【SS】あ~あ💢ジェンティルドンナなら💢💢

  • 1二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:51:36
    あ~あ💢ジェンティルドンナなら💢💢|あにまん掲示板怪我をしている間は練習を休むしトレーナーの見ていないところで走り込みなんかしないんだけどなアァ~💢💢💢bbs.animanch.com

    こちらのスレに感化されて書きました。先にお目通し頂くとより読みやすいかと思います。

    こちらの坂崎ふれでぃ氏のイラストにも大きく影響を受けました。


    以下、本編です。

  • 2二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:52:18

    "怒り心頭に発する"の言葉そのものと言ったように、彼は言った。
    「そんな………だって………!」
    「君が追うそのライバルなら!きっとそうしたってことだよ!」
    「………っ!!」
    涙を堪えられないまま、私はその場を立ち去ることしか出来なかった。
    後ろで彼の呼ぶ声が聞こえる。
    でも今は、その顔をまともに見ることは───今の自分の顔をまともに見せることは、できそうもない。

  • 3二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:52:40

    数日前のトレーニング。
    走り込み中に転倒し、私は、足を軽く痛めてしまった。
    そのまま保健室に担ぎ込まれ、数日間の安静を言い渡された。
    ………それは今の私にとっては、拷問にも似た宣告だった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:53:05

    全力、文字通りの全身全霊で挑んだティアラ路線。
    私はその三つのレースにおいて、全て『2』着で終わった。
    対照的に、その全てで私に背を見せたのはたった一人。つまり、見事トリプルティアラを達成した、ジェンティルドンナ。
    私には分かる。彼女はまだ、"本気を出してはいない"。全力を出すまでもなく、私を含めた世代全てのウマ娘をねじ伏せ、冠をもぎ取って行った。
    意識しないわけがない。しないようにしたとして、できるわけもない話だった。

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:53:23

    次走のエリザベス女王杯を見据えた調整も兼ねたトレーニングであったことも、私から冷静さを奪おうとしていた。
    ジェンティルドンナが、エリザベス女王杯に出ないわけがない。
    "ワタシノデルレースニデナイワケガナイ"。
    そうであれば、こんな怪我如きに時間を奪われるわけにはいかない。

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:53:46

    トレーナーからも、しばらくは休むようにとは言われていた。
    「身体もだけど、まずは心を落ち着かせて癒さなきゃダメだ。たとえ足が数日で治っても、心が焦ったままじゃ、また同じことの繰り返しになってしまう。」と。
    ………みくびられたものだ。正直に言うと、そんな風に思ってしまった。焦っている?私が?私は、冷静だ。
    冷静に自身を見つめ、今のままでは彼女に勝てないと理解している。だからこそ、もっと追い込まなければならない。

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:54:22

    押し問答を避ける為、私は聞き分けの良いフリをした。
    しっかりと休養を取っているように見せながら、怪我をした足に負担のないような上半身のトレーニングをこっそりと行ったり、タルマエさんの寝息が聞こえるのを確認してから、夜中に軽めのランニングをしたり。
    そんな行いも、僅か3日でバレてしまった。
    トレーナー室に呼び出した彼は、最初は静かに怒っているようだった。
    侮られていると思い込んでいた私は、当然のように反論した。

    この程度の怪我で休んでいる場合じゃない。
    そんなことじゃジェンティルドンナには追いつけない。
    ジェンティルドンナはエリザベス女王杯にきっと出る。
    そこで必ず、ジェンティルドンナに打ち勝つ為に。
    それにジェンティルドンナならあなたのように甘くなく………!

  • 8二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:54:50

    そこでとうとう、トレーナーの怒りの声の先、今に至る、というわけだった。
    トボトボと寮に戻ると、部屋にはタルマエさんと、何故か二人の妹たちがいた。
    私の姿を見るなり、心配そうに声を掛けてくる。
    どうやらタルマエさんが、二人を呼び出し、私のことで相談していたようだった。怪我をしているはずなのに、夜中に抜け出して走っているようだ、と。
    そこで察した。トレーナーに密告したのは、きっと彼女だ。
    本心から心配してくれてのことだろう。彼女を責める気はない。にも関わらず、私が察したことを感じ取ったのか、どことなく気まずいような顔をしていた。

  • 9二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:55:20

    私は、先程のあらましを、三人に包み隠さず話した。
    歩いているうちに頭が冷えたのだろう。今にして思えば、自分が如何に子供じみた執着を、彼女にしていたことか。
    「………何してるのさ。」
    シュヴァルグランは呆れたように言った。反論は、出来ない。
    「それ、指示無視ってやつだよね?怒られるの自業自得じゃん。」
    ヴィブロスも続けて言う。痛いが、仕方ない。
    「………その上そんな風にケンカしちゃったってさあ………。」
    「………契約解除、とか?」
    「あー………あるかもねえ。」
    妹たちが口々に言う。
    契約、解除。
    その単語が、頭を回り青くなる。
    自業自得なのはその通りだ。今は自分が、如何に愚かな行動を取っていたかよくわかる。
    そんな私に寄り添い、支えてくれる人を、私は無碍に扱ってしまった。
    今更泣きついても、遅いのかも知れない。でも───。
    「………彼に、謝ってくるわ。」
    ───そんな人を失いたくなかった私は、もう少し足掻いてみることにした。

  • 10二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:56:10

    学園へと踵を返した道すがら、途中にある公園のベンチに、彼女───ジェンティルドンナは、そこにいた。
    視界に入った途端、一瞬だけ頭に血の昇るような感覚に襲われたが、無視して、学園へと急ごうとした。
    「………こちらにいらっしゃいな。」
    明らかに私に声を掛けてきた。立ち止まり、振り返る。
    「先程、貴女と貴女の指導者が、私の名前を叫んでいたようでしたけど?」
    どうやら、彼と私の怒鳴り合いを聞かれてしまったらしい。彼女がそういったものに頓着しない性格であることは知っていたが、内心冷や汗をかいてしまう。
    平静を装い、対話に応じる。
    「………なんでもないわ。あなたを、次のエリザベス女王杯で打ち倒す。その話し合いをしていただけ。」
    私の言葉に、ジェンティルドンナはものすごくつまらないものを見たと言わんばかり、すっと目を細めた。
    「足。怪我されているそうね。」
    「すぐに治るわ。」
    「そう。………それでも、言わせてもらうわ。」
    一度言葉を切り、そして続けた。
    「怪我をしてる貴女に勝っても何の価値もありませんの。無意味な事にかまけるくらいなら早急に完治なさい。」
    「………!あなた!」
    「………なんて。正直に申し上げるなら、私もそんな偉そうなことが言えた立場ではない。」
    頭が沸騰しそうになるも、その後に続いたあまりにも意外な、ともすれば彼女に似つかわしくないとすら思えるような言葉に、こちらも詰まってしまう。

  • 11二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:57:13

    「………先のG1で、私が本気で走ってはいなかったこと。貴女なら、承知しているでしょう。」
    「………。」
    「………勝利は納めた。それでも、それが如何にフラストレーションの溜まることであるか。」
    「………そうね。」
    「全力を出さなかったのは、トレーナーの指示。従いはしたけれども、次のレースでも同じようならば反発する気でいたわ。」
    「………!」
    「………貴女と同じように、ね。」
    「………。………今は、違うの?」
    「ええ。」
    「それは何故?」
    「………諭されたのよ。第三者に。」
    「第三者?」
    「ええ。」

  • 12二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:57:44

    「………次の一周は、もっと負荷を………」
    無理し……理しない───
    「え?」
    君は……ら信じ……みのトレーナーを───
    「………貴方は?」
    僕は………ャンを………から───
    「………。」

    (………彼は私に声を掛けながら、すれ違うように去って行った。
    引き留めようと振り返ったが、そこにはもう、その姿はなかった。
    驚き周囲を見渡すが、おかしな人物も、それにびっくりしているような人も、誰もいなかった。
    ………会ったこともないはずの人。なのにその言葉は、心の奥底まですっと届いた。
    まるで、ずっとずっと昔から知っていたかのようで。
    ………そう。"見覚えのないウマ娘"の───)

  • 13二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:58:16

    「───着ぐるみを着た男の人に。」
    「は?」
    「それで、貴女はこれからどうなさるの?」
    「待ちなさい。なにその人。不審者?不審者なの?」
    「それから、私は直近でエリザベス女王杯に出走する予定はございませんので。」
    「話を逸らさ………え………?」
    「ほら、早くお行きなさい。指導者が待っているのでしょう?」
    衝撃の連続に理解が追いつけずにいたが、唖然とした顔を見せるのも癪だ。促されるままに、学園へと足を向けた。
    「………もう一度言うわ。私に挑むのであれば万全の状態で挑みなさい。それができないのであれば………、二度と私の前に姿を表さないでちょうだい。」
    「………。」
    最後の言葉には答えないまま、私は、学園に向かった。

  • 14二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:58:46

    学園に着いた頃にはもう、空の大部分は藍色が支配しており、遠くに見えるビルの屋上をなぞるような茜色とのグラデーションが美しく見えていた。
    人気のない廊下を進む。トレーナー室からは、まだ部屋の明かりが漏れていた。
    扉の前に立つ。
    鼻から鋭く息を吸い、1秒止めて、口からゆっくりと吐く。
    気を抜けば震えてしまいそうになる手を制して、ゆっくりと、ノックする。
    聞き慣れた声の返事を聞いてから、ゆっくりと、戸を開ける。

  • 15二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:59:16

    「………ヴィルシーナ………。」
    「………トレーナー。あの、さっきは………。」
    「ヴィルシーナ、さっきのことを謝りたい。………すまなかった。」
    思いもしなかった言葉と礼に、驚き言葉に詰まってしまう。トレーナーが?何故?
    「………君があまりにも意識していたとは言え、引き合いに出して叱りつけるやり方はあまりに子供じみていた。いたずらに君を傷つけるだけの言葉を言ってしまった。」
    トレーナーの謝罪は続く。
    「………失望した、と思う。トレーナーとしてどころか、大人としてあるまじき言動をとってしまった。………君が望むなら、ここで契約を打ち切られても………。」
    「ダメ!!!!!」
    「!!」
    思わず、叫んでしまう。まさか、私が恐れていたことを、こちらに委ねてくるとは思わなかった。
    「ダメ!あなたじゃなきゃ!あなたが!いてくれたから走れたのに!!」
    「………ヴィルシーナ………。」

  • 16二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 17:59:54

    「………あなたに、謝らなきゃって、戻ってきたの。………本当に、ごめんなさい。あなたを、裏切るようなことをして。」
    「………。」
    「今は、自分がどんなに愚かなことをしていたか、………どんなに愚かなことに囚われ、言葉にしていたか。………充分に、理解してるわ。」
    「………黙っていられたことは、確かにショックだった。」
    「………ごめんなさい。」
    「君は明らかに焦っていた。ヴィルシーナ。………だから、冷静になる時間も必要だと思ったんだ。俺も、言葉が足りなかった。」
    「………。」
    「保健室の先生も言っていたよ。そのくらいの怪我なら、安静にしていればすぐに良くなるって。………エリザベス女王杯にも、ちゃんと間に合う。」
    「………そのエリザベス女王杯だけど、ジェンティルドンナは出ないそうよ。」
    「なんだって!?………いや、確かに、彼女ならジャパンカップあたりを狙いに定める可能性も………。」
    「………。」

  • 17二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:00:17

    「………ヴィルシーナは、どうする?」
    「え?」
    「ライバルが出ない以上、君も次は回避して別のレースに照準を合わせてみるか?」
    言われて私も、少し考えてみる。
    先程の彼女の言葉を思い出す。
    彼女の、貴婦人の名に相応しい凛とした佇まいと、気圧されかねない覇気の感触を思い出す。

  • 18二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:00:49

    「………いいえ。このまま、エリザベス女王杯を目標にするわ。」
    「良いのか?」
    「ええ。………私は、私のレースで勝ってみせる。そうして積み上げたものを、ジェンティルドンナにぶつけてやるわ。」
    「そうか。………じゃあ、まずは、休まなきゃな。」
    微笑みながら、彼は言った。
    優しい笑顔。私の大好きな笑顔。ここのところずっと、見ることのできなかったもの。

  • 19二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:01:06

    ………私の、大好きな?

  • 20二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:01:29

    自分の思っただけの言葉に、思わず赤くなってしまう。悟られないように、目を逸らす。
    「………どうしたの?」
    「なんでもない!」
    「おっ、おう。」
    「………それより、お仕事はもう、片付いているの?」
    「まあ、あとは明日でも問題ないよ。」
    「だったら、一緒に帰りましょう?寮までエスコート、してくださらないかしら。」
    「………仰せのままに。ヴィルシーナさま。」
    少し戯けて彼は言う。つられて私も笑ってしまう。
    少しだけ、軽くなってような気がした。

  • 21二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:02:01

    すっかり暗くなった道を、彼と二人、並んで歩く。
    「ああ、そうだ。………最近、着ぐるみを着た不審者が、この近辺でウマ娘に声をかけているようなんだけど、何か知っているかしら?」
    「ええ………?そんなの聞いたことないな。事案だなあ。」
    「その目撃者は襲われても問題ないような方ですが。」
    「いやいやいや………でも少し注意しないとな。」
    「そうね。特に害はなさそうだけど。」
    「仮に君に何かあったら………、いや、そうはならない。」
    「………なぜ?」
    「俺が必ず守るから。」
    言われて思わず、彼の顔を見る。
    かっこつけてる風はなく、ただ当然のことと言わんばかりに、普段通りの表情だ。
    「………そう………。」
    赤面して目を逸らしてしまう。仕方ないでしょ?そんな歯の浮くような気障な台詞を真正面からぶつけられて………。
    自分と彼との感情の落差が恨めしくなって、後ろから指先で、彼の背中を小突く。
    「いたっ、いたっ、なんだよぉ。」
    「平気で恥ずかしいこと言える人への仕返しよ。」
    笑いながら、戯れる。

  • 22二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:02:29

    ウマ娘は、トレーナーとの絆の強さを、自らの力に変えることができるという逸話がある。
    正直、半信半疑だった。始めのうちはレースに出られるなら、誰でも良いとさえ思っていた。
    今だって、別にその話を丸ごと信じているわけではない。
    それでも、そんなことはどうでもよくて。
    私を信じて支えてくれる。真っ直ぐに私を見て、言葉をくれる。
    軽んじて手酷い裏切りをした私の、今、隣にいてくれる。
    そんな彼と出会えた奇跡だけを、幸せに噛み締めながら、夕暮れの街を歩いていた。

  • 23二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:02:53

    終わりです。御一読頂けましたら幸いです。

  • 24二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:06:10

    (伝わる人にだけ伝わってほしい謝罪文)

    前作の賛否両論のご感想、全て拝読致しました。
    こちらの配慮が足りないばかりに手厳しいご意見もあり、返信の内容を考慮しているうちにホスト規制に巻き込まれてしまい、そのまま落としてしまいました。
    この場を借りて、謝罪と、ご覧いただいた皆様への感謝を申し上げます。

    まさかユーミンネタが伝わるとは思いませんでした………。

  • 25二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:06:14

    着ぐるみ…あっ(察し)

  • 26二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:13:07

    >>25

    この世界線では、見覚えのないウマ娘の着ぐるみを着た人が、ある一部の人たちに度々目撃されるようです。


    "ヴィルシーナが子供じみた執着を持たず、それによる我を通そうとしたりしない"世界線では、ウルトラスーパーマスコットウマ娘とその着ぐるみを着た男として有名になっていることでしょう。

  • 27二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:13:55

    応援スレに推薦しておいた

  • 28二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:16:43

    >>27

    いつもありがとうございます。イラストスレも楽しんでいます。

  • 29二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:48:34

    >>1

    前スレの1です


    まさかSSを書く人が現れるとは……ありがてぇ……ありがてぇ……

    (スレタイを見た瞬間「正気か!?」と思ったのは内緒の秘密だ)

  • 30二次元好きの匿名さん24/05/17(金) 18:54:23

    >>29

    ありがとうございます。あなた様の投げてくださった概念で、楽しく書くことができました。

    24の理由で同じく保守することができず残念でした。

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