スペちゃんたちがロードレースする話

  • 1二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:29:58

    注意書き
    ・単なるロードレースパロSSです
    ・ロードレース知らなくてもウマ娘知ってれば読めると思います
    ・アニメ世界でチーム競技場とかはない世界
    ・更新がのろい
    ・スペちゃんはちゃんと競馬を大事にしてるけど他の子は別の世界の子
    ・こういう王道外の変な話は初めて書きますのでおかしいかもしれない

  • 2二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:30:27

    「ふああああ……」

    私はパジャマのままゆっくりと起きて、ジリジリとなる目覚ましを止めた。
    今日も一人の栗東寮のお部屋。
    私――スペシャルウィークは、スズカさんのいない部屋で、一人朝の支度を始めることにする。

    「なんか変な感じもするけど……多分気のせいだよね」

    一人でに呟いて、とりあえず、歯磨きでもしてこようか。
    そしたら、次は着替えかな。

    違和感もすぐに消し、いつも通り、寝ぼけたままで立ち上がった。

    うん、部屋の中はいつも通り。変なことは何もないのだ。

    ★☆

  • 3二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:31:22

    「な、なんですかこれえええ〜〜〜〜!?」

    しかし、寮を出た瞬間、私は叫んだ。
    周りのウマ娘たちは、私を怪訝な目で見るが、いや、だっておかしい。

    「こ、これって……自転車……?」

    そう、寮の前にずらっと並ぶのは、いろんな色の自転車。私はこれに驚いたのだ。

    「ど、どうなってんだべ……?」

    思わず方言を出しながら、オロオロと後ずさる。

    「あれ、スペちゃん、どうしたの?」

    すると、後ろの方から聞こえてきたのは――

  • 4二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:32:35

    「て、テイオーさんん!」

    見知った声。トウカイテイオーさんだ。
    この訳の分からない状況に、見知った顔はかなりの救いだった。

    「なんでこんなに自転車が!? なんでですか!?」

    私は耐えきれず、テイオーさんに切羽詰まった質問をしてしまう。

    「え、えっと……」

    すると、やはりテイオーさんは少したじろいでいるようだ。
    それも仕方ない。こんな状況なんだ、きっとテイオーさんも質問したいはずだろう。

    「すみません。テイオーさんも良くわかんないですよね――」

    「い、いやそうじゃなくてさ。――何言ってるのスペちゃん?」

    しかし、テイオーさんから帰ってきた言葉は、確かに困惑が強いものの、当たり前だ、と言うような顔だった。

  • 5二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:33:27

    「何言ってるのって――ここって何もなかったですよね。なんで急にたくさんの自転車がってことですよ!」

    私は混乱しすぎて、少し大声になってしまう。いやでも、本当わけわかんないんだべ。

    すると、テイオーさんは、しばらく困った顔をしていたが、やがてある空色の自転車の方へ歩き出す。

    「ごめん。よく言ってる意味がわからないよ。だってこのロードバイクは、ボクたちのでしょ?」

    テイオーさんは申し訳ない顔をしながら、その空色自転車をロードバイクと呼び、チェーンを外した。
    そして、右隣にある白地に赤と黒が少し入った自転車を指さす。

    「ほら、これがスペちゃんの。アンカーのRS8でしょ。早く乗って行こう。遅れちゃうよ」
    「あ、RS8?」

    テイオーさんの言っている意味がまるでわからない。乗って行こうとは、この自転車に乗ると言うことだろうか?

  • 6二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:34:02

    私がそれ以降黙っていると、テイオーさんは少し真剣な顔で押し黙る。

    「ねえ。……もしかしてスペちゃん、記憶喪失?」

    「……へ?」

    突然言われたテイオーさんからの言葉に、私は素っ頓狂な声を上げた。

    「だってさ、自分の愛車もわかってないみたいだし、なんかおかしいし……隠さなくても、いいよ」

    テイオーさんは、優しい顔をしてそう言ってくれるけど――

    「え、えと――」

    正直今は、感謝より困惑の方が多かった。
    だって、私が記憶喪失なのだとしたら、この世界が正常ということではないか。
    この――なぜか自転車だらけの世界が。

  • 7二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:34:37

    「――よし」

    しばらく沈黙が続き、私は決心する。
    記憶喪失でもいい。今はこの状況を把握しよう。

    「えっと、その――実は記憶が曖昧で、なんで自転車がここにあるのかよくわからなくって」

    私がそう打ち明けると、テイオーさんは、

    「やっぱり」

    といい、少し悲しそうにしながらも、打ち明けてくれたことに嬉しそうにもした。

    「えっと、じゃあまずは、聞いておこうかな。――サイクルロードレースって、わかってる?」

    続く、テイオーさんからの質問。

    「わ、わかりません」

    私はこう答えるしかない。スポーツか何かっぽい名前だし、レースとついてはいるけれど、あんまり他のスポーツには詳しくなかった。

  • 8二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:35:14

    するとテイオーさんは、そこまでなのかあ、と自分の頭に手を乗せる。

    「うん、完全な記憶喪失だね。とりあえず、スピカの皆にも打ち明けて、打開策を見つけよう」

    「え、ま、待ってください!」

    突然の断言に驚いた私は、思わずテイオーさんを止める。
    完全な記憶喪失って……皆で一緒にレースしてたあの日々が間違いの記憶だなんて――思いたくない。
    私はテイオーさんを止めたあと、少し頭を下げて、感慨に耽ってしまう。

    「まあ、いきなり言われても難しいかな。ボクが先に解説した方がいいかも」

    落ち込む私に、テイオーさんは優しく声をかけてくれた。

  • 9二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:35:57

    その声に、私は顔をあげる。
    そこには、テイオーさんの優しい顔が広がっていた。

    「その、テイオー、さん」
    「ん? なあに?」

    皆でレースをした日々は、まやかしなんかじゃない。そう思う。
    なら、一刻も早く戻らないと。元の、世界に。

    「この世界のこと、教えてください!」

    まずは知るべき。情報は武器。誰かが言っていたそんな言葉を思い出し、私はテイオーさんにお願いする。

    「もちろんだよ。この世界っていうのもなんか変だけど、やっぱり記憶喪失は不安だよね」

    記憶喪失なんかじゃない。きっと世界が違うだけ。
    けど、

    「ありがとうございます」

    私は、この世界のテイオーさんも優しいんだ、と、感謝をするのだった。

    ★☆

  • 10二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:37:50

    「トレーナーには、二人で遅れるって言っておいたよ」

    テイオーさんは通話を切り、携帯をしまってそう言った。

    場所は寮の前から変わらず。私は、すっかり他の子たちが出発してがらんとした寮の前を見る。

    「ここにある自転車は、全部ウマ娘たちのものなんですね……」

    「うん。そうだよ。あと、自転車ではあるけれど、ボクたちが乗ってるのは競技用のロードバイク」

    テイオーさんは私の言葉に捕捉するように、自分の空色自転車――じゃなかった、ロードバイクに触れて説明してくれた。

    と、そこで、私は何かがピンとくる。

    「競技用ってことは――もしかしてこの自転車――ロードバイクでレースするんですか!?」

    まだ残っている私のものらしいロードバイクを見ながら、大声で叫んだ。

    「そう。それがサイクルロードレース。チームで勝利を掴み取るんだ」

    すると、テイオーさんは大声に苦笑しながらも、新鮮だなあ、なんて嬉しそうに説明してくれる。
    やはり、そうなのか。自転車って移動手段だけじゃなかったんだべ……驚きだった。

  • 11二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:40:51

    「自転車でレース、かあ」

    ぽつりと呟く、私。なんだか未知の世界だ。

    「まあ、一から教えられるのは新鮮だし、そう悪くはないね。……うーん、それじゃあスペちゃん、自分の脚質とか覚えてる?」

    しかし、このテイオーさんの質問で私の意識は覚醒した。
    脚質! これならわかる!

    「えっと、差しと先行両方いけます!」

    共通の認識ができて嬉しくて、大声で答えた。

    のに――

    「え、えっと――わからなくもないけど、それ脚質じゃないよ?」

    返ってきたのは、絶望の言葉であった。

  • 12二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:44:22

    「こ、これが脚質じゃないなら、なんなんですか!?」

    私は、合わせふためき、何度目かの質問をする。

    「差しきるとか先行するとかならわかるけど――スペちゃんの脚質は、クライマーだよね?」

    「く、くらいまあ?」

    そして、テイオーさんの解答に、またまた何度目かの素っ頓狂な声を出した。
    またまたわからない単語が出てきてしまった。
    私の脚質が、クライマー。どういうことだろう?

    「クライマーって……なんですか?」

    「山とか坂をロードバイクで進むのが得意な脚質のことだよ。ちなみにボクは、ルーラー。アシスト的なことをするのが多いかな」

    「な、なるほど……ルーラー、クライマー」

    私は復唱して、なんとか覚えようと脳に叩き込む。

    ん? でも、ちょっと待って。

  • 13二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:46:20

    「アシストって、どういうことですか? 二人で戦うんですか?」

    またまた、私は質問。
    つまり、チーム戦ってことかな? レースでチーム戦、やっぱり未知の領域だけど……。

    「二人っていうか……基本は六人かな。一人のレースもあるにはあるけど、ボクはアシストが主だからあんまり出ないや」

    「ろ、六人も!」

    「最大で八人だけどね」

    「は、八人!」

    私は驚き続けていた。

    そんな大所帯のレースが、この世にあるのかと。

  • 14二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:48:47

    「うん。ちなみに脚質は全部で、オールラウンダー、ルーラー、タイムトライアルスペシャリスト、クライマー、パンチャー、スプリンター、の六つだよ」

    「お、覚えるべ……」

    覚えらえるか自信がないが、震える声で私は答えた。

    「あとは前待ちとか逃げとかアタックとか……うーん説明するよりスピカの皆に会うべきかなあ」

    そんな中で、テイオーさんはちょっと悩んでいる様子。

    チームスピカ……きっと今はロードレースのチームなんだろう。
    見知ったのに少し違うチームメイトに会うのは、少し怖い気もする。

    でも、私は決めた。帰るためなら頑張るしかないべ!

    「私、チームスピカに行きます! ロードバイクに乗って行きます! 教えてください!」

    私の決意の声に、テイオーさんは少し驚いてこちらを見たあと……

    「うん。わかった。行こう」

    了解、と。とても優しい笑顔で返してくれた。

    ★☆

  • 15二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:54:11

    そして、数時間後。
    チームスピカの部室目指して、二人で走る私たち。

    「は、速い、速いいいい!」

    私はアンカーのRS8なるロードバイクのペダルを回しながら、慌てふためいていた。
    靴はなんか特製のピンティングシューズなるものらしく、ピンティングペダルというらしきものにかっちりハマっている。どうりで履く時ちょっとおかしいと思ったんだ。

    「はは! 上手だよスペちゃん! その調子!」

    テイオーさんはと言えば、私の前で、あの空色ロードバイク(ビアンキのアリアというらしい)に乗りながら、私の前を走ってくれている。

    結構楽しいし頼もしいけど……は、はやくて怖い!

  • 16二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 00:58:27

    自分で走るとなんとも思わないのに、剥き出しの乗り物で速く走るのがこんなに怖いなんて!

    私は慌てながらも、テイオーさんを見失わないように漕いでいく。

    「やっぱりスペちゃん、感覚は消えてないね! すごいよそのダンシング!」

    テイオーさんは振り向いて、嬉しそうに口に出す。

    「な、なんですかあ?」

    ほぼ泣き状態で答える私。ダンシングってなんだろう? とか、 感覚が消えるも何もこの世界のスペじゃないよ! とか、気にする暇もない。

    怖い怖いと思いながら、私たちは部室へと猛スピードで向かっていくのだ。

    ★☆

  • 17二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:02:53

    ロードバイクを駐輪場に置いて(この世界には大きな駐輪場があった)、やり方を習ってチェーンもかけて、私たち二人は部室前にいた。

    「おはよう、トレーナーたち!」

    意気込む私の前に、テイオーさんはガラッと元気よく扉を開ける。

    中にいたのは……

    ウォッカちゃん、スカーレットちゃん、ゴールドシップさん、マックイーンさん、トレーナーさん。

    スズカさんを除くスピカのメンバー勢揃いだ。

  • 18二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:09:46

    けれど、このスピカの皆、少し顔が暗い。
    私の方を、心配そうな顔で見ている気がする。

    「皆、話は聞いたと思うけど……スペちゃん、記憶喪失なんだ」

    すると、テイオーさんが重く口を開けた。
    ……そう、確かに、そういうことになっていた。

    「スペ、こん中でわかんないやつとかいるか?」

    ゴールドシップさんの、真剣な質問。

    「い、いえ、全員わかります!」

    そう、記憶喪失と言うが、世界が変わっただけだと思うので、皆のことは勿論わかる。

    「なんか、ロードレースの記憶がすっぽり抜け落ちてるんだよね……とりあえず皆、ロードでの役割、自己紹介しようよ」

    すると、テイオーさんの提案で、何か自己紹介が始まることになった。

  • 19二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:13:50

    (あ、ウォッカ→ウオッカです。変換ミスすみません。
    あと書き溜めが途切れて更新遅れてます)

  • 20二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:19:15

    「メジロマックイーン。わたくしはオールラウンダーですわ。なんでもできる、完璧なウマ娘ですの。ゴールを狙うエースです」

    オールラウンダー。名前に相応しい、エースの脚質のようだ。紹介するマックイーンさんも誇らしそう。

    「ゴールドシップ! ゴルシちゃん! スプリンターだぜ! 平地が得意!」

    平地が得意……クライマーの逆かな? それしても、意味が違うとは言えステイヤーのゴールドシップさんがスプリンターとはなんかややこしい。

    「ダイワスカーレット。TTスペシャリスト。独走が得意で、個人レースにもよく出ます」

    独走と言うと、チームから抜け出して一人で走るってことだろうか。それとも大逃げ的な意味かな? うーん、この辺はよくわかってない。

    「ウオッカだ! パンチャーです。スプリントとアタックが得意です!」

    スプリントとアタック……なんだかスプリンターと似た感じなのかな? この辺も後で聞くしかなさそうだ。

    「そして、俺がトレーナー。お前らの指導者だな」

    最後に、トレーナーさん。あんまり変わらない、なんか安心感だ。

    うん。これでひとまず自己紹介は終わりのようだ。

  • 21二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:25:17

    でも、ちょっと気になることがある。

    この世界にも、スズカさんはきっといる。なら、スズカさんはどうなんだろう、と。

    「あの、スズカさんは、どんな選手なんですか?」

    「あ、スズカ? スズカはオールラウンダーだよ。マックイーンと同じで、エースだった。海外遠征しちゃったけどね」

    遠くを見て答える、テイオーさん。
     
    その答えに、スズカさんはこの世界でもやっぱりすごい! なんて思った。

    一人の部屋はちょっぴり寂しい。違う世界じゃ余計に寂しい。
    でも、スズカさんはやっぱり変わらないんだろう。

    安心感が、少し増していく気がした。

  • 22二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:34:06

    「そういえば、皆観戦行かずに待っててくれたんだね」

    私の横で、テイオーさんはそう口にする。

    「観戦……? え、今日、レースを見にいく日だったんですか!? す、すみません!」

    私は、なんてことを、と謝るしかできない。違う世界でも競技にかける気持ちは同じはずなのに、なんてことを。

    「いやいや、観戦なんだから大丈夫だよ。今日はリギルのメンバーのエルとグラスがヒルクライムレースに出るから、それを見に行こうって言ってたんだ」

    テイオーさんは、大丈夫、と言ってくれるが……私は罪悪感が消えない。

    「い、今からでもよければいきましょうか!」

    思わず、と言ったように、私はそう口にする。

    「お、いいかもな。記憶喪失には実際のレースを肌で感じるのがいいかもしれないし」

    トレーナーさんも、賛成してくれた。

    周りを見渡せば、賛成の意思表示。どうやら今から、そのヒルクライムレースとやらを見にいくことになりそうだ。

  • 23二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:40:33

    そして私たちは、今度は七人で駐輪場に来ていた。
    停めている場所は違うので、一旦別れて集合にするらしい。

    「あの……ヒルクライムレースって、なんですか?」

    隣に止めたので一緒のテイオーさんに、疑問だったことを聞いてみる。

    「山を登るレースだよ。今回は24kmの個人レース。クライマーがよく出るかな、エルもグラスもクライマーだし」

    テイオーさんは、さらっと答えるけど……

    「に、24km!?」

    なんだべそれ!? 駅伝の距離!?
    私は驚きのまま叫んだ。
    この世界では、叫びっぱなしな気がする。

  • 24二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:48:08

    長くても4、5000mくらいだと思ってたのに……そうでもないようだ。覚悟が足りず驚いてしまった。

    「まあ、長いよねえ。ちなみにボク達が優勝を目指してるツールドフランスでは合計で3500kmくらい走るよ」

    けたけた笑って説明する、テイオーさん。

    「……へ?」

    さんぜんごひゃく? 

    「め、メートルですよね……今、kmって……」

    「いや、本当にkm。3500kmくらい。と言っても全部走り切るのに3週間ほど使うけど」

    困惑しきりの私に、テイオーさんは爆弾発言を続ける。

    「す、数週間かけてレースするんですか!? 一つのレースを!?」

    やっぱり続く未知の世界。驚きはまだまだ続きそうだ。
    距離が長すぎるだけでも驚くのに、そんなに長い時間一つのレースをするんだ、と。

  • 25二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 01:54:03

    「と言っても、ステージで区切られてたり、山岳賞とかスプリント賞とかあるから……うん、一つのレースっていうよりは一つの大会かな」

    チェーンを外し終え、テイオーさん自身のロードバイクを取り出しながら、彼女は改めて考えるように答えた。

    一つの大会……それでも、やっぱり規模が大きい。なんか、想像しにくい話だ。

    私もチェーンを外し終えて、自分の愛車らしいロードバイクを取り出す。

    「奥が深い……んですね」

    私もこのRS8というロードバイクと一緒に……走ることになるのだろうか。

    「スペちゃん、不安? 安心してよ、さっき見た限り全然上手だったから」

    「は、はい……」

    テイオーさんは、こう言ってくれるけど……

    この不安はどちらかというと、元の世界が恋しい。そんな不安だった。

  • 26二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 02:03:52

    そして、スピカの皆と集合する。

    ゴールドシップさんは、ピナレロのプリンスという真っ赤なロードバイク。

    マックイーンさんは、デ・ローザのTITANIO 3.2,5という、銀の色に赤いハートの入ったロードバイク。

    ウオッカちゃんは、スペシャライズドのTarmacという、赤と白のロードバイク。

    スカーレットちゃんは、トレックのÉmonda S 4という、白地に青のロードバイク。

    そしてスズカさんが、スコットのCR1という、青地に白のロードバイク。

    皆は、そう次々に説明してくれた。

    正直頭がパンクしそうだけど……この世界の皆の愛車……覚えられたらいいな。

    次はと言えば、ようやく出発。
    さて、ヒルクライムレースの会場まで、またあの怖い体験をしなければならない。

  • 27二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 02:10:24

    皆、速い!
    そして、やっぱり怖い!

    車道に出て最高峰でロードバイクを漕ぎながら、私はひいひい言っていた。

    トレーナーさんは、どうやら車で行くらしい。まあ、いいけどさ。

    マックイーンさんなんかは、めっちゃ凛々しく漕いでいるというのに……私はやっぱりおぼつかない。

    「テイオーの言う通り、やっぱり衰えていませんわね、スペシャルウィークさん!」

    と思ってたら、マックイーンさんが私を褒めてくれる。

    「あ、ありがとうございます!」

    嬉しいけど……なんだかんだでエンジョイしてるかもだけど……

    やっぱり怖いいい!

  • 28二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 02:11:30

    >>27

    最高峰→後方、すみません



    あと流石にやばい時間なので更新が朝になります。すみません

  • 29二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 02:12:43

    お疲れさまです
    チーム競技物も好きなんで楽しませてもらってます!

  • 30二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 03:13:10

    もしかしてスズカさんでやってた人かな?お疲れ様です!

  • 31二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 04:53:18

    >>30

    作者ですが、SS投稿は2回目で多分違う方だと思います


    もしかしてネタかぶってた…? すみません!


    朝に投稿開始します

  • 32二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:31:17

    最後まで書いたから投稿します

    朝ですね

  • 33二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:31:49

    そして、私たちはヒルクライムレース会場へと辿り着く。
    近くの駐輪場でロードバイクを止めて、いざ、レッツゴー。

    「か、観客いっぱい……」

    山の道の周りに、ヒト、ヒト、ヒト。
    競馬場とはまた違う雰囲気に、私は圧倒されていた。

    「まあ、強豪チーム、リギルのメンバーが出るからね。注目もされるよ」

    テイオーさんの言葉に、私は思い出す。

    「あそっか、エルちゃんとグラスちゃんが、このレースに出て、クライマーなんだっけ……」

    この世界の私と同じクライマー。山を登るのが得意らしいけど……。

    「まあ、見てれば感覚を取り戻せるかもよ。ここにいればゴール前の様子が見えるから」

    そう、テイオーさんの説明通り、ここは頂上、ゴールの周りだ。

    競馬場とは違う、自然だらけの世界。まだ違和感が凄いけど、皆ここで走っているんだ。私はゴクリと喉を鳴らした。

  • 34二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:32:23

    遅れて観戦に来たせいか、数分もたたずに実況が聞こえてきた。

    「来ました! 先頭は……エルコンドルパサー! 続いてグラスワンダー!」

    二人が……来る。

    見知った顔の二人が、ロードバイクに乗って、山を登っていた。

    元の世界のレース中の顔と……変わらない。

    真剣で、勝ちたいと言う思いを感じる顔だ。

    元の世界と……競技が違うだけで何も変わらない。追い越したくて、勝ちたいから、走るんだ。

    「頑張れ……頑張れ二人とも!」

    競り合う二人を見て、私は思わず叫んでいた。

    届いたかはわからない。でも、想いは変わらないってわかったから。

    だから、二人の姿を見届けた。

  • 35二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:32:48

    「ゴールううううう! グラスワンダー、差し切ってゴールです!」

    実況が響き渡る。

    そう、勝ったのはグラスちゃん。ほんの少しの差で、グラスちゃんの勝ちだ。

    エルちゃんとグラスちゃんは、ロードバイクから降りて、二人で握手を交わしている。

    うん、やっぱり皆、変わらない。変わっているのは競技だけ。

    私は自分の足で走るのが大好きだから、元の世界には帰りたいけど……

    「この世界も、嫌いじゃないかな。うん、むしろ好きだ」

    なんとなくそう思えて、ただ、言葉にした。

  • 36二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:33:32

    レース観戦を終えて、帰ろうと駐輪場に来た私たち。

    「テイオーさん……私、ロードレース、頑張ります」

    帰れるまで、この世界のスペシャルウィークとして、頑張ります。
    隠してる言葉は、胸の内でいう。

    すると、テイオーさんは嬉しそうに、

    「スペちゃん! よかった! 記憶がどうなったとしても、一緒に走ろうね!」

    そんなふうに、言ってくれる。

    「はい、走ります!」

    もし記憶というものが戻ったら、世界が戻ったら……それは私ではないけれど…この世界の今を大切に。そう思って、返事をした。

    ★☆

  • 37二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:34:00

    私達スピカは、部室へと戻ってきていた。

    するとトレーナーさんが、手をひょいひょいとして、私を手招きしている。

    「どうしたんですか? トレーナーさん」

    記憶喪失と言うことになっている私をピンポイントに呼ぶなんて……どういうことだろうか。

    「えっと……すまないんだが、スペ。実はさ……近いうち、チームスピカで、レースに出場することになってる」

    「……出、場」

    なるほど、私たちスピカがレースに出場。……って、うん? 出場?

    「本当にすまない。先日スペにokされたから出場することにしちまって……今のスペは、覚えてねーよな。五人でも出場はできるし……棄権するか?」

    トレーナーさんは、頭を下げてくる。

    うん、たしかに覚えていない。

    でも、トレーナーさんのせいではないし……混乱しているけれど、なんとなく棄権する気にはならない。

    この世界にいるうちは、この世界のスペシャルウィークの代わりをする。それが、義務な気がした。

  • 38二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:35:00

    「いいえ、出場します、トレーナーさん。どんなレースなんですか?」

    「スペ……」

    私の言葉に、まっすぐ私を見つめる、トレーナーさん。

    そらしはしない。出る、と、意思表示したいから。

    「スペちゃん、本気だねえ。ボクも嬉しいよ」

    横から聞こえてくるテイオーさんの声。少し心苦しいけれど、その期待に応えたい気持ちは嘘じゃない。

    するとトレーナーさんは、観念したように笑った。

    「わかった。出てくれるんなら、出すからな」

    「はい! 勝ってみせます!」

    やるからには、勝つ! 私はそう、返事をした。

  • 39二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:35:40

    「それで、どんなレースか、だっけね。最近新設された日本唯一のワンデーレースにしてクラシックレース『ツールドフジ』だよ。富士山を登るんだ」

    テイオーさんは早速というように説明してくれるけれど……

    「ワンデーレース? クラシックレース?」

    私は結局はてな満開で聞き返した。

    「ワンデーレースは一日だけのレース、クラシックレースは格式高いレース、要するに強者の集まるレースのことですわ」

    その疑問には、マックイーンさんが横から答えてくれる。
    なるほど……3週間でレースと聞いた時はびっくりしたけれど、一日だけのチーム戦もあるようで、少し安心だ。クラシックレースは……要するにGIみたいなものだろうか。

    「とりあえず……基礎用語と基礎知識を教え直すべきだと思いますわね」

    マックイーンさんは私の様子を見て、心配してくれているのか、部室の棚にある『ロードレースの基礎知識』という本を引っ張り出す。
    ぐうの音も出ないので、私はそれを読むことにしよう。

  • 40二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:36:44

    「じゃあ、スペはとりあえずそれを読んでてくれ。わからないことがあれば俺たちに聞けばいい」

    「はい、わかりました!」

    トレーナーさんの指示に、精一杯の返事をする。

    「じゃあ、ボクはここにいるから、皆トレーニングしてきて。大丈夫、全部答えてみせるよ」

    テイオーさんはと言えば、胸を張りながら、皆に向けて提案した。

    「テイオー……いいのか?」

    「だってトレーナーはいなくちゃダメだし、全員行ったらスペちゃん一人だし。ならボクが残ったほうがいいでしょ?」

    当然、というようにトレーナーさんに返すテイオーさん。

    「こう見えて責任感じてるんだよ? だからやらせて」

    テイオーさんは、おちゃらけたようで、どこか真剣に見えた。責任って……どういうことなんだろう?

    「わかった。なら、ここは任せたぞ」

    そしてトレーナーさんの言葉で、私たちは二手に分かれることになる。

    ★☆

  • 41二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:38:53

    私は、あの基礎知識の本を開く……前に、

    「あの、テイオーさん、責任ってなんですか?」

    隣の彼女に、気になっていたことを聞いてみた、

    「あー。やっぱり気になるよね。言わないわけにもいかないか」

    テイオーさんは頭をかきながら、少し悩んだ顔をする。

    「実はさ、スペちゃん、昨日落車、えっと、ロードバイクで事故っちゃったんだよ。他の生徒に巻き込まれて、ボクと一緒に……なんとも無いと思ってたけど、もしかしたらそのせいで……」

    そこまで言うと、テイオーさんは押し黙った。
    つまり、ほかのウマ娘に巻き込まれて、二人して落車。それが記憶喪失の原因では? と言うことだろう。

    そんなこと、あるはずがない。私は私で、きっと違う世界から来たんだから。

    「テイオーさんが気に止む必要はないです! きっと原因は別ですよ!」

    記憶喪失という体のまま、私は精一杯励ましを返した。

    「はは。ありがと、スペちゃん」

    テイオーさんは、笑ってくれたみたいだった。

    ★☆

  • 42二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:39:34

    そして、後は、勝つためにひたすら練習。

    「怖くない、怖くない……!」

    次の日私は、テイオーさんとトレセン学園の野外コースでロードバイクを漕いでいた。

    「そうそう、いい感じ。恐怖さえ消せれば大丈夫!」

    テイオーさんも、励ましてくれる。
    うん、たしかに、ずっと回していれば慣れてきて、本当に怖くない。

    回すほど、速くなる。

    いい景色と、いい風だ。スズカさんの言っていた先頭への思いが少しわかる。

    「よーし! ひたすら漕いで、特訓だあ!」

    「おー!」

    そんな掛け声と一緒に、私はテイオーさん指導の元、猛特訓を開始するのだった。

    ★☆

  • 43二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:41:21

    「天気は快晴! 絶好のレース日和ですね」

    聞こえてくる、実況の音。

    私たちスピカは……チームのテントにいた。

    なんと、あれから1週間、もうツールドフジの開幕だ。

    私はすっかり、ロードレースの知識を身につけた……と思いたい。技能も、1週間で身につく程度なら、なんとかできたんじゃないかなあ。

    「えっと、やっぱり注目されてるのはリギルかな。あと、カプーノスとかも結構来てる」

    私は今テイオーさんから、伝え忘れていたと言われた他チームの情報を聞いていた。

    「リギルって確か十人いますよね? この大会は六人制限だった気がするんですが、誰が出るんでしょう…?」

    「オールラウンダーのシンボリルドルフカイチョー、ルーラーのエアグルーヴ、スプリンターのナリタブライアン先輩、パンチャーのフジキセキ先輩、クライマーのオペラオー、TTスペシャリストのマルゼンスキー先輩、がいつものメンバーかな。うん、今回の表にもそう書いてある」

    「なるほど」

    返ってきたテイオーさんの返答に、相槌を打つ。
    うん、もう用語もちゃんと理解できていた。

  • 44二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:41:52

    「グラスちゃん、エルちゃん、タイキシャトルさんにヒシアマゾンさん、は、出ないのかな」

    「皆個人レースにはよく出てるんだけどね。リギルは激戦区だから」

    私の疑問に、手を振って答えるテイオーさん。

    つまり、チーム皆が強いから強いウマ娘でも選ばれる訳じゃない、ってことだろう。スピカも……スズカさんがいたら多分私余ってただろうな、とか思う。
    いや、この世界の私ならきっと選ばれようとするだろうけど……『私』は、どこかまだロードレースを遠くに見ているのかもしれない。

    そんなネガティヴを振り払おうと顔をブンブンさせて……私はあることに気づいた。

    「あれ、というかカプーノスって四人だった気がするんですけど……」

    「うん、クライマーのナイスネイチャ、ルーラーのマチカネタンホイザ、スプリンターのツインターボ、オールラウンダーのイクノディクタスの四人。でもこの大会は四人からなら出れるから、六人いなくても大丈夫」

    「なるほど。そうなんですか」

    テイオーさんの答えに納得して、再び相槌を返す。

    四人で挑むって少し大変そうだけど……どうなんだろうか。

    ★☆

  • 45二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:42:47

    そうこうしているうちに、出走が迫ってきた。

    すっかり馴染んだロードバイク、RS8に乗って、私たちスピカは集団の前方に位置どる。
    かなりいい成績のチームだから、割と良い位置でスタートできるらしい。

    もうすぐロードレースでのスタートの合図……旗が動く!

    そして今、旗が動いた――

    「今、スタートの合図が成りました! 選手たち、続々とスタートしていきます!」

    実況の声と共に、私たちはペダルを漕ぎ出す――

    ★☆

  • 46二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:43:58

    固まって動いている、私たちのチーム。

    「さて、まずは平地かあ。ここはスプリンターたちに任せなきゃね」

    テイオーさんの声と共に、ゴールドシップさんとウオッカちゃんが前に出た。

    そう、ここは平地で、ここで有利に進めれば優勝に一歩近づく。スプリンターとパンチャーにここは任せるべき、ということだろう。
    1週間で得た知識で、私は考えた。

    「スペちゃん、山岳地帯まで足貯めといてね!」
    「了解です!」

    テイオーさんの言う通り、頂上での優勝のため、今はあの二人に任せよう。これは、チーム戦なのだから。

    ★☆

  • 47二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:44:11

    ゴールドシップさんとウオッカちゃんを送り、私達四人は風除けとして先頭交代しながらバランスの良いペースで走っていた。

    「ゴールドシップさんたち、どうしていますかしらね」
    「きっと上手いことやってます!」

    マックイーンさんに対し、私は元気よく答える。
    練習で見たあの二人の走りも、向こうの世界と同じですごいものだった。きっと、勝ってくれる!

    とは言っても――ハラハラドキドキしながらも、私たちは見えないまま待つだけ。
    チーム戦は、やっぱり少し怖い。

    どうなるかわからないまま、今はただ信じるしかないんだ。

    ★☆

  • 48二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:44:35

    かなり進んできたところで、あたりが少しざわっとし出す。

    もうそろそろ、山岳地帯だ。二人は、どうなっただろうか。

    そろそろ合流できる頃だろうか。

    結局このワンデーレースはゴールが全てだ。平地で勝つ意味は特にないけれど――スプリンターの意地、とかは、あるんじゃないかな、とは思う。

    順位はどうなのか。やっぱり気になってしまうものだ。

    そうして、最後の平地のカーブを曲がった私たち四人は――

    「おりゃあああ!」

    遠くの方で――一番先頭でガッツポーズをする、ゴールドシップさんを見た。

  • 49二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:45:25

    「よくやりましたわ、ゴールドシップさん!」

    先頭の二人と合流していの一番に、マックイーンさんは喜びを声にする。

    「だから言ったろ、勝つって!」

    ゴールドシップさんは、鼻をこすって得意げだ。

    「いやあ、ほかの奴らが強い強い。アシストばっかで自分の順位がダメダメだったぜ」

    ウオッカちゃんは、少し悔しそうだけど、

    「アシストは立派なことよ。誇りなさい」

    うん、スカーレットちゃんの言う通り、凄いことだ。

    「二人とも、本当にすごい!」

    私も、目をキラキラとさせて本心から言った。

    ――そして、次は、私の番。

    「さて、山岳地帯ですわね。と言ってもゴールは頂上。なのでエースの私とエースアシストのテイオー、そしてクライマーのスペシャルウィークさん。この三人で行きます。引くのはスペシャルウィークさんに任せましょう。後の三人は後ろで機会を伺って、終盤抜けるようなら抜いてもいいですわ」

    「了解です!」
    「了解!」

    マックイーンさんの指示に、私とテイオーさんは勢いよく前に出た。

    今度は、私の勝負の始まりだ……!

  • 50二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:46:20

    ★☆



    先頭で凄まじい風を浴びながら、私は二人を率いて、坂を登る。

    前にはチームリギルがいて、後ろにはカプーノスがいるようだ。

    リギルとの差を、詰めなければ……!

    回せ、回せ……!

    しかし、回してるのに、全然差が縮まらない。

    先頭で引いてるクライマーのオペラオーさん、速すぎる……!

    回さないと、回さないと……!

    「おりゃあああああ!」

    私はただ、ただただ回す。大声出して、気合を上げて。

    走るのと一緒だ。用は数を上げればいいんだ。ケイデンス、回転数が大事だ。

    なのに差が……

    「縮まらない……」

  • 51二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:47:01

    私が、息をはあはあと吐いていると……

    「スペちゃん、落ち着いて! 冷静にならなきゃ勝てるもんも勝てない、抜けるもんも抜けない!」

    後ろから、テイオーさんの声がした。

    「今のあなた、ダンシングがおかしくなっていますし、空回りしていますわ。落ち着いてください」

    続く、マックイーンさんの冷静な指摘。

    「空回ってる……」

    私は、言葉を反芻する。
    たしかに、そう思っていた。ペダルを回しても回しても空回っている感じがする、と。

    「落ち着いて走れば、スペちゃんはすごい。だから気負わないで走って」

    テイオーさんの言葉が、スッと染み渡る。

    気負わないで、走る。

    この世界とか、向こうの世界とか、そんなこと考えないで、スペシャルウィークとして。

    ……もしかしたら私、この世界で、ただ楽しんで走ってみてもいいのかもしれない。

    「はい、走ります!」

    私は再び、ペダルのケイデンスをはやめることにした。今度は、目一杯楽しんで!
    ★☆

  • 52二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:47:21

    負けない! 楽しんでかつ、勝ってみせる!

    その思いで、私は今、オペラオーさんと抜いたり抜き返されたりを繰り返していた。

    向こうも必死で回している。だから抜いても気は抜けず、抜き返してくるんだ。

    「スペちゃん、全力で回していいよ! もし倒れても、ゴールは絶対マックイーンと取るから!」

    「もちろん、です!」

    もちろん、全力で回し続けてやる! チーム戦なんだ、絶対に、ゴールドシップさんたちがとってくれたものは落とさない!

    回せ。回せ。足が千切れるまで、ただ回せ!

    ★☆

  • 53二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:48:07

    そうしてオペラオーさんとの抜き合いは終わらないまま、最終局面に突入しようとしていた。

    「トレーナーから指示が来た。スカーレットが独走でスピード上げてるって。合流して四人になって先頭交代戦法でスピード上げよう! スペちゃんは、今のまま走ってていいよ!」

    テイオーさんは、無線機で貰ったトレーナーさんからの指示を伝えてくれる。

    スカーレットちゃんがくる……心強い。

    なら、もっともっと速度を上げられる!

    オペラオーさんを、突き放してみせる!

    なんとなくスピードが、どんどん上がっていく気がした。

    「おりゃあああああ!」

    いけ。何度でも言う、回せ!

    私は、どんなレースでも強いんだと!

  • 54二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:48:46

    「や、やばいスペちゃん……オペラオーだけじゃない。後方から……ネイチャが来る!」

    そこで、テイオーさんの声が聞こえた。

    ネイチャさん……って、あのカプーノスのクライマー……?

    そう思いながらも必死に回した瞬間、

    リギル、スピカ、カプーノス。

    この3チームは、

    オペラオーさん、私、ネイチャさんを先頭に、並んだ――

    「いつの間に来てましたの!?」

    後ろで驚く、マックイーンさんの声が聞こえる。

    でも、相手が誰でも、一番になることに変わりはない!

    「幸いカプーノスもリギルも三人だ! スカーレット合流までなんとか粘ってスペちゃん!」

    「はい!」

    粘れ、むしろ合流前に勝ってしまうくらいの気持ちで。私は勢いよく返事をした。

    ★☆

  • 55二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:49:29

    3チームの抜き合戦は、いまだに続く。

    そこで、新たな風がやってきた。

    「ダイワスカーレットです! 合流しました!」

    後ろで、聞こえる声。スカーレットちゃんだ。

    「今です、私に先頭を!」

    続く、マックイーンさんの声に、私は速さを維持したまま、マックイーンさんと先頭を交代する。

    テイオーさんとも入れ替わり、マックイーンさん、テイオーさん、私、スカーレットちゃんの順番になった。

    「さて、見せてあげましょう、エースの走り!」

    そうしてマックイーンさんは、勢いよくペダルを踏み込んだ。

    ★☆

  • 56二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:50:36

    あと1km。もう、皆隊列もなくバラバラだった。

    ひとり走るスカーレットちゃんと私。

    エースとして会長さんと先頭を争っているマックイーンさん。それをアシストし続けるテイオーさん。

    私とスカーレットちゃんは、巻き返しも不可能なほどに先頭から離れてしまっている。
    悔しい。――でも、今は会長さんとの勝負に、マックイーンさんたちが勝つことを祈ろう。

    そして高順位を狙って、私も走る、回す――!

  • 57二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:51:38

    「勝って見せる!」

    マックイーンさんの思い。

    「アシストしきってみせる!」

    テイオーさんの思い。

    「勝ってみせるさ!」

    会長さんの思い。

    「3番手でも勝つしかない!」

    イクノディクタスさんの思い。


    いろんな想いを乗せて、今――――――

    決着が、つく。


    『ゴーーーーーーーール! 決まりましたあああ! 優勝はメジロマックイーン! メジロマックイーンです! トウカイテイオー、ゴール直前のリタイアだが見事なアシストだったああ』


    後方の私の耳に、そんな実況が聞こえた。

    ★☆

  • 58二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:51:54

    ちなみに、私は6位だった。なかなかかな、とは思うけどちょっぴり悔しい。

    総合優勝は、もちろんスピカ。マックイーンさん。
    開閉式では、とっても誇らしい気持ちで壇上に登った。

    帰りは皆疲れたってことで、トレーナーさんの車にロードバイクを積んで、車で帰るそうだ。

    なんだか、そうとわかってきたらちょっと眠くなってきたなあ、なんて――――


    「スペちゃん。ありがとう」

    「記憶喪失じゃないって、途中からなんか感づいちゃった。あっちの世界のボクに、よろしくね」


    ――――何――――?

    テイオーさんの声が、途切れて――――


    ――――

    ――――

    ★☆

  • 59二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:52:21

    「ふああああ……」

    私はパジャマのままゆっくりと起きて、ジリジリとなる目覚ましを止めた。
    今日も一人の栗東寮のお部屋。
    私――スペシャルウィークは、スズカさんのいない部屋で、一人朝の支度を始めることにする。

    「なんか変な感じもするけど……多分気のせいだよね」

    一人でに呟いて、とりあえず、歯磨きでもしてこようか。
    そしたら、次は着替えかな。

    違和感もすぐに消し、いつも通り、寝ぼけたままで立ち上がった。

    うん、部屋の中はいつも通り。変なことは何もないのだ。

    何か少し、変わった感じがしたけれど、窓を開ければ、いつもの風景が広がっている。

    「おかえり、私の世界」

    自分でも何言っているかわからないけど、なぜかそう、口に出た。

  • 60二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 08:52:45

    (と言うことで終わりました!
    1個目よりいいねがついて嬉しい限りです)

  • 61二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 19:17:00

    いいSSだった……
    ロードレース全然わかんないけど

  • 62二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 19:50:21

    面白いSSだった
    チーム戦もいいよね

  • 63二次元好きの匿名さん22/02/05(土) 23:58:02

    細かいところになると
    本編後テイオーみたいなイケメン感が好きなのよね
    アシストも得意そうな

  • 64二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 11:19:09

    面白かった!
    ただ、スレ画とスレタイでちょっと見落としてた
    作者さんの次回作も見たいから、次回作はスレ画を汎用のやつ以外にしたりスレタイに[SS]とか付けてほしいかも

  • 65二次元好きの匿名さん22/02/06(日) 13:41:08

    ありがとうございます

    SSはつけ忘れました、次はつけます!アドバイスありがとうございます

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