- 1二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:52:15
- 2二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:52:30
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地下バ道を踏みしめながらカレンブラックヒルはレースの時を待ち切れずに居た
あの天皇賞秋の後、自分は歯車が狂ったかのように結果を出せずに居る中、同期達は次々と華々しい勝利を上げていた
その中には共に走りを磨き、速さを競い合った旧友の姿もあった
パドックでこそばゆそうに観客に向けて手を振る奴の姿をその目に焼き付け、必勝を誓った
もう去年までのアタシじゃない、前走のダービー卿では久々に勝利を収めて見せたし2年前の同じ舞台ではこちらが勝っている
こちらなどまるで眼中にないであろうアイツに勝利する事で、完全復活を証明する
そのために目指すはただ1つ、目標を見据えながらレース場へと踏み出した - 3二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:52:47
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「さあ、世界ナンバーワンウマ娘が堂々主役を張るか、それとも波乱は起きるか、安田記念……スタートしました!」
不良バ場の中、ゲートが開くと同時にジャスタウェイは無数の視線が向けられるのを感じた
いつも通り中段に付ける事には成功したが前からは抜かせまいと、後ろからは差し切らんと常に圧を掛けて来る
そして観客席からは一挙手一投足を見逃すまいと数え切れない視線と声援が飛んでくる
(これは、なかなか……)
天皇賞ではその対象は貴婦人へと向いておりゴールするまではまるで注目されていなかった
ドバイでは完全にアウェーであり数少ない日本からのサポーターにはむしろ助けられた
小雨でわずかに濡れているはずの肌の表面が、自身へと向けられた視線蒸発したのではないかと錯覚するほどの熱量にさえ感じた
泥沼のような足元の中で、まるで水底へと押し付けられるようなプレッシャーが全身に降り掛かる中、ただひたすらにじっと堪えてその時を待っていた - 4二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:53:03
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「第四コーナーを通過し直線コース、中段バ群の中にまだジャスタウェイはいます!」
少し速めのペースで隊列が進む中、カレンブラックヒルは後ろを走るジャスタウェイへ常に注意を向け続けながら走っていた
途中少し順位を落とす事になったが、それでも奴を自由に走らせるよりは遥かに良い
最終コーナーでバ群が広がっていくがギリギリまで蓋をし続ける
周りがゆっくりとスパートを掛け始めるのを確認し自分も両脚に力を籠める
だが……
(ッ!?スピードが、出ない……!?)
マークに注意を払い過ぎて脚が溜まらなかった?
不良バ場が想定以上に脚に負荷を掛けた?
それともこれがアタシの……
頭をよぎった嫌な考えを全て押し込めて懸命に両脚を全力で動かし続ける
それでも前との距離は縮まらない
そして、アタシの右側を、アイツがゆっくりと、だが確実に上がっていく
こちらに目を向ける事もなくただその道を進んでゆく - 5二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:53:42
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「真ん中ジャスタウェイは前が開くか!グランプリボスも突っ込んで来る!」
ドロドロの芝を蹴り上げてひたすらに前を目指す
「グランプリボス!内からジャスタウェイ!内からジャスタウェイ!」
脚を取られ体勢が崩れるがそれでも前を見据える視線は逸らさない
「さらにグランプリボスが前に出る!内からジャスタウェイか!」
外は完全に塞がれてラインを変える余裕はない
ならば、ただこの道を進むのみ
「3番手はダノンシャーク!外からワールドエースも賢明に突っ込んで来る!」
後ろの2人は引き離し、前へ前へと少しずつだが詰めていく
だがゴールまでの残りも短くなる
(まだ、まだっ!)
グランプリボスか!ジャスタウェイか!」
前を行くウマ娘がわずかに外へとふらつく
(ここ、だあああああああ!!)
残った全ての力を振り絞り、泥の海を蹴り出してゴールへ飛び込むッ!!
「捉えるか!どうか!2人並んだー!
わずかにジャスタウェイか!それとグランプリボスか!」 - 6二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:54:01
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写真判定の末、勝利を掴んだのはジャスタウェイだった
アタシは9着、完敗と言っていい着差だ
「いやー、お疲れ様でしたブラックヒル。ドロドロのぐちゃぐちゃで大変なレースでしたねえ」
他に話しかける相手なんていくらでもいるだろうに、アイツは昔と何も変わらない調子で話しかけて来る
「流石は世界一のウマ娘サマだな、アタシなんかとは大違いだ」
「そんな事ありませんよ、流石に今回は駄目かと諦めそうになりましたもん」
そう答える姿はひとっ欠片たりとも嫌味は含まれていない
アタシに気を使ってお世辞を言ってる訳でもなくいつも通りの飄々とした調子で答えるジャスタウェイに思わず問いを投げかける
「なあ、どうしてアンタはそんなに強くなった、フラッシュに負けたあの秋天の後、どんなトレーニングを積んできたんだ?」
しばらく悩んだ後アイツの口から出て来た答えは
「諦めなかったから、ですかね」
「は?」
あまりにありきたりな言葉に思わず間抜けな声が出る
「あの人みたいに強くなりたい、いつかドバイで走ってみたい、そんな夢をずっと口に出し続けて今日まで走ってきたから、私の強さの秘訣があるとしたらきっとそれです」
ああ、そうか
アタシとコイツ、何が違うのか、なんで変わってしまったのかとそればかり考えていた
だが違ったのだ、コイツはあの後もずっと変わらず進み続けて来た
銀の刃の心鉄のように1本通ったぶれない心がその強さの秘訣だった
隣ばかり見ていたアタシと前だけを見ていたコイツ、違いが出るのは当然だった
「アタシの完敗だ、これからも負けるんじゃねえぞ日本一」
「その呼び名、背負って走るにはあまりに重いんですよね。だからこれからはマイルじゃなくてクラシックディスタンスでチャレンジャーになりますよ。っとと。」
流石にこの厳しいレースの疲れが出たのか、ふらつく身体を支えてやる
「しゃきっとしてくれよチャンピオン、ウィナーズサークルまでは肩貸してやるよ」
「あー、出来ればその前に一緒に行って欲しい所があるんですよ
宝塚記念、この調子じゃ出られそうになくてゴメンって謝りに行くのでシップの所までついて来てもらえません?」
そう言って恥ずかしそうに頬を搔く姿は、あまりに見慣れた腐れ縁のアイツだった - 7二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 20:54:34
- 8二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 21:10:26
しまった、挑戦状の下り入ってないやん・・・
まあこれ単体で読みやすくなったと思えばええか・・・ - 9二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 21:23:52
ウマのジャスタウェイ、覚醒の前触れは多分エイシンフラッシュの秋天見たかもしれない説
実際フラッシュの秋天の後5着8着それから2着三回から貴婦人に勝つ秋天だから、真面目で優等生で諦めない先輩見て諦めるのを諦めたかもってありますか? - 10二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 21:35:14
夢を口に出して諦めない事は馬主である大和屋さんの哲学でもあるんですね
- 11二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 21:36:17
実際調教助手の人は「いつかあんな栄誉ある勝利を」みたいなことを思ったらしいからね
- 12二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 21:54:58
実馬では連敗の後思い切って放牧に出した事が好転したって話もあるな
- 13二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 22:23:41
実馬の話も良いけどSSの感想とか書いてくれてもいいのよ?
- 14二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 22:43:52
- 15二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 23:08:12
「よっ、世界一。優勝記念だ受け取れ」
「銀の魂のジャ○タウェイの像?完成度高ぇなおい」
「良いだろ?ゴルシちゃん渾身の出来だぜ」
「また手の込んだこと…私が負けたらどうする」
「打ち上げて花火になって爆散するが、勝つんだろお前」
「まぁね」
「で?宝塚は来れそう?」
「ダメですねちょっとやりすぎた」
「しゃーね、応援してくるよな」
「…薄情者は応援しなーい」
「あーあー聞こえなーい」 - 16二次元好きの匿名さん24/06/02(日) 23:57:41
- 17二次元好きの匿名さん24/06/03(月) 07:48:58
心鉄のように1本通ったぶれない心
前だけを見る
この辺りは正しくジャスタウェイらしさが表現されていて良い…そして抱えていた劣等感を自覚してからはどこか晴れやかに賛辞を送るヒルも大変良い… - 18二次元好きの匿名さん24/06/03(月) 12:47:53
- 19二次元好きの匿名さん24/06/03(月) 17:24:35
とても良いものでした…
- 20二次元好きの匿名さん24/06/03(月) 17:51:02
立場変わっても芯がぶれない子達はいいものだ
- 21二次元好きの匿名さん24/06/04(火) 02:06:32
マイペースさ、図太さだったり、
嫌なことや体調不良は結構素直に伝えてくれるとか、
芯が通ってるっぽい話はちょいちょいあるよね