- 1二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:07:44
「よーし!全員揃ったな?ではでは!有マ記念全員無事完走と、おめーらのトゥインクルシリーズ勇退を祝して、かんぱーい!」
年の暮れ。ジェンティルドンナの姿は、とあるアミューズメント施設のカラオケルームにあった。集まっていたのは、つい先日共に有マ記念を走った同期五人。所謂「打ち上げ」普段このような場に足を運ぶことはないジェンティルドンナだが、ラストラン後となると周囲がそう簡単に不参加を認めてくれない。結局、押し切られる形で参加することになった。
最後に打ち上げに参加したのは、クラシック期の頃。もう何年も前だ。と言っても、あの日は友人と二人きりの打ち上げ。彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。あのときは、まさか最後のトゥインクルシリーズでの対戦になるとは思いもしなかった。懐かしさと、どうしようもない寂しさがこみ上げてくる。幸い、部屋には既にゴールドシップの歌声が響いている。誰一人、ジェンティルドンナのその表情に気付くことはなかった。 - 2二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:08:20
どのくらい経っただろうか。ふと、携帯の振動に気が付いた。鞄から携帯を取り出して席を立つ。
「失礼。少し席を外しますわ」
数分後。電話を終えて部屋に戻ると、何やら様子がおかしい。誰一人マイクを握らず、皆一様に机の上の何かを見つめている。
「あいつこんな顔すんのかよw」
「吊るして4日目の干し柿みてえな顔だな」
「まあ慣れてないでしょうからね」
「あの子が無理に押し切ったんでしょうね。目に浮かぶわ」
覗き込むと、そこには一枚のプリントシール。写っているのは、弾けるような笑顔のウマ娘と、ぎこちない様子のジェンティルドンナ。頭にはティアラのスタンプが押されている。写真の下に書かれた日付は、桜花賞の日のもの。どうやら鞄から携帯を出したときに落としてしまったらしい。
「何を見てらっしゃるの?」
「随分早かったわね。これ、落ちてたわよ」
そして、何事もなかったかのようにカラオケが再開される。落とした自分が悪いとはいえ、他人のものを勝手にじろじろ見ておいて、謝罪どころか焦りの表情すらない。普段と何も変わらない同期達にほんの少しの苛立ちとある種の安心感を覚えながら、ヴィルシーナの手からそれを受け取った。彼女の表情が少し寂しそうに見えたのは、きっと気のせいではない。 - 3二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:09:00
打ち上げは大騒ぎのうちに幕を閉じた。カラオケの会計を終えて歩いていると、出口近くのゲームセンターが目に入る。あのプリントシールを撮ったのはここだった。ふと隣を見ると、ヴィルシーナもゲームセンターの方へ視線を向けていた。
「行きたいのなら素直におっしゃったら?」
「貴方こそ」
二人は顔を見合わせた。どうやら考えていることは同じらしい。
「ごめんなさい。先に帰ってもらえますか?」
「んだよおめーら。二人だけで二次回か?」
「ずるいですよ!私たちも入れてください!」
ヴィルシーナの言葉に、案の定、ゴールドシップとジャスタウェイが苦言を呈する。 - 4二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:09:47
「まあいいんじゃねえの?ラストランの後だし、ティアラ二人で話したいこともあるだろ。あたしらはあたしらで二次回しようぜ」
「よっしゃ!まめちんの部屋な!」
「コンビニでお菓子とジュース調達して行きましょう!」
「おい待て勝手に決めんな!」
フェノーメノの助け船に会釈で感謝の意を伝え、二人はゲームセンターの中を歩き始める。数年ぶりに訪れたそこは、あの頃と随分違って見えた。見覚えのないゲーム機の数々。クレーンゲームの景品も様変わりしている。
「あのプリントシールならこの機種ね。少し前にアップデートが入ったから、全く同じにはならないでしょうけど」 - 5二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:10:38
慣れた手つきで機械を操作し始めるヴィルシーナ。そもそも、プリントシールの機械にアップデートがあることを初めて知った。改良されたのだろうが、ジェンティルドンナは思い出が消えてしまったような気分だった。
入学前から同じクラブで切磋琢磨してきた友人は、いつの頃からか眠ってばかりになってしまった。桜花賞は、彼女と走った最初で最後のG1。彼女はジェンティルドンナが自分と同じ舞台のG1を勝ったことを、心の底から喜んで、祝福してくれた。あのプリントシールには、そんなかけがえのない思い出が詰まっている。時が過ぎれば、世界は変わっていくもの。思い出のものが消えてしまうのも、仕方のないことだ。ただ、新しく入ったゲーム機も、様変わりしたクレーンゲームの景品も、機械にアップデートが入ったことも、彼女は知らない。その事実が、何となく寂しく感じる。
「随分手慣れてますのね」
「妹とよく来るから。それに、あの子とも……」
一瞬、ヴィルシーナの表情が曇った。その理由は、言葉にせずとも分かる。 - 6二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:11:13
「……さ、早くしましょう」
「ええ」
ガイド音声に従って撮影ブースに入る。中のカメラに映った自分の顔は、普段鏡で見るものと全く違う。そういえばあの日も、この変化に戸惑った。プリントシールはこういうものだと頭で理解していても、あまりの変わりように頭が混乱する。
「ほら早く」
「え?!」
そうこうしているうちに撮影が始まってしまい、一枚目は酷い有様。二枚目も、ガイド音声に指示されたポーズを作っている間に撮られてしまった。
「普通に写真を撮られていると思えばいいのよ」
「全く違うのだけど……」
カメラマンは言えば待ってくれるが、機械は待ってくれない。それに、カメラに自分がどう写っているかを見ながら撮ることなんてない。写真を撮られることには慣れているが、あまりにも違いすぎる。出来上がったプリントシールは、あの日と大差ない、ぎこちなさ全開のものになってしまった。 - 7二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:11:49
「本当に変な顔ですわね……」
「これがプリントシールよ。ほら、ここで目の大きさとか調整できるわ」
あれやこれやと自分の顔をいじるヴィルシーナ。手持ち無沙汰になり、何となくスタンプの欄を見る。ふと、見覚えのあるティアラのスタンプが目についた。思わずそれを自分の頭に付ける。思い出の欠片を見つけたような気分だった。
「まさか貴方とこんなことをする日が来るなんてね」
「それはこっちのセリフですわ」
「まあでも、楽しかったわ。ありがとう」
「こちらこそ」
「……次は、三人で」
「ええ。必ず」 - 8二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:11:59
『もー!ジェンちゃんもシーちゃんも喧嘩しないでー!仲良くしてよー!』
ふと、いつかの彼女の言葉が脳裏に響いた。彼女が知っている自分たちは、確かにいつも火花を散らしていた。それは今もそう変わらない。二人でプリントシールを撮ったことを聞いたら、彼女はどんな反応をするだろうか。それは、彼女の知らない二人の姿。いつか、彼女との思い出をアップデートできたなら。止まってしまった時を、動かすことができたなら。きっと同じ願いの二人を、町のイルミネーションが優しく照らした。 - 9二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:13:41
お わ り
久しぶりに筆が乗った。季節外れもいいところですが…… - 10二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:21:36
ジョワドは3頭の中では1番注目されててドンナとは同じクラブでシーナとは同じ育成厩舎だったのよね…
- 11二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:32:00
賑やかな、でもどこか寂しくて…色んな感情がこもった打ち上げでした こういう友達がたくさん居るのは良いですね
- 12二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:53:55
この季節が来る度に、鳴尾記念を見る度に思い出します
かつて阪神JFを取った天才少女を
そして牝馬三冠を怪我に振り、「生きる喜び」を感じ取れなかった天才少女を
届くはずありませんが、どうかこの子をウマ娘にしてください - 13二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 08:55:22
乙
いい物読ませて貰った - 14二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 09:38:44
12世代バケモン出てる反面中途離脱も多いね…
- 15二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 17:57:41
牡馬もゴルシが壊し屋言われてるぐらいなのもあって、蠱毒世代だからな…