- 1二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 17:56:51
「先生、デートしませんか」
ある日唐突に執務室に入り込んできたイロハが、開口一番にこう言った。
デート。今までイロハから結果的にデートになるように呼び出されることは多々あったが、まさかここに来て直接誘われることになろうとは思わなかった。
“デート……? 今から?”
「いいえ? 先生も今はご多忙でしょうし、空いてる日があればですけど」
無論私は目下仕事に追われている。何なら今日は本当に仕事に集中しなければ寝る暇が確実になくなるだろう。
そんな状況下でイロハがモモトークで「今からそちらに伺います」とだけ送ってきたものだから警戒していたのだが、繰り出されたのはまさかの譲歩付きのお誘いだった。言っちゃ何だが拍子抜けである。
“どうしたの? いきなりデートだなんて”
「いやですね、マコト議長から『シャーレの先生を骨抜きにしてこい』と催促されまして」
イロハは万魔殿の命によって私に近づいてきた。ファーストコンタクトでその事実をあっさりと白状して、しかしその極秘任務を放棄しているのか放棄していないのかも分からない振舞いを見ると、目の前の少女が何を考えているのかが分からなくなる。
「ということなので、こちらとしてはある程度目に見える実績が欲しいんですよね」
“あ、拒否とかはできないんだ”
「一応あの人は上司に当たりますからね。あんな人でも」
辟易したようにイロハがため息をつく。ならばなぜ辞表を叩きつけないのかと思わないでもないが、何だかんだ言いながらイロハは万魔殿を離れないのだろう。私が生徒たちに手を焼かされながらもキヴォトスを離れることがないように。
“それでその実績として目ぼしいものが『デート』だったと”
「そういうことです。ただ、今の先生は本当に忙しそうなので。その仕事、多分今日中に片付けなければいけないものでしょう?」
“あ、あはは……”
「その顔を見れば分かりますよ」
確かに疲労感はいつも以上にあるが、そこまで表情に出ていただろうか。最近は特にキヴォトスのあちこちを走り回っていたものだから、正直なところ休みが欲しいとは常々思っていた。 - 2二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 17:57:43
「……まあ、とにかく空いている日があれば教えてください」
“ああ、それなら明日大丈夫だよ”
そう言うと怪訝な顔をされる。「正気で言ってるのか」とでも言いたげだ。
「…………それは、その山盛りの仕事が今日中に終わればの話ですか?」
“うん。一応明日には何の予定も入れてないよ”
「それ世間では『オフの日』って言ったりしません?」
“いや、本当に何の予定もないんだ。入れようと思えばいくらでも入れられるけど”
「……まあ、そういうことにしておきますけども。それで先生はどこがいいんです?」
さて、肝心のデートについてである。それもリクエストは「私自身が行きたいところ」と来た。
自由度が高くなると身動きが取れなくなると言われるが、全くもってその通りだと思う。夕食を何にするか訊かれて「何でもいい」と言ったら怒られたのはこういう理屈だったか。
しばらく頭を回して考えるが、あまり思いつかない。イロハが私に任せるスタンスを表明した以上、これは自分で考えなくてはならないだろう。
「もしかして、なかったり?」
“いや、ないわけじゃないんだけど……”
このままだと「やりたいことのない無味乾燥な哀しき仕事マシーン」だと思われかねない。遊園地のような行動的な場所にはあまり行く気にはなれないから、あまり動かずに楽しめる場所がいい。
そうして1つ思いついた。座りながら、2人でも十分楽しめるもの。
“映画、かな”
「映画?」
“映画館、行きたい” - 3二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 17:58:23
半ば消去法のような気がしないでもないが、ここ数年は映画にもあまり縁がなかった。せっかくの機会だ。ここらで久しぶりに、昔の映画でも観てみたい。
「どんな映画です? 先生の好きなロボット映画とか?」
“いや、そういうのにはしない予定。ちょっと待って、今調べる”
「あ、調べるのは私のいないところでお願いします。だってほら、面白くないでしょう?」
事前のネタバレは重罪らしい。確かに何を観るかを知ってしまったらせっかくの映画デートの面白味が半減してしまうか。
確か郊外に昔の映画を上映している小さなシアターがあった。後で上映表を少し調べてみるか。
「じゃ、そういうことで」
そう言ってイロハは私に近づいてきて、徐に隣の椅子に座ってきた。そして机の散らばっていた書類を掻き集め、署名済みのものと未署名のものを何となく仕分けし始めた。
“えっ……?”
「面倒臭いんですけどね。あ、勝手に始めちゃいましたけどこれ、こんな感じでいいですよね?」
“いや、いいんだけど……え?”
「何驚いてるんですか。このまま限界まで働いて、明日体調崩されたら洒落になりませんよ」
どうやらイロハは私を手伝ってくれるつもりらしい。サボり魔のイロハにしては奇妙な行動だ。思わず首を傾げてしまう。
当番として何回か私の仕事を手伝ってくれたことがあるからか、仕分けを進める手つきは非常にスムーズだ。そういえばイロハと知り合ってから随分と経った。その間に何回顔を合わせ、何回仕事を共にしてきたことだろう。
「あ、夕方には帰りますからね」
だからこそだろうか。そう私に釘を刺す瞳の奥に、どうしようもなく期待の念が籠っているように見えた。
“オッケー。じゃあ早く終わらせちゃおう”
「睡眠もちゃんととってくださいね」
“もちろん。明日は大事なデートだからね”
「……ふふ、何の映画を選ぶのか楽しみにしてますね」 - 4二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 17:59:06
その後はイロハが地味な事務作業の手伝いをしてくれたこともあり、想定よりも遥かに早く終わらせることができた。
久しぶりに主を迎えた仮住まいの部屋の中で、目当てのシアターの上映表を確認する。ラインナップは古い洋画で満たされている。どれも子供には荷が重いだろう。
“本当はイロハのことを考えて、ちゃんとした大きな映画館に行くべきなんだろうけど”
イロハは賢い。私が自分の希望のみならず、イロハに慮って映画を選んだことなんてすぐに見透かしてしまうことだろう。そして、「これ、先生が観たかったものなんです?」と少し眉を顰めながら言うことだろう。
“だから、私の趣味全開で選ばなきゃな……”
しばらく画面を眺めていると、目を引いたのは大昔テレビで観た覚えのあるトレンディ映画。ストーリーもとうの昔に忘れてしまったし、面白かったという記憶もない。ただただ理解ができずにボーッとしていたことだけ覚えている。公開された年代を見ると、今から70年以上は前のものだった。
観たい。面白いか面白くないか、今なら分かるかもしれない。好奇心が強く刺激された。
“上映時刻は11時か。ちょうどいい、これにしよう”
モモトークでイロハに時刻だけ報告する。するとすぐに『では待ち合わせは10時にシャーレの前で』と返ってきた。返信が思った以上に早かったので笑ってしまったのはご愛嬌というもの。
“それじゃ、早めに寝ないとな”
しばらく使われずにすっかり冷えていた布団はすぐに温かみを取り戻し、潜った私を優しく包む。すると、先程までブルーライトを浴びていたとは思えない速さで眠気が襲ってきた。
“久しぶりに、熟睡できるかも……”
明日何事も起こらないことを祈りながら、目を閉じた。 - 5二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 17:59:50
翌朝の9時半、シャーレのビルの前でいつも通り青い空を見上げながら待っていると、前方から軽い足音が聞こえてきた。
“や、イロハ”
「すみません、待たせちゃいましたか」
“ううん、私が早く来過ぎちゃっただけ”
白いTシャツにデニム生地のスカート。簡素ながらも清潔感のあるいかにも若々しいコーデに身を包んだイロハの姿は、普段の制服姿を見慣れている私からしたら非常に見違えて見えた。今日がいい天気なのもあり、ほんのりと光り輝いて見える。
「先生はいつもの白衣ですか」
“いやぁ、これくらいしかなくってさ”
「どうせ下はスーツでしょう?」
“何だかもうこれ着てないと落ち着かなくって”
一方私はいつもの白衣にスーツという何とも面白くない出で立ちだ。服を選ぶのが面倒だったというのもあるが、変に着飾ってイロハと歩いているところを誰かに見られたら私的な関係を必要以上に疑われてしまうのだ。
私が生徒と個人的に会うことは多々あるが、誰と会うにしてもこの服装は崩していない。イロハが特別というわけにもいかないのだ。
「……面白みのない人ですね」
“あはは……ごめんね”
呆れたようにイロハがため息をつく。苦笑いしかできない。本当ならちゃんとした服を揃えて臨みたかったが、こればっかりはどうしようもない。 - 6二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:00:19
「で、映画でしたっけ? どこの映画館です?」
“ああ、郊外にあるところだよ。案内するね”
そうして2人で歩き出す。休日の街は私服姿の生徒たちで賑わい、喫茶店のショーウィンドウの向こうは歓談に包まれている。紅茶の匂いまで感じ取れてしまいそうだ。
「映画の後は、何か予定あるんです?」
“ああ、少しいいレストランを予約してるんだ。そこで一緒に食べようよ”
「何のお店です?」
“んー……フランス料理?”
調べたところ値段も手頃で評判もそこそこに良かった。料理の画像も見る限り、ハズレではないとは思う。
「何でそこで疑問形なんですか」
“いや、行ったことないし”
「行ったことないところに連れてく気ですか」
“前々から行ってみたかったんだよね”
リーズナブルな値段とは言っても高いものは高い。今日は奮発する日だと決めているから出せるお金であって、普段の食事はコンビニ弁当かファストフードで済ませている。
……最近カイテンロボの新しいフィギュアが出たから、という理由ではない。その出費に押されて節約せざるを得なくなったわけでは断じてないのだ。
“ほら、今日は私が行きたいところに行く日でしょ?”
「……フランス料理、お好きなんですか?」
“それも食べたことないからさ、チャレンジチャレンジ”
「はぁ……付き合いますよ。ダメだったら言いますからね」
イロハは呆れ果ててはいるものの、その言葉に乗せられた感情は決してネガティブなものではないことは分かっていた。
仕事でもない限りは本当に嫌なことはきっぱりと拒絶するのがイロハだ。それがあれこれ言いつつも付き合ってくれるのは、つまりそういうことだろう。 - 7二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:00:53
「今回の映画のチョイスと言い……先生はお洒落なものが好きなんですね」
“自分ではそうでもないと思ってるんだけどな”
「私、ドレスとか着てきた方がよかったですかね」
“いやいや、イロハの私服姿もすごくきれいだよ”
「……口では何とでも言えます」
そう言ってそっぽを向いたイロハの耳がいつもよりも赤く見える。ワインレッドの髪に日光が反射しただけではないだろう。
大通りを離れ、少し奥まった路地を行く。ここに入ると喧騒も収まり、「知る人ぞ知る」と呼称されそうな個人経営の商店なんかも立ち並んでいる。
その中にぽつりと立つ、通りの中では大きめの建物が今回の目的地だ。
「こんなところに映画館があるものなんですね」
“ね。私も昨日初めて知った”
「かなり昔の映画でしたっけ。そりゃあ大きなところでは扱ってませんよね」
今ではBDもある。映画も自宅で観られる時代だ。こういう小さな映画館は、いずれ時の波に浚われるだろう。
“まあ、風情ということでね。お付き合い願いますよ”
「はいはい、ご一緒しますよ」
中に入ると、つい先程までうとうとしていただろう受付の店員がハッと顔を上げて私たちを出迎える。これから観る映画の名前を言ってお金を差し出すと、「あちらのシアタールームで上映します」と大きな扉を指し示された。
埃を被った自動販売機がゴウンゴウンと唸っている。菓子パンやポテトチップス、そしてペットボトルのジュースなんかをここで買うのだろう。ポップコーンやチュロスといったナウでヤングなものではないという事実が、またこの映画館の寂れた原因を際立たせて見えた。 - 8二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:01:46
“ジュースとか、いる?”
「いえ、大丈夫です」
言われてみると私も喉が渇いているわけでもない。ましてやこの後に昼食が待っている以上、何某かを食べて腹を膨らませるわけにもいかないだろう。
重々しい引き戸を開けると、暗闇がそこに広がっていた。ともすれば互いの姿すら見失ってしまいそうだ。どうやら座席も自由らしい。人の気配のしない上映室の中で、少しずつ歩を進める。
「どこがいいですかね、先生」
“どうせ自由ならスクリーンが一番よく見える位置にしよう”
「じゃあ前方ど真ん中ですね」
そうして席に座ると、視界一杯をスクリーンが占領する。しばらくすると頭部がカメラになったスーツ姿の何者かがパントマイムをし始めた。これが流れるのはどこも変わっていないのか。
「恋愛映画、なんですか?」
イロハがポツリと私に訊いてくる。
“うん、多分”
「どんな映画かも知らないんですか」
“昔……私が子供の頃に観たことがあったけど、よく分からなかったんだよね”
「映像も白黒でしたし……かなり古い映画なんですね」
人が入ってくる気配はない。あの店員も今は眠りこけているだろう。だから上映が始まるまでは話すことができる。
「……分からないことだらけですね、今回のデートは」
イロハと目が合った。スクリーンの輝きにイロハの顔の左半分が照らされている。
「面白いじゃないですか、先生」 - 9二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:02:14
そして映画が始まった。ダンディな主人公が、かつて愛し合った女性と偶然再会してしまう。にじり寄る戦火に怯えたか、もしくは新しい男でも見つけたか……ある日突然消えた彼女が、仕事場で若い男と一緒にいるところを見かけてしまったのが物語の始まり。
ムーディーな音楽に乗せて、仄暗い雰囲気の中で映画が進む。主人公たちのいる地にも刻々と戦争の影が忍び寄る中、偶然ヒロインたちの亡命の鍵を手にしてしまった主人公の葛藤。握り潰してしまえば、彼女は自分のものでいてくれる。自分にあの時と変わらぬ愛を囁いてくる彼女を前に、主人公はどう動くのか……。
ふと、イロハの方を見る。目を細めながらスクリーンに釘付けになっているその表情からは、映画を楽しんでいるかも分からない。
そしてクライマックス、主人公がヒロインを逃がすか否かという場面で飛び出す名フレーズ。何かの小説で見たあの文句はここが出典だったかと独りで勝手に納得する。
そしてエンドロールが流れ、暗転した画面に大きく「END」と筆記体で記される。隣から小さくため息が漏れるのが聴こえた。その直後、暗闇が突如として光に包まれる。
『上映は終了しました。足元に気を付けてご退場ください……』
腕時計を見ると、もう既に12時を回っていた。もう1つ、今度は大きくため息をついたイロハが背伸びをしながら立ち上がる。眉を顰めているところを見るに、どうにも何事かを言いたくて仕方ないようだ。
「……行きましょうか」
トーンの低くなった声に煽られるように、受付の「ありがとうございました」という声を背中で受け取りながら映画館を出る。先程までの暗闇に目が慣れていたのか、外界の燦々と降り注ぐ日光が眩しい。 - 10二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:03:00
「…………何ですか、あれ」
ゆっくりと誰もいない路地を歩きながら、イロハが呟く。
「あんな女、主人公とくっつかなくって正解ですよ。顔がいいだけで……」
“あ、あははは……”
主人公は結局、ヒロインを戦火から逃した。「自分はいつまでもお前のことを思っている」と言い残し、傍らにいた男に「頼んだぞ」と託し、自分は戦争の渦中で逃げずに生き続けることを選ぶ。なるほど、これは幼き時分の私には理解ができないわけだ。
「キヴォトスの外では、あんな女性が好かれてるんですか」
“いや、そういうことはないと思うよ……多分……”
「先生はああいう女性がお好きなんですか」
“あ、それはない。誓ってもいい”
実のところ、私もヒロインの行動が鼻についた。世紀を跨ぐほど昔なのだから倫理観も違うだろうが、それでも今観てしまうとどうしても眉に唾を付けたくなる箇所は出てきてしまう。
しかしそれにしても怒り過ぎだろう、と私の半歩先を行くイロハを眺めながら思った。やはり女性だからこそ殊更に苛立ちを覚えてしまうのか。
「……あの愛の言葉だって、嘘に決まってます。媚びを売るためにそう言ってるだけ」
“そういうものだよ”
何が本当で何が嘘かなんて、当事者たちにも分かってはいないだろうけれども。あの主人公の愛による献身は、決して嘘ではないのだろう。
明るい通りに出ると、また朝以上の喧騒が私たちを出迎えてくれる。喫茶店のテラスも開放され、昼食を食べながら談笑に勤しむ子供たちの声も華やかだ。
「…………そうじゃない人も、いますよ」
その中でも、イロハの言葉は一言一句聞き逃せなかった。しかし、その言葉はきっと私が聴こえてはいけないものだろう。 - 11二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:03:38
だから私は、聴こえなかったふりをした。
“……あー、お腹空いたな。そろそろ行こうか”
「フランス料理屋に?」
“うん。ここからもう少し歩くことになるけど”
今から歩き出せば、予約の時間に十分間に合うだろう。仕事に忙殺される中で磨かれたスケジューリング能力が活かされた瞬間である。
「それで、その後はどうするんですか?」
“うーん、あんまりやりたい娯楽っていうのが思い浮かばなかったんだよね”
「えー……じゃあ映画観てご飯食べて終わりですか」
キヴォトスに来てからというもの、ありとあらゆる経験をしている。それはたとえば美食であったり、遊園地でのレジャーだったり、ピクニックなんかもそうだ。ゲーセンなんてしょっちゅう行っている。
だから、私は現状娯楽の面で言うと満たされ過ぎているのだ。その中で「映画」というものが私の数少ない「最近遠ざかっていた娯楽」だったわけで。 - 12二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:04:48
“まあまあ、でもどこかに行って楽しむっていうのがデートの全てじゃないでしょ”
しかし、この場において私のやりたいことは他にある。
“その後はイロハと一緒に、ぶらぶらゆっくり街を歩きたいかな”
それは、イロハとの時間を満喫することだ。
今回のデートも、日々仕事に追われる私を見かねて連れ出そうとしたというのが真相だろう。だからこそ、私は眼前の少女を何とも愛おしく思っていた。
「…………そんなことでいいんですか。せっかくのお休みなのに」
“うん。だってそれが私のやりたいことだし”
これは、間違いなく私の本音だった。
しばし見つめ合っていると、イロハが根負けしたようにまた大きくため息を吐いた。
「……分かりました。分かりましたよ」
そして、イロハが躍るようなステップで私の先を行く。
「じゃあこの後も、もっと私を楽しませてくださいね、先生」
そう言って陽の光を浴びながら笑う彼女は、どの映画のヒロインよりも美しく見えた。 - 13二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:06:11
良かった
- 14二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:06:42
浄化された
- 15二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:07:18
- 16二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:07:44
イロハの何が文豪を惹き付けるのか
- 17二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:11:50
先生をサボらせようとするけど本人はデキる美女なところ
- 18二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:12:11
逆に考えるんだ、イロハが文豪を作っていると
- 19二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 18:22:00
あまりにも良すぎて、むしろ事故でスレごと消し飛ぶこともあるあにまん掲示板に投下したのが勿体ないまである
- 20二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 19:13:47
このレスは削除されています
- 21124/04/22(月) 19:15:52
>>1の過去作置いときますね……
【ブルアカSS】いつもの先生といつもの私|あにまん掲示板 いつものように「万魔殿の任務」という名目でシャーレに向かっていると、見慣れた顔が真正面の扉から出てきた。 いつも以上に目に隈を作り、足元は少しおぼつかず、微笑は相変わらず。……「先生」だ。「お疲れ様…bbs.animanch.com【ブルアカSS】そして2人で帰りましょう【棗イロハ】|あにまん掲示板 シャーレ専属の秘書、という役職がある。 日頃からキヴォトスのあちこちを飛び回り、かれこれ10年以上は鉄火場の最前線に立ち続けるシャーレの先生を常時傍らで補佐し続けるという仕事内容だ。そしてその立ち位…bbs.animanch.com【ブルアカSS】今更イロハのバレンタインストーリーを見たので発狂して書いたSS|あにまん掲示板 バレンタインデーという行事がある。 女性が男性に向けてチョコレート菓子を贈るというもので、恋愛感情を伝える際に体のよいイベントだ。異性からチョコレートを贈られた男性は、少なくとも並み以上には思われて…bbs.animanch.com【微閲覧注意】イロハがイブキに関する重大な相談をする話|あにまん掲示板「本当にもうどうしたらいいのか分からないんです」 もう世の中の全てに絶望したとでも言うように、イロハが私の真向かいで大きくため息をついた。 いかにも深刻そうなモモトークでシャーレ近郊の喫茶店に呼ばれた…bbs.animanch.com - 22二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:56:43
透き通るような話に浄化されてしまう。その前に保守だ。
- 23二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:58:24
いつものイロハ文豪ニキかと思ったらニキだった
ついにアズサにも手を出すのか… - 24二次元好きの匿名さん24/04/22(月) 23:59:36
渋辺りに転載しといてくれると助かる
ついでにフォローしたい - 25124/04/23(火) 09:22:40
- 26124/04/23(火) 19:49:50
- 27124/04/23(火) 19:51:07
- 28124/04/23(火) 19:52:53
- 29124/04/23(火) 19:58:38
- 30124/04/23(火) 20:01:04
ちなみに私が書いた「先生がイロハの虎丸に乗せられて海に行く話」はこれです
改めて当時案を下さった方に心からお礼申し上げます。素敵な案を本当にありがとうございました
https://bbs.animanch.com/board/3034589/?res=23
アズサの話はもうちょい待っててください。明日あたりに投下したいな
- 31二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 20:14:51
- 32124/04/23(火) 23:13:59
草。気にしないでください。実際死ネタとかも書いてるから否定しづらいし……
- 33二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 09:23:21
貴殿のアリスのSSが好きだった
- 34124/04/24(水) 16:59:55
よし書けた! 18時頃に投げます!
- 35124/04/24(水) 17:54:25
この間、買うものがあって立ち寄ったショッピングモールにてたまたま開催されていた福引きで、幸運にも1等を当ててしまった。
カランカランと高らかに鳴るベルの音と共に渡されたのは、遊園地のペアチケット。
“……ペアチケット、かぁ”
LED灯に照らされて半透明になったチケット2枚が、私の手の中でピラピラと踊っている。今日はアズサと1日中デートをすることになっているのだ。その行き先として「遊園地」というのはベストに近いのではないだろうか。
“それに、万が一これが見つかった時にどうなるか気が気じゃなかったしね……”
腕時計をちらりと見る。現在時刻は午前7時55分。
待ち合わせはシャーレビル前に午前8時。モモトークを開くと、『警戒のため、時刻ちょうどに来るようにして』というアズサのトークが光る。何に対する警戒だろう。誰かに見られることだろうか?
“もうじき、行った方がいいよね”
いつものスーツに白衣を羽織り、鞄にシッテムの箱と財布を忍ばせて椅子から立ち上がる。姿鏡を見ると、いつも通り顔色の悪い私が映っていた。
“せめてデートくらい、ちゃんとした服でキメたいんだけどね”
よく観たら白衣には皺も染みも存在せず、スーツも大事な時のために状態よく保存していた一張羅となっている。アズサには本当に申し訳ないが、これで無礼を許してもらおう。
エレベーターを使って1階に下りると、真正面に自動ドアが見えてくる。その向こうに、紫がかった銀髪がきらきら輝いていた。
自動ドアが開く音がすると同時に、彼女がこちらに振り返った。小さな手がきゅっと握りしめられているのが見える。 - 36124/04/24(水) 17:54:54
“や、アズサ”
「先生……!」
風にフリルが揺れている。白いワンピースに身を包んだアズサが、春の陽射しを浴びてそこにいた。少し目を離したらすぐにこの柔らかな光の中に消えてしまうのではないかと思うほどに輝くその姿は、アズサがこのデートに本気で臨んでいることの証だった。
“時間ちょうど、だよね?”
「うん、8時ピッタリ」
“何分前から待ってたの?”
「1時間前……何かあったら、いけないから」
そう言ってアズサは手に持ったバッグを掲げる。おそらくその中に愛用する銃や火薬、そして爆弾がこれでもかと詰まっているのだろう。それでもそれを悟らせないくらいの膨らみに抑えているのはさすがの一言だ。
しげしげと眺めていると、ふとアズサの顔に赤みが差してくる。表情もいつものクールなものではなく、ちょうど初めてのデートにとびっきりの服装で臨んだ女子学生のような不安げなもの。
“アズサ、その服……”
「…………うん」
“すごく綺麗だよ。正直、びっくりした”
「……本当?」
“うん、本当。おしゃれでかわいいよ”
そう言うと、アズサは顔を綻ばせる。それも少し口元が緩む程度のものだが、補習授業部での日々から私はこれがアズサにできる最上級の喜びの顔だということを知っていた。
事実、そのワンピースは本当に似合っていた。動きをあまり制限することなく、かつ極限まで「白洲アズサ」という美少女を際立たせている。デート衣裳にはうってつけの代物だ。 - 37124/04/24(水) 17:56:47
「よかった。……アドバイス、貰ってよかった」
“アドバイス貰ったんだ。誰に?”
「ハナコにモモトークで訊いたら、ファッションショーになって……これなら先生もメロメロだって」
“そっか、ハナコが……”
アズサは補習授業部の中ではとりわけヒフミと仲が良いと思っていたのだが、彼女ではなくハナコに尋ねたのか。少し不思議に思ったが、表情から見るに何かまずいことが起こったとかではなさそうだ。それにしてもハナコは服のセンスまでいいのか。彼女は一体何ならできないのだろう。下ネタの自重くらいではないか。
「……先生は、この服好き?」
“うん、大好き”
「っ! の、ノータイムで言われると、照れる……」
気恥ずかしくなってしまったのか、アズサが私から目を逸らしてしまう。言っていることは全て本音だし、何ならもっと褒めてもいいところではあるのだが、遊園地の混み具合も考えるともうじき出発しないといけないだろう。
“それじゃ、行こうか”
「そう言えば……今日は、どこに行くの? 完全に先生にお任せしてしまってるけど」
“ふふふ、実はですね……こんなものがありまして”
そうして鞄から取り出したるは、福引きで当たったペアチケット。3000円の買い物がよくぞここまで化けてくれたものである。
「それは……チケット?」
“そう、遊園地の”
「ということは、今日は先生と一緒に、遊園地?」
“うん。時間ギリギリまで遊んじゃおうか”
デートに遊園地とは、なかなかありきたりなものである。しかし「ありきたり」という単語は「王道」とも読み換えられる。
“付き合ってくれる?”
「うん、もちろん!」
そして私はアズサの逸る足に合わせようとして、競歩かと思わんばかりの速足でしばらく歩くことになった。 - 38124/04/24(水) 17:57:48
「先生、大丈夫?」
“だ、ダイジョブダイジョブ……”
「急ぎすぎちゃった、ごめん」
“平気平気、私大人だから……”
何とか平静を装うとするが、日頃の運動不足が祟って体力はだいぶ尽きかけている。額に浮いた汗を掌で拭うと、じっとりとした液体の感覚が確かに残った。
さて、待望の遊園地だ。今日は休日ということもあり、一般人や生徒の集団で朝から賑わっている。遠くからはジェットコースターによって巻き起こった絶叫がうっすらと聴こえており、否が応でも興奮を掻き立てられてしまう。
アズサは私を気遣う素振りを見せつつも、やはりどうしても早くアトラクションを楽しみたいようだ。そわそわと身体を震わせる仕草を見ていると、私もここで呑気に息を切らしてはいられない。白衣の裾で汗を拭いて背筋を伸ばす。
“それじゃ、まずどれをやる?”
「えー……うーん……」
入り口で貰ったパンフレットと周囲の風景を代わる代わる睨みつけながら、アズサが呻き声をあげている。少し周りを見渡してみると、ちょうど空いているアトラクションを遠くに見つけた。すぐに遊べるし、何より座って楽しめるのは大きい。
後もう少しで食べてしまいそうなほどに間近でパンフレットを読むアズサの肩を優しく叩くと、「ひゃっ!」と可愛らしい声が響いた。驚かせてしまったようだ、眉を顰めて振り向かれる。
「びっくりした……」
“ごめんね。声かけたらよかったね”
「……まあ、いいけど。それで、どうしたの?」
“うん、もし迷ってるようならまずあれをやってみない?”
そう言って私が指差したのはコーヒーカップ。大手アトラクションと言うべきジェットコースターや観覧車はいつ行っても長時間並ぶのは必定。ならばできる限りいろんなものを楽しんでしまおうという算段だ。
“やったことある? コーヒーカップ”
「前に補習授業部のみんなと、こことは違うテーマパークに行ったことがあって……そこでやったことは」
“いいね。ちょうど2人でも楽しめるし、やろうよ”
そう、コーヒーカップは2人以上が狭いカップの中に座って遊ぶものだ。それはつまり、私との物理的距離が縮まった状態で楽しめるということで。 - 39124/04/24(水) 17:58:08
「…………!」
アズサからしたら、願ってもない好機だろう。
「うん! コーヒーカップ、やろう!」
“決まりだね。じゃあ行こうか”
待ち時間は約5分。並んでいる間はアズサの遊園地経験について話した。補習授業部が行ったのはモモフレンズのテーマパークだという。何とも彼女たちらしいことだ。
“ぬいぐるみとか買ったの?”
「うん。私はスカルマンのぬいぐるみで、ヒフミはペロロの大きいヤツ」
“ぬいぐるみで部屋埋まっちゃいそうだね”
「心配ない。全部大切にしてる。もちろん先生に貰ったものも」
聞けばどれがいつ貰ったものか全て区別がつくらしい。大きさやあしらいの違いで分かるのだろうか。
「あっ、先生。次私たちだよ」
“アズサはどうする? 思いっきり回す派? それとも流れに任せる派?”
「前にコハルと乗った時は流れに任せたから、今度は全力で回してみたい」
“オッケー、私も頑張って回しちゃおっかな!”
係員に案内されて入ったカップは、周りと比べるとだいぶ小さめのものだった。私が脚を伸ばせば向こうの席に届いてしまいそうだ。
『それでは、お楽しみくださーい!』
溌溂とした声が響き渡ると、カップがゆっくりと動き出す。景色が二転三転するが、眼前のアズサの爛々とした表情だけはハッキリと見える。 - 40124/04/24(水) 17:58:23
「じゃあ、回すよ」
“頑張ろう!”
重いハンドルは、2人の力によってゆっくりと確実に回る。それと同時に、カップが回る速さも加速度的に上昇していく。いつしかアズサとハンドル以外は見えなくなっていた。
“速い! 速いよアズサ!”
私が半ば叫ぶように言う。
「…………っ! 今度は逆回り!」
“了解!”
ハンドルを今まで回していた方向とは逆に回し始めると、今までの回転速度の分だけ慣性がかかる。そうなると狭いカップの中は大騒ぎだ。あちらにグラリ、こちらにグラリ。気が付けば120秒のアトラクションはあっという間に終わっていた。
『お疲れ様でしたー! 足元にお気をつけて!』
「…………すごかった」
“うん、すごかったね……”
アズサは何ともなさそうだが、私は降りた後も視界が回っている。幸い足がもつれてすっ転ぶということはないがふらふらだ。それに短時間で酷使した腕の筋肉もそこはかとなく痛い。
「あんなスピードになるんだ……初めて知った」
“なるんですよ実は。楽しかった?”
「本当に……すごく、楽しかった」
もう次への期待でいっぱいいっぱいだと言わんばかりにアズサが目を輝かせる。そして次の行き先は、アズサの中では既に決まっているようだった。 - 41124/04/24(水) 17:58:54
「今度はあれ! メリーゴーラウンド!」
“メリーゴーラウンド? ジェットコースターじゃなく?”
「あれに乗るのは初めてだから、先生と一緒にやりたい!」
大小様々な馬たちが、優雅な音楽に乗ってぐるぐると回っている。アズサは回転系のアトラクションが好きなのだろうか。
“いいね。じゃあ乗っておいでよ。私はアズサを撮ってるから”
「…………違う」
ぎゅっと手を掴まれる。そしてぐいぐいと引きずられてしまう。不服そうな顔つきだ。
「先生と一緒に乗りたいの。だって、ほら……デートだし」
“なるほど……2人乗りか。できるかな”
「できると思う。ちょうど大きい馬もいるし、空いてるみたいだし」
念のため係員に訊いてみると、あっさりと快諾が下った。そして大きめの馬にアズサを前にして2人で跨る。
『持ち手の柱にしっかりとお捕まりくださーい!』
もちろん私が後ろから腕を伸ばすと、両腕でアズサを挟み込む形になってしまう。ちょうどあすなろ抱きと呼ばれる姿勢だ。手が銀色の髪に少しだけ触れると、ふわりと香水の匂いが漂ってきた。
メリーゴーラウンドが動き出す。私が子供の頃は、遊園地に来たらジェットコースターやらシューティングゲームやら、とにかく激しく動くものばかり好んでいたものだ。
しかしこうやってゆったりとしたものに身を任せるのもなかなかいいと気付いたのは、もう気軽に遊園地に行けるような年齢ではなくなった頃の話だった。 - 42124/04/24(水) 18:01:43
“アズサ、楽しい?”
少し気になって、アズサに尋ねてみる。
「うん、楽しくて……ドキドキする」
少しだけ、アズサが私の胸に体重をかけてきた。本当は持ち手があるのだから寄りかからなくてもよさそうなものだが。
アズサの表情は私からは見えない。それでもその真っ赤になった耳を見てしまったら、どんな感情でこういうことをしているのかは容易く想像がついた。
周りから「いいなぁあの2人」だの「私たちもああいう頃があったのね」だの聴こえた気がするが、アズサはそんなことなんて気にしない風だ。私たちは一体どう見えているのだろうか。
“これがやりたかったの?”
耳元で囁く。
「…………うん」
か細い声でそう返ってきた。それが何だか無性に愛おしい。
馬たちが動きを止める。アトラクションは終わり、次のアトラクションを探さねばならない。
“どうする? 続ける? 空いてるみたいだけど”
「ううん、別のところにも行こう」
そうして私たち2人は、日が暮れるまで遊園地を堪能し続けた。
ジェットコースターでは落ちる瞬間の写真を撮られたようだが、私だけが座席の中で縮こまっていた。それを見てアズサは「先生って、ひょっとしてジェットコースター苦手なの?」と笑っていた。
観覧車に入ると、キヴォトスの遠景と青空がよく見えた。この街の中で、生徒たちが青春を過ごしている。「私たちも、いつもはあの中にいるんだね」と不思議そうに零したアズサが印象的だった。
そして日が暮れて空が暗くなると、アズサは「今日は遅くなるって寮監の人に言ってある」と不意に言い出した。 - 43124/04/24(水) 18:02:10
「だから……お願い、もう少しだけ、一緒にいて」
弱弱しく私の手を握ってくる彼女は、とてもあの強い精神を持っている「白洲アズサ」だとは思えない。屈んで目を合わせると、薄紫の瞳が揺れていた。ともすれば泣き出してしまいそうなほどに。
“もう夜も遅いから”
「…………うん」
白いワンピースが震える。この日のために準備したのだろう。改めてよく見ると、本当にアズサに似合っていた。
“あと1つだけね。そしたら、一緒に帰ろう”
「1つだけ?」
“うん、あと1つ。何がいい?”
夜の闇は、アトラクションたちのLED灯によって目映く照らされている。その中でも特に大きな光の塊が、大きな通りを横切っているのが見えた。
アズサも私と同じものを見つけたのだろう。意を決したように私の手をまた引き始めた。
「一緒に、あのパレードが観たい」
“いいの? アトラクションじゃなくって”
「いい。また来た時にやればいいから」
近づいてみると、同じようにパレードを観に来た人たちで賑わっている。この分では間近で楽しむことなんて不可能に近いだろう。 - 44124/04/24(水) 18:02:50
“見える?”
「うん、何とか」
綺麗なパレードだ。遊園地のマスコットを模した台車が、虹色に光りながらゆっくりと目の前を横切っていく。上背とこの人混みを考えたら、もしかしたらアズサには見えていないのではないか。
“本当にこれでいいの?”
「うん。これがいい」
目を細めながら、そして目線を前から逸らさずにアズサが言う。本当のところはアズサにしか分からないから、とりあえずは信じることにした。
「…………あのね、先生」
繋がれた手がまたぎゅっと締まる。
「私、本当にここに来てよかった」
音楽が鳴り続ける。マスコットたちが何事かを喋っている。
しかし、アズサの声だけはハッキリと聞き取れた。
「補習授業部のみんながいて、先生がいて……今、本当の本当に幸せ」
“……デート、楽しかった?”
「楽しかった。夢みたいだった」
“よかった。私も楽しかったよ” - 45124/04/24(水) 18:03:04
アズサに目を向ける。光に中てられて、キラキラと瞳が輝いていた。
そして、くいっと手を引っ張られる。
「だから……ごめんね先生。ちょっとだけ屈んでくれる?」
“屈む? これでいい?”
膝を曲げて中腰の体勢になると、アズサがにこりと笑った。
「うん。これで、ちょうどいい」
そして、アズサの唇が私の頬に触れた。
吸うように熱烈なものではない。本当に、ただ触っただけの浅い口づけ。アズサからしたら、ただ数十センチ顔を移動させるだけで済むもの。
しかし、その行動1つのためにアズサは一体どれほどの勇気を振り絞ったのか、私には一生図り知ることはできないだろう。
「だから、これはお礼」
私には、今のアズサの顔を見ることができない。見てしまったら、私の中の何かが音を立てて崩れ落ちてしまいそうな気がした。
「……好きだよ、先生。大好き」
視界の端で銀糸が揺れる。優しい風に乗ってラベンダーが鼻を擽った。
「また、一緒に来ようね」
繋がれた手を離そうという気には、なれそうにもなかった。 - 46124/04/24(水) 18:04:01
以上!
日付が変わるまでに次に先生にデートしてほしい生徒を書いてくれたら、その中から1人選んで書きますよ! - 47二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 18:09:50
このレスは削除されています
- 48二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 18:15:01
シロコで
- 49二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 06:07:31
保守