\なんと!/ボクたちは時速60kmで走ることができるんだよ!すごい??

  • 1二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:52:13

     それは、ある日の午後のこと。昼食を終えてトレーナー室に戻ると、郵便受けに1通の封筒が入っていた。
     表面には、”サンデー・ホープクラブ”の文字と、特徴的な赤いバッテンマークのロゴ。「お得意様」からの郵便物だ。

     サンデー・ホープクラブといえば、近年影響力を増している”認定クラブ法人”のひとつである。 
     「その認定ナントカって何?」という諸氏のために説明すると、認定クラブ法人というのは、多数の会員から出資を受け、その資金でトレセン学園入学を志すウマ娘たちの援助を行っている団体のことを指す。認定と名に冠しているのは、活動にあたってトレセン学園およびURAの正式な認可を受けていることが理由だ。

  • 2二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:52:36

     レースのための環境を整えるのには、とにかく金がかかる。シューズや蹄鉄は消耗品だし、成長期のウマ娘であれば頻繁にサイズも変わる。幼少期のウマ娘にレースを教えるジュニアクラブの月謝も、ピンキリではあるが結構な額になるものだ。
     それらの支出を、お父さんはサラリーマン、お母さんはパート勤めというような一般家庭の収入で用立てるというのは非常にハードルが高い。そのため、トレセン学園に入学するような生徒というのは元来、富裕層の家庭が大多数を占めていた。メジロ、シンボリ、サトノといった名家の存在がその最たる例といえるだろう。
     しかし、時代は変わった。数多くのスターウマ娘の存在により、世間のレース人気は年々加熱の一途を辿り、一般家庭の中でも「ウチの子をトレセン学園に!」という声が多く上がるようになっていったのである。

     折しもそこに現れたのが認定クラブ法人だ。彼らは名門ジュニアクラブにも劣らない設備と指導人員を用意し、その費用は利用する家庭から徴収するのではなく、「将来有望なウマ娘たちに夢を叶える手助けを」というキャッチコピーのもと、クラウドファンディングに近い形で一般の人々から援助を募った。
     1口がいくらになるのかもまたピンキリだが、決して少なくないであろう額を投資した彼らには、そのウマ娘がデビューした後に大きな見返りがある。レースで使用した蹄鉄などグッズのプレゼント、優勝したレースでの写真撮影、ウマ娘本人をゲストに招いての記念パーティ……お金が返ってくるわけではないが、そういったサービスはファンからすれば嬉しい限りだろう。それに、G1ウマ娘に出資をしたとなればちょっとした自慢にもなる。
     よりウマ娘たちの存在を身近に感じたいファンと、より多くの有望なウマ娘をレースの世界に送り出したいクラブ。両者の希望をwin-winで叶えたこの方式はあっという間に広まり、今やトレセン学園に所属する生徒の多くがクラブ法人の出身となっていた。

  • 3二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:53:07

     さて、俺の担当ウマ娘であるジェンティルことジェンティルドンナは、そのクラブ法人の中でも名門とされるサンデー・レースホープクラブの出身だ。彼女は結構な名家の生まれだが、よりよい環境を求めて、一般のジュニアクラブではなくクラブ法人の門を叩いたようで。合理的を絵に描いたようなジェンティルらしい理由である。
     そんなジェンティルを担当するにあたって、トレーナーである俺にもクラブ側から色々と注文が来た。「トレーニングを出資者に見学させてくれ」だの、「オフショットの写真を送ってくれ」だの……立場上難しい依頼はあったが、彼らのおかげでジェンティルに出会えたのだから無下にはできず。逆に俺の発案で、ジェンティルの手で圧縮された鉄球を抽選で毎週1名にプレゼントするなど、”サービスするトレーナー”としてできる限りの誠意は見せてきたつもりだ。
     
     さて、今日はそんなクラブからの突然の郵便である。しかもこの封筒、かなり分厚いぞ。書類数枚だとか、そんな厚みではないことは明らかだ。カッターナイフで封を開けると、中には卒業アルバムのようなしっかりとした装丁の本と手紙が入っていた。
     まずは手紙を開けてみる。ワープロ打ちの文面は、慇懃な挨拶から始まるビジネストークで埋まっていた。

     ジェンティルドンナのトレーナー様 平素は大変お世話になっております。
     さて、我々サンデー・ホープクラブはこの度、出資者の皆様に向けて新規サービスを展開することとなりました。
     そのサンプルとして、当クラブ在籍時のジェンティルドンナの資料をお送りさせていただきます。
     是非ともご査収、ご確認いただいた上で、ご意見を賜りたく存じます。

     手紙の残りの内容によれば、どうやら会員へ出資募集のためのカタログを新規で作成するということらしい。送られてきた本は、そのサンプルとして入学前のジェンティルを題材に作られたもので、これに目を通した上で感想を聞かせてくれということだ。

  • 4二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:53:32

     しかしこのカタログ、随分と手が込んでいる。表紙の題字には金色の刺繍が施されているし、収納用の箱まで付いている充実ぶりだ。タダで配るには惜しい出来である。
     それに、ジェンティルはもうとっくにクラブを卒業しているわけだから、このカタログが世に出ることはない。つまり、俺しか目を通さないはずのものにこうして手間を掛けてくれているのだ。サンデーが名門たる理由を身をもって知ることができた気がした。

    「おお……」

     早速カタログを開いてみると、1ページ目から幼少期のジェンティルの写真がでかでかと掲載され、その下にクラブの指導員からの評価のような文章が書き連ねてある。走り方の特徴やトレーニングに取り組む姿勢、現時点での自己ベストタイムなど……出資するには大いに参考になるだろう。
     2ページ目以降には本来であれば次のウマ娘の資料が載っているはずなのだが、このカタログはサンプルのため、白紙となっている。その代わりと言ってはなんだが、袋とじのような形で1枚のDVDが挟み込まれていた。
     なんだろう。盤面には何も書かれていないので再生してみないと内容は分からないが、恐らくはこれもジェンティルに関する何かが記録されているのだろう。せっかくなので見てみようじゃないか。さっそくPCのドライブにDVDをセットし、再生ボタンを押す。

  • 5二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:53:56

    『ボク、ジェンティルドンナ!将来の夢はトリプルティアラです!』
    「へえっ!?」

     思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは、動画が始まるやいなや、やけに爽快なBGMが流れだしたのが原因ではない。
     画面にはだいたい5歳くらいだろうか、髪色や顔立ちにどことなく面影を感じる幼いウマ娘が映っていて、カメラマンらしき人物の質問にはきはきと答えている。

    『ドンちゃんのスゴいところを教えてくれますか~?』
    『はいはい!えっとね、なんと!ボクたちは時速60kmで走ることができるんだよ!スゴいでしょ!』

     当時放映されていたであろうプリファイの柄のシャツを着ていながら、”ボク”というミスマッチな一人称を用いるこのウマ娘は、間違っても後の我が愛バではあるまい。きっとクラブの職員がお遊びで作った悪質なフェイク動画なのだ。そうに決まっているのだ。
     とにかく、こんなものがジェンティルの目に入るのはよろしくない。そろそろ授業も終わってトレーニングが始まる頃だし、このDVDはカタログと一緒に大事にしまっておくことにしよう。うん、それがいい。



    「あら、懐かしいこと」

     厳かにウィンドウを閉じようとしたマウスの動きを、背後から伸びてきた手が優しく封じ込める。
     ”ご本人登場”というありがちなオチだが、どうか皆さん安心してほしい。心臓が止まるかと思った。

  • 6二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:54:19

    「……いつ入ってきたの?」
    「つい先ほど。ノックもせずに失礼しましたわ」
    「カギも掛けといたんだけど」

     額の汗を拭いながら振り返れば、そこにはいつになく穏やかな表情のジェンティルの姿が。既にトレーニングの準備万端のようで、制服ではなくジャージに着替えている。

    「ええ。そんなことより、まさかこんな映像が残っていたなんて。インタビューを受けた記憶はありますけれど、お父様方にお見せして、それで終わりかとばかり思っていましたのに。クラブから送られてきましたの?」
    「ああ、うん……いやでも、これは違くて」

     言葉にならない言い訳をしながらもこっそりとマウスを動かそうとしているのだが、押さえつけられた手はピクリとも動かない。
     そんな様子を面白く感じたのか、ジェンティルはますます笑みを深くする。

    「あら、何も焦る必要はありませんのよ。ここには私と貴方だけ、そしてこの映像を観たのは貴方だけですもの」
    「えっと、つまり?」
    「鈍い方ね、すぐお分かりになりますでしょうに」

     そう言ってジェンティルが机の上に転がしたのは、ひしゃげた金属の部品。心なしかややサイズが小さいような気はするが、確かに見覚えのあるものだった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:54:42

    「このぐらいで安全だと思われるのは心外ですわ。私は日々強くなり続けているのだから」
    「どあのぶ……」

     思わず、変わり果てた姿の友の名を呼ぶ。この間タングステン合金製のものに替えたはずだが、それすら音もなく破壊してしまうとは。ジェンティルの成長は留まることを知らないようだ。

    『トリプルティアラになったらね、今度はかっこいい王子さまを見つけるの!それでね、ボクのものにするんだ!』

     画面の中の少女は無垢な夢を唱える。片方は見事に叶えてみせたが、もう片方の行方はいかに。
     

     さて、サンデー・ホープクラブ会員の皆様、これからも皆様に目通しが叶うかは分かりませんが。
     今後とも我が愛バジェンティルドンナに、ますますのご愛顧をお願いいたします……

  • 8二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:55:33

    オワリ。一口馬主のシステムをウマ娘世界に落とし込むと危ない雰囲気がしてしまうよねというお話。

  • 9二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:58:44

    おかわわわわ

  • 10二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:59:24

    良SSありがとう御座います...
    サンデーレーシングを上手いことウマ娘ナイズする手腕に感服致しました...

  • 11二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 21:59:38

    ロリのカタログ作って出資お願いしますは確かにヤバい

  • 12二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:00:45

    「そして今あなたも見ましたね?」

  • 13二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:04:51
  • 14二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:14:02

    タップシナリオで一口馬主について触れられてたし今後クラブ系のウマ娘でそういう話はあるかもね

  • 15二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:21:18

    ドンナは活躍できたからいいけどそうじゃないクラブウマ娘は精神的にものすごくキツそう

  • 16二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:27:35

    落とし込みが上手いしすらすら読めたわすごい

  • 17二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 22:32:22

    >>15

    総額1億円出資してもらったのにデビュー戦のパドックで他の子と喧嘩して怪我しちゃうローマンネイチャーちゃん……

  • 18二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:04:25

    >>17

    去勢されるテーオーコンドルちゃん

    いや去勢ってなんだよ

  • 19二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:05:26

    >>18

    そういやウマ娘の去勢ってどういう扱いなんだろうね

  • 20二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:08:44

    >>19

    何かこう…別室に連れて行かれて気付いたらすっきりして性格が変わるんだろう

  • 21二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:09:55

    やってることほとんど芸妓さんの「彼氏」なんだが

  • 22二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:11:31

    良いSSをありがとう…!ジェン子の幼少期ボクっ娘概念が良すぎてな
    この一口関連のあれやこれやは他のウマ娘たちでも見てみたくなるね

  • 23二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:30:18

    >>20

    アフゴの体験談みたい

  • 24二次元好きの匿名さん24/04/25(木) 23:52:04

    >>12

    >>13

    即死トラップが過ぎる

  • 25二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 07:27:45

    >>24

    賢い奴はスレタイで回避するんだよなぁ

    あっ

  • 26二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 08:07:43

    設定の説得力がすげぇ…文章もすらすら入ってくるし好きなボクっ娘概念のSSだし最高ですありがとう

  • 27二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 08:45:07

    こういう原作設定落とし込みSSはもっと増えて欲しい

  • 28二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 08:49:54

    >>18

    あの時うまぴょいに挟まれて松山くん前歯折ってるんだよね…

  • 29二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 13:58:39

    >>28

    マジで?あまりにも不憫すぎる

  • 30二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 19:34:57

    >>23

    白い服を着た人たちに眠らされ、目が覚めたらスッキリしておりました

    これからは真面目に頑張ります……

  • 31二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 22:10:37

    とあるトレーナーと懇意にしてて海外旅行セットがついてくるヒロオ・倶楽部やゴルシと変なトレーニングしてるラフィアン……

  • 32二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 22:16:47

    >>19

    犬猫でいう避妊手術…?

    優生保護法「うわぁ…」


    騸馬が多い香港とかはどうなるんだろう?

  • 33二次元好きの匿名さん24/04/26(金) 22:24:38

    安心院みたいな感じでしょ

オススメ

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