【幻覚注意】「ミカせんぱ〜い！　おはようございま〜す！」

1二次元好きの匿名さん24/05/19(日) 22:20:03

　遠くから聞こえる、底抜けに明るい声。ちょっと前、ほんの2ヶ月くらい前に起こした気まぐれで勘違いしちゃったおバカな子が、また懲りずにのこのこやってきたみたいだ。
　今日は休日で、朝から河川敷でゴミ拾いの日。自分でそう決めた。課せられた300時間ってノルマ以外は基本自由だから、その日の気分で適当にやっている。場所も時間も裁量も、心持ち一つで大抵は決めさせてくれるから。ナギちゃんとセイアちゃん以外に沙汰が下った後の聖園ミカを必要とする人なんていやしないから、独り気楽に作業できた……できてたのに。
　──ほら、君が来ちゃったせいでぜーんぶ台無し。私を指差して嗤ってた子が、つまんなそうな顔をして帰っていく。これから起こる出来事が好みの肴にならないと、君が私を傷付けないことを知っているからだ。

「先生にここでボランティアしてるって聞いて、飲み物買ってきたんです！　今からそっちに持って行きますね〜！」

　言うや否や、こちらに向かって橋の上からあの子が走り出す。自販機で買ったであろうスポーツドリンク、持参したらしいタオルを振り回し、大手を振りながら徐々にこちらへ近づいてくる。
　とにかく活発的な子。私以上に人の話を聞かなくて、私みたいな作り笑いをしない子で、何回冷たくあしらっても笑顔で受け流して、私を「好き」だなんだと公言して憚らない問題児。ゲヘナのくせに、ツノ付きのくせに。私なんかに纏わりつくから、いろんなトコで、根も葉もない陰口だってたくさん叩かれてるはずなのに。
　あなたの笑顔には、言の葉には、びっくりするほど裏がない。今までくれた「好き」が偽りじゃないって知っちゃったせいで、今も私の心はあなたを拒みきれずにいる。

　適当に見繕った安物のネックストラップに吊られた、オレンジ色のデジタルカメラがトレードマークの女の子。私が気の迷いで守ったそれを後生大事に、くしゃくしゃの笑みを浮かべて持っていたあなたが──万魔殿書記の元宮チアキが

「ミーカせーんぱ〜い！」

　私の日常に彩りと、溢れんばかりの喧騒を今日も運んできた。