(SS注意)早晨

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:21:12

     何故か、その日の朝は、自然と目が覚めた。
     条件反射のような動きでスマホの時計を見れば、アラームが鳴る、ちょっと前。
     もう少し眠っていられるな、そう思って、俺は布団に深く入り直す。
     そして、そっと目を閉じて────。

    「……早、晨♪」

     耳をくすぐるような甘い響きと暖かな吐息に、ドキリと心臓が跳ねあがる。
     思わぬ衝撃によって、微睡んでいた意識は完全にたたき起こされてしまった。
     状況がわからぬまま、俺は布団の中で寝返りを打ち、声の方向へと顔を向ける。
     そこには、一人のウマ娘が、悪戯が成功した子どものような表情を浮かべていた。
     黒鹿毛の長いサイドテール、前髪には王冠のような形の流星、輪郭が少し波打っている耳。
     担当ウマ娘のサトノクラウンは、屈んで、寝ている俺と視線を合わせていた。
     尻尾がふりふりと揺れていて、彼女はどことなく楽しそうにしている。
     
    「おっ、おはようクラウン、全然気づかなくて、ゴメン」
    「無問題、私も静かに入ってきたもの……ふふっ、トレーナー、寝顔は子どもみたいね?」

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:21:24

     手で口元を隠しながら、クラウンはくすくすと笑う。
     寝顔を見られたのは恥ずかしいが、担当が来てくれたのに眠りこけている方も悪い。
     ……だが、ちょっとだけ悔しくて、仕返しを試みることにした。
     スマホを手に取って、一枚の画像を表示させる。
     そこには、車の座席であどけない寝顔を晒しているクラウンの姿があった。

    「クラウンの寝顔も、可愛かったよ」
    「えっ……なっ!? 咩嚟㗎!? ちょっ、そんなの、何時の間に……!?」
    「ちょっと前にサトノダイヤモンドが送って来てね」
    「ダッ、ダイヤったら……トレーナー、それは消して……いえ、消しなさいっ!」
    「うわっ!?」

     クラウンは慌てた様子で、身を乗り出して、スマホを奪おうと手を伸ばす。
     ふわりと漂う甘い匂いと、布団越しに伝わる柔らかな感触。
     そんな刺激にどきりとしながらも、俺はスマホを彼女から遠ざけるのだった。
     ちなみに、スマホは結局奪われて、サトノダイヤモンドセレクションの一つは削除されてしまった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:21:38

    「お待たせ、今日の朝は香港風にしてみたわ」
    「……素麺?」
    「沙爹牛肉米粉、ビーフンのことね、一見すると重そうだけど消化に良くて朝にもオススメよ」

     クラウンは、説明をしながら、席へとついた。
     テーブルの上には、温かそう湯気を立ち昇らせる、ラーメンのような料理が並んでいる。
     ラーメンと大きく違うのは、ピーナッツの香ばしい匂いが鼻先をくすぐることだろうか。
     麺の上には炒めた牛肉が乗っかっていて、尚更、食欲をそそった。
     その時、ぐぅ、と小さな音が聞こえて来る。
     きょとんとした顔にはるクラウン、その音は、俺のお腹から鳴り響いていた。
     俺はそれを聞かなかったことにして、両手を合わせた。

    「……いただきます」
    「……ふふっ、どうぞ、吃吧?」

     察して、悪戯っぽい笑みを浮かべるクラウンを前に、俺は箸とレンゲを手に取った。
     まずはスープを一口。
     甘めのピーナッツソースに、ピリっとした辛味と濃厚なコクがマッチして、癖になりそうな味わい。
     麺はもちもちとした食感で、スープと良く絡み、なんだか優しい感じがした。
     焼ビーフンはたまに食べるけれど、スープに入れるのは何だか新鮮な気分である。

    「うん、美味しい……向こうでも良く食べていたの?」」

     ちらりと、クラウンを見やる。
     麺を啜っても音がせず、同じものを食べているとは思えないほど、上品な食べ方。
     彼女は喉を鳴らして飲み込むと、懐かしむように目を細めて、言った。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:21:56

    「意外かしら? 家の近くに美味しい店があってね、良く両親の目を盗んで通っていたわ」
    「あははっ、当時からなかなかのお転婆だったんだね」
    「……等一等、その言い方だと今もお転婆みたいじゃない」
    「…………あっ、レモンも用意してくれたんだ」
    「……トッ、トレーナー?」

     俺はカットされたレモンを絞って、再び麺を啜る。
     うん、濃い味が少しさっぱりして、これはこれで美味しいな、牛肉も柔らかくて────。

    「……お転婆じゃないもん」
    「ごめんごめん、今のキミはしっかりとした、大人のレディーだから」
    「…………もっと言ってくれなきゃ、許さないわ」

     少しばかり子どもっぽく、頬を膨らませるクラウン。
     そんな彼女を宥めるために、俺はしばらくの間、彼女の素敵なところを伝え続けるのであった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:22:13

     ここのところ、クラウンは毎朝のように、俺の家に来てくれていた。
     強硬に合鍵を要求して、本人も忙しいはずなのに、朝食を作ってくれていた。
     これには、一つの理由があって。

    「ご馳走様でした」
    「お粗末様でした……それじゃあ、食後の『アレ』を、またお願いするわね」
    「うん、というか普通に時間かけて処理するから、気にしなくても良いんだよ?」
    「No、それは私の矜持が許さないの」

     クラウンは小さくため息をつき、ちらりと、部屋の隅を見つめる。
     そこには、同じデザインのダンボール箱が、大量に積まれていた。
     これでもある程度は減ったのだが、それでもまだまだ結構な量は残っている。
     話は、一カ月ほど前に遡る。

    『……トレーナー、野菜はちゃんと摂ってるかしら?』
    『……一応、意識してはいるんだけど、なかなかね』
    『那不好! 貴方は私の相棒なんだから、しっかりしてもらわないと、ね?』
    『……うん、気を付けるよ』
    『そうだわ、最近、オススメの野菜ジュースを見つけたのよ、それを注文しておくわ』

     そんな会話をした数日後、俺の家にはとんでもない量の野菜ジュースが届いたのであった。
     ……まあ、例の如く、クラウンのうっかりミスである。
     幸い、日持ちのするものだったので、気にしないで良いと伝えたが、責任の強い彼女のこと。
     ジュースの処理を手伝う、という理由で、毎朝通ってくれるようになったのである。

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:22:30

    「でも本当に美味しいねコレ、砂糖も塩も入ってないのに、すごく飲みやすくて」
    「嗯、今ではかなり人気が出て、手に入りづらくなっちゃったのよね」
    「へえ、じゃあむしろ運が良かったのかもしれないね」
    「……ええ、そうね」
    「……クラウン?」

     クラウンは、そっと目を逸らして、肯定の言葉を返す。
     なんとも複雑な感情を込めた表情を浮かべながら。
     微かに違和感を覚えて、声をかけると、彼女はハッと我に返って立ち上がった・

    「そっ、それじゃあ。そろそろ出るわよ! 後片付けはやっておくから、トレーナーは着替えてきて!」
    「えっ、あっ、いや、いいよ、後片付けは俺がやっておくから」
    「無問題、交俾我啦! 効率良く、行くべきだわ! ああ、それとも────」
    「……うん?」
    「一緒に片付けをして、貴方の着替えを手伝ってあげた方が効率が良いかしら?」
    「…………着替えてきます」
    「哎呀、それは残念ね、ふふっ」

     悪戯っぽい笑顔を浮かべるクラウンに、俺は全面降伏せざるを得なかった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:22:44

    「あっ、クラちゃんとトレーナーさん! おはようございますっ!」

     クラウンと共に、学園へと向かう途中。
     背後から、慣れ親しんた声に呼ばれて、俺達は一緒になって振り向いた。
     少し遠くからやってくるのは、見知った一人のウマ娘。 
     淡い鹿毛のロングヘアー、前髪には名前を表す流星、おっとりとした雰囲気。
     サトノダイヤモンドは大きく手を振りながら、俺達に駆け寄ってきた。

    「早晨……ダイヤ、良くも私の写真を横流ししてくれたわね?」
    「あっ、バレちゃいましたか? えへへっ、ごめんねクラちゃん」
    「……もう」

     仕方ないなあ、と言わんばかりの表情でクラウンは小さく息をつく。
     なんやかんやで、彼女は可愛い妹分である、サトノダイヤモンドにはかなり甘かった。
     口元を隠して微笑むサトノダイヤモンドは、俺を見てから、不思議そうに小首を傾げる。

    「……? トレーナーさん、なんだか最近、顔色が良いですね?」
    「ん、そうかな、多分それは────」

     クラウンが毎朝、ご飯を作ってくれているからだよ。
     ……と、正直に話すのはどうかと思い、俺は寸前で言葉を飲み込み、適当に理由をでっち上げる。

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:23:02

    「────最近、野菜ジュースを飲むようになったからかな」
    「野菜ジュース……あっ、もしかして、こちらの商品ですか?」

     そう言って、サトノダイヤモンドはスマホを操作し、画面を見せて来る。
     そこに映っていたのは、まさしくクラウンが注文してくれた野菜ジュースであった。
     通販のページで、現在売切中と真っ赤な文字で添えられている。
     なるほど、確かに人気なんだなと納得しつつ、俺は頷いた。

    「ああ、それだよ、すごい美味しくてね」
    「ええ、各所で大人気で、一カ月以上前からずっと品薄の状態が続いているんですよ」
    「やっぱりそうなんだ……うん、一カ月前?」
    「あっ、ちょっ、ダイヤ、それは……!」

     一カ月前であれば、うっかり大量注文出来るほど、物があったはずでは。
     クラウンは、何故か慌てた様子で、サトノダイヤモンドの言葉を止めようとするが時すでに遅し。
     サトノダイヤモンドはにっこりと無邪気な笑顔を浮かべて、言葉を紡いだ。

    「クラちゃんも一か月前────色んなところから、頑張って買い集めていたもんねっ!」

     俺はまさかと思いながら、隣にいるクラウンへと視線を向ける。
     彼女は、顔を真っ赤に染め上げて、涙目でぷるぷると震えていた。
     ……どうやら、この一連の出来事には、タネも仕掛けもあったようである。

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 14:24:55

    お わ り
    クラちゃんに耳元で広東語囁いてもらってディープラーニングしたい

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 15:40:04

    自分のうっかり芸を武器として使うクラちゃん強いね…
    思わぬところからタネがばれちゃうクラちゃんかわいいね…
    クラちゃんクラトレの口説き愛も最高でした、ご馳走様です

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 16:30:59

    3周年チケでクラウンと交換した俺にぶっ刺さった
    素敵なSSをありがとう

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 16:37:51

    え、これでこいつら結婚してないんですか??
    甘酸っぱくていい話でした!

  • 13124/04/23(火) 23:51:58

    >>10

    クラちゃんはうっかり屋なところが可愛いですよね

    なんというかこの二人は高火力で殴り合いしているのが良く似合います

    >>11

    クラちゃんはガチャで引いていたんですがなかなか書く機会がなくて・・・

    そう言っていただけると嬉しいです

    >>12

    本人達はパートナーとして当然という空気で

    無限にイチャイチャしていて欲しい

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 00:29:04

    タ〜ネもしかけも〜 この手でつくる〜
    素敵なssでした

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 02:33:31

    (サトノダイヤ)モンドセレクション好き
    セレクションの一つってことはまだまだあるんだろうなぁ…

  • 16124/04/24(水) 07:17:35

    >>14

    奇術師ですからね仕方ないね

    読んでいただきありがとうございます

    >>15

    クラちゃん無限に可愛いから

    コレクションも無限にありそう

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