- 1二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:35:03
- 2二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:36:10
さらにお労しい状況に…
- 3二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:36:40
おつらい…
- 4二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:37:02
人の心……
- 5二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:37:36
史実武蔵って島原出てたんだっけね……
- 6二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:39:28
なんなら伊織も出てたんだよな島原
地右衛門がめちゃくちゃ葛藤する焔ルートですか? - 7二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:42:02
慶安四年が島原の13〜4年後なので、カヤの現在年齢がわかんないけど幼児くらいにはなってそうなあたり……?
- 8二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:46:48
「マスター、わずかですが確かにサーヴァントの魔力を感じます。この子が由井正雪の言っていたサーヴァントで間違いないかと」
「そうか…こいつを盈月に捧げれば正常に使えるようになる、だったか…」
神奈川湊にある廃城で休んでいた地右衛門は目を覚ました。宮本伊織の拠点を焼き払い炙り出した少女は何も知らずに眠っている。
また過去の夢を見た。しかし今回はあの地獄の光景だけでなく、それよりも前の、まだ平和だった時ものもあった。
自身すら忘れていた記憶。この少女の名前を聞いたことがきっかけで思い出したのだろう。
「くだらねぇ…」
吐き捨てる。そんなことがあるはずがない。あの地獄では赤子すら切り捨てられたのだから。
「マスター、こちらに向かう魔力があります。おそらくセイバーかと」
「わかった、予定通りこいつは置いていく。上手く誘導しろ」
少女を由井正雪の元に送るのは簡単だ。しかしそれでは自分の悲願を叶えることはできない。
故に確かめた後は戻す。宮本伊織とセイバーの元に置くのが1番安全だろうからだ。
戻せば勝手に護ってくれる。そして最後に奪えばいい。
地右衛門は廃城を後にした。 - 9二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:47:52
カヤという名前に違和感を覚えつつも最終的に盈月に放りこんじゃう地右衛門
伊織とセイバーに倒された後カヤちゃんがあの時の子供だと気づいて「ごめんなさい…」と言って死んでいくEND - 10二次元好きの匿名さん24/05/05(日) 23:48:43
なんかすごい良質なSSが!
- 11二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 00:19:24
兄として妹を守ると言う家族への誓いも守れない
それどころか自分の欲望の為に島原でされた時のように、周りに犠牲を求める行為を妹にしてしまうんですか?
何処にもいけなくなるルートですか?
お労しさが増すよ
- 12二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 08:27:21
燃え盛る湊を後にする。
正気を失った逸れの襲撃。土御門が仕掛けたであろう策を真っ向から打ち破った伊織たちを見て、自分の策が間違っていないことを確信する。
だが悠長なことはしていられない。土御門の策は明らかに次の手がある。操られたのは逸れだけだが、その手がランサーに伸びないという保証はないのだ。ランサーなどどうでもいいが、儀から降りるのはごめんだ。
『ここを離れるのかい!?…全く、決意は固そうだな、あーやだやだ、これだから男ってやつは…。ま、仕方ない!だったらせめて餞別は受け取って貰おう!私の愛豚になったからには簡単にやられては目覚めが悪いからね!』
そんなことを言いながら押し付けられた礼装を起動する。あれでもとんでもない実力の英霊であったのは事実だ。効き目はあるだろう。
後日、ランサーが術の影響を受けず正気のままでいることを確認し、醜く口角を上げた。
地獄に一歩近づけたのだ。 - 13二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 08:53:00
サーヴァントは眠らない。睡眠や食事は魔力で編まれた身体には不要だ。
しかしそれでも眠る時がある。夢を見る時がある。
灰に染まった少女は目を開けた。以前にも見た記憶。以前とは違い、彼がまだ笑っていた時の記憶。
「………」
思いを巡らせる。自分は彼に寄り添うことしかできない。彼は救いを求めないが為に救えない。
ならばと彼を受け入れ、自ら変質させたこの霊基。
このままであれば彼と共に死ぬか、地獄を作り消えるだけの霊基である。
しかしもし、もしも彼が別の道を歩むのならば、少しでも歩もうと思ってくれるのなら
「ランサー」
顔を上げる。不機嫌そうな彼はこちらの顔を少し見るとそのまま歩き出した。
「…」
何も言わずついていく。今までのように。自分は彼が焚べるための薪でしかない。
だがそれでも。もしも救いがあるのであれば。
影に入る直前に月を見上げる。青白い光が、網膜に焼き付く感覚がした。 - 14二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 09:31:01
「なあイオリ、聞いてもいいか?」
「どうしたセイバー、釜の飯ならもうないぞ」
「そうか…ではなくてな!カヤについでだ」
「私ですか?」
朝餉を食べながらセイバーが質問する。2人のためにおむすびを握っていたカヤは自分の名前が出たことで意識をそちらに向けた。
「うむ。君たちは男のムサシの元にいたと聞く。ではその以前は何をしていたのかと思ってな」
「なるほど、確かに俺のことは以前話したがカヤについては話してなかったか」
「そうだ、ふと気になったのでな」
ペロリと山盛りだった米を平らげると少し物足りなさそうな顔をしたセイバーだが、そのまま話題に戻る。
「うーん、私、物心ついた時には既に師匠の元にいましたから、それ以上のことは…」
「俺が弟子入りした時にはカヤは居たからな…そうだ、爺さん」
「…ムニャ、ん、なんじゃ?」
紅玉の書が目を覚ます。本なのに睡眠をとるのか、と最初は驚いていたセイバーもすっかり慣れている。
「……なるほど、カヤの話か。すまんが儂もよくは知らんのだ」
「そうなのか?少なくとも俺よりは師匠との付き合いは長いと思うのだが」
「儂とていつも武蔵と共にいたわけでないからな。いつの日か、幼子を連れて帰ってきたのよ。それがカヤじゃった」
「血縁者から譲られた、などの話もなかったのか?」
「やつは特に何も言っとらんかったな。ただそれまで愚直に剣を振るだけの男だったのに子育てを始めたのには驚いたがの」
楽しげに笑う紅玉につられ皆も笑った。
そんな中1人、「そうか」とだけ呟いたセイバーの顔はどこか期待外れのような表情をしていた。 - 15二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 10:58:00
地右衛門自身目線の地の文なのに醜くって表現いれるのお労しい…
- 16二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 13:54:16
兄らが出た後、長屋の掃除を始める。
最近はいくさが忙しいらしく、長く空けることも多くなってきたことに寂しさと不安を感じながらも手を動かした。
帰る場所は守らなければならない。
そんな中、長屋の戸が叩かれた。
戸を開けると、そこには黒い服を纏った女の人が立ってる。
「わっ綺麗…」
思わず口から飛び出した言葉。どこか憂いを帯びた金眼がカヤを見下ろす。
「あ、もしかして兄上に御用ですか?すみません、兄上は今出払ってまして…」
「いえ、あなたに用があります」
そう言うと、その人は腰を屈めてカヤをじっと見つめた。穴が開くほど見つめられる。照れ臭く目線を逸らしたところで「失礼します」と言葉が続いた。
何だろう、と思った時には、彼女の手はカヤに触れていた。つけていた手甲を外し、直に肌と肌が触れ合う。
「ア、アノ…?」
突然のことに硬直していたが、何とか声を絞り出した。
「…いえ、何でもありません。ありがとうございます」
手が離れる。人の体温であるが、どこか冷たさを感じる手だった。
「わ、私に用があるということですけど一体…」
しかしもう女性の姿はなかった。瞬きの間に消えてしまった。
幻かと思ったが、じんわりと残った彼女の体温は確かに残っていた。 - 17二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 14:17:47
「ランサー、どこに行っていた」
戻ってきたランサーに苛立ちを隠さず問いかける。
霊地の動きが活発になってきている。どうやら宮本伊織らが土御門に攻勢を掛けたようだ。
こんな面白い状況だが、流石にサーヴァントがいなければ碌に動くことは出来ない。
肝心な時にいなくなっていた彼女に苛立つのは当然であった。
「申し訳ありません、彼女の様子を確認していました」
「彼女…?ああ、あの小娘か」
言われて脳裏に浮かぶ、眠る少女の顔。そして故郷での記憶。
「…チッ、余計なことはするな」
「………」
「……行くぞ」
申し訳なさそうに俯くランサーを尻目に、地右衛門は寛永寺に向かって歩き出す。
護衛の逸れや多くの陰陽師たちはセイバーたちを止めるため正面に陣取っている。
裏から侵入するのは容易かった。
足元に転がり白い装束を赤く染めていく者に祈りを捧げ、ヤツが来るのを待つ。
化けの皮を剥ぐにはもってこいの状況だ。
「地獄に相応しいか見極めてやる…」
漏れた声は誰に届くこともなく消えていった。 - 18二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 14:47:28
『地獄か、ここは』
口から声が漏れた。しかし炎の音ですぐにそれは掻き消される。
落とした城を後にし陣に戻る途中、立ち寄った村だったものを目の当たりにする。
数日前に潰され、もう生者はいないはずの場所には未だ大火が収まらず、辺り一面は血糊と死体で覆い尽くされていた。
投石で怪我を負い、皆と逸れて迷っていた彼は煙を見かけて立ち寄った。
しかしこれでは何も無い。早々に立ち去るべきだろうと踵を返す。
『……』
何かが聞こえた。炎の音ではない、モノの崩れる音でもない。耳を澄ます。
『ぁ…ぅ……』
人の声、間違いない。声のした方向に駆け出す。味方が生き残っているのであれば助けなければならない。だがもしそれが一揆の農民であれば…?
切り捨てればいい。それだけだ。
瓦礫を掻き分け、『それ』を見つけた。
女の死体が覆い被さるようにして守っていた、赤子。
思わず刀に手をかける。これは敵の子だ、生かす謂れはない。
………否、否である。この惨状に肝も頭もとうに冷えている。おそらくこれから、血で血を洗う戦は起きない。なればその時をこれから生きられる者を救わぬ由もない。
手を刀から外し、赤子に伸ばす。
ガシッと煤けた手が自分の手を掴んだ。女の死体が動いたのだ。
『カ、ヤ…』
そう言うとそれはダラリと事切れた。
『…あいすまぬ』
そう言い残し、浅い息の赤子を抱いて剣士は村を後にした。 - 19二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 15:13:39
儀の見届け役である土御門泰弘が死亡し、いよいよ儀は苛烈を極めていく。
ライダーのマスターである由井正雪が盈月の器を手にし、勝者に王手をかけた。
そしてそれを阻まんと宮本伊織とセイバーが立ち塞がる。
地右衛門は動かない。目立たぬよう隠れ、完成直前になった盈月を15騎目のサーヴァントと共に奪い最大の霊地である江戸城でそれを起動する。
そうすれば地獄の門が開ける。そうすれば、地獄にいる皆に
「マスター」
「…なんだ」
ランサーの言葉に現実が戻ってくる。
正雪の差し向けた追っ手の処理に追われ、休んでいたところで少々寝ていたようだ。
「ご報告したいことがあります」
そう言って座り込んだランサーの目はいつもより淀んで見えた。 - 20二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 16:56:03
江戸の空が暗雲に染まる。現れるは大神使。
轟く雷鳴の中、3人のマスターと3騎の英霊が一堂に会していた。
「そこのお二人さん、協力してくれるかしら?」
「…チッ」
宮本武蔵の言葉に嫌々ながら頷く地右衛門。
霊地の魔力を吸い上げて動く丑御前の大神使を封じるにはこの場の全員の力が必要である。
彼女を倒さぬ限り、江戸は灰燼に帰すことになる。
それぞれが担当する霊地に向かうことになり解散をした…がランサーが足を止めた。地右衛門もそれに気づき止まる。
「セイバー」
「…なんだ、ランサー」
低い声でセイバーが返す。その目と声は、それ以上近づけば切ると物語っている。
「あの少女は無事ですか」
「…ッ!カヤの事かッ!?貴様よくも彼女を攫っておいて」
「セイバー」
氷のような声が遮る。伊織はその目をランサーと地右衛門から動かさず、鯉口を切って言葉を続けた。
「貴殿らに話す由はない。疾く霊地を抑えに行け」
「ハッ!嫌われたもんだなぁ?宮本伊織」
「…」
「ちょっとー!貴方たち早く行きなさいっ!正雪ちゃんがお手本示したんだからその通りにやるー!」
「…行くぞ」「はい」
興が削がれたと言わんばかりに地右衛門たちはそのまま去っていった。
「何だったのだ、全く」
「さあな。だが師匠の言う通りだ。霊地を抑えるぞ」 - 21二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 17:36:51
浅草寺本殿、宮本武蔵との一騎打ちに勝利を収めた伊織はセイバーと共に、1騎のサーヴァントと相対していた。
「貴様、今までに見たことがない…キャスターのサーヴァントだな」
「ああ、その通りだ」
「それが何故我らの前に姿を表す。セイバーである私と真正面から戦って勝てると思うのか?」
「無理だろうな。貴様の強さは誰よりも識っているとも。だが…」
キャスターはそう言うと手を振った。
そして物陰から出てきたのは、小さな使い魔に背負われた
「カヤッ!?」
「おっとそこを動くな」
伊織が飛び出そうとしたのを牽制する。
カヤは気絶しているらしく、力無く浮いている。
「貴様、何が目的だ」
「目的?決まっているだろう。盈月があり、サーヴァントの魂もほぼ溜まりきっている。そしてここに、最後の鍵も揃った」
「願いを叶える、と?」
「その通り、と言いたいところではあるが正直なところ、僕の願いは盈月で叶える必要はない。強いて言えば現界できる期間が伸びるならそれで問題ない。
さて、セイバー。君には少し下がっていてもらおうか。僕が用があるのは宮本伊織、君の方だ」
キャスターに睨まれ、セイバーは歯痒そうに下がる。
相対した伊織にキャスターは問いかけた。
「君、僕のマスターにならないか?」 - 22二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 17:47:35
「…何?」
想像を外れた問いかけに、思わず素っ頓狂な声を出す伊織。しかしキャスターの目は真剣である。
「僕の元のマスターは土御門泰弘…既に死んでいることは知っているだろう。マスター亡き今、正直なところ限界が近くてね。僕の要石となってもらいたい」
「世迷言を。イオリは既に私のマスターだ。誰が貴様なぞと」
「宮本伊織、君は何を欲する。
莫大な富か?いいや違う。
轟く名声か?いいや違う。
世の平穏か?いいや、違う」
剣を握る手に力が入る。汗が流れる。
「君は強くなることを欲する。ただ一振りの剣として。
・・・・・・・・・・・・・
絶世の剣を超えることを望む」
喉が、渇く。渇きを自覚する。 - 23二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 18:06:07
「イオリ…」
「そのためにはこの盈月が必要だ。違うか?願いを叶えるものでは無く、世に厄災を下ろすものとして。より強き物を呼ぶ呼び水として、これ以上のものは存在しない。記録者である僕が保証しよう」
「…やめろ」
「だが君はこの盈月を壊すと言う。既に願いを叶えるための手段を確保しているのにそれを自ら捨て去るという。僕にはそれが理解できない」
「やめろと言っている、キャスターッ!!!」
キャスターに切りかからんとするセイバー、だがそれを伊織は防いだ。
「イオリッ!?」
「セイバー、カヤがいることを忘れるなッ!」
「ッ!すまぬ…」
セイバーが剣を収めたのを見てキャスターは続けた
「改めて君に問おう。僕のマスターになってくれないか。僕は現界が保てる。君は強さを求められる、さらには妹御の無事も得られる。君の師匠の言葉を借りるなら、ウィンウィンの関係というやつだ」
「…その場合、セイバーはどうなる」
「流石に君の魔力量ではサーヴァント2騎との正式な契約は不可能だろうから、契約は破棄してもらうことになる。だがそれも好都合だろう?」
キャスターの目が細く笑う。
「かのヤマトタケルと剣を交えられるのだから」 - 24二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 18:15:30
キャスターにとっての誤算は、その記録がどこにも残っていなかったことである。
1人の人間の足跡を追うことにはどうしても限度がある。
後の世に記録として残る人物であろうと、その足取りやとった行動の全てが残る訳ではない。
そして記録とは時に、歴史に残る前に消えるものである。
故に、記録者を名乗る彼は知らなかった。少女がどこで生まれたのかを。
残っていた1人のマスターと少女の関係を。 - 25二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 18:31:03
紫炎の斬撃がキャスターの足元に穿たれる。驚きよろめいた所に、2本の槍が背中から顔を覗かせた。
「ラン、サー…!?」
「マスターッ!」
キャスターの使い魔が消える寸前、地右衛門はカヤを担ぎ、ゆっくりと床に置いた。
「ランサー、チエモン!?お前たち、何故!?」
「……」
「何も言わぬ、か。どうやら盈月を狙っての事ではないようだが…」
「…俺のことよりテメェのマスターを見た方が良さそうだが?」
「そうだ、イオリ!気をしっかり持て!」
「セイバー、俺は…」 - 26二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 18:49:34
ドクンッ、と場が脈打つ。怪異が現れる時のような魔力の反応、しかし普段のそれの比ではない。
「キャスター!」
いち早く気づいたランサーが肉薄する。
盈月を手にしたキャスターは叫んだ。
「盈月よ!魔力を僕にっ!」
手にした者の願いに呼応し、盈月は穢れを噴き出す。
その圧はランサーを吹き飛ばし、キャスターの周りが赤黒い穢れで染まっていく。
「ただ消滅を待つくらいであれば、僅かな可能性にでも縋ってやるとも。仮初の肉体ではなく不老の肉体を得られればそれでも僕の願いは叶うからな」
穢れが広がる。広がった先のものが取り込まれる中、伊織は横になった妹が飲まれていることに気づいた。
「カヤッ!」
「待てイオリ!君まで取り込まれる!」
セイバーの言葉に足が止まる、がその横を黒い影が横切った。
「地右衛門ッ!?」
穢れに飛び込み、カヤを担ぎ出てきた地右衛門にランサーが肩を貸す。
「一度避難を」
ランサーの言葉に全員が本殿の外に歩き出した。 - 27二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:15:29
「ッ………」
「マスター、無理はしないよう」
穢れに侵された地右衛門の身体は最早命を持っているだけでも奇跡に等しい。
鳥居を背に座り込んだ地右衛門は僅かな呼吸をするのが精一杯であった。
「…まず礼を言わせてくれ。地右衛門、ランサー。妹を救ってもらい感謝する」
「いえ、私たちがやりたくてやったことですので」
「私からも感謝する。しかし何故、君たちがカヤを…」
「説明したいところではありますが、どうやらその時間も無いようですね」
ランサーとセイバーが構えるのと、本殿が吹き飛ぶのはほぼ同じタイミングであった。
「ッッッッッッ!ハヤク!ハヤク鍵ヲヨコセッ!僕ガ自我ヲ保ツ内二!!!」
異形の姿となったキャスターが暴れ狂う。身体は膨れ、形は何とか人型と分かるほどのものでしかない。
「穢れに呑まれたか…哀れな、キャスター」
「セイバー、奴の言っている鍵というのは…」
「おそらくカヤ…いや、カヤと共にある我が妻、オトタチバナのことであろう。イオリ、万が一ヤツがカヤを手にした場合、カヤはおそらく喰らわれる。真名こそ分からぬが、アレは神気の扱いを心得ているだろう。カヤを守りたければ決して近寄らせるな!」
「セイバー、俺は…」
「皆まで言うな。私は君を信じるぞ」
「マスター、ここで休んでいてください。行ってまいります」
「………ぁぁ」 - 28二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:39:38
「タケルッ抜き放てッ!」
伊織に刻まれた最後の令呪が消える。
真の姿を見せた神の剣に水が迸る。
「界剣・天叢雲剣ッ!!!」
全てを清め、洗い流す怒涛の水流。その光に穢れは霧散し、消え失せ…
「なっ!?」
キャスターがいた場所に、僅かに、僅かにだが穢れが残る。それは震え、人の形を取った。
『僕ハオマエのことナラ分かル。僅かデモ残レば問題ナイ』
「仕留め、損なったか…」
「キャスターッ!」
伊織がすかさず切り掛かるも、既に実態がないと言わんばかりの不定形のそれに剣の効果は薄い。
「イオリ、君はカヤを連れて逃げろ!穢れに触れれば終わりだ!」
叫ぶセイバーに影がかかる。振り返ると、幽鬼の如き地右衛門が立っていた。 - 29二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:54:09
「ランサーッ!!!」
渾身の力で叫ぶ。その声に彼女はすぐに隣に立った。
「俺は地獄を呼ぼうとした」
「はい」
「たくさんの人間を殺した」
「はい」
「数え切れぬ罪を犯した」
「はい」
「それでも、そんな俺でも、いいのか」
「はい。主は助け、主は救いです」
「呪で以って命じる!聖女よ、みんなの形見を、カヤを護れッ!!!」 - 30二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 19:59:59
最後の令呪が消える。
ランサーは槍を捨て、剣を抜く。黒く染まっていた鎧は令呪の光に呼応し、白く輝きを取り戻す。
「諸天は主の栄光に。大空は御手の業に。
昼は言葉を伝え、夜は知識を告げる。
我が心は我が内側で熱し、思い続けるほどに燃ゆる。
我が終わりは此処に。我が命数を此処に。我が命の儚さを此処に。
残された唯一つの物を以て、彼の歩みを守らせ給え」
赤い焔が穢れを囲むように駆け巡る。その焔は彼女自身すら包み込む。
「主よ、この身を委ねます」 - 31二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 20:14:55
『彼女は、あの地獄の生き残りです』
ランサーの言葉が理解できなかった。
思わず襟首を掴む。地右衛門を簡単に押さえ込むだけの力を有するはずのランサーは、されるがままだ。
『………』
『マスター、これは事実です。彼女は、セイバーたちのそばにいた彼女は』
『それ以上言うなぁッ!!!』
力任せに投げ捨てる。そんなはずがない。そんなこと、あるはずがない。
『彼女と少々話をしました。その時、確かに主の導きと護りを感じました。彼女には主の加護があります』
『あの地獄だ、お前も見たんだろ!?生き残りがいるはずがねぇ!』
『見ました。地獄も、その前のささやかな生活も』
ランサーの言葉に詰まる。
地右衛門の故郷の村が幕府軍に潰される少し前、村には新しい命が生まれていた。
カヤと名付けられたその子は皆に祝福され、貧しくはあるが幸せに暮らしていけるはずだったのだ。
『地右衛門、みんなで助け合って生きるんだ。みんな家族同然だからな』
『もしカヤちゃんに何かあれば、お前も守ってやるんだぞ』
おっとうとおっかあの言葉が浮かぶ。久しく忘れていた、思い出せないでいた記憶。 - 32二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 20:25:00
俺は誓った。地獄を作ると。
それは村のみんなに会うためだ。俺が地獄にいけない以上、地獄をここに持ってくるしかねぇ。
だが1人、もう1人だけ生き残りがいた。
浅草で拐かし、湊まで運ぶまでの僅かの間だが、確かに彼女は生きていた。心音を感じた。呼吸を聞いた。
村がなくなったのは彼女が生まれ、まだ1年も経たないうちだ。記憶はないだろう。あの地獄を知らないだろう。
だがそれでも、たとえそうであっても。
守らない理由にはならない。 - 33二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 20:34:00
焔が消える。
全てを飲み込まんとする勢いに見えた焔は跡形もなく、そこには座っていた聖女の姿も消えていた。
残っていた剣もすぐに霧散してしまった。
「ッ」
膝を折る。とうに身体は限界を超え、僅かに感じた衝撃で自分が倒れたのだと分かった。
思考にももやがかかったような感覚で考えることも難しい。
朝日に照らされ視界が白く満ちるのを感じながら、地右衛門は意識を手放した。 - 34二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 20:42:32
「ん…」
目を覚ますとそこは見慣れた長屋であった。
炊事場に目を向けると、兄が立っているのが見えた。
「にい、ちゃん?」
「起きたか、カヤ!」
身体を起こす。何があったのか思い出そうとするが、全く思い出せない。
「身体に違和感はないか?痛むところはないか?」
「うん、大丈夫…何があったの?」
問い返すが、帰ってきたのは言葉では無く抱擁であった。
「よかった、本当によかった…」
珍しく鼻声の兄の声を聞きながら、そっと抱き返した。
終 - 35二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:22:17
一人相撲に付き合っていただきありがとうございました
- 36二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:23:43
ありがとう……ありがとう、素晴らしい小説だ……これはちなみに何エンドなんですか?タイトルを教えていただけると幸いです
- 37二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:42:57
え……嘘すっご天才……?ありがとう…………
- 38二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:48:26
1日も経たずに傑作が生まれてるの凄…っ
- 39二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 21:50:03
特に考えてなかったんでご自由にお決めください
- 40二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 22:01:35
急に名作が生まれてる……ありがとう…ありがとう……
- 41二次元好きの匿名さん24/05/06(月) 22:31:21
いいものを見せていただいた……ありがたい……
- 42二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 08:07:01
保守
- 43二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 08:17:18
素敵なSSありがとう
- 44二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 19:47:38
いいものみれました
- 45二次元好きの匿名さん24/05/07(火) 21:28:35
素晴らしいもの読ませてくれてありがとう