ウマ娘名作文学『ジキル博士とハイド氏』

  • 1読み手24/06/06(木) 21:36:11

    19世紀、ロンドンのある日曜日。

    弁護士のアタスンと、その友人のエンフィールドは街を散歩していました。

    とある裏路地に差し掛かった時、エンフィールドは一階にも二階にも窓の無い不気味な建物を指差しました。


    アタスン dice1d114=17 (17)

    エンフィールド dice1d114=19 (19)


    ※ホスト規制などで0時を超えると書き込めないことが多いです。お見知り置きを。

  • 2読み手24/06/06(木) 21:40:56

    「アタスンさん、知っていますか?数ヶ月前に起きた、とある事件のお話なんですけれど…。」
    「ほう…いい暇つぶしになりそうだ。聞かせてくれエンフィールド。」
    「では、お言葉に甘えて…!コホン…あれは、冬の明け方の暗い時間でした…。」

    エンフィールドはその事件とやらについて、詳細に語り始めました。

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 21:44:29

    7冠と6冠だから圧がすごい

  • 4読み手24/06/06(木) 21:48:03

    「急いで歩いていた小柄な男がですね、曲がり角から走って来た8〜9歳ぐらいの小さい女の子と出会い頭にぶつかってしまったのを見まして。女の子は尻もちをついてその場で泣いてしまいました。」

    「続けてくれ。」

    「ところがですよ?そのぶつかった男はあろうことか女の子が最初から居なかったかのように無視し、果てには女の子の身体を踏みつけてそのまま立ち去ろうとしたのですよ…!」

    「ひどい男だな…。」

    「あたしが流石に男を呼び止めると、男はゆっくり振り返りながらあたしをギロッと睨みつけたのです…。背筋が凍るかと思うほど冷たい目をしていました…。また後で聞いたのですけれど、その男の名前は『ハイド』というそうです。」

    「ハイド…この辺ではあまり聞かない名前だな…。」

    「誰でも覚えているアタスンさんでも知らないのなら、無理はないでしょう!」


    ハイド dice1d114=51 (51)

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 21:48:57

    ヤミノフラワー…

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 21:49:44

    このフラワーは
    あかん

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 21:51:49

    まあ小柄だけども役割逆じゃない……?

  • 8読み手24/06/06(木) 21:53:41

    「立ち去ろうとするのであたしが必死に食い止めていたら人だかりが出来まして、観念したのか口を開き始めたのです…。」

    『あら、何か御用でしょうか?』
    『御用って…あなた、小さな女の子を踏んづけて何も思わないんですか!?怪我までしてるんですよ!?』
    『はぁ…特には。』
    『………。』

    「言葉遣いだけは一丁前に綺麗でしたけど、あたしはあの澱んだ紫色の瞳を見逃しはしませんでした。」

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 21:55:27

    新作ありがとう
    実は原作あんまり知らんから楽しみ

  • 10読み手24/06/06(木) 22:02:51

    『何をすればいいのですか?謝罪ですか?それともお金?お金ならたくさんありますよ。待っていてください。』


    「話している間、まばたきもしない本当に怖い男でした。しばらくしてあたしが指差したこの建物に入っていったんです。」


    『これでよろしいですか?』


    「ハイドはこの不気味な建物からとても眩い光を放つ金貨と、署名の入った小切手を持って来たのです。一応それで事は済みましたけど…。」

    「署名入りの小切手と?それは珍しい。」

    「小切手に署名を書いてしまっていた紳士はきっとハイドに騙されているのでしょう。」

    「その紳士の名は覚えているかな?」

    「えっと…『ヘンリー・ジキル』という方だったかと…。」

    「ジキル…!?…………ハイド…!そうだ!思い出したぞ!」


    アタスンは友人 ヘンリー・ジキルの遺言状に書かれていた『エドワード・ハイド』という人間の名前を思い出しました。


    ジキル dice1d114=60 (60)

  • 11二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 22:07:52

    ここでネイチャさんかあ...

  • 12読み手24/06/06(木) 22:15:23

    自宅に戻ったアタスンはジキルの遺言状を広げた。
    ジキルは実際に今日まで死ぬことは無かったが、最近は用事で屋敷をよく留守にする事が増えていた。万が一に備えて用意しているのだろう。
    あの後散策して分かったことだが、ハイドが入っていったあの建物はジキルの屋敷にある実験室の裏口であった。後で行ってみなければとアタスンは決意した。

    ジキルの遺言状を広げると、次のように書かれていた。

    『アタシが死ぬか、"3ヶ月以上失踪"した時、財産の全部を友達の「エドワード・ハイド」に相続します。』

    「やはり書かれていた…。ハイド…奸佞邪智を極めたような男だ。ジキルから貰った金を手切れ金に使うなど…。」

    友が悪人に騙されていると知ると、アタスンは許せない思いだった。なんとしてでもハイドを問い詰めねばならないと思い立ち、あの裏口の監視を始めたのだった。

  • 13読み手24/06/06(木) 22:22:36

    数日経ってアタスンは報われた。
    ハイドがあの裏口へ入って行こうとするところに出くわしたのだ。
    ハイドはまるで我が家のように裏口の鍵をポケットから出し、中に入ろうとしていた。

    「ハイドさん、ですね?」
    「はい、なんでしょう?」

    振り返ったハイドを見て、アタスンは思わずギョッとした。
    エンフィールドの言った通り、ハイドの目はこの世の底にでも繋がっているのではないかと思えるほどの暗い紫色の瞳をしていた。

    「私はアタスン。弁護士をしていてね、ジキル博士とは友人でもあるんだ。中に入れさせてもらえないかい?」
    「はぁ…でもごめんなさい。博士は留守なのです。」

    まばたきもせずにそう言うと、ハイドは扉を勢いよく閉めた。

    「………屋敷側から尋ねてみるか。」

  • 14読み手24/06/06(木) 22:24:32

    「ごめんください。」


    アタスンが尋ねると、ジキルの召使いであるプールが迎えてくれた。


    プール dice1d114=33 (33)

  • 15読み手24/06/06(木) 22:31:20

    「あら、アタスンさん。いつも旦那様がお世話になっているわね。」
    「プールさん、単刀直入に言うが…貴方はハイド氏について何か知っているかい?」
    「いいえ、旦那様のご友人だと言うことだけよ。」
    「ハイド氏からの自称かい?」
    「いいえ、旦那様から言われたわ。」
    「そうか…。でも、いくら友人とはいえ、博士が留守なのに屋敷に入っていくのが見えたがいいのかい?」
    「…旦那様がそうしろって言ったのよ。ハイドさんの言う事も聞くようにって。あの人…何考えてるのか分からないし、正直怖いわ。」
    「………。」

    間違いない、ジキルはハイドに騙されている。
    そうアタスンは推理をしました。

  • 16読み手24/06/06(木) 22:44:25

    2週間ほど後、アタスンはジキル主催の晩餐会に招かれた。
    会が終わった後、アタスンは1人居残ってジキルと会話を交わした。

    「おいっす〜。アタスンさんが飲み足りないなんて珍しいね〜。どうしたの?新作のダジャレでも思いついた?アハハ…。」
    「…突然だが、ジキル。私はあの遺言状に賛成出来ないな。」
    「…………!」
    「…遺言状に書かれていた『エドワード・ハイド』という男の人となりが多少分かってきた。」

    そう言うと、ジキルの顔は急に青ざめ、目の周りは険しくなり、身体は震え始めた。
    アタスンはその様子から、ジキルがハイドによっぽど酷いことをされているのだと感じた。

    「大丈夫かいジキル?……もう、打ち明けてほしい。私ならきっと、君の力になれる。」
    「あ、ありがとうアタスンさん。でも、大丈夫だよ!ホントに大丈夫!ハイドとはね、うん、そうだ。切ろうと思えばすぐに縁を切れるんだ!…うん。そうなんだ…。」

    アタスンは青ざめ、震える友人を見捨てることなど出来なかった。

  • 17読み手24/06/06(木) 22:50:49

    「大丈夫だ。私がついている。」
    「……アタスンさん…。でも、約束は守ってほしいんだ。絶対に。アタシが死んだらハイドにお金を渡すのは、絶対に…。」

    ジキルの黄金のように輝かしい黄色い瞳が、涙で更に煌びやかに光る。
    友の瞳を悲しみの涙などで輝かせるなど今後はさせるものかと、アタスンは改めて決意を固めるのでした。

    「ジキル、これをあげるよ。」
    「杖…?高そうだけど…いいの?」
    「あぁ、安いものさ。友の抱える苦しみに比べたらね。」
    「アタスンさん…!」

    黄金の輝きが喜びの涙で更に輝くのをアタスンは満足するように見届けるのでした。

  • 18読み手24/06/06(木) 22:55:55

    それから一年ほど経った頃の10月。
    ロンドン市民はとある凶悪事件に震撼しました。
    ダンヴァーズ・カルー卿という老紳士が、ハイドにステッキで撲殺されたのでした。

  • 19読み手24/06/06(木) 22:59:26

    現場には折れたステッキが残されており、それは以前アタスンがジキルに贈ったあの杖と同じ物でした。
    警察は躍起になってハイドを逮捕する為にロンドン中を調べ上げましたが、数ヶ月間の捜索も虚しくハイドは姿をくらましたままでした。

    …まるで、そんな人間など最初から居なかったかのように。

  • 20読み手24/06/06(木) 23:01:57

    ハイドが失踪してからのジキルは憑き物が落ちたかのように明るくなった。

    (無理もない、頭を悩ませる友人がどこかへ行ったのだ。よっぽど嬉しいのだろう。)

    アタスンはそう思いながらジキルと楽しく過ごした。

  • 21読み手24/06/06(木) 23:06:49

    しかし年も明けて1月になった頃、ジキルは突然姿を見せなくなった。

    同じ頃、アタスンとジキルの共通の友人であったラニョン博士が強い精神的ショックで寝込み、そのまま死んでしまった。


    ラニョン博士 dice1d114=113 (113)

  • 22読み手24/06/06(木) 23:09:08

    ラニョン博士は死の間際に手紙を残しており、アタスンのところにも数枚やってきた。
    手紙にはこれまでの日々についての感謝が書かれていたが、一つだけ変な封筒が入っていた。
    その封筒には『ジキル博士が死ぬか、もしくは失踪するまでは絶対に開けちゃだめだよ』と大きく書かれていた。

    「…ジキルと何かあったのだろうか。」

  • 23読み手24/06/06(木) 23:15:26

    それからしばらく経ってある晩のこと、アタスンの家をプールが慌ただしく尋ねて来た。

    「ちょっと良いかしら…!?」
    「プール…?そんなに慌ててどうしたんだい?」
    「だ、旦那様が書斎に入ってからもう3日も経つのに、一向に出てこないの…!私…私…!」
    「落ち着いてくれプール。私も同伴しよう。」

    アタスンはプールを連れてジキルの屋敷へと向かいました。

  • 24読み手24/06/06(木) 23:23:04

    書斎というのは、あの実験室のあるみずぼらしい建物の中だった。
    アタスンが心配そうに扉を叩く。

    「誰ですか!?」

    おや?ジキルの声はするが、喋り方が変だ。
    アタスンはそう思った。
    プールが口を開く。

    「旦那様、アタスンさんが旦那様の様子を見に来られましたよ…!」
    「アタシは誰とも会わないって伝えて…!」

    今度は喋りはジキルっぽかったが、ジキルっぽくない声が聞こえて来た。
    耳をすませてみると普段のジキルの足音とは違った軽い足音が書斎には響いていた。

    「や、やっぱり…旦那様はもう…!?」
    「…プール、私たちは真相究明のためにも今、動かなければいけない!」

    アタスンはクワを持って書斎の扉の前に立ちました。扉を破るつもりのようです。

  • 25読み手24/06/06(木) 23:26:38

    「ジキル!会ってくれ!いや、会わなければならないんだ!」
    「やめてください!!!」
    「………!ハイドの声だ…!ハイド!そこで何をしているんだ!ジキルをどうするつもりだ!」
    「何もしません!何も…!だからお願いです!その扉を開かないで…!」
    「うるさい人殺しめ!プール、手伝ってくれ!扉を破壊するぞ!」

    2人が書斎の扉を破ったその刹那、甲高い叫び声が屋敷中に響き渡りました。

  • 26読み手24/06/06(木) 23:29:20

    書斎には、割れたビンを手にしたハイドの死体が転がっていました。

    「…………そうだ!ジキルは?ジキル!!!」

    アタスンとプール、後から到着した警察も必死にジキルを探しましたが、結局彼は見つかりませんでした。

  • 27二次元好きの匿名さん24/06/06(木) 23:31:56

    火サスのテーマが聞こえる……

  • 28読み手24/06/06(木) 23:42:07

    ジキルの部屋からはアタスン宛の封筒が見つかりました。
    ラニョンとジキル双方が残した封筒を見るためにアタスンは家路につくのでした。

  • 29二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 00:44:06

    なぜお亡くなりになってしまったのか

  • 30二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 01:45:17

    普通に文学の勉強になるから好き 完走待ってます

  • 31読み手24/06/07(金) 07:53:48

    家に帰る途中でも、アタスンは自身の中の妙なつっかえを払拭出来ずにいた。
    警察の調べによるとハイドは青酸自殺だった。部屋中に杏仁の匂いがしたからそうだろうとは思っていた。
    ただ、アタスンが引っかかるのはハイドがやたらブカブカの衣服を身に纏っていたことだった。
    ジキルを攫った後にわざわざ部屋に入って、なぜあんな動きにくい服を着ていたのか理解に苦しんだ。

  • 32読み手24/06/07(金) 08:01:19

    家に帰ったアタスンはまず、ジキルの残した書類数枚と手記に目をやった。
    書類にはあのジキルの遺言状の原本があり、相続人名『エドワード・ハイド』の部分が黒く乱雑に塗りつぶされ、その上にアタスンの名前が書いてあった。端には殴り書きで『弁護士費用の足しにしてください』と書かれていた。
    手記の方はとても分厚かったので、アタスンはまずラニョン博士の手記を開いた。

    以下はその内容である。

  • 33読み手24/06/07(金) 08:09:00

    4日前だったかな。ジキルから手紙が来た。

    『ラニョンさん、ごめん。アタシの屋敷の書斎に入って、棚の上から4番目にある引き出しをそのまま引き抜いて持ち帰ってほしいんだ。深夜にアタシの友達が受け取りに来るから、渡してあげて。』

    ウチは言いつけ通り引き出しをそのまま持って帰った。引き出しの中はよく分からない薬品と、調合するための器具とかが入ってた。
    その日の夜12時。ビッグベンの大きな鐘の音が聞こえた頃にソイツは来た。
    小柄で、一見礼儀正しそうだけどまばたき一つしない、絵の具で塗りつぶしたみたいな紫の目をした不思議な男だった。
    事件の影響で指名手配されていたから、顔は知ってた。間違いなくエドワード・ハイドだった。

  • 34読み手24/06/07(金) 08:15:11

    ウチは指名手配犯の来訪に怖くなって、終始震えてた。

    「"あれ"は手に入れましたか?」
    「う、うん…これだろ?早くジキルに渡してあげてよ。夜も遅いしさ。」
    「………そうですね。"一刻も早く"、渡してあげることにしましょう。」

    そう言うとハイドは目の前で薬を調合し始めたんだ。
    熱心に、でも手早くて…。本当にあっという間に終わった。
    薬が調合出来た後、ハイドはニタって笑って薬を眺めてた。もちろん、目は一つも笑ってなかった。貼り付けた笑顔って表現が一番合ってると思う。

  • 35読み手24/06/07(金) 08:23:50

    「薬はちゃんと手に入ったと、ジキルに伝えます。」
    「あぁ…そうしてくれよ。ジキルからのお礼は明日の夕方とかかな?」
    「………?いえ、"今ここで"聞かせてあげますよ。」
    「……………は?」

    そう言うとハイドは更にニタっと笑って、持っていた薬を天井に掲げたんだ。

    「世の中にはですね!不思議なことが沢山あるんだよ!アタシみたいにね!ラニョン!」

    ハイドはそう言うと薬をゴクっと飲み込んだ。

    「ゴホッ!ゴホゴホッ!」
    「だ、大丈夫か…?ハイド…。」

    ウチが心配してハイドの背中をさすってたその時だった。
    ハイドの背中が突然ボコボコ盛り上がって、がっしりして行くのを感じたんだ。
    背は明らかに伸びて、髪の毛も伸びて色が変わっていって、顔の周りがまるで焼け爛れたみたいにドロドロ溶けていってた。
    ウチは、ハイドの紫色の不気味な目が見る見るうちに黄金みたいに綺麗な黄色い目に変わって行くのが見えたんだ。
    そして…さっきまでハイドがニタニタ不気味に笑っていたところには、紛うことなきウチの友達『ヘンリー・ジキル』が居たんだ。

  • 36二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 08:30:33

    このレスは削除されています

  • 37読み手24/06/07(金) 13:14:08

    …ウチはそれから怖くなって、体調を崩しちゃった。もうじき死んじゃうと思う。
    せめて、この手紙が一生アタスンに読まれないことをウチは願ってるよ。


    アタスンはラニョンの手記を読んで絶句した。

    「ハイドがジキルに変身…?」

    アタスンは何かの冗談だと思った。
    アタスンはまるで否定する材料を探すかのように、そのまま分厚いジキルの手記を手に取り読み始めた。

  • 38読み手24/06/07(金) 13:21:56

    『ヘンリー・ジキルの告白』

    アタシは18××年、資産家の子として生まれた。
    生まれながらの秀才...そう呼ぶ人も居たっけ。とにかく周りから期待されて、甘やかされる毎日だった。

  • 39読み手24/06/07(金) 13:31:48

    でも...アタシには’’悪い癖’’があった。
    今、このアタシに優しく話しかけてくれてるこの人の顔を思いっきり殴ったらどんな反応をするんだろうとか、このいっぱい重なってる紙の束に火を付けたらここは火事になって跡形もなくなるのかなとか、いつしかそういうことを考えるようになっていった。
    それが我慢できなくなったのは大学生の頃だった。突然顔を殴っては「ごめんなさい」、興味本位で火を付けたら「ついうっかり」。こんな言葉を付け加えるだけで、みんなみーんな許してくれた。
    周りに否定されなかった結果、アタシはますますこの突然起きる’’悪’’の衝動の魅力に逆らえなくなっていった。

  • 40読み手24/06/07(金) 13:48:16

    これじゃダメだと待ったをかけたのは、他でもないアタシ自身だった。善のアタシとでも呼ぼう。
    善のアタシは悪のアタシを良しとはしなかったけど、時に快楽に溺れることも必要だと感じて完全に消す判断はしなかった。
    善と悪、二つが共存するのがダメなんだ。
    善は善、悪は悪。別の人間として生きていくといいんじゃないかと考えたアタシは、頑張って薬を作った。

    結果生まれたのが、元の善良なアタシ『ヘンリー・ジキル』。
    そして快楽を求める私『エドワード・ハイド』。
    アタシと私は、どちらかが動きたい時に薬を飲んで、名前も身体さえも変えて生活するようになりました。
    ああ、笑いが止まりませんでしたよ。’’私’’がどんなに悪いことをしても、’’アタシ’’は無関係なんだから。

  • 41読み手24/06/07(金) 13:57:41

    しばらくこの二重生活を楽しんでいたころ、アタシの身に予想だにしないことが起きた。
    ハイドとして過ごした日の夜に、薬を飲んでジキルに戻って眠った後、目を覚ますと私はハイドになっていたのです。
    眠っている間に薬無しで変身できるようになったアタシは、それはそれは怖く思いましたよ。だって...元のジキルの性格をいつかハイドに乗っ取られちゃうんじゃないかって思ったからさ。
    アタシはハイドとの決別を決めた。薬を止めると、眠ってもハイドになることはキッパリ無くなった。
    アタシは嬉しかった。
    でも、私は嬉しくなかった。

  • 42読み手24/06/07(金) 14:09:53

    ある日、アタシは我慢できなくなって、その禁断の薬にもう一度手を出してしまった。
    久々に飲んだ薬の味は格別で、私はまるで延々と続く砂漠の中にオアシスを見つけたような気分でした。
    そして私は外に出ました。ああ、久しぶりの外の世界。嬉しい。楽しい。
    コンクリートの残酷なまでに無機質な、面白みのない匂い。汚らわしく裏路地を這うネズミたちの体臭。そして霧に煙るロンドンの、文明の進化の匂い...。全てが幸福で夢うつつでした。
    そして、歩き回った私は裏路地に酔いつぶれて座り込む一人の老紳士を見つけました。
    ああそうです、久しぶりに赤色を見たい。そう思った頃には、私の目の前は赤く染まっていました。

  • 43読み手24/06/07(金) 14:18:42

    アタシは家に帰って真っ赤になった自分の姿を見て、大粒の涙を流した。
    しばらく解放させていなかったツケが、今こうして回ってきたのだと感じた。
    ハイドはもう人殺しだ。元に戻ったら、間違いなくアタシは捕まってしまうと思って、アタシはより一層深い禁欲に出た。
    薬のあるあの建物には二度と近づかないって決めて、アタシはまた紳士『ヘンリー・ジキル』としての人生を謳歌させた。

  • 44読み手24/06/07(金) 14:39:26

    でも、人生みたいに終わりっていうのは突然やってくるんだよね。
    アタシはいつもみたいに慈善活動をした後、公園のベンチに腰かけてたんだ。
    ぼーっと辺りを眺めてたらアタシ以外の人たちは何もせずにただ遊んだり喋ったりしてる人たちばっかり。
    私はこんなに慈善活動を頑張っているんだから、悪の心なんて湧くはずもありませんし、罪深くもありませんよね。
    そんなことを思っていると、私はいつの間にか自分がハイドに変わってしまっていることに気が付いたのです。
    目が覚めている状態で薬も無く変身したのは、これが初めてでした。

  • 45読み手24/06/07(金) 15:01:06

    薬を取りに帰ろうにも公園から屋敷までは距離がありましたし、仮に帰るにしてもこのハイドは指名手配犯でしたから、人目を避けて向かわなければいけませんでした。
    私の中にいた善の私は、考えに考えた結果、お友達のラニョンに協力してもらうことになり、無事にジキルに変身することが出来ました。
    でも、その日から私はことあるごとにハイドの姿に戻るようになりました。昼でも夜でも、うたた寝1つすればハイドに戻ってしまいます。その度に薬を飲みました。ですが、いつしか薬も残り少なくなってしまいました。
    また薬の材料を揃えて調合しても、今度は何も起こりませんでした。どうやら最初に買った薬には不純物が混ざっていて、それが作用して私はジキルの人格を生み出せたようなのです。

    私は一生ハイドなのでしょう。でも、それでいいのかもしれません。
    だって...’’私’’が’’本来の私’’なのですから。そう察してしまったのですから。
    ジキルなんて最初にはいなくて、私は最初から『エドワード・ハイド』だったのです。

  • 46読み手24/06/07(金) 15:10:19

    この告白は、「ジキル」と呼んでいた善の私が必死になって、最後の薬を飲みほして書いています。
    この文が書き終わったその時、私『エドワード・ハイド』の人生がまごうことなく始まるんです!
    ああ、なんて楽しみなんでしょう!さようなら善の私。さようならジキル。
    私はあなたのこと嫌いじゃなかったですよ。
    そして...じゃあね、アタスンさん。あなたのダジャレ、もう一回聞きたかったなぁ。


    アタスンは一人寂しく、友の死に涙を流したのでした。


    おしまい

  • 47読み手24/06/07(金) 15:19:15

    お疲れ様でした。
    今回は二重人格について扱った名作『ジキル博士とハイド氏』をお送りいたしました。
    口調と一人称が全然違うフラワーとネイチャに当たって少しホッとしたのは内緒です。今回はかなり地の文を意識して書いたので達成感も一入ですね。
    原作の時点でそうなんですが、ジキルを救う方法が無さ過ぎてとても暗い締め方になってしまいましたね。一筋縄ではいかないのもこれまたお話ということで...。
    ではまた、次のお話でお会いしましょう。
    改めてお疲れ様でした。

  • 48読み手24/06/07(金) 15:20:16
  • 49二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 15:34:16

    途中から明確にハイドが主人格になってって鳥肌

  • 50二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 15:45:13

    原作は名作だしそれを上手い事生かしたスレ主もすげえや…

  • 51二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 15:50:06

    >>42

    ここの地の文が全部おしゃれすぎる

    光景はあまりにも惨いけど

  • 52二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 17:01:18

    お疲れ様でした!次回も楽しみにしてます!

  • 53二次元好きの匿名さん24/06/07(金) 20:19:56

    一人称の使い方が上手。ゾワっとした

オススメ

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