(SS注意)サトノクラウンのお腹が膨らんでしまう話

  • 1二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:48:29

    「クラウンさん、あの、この本、ありがとう……最後まで展開が読めなくて、面白かった、よ」
    「あら、もう読み終わったの? ふふっ、面白かったでしょ、シュヴァルの好みだと思ったのよ」
    「ちょっ、ちょっと刺激が強かったけど、すごく良かった、それで、出来ればなんだけど」
    「交俾我啦! 続きは明日持ってくるわ、それを読み終わったら、存分に語りましょう?」

     週が明けたばかりの、朝の教室。
     僕は、借りた本を返すべく、持ち主の下へと訪れていた。
     黒鹿毛のサイドポニー、ミルククラウンのような形の流星、右耳には王冠の髪飾り。
     サトノクラウン────クラウンさんは、期待に溢れたような目で笑みを浮かべた。

    「ああ、本はまだあなたが持ってて良いわ、その方が続きも楽しめると思うし」
    「そっ、そうなの? それじゃあ、もうしばらく借りているね」

     そうか、色々と読み返す必要があるかもしれないから。
     さすがクラウンさんは良く気が利くなあ、と思いながら、僕は差し出していた本を引っ込める。
     これは海外の推理小説で、クラウンさんは原本の方を呼んでいるそう。
     トリックもさることながら、単純に小説としても読み応えがあって、面白かった。
     ……ちょっと、その、過激なシーンが、濃厚な描写だったのが、気になったけども。
     クラウンさんは全く気にしていない当たり、大人だなあと思ってしまう。
     さて、目的が終わってしまった。
     すぐに自分の席へと戻るべきかもしれないが、もう少しお話をしたい気もする。
     けれど、何を話せば良いものかと思い悩んで、ふと僕はクラウンさんの姿を見やった。
     いつも通りの、大人びた雰囲気の、クラウンさん。

     けれど、何故だろうか────今日は何か、違和感があった。

     何かが、いつもとは違う気がする。
     妙に、身体のラインが歪んで見えるというか、どこか一部分が膨らんでいるというか。
     それは多分、僕も油断していると、たまにそうなってしまう部分。

  • 2二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:48:55

    「……お腹?」
    「あっ」
    「…………あっ!?」

     無神経な言葉が口から零れていることに気づき、慌てて口元を押さえる、
     しかし、時すでに遅し、クラウンさんは恥ずかしそうに頬を赤らめて、お腹を両手で隠した。
     やがて彼女は、はにかんだ笑みを浮かべて、口を開く。

    「哎呀……上手く隠したつもりだったけど、シュヴァルにはバレちゃったみたいね」
    「ごっ、ごめんなさい、そんなつもりは」
    「いいのよ、そもそも、私の注意不足が原因だもの」
    「……でも、珍しいね、クラウンさんが、そんな風になるだなんて」

     僕の中のクラウンさんは、体重管理などは、完璧にこなすイメージ。
     少しうっかりしてしまうところはあるけれど、こういう部分においては手抜かりはない印象だった。
     でも、クラウンさんでも食べ過ぎちゃうことがあるんだなと、勝手に親近感を覚えてしまう。
     彼女は照れたように頬を掻きながら、言葉を紡ぐ。

    「ちょっと、トレーナーと、やってしまったのよね」

     ────トレーナーと、ヤってしまった?

     突然、放り込まれた爆弾発言に、僕は思わず目と耳を疑ってしまう。
     いや、そんなはずはない、真面目なクラウンさんが、そんなことをするはずはない。
     全く、僕は何を考えているのだろう、きっと、あの小説を読んだ影響に違いない。
     心の動揺に見て見ぬ振りをしながら、僕は再び、彼女に問いかける。

  • 3二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:49:08

    「えっ、えっと、もしかして、最近トレーナーさんと何かしていたの?」

     するとクラウンさんは、くすりと笑ってから、ゆっくりと自身のお腹を撫で始めた。
     困ったようでありながら、どこか嬉しそうな、慈愛に満ちた表情で。
     
    「嗯、ここ最近の週末は、彼と夜を共にしていたわ」
    「えっ」

     その言葉に、僕の頭は真っ白になる。
     もしや、僕は今、とんでもない事態に直面しているのではないだろうか。

  • 4二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:49:44

    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:50:00

    「唔好意思、トレーナー、少し聞いても良いかしら?」

     レース場の控室。
     この日のメインレースの出走表にはサトノクラウン、私の名前が記されていた。
     出番こそは夕方頃だけれど、バ場状態や傾向などを見るため、朝から入っている。
     今は丁度お昼時、場内に食事処はあるものの、当日出走でそこを利用するウマ娘はまずいない。
     というわけで、私は事前に用意しておいたサンドイッチを食べていた。

    「……ん、どうかしたクラウン、今日の作戦の確認とか?」

     そして、私のトレーナーもまた、同じ場所で食事を摂っていた。
     彼は咀嚼していたものを飲み込むと、一旦箸を置いて、こちらに顔を向ける。
     私のレース直前だというのに、その表情にはあまり緊張の様子は見られない。
     それでこそ────私のパートナーだわ。
     事前にたくさん話し合って、たくさん研究をして、たくさん練習をしてきた。
     種も仕込みを十二分、油断も慢心も出来ないけれど、勝算と自信は付けてきている。
     ……だから、まあ、今聞きたいことは、そこではなくて。

    「いえ、それはまた後でさせてもらうわね、今、私が聞きたいのは、それよ」
    「……それって?」
    「あなたが、手に持っているもののこと」
    「…………これ?」

     きょとんとした表情を浮かべて、トレーナーは手に持っているものを軽く持ち上げる。
     それは少々こじんまりとした、小さなプラスチック製の容器。
     大多数の人は、その容器のことをこう呼ぶことだろう、お弁当箱、と。

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:50:15

    「啱嘅……最近になってから、急に、それで食べるようになったわよね?」

     以前ならば、購入したお弁当などや、サトノの方で準備したものを食べていた。
     しかし最近は、学園にいる時ですら、その手作り感溢れるお弁当を食べている。
     …………もしかして、作ってくれるような相手が、出来たとか?
     ありえない、話ではない。
     彼は健康的な成人男性であり、私から見ても魅力的な人物だ。
     その可能性も、なくはない、のだけれど。

     それは、なんだか、すごく、嫌だった。

     ずんと、心臓が重くなる。
     彼の答えをすぐに聞きたいような、耳を塞いでしまいたいような。
     複雑な思いが胸の中に渦巻いて、私は思わず、顔を伏せて────。

    「ああ、やっぱり、自分で作るのは楽しいからね」
    「……へ?」

     トレーナーは、微笑みを浮かべて、あっけらかんと答えた。
     その言葉に、私は一瞬、頭が真っ白になる。
     再起動にしばしの時間を費やして、私は絞り出すように声を出した。

    「等一等、貴方、料理出来たの?」
    「まあ、それなりには、言ってなかったっけ?」
    「……NO、聞いてないわ、それに、今までお弁当なんて作ってなかったじゃない」
    「ああ、君と契約したばかりの頃は右も左もわかなかったから、時間も余裕もなくて」
    「…………なるほど」
    「……なあ、クラウン、ちょっと顔赤くないか?」
    「………………赤くないもん」

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:50:32

     そう言って、心配そうにこちらを見つめるトレーナーから、私は顔を逸らした。
     ……何を、一人で勘違いして、落ち込んでいるのだろうか。
     出来ることなら、今すぐにでも布団の中に潜り込みたい気分だった。
     私は両手で熱くなった頬を隠しながら、ちらりと、彼の方へと視線を戻す。
     そうなってくると、気になってくるのは、お弁当の中身。
     彼のお弁当箱は、彩り豊かでバランスも良く、様々な美味しそうなおかずが、所狭しと並んでいた。
     トレーナーの手作り弁当、トレーナーの手料理。
     先ほどとは違う意味で、とても、興味を惹かれてしまう。

    「……クラウン、ちょっと、君の感想を聞かせてもらえないかな?」
    「……えっ?」
    「両親くらいにしか食べてもらう機会なくてさ、他の人の感想も気になるなあ、なんて」

     トレーナーの、少しだけ困ったようにも見える笑顔。
     それは、彼が嘘をついている時や、気を遣っている時に浮かべる表情であった。
     ……つまり、よほど私が物欲しそうにしていた、というわけね。
     改めて羞恥心に苛まれながらも、私の中の冷静な私は、これをチャンスだと見ていた。
     それに、彼からのせっかくの心遣い、無下にするというのも気が利かないというもの。

    「OK、そういうことだったらご相伴させていただきましょうか、期待させてもらうわよ?」
    「……お手柔らかにお願いします、じゃあ、はい、どうぞ」
    「…………」

     そう言って、トレーナーは箸で唐揚を一つ摘まんで、それを差し出して来た。
     きれいな瞳をこちらに向けて、食べて欲しいという想い以外を感じない表情で。
     私は数秒だけ悩み、小さくため息をついてから、おずおずと箸の先に食いついた。

  • 8二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:51:13

    「…………あむっ」

     まったく、トレーナーってば、そう思いながら唐揚を噛みしめ────。
     刹那、じゅわっと肉汁が溢れ出し、私は慌てて口元を手で押さえた。
     ……何? このとろけるようなジューシーさは?
     時間が経っているはずなのに、皮はパリっとしていて、身はふっくら柔らかい。
     鼻に抜けるは香ばしい風味、そして舌を満たすは呆れるほどの肉の旨味。
     それでいて、味付けは優しく、油っぽさやしつこさを感じない、まさしく逸品といえた。
     私はゆっくりと唐揚を堪能し、名残惜しく思いながらも、こくりと飲み込む。
     気が付けば、自然と口から感想が漏れていた。

    「……好好食呀」
    「おっ、君からそう言ってもらえると、自信になるよ」
    「…………貴方、もしかして前職はコックだったのかしら?」
    「いや、トレーナー学校からそのまま就職しているけど、というか君もそれは知っているでしょ」

     少しだけ呆れたように言うトレーナー。
     契約するにあたって、身辺調査は済ませており、経歴も当然把握している。
     だから、彼のことは誰よりも知っているつもりだったけれど、まさかこんな特技があるだなんて。
     もっと、もっと、食べたい、彼の味を、味わいたい。
     心の奥底から、あまりに正直過ぎる欲望が、じわじわと滲み出てしまう。
     ……いけない、こんなはしたないこと、サトノ家のウマ娘として口に出すことは出来ない。
     そう葛藤をしていると、トレーナーは何かを察したように、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

    「そんなに気に入ってくれたならさ、今度ご馳走するよ────祝勝会、でさ」
    「……あら、そんなことを言ってしまって良いのかしら?」
    「当然、俺はもう今日のレース結果を確信しているよ、君みたいに言うのならば」

     I'm confident! 私とトレーナーは、声を揃えてそう言うと、二人で笑い合う。
     ────その日のレースの結果は、三バ身差の快勝であった。

  • 9二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:51:27

    「わぁ……っ! 好犀利呀! 全部トレーナーが作ったのかしら!?」
    「ああ、初めて作るものもあるから、味はちょっと保証できないんだけど」

     そう言って、トレーナーは少し自信なさげに苦笑をしてみせる。
     レースを終えて数日後、祝勝会のため、私はトレーナー寮の、彼の部屋に招待された。
     うきうきとした気持ちの私を待ち受けていたのは、テーブルいっぱいの、煌びやかな料理の数々。
     先日食べた唐揚や、点心などの中華料理、食辣も取り揃えてくれている。
     思わず、ごくりと唾を飲み込んでしまうほどだ。
     尻尾が揺れ動いてしまうのを必死で押さえながら、私はトレーナーに声をかける。

    「トレーナー、早速頂いても良いかしら?」
    「もちろん、君のために作ったんだから」
    「ふふっ、多謝、トレーナー……それじゃあ、いただきます♪」

     そして、私は両手を合わせてから、箸を手に取った。
     そこからは、まさしく至高の時間だったと言っても良い。
     トレーナーが作ってくれた料理は、どれも素晴らしい出来栄えだった。
     食べるごとにお腹も心も満たされていくのに、食べるほどにもっと食べたいと思ってしまう。
     私はそこまで健啖家とは思っていなかったのだけど、自分に対する認識を改めた方が良いかもしれない。

  • 10二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:51:40

     ────それにしても、少し不思議だった。

     自分で言うのもどうかと思うが、私は比較的、舌が肥えている方だと思う。
     サトノの一員として、一流を知ることも、私の責務。
     故に、両親からいわゆる高級料理店に誘われることも多く、私自身、良く利用していた。
     そこで使われている食材に比べれば、今日の料理に使わている食材は、かなり安価なものだと思う。
     少しだけ見せてもらったキッチンの設備も、必要最低限といったところ。
     調味料だって、普通のスーパーで手に入るようなものが中心。
     トレーナーの料理の腕前がいかに優れているとしても、プロレベルということはないはず。
     なのになぜ、こんなにも美味しく感じられるのだろうか。

  • 11二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:51:54

     ────ちらりと、私は彼の顔を見やる。

     彼は、にこにことした表情で、私が食べる姿を見つめていた。
     その、きらきらと輝くような瞳には、私の姿しか、映っていなくて。

    「クラウン、口元についてるよ」
    「……あっ」

     気が付いたら、トレーナーは私に向けて、手を伸ばしていた。
     長い、少しゴツゴツとしてした指先で、私の口元にそっと触れ、汚れを拭ってくれた。
     ……やだ、恥ずかしい、こんな、子どもみたいに夢中で食べちゃって。
     思わず顔を伏せてしまいそうになる直前、彼は優しく微笑んで、言った。

    「君は、本当に美味しそうに食べてくれるね?」
    「……だって、美味しいんだもん」
    「そっか、それは頑張った甲斐があったよ」

     ああ、そっか。
     トレーナーの嬉しそうな顔を見て、私はようやく、一つの気づきを得た。
     何故、こんなにも美味しく感じるのか。
     それは、私が美味しそうに食べる姿を見て、彼が喜んでくれるから。
     彼は私に喜んで欲しいと心を尽くし、私は彼に喜んで欲しいから存分に堪能する。
     その二つの相乗効果が、私にこの料理を、より美味しく感じさせているのだろう。

  • 12二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:52:10

    「もし良かったらさ、また今度、食べてもらっても良いかな?」
    「……いいの?」
    「むしろ、こっちがお願いしたいくらいだよ、君のその顔が、もっと見たいから」
    「…………麻煩您了」

     ……そういうことを言うのは、反則だと思う。
     私はこくりと頷いて、顔の熱さを誤魔化すため、麻婆豆腐へと手を伸ばすのであった。

  • 13二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:52:32

    「ちょっと、トレーナーと、やってしまったのよね」

     私の言葉を聞いて、シュヴァルはぽかんとした表情を浮かべた。
     ……まあ、呆れるわよね、二人揃って、まともに体重管理も出来ていないだなんて。
     ふっくらとしてしまった自分のお腹を見やりながら、私は頬を掻いて苦笑を浮かべる。

     ────結論から言えば、私は今、太り気味になってしまった。

     トレーナーの作ってくれた料理を私が美味しく頂く。
     そして、そんな私を見たトレーナーは、更に気分良く腕を奮う。
     その二つの相乗効果、負のスパイラルを生み出し、その結果がこのぽっこりお腹であった。
     ……私としたことが情けない、でも美味しい料理をどんどん出してくる、トレーナーも悪いと思う。
     
    「えっ、えっと、もしかして、最近トレーナーさんと何かしていたの?」

     思考に耽っていると、シュヴァルが少し慌てた様子で、そう問いかけて来た。
     何が原因かといえば、祝勝会以降の定例行事と化していた、食事会。
     週末になると、私はトレーナーの部屋に行って、彼と一緒に夜御飯を食べている。
     それはディナーの名に相応しい、味と量を兼ね備えた、とても豪華なメニューであった。
     ……だから、太ったことは後悔しているけど、あの時間は後悔していないのよね。
     私は、複雑な想いでお腹を撫で回しながら、彼女の質問に答える。

    「嗯、ここ最近の週末は、彼と夜を共にしていたわ」
    「えっ」

     するとシュヴァルは、目を大きく見開いて、尻尾をピンと逆立てた。
     しばらくすると、顔が燃え上がるように真っ赤になり、それを隠すように帽子を深く被る。
     ……深く被り過ぎて、お面みたくなっているけれども。
     やがて彼女は帽子の影からぴょこんと覗き込むように、私へと視線を向けた。

  • 14二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:53:09

    「……あの、その、クラウンさんの、トレーナーさんは、どんな感じなの?」

     ────あら、もしかしてトレーナーの料理が気になるのかしら。
     シュヴァルの好きな肉まんはなかったけれど、点心料理はそれなりに作ってくれていた。
     ただ、男性の料理だからか、全体的にサイズがボリューミーである。
     春巻が妙に太かったり、焼売が妙に大きかったり。
     それはそれで美味しいのだけれど、ちょっと食べるのに苦労していた覚えがあった。
     ……小籠包なんて、なまじ肉汁がたっぷりだから、火傷しそうになったのよね。

    「そうねえ、男の人のものだから、やたら太くて、大きいのよね」
    「男の人のモノだから、太くて、大きい……!?」
    「真係、それに頬張ると、熱い汁が零れたりして、少し顎が疲れてしまうくらいよ」
    「熱い汁が、零れる……!?」
    「ああ、色々と言ってしまったけれど、とっても上手なのよ? どんどん求めてしまうくらい」
    「てっ、てくにしゃん……!?」

     ……いやまあ、間違ってはいないけれど、料理の腕前に対する褒め言葉として正しいのだろうか。
     先ほどから、私が料理の感想を口にするごとに、シュヴァルの顔が真っ赤になっていくような気がする。
     そして、完全に顔を帽子に突っ込む形になった彼女は、くぐもった声で、再び問いかけて来た。

  • 15二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:53:30

    「…………そそそ、それで、クッ、クラウンさんは、大丈夫、なの? その、今後の、人生のこと、とか、色々と」

     ああ、やっぱり、シュヴァルは優しい子だ。
     ライバルでもある私の調子を、とても心配してくれている。
     いや、ちょっと太り過ぎただけで心配し過ぎな気もするけれど、その気持ちは素直に嬉しい。
     私も、これ以上の無用な心配をかけないため、はっきりと伝えておかなければいけない。

    「ふふっ、無問題、よ」

     今日の私の鞄の中には、小さなお弁当箱が入っている。
     それは、トレーナーが作ってくれた、手作り弁当。
     今回の件を、とても深く反省したトレーナー。
     そのため、私の太り気味が解消するまで、彼が全ての食事管理をしてくれることになった。
     持たされたお弁当は、栄養バランスとカロリーを完璧に計算した、彼渾身のお弁当である。
     正直、私のせいでもあるから、あまり気にして欲しくないのだけれど。
     ……お弁当が欲しくて、つい、彼に甘えてしまったのよね。
     うん、ここは彼の実力を説明する意味でも、はっきりと宣言しておくべきだろう。

    「トレーナーが────ちゃんと、責任を取ってくれるからっ!」

     シュヴァルの身体が、雷に打たれたかのように、ビクンと大きく震えた。
     そんな彼女の手からは、するりと帽子が滑り落ちて、そのまま床へ落ちてしまう。
     けれど、彼女はそんなことまるで気にせず、真っ赤な顔のまま、身を大きく乗り出した。
     そして、私の両手をぎゅっと掴んで、真剣な表情で、叫ぶように言う。

  • 16二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:53:45

    「クッ、クラウンさんっ! ぼぼっ、僕、応援してるからっ!」
    「……えっ、あっ、うん、それは、ありがとう?」
    「どっ、どうか、お幸せに……ああ、あと、おっ、おめでとうございます……っ! それじゃあっ!」

     ブンブンと手を上下に動かしながら、シュヴァルは、謎の祝福の言葉を告げる。
     そして、手を放し、落ちた帽子を回収して、それを被らないままぴゅーっと駆け出してしまう。
     その場には、不思議そうな顔でこちらを窺うクラスメートと、完全に置いてかれた私が残った。

    「……どうしたのかしら?」

     というか、どこに行くのかしら、あなたのクラスはここなのだけれど。
     私は一人、首を傾げてしまう。
     応援はまだしも、おめでとう、とは何のことだろうか。
     先日のレースでの勝利のお祝い? いや、それは次の日には聞いていたから違うと思う。
     それにお幸せにって、そんな、結婚をするわけじゃあるまいし────。

     刹那、私の頭の中に、電流が駆け巡った。
     膨らんだお腹、夜を共にする、テクニシャン、人生、責任、おめでとう。
     バラバラだった全ての要素が、ジクソーパズルを完成させるように、一つになっていく。
     それはさながら、推理小説の終盤を思わせるような感覚であった。
     私は、すっと、無言で立ち上がる。
     そして、大きく息を吸った。

  • 17二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:54:02

    「待ちなさいシュヴァルッ! あなたはとんでもない勘違いをしているわっ!」

     私は、短距離を駆けるような勢いで、走りだした。
     なお、太り気味だったせいでスピードが出せなかったため、なかなかシュヴァルに追いつけず、途中でキタサンやダイヤを巻き込む形となり、更なる大騒動となってしまうのだけれどそれはまた別の話────というより、もう思い出したくもない。

  • 18二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 22:55:05

    お わ り
    とあるスレ用に書いたSSですが主題が完全にズレてしまったのこんな感じで

  • 19二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:06:35

    ボテ腹クラウン&むっつりシュヴァち好き

  • 20二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:15:27

    クラちゃん可愛い
    シュヴァち面白可愛い
    クラトレカッコイイ

  • 21二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:15:32

    面白かった
    中学生にこの勘違いは危険だな…

  • 22二次元好きの匿名さん24/05/18(土) 23:28:07

    料理まで上手なクラトレ、どれだけクラウンを魅了すれば気が済むんだ…
    ちゃっかりお弁当を作って貰うクラちゃんもしたたかで良い…ご馳走様でした
    それはそれとして大事になる前にシュヴァちの誤解は解いてもろて…

  • 23二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 00:50:38

    良き・・・

  • 24124/05/19(日) 06:46:28

    >>19

    太り気味クラウンと年相応の情緒があるシュヴァルは万病に効く

    アニメ三期組は割とアホみたいな騒動を起こしてそうな気がします

    >>20

    三者三様の良さが出せていれば良いなと思ってます

    クラウンのトレーナーらしさを出すのはなかなか難しいですが

    >>21

    あっと言う間にクラスの噂になっているような気がします

    女子校だもんな・・・

    >>22

    誤解は走り回っている内に太り気味のバステが解けるはずだから・・・

    二人に関してはwin-winで話が完結しているんですよね

    >>23

    クラちゃんいいよね・・・

  • 25二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 14:04:14
  • 26124/05/19(日) 18:49:33

    >>25

    そちらですね

    こっちは太る過程の話になってしまったのでスレの主題には合わないなと

  • 27二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 19:08:04

    あっ好き♡
    さぞ刺激的な夜を過ごしたんだろうね…

  • 28二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 19:14:40

    >>27

    麻辣だから多少はね?

  • 29124/05/20(月) 06:20:32

    >>27

    シュヴァちの誤解は危険な領域へと突入する

  • 30二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 10:06:01

    ヴィブロス経由で一気に広まりそうな予感

  • 31124/05/20(月) 19:30:08

    >>30

    多分キタサンが一番危険だと思います

  • 32二次元好きの匿名さん24/05/20(月) 21:11:44

    >>31

    え…

  • 33124/05/20(月) 22:23:46

    >>32

    ヴィブロスは当事者に突撃しそうだけど他人には漏らさない印象

    キタサンは隠し事をしようとするとどんどんボロが出そうな印象って感じですね

  • 34二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 02:35:11

    キタちゃんから「学園内のうわさ話に詳しい」テイオーに伝わったらやばいな

  • 35二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 02:44:19

    ベタな展開だけどこういうのはなんぼあっても良いですからね

  • 36124/05/21(火) 06:49:22

    >>34

    根も葉もない噂がどんどん広がっていく

    そういう関係になっても違和感がないくらい普段から仲が良いんやろな・・・

    >>35

    わかりやすいアンジャッシュ展開は万病に効く

    ベタな展開はなんやかんやで書いてて楽しいですね

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 08:10:46

    親類のクラウンがトレーナーとおめでたになったと聞き「学生とトレーナー間の恋愛は成立しない」というジンクスを先に破られて「ですので!学生とトレーナー間で結婚は出来ないというジンクスを破りましょう!」と息巻く某サトノ…

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 16:16:19

    >>37

    誤解がきっかけで取り返しがつかないことになってしまう

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/21(火) 16:25:54

    また(クラちゃんのお腹や話を)信じること(彼女の妊娠を)疑うこと(シュヴァちの)ジレンマはキリがない…彷徨い続ける

  • 40124/05/21(火) 22:04:30

    >>37

    結果的に二重破り出来るからお得ですね・・・

    お得かなこれ

    >>39

    僕らはどこに行くんだろうなあ……

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 03:50:33

    >>37

    ウマ娘世界の結婚可能年齢がどうなのかにもよるな

    16から18に引き上げられてなかったらまずい

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 10:06:18

    ウマ娘と人間女性では結婚可能年齢が分かれてるかも

  • 43二次元好きの匿名さん24/05/22(水) 22:05:57

    >>19

    シュヴァルちゃんがムッツリなんじゃなくて、

    クラちゃんがそのまま黙っていたらシュヴァルちゃんは「食べ過ぎてしまったんだな」で平和に終了しただろうから、誤解招く言い方をしてしまったクラちゃんが10:0で悪いと思うんだ。

    クラちゃんにはホント申し訳ないが…

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 08:05:52

    時々致命的なミスをするのはクラちゃんみがある
    発注ミスとか

  • 45二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 16:28:46

    ちょっとした発言が大事になるの面白い

  • 46二次元好きの匿名さん24/05/23(木) 18:43:58

    >>43

    なんか草

  • 47124/05/24(金) 06:10:45

    >>44

    うっかりミスするクラちゃんいいよね……

    まあ個人的に発注ミスはあまり他人事ではないのですが

    >>45

    ちょっとした発言から勘違いが加速していく展開はいいですね

    定番な展開ですが書いてて楽しいです

  • 48二次元好きの匿名さん24/05/24(金) 18:12:56

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