- 1二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:45:45
- 2二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:47:44
初恋は実らない。
そんな言葉が本当なのだと意識したのはこのトレセン学園に入学してからの事だった。ここで、私は幼い頃の初恋の相手と再会を果たした。新人トレーナーとなった彼に、私は運命を感じていた。彼と契約を結び、恋を深めながら切磋琢磨しURAで勝利する。そんな淡い夢は僅か数日で粉々に砕け散った。彼は私ではなく、ダイワスカーレットというウマ娘といちはやく専属契約を結んでしまったのだ。
「アンタはアタシが一番になるところだけを見れればいいの。アンタはアタシのトレーナーでしょ?」
そう言って頬を紅潮させ腰に手を当てながら憤慨する赤毛の少女の顔が今も脳裏にチラつく。その後、諦めきれずに『お兄ちゃん』に接触したが、彼は私の事を覚えてはいなかった。勝手に運命の人だと一人で盛り上がっていた自分自身に私は失望するしかない。
だから、私は彼に振り向いてもらおうと必死に努力した。URAに優勝するくらいの実績を持てば彼もこちらに気づいてくれるはず……そんな希望を持ちながら実際にURA短距離部門で優勝したのだが、彼がこちらに気づく事はなかった。むしろ王道路線である中距離部門でのURA勝利を飾ったダイワスカーレットの方が世間でも話題の中心であった。 - 3二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:49:56
「――レンチャン!」
「…………」
「カレンチャン! 結婚してくれ! もうこの俺の想いは止められないんだ! これからは俺の事はトレーナーではなくリュウと下の名前で呼んでくれれば……!」
「ごめんねトレーナー、勘違いさせちゃったかな? 私は『皆のカレンチャン』だから☆」
「えっ……?」
「ごめんね、私は別に好きな人がいるから」
「なんでええええええええっ!? 寝盗られやんけえええええっ!」
私の言葉に表彰を固まらせたトレーナーは数秒後には情けなく泣きながら部屋を出て行った。もちろん、彼にはトレーナーとして感謝している。彼は私の実兄の友人でもあり、幼い頃から私にちょっかいをかけてきた困った人……いわゆる幼馴染という奴だ。『お兄ちゃん』を赤毛の少女に奪われ失意に沈む私を、すでにトレセン学園のトレーナーとして活躍していた彼は真っ先にスカウトしにきた。
このような愛の告白は昔から日常茶飯事、隙あればセクハラもしてくる下心丸だしな彼だが、トレーナーとして優秀でこんな私をURA短距離部門で優勝まで導いてくれた。そんな彼には感謝しているが、近所の悪ガキだった頃からの彼を知る私は、トレーナーを男としてはとても見れなかった。 - 4二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:51:10
「少しよろしいでしょうか」
「あ、先輩……私に何か用事かな?」
「ええ、そんなところですよ。一つ質問です。あなたは何故こんなにも情熱的で素晴らしい彼の告白を受けないのですか?」
「あはは……えー……それは……私はすでに好きな人がいるからかな☆」
「なるほど、それもまた素晴らしいですね。人として、ウマ娘として生きるならばどちらか片方を選ばざるを得ない時がある。悲しくも茨の愛の道を歩む貴方は称賛に値します」
「あ、ありがとー先輩☆」
ニュアンス的に褒められているのだろう。そう解釈して言葉を返す私に先輩……私より先にトレーナーと契約していた彼女は薄く微笑む。その白金の長髪と美貌は私から見ても見惚れるほどだが、あまりにきわどすぎる普段着を身に纏い、いつも何を考えているかまったく理解出来ない彼女の事が私は少し苦手であった。 - 5二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:53:18
「ですが、私はそんな貴方に――ええ……こんな感情は初めてです。いつも貴方に告白するトレーナーを見ていたのですが……なるほど……この身体が求めているのですね。ウマ娘とは非常に難儀な生き物です」
「先輩……?」
「申し訳ございません。少し用事ができました。また貴方とお話しできるのを楽しみにしていますよ」
そう言って、部屋を出ていく先輩の事を静かに見守る。今日のトレーニングも終了の時間であり、私は軽いストレッチをしてから気晴らしのため街へと足をのばした。
その日の夜、自室にて街で購入した雑誌を見ていた時、私は思わずその拳を紙面へと叩きつけてしまった。記事には『トレーナーとダイワスカーレットの絆~彼は私のイチバン!(意味深)~』と記されていた。そのふざけたゴシップ記事に私の脳内は沸騰したように湧き立つ。そうして、気づけばその雑誌を粉々に破り捨てていた。 - 6二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:54:49
「随分と荒れているのですね」
「っ……!?」
「警戒しなくてもいいですよ。私です」
「な、なんで!? さっきまでそこにはアヤベさんが……!」
「もし……何かの『見間違え』ではありませんか? 私は最初からここにいましたよ?」
混乱する脳内は答えを出す事が出来ない。確かな事は、すでにベッドで横になっていた同室のアドマイヤベガの姿がいつの間にか先輩……『フサイチパンドラ』に変わっていたという事だ。 - 7二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:56:08
「私は貴方の味方ですよ。貴方の愛しくも儚い恋心を手助けしたいのです。だから、貴方の『願い』を言ってみてください」
「急に意味わかんないよ先輩……」
「ふむ、イタズラがすぎましたね。では……落ち着きましょうカレンチャン。まだ夜は長いですから」
クスリと笑った彼女はベッドに腰かけてじっとこちら見つめる作業に移る。そのまま数分が経過したころ、私も落ち着きを取り戻す。思い起こせば、この先輩が色んな意味で理解不能なのはいつもの事であった。 - 8二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:57:35
「落ち着いた所でもう一度いいます。貴方の『願い』を叶えて差し上げましょう。もちろん、胡散臭いと貴方が思っている事は承知しています。そうであるならば、戯れでもいいので貴方の想いを私に聞かせてください。言葉として人に伝えることで幾分か楽になる悩みもあるのですよ」
「でも……」
「大丈夫です。これでも私も貴方の先輩なんです。貴方の悩み、聞かせては頂けませんか?」
そっと私に近づいた彼女は、こちらの手を両手で優しく包み込み、その微笑みをこちらに向ける。その笑顔に絆されたのか、気づけば口からは愚痴のような思いがあふれ出していた。初恋の人がこの学園のトレーナーだった事、彼との契約は別のウマ娘に先を越された事、URAを勝ち抜いても彼は決してこちらには気づいてくれなかった事、あのダイワスカーレットは明らかに彼を手中に収めようと様々な画策をしている事……時折頷きを返す先輩に私は全てを打ち明けた。 - 9二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 00:59:52
「私だって、あのお兄ちゃんともっと接点があれば……かわいいカレンチャンにぞっこんになると思うの。でも、現実はそうはいかなくて……」
「それが貴方の願いですか?」
「願いっていうか後悔かなー! ふふっ、カレンってば自信過剰だったのかもね。何もしなくてもあの人は私に気づいてくれる。そんな傲慢が、私から一番大切なモノを奪ったんだ。自業自得だよねー」
「貴方は精一杯頑張りました。その謙虚で健気な姿は称賛に値します。ですから……私が貴方と貴方の『お兄ちゃん』の接点を創ってあげましょう。その後は貴方の頑張り次第ですよ」
、
「えっ……?」
「そうですね……そういえば昨今はアオハル杯というものがもてはやされているようですね。それでしたら……『貴方は愛しのお兄ちゃんのチームに所属してアオハル杯を優勝した』……そうではありませんでしたか?」
「あっ……うっ……?」
気づけば私の脳内は真っ白になって―― - 10二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:02:10
走る、走る、走る……私はただひたすらに全速力で駆けていた。
「はっ……はっ……!」
私は見慣れた通学路をひた走る。そんな私にこれまた見慣れたネイキッドバイクで併走しようとするものがいた。思わず足を止めた私に、ヘルメットのバイザーを開けて声をかけるのは私の幼馴染……私のトレーナーであった。 - 11二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:03:09
「どうしたんだそんなに急いで……急いでいるなら乗ってくか?」
「ごめんねトレーナー。カレン……バイク怖いから遠慮するね……それよりチームでの朝練が始まっちゃうから……」
「またかいカレンチャン! あそこのチームトレーナーより、担当である俺の方が手とり足とりみっちりねっとりと……ぐべぇ!?」
「あら、ちょうどいい所にいましたね。貴方は私を送っていってください。ふふっ、私も貴方のバイクの後ろに乗ってみたいと思っていたのです」
どこからか急に現れたフサイチパンドラ先輩がトレーナーの背後へ激突するように抱き着いた。そんな彼女と軽く目配せをした私は、彼らを置いてトレーニング場へと走り出した。 - 12二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:04:25
私がトレセン学園に入学してはや三年。私は初恋のあの人とトレセン学園で再開を果たした。私の慢心により、彼の専属契約はダイワスカーレットに奪われたが、その後は彼が作ったチームキャロッツに加入。アオハル杯の優勝も手にした。そうして、『愛しのお兄ちゃん』と紡いだ三年間は実に充実したものであった。今日も今日とて、そんな彼の元でトレーニングの日々だ。アオハル杯優勝後は舞台をチームレースへと移り、現在はクラス6でライバル達と切磋琢磨の日々を送っている。
そうして、一番乗りでトレーニング場に辿り着いた私は、真っ先に愛しの『お兄ちゃん』へと抱き着いた。
「おっはよーお兄ちゃん! カレン、お兄ちゃんの元へイチバン乗りーっ!」
「あははっ、おはようカレンチャン。朝から元気だな」
「もうっ、違うでしょうお兄ちゃん! 朝からカレンチャンはカワイイなあ……でしょう?」
「えっ……あっ……うっ……朝からカレンチャンはカワイイなあ……」
「えへへ~! ありがと、お兄ちゃん!」
少し虚ろな目になり始めた彼を私はそっと抱きしめる。記憶の中の彼より数倍も筋骨たくましくなった彼だが、そんな彼から香るほんのりとした汗の匂いは嫌いではなかった。そうして、そのまま彼の熱と匂いを堪能している時、後ろからいつもの邪魔者の声がした。 - 13二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:06:26
「アンタたち、朝から一体何やってるのよ!? こら離れなさい……トレーナー! あんたはこっちでしょう!?」
艶やかな赤毛を大きなツインテールでまとめた少女、ダイワスカーレットに私は弾き飛ばされるように彼から離される。そして、お兄ちゃんを抱きしめながら彼女はガルルと唸るようにその物騒な犬歯を私にチラつかせた。
「アンタはアタシのトレーナーでしょ!? アンタはアタシだけを見てればいいのよ! というか、あんな女にデレデレしない!」
「スカーレット、チームメイトをあんな女呼ばわりはやめろ。カレンチャンに失礼だろう? それと、俺はデレデレはしてない」
「しーてーたー!」
「まったく、ついこの間まではどんな相手だろうともう少し優等生らしく接して……いでででッ!? 噛むな噛むな!」
顔を真っ赤にしながらお兄ちゃんへと噛みつく彼女を私はじっと見つめる。確かに、私は3年間を彼のチームで過ごしたが、流石に専属契約を結んだダイワスカーレットほど濃密な時間を透かしたかというと……答えは否だ。
「ああもう、お前らトレーニングだトレーニング! はい、アップにダートコース一周な!」
ダイワスカーレットから逃げるように離れたトレーナーの指示で今日も朝練が始まる。こうして、チラホラと他のチームメンバーも集まりだしたころ、急に私の襟首をギュっと掴むものがいた。それは、憤怒の表情を浮かべたダイワスカーレットであった。
「アンタ、放課後にちょっとツラ貸しなさいよ」
「えーなにー? こわーい☆」
「ふん、放課後にチームの更衣室に来なさい。逃げたら許さないから」
それだけ言って駆け出すダイワスカーレットを黙って見送る。このぬるま湯のような環境は嫌いではなかったが、ついにそれも終了の時間を告げる。
「ふふっ、お兄ちゃんは私のものだよスカーレットちゃん」
気づけば、私の口角は自然と弧をかいていた。 - 14二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:07:42
「うん、知ってるよ。でも、カレンのチームトレーナーであることは変わらないよ」放課後、チームの更衣室には私とダイワスカーレットの姿があった。周囲に人気はなく、室内はいちだんと静まり返っている。そんな中、彼女は手を前に組みながら私の方を睨んでいた。
「アンタ、最近少し調子にのってない? アイツはアタシのトレーナーなんだけど」
「そういう意味じゃなくて……ああもう! とにかく、アイツにこれ以上近づかないで! アイツはアタシの一番の……」
頬を深紅に染めながらぷるぷると震えているダイワスカーレットに私は溜息をつく。彼女やお兄ちゃんと共に歩んだ三年間はとても大切な物だ。だが、ただ待つだけでは望むものは手に入らないと私の中の『私』が告げている。
それならば、全てを奪うしかない。
私が望むものをこの女にくれやる気はなかった。
だから、私は自分のスマホでアルバムアプリを開き、一枚の写真を彼女へと見せた - 15二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:08:49
「なに……これ……」
「えへへ、スカーレットちゃんは勘違いしてるみたいだから言っておくけど、お兄ちゃんは確かに貴方のトレーナーだけど、愛してくれているのはカレンの方なんだよ?」
「うそ……こんなのうそよ……」
「ごめんねスカーレットちゃん。カレン、お兄ちゃんの事が大好きなの。そして、お兄ちゃんもカレンの事が好きなんだよ。邪魔しないでくれるかなー?」
「どうして……!」
床にペタリと座り込み、ポタポタと涙を流すダイワスカーレットをそっと見おろす。そんな彼女に私は視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「ねえ、スカーレットちゃん。調子に乗らないでね? お兄ちゃんは私の『彼氏』だから」
響き渡る泣き声に少しイラつきつつ、私は更衣室を後にする。そして、トレセン学園のトレーナー室へと急いだ。その足取りは、非常に軽かった。 - 16二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:09:53
夕日が沈む放課後の時間帯、お兄ちゃんのトレーナー室へ入り込んだ私は後ろ手に部屋の鍵をしっかりとかける。そうして、パソコンに向かって何かのデータを打ち込む彼にそっと近づいた。
「お兄ちゃん、まだ仕事してるのー?」
「うぉっ……ってカレンチャンか……もうすぐ門限だ。はやく帰りなさい」
「ぶうーお兄ちゃんって、つれないんだから……ねえねえそれよりお兄ちゃん。この写真の事覚えてる?」
「急にどうした……って……えっ……?」
「もう、忘れちゃったの? あの時はすっごく情熱的にカレンのこと愛してるって……また二人っきりの時にキスしようねって言ってくれたよね?」
「…………」
私が彼に見せた写真には私と彼が口づけを交わす瞬間が写っていた。その写真を見た彼は愕然とした表情をうかべながら激しく動揺していた。その姿は、何だか小動物のようで非常に可愛らしかった。
「俺は……俺はこんな事をした記憶はないぞ……」
「ひどいよお兄ちゃん……アオハル杯の打ち上げをした夜に私に告白してくれたのに……」
「アオハル杯の打ち上げ……いや他のトレーナーとも集まって少し羽目を外したが……こんな記憶は……」
「確かにお兄ちゃんは酔ってたけど……忘れるなんてヒドイよ!」
「えっ……確かに酔って一部の記憶はないけど……えっ……!?」 - 17二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:11:30
まだ状況を飲み込めず、混乱するお兄ちゃんの姿は本当に愛おしかった。だから、私は椅子に座る彼の膝の上に腰を降ろす。彼に自らの身体を密着させつつ私はまっすぐ彼の事を見つめた。そんな時、ふと彼の首筋に小さな赤みがある事に気づく。それは、今朝方ダイワスカーレットが彼に噛みついた時に出来たものであった。彼は私の物である……そんな無言の主張にイラついた私は、その赤みにそっと舌を這わせた。
「んっ……あっ……んむっ……」
「お、おい! 何をやってるカレンチャン!?」
「んふふっ、お兄ちゃんがカレンとのキスを忘れたなんて言うから……ちょっとしたイタズラだよ☆」
「だから、俺は全く記憶に――」
「んっ……」
うるさい彼の唇を私は強引に奪う。それから私から逃れようと暴れる彼を抱きしめて抑え込む。そうすると。次第に彼は大人しくなった。
「はい、チーズ☆ んっ……」
私はカワイくポーズを決めながらキスをし、その姿を自撮りした。しかし、そんな私をどかそうと彼は再び抵抗しはじめる。そんな彼に私は少しだけムっとした。 - 18二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:12:40
「カレンチャン、聞いてくれ」
「なあにー?」
「俺はすでにスカーレットにその……愛の告白をされているんだ」
「…………」
「スカーレットには成人してからも俺を好きだったら改めて受け入れるって約束してるんだ。俺だって彼女が言葉を本気にしているわけじゃない。いずれ、あいつにも相応しいヤツが現れるだろう。だが、その約束を俺から破るような事は出来ない! 純粋無垢なアイツを傷つけるようなマネは……」
「えいっ!」
私はトレーナーの服を思いっきり破り捨てた。唖然とする彼の前で私は更に彼に身体を密着させる。彼の胸板は熱くて硬い……私の好きな彼の汗の匂いがした。
「お兄ちゃん、この写真をネットにアップしたらどうなるかな?」
「えっ……?」
「お兄ちゃんと私が愛し合ってるところ、カレンは皆に知ってもらいたいなあ」
「そんなことをしたら……」
「うん、カレンはまだしもお兄ちゃんのキャリアが絶たれるよね」
「…………」 - 19二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:14:08
口を引き結んで閉口する彼の胸板に私はそっと舌を這わす。糸を引く私の唾液に濡れた彼の身体は否応なく私の雌の部分を興奮させた。
「お兄ちゃんはそれでもいいと思ってるかもしれないけど、スカーレットちゃんはどう思うかな? 大好きなトレーナーさんに失恋する事だけでなく、今の生活は一変しちゃうよね。彼女、マスコミにも結構つながりあるし、結構なスキャンダルだよね。貴方の事で彼女もとばっちりを受けちゃうかも……」
「脅迫のつもりか? いっておくが、君も破滅することには変わりないんだぞ?」
「カレンは別にいいよ? すでにレースでお金はお兄ちゃんを一生養えるくらいは稼いでるし、今後の生活も大丈夫だよ」
「…………」
「それに、お兄ちゃんってばそんなこと言いながらも期待してるよね。お兄ちゃんのお兄ちゃんがカレンのお尻の下で暴れてるよ?」
羞恥に染まった彼に舌なめずりしつつ、私自身も息を整える。すでに身を包む火照りと興奮に我慢が出来そうになかった。
「なあ、カレンチャン」
「なあに、お兄ちゃん?」
「それでも、やっぱり俺はスカーレットを裏切る事は出来ない。こういう行為以外だったらなんでもする。だから今日はもう寮へと帰って……うぐっ!?」
私が強く抱き着いた事で彼は椅子ごと背後へと倒れ込む。そんな聞き分けのないお兄ちゃんに呆れながら、私は彼にウマ乗りになった。 - 20二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:14:37
「ごめんねお兄ちゃん。お兄ちゃんが望むならカレンも天使でいたかった。でも、今日のカレンチャンは悪魔なの」
「やめっ……!」
「ふふっ、ねえ見えるお兄ちゃん。カレンのここにお兄ちゃんの――」 - 21二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:16:13
うーーーー(うまだっち)
うーーー(うまぴょい うまぴょい)
うーー(すきだっち) うーー(うまぽい)
うまうまうみゃうみゃ 3 2 1 Fight!! - 22二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:17:32
今日も私は通学路をゆっくりと歩く。チームレースの朝練は自由参加だ。もちろん、参加はするが別に急ぐ必要はなかった。お兄ちゃんとの『幸せな夜』を過ごしてから約三ヵ月。私は彼との愛を深める日々を送っている。もちろん、彼も最初は抵抗していたが次第に諦めるようになり、最近ではお互いに深い時間を過ごして彼の心が私に絆されていくのこの身に感じている。結局、うまぴょいが恋愛においては非常に強力な武器になるのだ。恋愛漫画で三角関係になる男女の姿にヤキモキしながらも、私はいつも心の底で早くやってしまえと思っていた。そうすれば勝負はつくのだと……実際、その理論は正しかった。
「ふふっ、ウマスタやってて良かったー! これも、カレンのカワイイの努力の賜物かな!」
お兄ちゃんと私がキスをする写真……いやコラ画像ともいえるその写真で私は勝利を勝ち取った。実際に、その写真をすぐに”本物”へと変えたからだ。 - 23二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:19:14
そんな私の背後から聞き慣れたエンジン音が鳴り響く。私の横へとバイクをつけたのは私の幼馴染……トレーナーだった。
「またチームトレーナーのところか?」
「うん、そうだよ。それよりトレーナー、カレンの変化に気づいた?」
「もちろんだ! なんつーか、前より更にカワイイカレンチャン!」
「ありがとうトレーナー!」
彼は少し寂しそうに笑った後、再びバイクに跨る。その姿は相変わらずサマになっていて……ほんの少しだけカッコよかった。
「ねえ、トレーナー」
「どうした?」
「トレーナーはカワ……いくはないねー……でも、お兄ちゃんと同じくらいにはカッコイイよ」
「うっ……ぐっ……」
彼は少し声を詰まらせながら顔を下に向け、ヘルメットのバイザーを降ろす。そんな彼の背をペシペシ叩くのは私の先輩であるフサイチパンドラ先輩だ。彼女の頬は少しだけ膨れていた。 - 24二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:19:47
「さっさといきますよトレーナー」
「でも……俺のカレンチャンが……」
「大丈夫ですよ。これも彼女の成長と認めましょう」
「ううっ……ううっ……寝取られやんけー!!」
エンジン音を響かせながらバイクは凄まじい加速で視界から消えた。そんな時、私に何とも言えない既視感を脳裏に覚えた。だが、そんな思いも数舜で立ち消え、私はゆっくりと歩き出した。 - 25二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:20:46
トレーニング場へつくと、ちらほらとチームメンバーがストレッチをしている姿を見つける。そして、見慣れた深紅の髪を見つけ私は足を進める。紅髪の少女……ダイワスカーレットはこちらを見てビクリと肩を震わせた後、怯えたような表情でトレーナーの背後へと逃げていく。その姿を見て、私はクスリと哂った。
「お兄ちゃん、おっはよー☆」
「ああ、おはようカレンチャン」
「ふふん、当然だよ! はい、カレンチャンは――」
「カワイイ! カレンチャンカワイイ!」
少し虚ろな表情の彼の胸板を私は軽く叩く。そうすると、彼はいつもの表情を取り戻した。そうしてトレーニングが始まって小休憩を取っていた時、私のベンチ横にダイワスカーレットが現れる。彼女は怯えた表情ながらも一枚の紙片を手渡して来た。そこには『放課後にあの場所で』とだけ書かれていた。その後、彼女は足早に私のもとから逃げるように走り去った。 - 26二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:26:13
やべ、14のレスがおかしい
正しくは
「アンタ、最近少し調子にのってない? アイツはアタシのトレーナーなんだけど」
「うん、知ってるよ。でも、カレンのチームトレーナーであることは変わらないよ」
「そういう意味じゃなくて……ああもう! とにかく、アイツにこれ以上近づかないで! アイツはアタシの一番の……」
という順です - 27二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:28:29
その日の放課後、私は三か月前と同じ、チームの会議室へと足へ運んだ。そこにはすでに、ダイワスカーレットの姿があった。彼女は私の登場にビクリと怯えた後、そのままお互いに無言の時間が過ぎ去って行く。そうして、数十分は経とうとした時、ダイワスカーレットは地面にペタンと膝を降ろし、額を頭につける。いわゆる土下座であった。
「……さい」
「え?」
「返してください……」
「んー?」
「トレーナーさんを返してください!」
「あはー☆ カレン意味分かんない☆」
「返して……ねえ……謝るから返してよお……!」
必死に床に額を擦り付ける彼女は滂沱の涙を流し始める。そんな彼女の姿を私は見おろす。いまさらそんな事を言われてももう遅い! ってやつであった。 - 28二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:29:43
「ごめんねスカーレットちゃん。貴方のトレーナーはカレンのお兄ちゃん……将来の旦那様なんだよ? 返して言われてもねー」
「お願い、お願いだから……お願いします……!」
「えいっ☆」
「ぐっ!?」
土下座をするダイワスカーレットの頭を私は右足で踏んで床へと押し付ける。豚のようにくぐもったふぐふぐと言ううめき声が聞こえるが。私にとってそれは極上の音楽であった。
「お兄ちゃんは、貴方じゃなくてカレンを選んだの。負け犬の遠吠えにしてはちょっとうるさすぎるかなーって!」
「ひぐっ……ぐすっ……うえっ……」
「でも、スカーレットちゃんの事はちょっとかわいそうだなって思ってるの。だから、もっとその声を聞かせて? そうしたら、お兄ちゃんの専属トレーナーって地位は保障してあげる。でも、彼に必要以上に接触したら、許さないから」
「ひうっ……ううっ……」
「ふふっ、スカーレットちゃんのその姿、カワイイよー☆」
私はもう一度、彼女の頭部へ向けて自身の右足を振り下ろした。 - 29二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:30:46
それから数十秒後、私は会議室の壁に身体を叩きつけられていた。
- 30二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:31:59
意味が分からず呆然としている私の前で、ダイワスカーレットがゆらりと立ち上がる。そして、こちらを呆れた表情で見ながら、ゴミのついた頭部を手で払っていた。
「はあ、やっとボロをだしたわね。この私があれだけしおらしくしてやったってのに、なかなか手を出さないんだから……まあでも、いい動画はとれたわね」
そう言って、彼女は会議室のテレビ前に置かれたティッシュ箱を手に取り、中身を引き裂く。そこからは一台のスマホが現れる。その瞬間、私は理解する。どうやら、この現場を隠し撮りされていたようだ。
「まあ、これで調子こいたアンタにはお灸がすえられるわ」
「…………」
「もう一度言うわよ。アタシのトレーナー、返してもらえる?」
両手を前に組んで無表情でそう言い放ったダイワスカーレットを前に私は閉口する。ここに来て反撃をしにきた彼女には正直言って驚嘆する。だが、私もここで引くわけにはいかなかった。 - 31二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:32:55
「ふーん、その動画を拡散するつもり? カレン、ちょっとこわいな……」
「ええ、今すぐにでもネットに流せる状態よ。気分が昂ってアタシの頭を足蹴にしたのは間違いだったわね」
「あはは、それって脅しのつもり? 別にネットに流してもいいよ。カレンにとってはお兄ちゃんが今後もずっと傍にいるって事実は変わらないもん!」
「あっ、そう……じゃあこれはどうかしら?」
そう言ってダイワスカーレットが懐から取り出したのは一台のボイスレコーダーだった。わけがわからず、思わず首を傾げた私の前で再生ボタンを押した。
『お兄ちゃん、まだ仕事してるのー? うぉっ……ってカレンチャンか……もうすぐ門限だ。はやく帰りなさい。ぶうーお兄ちゃんって、つれないんだから……ねえねえそれよりお兄ちゃん。この写真の事覚えて……』
瞬間、私の脳内は思考を停止した。
そして数秒後に動き出した脳は何故という言葉でうめつくされていた。
なぜ……なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ……!? - 32二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:33:59
「これがどんな状況が理解出来る?」
「…………」
「理解出来ないなら教えてあげる。これはアンタがアタシのトレーナーを逆ぴょいした時のものよ?」
「なんで……」
「んっ?」
「なんで……どうして……うぎぃ!?」
気づけば、私はダイワスカーレットに蹴り飛ばされていた。そうして床に転がる私のお腹の上に、彼女は右足を踏み抜くように降ろす。嗚咽と共に、酸っぱい胃液の味が口内に広がった。
「アタシはトレーナーの一番のウマ娘なのよ? だから、アタシは彼の事を一番理解していなきゃいけない。だから、アタシは彼がどのように日々を送っているか知る必要があったの。ただ、それだけよ」 - 33二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:35:09
光を失った深紅の瞳は嘲笑うようにこちらを見下す。だが、私も負けるわけにいかなかった。だから、精一杯に脳を動かすが解決方法は見当たらない。だからであろうか、私はの口は反射的に言葉を紡いでいた。
「カレン、お兄ちゃんとうまぴょいしたもん! 昨日だって、トレーナー室でいっぱい愛してもらったんだよ」
「…………」
「キスだって毎日してて……」
そう言った私が期待したのは、ダイワスカーレットが絶望と嫉妬に歪む姿でった。だが、彼女はそんな表情をしていなかった。
彼女はひたすらに興味なさそうな顔で私を見ろしていた。
「だからなに?」
「えっ……あっ……うっ……?」
「アンタがアタシよりも先にアイツとセックスしたからって、彼の一番がアタシである事は変わりないでしょう?」
「うっ……ううっ……」 - 34二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:36:28
「ふふっ、むしろ嬉しかった。アイツってば、男なら誰もが暴走しちゃような状態でも最後までアタシの事を気にかけていた。それがどうしようもなく嬉しいの。アタシがアンタにあのキス写真を見せられた時は流石に落ち込んだわ。これだけ彼の事を四六時中かたときも目を離さず見ていたあたしに隠れてあなたとキスしていたなんて信じられなかった。だからあたしがいつも録音してる盗聴器を確認した時は本当に嬉しかった。やっぱり、アイツの一番はアタシなんだって。それからアンタのトイレ中にアンタのスマホから例の画像を抜き取って単なるコラ画像……フェイクだって気づいた時は許せなかった。アタシは、アイツがアンタを選ぶってだけなら別に良かった。でも、アンタはアイツを騙したのよ? 聞きたいんだけど、アンタは自分が好きな人に苦しい思いをさせてもいいの? この三か月間、アンタの言いなりになるしかなかったアイツは本当に可哀想だった。好きでもない女の相手をするのは苦痛でしかないものね。だから、アイツを騙し、嫌な思いをさせたアンタにアイツと幸せになる資格はない。アイツはアタシと一緒になるのが一番幸せで一番正しい選択なの」
- 35二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:39:43
光を失った瞳ながらも、彼女は恍惚とした表情を浮かべながらスマホを手に取り、こちらに画面を見せつけてきた。そこには一つの音声ファイルと一つの動画が添付されたメール欄であった。宛先は……よく分からないが膨大であった。
「これ、世間に流したらどうなると思う?」
「やっ……やめっ……!」
「まあ、アタシとトレーナーは少しはダメージあるけど、二人で海外で新生活を始める予定だから問題ないわ。それに、脅迫と逆ぴょい、障害は立派な犯罪なのよ。アタシ達よりアンタの方が立場は悪くなるわ」
「やめ……やめてっ……!」
「んっ?」
「やめてくださいっ……!」
気づけば、私は少し前の彼女のように額を床につけていた。
「はあ、まったくしょうがないわね……結局、アンタは自分が一番『カワイイ』んだね」
「それじゃ……」
「はい、送信♪」
それからの事はよく覚えていない。 - 36二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:41:07
気が付いた時には、私は会議室の机の下で小さく丸くなっていた。手元の携帯からは学園やマスコミ、友達、家族……色んな人達からひいきりなしに電話かかかり、携帯を振動させ続けていた。
そんなどうしようもない私の脳内では愛しのお兄ちゃん……ではなく……私のトレーナーの笑顔が浮かんでいた。小さい時から私にちょっかいをかける彼は少しうっとおしかった。でも、彼や実兄との楽しい思い出はいっぱいあったし、何よりこんな風に落ち込んでいる時はいつもあのうざい笑顔で私をきにかけてくれた。
「トレーナーさん……」
気が付けば私はゆっくりと歩き出していた。向かうのは彼が住む学園近くのボロアパート……ゆっくり……ゆっくりと足を進めていった。 - 37二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:42:12
奇跡的に誰とも会わずにアパートに辿り着いた私は、そっと扉に手をかける。閉まっていれば、彼に無理やり渡されたカギを使えばいい。
だけど、ドアノブはあっけなくガチャリと開いた。自然と息をひそめる形になった私は静かに靴を脱いで廊下を進む。そうして、居間へのふすまに手をかける。
その後はどうしようもない私にトレーナーさんは笑いかけてくれて―― - 38二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:48:11
『あっ……いいですよリュウさん……私は初めてなんですけど……んっ……しっかり出来ていますか……』
『なんで俺なんかに……お前に相応しい相手は俺なんかじゃ……それに俺はこんなことしてる場合じゃ……ネットを見ただろう? きっとカレンは辛い思いをしてるはずだ……』
『そんな事、言わないでください。私は貴方をずっとお慕いしていたのですよ……? 私だけのトレーナーのはずだったのに、貴方はあの幼馴染の子に目を向けて……私がいつもどんな思いだったか……あのお方が貴方にとって大切なのは分かります。でも、今は私だけをみてください……』
『そ、そんな事言われたら俺は……俺は……』
『ふふっ……あっ……んっ……愛……きっと貴方との子は美しい瞳で……あのシンボリルドルフをも超えるウマ娘になりますよ」
『パンドラ……!』
『ああっ……愛……すばらしいですね』
気づけば、私は這いずるようにその部屋を後にしていた。そうしてたどり着いた近所の公園で私は倒れ込む。 - 39二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:48:48
もう何も考えたくなかった。
「助けてよ……お兄ちゃん……助けてトレーナー……助けて……――くん」
数時間後、私は警察に保護された。 - 40二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 01:49:30
終わり☆
- 41二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 02:05:34
リュウさんてまさか世界の龍王のことなのか?
- 42二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 02:09:37
- 43二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 02:12:42
勝ちを確信した瞬間が最も油断する瞬間なんだなぁ
息の根を完全に止めるまで刃物を持つ手を緩めてはいけない(戒め) - 44二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 06:50:23
- 45二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 12:24:28
アイちゃんか、そうか…
モエちゃんはいない世界なのか… - 46二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 19:09:21
ぐへへ……!
まだスレ残ってんじゃん!
こっからグッドエンドにしようね~ - 47二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 20:50:51
『ダイワスカーレット、新たな家族誕生! 10人目にして待望の男の子』
流し見していたネット記事で私はあの人とあの女の記事を見つける。彼らの近況を知ることは最初は胸が重く苦しくなったが、最近ではもはや一種のエンタメとして見れるくらいにはなっていた。
「あれからもう十年近くになるのかー」
ソファーにぐでんと身体を倒しながら、私は小さくため息をついた。約十年前、私はダイワスカーレットに恋の勝負で完封負けをした。お兄ちゃんへの逆ぴょい音声とダイワスカーレットへの暴行ともとれる動画はネット上に素早く拡散し、翌日にはワイドショーでトレセン学園の風紀の乱れについて特集されるほどであった。
私の地位はこれにて失墜、ダイワスカーレットは悲劇のヒロインとして一躍有名になった。その後の事は非常に大変であったが、ここでは割愛する。確かな事は今では私はカレンチャンという名を捨てて『人間』として生きているという事実だけであった。髪は日本人に多い黒に染め、尻尾は脱毛して衣服へと隠し、人としての名を名乗る。時と言うのは非常なもので、今では『カレンチャン』の名を知る人は少ない。色々あったが、お金だけは私を決して裏切らない。今の生活を維持できるのも、現役時の賞金のおかげであった。
そんな時、窓の外から5時を知らせる時報が聞こえてくる。田舎に居を構えてから約10年、このもの寂しいサイレンの音も親しみのあるものに変わっていた。
「遅い……!」
我が『愛しの息子』は、こんな時間になってもまだ外で遊び歩いていた。 - 48二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 20:51:39
急いで身支度を整えた私は家を出る。あの子がいる場所と言えばどうせ近所のあの公園だろう。そうして足早に近所の見慣れた道を歩いてると、これまた見慣れた顔……フサイチパンドラと出くわした。
「おや、貴方も迎えですか?」
「ええ、そんなところです」
「そうですか、それならば一緒に行きましょうか。どうせ、目的地は一緒ですからね」
微笑む彼女に私も微笑を返す。田舎に越して来た私であるが、元トレーナー夫婦もわざわざ近くに越して来たのだ。余計なおせっかいとも言えるが、なんだかんだで彼女とはいわゆるママ友関係に落ち着いていた。
それから他愛のない世間話をすること数分、私達は公園に辿り着く。そこには、やはり私の息子の姿があった。
「んっ……? 増えてる……?」
「ええ、増えてますねえ……」
そんな会話を、私はかつての先輩と交わしていた。公園のベンチに座る我が息子の隣に元トレーナーと先輩の娘であるアーモンドアイちゃんが張り付くように陣取っているのは昔から見慣れたともいえる光景だった。そんなアーモンドアイちゃんに張り合うように息子のもう片方の手に陣取るのは、小学校が一緒だというラッキーライラックちゃんだったはずだ。 そして、今日はそんな息子にの背後に新たなウマ娘が抱き着くようにはりついていた。
息子は私の心配をよそに、こちらへ向けて笑顔で走り寄って来た。 - 49二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 20:52:28
「お母さん! 家に帰るのはもうちょっと待ってよ! これから、トレーナーを目指すものとして譲れない戦いがあるんだ!」
「はあ……なんだか知らないけどもう少しだけね……それより、あの子は新しいお友達?」
「そうだよ! ほらリンちゃん、この人が僕のお母さんだよ」
「はい……デアリングタクトっていいます……よろしくです……」
「あ、うん。よろしくねー」
息子はまた新しいウマ娘と知り合ったようだ。常日頃から将来の夢はウマ娘のトレーナだと豪語する息子には貴重な経験かもしれないが、どうせなら同性の男の子と遊んでくれる方が彼の年齢では適切な気がした。
「ふふっ、モテモテですねえ……」
「あははっ……」
くすくすと笑う先輩に対し、私はとてもじゃないが笑いを返せる余裕がなかった。 - 50二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 20:54:16
そんな時、公園の反対側から別の少年が姿を現す。彼も、二人のウマ娘を引き連れていた。その少年は私の息子にガンを飛ばした後、二人はお互いに構えた。
「約束通り、どっちがトレーナーとして相応しいかダブルバトルで勝負だ!」
「受けて立つ!」
「ならば……いけカレンブーケドール! にど蹴り! ステイフーリッシュは回り込んでメガトンパンチ!」
「迎え撃てレイちゃん! あんこくきょうだ! ライちゃんはスピードスター!」
わけの分からない子供の喧嘩を見ながら、小さく嘆息する。なんだかんだ、息子もまだまだ子供であった。 - 51二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 20:56:50
そんな光景を微笑みながら見守っていた先輩が、ふとこちらに視線を向ける。そして、こてんと首を傾げた。
「しかし今でも疑問です。貴方、何故『愛しのお兄ちゃん』の子を妊娠したと相手方に伝えなかったのですか?」
「…………」
「あの時点で伝えれば、責任感を感じてあの方も当然認知してくださると……」
「あははっ、確かに認知はしてくれたと思います。お兄ちゃんってば責任感強いですから」
夕日を見つめながら、私はあの時の事を思い返す。ダイワスカーレットに負け、失意に沈んでいる時、私の妊娠が発覚した。だが私はそれを彼に伝えなかった。そんな事をしたらどうなるか。それは火を見るよりも明らかであった。
「先輩、そんな事したらあの子はこの世に生まれる事すら出来なかった。それが私の答えです」
「なるほど……それもまた愛です……素晴らしいですね……」
クスクスと哂う先輩を横目に、私は変な喧嘩に勝利してこちらに駆け寄ってくる息子を抱きしめる。そんな愛しく小さな彼を抱きしめながら、私は忠告した。
「女の子は大切にしなさい。喧嘩の道具には使わないの!」
「あれは喧嘩じゃなくて……」
「言い訳しない! それと……」
私は彼の背後へと目を向ける。そこには三人の小さなウマ娘の少女がこちらをじっと見つめていた。その瞳には獲物を狙う鋭さと、私に対しての憎しみと警戒が見て取れた。
「刺されないように気をつけて」
我が子は、小さく首を傾げる。ああ、やっぱり、この子は彼の息子だ。
終わり☆ - 52二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:34:28
緩急の効いた怪文書であった
乙 - 53二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 21:42:18
リュウ=龍 愛=アイ かぁ
ってかフサイチパンドラ自身エリ女連覇をダスカに阻まれたりして因縁あるからうまく拾ったなぁ - 54二次元好きの匿名さん21/09/06(月) 22:04:07
フサイチパンドラをこんなキャラ付けにしたのは
ここはリゼロ履修者多いから舞台装置に使っても文句言われないかなーと……
ちなみにダスカも現実でロードカナロアつけてるからもう少し展開をこじらせる事ができたかも