- 1124/05/18(土) 20:26:43
- 2124/05/18(土) 20:27:07
「──っありがとう!」
言い切るのが早いか、ごうっと、押しつぶされるような賞賛。
鳴り響く喝采、止まない拍手。手は震えてるし、快楽物質と熱気で頭はおかしくなりそう。
そう、熱い。頭はがんがん鳴って、限界を知らせている。正直なところ、体調は最悪だった。そりゃあもう、吐きそうなくらい。よく頑張った、よね。
後夜祭は、外のステージとはまた違った音がした。それはよく反響する怒号に似た高揚だったり、曲が始まる前の一瞬、ふいに訪れる静寂だったり。
見上げても青い空が見えないのは、悪く言えば手狭で、良く言うなら、それは誰にも穢されることのない、領域の可視化だった。
この暗い会場で、光が私達だけを照らしていると思うと、情緒も何もない白い照明も、太陽なんかよりずっといい。 - 3124/05/18(土) 20:27:40
まだ歓声は止むことがない。こんな喧騒の中、ここを後にできるなんて、なんて贅沢なんだろう。
私はどこかゆらゆらしたまんま、最期の言葉をマイクに残す。
「これにて、私達『SUGER RUSH』の演奏は、終りょ──」 - 4124/05/18(土) 20:28:00
残そうと、したのだけれど。
ターン── - 5124/05/18(土) 20:28:38
それは、大きな会場の端まで通る、澄んだ音。
自然、客席は静まり返る。スピーカーから飛び出す、ジーっというノイズだけが、この場を支配する。
観客は皆そっちを向いて、アイリも、ヨシミも、そっちを向いて、
勿論私もドラムを、
彼女を見た。
彼女は──
ナツは、上を向いていた。 - 6124/05/18(土) 20:29:03
何か、熱に浮かされたように。
というより、浮いていたいと願うかのように。
ターン──
ターン──
タムの音が、聞こえる。
一度じゃなく、二度、三度。
長ーく、この広い会場に響き渡る音は、間延びしているというには、あまりに鋭角で、
惰性というには、あまりに衝動的だった。 - 7124/05/18(土) 20:29:32
ターン──
四度の後、彼女は目を閉じる。
薄く目を開けて、また閉じて、
そして、私を見て、開く。
その目は、まさに眼前に『ロック』と『ロマン』を映し出していて、
私のやることは、一つだけだった。
仕方ないよね。 - 8124/05/18(土) 20:30:06
「──『これ』で、最期の曲です」
あれも、これも、全部。
熱のせい、だよ。
だって私、おかしくなっちゃってる。
「ドラムス、ナツ・ユトリ!!」 - 9124/05/18(土) 20:30:30
轟音。
ズダンって、腹にくるような音に続いて、暴力的な、跳ねるようなドラム。
エイトビートを刻むのに必死だった彼女は、真面目な、やっぱり必死な顔で、でも私には手元が見えないくらいの速さで、縦横無尽に叩きまくる。LからR、RからL。右へ左へ行ったりきたり。
その目は多分、狂っていたと思う。
キメに向けて、その連打もだんだん、遅くなる、遅くなる。
そしてもう一度、鉛を打ち込まれたような音があって、
狂気的な彼女の顔と、
瞬間、記憶が蘇る。 - 10124/05/18(土) 20:31:10
それは、ぐいーっとサイダーを飲み干した、河川敷の風景だったり、
「半袖は涼しいね」って言った、夕暮れ時6時半の残像だったり。
それは──
それは、チョコミントアイスを食べながら笑う、
日常に生きる少女、だったり。
──いや、あれはいつかの、
妄想だったのかもしれない。 - 11124/05/18(土) 20:31:39
四弦が伝える振動で、私は目を開ける。
立っているのも精一杯。
頭の中はぐちゃぐちゃ。
それでも、
別に合わせた訳じゃないけれど、
私達は叫ぶ。
『1.2.3.4!!!』 - 12124/05/18(土) 20:32:25
ヨシミは、ニヤリと笑って、ギターを蹴り上げる。掲げたそれは、アンプを通す前から音がする。
嬉しさとか、興奮とか、劣等感とか、甘さとか。青春の全てが混ざった、音がする。
突き刺すようなサウンドに、彼女は笑いかけている。
アイリは、その細い指を、白い鍵盤に叩きつける。
放課後スイーツ部としての彼女と、一人の少女としての彼女。みんなと、自分を、シンセサイズして、それを鍵盤に、叩く。
汗を流しながら、流したままに、『今』を逃さないための演奏をする。
ナツは、なんだか、嬉しそう。
私も、嬉しい。 - 13124/05/18(土) 20:32:47
ロックとは何か。
私が思うに、
それは、今この場所。
何もかもを圧縮して、一つの言葉にするなら、
それは一つの『焦燥』。 - 14124/05/18(土) 20:33:35
私は歌う。
多分、外は夕暮れ。私達は、夕暮れ族。
青い季節を感じる私は、ナツが言ってたことを、ちょっと思い出したりしていた。
最前列で、口をぱかーって開けてるあの娘。
あの娘の名前を、私は知らない。
後ろの方で、大きく跳んでるあの娘。
あの娘の顔を、私は知らない。
二階席で、泣きながら、絶叫しているあの娘。
あの娘の嘘を、私は知らない。
──私の後ろにいる、一週間前、行方をくらましたあの娘。
あの娘の本当を、私は知らない。 - 15124/05/18(土) 20:34:21
ああ、そんな制服の少女達。
青春は、軋轢の季節だろう。
私達は、それぞれ違う存在だから、
見えないものもあるだろう。
きりきり擦りあって、鋭く尖った切っ先で、誰かを傷つけたり、救ったりする。
それでも、私達は笑い合う。
この場だけは、一つの音で通じあう。
だって、私達には、『今』がある。
私達は、シュガーラッシュは、多分二度と、音を奏でることはない。
この最高の風景も、いつしか、ただ『青いだけの記憶』になっていく。
それでいい。 - 16124/05/18(土) 20:34:51
想い出は私達の頭の中に、中だけにある。
不安や焦燥があるなら、そのまま行け。
後悔や懐古があるなら、そんなものは全部──
「捨てちまえ!!」 - 17124/05/18(土) 20:35:29
轟音と共に、少女達は、叫ぶ。
或いは、思いを楽器に託したりする。
センチメンタルと衝動をまぜこぜにして、更に加速していく。
終わりは近い。
加速していく。焦燥は、終わりを見据えながら、それを置き去りにすることもなく、ただそこに、全速力で向かっている。
青春という、無限に等しい時間を、6分ちょっとに閉じ込めて。 - 18124/05/18(土) 20:35:50
「御喧騒、ありがと」
- 19124/05/18(土) 20:36:10
残響と、歓声と、耳鳴りと一緒に、
私達は、気づいたら、夏だった。 - 20124/05/18(土) 20:37:35
完結です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
バンドイベを読んだあと、青春ってなんだろうと思い立ち、筆をとりました。ライブ中の混濁した感情を、本編で書いて欲しかった……!
タイトルはナンバーガールというバンドの同名の曲からです。ナンバーガールとブルアカは親和性大分あると思うんですが……いかんせん知名度が……
スレの残りは自由にお使いください! - 21二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 20:39:47
ここで読むのが勿体無いほど綺麗なSSだった
- 22二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 20:48:38
乙
透き通ってた - 23124/05/18(土) 20:55:38
- 24二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 21:19:32
『ロック』でした、本当に
- 25二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 21:41:28
OMOIDE IN MY HEAD、本当に大好きな曲
ライブの時の、ぶっ倒れそうなくらい前のめりに突っ走って弾けて止まれなくなっていく感じも、SCHOOL GIRL BYE BYEの、半透明で切なくて若くてなにか捨てたいものを捨てきれなくて、でもそれを愛しているような音もぜんぶ好きなのよ
それが、透明な世界の制服の都会の野良猫の少女たちの歌に重なって、より鋭くなって胸に突き刺さった気がしました
この感覚がたぶん世に言う「OMOIDE IN MY HEAD状態」 - 26二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 21:42:54
- 27124/05/18(土) 22:01:17
SASU-YOU!
- 28124/05/18(土) 22:03:14
前スレを見てくれた人とか、感想書いてくれる人がいると元気が出てきます
ありがとう! - 29二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:05:49
乙
良SSをありがとう