の回っていないひょうきんでいけすかないアイツのデカい声が聞こえた。

  • 61二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 20:36:06

    ヴィランチケゾー新鮮である

  • 62読み手24/04/23(火) 20:44:58

    程なくして、うらなり君の送別会が行われる日が来た。
    学校に来てみると山嵐が急にあたしのところに走ってきて、いきなり頭を下げてきた。

    「本当にごめん!この通り…!許してくれないかな!?」
    「な、なんのことだよ…。」
    「前の宿でいざこざがあったって話さ!ちょっと前にあそこの宿屋の主人が詐欺で捕まってね。気になって色々聞き回ってたら、彼はキミに偽物の壺やら絵やら何やらをしつこく売ろうとしてたって言うじゃないか!」

    どうやらあんまりにもあたしが買わないもんだから痺れを切らして山嵐に嘘を吹き込んで出て行ってもらうよう言わせていたらしい。まったく最後まで迷惑な爺さんだ。
    この辺はニコニコしてるヤツに限って胡散臭いような気がする。

  • 63読み手24/04/23(火) 20:53:04

    「冷たく当たって本当にゴメン…!キミは素直な人だと思っていたから、その話を聞いた時は余計に許せなく思って…。」
    「いいっていいって!顔上げろって!男にウダウダ泣きつかれんのはゴメンだぜ。」
    「さ、流石に泣いては無いさ。でも、ありがとう。」

    あたしは気持ちがスッキリしたから、山嵐の机の上に置きっぱなしだったかき氷代を回収した。
    山嵐はなんだか不思議そうにその様子を見てたんで、「お前なんかに奢られるのはまっぴらだ」と思っていたから置いてたが勘違いだったみてぇだと言ってやったら、よかったよかった貸し1だとニコニコしていた。あたしも釣られて笑っちまった。

  • 64読み手24/04/23(火) 21:00:33

    「キミは古賀くんの送別会には行くのかい?」
    「あぁ勿論だ。見送りもする予定だ。」
    「見送りって…九州だから多分船だよ?まさか浜まで行くのかい?」
    「おう、そのまさかだ。」
    「…やっぱりキミは気持ちいい人だ!アハハ!」

    山嵐は急にあたしの手を握るとニコニコしながらブンブン握手をした。
    …お前こそ、笑顔の似合ういいヤツだ。

    あたしたちは誤解を解いて晴れて友達になった。

  • 65二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 21:14:34

    シビエス助かる

  • 66読み手24/04/23(火) 22:06:07

    あたしは山嵐に話しておきたいことがうんとあったから学校終わりに自分の下宿へ誘ってみると、とてもノリノリでOKしてくれた。部屋に誰かを連れ込んだのは初めてだ。
    あたしはまずマドンナ事件について喋った。ただまぁこれに関しては山嵐の方がよく知っている。
    逆に色々と山嵐から聞く羽目になった。

    「マドンナは大阪から来た子でね、妙な喋り方だと思っただろ?」
    「古賀くんとの馴れ初めは、古賀くんが街の花壇のお世話をしている時にね…。」
    「ただマドンナの洒落はつまらないらしくて、古賀くんはいつも悩んでて…。」

    なるほど面白い話を聞かせてくれた。
    あたしが銭湯の近くで赤シャツとマドンナがキッスをしていたのを見た話をすると、山嵐は顔を窄めた後に「見る目が無い見る目が無い」と言いながらコロコロ笑っていた。

  • 67二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:06:08

    このレスは削除されています

  • 68読み手24/04/23(火) 22:14:58

    ここからが本題だ。前に赤シャツがあたしの給料を上げてやる、責任は持ってくれと言っていた話をした。

    「ははーん。多分だけどアタシを陥れて辞めさせるつもりだ。」
    「え!?な、なんでそんな話になんだよ!?なんでアンタが辞めるって…。」
    「だって、キミも不思議に思ったんだろ?なんで責任持たなきゃいけないのかって。それはアタシを近々辞めさせるからだよ。アタシは教頭…いや、キミ風に言ったら赤シャツ?フフッ、いいあだ名だ。赤シャツに嫌われてるからね。何回も何回も口答えしてきたから遅かれ早かれ消すつもりだったんだろうさ。」
    「相変わらずなんてヤツだ。でもアンタも黙って辞めさせられる訳にはいかねぇだろ?」
    「うん。アタシが辞めさせられる時は赤シャツも道連れだ。」
    「どうやって?」
    「……どうやるんだろうね!分かんないや!」

    山嵐はたまに何も考えてない時があるのが玉に瑕だ。あれだけ舌も回るし地頭も良さそうなのにたまにこうやってキョトンとする。
    辞めさせられるかもしれないのに呑気なヤツだ。

  • 69読み手24/04/23(火) 22:20:57

    あたしは一応うらなり君の転勤の件を引き留めたりはしたかと聞いてみた。
    もちろん山嵐の答えは「うん」だ。
    実はタヌキに2度、赤シャツに1度、実際に話に行ったようだが既に決まったことなのでと言われたらしい。
    どうやらうらなり君は転勤の話を聞かされたその時に、引き下がったり意見でも述べたら良いのにすぐに了承してしまったというので、うらなり母が学校に泣きついても、山嵐が3回も相談しに行ってもどうしようも無かったと言うのだ。
    まったく…親切なのはいいがもっと自分のことを大切にしてほしいと思った。

  • 70読み手24/04/23(火) 22:27:37

    話をしているうちにあたしはどんどんどんどん赤シャツと腰巾着の野だをとっちめたくなった。
    送別会が終わった後にでも1発入れてやろうと言うと、山嵐はあたしを冷静に諫めた。

    「今日はやめよ。古賀くんが気の毒。」
    「…それもそうだな。悪かったよ。」
    「んーん!でも、赤シャツと野だが悪いことをしている瞬間でも見つけたらアタシも考えるよ。それ以外の時にやったら逆にアタシたちが不利になる。」

    うーんやっぱり地頭はキレるヤツだ。こういうのを俗に「天才」と言うのだろうか。

  • 71読み手24/04/23(火) 22:35:18

    話し込んでいる内にそろそろ送別会の時間だ。
    あたしは迎う道中で山嵐にあるお願いをした。

    「古賀くんを褒めてほしい?」
    「あぁ!あたし、あんまり人前苦手でよ…。」
    「会議で焦ってたの見てるから分かってるよ。」
    「うぅ…今その話すんなよ。んでさ、あたしがそういう場に出たらアガっちまうからアンタに頼みたいんだ。」
    「台本とかはあるの?」
    「ねぇよ!あたしよりも遥かに古賀くんと付き合いの長い自分で考えてくれ。」
    「キミさぁ…。まぁいいけどね。その代わり、出てくる料理の少しをアタシにちょーだいね。」

    そんぐらい安いもんだと言いながら、あたしと山嵐は汽車に揺られて送別会の会場へ向かった。

  • 72読み手24/04/23(火) 22:58:23

    送別会の会場はここらで1番大きいという料理屋だそうだ。へぇと感心しているように、あたしはもちろん知らなかった。
    あたしたちが着いてみるともう既に人の塊が2、3個出来ていて、タヌキ、赤シャツ、野だの姿も見えた。
    奥の方にはうらなり君が相変わらず申し訳なさそうな青い顔をしていた。全くこんなに人が来ているというのにとも一瞬思ったが、行きたくもない転勤先への送別会なんか気まずいに決まっていると思って、こっちも申し訳なくなった。

  • 73読み手24/04/23(火) 23:14:06

    時間になり、まず羽織と袴を着たタヌキが前に座り、右に同じく赤シャツが羽織と袴で座った。
    他の参加者も続々と座った。
    あたしは後ろにちょうどもたれやすい柱があるところに座った。
    最後に拍手に囲まれて日本服を着たうらなり君がやって来て、またまた申し訳なさそうにお辞儀するとストンと座った。

  • 74二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 03:07:11

    1銭5厘回収イベントは熱いよな

  • 75読み手24/04/24(水) 08:13:36

    おはようございます。
    昨日はホスト規制などありあまり書けなくて申し訳ありません。もう少し続きます。

  • 76二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 09:02:37

    待ってました無理の無い範囲で頑張って下さい

  • 77二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 14:17:43

    結構進んでる!いよいよ佳境やね

  • 78二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 19:48:03

    待ってます!

  • 79読み手24/04/24(水) 21:19:02

    まずはタヌキが送別の辞を読んだ。
    そういえばあまり触れていなかったがタヌキはよくわからないヤツで、基本的に学校にあまり居ない。
    校長なんて普段どこで何をやっているのかもよく分からない役職ではあるが、見かけたら見かけたで席に座って独り言を喋っているので気味が悪い。

    「古賀先生、まずは4年間お疲れ様でした。わたしはその場に居なかったので後でその話を聞いた時はとってもビックリさんだったのですけど、宮崎の方でもよろしくやれる子だと校長は思いますよ。」

    相変わらずタヌキはトロトロした喋り方で眠たくなる。集会で生徒が数人立ってぐうぐう寝ているのも仕方ねぇな。

  • 80読み手24/04/24(水) 21:27:51

    タヌキが喋り終わって、次は赤シャツが立って辞を読んだ。
    あたしは驚いた。なんと赤シャツは辞を読みながら泣き始めやがったんだ。

    「うおおおおおおん!!!古賀先生!いや、古賀くぅぅぅぅぅぅん!!!アタシの大切な友達とこんな形で離れ離れになるのは嫌だよぉぉぉぉぉ!うおおおおおおおん!!!」

    コイツ…今どんな感情でいやがんだと思ってイラついてたら、向かい側に居た山嵐もあたしと同じような顔をしていた。
    山嵐が肩をすくめて「やれやれ」みたいなジェスチャーをしながらアイコンタクトしてきたので、あたしは返事として眉間にシワを寄せながらあっかんべーをした。
    山嵐にはウケたようで、「それ傑作!」みたいなジェスチャーをされた。

  • 81二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 21:30:31

    この畜ゾー怖いよ

  • 82二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 21:33:28

    原案イラストがなんだか腹の中の読めなさを増している気がする

  • 83読み手24/04/24(水) 21:40:17

    赤シャツが辞を読み終えて鼻水を拭きながら座ると、山嵐が「アタシもいい?」と言いながら立ち上がった。
    こういう時にアイツの自由なところは便利である。タヌキも赤シャツも周りのヤツらも呆気に取られて誰も何も言わなかった。

    「まずは古賀くんお疲れ様。さっき校長先生と教頭先生は、古賀くんが居なくなるのが辛いって言ってたけど…アタシは逆かな。古賀くんには一刻も早くここから出て行ってもらいたいぐらい!」

    周りがザワザワする。
    山嵐は気にすることなくそのまま続けた。

    「なんでかって言ったら、延岡はやっぱり自然も多くて人もおおらからしいね。確かにここと比べたらちょっと不便なところもあるかもしれないけどさ、それでも…心に無いお世辞や嫌味を遠回しに言ったりだとかする人は向こうにはきっと居ないよ。キミはとっても良い人だから向こうの人も歓迎してくれるはずさ。向こうでキミに真剣に向き合ってくれるいい女の子でも見つけて、色んなこと忘れよーよ!ね!頑張ってきてね古賀くん!」

    あまりの名文にあたしは拍手をしてやりたいぐらいの気持ちだった。
    うらなり君の方をチラッと見たら、どこか嬉しそうな顔をしていた。

  • 84二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 21:44:30

    送別会の空気が...

  • 85読み手24/04/24(水) 21:53:07

    山嵐が周りを見ながらニコニコと座ると、最後にうらなり君が立った。
    うらなり君はご丁寧に席の端まで行って挨拶をした後、喋り始めた。

    「まずは、一身上の都合で延岡まで渡ると言うのにこのような豪華な会を開いてくださって、誠にありがとうございます。校長先生、教頭先生、そして堀田先生の辞はとても私の胸に響きました。3人ともありがとうございます。私はこれから遠方へ参りますが、どうか、こんな奴が居たなと時たまに思い出してくれれば幸いです。最後に改めて、この度は誠にありがとうございました。」

    そう言いながらうらなり君は静かに座った。
    相変わらずお人好しなヤツだ。タヌキの中身のない辞と、赤シャツの気味の悪い辞にも心から感銘打ったようで、本心で言っていた。
    でもそんな優しいのがうらなり君の良さでもある。
    ここへ来て良かったなと思ったことは今に至ってもあんまりねぇけど、こんな人の出来たヤツに出逢えたことは今まで学校や本を見るよりも何よりも勉強になった。

  • 86読み手24/04/24(水) 22:06:12

    しばらくして料理が来た。
    ここらで1番の料理屋だと言うんだからさぞ美味いもんでも出て来んのかと内心ワクワクしていたら、どれもこれも釣りの餌に使うのかと思うぐらいの量で肩を落とした。
    食べてみると下宿の婆さんよりはちょっとマシぐらいで、普通に美味くなかった。

    その内、お酒が振る舞われると急に送別会の雰囲気が目に見えて明るくなってきた。
    野だがタヌキの前に出て、器用な舌で何やらペラペラ喋っているのが見えた。相変わらずなヤツだ。

  • 87読み手24/04/24(水) 22:16:53

    しばらくすると一人一人に挨拶をしていたうらなり君があたしの前に来た。

    「先生、短い間でしたがありがとうございました。」
    「あたしこそ、アンタにはいっぱい恩がある。九州へはやっぱり船か?」
    「はい。その予定だと聞いています。」
    「その船さ、いつぐらいに出んだ?見送ってやりてぇと思って。」
    「そんな!おそらく出るのは平日ですし、先生に申し訳ないですよ!」

    うらなり君はそんなことを言っていたが、あたしは学校を勝手に休んででも見送ってやるつもりだ。

  • 88読み手24/04/24(水) 22:29:03

    見送りの話をしているとうらなり君がフフッと笑い始めた。あたしがうらなり君の笑った顔を見るのはこれが初めてだった。
    おいおいそこまで面白い話もしてねぇだろうにと言ったら「違うんです」と言った後にうらなり君はこう続けた。

    「堀田くんの言っていた通りの良い人だなと思いまして。彼、先生のことを良いあだ名で呼んでいたんですよ。」
    「良いあだ名?どんなだよ。」
    「彼はエースだ、と。」
    「エース…?」

    あたしは英語が出来ないから、『エース』という言葉がどんな意味なのか分からなかった。
    ちょうど目の前に英語の大先生がいらっしゃるので意味を教えてもらった。

    「そうですね…。直訳すれば「第一人者」とか、「最高」などの意味はありますが、堀田くんの言い方的には「大将」とか「要」的な使い方なのかなと。」
    「へへっ…大将なんて…。なんだか恥ずかしいな!面と向かって言ってくれてもいいのによ。」
    「でも、私も貴方をそう思います。色々とありがとうございました。」

    最後にうらなり君はにこやかに笑って次の人のところへ向かって行った。

    エース…エースなぁ。初めて聞いたがなかなか良い響きじゃねぇかとあたしはいたく気に入った。

  • 89読み手24/04/24(水) 22:38:09

    しばらくして、酒でだいぶ会の雰囲気も悪い意味で明るくなってきたところで芸者が数人やって来た。


    芸者たち dice3d114=17 110 49 (176)

  • 90二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 22:40:41

    いやこの流れでカイチョー芸者役かよ

  • 91二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 22:41:44

    ついに3人揃っちゃったよ

  • 92二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 22:44:36

    芸(ダジャレ)

  • 93二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 23:05:29

    まあ盛り上がってきたとは言っても悪い意味でだし空気を切り替えてくれそうではある

  • 94読み手24/04/24(水) 23:11:39

    「ご機嫌よう諸君。今から私たちが舞を見せるので、是非とも皆様は歌舞優楽としていてくれ。」

    1番上品で威厳がありそうな芸者がそう言うと、3人の芸者はそれぞれ舞を披露し始めた。

    しばらく舞っていて…。
    …まったく、助平なヤツらだ。教師たちが1番胸のデカい芸者にとても色目を向けているのがあたしでも分かった。さぞ可哀想である。
    しかし芸者なんて仕事をしていればこんなことは日常茶飯事か…。

    やたら厚化粧で爪の色が変な芸者は赤シャツと顔馴染みだったようで、近くに行って乳繰り合っていやがった。そこに野だも混ざってやけに楽しそうだった。

  • 95二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 23:18:01

    チケジョーナカヤマと妙に絡みやすい面子になってるのダイスの妙すぎる

  • 96二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 23:23:35

    >>95

    同室に同期だもんね

  • 97二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 06:53:02

    保守

  • 98読み手24/04/25(木) 08:16:45

    おはようございます。
    ホスト規制が明けるのが大体朝8時なので皆さんの保守や感想が嬉しく思います。
    このペースだとまだもうしばらく続きそうかなと思いますので、申し訳ありませんがお付き合いいただけると嬉しいです。

  • 99二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 12:54:27

    応援してます!

  • 100読み手24/04/25(木) 20:20:50

    「教頭さんじゃ〜ん!こん〜。弟も元気にしてる系?」
    「ち、ちょっとちょっと!人も多いからさっ!あんまりいつもみたいな感じは…!」
    「おいおい!今日の教頭サマはつれねぇな!なぁ嬢、教頭先生はこんな調子だからよ、今日は私と飲もうぜ。」
    「は〜?吉川と飲む酒なんてねーし。アンタ酔ったらチンチロとかポーカーせがんで来てうぜーからあんま飲ませたくねーんよなー。」
    「アルコールが脳みそに入った時にする賭けが1番ヒリつくんだから仕方ねぇだろうがよ。」
    「アンタが酔う時大体あたしシラフだから楽しくねーっつってんの!」
    「ふ、2人とも声おっきいよ…!」

    まったく…乱れた話をしてやがる。
    精神的娯楽をしましょうとか言ってたクセして、なんだか芸者と楽しそうじゃねぇかよ赤シャツさんよ。
    そんな気はしてたが野だは酔うとダル絡みするタチらしく、芸者も赤シャツも困ってやがってた。

  • 101読み手24/04/25(木) 20:34:50

    酒が回って芸者も来て、バカ共はうらなり君の送別会だというのも忘れてどんちゃん騒ぎだ。
    元々酒が飲みたくてバカ騒ぎがしたくてここに来たんだろう。最後の最後までうらなり君は気の毒だ。こんな送別会なら開かなかった方がマシだったとさえ思えた。
    あたしは酒が嫌いなんで周りのバカ共に呆れつつ、うらなり君の側に行ってやった。

    「おい、大丈夫か?」
    「あ、エースさん。いえ、お気になさらず。ありがとうございます。」
    「エ、エースさんって…アンタもなかなかノリが良いじゃねぇか。酒は苦手か?」
    「はい。ただでさえ顔色が悪いのにこれ以上悪くするのは…と思いまして。」
    「ははっ、それもそうだな。赤が混ざって紫って具合か?そりゃいけねぇや。」

    2人で笑っていると山嵐も横に座ってきた。

    「どんな話してんの?あたしも混ぜてよー。」
    「おう、アンタがあたしのことを変なあだ名で呼んでる話で盛り上がってたとこだぜ!」
    「えー!?良いと思わない?エースってあだ名!少なくともエースがあたしに付けた『山嵐』よりはマシだろ!?」
    「いいじゃねぇかアンタいかにも山嵐って言葉が似合う快男児だからよぉ!」
    「えー!ヤだよそんな厳ついあだ名!」
    「フフッ…。二人とも、とてもいいあだ名だと思いますよ。」

    うらなり君が笑いながらそう言ったので、あたしと山嵐は見合わせてから一緒になって笑った。

  • 102読み手24/04/25(木) 20:52:22

    3日ほど経って、うらなり君が旅立つ日になった。

    平日の真っ昼間だったんでそこまで見送りに来る人は居なかったが、暖かい雰囲気に包まれていた。
    うらなり君はと言うと、送別会と同じように一人一人に律儀に挨拶をしていた。うらなり母も隣に並んで一緒だった。
    あたしが「よっ」と軽く挨拶すると、うらなり君は嬉しそうに近くに寄って来てくれた。

    「エースさん、寂しくなりますね。一緒に居たのは短い間でしたけど、最後にいい友人が出来ました。」
    「おう。あたしもアンタのこと忘れねぇからよ、アンタもあたしのこと忘れんじゃねぇぞ!分かったか?」
    「…はい!」

    元気よく応えるうらなり君の顔はもう青く無かった。
    ただの人のツラって言えばツラだが最後の最後にいいモンを拝めて、あたしはなんだか無性に嬉しかった。





    「皆さん、さようならー!」
    「じゃあなー!」

    船に乗って手を振るうらなり君が水平線の向こうに行っちまうまであたしは手を振り返してやった。
    あたしは今日まで、約束通りうらなり君のことを忘れた日は無かった。

  • 103二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 20:59:23

    原作にはうらなり君との別れのシーン無かったよね?
    少しは救われてよかった…

  • 104二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:02:16

    現代の読者「うらなりってなんだろう?昔の言葉かな」
    坊ちゃん「そういやうらなりって何だ?清が言ってたけど清も意味分からずに言ってそう」
    現代の読者「いやお前も知らんのかい」

  • 105読み手24/04/25(木) 21:04:11

    しばらく経って、今日は式があるとのことだ。
    なにやら国と国との喧嘩でコッチが勝ったらしい。
    あたしは自分に関する喧嘩以外は知らねぇしと思って気にも止めてなかったが、外に出てみりゃ街中お祭り騒ぎだった。
    学校も休みだったが、一応あたしらは式に参加する生徒共の引率で学校まで行くことになった。

  • 106読み手24/04/25(木) 21:07:22

    あたしらの学校は代表者一名を先頭に街中を行進することになった。代表者は生徒の中でも1番偉いらしいヤツで、リーダーとか呼ばれていた。

    兵隊ごっこも甚だしいが、生徒共は妙に楽しそうにシャキシャキやるんでまぁ良いことなんだろう。


    学校のリーダー dice1d114=18 (18)

  • 107読み手24/04/25(木) 21:08:05

    エアグルーヴ被ったので振り直しです(前も出たな…)


    dice1d114=103 (103)

  • 108読み手24/04/25(木) 21:13:33

    「先生!わたし、上手く歩けてるでしょうか!?行進ってこんな感じですよねっ!?」

    リーダーは思ったよりも真面目で鈍臭そうなヤツだった。
    ただ底抜けに明るいヤツで、野蛮で嫌味な生徒共も付いて行きたくなる気持ちも分からなくは無いなと思った。

  • 109二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:14:51

    確かにクラフトは底抜けに明るそうだね
    良い配役だ

  • 110読み手24/04/25(木) 21:19:30

    しばらく行進をしていたら向こうの方からも行進の列が迫っているのにあたしは気が付いた。

    リーダー含めた生徒共はなんだかピリピリしていやがる。


    「おい、アイツら誰だ?」

    「あれは近所の大学生さんたちです…!たまにわたしたち生徒にちょっかいをかけて来まして…。」

    「…一つ聞くが、お前らがかけたんじゃねぇよな…?」

    「そんなことありませんよ!相手は大学生ですよ!?売られた喧嘩は買う子が多いですけど、売ってない物を買いはしません!」


    あたしとリーダーが喋っていると、大学生たちの行進の先頭に居たヤツが喋りかけてきた。


    大学生のリーダー dice1d114=49 (49)

  • 111読み手24/04/25(木) 21:20:13

    ジョーダンが被ったので振り直しです。

    (人も増えてきたので仕方ないですね)


    dice1d114=112 (112)

  • 112二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:21:47

    さすがに師範学校は現代人には想像できなさすぎるか

  • 113読み手24/04/25(木) 21:35:27

    「どいていただけますか、下級生諸君。私たちは今、この素晴らしい日を祝して行進をしているところなのです。ワイワイガヤガヤと、私語を話しながら行進をしているあなたたちとは違う。大人しくどくか、〆すずきの1匹や2匹、買って行ってもらいましょうか。」
    「だ、大学生たちのリーダーです…!千葉の方から来たんですけど、凄く喧嘩が強くて一気にリーダーにまで登り詰めた人で…。」
    「礼儀は正しそうだが、言ってることは穏やかじゃねぇな…。」

    列と列とで睨み合い、空気が険悪になる。
    まずい。あたしはなんだかんだでこんな空気をガキの頃に嫌というほど吸ってきたんだ。
    こりゃ"起こる"なと、そう思った。

  • 114二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:38:57

    〆すずきって何?と思って調べたら船橋の名物でダメだった

  • 115読み手24/04/25(木) 21:52:30

    「いっ…嫌です!わたしたちも日本の勝利が嬉しくて、和気藹々とこうやって行進をしているんです!あなたたちこそ、わたしたちの輪を乱すようなことしないでくださいっ!」

    驚いた。
    鈍臭さそうに見えたリーダーはかなり肝の据わったヤツで、大学生相手に一歩も譲らなかった。

    「…どうやら、あなたたちを瞬〆にする必要があるようですね。」

    大学生はそう言うと、わぁっと一斉にこっちへ向かって走って来た。
    やばいと思ったが時既に遅く、あたしは生徒と大学生に揉みくちゃにされた。

  • 116読み手24/04/25(木) 21:52:50

    >>113

    今気付きましたが瞬〆すずきです…!

    船橋の方、脱字申し訳ございません。

  • 117読み手24/04/25(木) 21:59:05

    「やめろお前ら!やめろ!!」

    あたしは揉みくちゃにされながらもそう叫んだが、誰1人としてそんなこと聞いてくれちゃいない。
    何発か貰ったが、ガキ相手に殴り返したら負けだと思ってあたしは何も反撃しなかった。
    しばらくサンドバッグになってると、山嵐がやって来てあたしと一緒に殴られながらも大声を出してやめさせようとしてくれていたのがちょっとだけ見えた。

  • 118読み手24/04/25(木) 22:03:39

    しばらくしたら大学生も生徒も色んな方向へ逃げて行った。


    「警察だ警察だ!」


    そんな声が聞こえた。


    警察 dice1d114=65 (65)

  • 119読み手24/04/25(木) 22:04:35

    ダイタクヘリオスが被りましたが、このまま行こうと思います。

  • 120読み手24/04/25(木) 22:17:13

    まったく根性の無いヤツらだ。警察が来たぐらいで一目散に逃げやがって。
    ただ根性は無いくせに力だけは無駄にありやがる。お前らのせいでこちとら生傷まみれだ。
    しばらくして見えた警察と言うのがやって来たと思うと、あたしは目を丸くした。

    「あれ!?この前の先生じゃーん!マジ運命的な?こんなとこで会うとか、りゅーせきに運命にも程があんよなー☆」

    来た警察と言うのは赤シャツの弟だった。
    相変わらず意味の分からん言語で喋りかけてくるが、あたしとのお喋りを早々に済ませると山嵐の方へ向かった。

    「通報ぶっかまされてさー!堀ッピーが生徒連れて大学生と道の真ん中で喧嘩(ダンス)ってるって聞いたんだけどマ!?マだったらウチ、堀ッピーのことお縄の刑にする系なんだけど!?マ!?」
    「そんな通報嘘に決まってるだろ!?第一、アタシはついさっきここに来て…!」
    「ちょま、おちけつしとけよな堀田ン!ぶっちゃけな話は署の方で聞くからさー!安心してフェスりにいこーぜぃ!」
    「ちょ、ちょっと…!」

    山嵐は半ば強引に署まで連行された。
    残されたあたしは痛むところを少し押さえながら、ただ立ってることしか出来なかった。

  • 121二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:05:49

    規制かな?保守しとこう

  • 122読み手24/04/26(金) 08:21:47

    おはようございます。
    今夜は少し用事があり、満足に筆を取れないかと思いますので予めご了承下さい。
    予定通りであれば明日には完結する模様です。想定の数倍の長丁場となりましたが、最後までお付き合いくださると嬉しく思います。

  • 123二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 09:20:56

    そいや道後温泉は改修中らしいな

  • 124二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 13:20:30

    7月から再開するけどもう5年以上改修工事してるんだよなぁ…

  • 125二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 13:34:00

    終わりも見えてくると寂しいですな
    頑張ってくださいね

  • 126二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 18:39:14

    先にも書いたけど無理の無い範囲で頑張って下さい

  • 127二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 22:57:46

    坊ちゃんがあだ名付けまくってるのを踏まえて、あえて劇中で名前が呼ばれない坊ちゃんにあだ名を付けるの良い

  • 128二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 04:30:20

    保守 楽しみにしてます

  • 129読み手24/04/27(土) 08:51:19

    次の日、目を覚ましてみたら身体の節々が痛かった。
    あんだけ殴られたら仕方ないか。それとも久々に喧嘩したからか?とにかく身体が痛くて布団から出るのも嫌だった。
    あれ?身体をよく見てみたら包帯とか絆創膏が貼ってある。おかげで少しはマシな気がする。婆さんがやってくれたんだろうか。
    今日は日曜日なのが助かったが、あたしがデカいため息をついていると婆さんが心配そうに部屋まで来てくれた。

    「おはようございます。大丈夫ですか?身体中怪我まみれで…。」
    「これ、やってくれたの婆さんか?」
    「はい、そうですよ。昨日の先生は帰ってすぐ部屋に入って横になっちゃったので私が処置を…。どこか不備がありましたか?」
    「いや、おかげで楽だぜ。ありがとな。」

    あたしが腕をブンブン振って見せると、婆さんは少しだけ安心した顔を見せてくれた。

  • 130読み手24/04/27(土) 09:22:14

    「あ!そうですよ先生、これを見て下さい!」

    婆さんはおもむろに新聞を見せてくれた。今日の日付だ。
    どれどれと見てみると2ページ目に昨日の喧嘩についての記事が書いてあって、あたしはかなり驚いた。
    記事の内容はこうだ。


    【教員暴動喚起 退職へ】
    昨日午前11時頃、〇〇学校の数学教師 堀田〇〇(2〇)が自校の生徒を引き連れ〇〇大学の学生らに対して暴動を起こすよう喚起したとして、通報を受けた警察官によって現行犯逮捕された。
    堀田容疑者は昨日付けで〇〇学校を退職した。
    現場には別の数学教師(24)も居たが、そちらは証拠不十分で逮捕されることは無かった。


    なんてデタラメまみれの記事だ。
    山嵐が暴動を喚起だと?アイツはそもそも喧嘩を止めようとして途中から来てただけだ。なんてこと書いてやがる。
    それに山嵐はフルネームをちゃんと書いてあるのに、あたしは『別の数学教師(24)』と書きやがって失礼な記者だ。あたしにはちゃーんと「葛城」って言うれっきとした名字があるのによ。

  • 131読み手24/04/27(土) 09:48:44

    あたしは新聞をくしゃくしゃに丸めて窓から投げ捨ててやった。婆さんは何も言わなかった。
    ふと、あたしは庭に生えてる蜜柑の木を窓から見た。真緑のちっさい実が付いた未熟な木だ。
    「婆さん、あの実が熟れたら一緒に食おうぜ」とあたしが言いながら横になると、婆さんは「約束ですよ」と微笑んだ。
    まだモヤモヤするんで、取り敢えず寝ることにする。

  • 132二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 10:26:07

    このレスは削除されています

  • 133二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 10:28:32

    このレスは削除されています

  • 134読み手24/04/27(土) 10:32:52

    二度寝から起きたら次の日になっていた。時計を見たらもう学校の時間だ。
    あんな記事を書かれて恥ずかしくなって来なかったんだとか言われたら癪なので、あたしはすぐに支度すると学校に行った。
    誰も彼もあたしの腫れた顔を見るなりクスクス笑いやがる。へん、こちとら天ぷら蕎麦と団子で慣れっこだ。なんとでも笑いやがれ。
    職員室に行くと野だが近寄ってきた。

    「こないだはお手柄だったらしいな。名誉の負傷ってヤツか?」
    「あんだよ。名誉でもなんでもねぇよこんな傷。」
    「賭けは私の負けだな。今日は学校に来ねぇと踏んでたんだが。」
    「そりゃ残念だったな。」

    あたしが冷たくあしらうと面白く無かったのか黙って自分の席に座った。

  • 135読み手24/04/27(土) 10:38:33

    しばらくすると山嵐も学校に出てきた。赤シャツの弟に連れてかれてから見てなかったが、山嵐はあたし以上に腫れた顔をしていてなんだかこっちも悲しくなった。
    「今日はどうした?」と聞いた。新聞ではあの後退職したって書いてあったからだ。山嵐はいつもみたいな気の抜けた調子で「忘れ物!」と言いながら机の整理をし始めた。
    山嵐とあたしの机は隣同士だ。腫れた顔が二つ並んでて、他のヤツからしたらさぞお笑いモンだろう。

  • 136読み手24/04/27(土) 13:33:08

    教室に行ったら生徒たちに拍手された。
    本当に尊敬されてんのかバカにされてるのかは分からなかったが、あたしはそれに対して何も言わずに授業をした。

    授業が終わって廊下を歩いてると、顔が少し腫れたリーダーがやって来た。

    「あの…先生…!ごめんなさい…!」

    あたしは生徒に自主的に謝られたのはこれが初めてだった。バッタ足音事件の会議後、生徒共から正式に謝罪はされたがどこか嫌そうだったのを覚えている。
    多分勝手に逃げたことについて謝ってんだろうが、あたしは別に気にしてもない。あの時逃げずに歳上に意見したコイツの度胸は買ってあるつもりだ。
    あたしは頭を下げるリーダーの頭をくしゃくしゃ撫でた後に「これからは無茶すんなよ」と言った。
    ペチャっと潰したはずの跳ねた毛がピョンと戻って、リーダーは「はいっ!」と元気良く答えた。

  • 137読み手24/04/27(土) 16:27:01

    「災難だったらしいねー!大丈夫だったー?」

    調子が良いのは赤シャツだ。野郎、ニコニコしながら心配の言葉をかけやがる。
    フン、お前の弟のせいで山嵐は散々な目に合ったんだ。

    タヌキと赤シャツに喧嘩の経緯を言った帰り、支度を終えて教師でなくなった山嵐と下宿で喋ることにした。
    2人で下宿に着くと、婆さんが山嵐を見かけて声をかけて来た。

    「堀田くん、大丈夫ですか?こんなアザだらけになって…。」
    「おばーさん、アタシなら平気だよ。心配してくれてありがと!2人で喋り方があるからお邪魔してもいーい?」
    「ええ、構いませんよ。」
    「あ、あと鍋と砂糖あるかな?やりたい事あって。」
    「一応ありますけど…。分かりました、出してきますね。」

    婆さんが言われたモノの用意をしている間に2人で部屋に入ると、山嵐は「じゃーん」と言いながら牛肉を出してきた。

    「お前、これいつの間に…?」
    「さっき!」
    「さっきって…そんなヒマあったか…?」
    「鍋でもしようよ。アタシの退職祝いにさ。」
    「自分で肉買っといてか…?」
    「そこまで言うならエースがお金出してよ。アタシも前に奢ったじゃん。」
    「かき氷じゃねぇかそれ!」
    「アハハ!まぁまぁ!今日はご馳走だよ!」

    職無しになったって言うのに、山嵐は相変わらずの調子だった。
    あたしもその方がやりやすくて良い。湿っぽいのはゴメンだ。

  • 138読み手24/04/27(土) 19:13:01

    「おー!茶色くなってきたよ〜。いただきまーす!……ん〜!おいし〜!」

    山嵐は牛肉を頬張ると感嘆の声をあげた。
    もうちょっと静かに食えよと思ったが、自分でも食べてみたら美味かったのでまぁ仕方ないかと許した。

    「美味しいね、エース。」
    「…まぁな。」
    「突然だけどエースはさ、教頭が芸者と良い仲なのは知ってる?」
    「知ってるも何も、この前の古賀くんの送別会でバッチリ見たし聞いたぜ。キラキラした芸者と常連そうに喋る教頭と吉川をよ。」
    「アタシ気付かなかったや!エース、探偵とか向いてるんじゃない?」
    「頭動かすの嫌いだから無理だな。」
    「…にしても、敢えて言葉を借りると教頭からしたら芸者と遊ぶのは精神的娯楽ってことなのかなぁ。自分勝手なヤツだね。」
    「天ぷら蕎麦と団子を食うのは物質的娯楽ってこった。ったく、教育に悪いのはどっちだよ。」

    鍋の牛肉をつついていると、しばらく黙っていた山嵐が口を開いた。

  • 139読み手24/04/27(土) 19:28:07

    「エース…今回のアタシの退職、教頭の策だと思うんだ。」
    「…はぁ!?なんだと!?」

    あたしが机をバンと叩いて立ち上がる。
    山嵐は続けた。

    「まず連行してきた警察官。そもそも教頭の弟だったよね?エースには特に興味も無く、アタシだけ連れて行った。」
    「そこはあたしも変だと思ったぜ。何であたしも連れてかなかったんだ、ってな。うーん…あたしを捕まえたら不利なことでもあんのか…?」
    「逆だよ。アタシだけ捕まえて、辞めさせたかったんだ。エースはまだ反乱分子だと思われてないってこと。」
    「へっ、そんなことかよ。余裕ぶりやがって。あたしだって赤シャツの1人や2人…!」
    「赤シャツ?……プッ、アハハハハ!なるほど!やっぱりエースのあだ名は傑作だ!」

    山嵐は大笑いすると腹を抱えながら続けた。

  • 140読み手24/04/27(土) 19:43:54

    「アタシね、署で聴取受けてる時にその、赤シャツの姿が本当にチラッとだけど見えたの。見間違えなんかじゃないよ?あんな派手な赤い服着てるヤツなんてここらじゃアイツだけだしさ。声も聞こえた。あのやけにおっきい声。」
    「まぁそうだろうな。…何の用で来てたとかは分かるか?」
    「赤シャツの姿が見えた後に弟が聴取室から出て行って2人で喋ってたんじゃないかな。」
    「内容とかは分かるか?」
    「ゴメン。それは分からなかったや。あ、でもね。もう1人の警察官がボソッと愚痴ってたんだ。『アイツ、最近すぐに出かけるなぁ』って。」
    「出かける?………あぁ!確かにあたしが当直だった日の晩にヤツの姿見たぜ!何してたかは知らねぇけどよ。」
    「当直の日の晩?………なるほど…!」
    「おい、なんか分かったのか?勿体ぶらずに聞かせてくれよ。」

  • 141読み手24/04/27(土) 19:59:25

    「アタシが聞いたんだよ。その警察官に「勤務態度が悪いの?」って。そしたら1ヶ月前ぐらいの夜中に急に「虫を取りに行って来る」って言って出たって。でも、帰ってきたらカゴに何も入れてなかったって。」
    「虫…?まさか…!?」
    「多分だけど、バッタ足音事件の首謀者として赤シャツが一枚噛んでる可能性は高いと思うな。生徒たちからのイジメも赤シャツの手回しがあったのかも。」
    「何だと…!?」
    「でもねー…そうなるとエースを辞めさせたいんだろうけど、今回はなんで標的にしなかったのかなって思ったんだよね。矛盾じゃない?」
    「…でもよ、細かい理屈とか冤罪とかどーでもいいぜ!今は赤シャツをとっちめてやりてぇ気分だ!」
    「フフッ、それは同感。」

    あたしの怒りは目の前の鍋と同じぐらい…いや、それ以上にぐつぐつと煮えたぎっていた。
    ただでさえうらなり君騒動に関しては手を引いてるのが確定してるのに、オマケに山嵐の退職やあたしへのイジメにも関与してたかもしれねぇって可能性が出てきたことであたしはどうしても赤シャツの野郎が心底許せなくなっていた。

  • 142読み手24/04/27(土) 20:04:20

    (ちょっと前に山嵐に教頭のことを赤シャツって呼ばせてたことを忘れてました…申し訳ございません…。)

  • 143読み手24/04/27(土) 20:19:29

    「仲直りした日にさ、あたしが言ったこと覚えてる?」
    「あんだっけ…。」
    「アタシが辞めさせられたら赤シャツも道連れって話。」
    「そういや言ってたなそんな話。道連れにすんのか?」
    「うん!何日か張り込みしてね、赤シャツが芸者遊びをしに行ったところを狙って、鉄拳制裁さっ!アタシたち2人はアイツから既に間接的に何発か貰ってるんだ。それぐらいしても大丈夫だよきっと。」
    「発想があたしに似てきたんじゃねぇか?」
    「そーかなぁ?…そーかも!フフッ。」

    山嵐は最後の肉を頬張ると、そうニコニコしながら喋った。

  • 144二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 20:20:00

    まあ1週間やってたら忘れちゃうのもしゃーない

  • 145二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 20:23:32

    虫取り畜ゾー
    (やったのは弟だけど)

  • 146二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 20:28:15

    いよいよクライマックスだな

  • 147読み手24/04/27(土) 20:30:24

    「そん時はあたしも呼べよ。舐められちゃいるが、これでもガキの頃は喧嘩で有名だったんだ。」
    「いや、キミはダメだよエース。」
    「は?何でだよ。」
    「キミ、まだ教師だからね。新聞はそうだけど、何よりも今度は本当に留置所とかに送られちゃうかもしれない。アタシはもう職無しだし、残した家族とかも大して居ないからいいけど…、キミは家政婦さんに帰って来るって約束してるんだろ?」
    「そ、そうだけどよぉ…。」
    「だったらダメだ。学校に辞表叩きつけて来るとかして来てほしいな。」
    「おいおい、今辞表なんか出したら絶対に察されて赤シャツに止められるぜ?そもそも校長が許すかどうか…。」
    「そう。つまり、アタシだけでやるって言ってるの。キミが残念に思うのは分かるけど、エースのことを想ってのことだ。分かってほしい。」
    「………分かった!他でもねぇアンタの頼みだ。あたしの分までぶつけてこいよ!」
    「…あぁ!」

  • 148読み手24/04/27(土) 20:42:22

    山嵐は遊郭の前の空き家を借りて、夜に赤シャツが遊郭に来るか来ないかと夜中に監視することにしたらしい。
    赤シャツも警戒心の強いヤツで、最初の5日間はあたしも一緒になって赤シャツが来るか粘ってたがとうとう来なかった。
    夜中に下宿へ帰る生活をしてたら、婆さんが「お、奥さんも居るのですから夜遊びは…!」と言いながら顔を真っ赤にして怒るのでそれ以来付き合うのはやめにした。

  • 149読み手24/04/27(土) 21:03:24

    山嵐のその生活もしばらく経った頃。
    あたしは婆さんの芋生活に飽き飽きしたから、近くの売り物屋で卵を買って下宿に帰るとこだった。
    そういえば最近行けてねぇや、でも赤シャツは今日も元気に学校に来てたからまだか、とか思いつつ、そのままの足で気まぐれに山嵐のところに向かう事にした。

    山嵐のとこに来ると、「よく来てくれたねエース!」と大声で歓迎してくれた。

    「聞いてくれよ!キミがこの前、古賀くんの送別会で見かけたって言ってた赤シャツと吉川の顔馴染みの芸者が居たって言ってたろ!?」
    「あぁ、『嬢』とか呼んでたぜ。」
    「その子がついさっき遊郭に入ってったんだ!」
    「ホントか!?赤シャツも一緒か!?」
    「いや、その子1人だった。」
    「はぁ…?なんだよ…ワクワクしちまったじゃねぇか…。」
    「まぁ聞いてよ。あの頭の回る赤シャツのことだ、マドンナとの密会をキミに見られた時みたいなのがあっちゃ困るから、敢えて芸者だけを先に遊郭に行かせて、自分は後から来て遊郭内で合流。その後に楽しむ…アイツならそうしそうだなって思わない?」
    「…思う!」
    「だろ〜?…後はアタシが上手くやる。だからキミは…。」
    「…………いや、ここまで来たんだ。あたしもやるぜ。」

  • 150読み手24/04/27(土) 21:21:30

    「な…!…エースのバカ!前にも言ったけど、アタシはキミを想って…!」
    「関係ねぇよ!確かに、清とは約束した。アンタともな。…でもよ、やっぱりあたしはアイツに!赤シャツの野郎に1発ぶちかましてやりてぇんだ!!!」
    「……っ!」
    「許嫁を盗られて、無理矢理転勤までさせられた古賀くんの分まで…、アイツの策に知らずに巻き込まれて、顔をケガしたあのリーダーの分まで…!今、アイツに1発入れなかったら…アイツらに申し訳が立たねぇんだ!だから…約束とか、立場とか、そんなモンに縛られてちゃどうしようもならねぇ!そんな他人が作ったタブー、あたしは無視して逃げてやる!あたしはエースだ!反逆のエースだ!!!」

    あたしがそう啖呵を切ると、無言で聞いていた山嵐が真剣な顔で聞いてきた。

    「……………後悔は無い?」
    「おう!」

    あたしが力強く返事をすると、山嵐は軽く息をついて手を差し出してきた。

    「…じゃあアタシは、ついて行くよ!エースに!」
    「よっしゃあ!ちゃんとついて来いよ!!!」

    あたしと山嵐は初めて会った時とは違って、ガッチリと握手をした。

  • 151読み手24/04/27(土) 21:28:43

    …アイツらが来る。

    浮かれた声を出して遊郭に迫る。

    もちろんこちらも、無策じゃない。

    精魂を尽くして、闘うとしよう。



    さあ見るがいい これがアタシたちのやり方だ。

    ほら粋がってみろ これがあたしらの底力だ。

  • 152読み手24/04/27(土) 21:44:39

    赤シャツと野だが遊郭の近くまでやって来たのが見えた。話しながら歩いてるみたいだ。

    「いやぁ、もう大丈夫だな。邪魔者は大体居なくなった。まったく…ウチの教頭先生も悪い人だぜ…。」
    「ちょっと!そんな人の悪いこと言わないでよー!…でも、それもそうだね。邪魔な人は居なくなった。」
    「堀田の野郎もあっけないもんだな。あんだけ教頭の邪魔をしてきてたが、職無しになりゃこんなもんだ。強がるばっかで、こっちと違って策が無い、能も無い。…それは、あの"坊ちゃん"も一緒かな?」
    「でもねー、"坊ちゃん"も最初はさぁ、自己紹介の時にアタシを変な目で見て来たから少しだけちょっかいかけるつもりで色々してきたけど…増給を断った辺りで忍耐力が怖くなっちゃって!アハハ!全部耐えちゃうんだからすごいよねー!」
    「もう少し泳がせときゃ、いい鉄砲玉になるかもしれねぇしな…。そのことで賭けねぇか?アイツがなるか、ならないか…。」
    「いいねー!」

    すぐにでもぶん殴ってやりたかったが、あたしらは手筈通り、遊郭に入って、ことを済ませたアイツらを狙うことにした。

  • 153読み手24/04/27(土) 21:49:19

    朝の5時。遊郭を後にする二つの影があった。
    その影に、別の二つの影が迫った。

    「「うおおおおおお!!!」」
    「な!なんだ!?」
    「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」

    あたしらは逃げる二つの影を追いかけ、やがて人気の無いところで捕まえた。

  • 154読み手24/04/27(土) 21:56:00

    「教頭ともあろう人が、どうして遊郭なんかに入ってたんだ!?」
    「し!知らない…!知らないよぉっ…!!!」

    山嵐が怒鳴りつけると、赤シャツは涙と鼻水をダラダラと垂らながら戯言を言っていた。

    「"坊ちゃん"ったぁ何だ!?テメェらが、あたしをその名前で呼ぶんじゃねぇ!!!」

    あたしは食べる用に買った卵を、逃げようとする野だの顔面にめがけてぶちまけた。
    野だが驚いて尻もちをついているところに残りの卵もぶつけてやると、野だの顔はたちまち真っ黄色になった。

  • 155読み手24/04/27(土) 22:01:28

    あたしが野だを真っ黄色にしている間、山嵐は赤シャツと変わらず言い合いをしていた。

    「アタシが芸者と一緒に居た証拠はあるの!?!?あるんなら見せてよ!」
    「キミは、馴染みの芸者と中で会っただろ!?」
    「ぐっ…、ち、違う!アタシは吉川くんと…!」
    「うるせぇぇぇぇぇ!!!」

    抵抗する赤シャツがじれったくて、あたしは赤シャツの頬に怒りの込もった鉄拳を食らわせた。

  • 156読み手24/04/27(土) 22:06:51

    頬を腫らした赤シャツと、真っ黄色の野だが身を寄せ合いながらガクガク震えているところに、あたしはこう言ってやった。

    「今日の夕方の5時までに、港で船を待っている!逃げも隠れもしねぇ…通報したけりゃ好きにしやがれ!!!」

    山嵐も満足したのか、あたしが歩き出すと一緒に歩いて行った。
    去り際にチラッと見ても、あの2人はガクガク震えていやがった。

  • 157読み手24/04/27(土) 22:12:46

    あたしは下宿に着くと、荷物をまとめた。
    物音を立ちまってたみたいで、婆さんが心配そうに駆けつける。

    「ど、どうしたんですか…?」
    「婆さん、あたし帰るよ。今までありがとな。蜜柑食う約束してたけど、叶えてやれなくてゴメン。」
    「は、はぁ…。」
    「…東京でさ!アイツが待ってんだ!行ってやらねぇと…!」
    「そうでしたか…!なら、行ってあげてください。私も、あなたと一緒に暮らせて楽しかったです…!」

    婆さんが涙ながらにあたしに抱きついて来た。
    あたしも優しく抱き返してやった。

  • 158二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 22:16:12

    モテモテ

  • 159読み手24/04/27(土) 22:32:00

    その後にあたしは学校に行った。
    まだ始まる前だから生徒は誰も居なかった。

    あたしは校長室にやって来た。
    ノックをしたらタヌキの「どうぞ」と言う相変わらずのトロ声が聞こえたのでいそいそと入った。

    「どうされたのですか?こんなに朝早くに…。」
    「校長先生、あたしは今日を持ってこの学校を退職しようと思ってる。ホラ、辞表も持って来たぜ。」
    「ほうほう…そうですか〜…。」
    「…………。」
    「…………。」
    「…その沈黙は、拒否か?」
    「………いいえ。」

    タヌキはスッと立ち上がると、あたしの前まで来た。

    「受け取りましょう。葛城先生、この3ヶ月間とってもお世話になりましたですね。」
    「だ、出しといてあれだけどよ…ホントにいいのか?」
    「ええ。辞めたいと言うのでしたら、止める理由はありません。………いいお友達を持ちましたね。」

    タヌキ…いや、校長はそう言うと、ニコッと笑った。

    「……ありがとうございました!」

    あたしは深く頭を下げると、校長室を後にした。


    「ふふ…もう、忘れられませんね…。またいつか、あの2人の大暴れをもう一度…。」

    校長は卓上に置いてあった自分を模した人形にそう話しかけながら、海の方を見ていた。

  • 160読み手24/04/27(土) 22:35:54

    夕方の5時になって、あたしと山嵐を乗せた船が出航した。
    本当に逃げも隠れもしなかったが、とうとう警察が来ることは無かった。

    「やったねエース!あの2人、通報しなかったぞ!アハハハハ!」
    「ああ!あたしらにビビってしなかったんだなぁ!アハハハハ!」

    あたしら2人はそう大声で笑い合った。

  • 161二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 22:37:26

    うーんこれはアクトウマーチャン

  • 162読み手24/04/27(土) 22:48:10

    丸一日が経って、あたしらを乗せた船は東京に着いた。
    あそこと違って、故郷の夕陽は何よりも綺麗に見えた気がした。
    山嵐に言ったら「そんなわけあるかよー」と言いつつ、あたしが見つめる夕陽をじっくりと同じように見つめてくれた。
    船から降りると、山嵐が急に抱きしめてきた。

    「おいおい、何だよ。名残惜しいのか?」
    「…別にー?…コホン。…ありがとね、エース。」
    「…そう改まって言われちまうと、やっぱ恥ずいな…。調子狂うぜ…。」
    「アハハ!何恥ずかしがってんのさ!家政婦さんにも会いに行くんだろう?」
    「そうだな。じゃあ、あたしはそろそろ…。」

    そう言いながらあたしが歩き出すと、後ろから山嵐があたしの服の裾を引っ張って来た。

    「やっぱり…ちょっと、待って。」
    「…なんだよ。」
    「……………。」

    後ろでゴシゴシと言う音が聞こえた後、山嵐があたしの前に回って、いつもの調子で喋り始めた。

    「…走ろ!」
    「はぁ?」
    「いいからいいから、ホラ!アハハ!!!」
    「お、おい!待てよ!…フフ、アハハ!!!」

    あたしはそれ以来、今日まで山嵐とは会っていない。

  • 163二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 22:55:22

    ウェンザナイッ

  • 164読み手24/04/27(土) 22:56:06

    「清!帰ったぜ!!!」
    「ぼ、坊ちゃん…!?坊ちゃん…!」

    あたしは号泣しながら一目散に走ってきた清を抱き止めてやった。
    相変わらず涙もろい婆さんだ。しばらくワンワン泣いていた。
    あたしもつられて泣きそうになったが、すんでのところで堪えた。

    「もうどこにも行かねぇ…!これからは清と一緒だ!」
    「うん…うん……!」

    あたしは清と一緒に暮らすことになり、都電の技術関係職になった。
    給料は教師をやってた頃よりも低いし、自分で買った家は庭にブランコとか到底言えないぐらいには小さいもんだったが、清はそれでも満足してくれた。

  • 165読み手24/04/27(土) 23:00:47

    そして、清は今年の2月に肺炎で亡くなった。
    あたしはそりゃあもう泣きに泣いた。

    清が死ぬ間際にあたしの寺の墓に埋めてくれと言っていた。
    だから、今も清の墓は小日向の養源寺にある。

    おしまい

  • 166二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:02:56

    乙です
    相変わらず あまり救いがない話だね
    (農家になると思った)

  • 167二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:04:02

    今回も長編執筆お疲れ様でした!

  • 168二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:07:21

  • 169読み手24/04/27(土) 23:08:54

    約1週間、お付き合いいただきありがとうございました…!
    と言うことで夏目漱石の『坊ちゃん』、これにて完結でございます。
    終盤は私も最初の方に書いたことを忘れたりしてしまって、少々拙い箇所も出てしまいましたがなんとかホスト規制にも負けず(負けなかったかなぁ)、完結できました。どれもこれも、保守や感想を度々送って下さった皆さんのおかげです…!
    流石に長丁場だったので、しばらくお休みしたいと思います。次は短めの昔話にしようかなぁ…。
    改めまして、本当に長くなりましたがお疲れ様でした!また次のお話で〜!

  • 170二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:09:22

    おもしろかったです。乙です。

  • 171二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:09:29

    新鮮なシビエスと畜ゾーをありがとうございました !

  • 172二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:10:12

    清の墓はマジで養源寺にあるらしい

  • 173読み手24/04/27(土) 23:10:52
  • 174二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:13:33

    ダイス運(特に主人公の引き)が異様に強いのなんなの

  • 175二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:13:37

    このレスは削除されています

  • 176二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:13:56

    お疲れ様でした!

  • 177二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:16:12

    小説だから長くなっちゃうのも仕方ないですな
    しばらく労ってくださいな

  • 178二次元好きの匿名さん24/04/27(土) 23:24:06

    できたらいつか銀河鉄道の夜をやってほしい

  • 179二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 02:12:24

    いいシビエスでした 娘が助かりました

  • 180二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 06:21:38

    お疲れ様でした!
    また機会があればお願いします!

  • 181二次元好きの匿名さん24/04/28(日) 06:30:27

    完走お疲れ様です
    今回時間が無くて追えてないので近々最初からゆっくり読みたいと思います

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