【SS】今から伺いますね……【トレカフェ】

  • 1二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:03:14

    「こんにちは、トレーナーさん。約束通り見に来ましたよ」

    今日のトレーニングはお休み。特別することのない私は、以前の約束を果たしに行った。
    そう、彼の自宅に飾られた人形を見に来たのだ。
    それは以前私が買ったもの。どこにも置くスペースがないので、彼に預かってもらったのだ。

    「こんにちは、カフェ。あー……ごめん、お菓子しか用意してないけど……」
    「ふふ……気にしないでください。コーヒーなら、今から淹れますから……」

    訪問は、初めてではない。
    今まで何度か彼の自宅に足を運び、人形を見ながらお茶をした。
    そうしている内に、コーヒーミルだの、豆だのの私物が彼の家に置かれるようになっていった。何故か専用のマグカップすらある。
    ……わざとではない。

  • 2二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:03:31

    「……今日は、どんなブレンドにしましょうか」
    「マンハッタンブレンドで」
    「ふふ……了解です」

    要するに何でもいいということだが、こう言われると気合が入るのだから、心というのは不思議なものだ。
    テーブルに並べられるスイーツを見て、考える。
    あの人が喜びそうな味はなんだろうか。

    「……うん。今日はこれにしよう」

    淹れはじめてから、ふと思った。
    はて、コーヒーとは自分の趣味ではなかったか。
    今、私はどうして私の気分に沿う味でも、スイーツに合いそうな味でもなく、あの人の好みを考えたのだろう。
    一瞬浮かんだそんな疑問は、ミルから漂う芳しい香りに消されてしまった。

  • 3二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:03:47

    「……どうぞ、トレーナーさん。お茶会、始めましょうか」
    「ありがとうカフェ。まあ、普段と変わらないけどね」
    「それでも良いんです……ふふ」

    お茶会などと銘打っても、することは変わらない。
    静かな時間を嗜むだけである。
    普段と違うのは、場所ぐらいだ。

    「……そう。それが良いんです」
    「何が良いの?」
    「……何でもありませんよ……ふふ」

    それは一つの証明。
    私たちの関係に場所という要素はいらないという、証明なのだ。

  • 4二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:04:30

    お茶会は、窓に面したテーブルで行われる。
    窓から入る暖かな光は、そこが屋外であるかのように眩しく、私たちを照らし出す。
    普段は苦手な日光だが、この時だけは好きになれる。

    「ところでさ、カフェはあそこに置いた人形をどう思う?」

    トレーナーさんがある方向を指差した。
    その先には例の人形。
    棚の上にポツンと置かれたそれは最初に見た時と変わらず可愛らしい……が、

    「……一人ぼっちで、少し寂しげ……でしょうか」
    「……やっぱり?」

    同じことを思っていたのだろう。彼は私の答えを聞いて苦笑いをしている。
    そんな折、私は彼の指にあるものを見とがめた。
    絆創膏である。

  • 5二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:04:45

    「……あの、トレーナーさん。その指は……どうしたんですか?」
    「ああ、これ? 実は、裁縫してたら怪我しちゃったんだ」
    「裁縫……? 珍しいですね」

    契約してこの方、彼が裁縫をしているなんて話は聞いたことがない。
    今お茶会をしているこの部屋にも、彼お手製の小物は存在しないように見える。
    一体どういう風の吹き回しだろうか。

    「まあ、見ての通り人形周りが寂しいからさ。せめて本来の持ち主……を、模したものを近くに置いておこうかなと」
    「なるほど……その口ぶりだと、作っているのはもしや……」
    「そう、君の人形」

    にこやかに笑いながら、彼はそう言った。
    プレゼントを前にした子どものような、屈託のない笑顔だった。

  • 6二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:05:05

    「……今、とても良い顔で笑っていますよ。アナタは……ふふ」
    「楽しみなんだよ、あそこに君の人形を置ける日が」
    「……そんなに、楽しみなんですか?」
    「うん。だって、俺はトレーナーだけど君のファン第一号みたいなものでもあるから、自分だけのグッズがあるっていうのが嬉しいんだ」
    「……そう。アナタだけの……ですか」

    それを聞いて、私はコーヒーを飲んだ。
    カップで口元を隠すために。
    ゆっくりゆっくり、口元の歪みが消えるのを待つ内に、一つ良いことを思いついた。

    「……でも、あのお人形さんとアナタのお人形さん……二人ぼっちでも、寂しいですよね」
    「そうかな?」
    「そうです。……ですから、私も作ってきます」

    静かなあの場所を賑やかに。
    ……というのは、半分建前だった。

    「どんな見た目にするつもり?」
    「……ふふ。見てのお楽しみ……です」

    いつか、あの場所に並べてもらおう。
    あの子と私と、それからアナタ。
    そうすれば、いつでも傍に居られるから。

  • 7二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:06:39
  • 8二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:13:44

    ウワーッ!続編待ってました!ありがとうございます!!

  • 9二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 21:28:40

    素晴らしい続編でした。
    こうしてどんどんトレーナーの家にカフェの物が増えていって、カフェに染められていくんですね。

  • 10二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 22:04:48

    もうただのお家デートやん…

  • 11二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 00:07:55

    「淹れはじめてから、ふと思った。
    はて、コーヒーとは自分の趣味ではなかったか。
    今、私はどうして私の気分に沿う味でも、スイーツに合いそうな味でもなく、あの人の好みを考えたのだろう。
    一瞬浮かんだそんな疑問は、ミルから漂う芳しい香りに消されてしまった。」

    あまーーーーーーーい!!

  • 12二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 11:45:41

    良い…好き…

  • 13二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 13:05:36

    これからも通い続けるんだろうなぁ…

  • 14二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 15:33:03

    可愛い…ヴッ

  • 15二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 19:45:55

    きっとトレーナーを模した人形を贈るんだろうなあ…

  • 16二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 00:03:15

    次も待ってるぞ!

  • 17二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 00:22:07

    最初から最後まで甘さが詰まってる…好き…

  • 18二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 00:24:46

    こいつらいつでもいちゃいちゃしてんな…
    もっとやれ

  • 19二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 10:17:23

    トレカフェは健康に良い

  • 20二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 18:02:57

    これは…良いものだ…

  • 21二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 18:08:45

    結婚後まで用意に想像できる穏やかなカフェトレは良いものだ

  • 22二次元好きの匿名さん22/01/31(月) 06:05:20

    数年後、子供がその人形で遊んでるんだろうか

  • 23二次元好きの匿名さん22/01/31(月) 13:01:06

    >>22

    二人して笑顔で眺めてるんだ…

  • 24二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 00:39:33

    >>23

    何その幸せ空間

  • 25二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 00:56:36

    >>24

    その光景想像してめちゃくちゃ浄化された

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