マコト「キキキッ。暁のホルス、か……。随分と懐かしい名だな」

  • 1二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:32:07

    万魔殿。それはゲヘナ学園の生徒会において最高峰の権力を持つ組織。
    議長の羽沼マコトは類まれなるカリスマ性を持ち、いずれキヴォトス全土を支配するに相応しい器を持つと言われている。
    今日もまた、万魔殿の執務室にてその俊英な才覚を余すことなく奮いながら執務に励む姿があった――

    「……また随分と張り切ってますね、これ」
    「キキキッ、我が伝記の書き出しには物足りないぐらいだが、畏敬も過ぎれば毒となるだろう? だからこそ最初は小出しで充分なのだ」

    我が伝記が物足りなかったのか、溜め息を漏らすイロハに私は語る。このマコト様の偉業を語るには順序というものがあるということを。

    「そう、これは第一歩に過ぎないのだ、いずれキヴォトス全土を支配する名君として我が万魔殿が台頭する第一歩にな!」
    「キヴォトスの支配って、あの連邦生徒会長の座を取るとか、そういうことですか?」
    「連邦生徒会長の座? クク、クククッ、キキ! また随分と面白い冗談を言うようになったではないかイロハ」
    「はぁ……」
    「確かに連邦生徒会長は強敵だった。それは認めよう。だが、どうやらその重さに耐えかねて失踪あるいは何かがあったようではないか!」
    「……何か、とは?」

    ほぅ、思わぬところに食いつくのだな。何か……何かか……。
    しばし思考を巡らせ……「ああ、なるほど」とひとつだけ思い当たることがあった。

    「分からないのかイロハ?」
    「ま、まさか分かるんですか……!?」

    だから鼻を鳴らし答えてやる。このマコト様が導き出した真実を!

  • 2二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:35:10

    ?!

  • 3二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:35:26

    カテゴリ間違いで立て直した。
    指摘くれた人に感謝――!

  • 4二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:39:03

    「大方、腹でも壊したのだろう! それもとんでもない壊し方だ!」

    まさに真理! 対するイロハの顔はポカンとした顔で一瞬膠着し、そしてなるほどと言わんばかりに息を吐いた。

    「マコト先輩に聞いた私がバ…………いえ、その可能性も否定は出来ませんね」
    「キキキッ、……ところでイロハ。例の件はどうなっている?」
    「例の件? あぁ……シャーレに赴任した先生のことでしたか」

    こくりと頷く。
    というのも数日前のことか。失踪した連邦生徒会長に代わり、超法規的処置が認可された連邦捜査部シャーレが発足されたという話がキヴォトス全土に流れていた。そのシャーレにて全ての権力を行使できる存在がキヴォトスの外から来た"先生"なのだという。

    キヴォトス内であればこそ我らがゲヘナの有する情報局で収集できるのだが、キヴォトス外ともなれば情報の裏取りはなかなかに難しい。それ故に手の届く範囲にスパイを送り込んでいた。その成果はイロハに上がってくるはずなのだが、なかなかに難航しているのか、今に至ってまで一切情報を掴めていなかったのが現状である。

    そう思い尋ねると、イロハの表情が僅かに曇った。
    やはり芳しくないのか……。そんな懸念をしたとき、イロハは口を開いた。

    「そういえば先日、風紀委員が先生率いるアビドス高校と交戦したみたいです」
    「……なに? あの風紀委員長が、学区外で?」
    「いえ、正確には委員長以外の風紀委員です。委員長とは独断で動いていたようで、何でも学区外で暴れていたゲヘナ生徒を捕まえるためだと」

    ……ほぅ? 風紀委員長はともかく風紀委員が勝手に、独断で、学区外の生徒に攻撃を仕掛けた、と。
    クク……キキキキキッ! まさにスキャンダルの到来!!

  • 5二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:41:48

    「それで、一体どこの生徒と交戦したのだ風紀委員は!?」

    身を乗り出さんばかりに問いかけると、イロハはいつものように気だるげな目でタブレットを操作する。
    山海経か? ミレニアムか? はたまた"あの"トリニティか!?
    いずれにしてもこの責任追及を以て風紀委員会の地位は滑落当然! あの空崎ヒナに一矢報いるチャンスであるのは間違いない!

    「あー、はい。アビドスですね。アビドス高等学校の生徒と交戦したみたいです」
    「……アビドス? あの砂漠地帯のアビドスか?」

    「そうですが……」と答えるイロハだったが、そんなことすらどうでもいいぐらいに私の胸中はざわめいていた。

    「……それで、空崎ヒナは銃を抜いたのか?」

    ぽつりと、言葉が漏れた。
    既に私の瞳は目の前にいるイロハのことなど見えてはいなかった。

    「い、いえ、そのまま風紀委員を引き連れて撤退させたようですけど……」
    「何か言っていなかったか?」
    「何か、ですか……? そういえば……」

    思い出すように視線を宙へ浮かすイロハ。
    その後に聞こえたのは、私の中の答えと一致するものだった。

    「"暁のホルス"に手を出すな、と」

  • 6二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:44:59

    ……"暁のホルス"、か。

    「ククク……キキ、キキキッ!」
    「ま、マコト先輩……?」

    普段見ないような表情を浮かべながら私を見るイロハを横目に、私は言う。

    「イロハよ」
    「はい……」
    「この件については忘れろ」
    「……はい?」

    困惑するような表情を浮かべているが、こればかりは言うまでもない。
    いや、理由を言ったところで分かるまい。

    「許せないと思うが、この件については風紀委員会の単独行動も目を瞑る、ということだ」
    「え、本当ですか? 分かりました」
    「これだけは心苦しいかもし……ん?」

    気が付けば執務室にただ一人。イロハも我らが覇道の足掛かりとなれずさぞ悔しかっただろうに、と、若干ながら引っかかる部分については目を逸らしつつも納得した。

    それにしても……。

    「キキキッ。暁のホルス、か……。随分と懐かしい名だな」

    目を閉じてふと思い返すのは二年前。私と空崎ヒナがゲヘナでの推薦を受けて情報局へ入った頃の記憶だった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:53:08

    ゲヘナ学園において、選りすぐりのエリートのみが入れるのがこの情報局であった。
    当時、類まれなる成績にて推薦を得られた一年生が私と空崎ヒナ、この両名であったのだ。

    ともなれば、この混沌としたゲヘナの統治者たる器となるのはどちらか。私はその好敵手たる人物を目の前にして高揚していたのだ。

    「羽沼マコトだ。果たしてどちらがトップの座に相応しいか、直に証明してやろう!」
    「……え? いいよ私は」

    差し出した手は掴まれることなく宙を漂う。
    「な、何故だ!?」と問いかけた私に対して、ヤツはなんて言ったと思う?

    「そういうの、面倒だから」

    ―面倒だから。

    ――面倒だから……。

    ―――面倒……。

    そっ、

    「空崎ヒナぁあ!!」

    そうして、私たちの戦いは始まったのである。

  • 8二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:53:18

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  • 9二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:55:43

    天才、という言葉を諳んじるときの軽やかさを私は知らない。
    如何なる努力、その全てを以てしても追いつけぬ極北の次元。
    そう、私は全てにおいて二番手であった。

    必死になって泥に塗れながら積み上げた成果を、空崎ヒナは汗ひとつかかずに軽々と越えていく。
    如何なる不利さえも、あの"超人"には不利にすらならない。
    正攻法では勝ち目もなく、策略も謀略も圧倒的才覚で捻じ伏せる暴力の化身。

    私は所詮井の中の蛙でしかなかったのだ。
    本物にはどうあがいても勝てない。何故なら相手は本物の天才で、私は天才ではなかったから。

    ならば出来ることはひとつだけ。
    数だ。数的優位で勝ちを取る。どれだけ天才であろうとも個人であるのはただそれだけで弱点で、敗北を知らないのもまた弱みとなる。

    そうして成果を得るべく広げたのが情報網だった。
    ゲヘナに縛られず、それこそキヴォトスの各地に協力者を集めて作った私だけのネットワーク。
    その日、末端たる情報屋から聞いた言葉が、今にして思えば私の転機だったのかも知れない。

    「"暁のホルス"を知っていますか?」

  • 10二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:56:32

    SSスレですかい 期待

  • 11二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 15:58:54

    マコトのSSはいくつあってもいい

  • 12二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:01:54

    「"暁のホルス"?」
    「ええ、夜更けから夜明けまで暴れまわっている正体不明の個人ですよ。我々も身内をあらかた掃討されまして……」
    「掃討だと? マーケットガードの管轄内だろう?」

    各校自治の間隙を縫うように作られたブラックマーケットには、マーケットガードと呼ばれる傭兵団が存在する。
    自治区の保護を受けられないからこその精鋭揃いと聞いていたが、少なくとも個人戦力に圧し潰されるような戦力ではないはずだ。

    「ええ、マーケッドガードですら対処不能。雇った私兵もひとり残さず倒されまして……。我々もすぐここから撤退するつもりです」
    「…………そうか。ともかく、情報料は支払わくてはな」
    「こ、こんなに……!」

    私は既定のクレジットを超える額テーブルに乗せた。

    「"暁のホルス"とか言ったな。ああ、その情報は私にとって有益だった。だから追加だ」

    そのうえで、私は更に追加のクレジットをテーブルに乗せる。
    全ては空崎ヒナを超えるため。私の持つ全てをBETするため。

    「"暁のホルス"について情報を集めるのだ。なに、夜逃げの持ち金は多い方が良いだろう?」

    そして私は踏み出した。同時に私は思い知る。後悔先に立たずという、そんな簡単な言葉を。

  • 13二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:03:22

    簡易定例を済ませて再び各地で情報を集めて一日。
    先日の情報屋は「一日で集められるだけ」と言って潜っており、今夜再び情報共有の場を設けることにしてある。

    そして時刻が巡る。私は約束のシラトリ区へ向かい、そして――

    ガシャン――!!

    硝子の割れる音。私はただただ見ていることしか出来なかった。
    空から落ちてきた情報屋が地面に叩きつけられて一度バウンドし、また地面へ叩きつけられるその現場を。

    「ど、どうした――!?」

    急いで駆け寄り抱きかかえると、情報屋は息も絶え絶えに言葉を吐いた。

    「あ、"暁のホルス"――! 彼女に関わってはいけません。彼女は、危険、すぎ――」

    「――――!!」

    情報屋はただ空を見ていた。
    釣られて私も上を見上げる。
    見れば、ビルとビルの間を跳ぶ人影の姿。
    月光に照らされて影に消えるその姿はまさしく、天空を支配する冥府の申し子であった。

  • 14二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:08:23

    「ふむ……今晩は無し、いや、場所が悪かったのか?」

    空崎ヒナを出し抜くための手柄を求めた私は今日も、"暁のホルス"の情報を得るためにD.U.シラトリ区の周辺で張り込んでいた。

    とはいえ、分かっている情報はそう多くない。
    曰く、深夜から夜明けまで非合法組織を相手に暴れまわっている個人。
    曰く、それはSRTの特殊任務である。
    曰く、曰く、曰く……。

    現時点で分かっていることはゲヘナとトリニティを線で結んだ北方に目撃情報は出ておらず、ワイルドハント芸術学院周辺でも発見されていないこと。
    それが活動範囲内で暴れているのであれば単純に同心円状での行動と思われるし、そう考えればヴァルキューレかアビドスか。
    しかしアビドスは風前の灯とも言える廃校間近の学校でもある。ならば――と向かった先がここ、D.U.シラトリ区だった。

    「特に異常は無いようだな」

    あらかじめ買収しておいたビルの屋上でスコープを眺めながら思わず呟く。
    もちろん周辺地区の協力者たちに「万が一」と付け加えた上で受信機材を仕込んでいるため、今晩の襲撃地域に対する私の推察が外れていても何かしらの音声は取れるはずだ。

    と、そのときだった。

  • 15二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:10:47

    『この顔に見覚えは?』

    スピーカーから流れる音声。これは確か、アビドス自治区に仕掛けたもの――!

    『じゃあ"クチナシ ユメ"って名前に覚えは?』

    スピーカーを通して聞こえるのは抑えに抑えた殺意の感情。
    私は直感した。絶対に"これ"に遭ってはならないと。

    『じゃあいいや』

    引き金の引かれる音。破裂音。厄ネタの匂い。
    スピーカー越しに確かな恐怖を味わいながら、それでも私の頬は歪んでいた。
    これなら空崎ヒナを超えられる、と。

    "暁のホルス"、その正体に迫る鍵を手にした私は浮かれていたのだ。
    本当に触れてはいけない怪物であるとは知らずに。

  • 16二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:14:54

    「"クチナシ ユメ"、か……」

    情報局、資料室。
    私はかつて情報局が集めた生徒名簿を捲りながら、"暁のホルス"の語ったその名を探していた。
    とはいえ、キヴォトスで収集されている生徒名簿の名だけでも一万や二万では到底済まない。
    そもそも聞いたのが音声であるがゆえに、何かの聞き間違いというのも否めない暗澹とした調査方法である。
    すると――

    「マコト?」
    「む、空崎ヒナか」

    資料室の扉を開けた空崎ヒナを見て、ふと思い至る。
    そうだ――

    「"クチナシ ユメ"が誰か知っているか?」
    「"クチナシ ユメ"?」

    如何に天才であろうお前であっても、生徒であるかどうかも分からない個人名を知っているはずは無いだろうと。
    「知らない」というその言葉がお前の口から出てくるのはこのマコト様の鬱憤を晴らすのに丁度いい。
    そう、思っていたのだが――

  • 17二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:15:04

    「ああ、アビドス高校の生徒会長ね」

    さも当然かのように出てきた名前に私は愕然とした。

    「――! お前も"暁のホルス"の調査をしているのか!?」
    「あか……なに? それ」
    「い、いや……いい」
    「そう、じゃあ」

    空崎ヒナが資料室に入っていくつかの資料に目を通す間、私は動けなかった。
    何故お前は私が必死になって調べていることを常識かの如く知っているのかという嫉妬。
    そして"暁のホルス"は確かに私が空崎ヒナを出し抜ける絶好の機会であるという歓喜。
    糾える縄のようにもつれ合う二つの感情をなんて呼ぶかなんて、私は知りたくない。

  • 18二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:17:23

    アビドス高校。
    原因不明の砂漠化とネフティスグループの経営破綻により崩壊の一途を辿る学校で、自治区の一部権利をカイザーグループに切り売りすることで何とか自治権そのものは手放さず、さりとていずれ遠くない未来に地図から消えることが確定している地域である。

    残った在校生はたったの二人。
    アビドス生徒会長、梔子ユメ。
    アビドス副生徒会長、小鳥遊ホシノ。

    だが、梔子ユメは最近失踪したらしい。その行方は未だ杳として知れず、連邦生徒会が行方不明者として掲示板の片隅に情報提供を求める文が掲載されている程度であった。
    そして小鳥遊ホシノもまた、時折アビドス高校に向かう姿は発見されているものの、日中の所在は掴めていないのだという。

    「失踪、か」

    集めた資料を読みながら、ふと息を漏らした。

    アビドスに嫌気でも差したのだろう、と普通ならそう考える。

    それはそうだ。このキヴォトスでは死ぬということそれ自体が滅多に発生しない。
    もちろん老衰などで天寿を全うすることはあるが、それ以外の外的要因で人が死ぬなぞ聞いたことも無い。

  • 19二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:17:37

    だがもし、もしもこの梔子ユメの失踪が何者かの手によって引き起こされたのであれば?
    そしてその先に死亡という事実が存在しているのであれば?

    そう考えればあの"暁のホルス"と呼ばれる狂人の正体も簡単に推察できる。

    「小鳥遊ホシノ……」

    手あたり次第に裏の組織を襲撃し続けているのも、失踪した梔子ユメを探してのことだろう。
    そして小鳥遊ホシノは確信している。梔子ユメが何者かに拐かされたということを。

    ……キキキッ、この調査を空崎ヒナより先に完遂することで、このマコト様はヤツを超えたと証明できよう!!

    内心に満ちる充実感を胸に資料を戻す。

    善は急げ。まずは小鳥遊ホシノと接触し、ことの次第を聞けば良い。
    私が探すのではない。このマコト様の予想があっていれば、餌をぶら下げた瞬間確実に喰いつくはずだ!

    「キキキッ、待っていろ空崎ヒナ……いや、小鳥遊ホシノぉ!」

    高笑いと共に資料室を出る。決行は今夜だ。

  • 20二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:18:02

    未明。アビドス自治区。

    私はブラックマーケットの密売人たちを「取引がある」とアビドス自治区の空きビルに呼び寄せていた。
    餌に使うのは当然木っ端の人物では無い。人身売買の噂が流れるほどにその悪名を轟かせてきた大物だ。

    彼らはゲヘナの情報局員が裏で個人的に流していた情報の顧客たちでもあり、そして皆"暁のホルス"に商売を潰された者たちでもある。
    つまりは対"暁のホルス"の連合部隊だ。私たちのいる最上階まで全8フロアあり、その全てにマーケットガードを詰めている。

    加えて指向性爆弾やワイヤートラップなど各種張り巡らせており、これを制圧するなぞSRTの特殊部隊でなければ不可能だろう。

    「本当に捕まえられるんだろうな」

    不安そうなにうろうろと部屋を歩く密売人に私はニヤリと笑みを浮かべる。

    「当然だとも。そのためにあなた方に来ていただいたのです」

    目の前に映し出されたモニタには全てのフロアに設置された監視カメラの映像が流れている。
    死角なぞどこにもない。無線機を片手に映像を見つめ続ける。

  • 21二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:21:25

    さぁ、来い。来い……!

    コン――

    「ッ!!」

    全員が一斉に音の鳴る方へ視線を向けた。
    目に映るのは夜空を映す窓ガラス。そこにコン――と何が当たっているようだ。

    誰が見に行く……?

    私含め顔を見合わせて――私はすぐにモニタに目を向けた。

    「なん……だと……?」

    1階フロアに設置された監視カメラが映し出したのは気絶したマーケットガードたちの姿。
    そして、廊下に設置したカメラをじっと見つめているその姿は――

    「"暁のホルス"――!!」

    今宵、初の銃声が鳴り響く。
    ショットガンのバレルから放たれた銃弾が監視カメラに突き刺さり、そして戦いの火ぶたが切って落とされた。

  • 22二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:21:55

    「2階に来るぞ! 相手はひとりだ!」

    無線機に向かってもはや悲鳴に近い叫び声をあげると、その声に応じたマーケットガードが銃を構える。
    監視カメラを見るが、姿を捉えた直後に次々とカメラが破壊されるせいで状況が上手く掴めない。

    「くそッ! どうなっている――!」

    その時、ザザ……と無線機からノイズが走る。誰かが無線を入れたのか。少なくとも状況の報告が聞けるはず――

    『なんだあいつ……速す――!』
    『銃を奪われるな! ガハッ――』

    違う。無線機を奪われた。
    何故? 聴かせるためだ。我々に。この下で起こっている惨状を。密売人たちに――!

    「も、もうごめんだ! 私は投降する!」

    密売人のひとりが叫び、恐慌状態がじわじわと室内に伝播していく。
    階下から徐々に上へ上へと昇っていく銃声。錯乱した密売人たち。
    最上階に詰めた密売人の護衛たちも青ざめた表情でじっと扉を見つめている。
    まるで目を離した瞬間そこから怪物が飛び出してくるのではないかと言わんばかりに。

    怪物の足音は悲鳴と銃声を引き連れて最上階までやってきた。
    扉一枚、その向こうから聞こえる音がひとつ、またひとつと消えていく。

  • 23二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:24:16

    そして、数分と経たないうちに全ての音が消え去った。

    「…………」

    しん――と静まり返る室内。
    ごくりと誰かが唾を飲み込む。
    護衛たちが銃を扉に向ける。
    かちゃり、とノブが回されて――

    「撃てェ!!」

    私の絶叫を掻き消すように響き続ける銃声が扉の蝶番を粉砕し、バタンと音を立てて扉が倒れる。
    そこに立っていたのは――呻き声を上げて気絶したマーケットガード……違う!!

    「う――」

    後ろにいるぞ、と出かかった私の喉は上手く動いてはくれなかった。

  • 24二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:25:14

    気絶したマーケットガードが室内に蹴り飛ばされる。
    その影に隠れて前進。動揺した最前列の護衛の顎を銃床で殴り飛ばしてワンダウン。
    間合いの中に入られた護衛が無理やり銃口を向けたところで銃を殴りつけ、弾丸が床を抉る。
    そのまま手首を掴んで捩じ上げて影に隠れながらショットガン。
    取り囲もうとした護衛たちをスライディングですり抜けながら床に落ちていたアサルトライフルを掴んで、残った全弾をフルバーストでの一斉射撃。
    弾丸を撃ち尽くした瞬間を狙って放たれた弾を飛び上がりながら壁を蹴って回避。
    そのまま相手の首に組み付いてバランスを崩してから、頭部を掴んで床に叩きつける。

    「そんな……馬鹿な……?」

    十秒にも満たない悪夢のような制圧劇は、たったひとりで全兵力を正面から叩き潰したという結末だけを残して幕を閉じた。

    かのように思えた。

    「ひ、ひィ……! ぎゃッ」

    逃げ出そうとした密売人がショットガンで撃たれた。
    まだ何も終わっていない。兵がいなくなろうとも、私たちはまだいるのだから。

  • 25二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:27:35

    がしゃこん。
    ショットガンに弾が込められる。
    撃つ。震える密売人が意識を失う。

    がしゃこん。
    ショットガンに弾が込められる。
    撃つ。破れかぶれになった密売人が床に崩れる。

    がしゃこん。
    ショットガンに弾が込められる。
    撃つ。またひとつ悲鳴が消える。

    ただただ機械的に繰り返される音は、私たちから抵抗の意志を完全に打ち砕いた。

    悪夢を生み出した怪物は胸元のポケットから一枚の写真を取り出した。

    「この顔に覚えは?」
    「く、梔子ユメ、だな? アビドス生徒会の!」

    私は叫んだ。知っているぞ、と。この状況を少しでも変えるために絞り上げるような声で叫んだ。

    そして、その効果は覿面だった。

  • 26二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:29:19

    「ッ!? いまどこにいる――!!」

    怪物の表情が歪に歪んだ。
    怒り、恐怖、切望、憧憬、そして後悔。
    それは今にも泣き出しそうな顔で、怪物ではなく小鳥遊ホシノというひとりの少女に戻ったかのようでもあった。

    私はほっと胸を撫でおろす。
    会話が出来るのなら何とかなる。

    「そ、そうだな。まずはゆっくり話をしよう。安心しろ、このマコ――」
    「知らないのか」

    小鳥遊ホシノから零れた言葉は疑問ではなく断定だった。
    一切の興味を失くしたかのように、その両目は既に私のことなんて見てすらいない。

    会話が出来るのなら何とかなる? まさか。
    燻り狂った"暁のホルス"は決して止まらない。常に一方通行だ。

    敬愛する先輩を失っても、彼女は決して泣き叫ばない。
    鳴り止まぬ銃声だけが彼女の絶叫。如何なる言葉も彼女には届かない。
    だから会話なぞ、初めから到底無理だったのだ。

    そうして――

    私が意識を完全に失うまで、銃声が鳴り止むことはなかった。

  • 27二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:32:40

    このレスは削除されています

  • 28二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:32:58

    このレスは削除されています

  • 29二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:35:38

    圧倒的感謝・・・!

  • 30二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:35:51

    のちに、一週間ほど入院して復帰したことを思い出す。
    これまで様々なピンチを迎えてきたがあれを超えるものもそうそうないな、と笑みを浮かべていると、執務室にイブキがやってきた。

    「む、どうしたイブキ」
    「あのね! サツキ先輩からドーナツもらったからマコト先輩にも、って!」
    「そうか~~! イブキは良い子だな~~!!」
    「えへへ!」

    イブキを撫でながらドーナツを食べると甘さが口の中に広がる。
    そこでふと、こんなことを考えてしまった。

    もしイブキが行方不明になったら? と。
    ああ、到底耐え切れない。攫ったことを後悔させなければならない。その時は万魔殿のみならずゲヘナが相手になるぞ、と。

    それでも、私は小鳥遊ホシノのようにはなれない。なりようがない。
    私には守るものが多すぎるというのもあるが、それ以上に幾日にも渡って狂い続けることの出来るあの精神は常軌を逸していた。

  • 31二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:36:05

    「イブキ」
    「わわっ」

    ぎゅっと抱き寄せる。
    そうだ。私には守るべきものがある。捨て置くような無駄なものなぞ、私は何一つ持ち合わせていないのだ!

    「キキキッ! イブキよ。このマコト様が頂点に君臨する様をいずれ見せてやろう!」

    「うん!」と輝くような笑顔で頷くイブキを目に固く誓う。

    我が大望叶いしその暁には、このキヴォトスから不要な痛みを排斥しよう。

    お前もそうだろう? 夜明けのホルスよ。

    --『暁を見よ』完--

  • 32二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:37:07

    このレスは削除されています

  • 33二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:37:21

    お見事ッ!!

  • 34二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:43:17

    お見事ッ!!

  • 35二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 16:45:30

    お見事ッ!!

  • 36二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 19:59:16

    ホシノの危うさとマコトのキャラクターがよく出てるいいSSだった…
    ヒナが知っているならマコトも知ってる可能性高いよなあ

  • 37二次元好きの匿名さん24/05/28(火) 23:44:36

    乙!面白かった!

    本当にヤバいものを見た時こそマコトは輝くと思う


    >のちに、一週間ほど入院して復帰したことを思い出す。

    流石マコトだ、(比較的)なんともないぜ

  • 38二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 01:51:19

    マコトである必要性が薄いように感じた
    ヒナとマコトの確執は少し書かれたけどそれっきりだしな…

  • 39二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 01:55:55

    「えっ、これで終わり?」って感じの出来ね
    物語の導入としては良いかもしれん

  • 40二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 12:14:43

    SSなんて絡ませたいキャラ書きゃええねん
    起承転結もしっかりしてるしな

  • 41二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 12:24:31

    ヒナもマコトも行き着く先が「小鳥遊ホシノにはなれない」で同じなのいいな…
    同じ言葉であっても意味合いは違うけど

  • 42二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 17:55:07

    起承転結の転が欠けてはいる
    話が一転する場面がなく終始山なし谷なしなんかな
    不快に思ったらごめんね

  • 43二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 17:57:38

    すぐに諦めてるとこがマコトらしくないところはあるかも

  • 44二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 18:23:00

    マコトの一人称視点でホシノが凄え奴だって事を語ってるに過ぎないからな…スレタイから予測できたマコトとホシノの絡みすらない

  • 45二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 18:58:34

    なんか凄く勿体ない作品

  • 46二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:37:17

    風紀委員会の行動を見逃す流れになった理由もよく分からんな

  • 47二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:41:55

    ホシノと他キャラの格の違いが丁寧に描写された最高のSS
    やっぱりホシノはキヴォトス最強なんだよなぁ…

  • 48二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:44:57

    自我出すのも野暮だけどごめんね……。
    まだ残ってたのも嬉しいし、褒められたり頑張った部分に気付いてくれるのはいっぱい嬉しい。
    そこから「マコトっぽくない」とかそういう意見も嬉しい。ブルアカ好きだからキャラも完璧にエミュしたいからね。
    マコトはもっと粘るし、何なら死ぬまで足掻きそうというのもそれはそう。頑張りたい……。今回割と無理やり畳んだ部分はあったので、次はもっとうまく書けたらいいな。ありがとう……。ありがとう……。

  • 49二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:46:25

    人物同士にドラマがないせいで偉く薄味になってる
    強いて言えば序盤に少し語られたマコトのヒナへの思いくらいだけか

  • 50二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:47:20

    都市伝説の調査みたいな感じで
    みるとそれはそれで面白いぞ

  • 51二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:47:41

    >>47

    やっぱりキヴォトス最高の神秘であり最強のホシノは全てを蹂躙するんだよ

    他者など路傍の石に過ぎない

  • 52二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:48:12

    >>48

    次回作があるなら最強ホシノがキヴォトスを蹂躙するSSとか良いんじゃないかな

  • 53二次元好きの匿名さん24/05/29(水) 23:48:19

    >>51

    ワンピに帰りたまえ

オススメ

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