- 1二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:41:27
「今度こそ、今度こそ、今度こそ末脚炸裂!」
皐月賞、NHKマイルカップともに惜敗が続いたタニノギムレットは、過酷なローテーションを乗り越えついに日本ダービーで勝利を収めた。
日本中が熱狂し勝利の美酒に酔いしれたその夜、彼女は火照った体を冷ますように夜の街を見下ろしていた。
「おや、こんなところで出会うとは奇遇だねぇ。」
特徴的な喋り声にギムレットが振り返ると、そこにはいつもの白衣ではなくジャージ姿のアグネスタキオンが立っていた。服装を見るにレース復帰に向けたトレーニング中のようだ。
「今日のレースは私も見させてもらったよ。君のおかげでいいデータが取れた。」
「フッ、褒め言葉として受け取っておこう、知恵者にして探求者(アグネスタキオン)。」
普段はウオッカとダイワスカーレットについて言い争う2人だが、今日ばかりは穏やかな空気が流れている。
しかし、ふとタキオンがギムレットの左足に目を向けたことによって穏やかな時間は終わりを迎えた。 - 2二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:42:09
貴重なMCローテのサンプルとしてギムレットについて研究していたタキオンは、ギムレットの左足に感じる僅かな違和感からひとつの答えを導き出した。
「君、分かっていてそのローテを組んだのかい?」
ギムレットは一瞬ハッとした顔をしてすぐに笑をたたえて答えた。
「やはりお前には見抜かれるか。─ああ、そうだ。俺の脚に宿る可能性の全てを燃やし、”刹那の眩い輝き”(ギムレット)を作り上げる。それこそがワタシの美学だ。”後”のことを考えていては到底成し遂げることなどできないだろう。」
「…これからどうするつもりだい?」
「そうだな…落葉とともに輝かしき舞台から退き、陰の座に身を置くつもりだ。」
その答えを聞いて、タキオンの脳裏にはあの時掴みかかってきた少しばかり血の気の多すぎる同期の姿が浮かんだ。彼女にはもうレースには出ないと言った私の姿がどう見えていたんだろうか。 - 3二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:42:50
「君は本当にそれでいいのかい?」
タキオンの問いにギムレットは迷いのない目で答えた。
「無論だ。ワタシは成すべきことを成し、その代償を支払った。そこに後悔はない。それに─」
先程までこちらを向いていたギムレットは街に視線を向けると慈しむように見下ろして続ける。
「ワタシの輝きによってもたらされた狂乱により、”我が宿敵”(アナンケー)は不変の試練となり”我が巡りし運命”は新たなる混沌(ノヴァ・エラ)となった。俺はそれで十分だ。」
「俺はワタシの記憶と共に”次”の時代に進む者たちをこの夜の闇から眺め、喜ばしき退屈(インタールード)に浸ろうではないか。」 - 4二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:43:31
満足気に答えるギムレットに、タキオンは昔の自分を重ねて思わず口をはさんでしまった。
「ふぅン、完全に満足しているといったところか。研究のお礼だ、そんな君に少しばかり助言をしてあげよう!」
一転して真面目な表情でタキオンは話す。
「私たちウマ娘はどんなに理性で着飾っても結局のところ、走りたい、勝ちたいという本能に抗うことはできない。」
「何が言いたい。」
ギムレットが怪訝な目でタキオンを見つめると、タキオンは見下ろした街の光に焦がれるかのように目を細めて続けた。
「ここから見る光はそこまで優しいものでは無いということさ。」
そう言い残すとタキオンは返事も聞かないまま去っていった。
夜は更け暗くなってゆく空と対照的に、街は煌々と輝いていた。 - 5二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 00:45:07
SS書くのは初めてなので色々おかしいのは許してください。この2人ってちょっと似てるなと映画見て思ったので書きました。
初めてのSSでタニノギムレットを書くのは無理があった…