貴婦人のお出かけプラン【ジェンヴィル・1レスSS】

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:23:11

    「貴女、普段妹さんとはどんな事をして遊んでいらっしゃるの?」

    ちょっとお話よろしいかしら、などといきなりカフェテリアに呼ばれ何事かと身構えていたが、結果的にやや拍子抜けする格好になった。
    "貴婦人"ジェンティルドンナにしては珍しい事を聞くものだ、というのが最初の感想。普段から自他共に厳しい彼女らしからぬ質問に、テーブルを挟んで向かい合う私の目は玉のようになっていたのだろう。

    「……それほど驚くことかしら」
    「……ええ、まあ。正直に言って、あまりそういったことに積極的なイメージが沸かなかったモノですから」
    「あら、休養日に予定が無くなれば嗜む程度にはゲームも致しますわ。と言っても、無心で遊べる時間潰しのようなものですけれど」

    それにも意外だ、と思う反面、頭の中に居る過保護だったり厳格だったりする私達は一様に納得して頷いていた。
    彼女が休養日に何をするか想像してみれば、先ずはトレーナー室にやってきて最新の資料を読み漁り、直近の気になるレースの映像を片っ端から確認。外に出れば蹄鉄やシューズなど用品の調達に、学園のターフでトレーニングを眺めて気になるウマ娘をチェック、と言った所だろうか。
    当然、補習でトレーニング時間を減らすなど言語道断なので、勉強も欠かさない。
    ストイックな彼女が本当に何もやることが無くなったという状況に陥って、初めて時間潰しのゲームにお呼びが掛かるのだろう。

    そんな彼女が、態々私に遊び方について尋ねるのだから、何か故あっての事に違いない。
    親しい誰かと街へ繰り出すのだろうか。もしや、自身のトレーナーとレースやトレーニング云々を抜きにしてお出かけ……私とヴィブロスとシュヴァルよろしくデートの予定を立てているのか。
    偉大な先達の例に漏れず、彼女も自身のトレーナーとは非常に良好な関係を築いているようだし、ある時は理解者として、指導者として、またある時はトゥインクル・シリーズを共に歩むパートナーとして共に過ごす時間の長さを考えれば、それも十分考えられる。 

    もしそうだとすれば、こちらも色んな意味で真剣にならざるを得ない。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:26:56

    「それで? 私の質問には答えて頂けるのかしら」
    「ええ、勿論ですわ。そうね、私は基本的にヴィブロスの好みに合わせる事が多いのだけれど……」

    改めて問われた際に自分の中でそう納得していたのもあって、私はヴィブロスやシュヴァルとの思い出が詰まった心のアルバムを広げた。

    ヴィブロスは、ときめきをキャッチしてそのアンテナの向く方へ私を誘ってくれる。綺麗な洋服、煌めくアクセサリー、甘いスイーツ、お洒落なカフェ、他にも色々。私はヴィブロスと一緒に、彩り溢れる世界を踊る。
    シュヴァルは、あまり自分から主張しないけれど、それでも好きな事はある。心静かに海に向かって竿を振り、心地よいカモメの鳴き声と波の音を聞きながら潮風を感じれば、心の靄が晴れていくようだった。

    静と動、対照的な二人のおかげでお出かけ先のバリエーションには自信があるので、この手の話題には困らない。
    敢えて困る事を挙げるとすれば、心のアルバムを捲ると色鮮やかな思い出達を少々語り過ぎる事くらいか。しかし、これも妹達への愛故である。

    けれど、目の前のジェンティルドンナは、私の話をまるで一緒にアルバムを眺めているかのように楽しげな様子で聞いていた。彼女にどんな事情があるのかは知る由も無いが、私の思い出が良いアドバイスになれば幸いだ。

    「……そんな所かしら。参考になれば良いのですけれど」
    「ええ、とても参考になったわ。ありがとう」

    どういたしまして、と返した時も随分嬉しそうに笑みを浮かべていたので、私は普段なら絶対起きないであろう好奇心と共に、少しだけ彼女の側へ身体を乗り出した。

    「ところで……そういった情報を仕入れるということは、どなたか意中の方とお出かけでも?」
    「ええ。と言っても、お誘いするのはこれからなのですけれど」
    「まあ、貴婦人のお誘いを受ける幸運なお方はどなたかしら。ああ、一応言っておきますけど、別に仰らなくて結構よ? ただ、アドバイスした側としては、成功を祈らずにはいられませんもの」

    私にしては少し踏み込みすぎたかな、とも思ったが、彼女は変わらず嬉しそうな笑みを浮かべていたので、内心安堵する。
    彼女の事だから、返ってくる言葉はつれないモノかもしれないが、それでも良い。ただ只管に、彼女のアルバムの1ページが美しく彩られるのを願うばかりだ。
    そんな風に思っていた、その時だった。

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:31:23

    「────貴女よ」
    「……はい?」
    「私がお誘いしたいのは貴女よ、ヴィルシーナさん」

    その瞬間、私のシナプスはフリーズした。正直、今どんな表情をしているのか定かで無い。
    それでも少しずつ再起動を始めた思考回路が、彼女の言葉をゆっくりと咀嚼し始める。
    しかし、恐らく、どんなに私の脳がメモリ一杯に稼働し、脳内の私達が顔を突き合わせ激論を交わしたとしても、結論は一つしか導けなかった。

    「……私を、デートに誘いたい。そう、仰るの?」

    固まった表情のままなんとか応えると、彼女は嬉しそうな笑みを崩さぬまま私の手を自身のそれで包むと、そのまま指先を私の手の上で妖しく滑らせだした。

    「妹さん達とは随分と楽しそうな経験をされているようですけれど……ならば、その分私もやり甲斐があると言うものですわ」

    手から伝わる感触とその言葉に、背筋が痺れる。
    まさか、自分のデートプランを練るために私が開いた心のアルバムを一緒に見ていたと言うのだろうか。だが、文脈的にそうとしか考えられない。

    「……貴女を、今まで経験した事のないような世界へとお連れ致します。これを"幸運"だと仰る貴女には態々聞くまでもないでしょうけれど……私の誘い、受けて下さいますわね?」

    その答えを突き付けたその瞬間、私を見つめる彼女の瞳に、感情の炎が俄に湧き上がって揺らめいた。彼女としてはドキドキしながらデートにお誘いしているつもりなのかもしれないが、受け取る側としては全くそう見えない。これも彼女の迫力が成せる業というものだろう。
    正直全力で理由を付けて断りたいが、この状況でそんな事が出来るなら苦労はしない。

    なので、私は頭の中で思考のスイッチを切り替えた。

    こんな事で彼女に怖じ気づいていては、頂点の座など夢のまた夢。"私の経験値など、容易く越えてみせる"とでも言いたげなその余裕、果たしていつまで保つかしら?

    自分で思っていてもよく分からない方向へ腹を括った私は、一度全身の空気を入れ換える。そして、すりすりと手を撫で続ける指先にそっと自身の指を重ね、今度はこちらから優しく彼女の手を握った。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:35:10

    「……貴女がそうまで仰るのでしたら、謹んでお受け致しますわ。勿論、そこまで自信満々に仰るからには、最愛の妹達が私にプレゼントしてくれた珠玉の思い出に勝るとも劣らない経験をさせて下さるのでしょうね?」
    「ふふ……ええ、勿論。勿論よ、ヴィルシーナさん……!」

    そう、頂点を目指す者として、堂々と彼女に向き合う。これが私のあるべき姿なのだ。今更彼女の不意打ちに驚いている場合では無い。
    一体私を何処に連れて行って何をする気なのかは全く検討が付かないが、私がこれまで妹達と共に思い出のページを積み重ねてきた心のアルバムを越えるなど笑止千万。何であろうと全て受け止め、貴婦人のエスコートを満喫して見せようではないか。
    私はそんな決意を胸に秘め、今までで一番嬉しそうな笑顔を私に向けてくるジェンティルドンナに敢えて不敵な笑みを突き付けて見せたのだった。

    それから数日後、私は彼女のエスコートで一泊二日のデートに出掛けた。泊まりだとは思いもしなかったが、私にとってそこはそれ程重要では無い。
    何故かと言えば、単純に私にとって想定外の事がその二日の間に起こりすぎたからである。学園に戻って彼女と別れた後、一人旅行でのアレコレを思い出し、胸が加速し身体が熱くなる感覚を覚えてようやくその実感が沸いてくる程だった。
    正直、今でもまだ夢でも見てるのか、と思う時がある。

    なので、私達が泊まりがけでジェンティルドンナと遊びに出掛けた事を知ったヴィブロスに羨ましいとブーイングを受け、トレーナーさんに楽しそうで良かった、と言われても、私はええ、そうね、と一言返すに留める。
    色々とお出かけ先の感想を求められたりもしたが、私に出来たのは、顔を桜色に染めて『……忘れられない思い出になった』という旨を答える事だけだった。

    そして、二人でお出かけして以来、ジェンティルドンナと私が一緒に居る時間が今までより格段に増えたのは、言うまでもない。

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:38:08

    以上です。ありがとうございました。
    やはり自分がお話にするとジェンヴィルの関係性がジェン→→→→→→→→→→→→←←ヴィルになりがちな今日この頃です。早く実装されないかしら……。

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:39:40

    良いね
    ところで水差して申し訳ないんだがスレタイ見て1レスかと思ったら続いたからたまげたゾ

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:42:32

    とても良かった
    ところでその数日間には何が……いや、ヴィルシーナの胸の中にしまっておいた方がいいか

  • 8124/04/23(火) 22:46:31

    >>6

    ありがとうございます! 

    そしてすみません、スレタイを盛大に間違えました。横着してコピペしたら消し忘れるとか……次から気を付けますね。


    >>7

    少なくとも何かあったようですが……まあ色々あったんだと思います。その辺はご想像にお任せという事で。

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 22:52:42

    最初こそ羨ましいという反応を返してたヴィブロスが、その後のお姉ちゃんの表情と言葉で色々察してそうなくらいには、ヴィルシーナの恍惚が見えるような良いSSだったよ…ご馳走様です

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 23:12:04

    (私はおかわりを求めていますのジェスチャー)

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 23:16:39

    >ジェンティルドンナと私が一緒に居る時間が今までより格段に増えたのは、言うまでもない。

    察して二人の関係を深掘りしたいヴィブロス VS そういうの良くないよと言いつつ好奇心と戦うシュヴァル

    VS そっと見守る派のダークライ

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 23:26:36

    (いいよね…)
    (いいね…)

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 23:39:16

    見てて生き返る〜!

  • 14二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 00:08:09

    うーむ寝る前にとても良いものを読んだ
    ありがとう

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 01:03:40

    良すぎます!

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 01:14:31

    良かった。1レス以上続いたのはびっくりしたけど

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 07:43:14

    良質なジェンヴィルは活力になるなあ

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/24(水) 11:36:48

    >>11

    ほぼほぼヴ姉妹VSダークライで草

    それはそれとして良きジェンヴィルでした。意外に小さい説がある手でシーナの手を包むシーンは尊いのにそこからの出力が貴婦人すぎるの好き

  • 19124/04/24(水) 21:42:37

    皆様、読んで頂きありがとうございます。


    >>9

    カンの良いヴィブロスは真っ先に察しそうです。個人的にはシュヴァちも割と察する側かな、と。ドンナさんから真っ先に察するのは多分ゴルシちゃんでしょうか。

    お楽しみ頂けて良かったです、お粗末様でした。


    >>10

    ありがたいお言葉。何かお話を閃いたらまた書かせて頂きます。このお話の続きか別のお話になるかはその時次第でご容赦頂きたく。

    でも多分その時もジェン→→→→→→→→→→→→←←ヴィルだと思います。


    >>11

    ヴィブロスとシュヴァルがジェンヴィルのデートを付けようと企んだらこっそり眠らせて止める展開があったりするのでしょうか。これは間違い無く劇場版寄りのダークライ。

    でも付けてるのがジェンヴィルにはバレバレだったという展開も美味しい……。


    >>12

    (いい……)


    >>13

    ありがとうございます!ジェンヴィルの尊さがDNAに素早く届く。

  • 20124/04/24(水) 21:42:56

    >>14

    良いものとのお言葉、こちらこそありがとうございます!


    >>15

    恐れ入ります。これからもそう言って頂けるお話を作っていきたいです。


    >>16

    スレタイは完全に消したと思い込んでた私のミスです。驚かせてすみません。

    確認大事。


    >>17

    ジェンヴィルの栄養素はいつか病気も治せるようになる。


    >>18

    本人は真剣なのですが、真剣な分ちょっと覇気が出ちゃうのが貴婦人クオリティ。

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