- 1二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:21:53
「あっ!そこのスーツの方!ハンカチ落としましたよ!」
「ええ、すいません。 ありがとうございます」
男は振り返ると如何にも紳士といった対応をした。
オーソドックスな微笑みを浮かべて答えた男とウマ耳がついた少女との間にわずかばかりの沈黙が流れる
「…どうしましたか?なにか付いてますか?」
なかなか立ち去らない少女を見て男は訝しげに尋ねる
「スーツ姿の方って珍しいなって。 お仕事ですか?」
「ええ、珍しいですか?」
「お兄さん電車で来たならわかると思うんですけどこんなクソ田舎ですしね~」
「そうでしたか… 営業に来たのですが業績を挙げられるといいのですが…」
「そうなんですね! まあ頑張ってください!」
「ええ ありがとうございます では」
どうやらこの近辺ではスーツ姿は珍しいらしい。 男は少しばかし立ち止まり考えると
「作業着で来たほうが良かったですかね…ともあれ追いかけられずに済んでよかった」
と静かに呟き、”営業所”へと向かった
「営業所」といっても如何にもな如何にもなプレハブ小屋や家屋ではなく、一軒家といった佇まいであり、周りの目から見たら訪問販売にしか見えないであろう男は、鍵を開け静かに入る
「もしもし?南坂です。 "営業所"に付きました。 今夜の"営業"に向けて準備を進めようと思うのですが、企画書はどういった風に仕上がりましたでしょうか?」
「おぉお早いお着きだな、南坂。 事前通り特に変化はないよ、廃工場に営業に行って"新製品"や"新工場"の情報集めるついでに"押し売り"するんだろ? 俺も行きたかったぜ」
「そうぼやかないでください ひろしさん。 あなたは新工場担当でしょう?」
「だが派手にやるんだろ? 事故に見せかけてよ。 楽しそうじゃねぇか」
「そうでもありませんよ…ただ…やりがいはありそうですけどね」
男は静かに笑うと、電話先の男に別れを告げ準備をすすめる
男は"商材"を確認し衣服を整えると廃工場へと視察しに脚を向けた - 2二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:22:56
廃工場についた男は周りを見渡し入り口を複数確認するとともに従業員の数、
そして彼らが持っている"工具の在り処" 普段の所持の有無などを一通り確認した後
彼らに見つかる前に身を潜め影と同化する
―――今は集まりが悪い上に準備をしてはいるが稼働している様子はない やはり夜を待とう
そう思った男は商材を取り出しその晩の"営業準備"に取り掛かる そこには彼の愛用の物が入ってた
M659 軽量でコンパクトなフレームなこれはスーツの下からでも隠し持つことが出来、日本の組織犯罪対策課へも採用された事がある銃の系列であるが、彼のものはダブルカラムモデルなため14+1発の弾が入るため警察が扱うものよりもハイパワーで暴力的だが彼の仕事には欠かせない
彼はそれにサプレッサー用のネジとスライドロックをカスタムで付けているため、もはや軍事モデルと言っても差し支えないだろう
そしてもう一方には両刃のナイフが入っている。 彼の組織特注のもので名こそ無いが、切れ味はよく"熱したバターのように切れる"と評判であり、隠し持てるサイズなためスーツに入れても違和感がない
それらをまるでピンバッチやハンカチをしまうように懐へ忍ばせるとそっと夜が来るのを待った
そうして訪れた夜 影と同化した男があたりを伺うと一台のバンが工場へと入り込んでくる
―――これで全員揃いましたね…あとは期を…
だが男にとって予想外の出来事が起きた
今朝会った少女が眠らされた状態でバンから運び出されたのを目撃したのだ
おそらくこの工場において"別の商品"を作る日でもあったのだろう
男は想定外の展開に眉を潜めると再び息を殺し、営業計画を練り直す
―――今夜はおそらく隙と言えるものがない日なら…彼らが安堵しきったその瞬間を狙うしかありませんね
なによりも時間がない
男は耳を立て中の様子を伺うと、"運搬音"が消えるのを待ってから行動に移すことを決めた - 3二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:24:13
生産物はよほど高価なのだろう 外に見張りが二人ほどいるが、中はその生産物の予定に高揚しているのか少し騒がしいらしく、彼らが"居眠り"しても気が付かない
そう見立てた男は、入り口が締まり数十秒ほど静寂の中に溶け込んだあと、ゆっくりと闇から生まれ落ちる
「やあ」
男達は声がした影の方へ振り返った刹那、赤い蓮華を脳天に咲かせ地面へと崩れ落ちる
男取って今握っている物よりも軽い存在を消した後闇の方へ溶かし込んだ
このことに気づくものは誰ひとり居ない
男は裏口の方へ回りそこに居た一人も、彼の吸っていた煙のごとく静かに彼方へ消し去ると、煙のごとく内側へするりと入り込んだ。 - 4二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:25:08
―――思ったより人数が居ますね、屯している部分は気づかれずにやるのは無理そうですね…
影から様子をうかがった男は、握っている物に再び命を込め直すと、幸運なことに二人組が喫煙しようとこちらに近づいてくるのが見えた
彼らは未だ内側に入り込んだ異物の存在に気が付かないため、影に目を落とすことはなくそのまま裏口へと歩みをすすめる
「そういえばあいつ喫煙ながいな」
「あいつやる時はタバコと一緒にハッパもすってから始めるらしいぜ」
「そうか…だから――」
そういいかけた瞬間男は永久に言葉を失うことになった
影から伸びた刃が男の後ろから声のもとを突き、彼に永久の沈黙が訪れるまでその刃が抜かれることはなかったからだ
だが彼はまだ幸運だったのかもしれない
「んんんんんん!!!」
「彼のように二度とタバコも吸えない体になりたいですか?」
脳天に囁くような声に男はうめき声を上げるが、口元を抑えられてしまっているため否定も肯定もできない
やがて相方に沈黙が訪れるとその刃が自分の喉元へと光る
「私の支持に従ってくれればあなたの喉にこれがはいることはありません。 今すぐ踵を返しなさい」
男は声の主の命令にうなずくと、それに引きずられるかのように前進をはじめた
先程まで右手に握られ相方を葬った刃は、背後の男の左手に移っており、右手には冷たいスレンレス製の物が頭に突きつけられていることがはっきりと伝わっている男は震える脚を動かす他なかった
「おいどうした喫煙所に…誰だてめぇは!!!」
屯していた五人の男の一人が罵声を上げる。 しかし背後にいる男は目だけを光らせ何も言わない
これが意味してることはわかるだろう?と目と行為だけでそう伝えるには十分だからである
男たちが困惑していると、操り人形とその主は目的地へと脚をすすめるが、ここで状況に縛られていない男が物陰から金属バットを振りかざした
「○ねえええええええ!」
叫んで振り下ろそうと試みたが、それよりも先に男の胸に風穴が2つほど開くと、そのまま倒れ伏してしまった - 5二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:25:33
だがこれを期に各々の武器を取り出し、あるいは掴みかかると、先程穴を開けた道具を向かってきた二人に対して向けほぼ同時にパンチ穴を開けた
同時に操り人形に価値がなくなったと感じた男は脳天に向け一発鉛玉を発射し壊れた人形へと姿を変貌させると
工場の男達にとって行かれたくない場所へと駆け足で向かう
彼らはようやく武器を握りしめ男に向かって弾丸を発射するがすべて人形だったものへと吸い込まれてしまい当たることはなかった
男は残った三人に追われながら部屋を進むと、潜んでいた従業員が物騒ぎを聞いていたらしくナイフで切りかかったが、その腕は宙を突くと左手に捕まれ、地面に組み伏せられると、男はしゃがみこみ盾にし不用意にも飛び込んできた追手三人をその場で廊下の展示物に作り変え、盾にした者もまた物に変えてしまった。
立ち上がった男はおそらく少女がいるであろう"社長室"の前に取り付こうとした瞬間散弾銃が顔をのぞかせた
男は柱に身を隠すとあたりに散弾があたったであろう火花が散らばる。 - 6二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:26:25
――これは厄介ですが… 上下二連ですね…
スーツを脱ぎ、それを柱の陰から飛び出させると、散弾がそのスーツめがけて飛んでいく
男はそれを見届けた後、銃をドアに向かって撃ち、物を引っ込めさせるとそのまま体当たりをして中へ侵入する
弾の尽きた散弾を振り上げる側近を躱すと背後からナイフを脚へ逆手で突き込み、苦悶の声を上げ膝から崩れ落ちた側近の首の側面をまるでバターを切るかのようにかすめると空気が吹き出す音とともに壁を赤く染め上げた
それを見た"社長"らしき男が慌てて拳銃を取り出そうとするが、逆手で持っていたナイフを相手の右腕に向かって投げつける
「ぎゃあああああああ!!!!」
耳をつんざくような悲鳴を耳にするが、意に介さずベッドの方を見ると、地獄と化した情景に似つかわしくない美しい花が睡蓮の如く深い眠りに落ちているようであった
「薬を飲ましてるんですね。 それもかなり強力な」
「それがどうしたっていうんだ」
男は薬剤を手に取るとラベルをみると少し思い出すような仕草を取ってから言葉を紡いだ
「これは…深夜まで起きないようですね…」
「だからそれがどうしたっていうんだ!」
「いえこちらの話です。 あなたにはまだ 生きてもらいます。 」
男は社長の急所を殴り一時的に身動きができないよう昏倒させるとさっと椅子に縛り付け、会社の機密書類を調べ上げ、あらかた情報を調べ上げつつ社長の目覚めを待った
「おい!貴様!こんな事してただで済むと思ってるのか! 俺の仲間が――」
「ええ ですからあなたにはその仲間のことを熱くPRしてもらいましょう」
男は先程投げつけ右腕を刺したナイフを膝の部分に押し当てるとまるで注射器を刺すようにゆっくりと深くさし、鍵のようにこじ開けてみせた
この世の終わりのような悲鳴が上がるが、男はまるでオーケストラを聞いたようななんとも言えぬ顔を浮かべ
「もう二度と歩けませんね… でも今ならまだ"歩けない"だけで済みますよ?私にとっては時間がないので
次はもう少し別の手段を取らなければなりません。 "それで"ひぃひぃ言わせてきたんでしょう? もっとも今まであなたが作り上げた商品達の声にはどんな大きな声を出しても足りませんけどね」
男はナイフを滑らせ本気であることを示す そして社長にとって人生最悪でそして最後であろう日が訪れたのであった - 7二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:26:47
「ええ… ひろしさん 新工場の場所はわかりました。 データを送ります」
「おぉ さすがだな。 かなりいたろそこ」
「私にとっては羽毛にまみれるような体験でしたよ…これから後片付けをします」
「わかった しっかり頼むぜ」
男は部品の足らぬマネキンを尻目に未だ眠る少女を抱きかかえると安全なところへ身を移させる
そして工場にあったハッパを生成する溶剤を工場全体に振りまくと火を付け、まるで"工場火災の事故"にしかみえない状況を作りだしその場を後にした - 8二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:27:38
彼女とともに安全な場所へ身を移すとそこで少女の目が覚めるのを待った
「ん…あれ? ここは…」
ようやく目を覚ました少女はおぼろげに言葉を紡ぎ出す
「目が覚めましたか」
「確か私自主練を…それでいきなりなにかが…」
「大変言いにくいのですが、あなたはどうやら誘拐されていたようです」
「えっ!?でも…」
どうやら驚きを隠せないようだ。 だが男はゆっくりと語りだす
「実はその場所は火事になってしまったらしくて… 私は仕事帰りにたまたま火事を見かけて通りかかったところあなたを移そうとしている男が見えたので、ちょっともみ合いになりましたが、なんとかあなたを保護できました」
「お兄さん大丈夫なんですか!?」
「ええ…こう見えても腕っぷしが強いんですよ私… 一応彼らを振り切ることは出来たみたいですが…これから警察に連絡するところです」
わずかにほほえみ彼女を安心させる言葉を紡ぐ - 9二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:27:53
「本当に…本当にありがとうございます…私なんてお礼したらいいのか…」
「いえ ハンカチを拾ってくれたお礼です」
男の言葉に動揺しきっていた少女は少し落ち着きを取り戻したようだった
男は徐々に日常へと会話を寄せていく
「でも…なぜ夜まで自主練を?」
男は不思議に思った。 確かに何かに打ち込むことはあってもそこまで夜遅くまで打ち込むことは
そうそうない それも年頃の少女が野外でそういったことをするのはよほどのことである
「私にとって大事なレースが…もうそろそろ開催されるんです」
「なるほど…あなたは地方に所属する…」
「えぇ…でも私本番になるとどうしても緊張してしまってうまく走れなくて…だからいっぱい練習して、自信を持とうと…」
男は静かに話を聞いて少し思案すると、ゆっくりと語った
「心がけはとてもいいことですが、オーバーワークはおすすめできません… それにあなたは話を聞いている限りだととても努力家のようです。 きっとあなたのしてきたことは裏切りません」
「でも…他の娘達がいると状況が変わってしまって…」
男は更に言葉を重ねる
「確かにそういうこともあると思います。 でも他人を気にしすぎるのはよくありません。 あなたが一番だと思うことをその場で貫き通すことです。 そう考えた時、おそらくですが、今まで見えてこなかった道が見えてくるはずです」
男は力強く、しかし優しく言うと静かにうなずく少女を見て微笑みを浮かべた
「そろそろ警察が来ますね… しかし私は見ず知らずの人だ。 誘拐犯だと思われてしまうと、私の仕事に差し支えがでてしまいます」
「ふふっ…真面目なんですね…」
「ええあなたと同じ様に」
二人は笑い合うと、男はその場を後にした
少女はその後誰かに助けられたが顔を見れなかったなどとぼやかし、その存在をうっすらとしか伝えなかったことにより、後に地元では男を姿形のないヒーローとして語られたものの、時間とともに徐々に風化していくのであった - 10二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:28:00
―――先週未明違法薬物の製造工場が燃えた事件に立て続き、某所にて犯罪組織同士の抗争があったと判明しました
死亡者は… 警察は違法組織同士の抗争として、警戒を強化しております
「よう!南坂」
「どうやらあなたもうまくやったみたいですね」
「まあ今回は楽しめたぜ」
「そうだ…チャンネルを少し変えてもいいですか?」
「珍しいじゃねぇか 何が見たいんだ」
「ええちょっと」
男はテレビのチャンネルを回すと、そこには地方競バ場の様子が映し出されていた
―――〇〇伸びる伸びるまだ伸びる! そしていまゴールイン!
一着は〇〇! 力強いレースを展開し、栄光を手にしました!
そこには先日男が出会った少女が力強く右腕を上げる光景が大きく映し出されていた
「なんだ競バか… 珍しいじゃねぇか? なんかあったのか?」
男はその問いかけに少しだけ笑うと適当な相槌を返した
たまにはこういうのも悪くないだろう と
fin - 11二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:44:33
軽い気持ちで開いたらめっちゃ高カロリーで草
- 12二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:44:46
- 13二次元好きの匿名さん22/02/03(木) 23:50:35
ちょっと文章の接続が気になるところがあったけど良かったと思う