- 1二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 16:32:35
僕の担当ウマ娘の「ビコーペガサス」は、元気一杯の女の子だ。
ヒーローに憧れていて、休日は近所のヒーローショーに一緒に行ったり、キャロットマン展なんかにも足繁く通う特撮オタクでもある。所持するキャロットマングッズは数知れず、実家には部屋一個を占拠するほどの量を抱えているらしい。
最近の特撮ヒーローは、小物アイテムがメインの商材で、それありきのアイテムも多いから必然的にかさばる。いや、本当にマジで洒落にならないくらいには生活スペースを侵食される。
僕もビコーに影響されて、幼い頃ぶりにキャロットマンシリーズを見ているわけなのだが、これが案外面白くてすっかりハマってしまった。当時見ていたキャロットマンベータの大人用の高いベルトがちょうど、ネット通販で販売していたのでついつい衝動買いしてしまった。そのベルトは今、トレーナー室の神棚に飾ってある。
それと、最近の特撮番組はすごいね。僕の頃はCGの質も荒かったし、戦い方もステゴロで見ていて怖かったけど、今のやつはエフェクトいっぱいで派手で見ていてとても楽しい。毎週放送しているはずなのにCGも結構クォリティが高いのにも感心してしまった。
あのレベルの作品を子供とのうちから毎週見られるなんて、今の子供が羨ましいよ。
あぁ、ごめん、ついつい話がずれてしまった。えっと、それでどこまで話してたっけ?
あぁ、そうそうビコーがヒーローに憧れてるってとこだね。
彼女のヒーローへの憧れはまぁ、よそからみてもわかりやすいよね。勝負服にもヒーローの意匠を取り入れているのは、さすがだと思うよ。僕がビコーくらいの歳だったらもっとごちゃごちゃした感じになっちゃうだろうしね。
で、そんな彼女の夢は「G1レースで勝ちまくって、最強のヒーローウマ娘になること」なんだ。担当トレーナーになったその日のうちに教えてもらってね、あんまりにもキラキラした目で言うものだから、僕も張り切っちゃってね、新人なりに先輩方から色々と教えてもらいながら毎日毎日、ビコーの指導に打ち込んで行ったよ。
まだ、G1では勝ててないけれど、まだ、ビコーも僕も闘志の炎は消えてやしない。いずれきっと勝てるようになるよう、全力闘魂でビコーと一緒に頑張っていくつもりさ。 - 2二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 16:32:54
っては言ったんだけど、ここだけの話、誰にもいえない悩みがあってね。
聞いてもらっていいかな?
そうか
じゃぁ言うよ。言っちゃうよ?
……えっとね、こんな事本当は言いたくないんだけど、……正直、ビコーがG1を取るのは無理だと思ってるんだ。
ビコーにG1を走る力がないって事じゃないよ?ただ、そのなんて言うか、きっと彼女は「惜しい」止まりで終わってしまうんじゃないかなって。
うん、それは、つまり一着は取れないだろうってことさ。もちろん入着するだけでもすごい事だよ?でも、人々の記憶に残るのは当然、勝ったウマ娘で、負けた方も印象に残るなんて稀有な例なんだ。
これはとっても残酷な事で、ビコーの目指す"ヒーロー"とはとっても相性が悪いんだ。ヒーローは誰かに認められて初めてなれるんだ。それをレースでやろうとするなら、それは勝つしかないんだ。勝って勝って勝つ事、それがレースの世界でヒーローになるための最低条件なんだ。
…彼女の努力を否定するわけじゃない。だってそうだろ?彼女のビコーの努力を誰よりも側で見てきたのは僕だ。でも、だからこそ無理だなって思うんだ。
僕の先輩で、一番お世話になってる人がいるんだけど、その人が言ってたんだ「強いウマ娘はオーラが見えるもんだ」って。たしかに、オグリキャップやサクラバクシンオーを見た時、圧倒されるようなオーラが見えたんだ。でも、ビコーにはそれがない。これから出てくるはずだなんて、希望的観測も出来るけど、それは彼女の将来を悪戯に貶めることにつながりかねないんだ。
どれだけ血の滲むような努力をしても、努力する天才には敵わないんだ。
………ごめんね、こんな話聞かせて。ずっとモヤモヤしてて、誰かに打ち明けたかったんだ。今日はありがとう。今度、ご飯奢るね。 - 3二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 16:33:10
あぁ、僕は最低だ。何が努力している天才には敵わないだ、そんな物言いまるでビコーが才能がないみたいな言い方じゃないか。そんなの担当トレーナーとして……
いや、そうだったな、確かにずっと前から心のどこかでは分かっていたんだ。ビコーには人並みの才能はあっても天才のような才能はないんだって。よくて善戦マンだろうって……
どこかでわかっていたからこそ、ビコーのことをずっと見ていたのかもしれない。あまりにも大きくて、残酷な結末が待っている夢を抱く少女のことを見捨てられなかったのかもしれない。もしくは何もできないくせに、むやみに首を突っ込んで悲劇のヒロイン気取りでもしたかったのかもしれない。
それに、最近は昔からの無理が祟って、頭の中で幻聴が鳴り止まない。ジリリリリジリリリリってまるで目覚まし時計みたいな音が脳みその中で反響して鳴り止まない。
まるで、難しくてクリアできないゲームを何回も結末まで走って、失敗して、何回もやり直してるみたいなそんな体の芯にくる徒労感というか、ずっとそんな感じだ。
なぁ、ビコー。僕は思うんだ。どんなに大きな夢でも、抱き続ければいずれ薄れて、最初の形がよくわからなくなってくるんじゃないかなって。何回も重ねて書いた青写真みたいな、そんな段段々わからなくなってくるような不思議な感じで、麻痺してしまうんじゃないかなって。
ビコー、今の僕は君のカタチがよく分からないんだ。水で滲んだ水彩絵具みたいにぼやけて顔もよくわからなくなってきてるんだ。
あぁ、今日も夜が来る。夜が来るといずれ朝が来る。繰り返していずれ終わりの冬が来る。
そうしてまた、いつもの朝が来てあの音が鳴るんだ
『ジリリリリリリリ!ジリリリリリリリ!』 - 4二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 16:33:26
ある日の夕暮れ、薄暗い部屋でソファーに腰掛けるこの部屋の主人「アグネスタキオン」は彼女のトレーナーが淹れてくれた紅茶で舌を濡らし、レポートに目を通していた。
レポートの内容は以前、トレセン学園の倉庫から発見され、タキオンの手から1人の男の元へ渡った「未知なる技術(オーバーテクノロジー)」の調査内容である。
それは機械仕掛けの目覚まし時計であり、これといってなんの変哲もない物だった。しかし、この時計にはある特性があった。
それは「持ち主が目的に失敗した時にある時間軸まで時間跳躍を行う」こと。この時間跳躍は世界の認識ごと書き換えているらしく、当の本人も前世界との記憶のコリジョンで意識が混濁しているようだ。
さて、これを一体どのように活用しようか。
連続的に使用しているあの男はもう、一番大事な担当の顔すらろくに見えてないだろう。
改善すべきはその中毒性、いや「未来は何度やっても変えられない」と言う認識を発生させない思考への介入か……何にしろ、彼女の興味をそそる物であるのは確かなようだ。
その後、タキオンは時計と同様の機能を持つ装置を作り出したがその場で破壊してしまったらしい。それにとあるトレーナーの自殺が関係しているというのはもっぱらの噂だ。 - 5二次元好きの匿名さん22/02/01(火) 16:33:54
ごめんなさい、スレ画が思ったよりも小さかったので上げ直しです。
すみません……