- 1二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:19:46
「おはようござます、当惑星へはどのような要件で?」
「えと、しばらく観光がてら滞在しようと思いまして。」
この星は、オイラが宿泊する予定の地域の言語で「ノニイト」と呼ばれ、日本語で「半海」という意味らしい。地球と同じく、文化の差異はあれども「普通」の星と言っていい。
「えっと、オイラここで泊まる...」
「あら、おとちくちくさんね。いらっしゃい!」
「うん、オイラがおとちくちく。好きなものはおと......、えっと、ごめんなさい、いつもの調子で自己紹介しちゃうとこでした!」
女将さんはフフと笑うと、部屋へと案内してくれた。テーブルにあったお菓子をかじりながら外を眺める。町どの木にも見たことのない色の実がなっているが、さっき殺虫剤を撒いているのを見た。きっと食べれないだろうな...
おや、何の人だかりだろう?と目をやると、上半身裸の男が騒いでいるようだ。
「うっひょっひょ~!あ、ちゃんかちゃんかちゃん!ちゃん!ダゾ!」
「...なにか愉快そうなヒトがいるな...」 - 2二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:20:31
「は、は、ハダカ!俺たちゃハダカの海賊団ダゾ!」
「あははは!一人じゃねーか!」
「海でもねー!」
「泳げりゃどこでも海なのさ~!ダゾ!」
そう言うとアスファルトの道の上で寝っ転がりバタ泳ぎを始めた。
「しかも泳げてね~!」
コメディアンだろうか。ただの変態だろうか。...それともオイラみたいに、ただ寂しくて、構ってほしくて、一人ぼっちで...そんなヒトなのか。
なんにせよ、心がチクチクと痛むので、気を取り直して美味しい物でも食べることにした。 - 3二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:20:47
「美味しいタチ焼きまんじゅうだよ~!」
「こんにちは、タチってなんですか?」
「ほくほくして甘いハミ...あ、ハミって言うのは空中を泳ぐ魚のことね。これがあんこに良く合うんだよ!あ、あんこって言うのは...」
「あ、あんこは知ってます。じゃあそれを一個ください!」
お兄さんの言う通り、あんこに良く合うサツマイモのような魚だった。食感はサンマのようで、磯の香りのような...でも甘みを邪魔するものではない香り...そんな不思議な美味しさだ。
「美味しい!地球で食べたカステラってお菓子も不思議だったし、ガオガオ星で食べた虎印ミルクも不思議な味だったけど、これはもっと予想外!」
「そうだろそうだろ!しかし、若いのに色んな所に行ってるんだねぇ。」
「うん、オイラはおとちくちく!あにまんって所に行ってたんだけど、色々あって帰ることにしたんだ。」
「その道中ってことかい?えらく遠いんだな、お前さんの星は。」
そんなことはない。真っ直ぐに帰れば一週間くらいだろう。でもこの星は僕の故郷の真反対だ。
「...そうなんだ!すっごく...遠くて...」
まぁ、気分的にはとてもとても...とても...遠いかな。 - 4二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:21:05
宿泊施設へ帰る道中で、昼間の男が一人ベンチで缶コーヒーを飲んでいた。
「あれ、アナタは昼間に...」
「んん?見てたんだね。ダゾ。」
ニコリと笑う彼は昼間とは違い、理性的な雰囲気だ。
「オイラはマミム次郎って芸名で、色んな所でああいうことをしてるんダゾ。」
「えっとオイラはおとちくちく。...あの、どうして芸人さんをしようと思ったんですか。」
「そりゃあもちろん、みんなに面白がってもらって認められたいと思ったからダゾ。」
「...でも...それが辛くなったりすることって...ありませんか...?」
男は不思議そうな顔をする。
「うーん、ネタが受けなかった時にはちょっと辛いかも。ダゾ。」 - 5二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:21:32
「...そうでなくて...オイラ、道化を演じて...目立って...でもそれって本当の自分じゃなくて...でもみんなが知ってるのは道化の僕で...でもその生き方しか知らなくて、僕...僕...」
「......"僕"じゃなくて"オイラ"のキミはどういうキャラだったの?ダゾ。」
「ドジでマヌケでバカで...ほかにも地球に行った時は...男の人のおっぱいが好きだって言ってみたり...わざと気持ち悪いこと言ってみたり...」
「じゃあ"僕"のキミは?」
「...............わからない。もしかすると本当の僕も...」
話すうちに、だんだん涙が出てきた。そうだ、本当の僕なんていなくて、ドジでマヌケでバカな"オイラ"こそが自分なんじゃないか。
「どうしてそういう"オイラ"になったんだい?ダゾ。最初のキッカケはなんだい?ダゾ。」
小学2年生の時...ずっと一人だった。別に人付き合いが苦手ってわけではないけど...ある日ついうっかり、体操着と間違えて、母の服を持ってきてしまったことがあった。
誤魔化すためにふざけたことがあった。今まで無いくらいに注目されて、面白がられた。悪くない気分だった。
「でも段々エスカレートしていって...飽きられないように...みんなから...飽きられないように...また...相手にされないようにならないように...段々...構ってもらえるんじゃなくて...バカにされるように...」
- 6二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:21:53
マミム次郎は少し考えてから話始めた。
「オイラはね、さっきは認められたいともいったけど、みんなが楽しんでくれることを第一に考えているんダゾ。オイラの考える認められるってのは、芸人として。ダゾ。」
「芸人として?」
「うん。だからそのためにはどんな道化でも演じるんダゾ。でもキミは自分を見てほしいんダゾ。なのに自分を偽る。だから辛いんダゾ。」
すっかり冷えた缶コーヒーをぐいっと飲み干して立ち上がると、ついて来なよと言い街へ繰り出した。
「おとちくくん、タチのまんじゅうって食べた?ダゾ。」
「え、えっと、うん、食べました。」
「じゃあこっちのソリ団子も食べてみなよ。ダゾ。」
それはお肉のようなジューシーさ...にサイダーのような爽やかさも合わさっていて......でも、なぜか意外と美味しかった。
「おとちくくん、正直に言ってこの街の建物ってどう思った?ダゾ?」
お世辞にも近代的な町並み...というわけじゃなかったし豊かな大自然...というわけでもない。高いところから見ても、平坦な印象だった。
「えと、まぁ派手さはありませんが...」
「ふふ、じゃあ夜はどうダゾ?」 - 7二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:22:23
地球で見た東京の夜景を光の森に例えるならば...
「まるで...光の海みたい...です...!」
「ふふふ、じゃあオイラはここで笑いを略奪する海賊だね。ダゾ。」
「あ...」
「さっきの団子もまんじゅうも、最初は変な組み合わせだと思われてたんダゾ。この夜景も、キミのようにみんな最初は見くびるゾ。でもじつはとても良いものなんダゾ。」
「あんなにピッタリなのに、変な組み合わせ...ですか?」
「そうダゾ。だからキミも、ピッタリな何かをまだ見つけてないだけなんダゾ。この夜景のように、キミにも輝くための何かがあるんダゾ。それが道化を演じることではなかったってだけなんダゾ。」
僕にピッタリな...この夜景のように輝くための...なにか...?でも、僕にはそんなもの...
「オイラが芸人を志したのは大人になってからダゾ。だから焦ることなんてないよ。ダゾ。きっとなにか、いつか、見るかるんダゾ。」 - 8二次元好きの匿名さん22/01/28(金) 23:22:59
「当館をご利用いただきありがとうございました、おとちくくん。」
「うん、女将さん、こちらこそありがとう!すごく良い所だったよ!」
「うふふ、またいつか来てね!」
もちろんまたこの星に遊びに来ようと思う。へんてこだけど美味しい料理や、きれいな夜景、とっても心地の良い旅館。そして...宇宙船の窓から、ステージで芸を披露するマミム次郎さんが見えた。
「ありがとうマミム次郎さん、いつか僕のなりたい自分になれた時、また会おうね!」
「アラ、いらっしゃい。まだお部屋なら空きがあるわよ。」
「あの、私人を探してて...ここに黒いヤギみたいな角のある男の子って来ませんでしたか...?」
終わり - 9二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 00:00:47
おとちくちくおまえ黒いとこ耳じゃなくてツノだったのか……
- 10二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 03:27:32
では本当の耳はどこに...
- 11二次元好きの匿名さん22/01/29(土) 15:14:04
age
- 12二次元好きの匿名さん22/01/30(日) 02:17:38
それツノだったのか…