- 1二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:15:00
- 2二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:15:24
俺の担当アイドルは可愛い。
初星学園で一番。
……いや……世界一…………
もしかすると宇宙一……
彼女の名前は藤田ことね。
金を稼ぐことが好きで
高い潜在能力を持ちながら、それを発揮できずにいた女の子。
俺はそんな彼女とプロデュース契約を結んだ。
そしてこの度、最終試験に1位で合格し、定期公演『初』のステージに立った。 - 3二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:15:45
それに伴って彼女の名前、顔、そして魅力。
それらは学園内外に大きく知れ渡ることとなった。
これからはアイドルらしい仕事も山程オファーがくるだろう。
彼女の夢──
『世界一のアイドル』
『超大金持ち』
夢があるんだかないんだか。
その夢にも大きく近づけるはずだ。 - 4二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:16:08
全てが順風満帆……かのように思えた。
一つだけ……そう、一つだけ問題が。
「ぷろでゅ〜さぁ〜♡ お疲れ様でぇ〜す♡」
「お疲れ様です。藤田さん」
「それで話というのは?」
「はい。ことねちゃん特製弁当です!」
「弁当……ですか?」
「もしかしてもうお昼食べちゃってました?」
「いえ、まだです。 ありがたくいただきます」
「大好きな担当アイドルの手作り弁当が食べられるなんて幸せ者ですネ♪」
「えぇ本当に。プロデューサー冥利に尽きますね」 - 5二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:30:26
お分かりいただけただろうか。
今俺達が抱えている問題……それは……
──藤田さんが俺を好き過ぎることだ。
自惚れではなく。
彼女は俺を好き過ぎる。
無論悪い気はしない。
前述したように藤田さんは可愛い。
俺は藤田ことねの一番のファンであり、そもそも魅力を感じていなければプロデュースなんてしていない。
しかし、あの距離感はいけない。 - 6二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:30:54
午後の授業を終えて待ち合わせの場所へ。
ほどなくして藤田さんはヒョッコリ現れ、こう言った。
「プロデューサー♪ お弁当、美味しかったですか? また作ってあげますね♪」
周囲のアイドル科の生徒達が一斉にこちらに注目する。
「何か嫌いなものってあります?」
「……藤田さん、気持ちはありがたいですが俺の分まで作って貰わなくても大丈夫です」
「弁当代も受け取っていただいてませんし」
「大丈夫ですよぉ〜 2人分も3人分も変わりませんし、取れる所からお金は取ってますから!」
「はぁ……よく分かりませんが、嫌いなものはありません」
「それと、あまりこういった話を大声でするのは……」
「えぇ〜? ウチの生徒しかいないのに、何か問題ありますか?」
…………大アリだ。 - 7二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:31:28
こんな感じで数日掛けて少しずつやっていきます
よろしくお願いします - 8二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 22:39:30
ほ
- 9二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 23:01:48
即死回避するぞするぞするぞ
- 10二次元好きの匿名さん24/06/09(日) 23:11:50
保守
弁当代の出所は…まあ、過ぎたことはいいよ - 11二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 06:29:33
他者のためにそれ使われてるの初めて見た
- 12二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 06:35:09
やっぱりこの学園てアイドルの恋愛容認されてるよねw
ファンも知った上で応援してそう - 13二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 16:57:39
世界一保守
- 14二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 18:38:24
仲夏藤田ことねSP
- 15二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:24:26
この初星学園に於いて恋愛禁止といった規則は存在しない。
当然節度を守った健全な男女交際であることが前提ではあるが、恋愛そのものを咎められることはないだろう。
──だが、それは一部の例外を除けばの話。
これは入学前のオリエンテーションでプロデューサー科の上級生からキャンパス内を案内してもらった時のことだ。
「それで、ここが相談室。プロデュース方針とかで迷ったら中の先生に相談してみるといいよ」
「大体めぼしいところは説明したかな……何か聞きたいことは?」
「先程のガイダンスで気になったのですが、プロデュース契約というのは入学式の日から結んでも問題ありませんか?」
「あぁ、うん。早い人はこの春休みの内からスカウトして回ってるらしいよ」
「なるほど。いいことを聞きました」 - 16二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:24:50
「そうそう、プロデュース契約といえば気をつけた方がいいよ」
「何がですか?」
「担当アイドルとの関係」
「あまり仲良くなり過ぎるとね、大変だから」
「どういうことでしょうか」
「例えば担当アイドルと一緒に過ごしている内に、そういう関係になったとする」
「それが学校にバレたらどうなると思う?」
「まさか退学処分とか」
「ははっ、そこまではしないよ」
「流石に今はもうそういう時代じゃない」
「ああ……いや、場合によってはもっとキツいかもな」 - 17二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:25:20
「干されるんだよ。卒業してからも。ずっと」
「僕らプロデューサー科の学生は卒業したら、その多くは100プロの所属になるわけだけど」
「担当アイドルに手を出すようなプロデューサーにはまともな仕事はまず回ってこない」
「耐えかねて他所の事務所に移っても無駄さ。悪い噂はすぐに広まる業界だ。どこも使ってくれやしない」
「それは……プロデューサーを志す人間にとっては致命的ですね」
「担当アイドルに手を出すプロデューサーなんてリスクしかない。それも無理ないけどね」 - 18二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:25:40
「まぁでも、プロデュース戦略において疑似恋愛は有効的だよ」
「疑似恋愛……というと?」
「こっちから手を出すのはマズいけどね、アイドル側から惚れられる分には問題ない」
「年頃の女の子だからね。色々と扱いに困ることも多いんだ」
「でも上手く騙したり上手いこと言ってこっちに惚れさせてしまえばいいんだ」
「そうすればメンタルも安定するし、いくらか素直に言うことも聞いてくれる」
「……あまり好きなやり方ではありません」
「まぁ、一度試してごらんなね」 - 19二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:29:13
……なんて話をしたのを覚えている。
例えばプロデューサー科の学生が同じプロデューサー科、あるいは普通科の学生と交際するのは問題ない。
しかし、相手がアイドル科の生徒となると話は違う。
プロデューサー科がアイドル科に手を出して、それが公になれば、その時点でプロデューサーとしての道は閉ざされてしまう。
つまり、俺の夢も叶わぬものとなってしまう。
そうなっては本当に困る。
だから周囲の誤解を招くような言動は……
「ねぇあれ、ことねちゃんのプロデューサーさんじゃない……?」
「あれが噂の……ことねちゃんが好き過ぎて所構わずことねちゃんの可愛さを布教してくるんでしょう? ことねちゃんが言ってた……」
「きゃっ!こっち見た! 藤田ことねちゃん教に入れられちゃう! 行きましょ!」
「…………はぁ?」
「藤田さん。俺のことをどういう……」
「…………てへ♪」 - 20二次元好きの匿名さん24/06/10(月) 23:44:23
何をしてくれたんだ、と思う。
けれど結局のところ怒る気も失せてしまう。
藤田さんは可愛い。
誤魔化す顔も可愛い。
だから困るんだ。
俺は藤田さんを強く叱れないし
俺は藤田さんを拒めない。
「それより! ぷろでゅ〜さぁ〜! レッスン行きましょう!」
「はい。今日はダンスレッスンです。得意分野はどんどん伸ばしていきましょう」
だって彼女は
世界一可愛いのだから。 - 21二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 06:57:46
学Pは藤田ことねちゃん教の教祖だからね
- 22二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 10:46:20
学Pにわるい虫がつかないように先手打ってるのか?
- 23二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 17:20:18
期待している
- 24二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 22:58:28
【それゆけ!ことねちゃん①】
「あっプロデューサー! おつかれさまでぇ〜す!」
「…………」
「ちょっ、なんで無視するんですか〜!」
「……失礼。あまりの可愛さに放心していました」
「その傍から『ヒョコッ』と現れる登場の仕方、もう一度やって貰っても?」
「えぇ〜? こうですかぁ?」
「最高。 よっ、世界一!」
「もう一度お願いします」
「えへへ〜プロデューサーあたしのことしゅきしゅぎ〜〜〜〜! ヒクぅ〜〜〜〜!」
「うわっ……何あれ……」
「しっ……藤田ことねちゃん教の活動よ……」 - 25二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 22:58:55
【それゆけ!ことねちゃん②】
「ふぃ〜 ただいま〜っと」
「ことねちゃん。遅くまでお疲れ様」
「莉波先輩。 おつかれさまっす!」
「あれ……何読んでるんですかぁー?」
「これ? 少女漫画だよ」
「今流行ってる作品なんだけど、すっごく素敵なの」
「へぇー……どれどれ」
「……莉波先輩、こういう男の人が好みなんですか?」
「ち、違うよー! ただお話が素敵だなって」 - 26二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 22:59:39
「ええと……恵まれない境遇でめげずに頑張る主人公の美少女と手を差し伸べる毒舌イケメン王子……」
「んん?」
「夢を叶える為に二人三脚……次第に目覚める恋心……現代版シンデレラストーリー……」
「…………これって」
「あたしだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ええっ!? 急にどうしたの!?」
「(かんっぜんに! 今のあたしとプロデューサーじゃん!!)」
「(特にヒロインが実は超々々々可愛いところとか!)」
「(うひゃ〜参ったナ……意識しちゃいそ〜)」
「(あれ……でも、もしかして……)」
「(この漫画の真似すれば、プロデューサーをドキドキさせられる……?)」
「よぉ〜し! 見てろよプロデューサー!」
「ことねちゃん……?」 - 27二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:00:27
「(へへ……いたいた……)」
「おや、藤田さん」
「プロデューサー……いや、王子様!」
「は?」
「あたし、スポットライトは要りません」
「どんなに暗くても、貴方があたしを照らしてくれるから──」
「…………」
「(決まった……チラッ)」
「歯の浮くような台詞。ここは舞踏会ですか? お姫様」
「(は!? な、なんかムカつくぅぅぅぅ!!)」
「……表現力はまだ磨く必要がありそうですね。いくらなんでも唐突過ぎます」
「少しはドキドキしてくださいよぉー!」
「藤田さんはいつも通りが一番可愛いですよ」 - 28二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:06:35
自分のかわいさを自覚してる藤田さん好き
- 29二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 07:15:50
ことーねいつもありがとう
- 30二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 16:43:02
ことね
- 31二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:32:11
【それゆけ!ことねちゃん③】
「ねー藤田ちゃーん」
「ん? なにー?」
「普通科で噂になってるんだけどさ、プロデューサー科の人と付き合ってるって本当?」
「ん"ん"っ!? えっ、ウソ、そう見える?」
「なんかみんな言ってるよ、あの距離感で付き合ってない方がおかしいって」
「えー……マジか」
「いやぁー……プロデューサーがあたしのことマジ好き過ぎるからなぁー」
「えへへ……そう見えるんだぁー」
「(いや……むしろ藤田ちゃんの好き好きオーラが凄いってみんな言ってるけど……まぁいいか)」 - 32二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:32:34
「へぇ……まだ付き合ってるわけじゃないんだ」
「じゃあさ、もし先輩に告られたら……ぶっちゃけどう?」
「う〜ん……」
「あたしは…………付き合うとかはいいかな……」
「えーそうなんだ。なんか意外かも」
「あ……ほら、アイドルだから」
「『今はファンのみんなが恋人だよ〜♡』……みたいな」
「あ〜そっか……難しいね」
「…………」
「…………あたしは……」 - 33二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 21:37:56
このレスは削除されています
- 34二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 22:28:07
「デートしましょう! プロデューサー!」
あの日、ファーストライブの日。
超満員のステージで見事にライブを成功させた後、藤田さんはそう言った。
仄かに肩を震わせ、赤らめた顔で、照れを隠すようにそう言った。
普段はちょっとしたことで「ぷろでゅ〜さぁ〜! しゅき〜〜〜〜!」なんて言ってくるくせに。
そう思うとなんだか少し可笑しいけれど
頑張った俺へのご褒美だなんて言うけれど
きっとたくさんの勇気を振り絞って誘ってくれたのだろう。
だから俺も応える。
可愛くて愛おしい。 そんな俺の担当アイドルに。
「──喜んで」 - 35二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 22:28:34
俺の担当アイドルは可愛い。 初星学園で一番。 ……いや……世界一………… もしかすると宇宙一……
「ん〜っ、絶好のデート日和ですねっ!」
「さぁっ、行きましょ〜♪」
一挙手一投足が可愛くて。
コロコロ変わる表情が可愛くて。
「うえぇ〜〜……気持ち悪いぃ〜〜〜〜〜」
油断をすると出てくる素の、少し口の悪いところが可愛くて。
「えぇ〜? 彼氏とデート中〜♡ ほんとだってぇ、マジマジ〜♪」
たまに少しドキッとさせられる。
揶揄われるのが癪なので、絶対に悟らせはしないけど。 - 36二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 22:29:20
藤田ことねは可愛い。
世界で一番可愛い。
努力家で家族想い。
まだ少し自分に自信が足りなくて、けれど逆境に負けない強さを持った女の子。
俺は藤田ことねの力になりたい。
藤田さんには才能があって……
俺の夢を叶えるのにはきっとこれ以上ないパートナーで。
けれど、彼女に抱く感情はきっとそういうことではないんだろう。
例え藤田ことねに才能がなかったとしても。
俺はきっと──
「…………ねぇ、プロデューサー」
「ちょっとだけ、あたしの話、してもいいです?」 - 37二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 07:15:32
ハートフルボッコ
- 38二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 15:46:29
藤田
- 39124/06/13(木) 18:46:34
今日の更新はお休みします
- 40二次元好きの匿名さん24/06/13(木) 22:40:43
期待
- 41二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 07:38:16
世界一?
- 42二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 12:32:18
かわいい!
- 43二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 22:27:27
藤田ことねは語る。
彼女の家庭の事情。
お金に執着する理由。
そして──
彼女の背負う罪を。
無論プロデューサーとして、彼女の家庭環境についてある程度調べたことはある。
全てではないが、断片的には知っていた。
けれどそれでも彼女自身の言葉で聞くのとでは重みが違う。
彼女の抱える問題は、中高生の少女1人が背負うには、あまりにも重い。 - 44二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 22:27:51
藤田さんは言った。
「親の足を引っ張った」
「家族の期待を裏切った」
「あたしのせいでお父さんは……」
……違うよ。
……そうじゃない。
……君は悪くない。
そう言ってあげられたら、どんなに良かっただろう。
そう言ってしまえたら、どんなに楽だろう。
俺は何も言えなかった。
無責任に彼女の罪を否定することはできない。
だから、ただ静かに彼女の告白に耳を傾けることしかできなかった。 - 45二次元好きの匿名さん24/06/14(金) 22:28:13
「全部、全部、プロデューサーのおかげなんです」
「どうやって恩を返せばいいか…………わかんないですよぉ」
藤田さんは目に涙を浮かべて、感謝の言葉を述べる。
……アイドルになれたのは君の実力だ。
藤田さんの努力の結果で、俺はただ手助けをしただけで。
それでも俺のおかげだと言ってくれるのなら。
「トップアイドルになってください」
「夢を叶えて、大金持ちに成り上がってください」
──俺がきっと、絶対に連れて行ってみせるから。 - 46二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 09:02:34
世界一幸せにしたい
- 47二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 11:05:07
【それゆけ!ことねちゃん④】
「はいはい。じゃあ週末には帰るから。他のちびどもにもよろしく〜」
「ふぅ〜……あ、すみませんプロデューサー。一緒のおでかけ中に電話出ちゃって」
「構いませんよ。妹さんですか」
「そ〜なんです。もぉ〜やかましくて」
「家事とか手伝わないとお母さんも大変だし」
「というわけで今週末は実家に帰りますネ」
「ふむ……」
「どうしました? あれ〜、もしかして……」
「大好きなあたしに会えなくてぇ、寂しいなぁとか思っちゃったり?」
「いえ、それはいいのですが、迷惑でなければ俺もご実家まで着いて行っても?」
「即答ひどっ!? まぁ分かってましたけど……って」
「えぇっ!? 一緒に実家って……」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」 - 48二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 13:18:43
藤田……
- 49二次元好きの匿名さん24/06/15(土) 23:21:59
ほ
- 50二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 10:48:20
遊園地デートの時、ちびどもに彼氏と言ったせいでPと一緒に実家に帰る=彼氏を実家に連れてくると噂になっていることをことねはまだ知らない
- 51二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 22:08:48
そして週末。
予定通り俺は藤田さんの帰省に同行することに。
待ち合わせ場所の女子寮前に向かうと、彼女は既にそこにいた。
「すみません。待たせてしまいましたか」
「い、いえ……」
藤田さんの様子がおかしい。
俺の顔を見ずに俯いたままでいる。
「どうしました? 調子が悪い様でしたら今日のところは中止して部屋で安静に……」
「いえ!藤田ことね絶好調です!」
「顔が赤いようですが。熱でもあるのでは?」
「いいから! ほら、電車の時間もあるしさっさと行きましょ!」
「(うわぁ〜顔赤いのバレてる! 恥っず……)」 - 52二次元好きの匿名さん24/06/16(日) 22:09:22
「ところで何であたしの実家に来たいんですか?」
電車に乗って移動する最中、藤田さんが尋ねてきた。
「あぁ、一度ご家族にご挨拶したいと思いまして」
「へぇーあたしの家族に挨拶……」
「(ってまだ早いって!!)」
「(そりゃいつかは……とか考えてたけど、普通もうちょっと段階踏んでからだってぇ〜!)」
「(いくらあたしのこと好き過ぎるからって気が早過ぎ〜〜〜〜!!)」
何やら悶えている。やはり具合が悪いのだろうか。
「どうしました?」
「いや……愛され過ぎるのも楽じゃないなって」
「はぁ?」 - 53二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 00:52:17
「まだ」早い
- 54二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 06:30:12
「あの……もう着きますけど」
「本当にボロっちい家なんで、びっくりしないでくださいね?」
もちろん藤田さんの家の外観は既に調査済みなのだが何も言わないでおいた。
「着きました。ここがあたしの家です」
家の前では一人の小さな男の子が遊んでいた。
「あっ! 姉ちゃん!」
本当に藤田さんのことが好きなんだろう。
男の子は目を輝かせてこちらに駆け寄ってきた。
「おかえり! ……あ……」
どうやら隣を歩く俺に気がついたらしい。
すると……
「姉ちゃんがカレシつれてきたぁぁぁぁぁぁ!!」
そう叫びながら家の中へ駆けて行った。
横を見ると、藤田さんが頭を抱えている。 - 55二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 17:42:42
デート中の電話で彼氏がいると言っちゃったから
- 56二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:49:56
「あ……あはは……何言ってんでしょーねー」
藤田さんが電話で『彼氏とデート中〜♡』とか言うからでは?
そう思ったが、心の中にしまっておこう。
「ほら、入りましょ。プロデューサー」
「ただいま〜! 元気してたかちびども〜!」
「はぁ。お邪魔しま……」
玄関の扉を開けると、待ち構えていたのは小さな子ども達。
この子達が藤田さんの言う『ちびども』なのだろう。
どの子も藤田さんにどことなく似ていて可愛らしい。 - 57二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:50:21
「すっげぇー! これがこと姉の彼氏か!」
「ウソじゃなかったんだー」
……と、俺達を見て口々に感想を述べるちびども。
ここまで注目されるとまるでアイドルにでもなった気分だ。
なんてことを考えていると、妹さんのうちの一人に裾を引っ張られているのに気がついた。
「なんでしょうか」
「あの、お兄ちゃんはいつお姉ちゃんと結婚しますか?」
……これはどう答えたものか。 - 58二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:51:00
「ちょっ! 一旦タイム!」
今度は藤田さんに引っ張られ、家の外へ。
「いやぁ〜うちのちびどもがすみません。なんかすっごいはしゃいじゃって」
「プロデューサーが彼氏だなんて、なんでそんな勘違いしてるんでしょうね」
藤田さんが電話で『彼氏とデート中〜♡』とか言うからでは?
「藤田さんが電話で『彼氏とデート中〜♡』とか言うからでは?」
「そうでしたぁ〜〜〜〜! すみませぇ〜〜〜〜ん!!」
……今度は口に出してしまった。 - 59二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:51:51
「それでですね、えっと……こんなことお願いするのも変なんですけど」
「ウチにいる間、彼氏の振りして貰えませんか……?」
「嘘をつけと?」
「やー……あそこまで本気に受け取られたら今更嘘でしたーなんて言い辛くてぇ」
「お願いします! あたしの彼氏になってください!」
「はぁ」
例え『振り』でも担当アイドルと付き合うなんて大問題だ。
……しかし……まぁ、家族との間だけなら問題も起きないだろう。 - 60二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:52:22
「俺は構いませんが」
「おぉ! ありがとうございます♪」
「決断早くて助かるぅー♪ もしかしてぇ、プロデューサーも満更でもなかったり?」
「真実をお話ししてきましょう」
「うわぁー! ごめんなさいでしたぁ!」
「冗談です」
「その冗談全然笑えないですよぉ……」
というわけで、俺は藤田家にいる間は藤田さんの彼氏ということに。
さっさと正直に言ったほうが楽なのに……とは思うが。 - 61二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 04:55:36
こてょね
- 62二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 10:13:58
イチャイチャしてる!
- 63二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 21:39:29
ほ
- 64二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 21:41:32
「まぁ。嬉しいわ。ことねが恋人を連れて帰ってくるなんて」
「なーなー! こと姉と兄ちゃんどっちから告ったの!?」
「もうチューした?」
藤田さんのお母さんとも挨拶を済ます。
その後は弟妹達からの質問責め。
「プロデューサーがぁ、あたしのこと好きで好きでしょーがないから付き合い始めたんですよねぇ?」
演技とはいえ、さりげなく自分の都合の良い設定に……
まぁ、あながち間違いではないが。 - 65二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 21:41:54
「キスはしていません。藤田さんはアイドルですから」
「トップアイドルになるまではあくまで健全な付き合いをと……」
「もう! こんなちびっ子に何話してるんですかー!」
「(うわー! トップアイドルになったらキスとかしちゃうんだぁ……♡)」
「藤田さん?」
「ていうかなんで名前でよばないの?」
「付き合ってるわりにたにんぎょーぎじゃない?」
ふむ……それもそうだ。
ここにいるのは俺以外全員藤田さん。
ならば彼女に話しかける時は名前で呼ぶ方が分かり易くて良い。 - 66二次元好きの匿名さん24/06/18(火) 21:42:17
「では……」
「ことねさん。そう呼ばせていただきます」
「は、はいぃ……」
「(うぅ……判断が早いぃ……)」
「(ていうか初めて名前で呼ばれちゃった〜〜♡ これあたしも名前で呼んだ方がいい?)」
「ヒューヒュー!」
「うっさい ちびども! もう邪魔だから外で遊んでな!」
「えー! じゃあ公園でサッカーやろうぜ! 彼氏の兄ちゃんも!」
「いいでしょう」
「いいんですか? プロデューサーも疲れてるんじゃ……」
「うちのちびどもの相手、けっこー疲れますよ?」
「問題ありません。体力がなければプロデューサーは務まりませんし」
「ことねさんの御家族とは仲良くなっておきたいですから」
「そ、そですか……! じゃあよろしくお願いしますね!」
「(やーばいでしょこれ……あたしの心臓保たないってぇ……)」 - 67二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 01:01:11
がんばれチビども!
2人の仲が進展させるんだ! - 68二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 12:58:11
ほしゅ
- 69二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 00:30:16
公園で藤田さんの弟妹の遊び相手を務め、帰るともうすぐに夕飯が出来上がる頃合いだった。
料理を作ったのは殆どが藤田さん。
週末に実家に帰るときはいつもそうしてるらしく、弟妹達もそれが楽しみなのだという。
実際藤田さんの手料理は美味しいと思う。
以前「プロデューサーほどじゃない」なんて言っていたが、藤田さんの料理は如何に安く、美味しく、栄養を得られるかがよく考えられていると思う。
それに……
「あ〜もう、また溢した〜。拭いたげるからこっち向きな」
「あっ! また人参残してる! 食べ易いように味付けしてるから食べなって」
「残したらてまりんって呼ぶぞ〜!」
「きゃ〜!」 - 70二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 00:31:02
弟妹の世話をする藤田さんを見ていると微笑ましい気持ちになる。
大勢で賑やかに食卓を囲むのも新鮮で楽しい。
「あっ、プロデューサー。すみません騒がしくて」
「うちいっつもこーなんですよねぇ」
「いえ。大丈夫です」
「良い家族だと思いますよ。俺も混ざりたい」
「あら、だったらいつ来てもいいんですよ」
「もうプロデューサーさんも家族の一員みたいな物ですから」
その藤田さんのお母さんの言葉は、素直に嬉しいと思った。 - 71二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 06:36:30
ブォ…
- 72二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 14:55:51
本人たちが意識していないところで外堀埋めてない?
いいぞもっとやれ - 73二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 18:31:38
ことねちゃんと学Pのイチャラブなんてなんぼあってもいいですからね
- 74二次元好きの匿名さん24/06/20(木) 21:08:33
【それゆけ! ことねちゃん⑤】
「プロデューサー。お風呂狭くなかったです?」
「いえ。大丈夫ですよ」
「なら良かったです。次あたし、ちびどもと入ってきますね」
「…………」
「ことねさん? どうかしましたか?」
「あ……いえ。なんかお風呂上がりっていつもと雰囲気違って変な感じですネ」
「(湿った髪……薄手の部屋着……プロデューサー、なんか色っぽ……)」
「(ってあたしこれじゃ変態じゃん!?)」
「お姉ちゃんお風呂入る前なのに真っ赤になってる〜!」 - 75二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 05:40:36
「あら、プロデューサーさん」
「ことねは?」
「入れ替わりでお風呂に行きました」
「そう、ならちょうどよかった」
「プロデューサーさんと二人きりでお話ししたかったの」
「少し時間貰えるかしら」
「もちろんです」
むしろこちらからしても好都合だ。
俺が今日ここに来た一番の理由は……藤田さんのお母さんから話を聞くことにあるのだから。 - 76二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 06:08:56
「まずはお礼を言わせてちょうだい」
「ことねをアイドルにしてくれてありがとう」
「ことねを見つけてくれてありがとう」
「あの子、数ヶ月前までと今とで見違えるように変わったわ」
「心も身体もボロボロにして、私達の前では平気な振りをして明るく振る舞って……」
「でも今のことねは凄く元気になった。私びっくりしたわ」
「きっと、全部プロデューサーさんのお陰ね」
「……いいえ。俺はただプロデューサーとして出来る手助けをしただけ」
「今のことねさんがあるのは、彼女がこれまで努力してきた結果です」 - 77二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 06:09:18
「あの子がお金に執着している理由は聞いている?」
「本人から聞きました」
「……自分のせいで借金を作り、お父さんも出て行ってしまった……と」
「そう……やっぱりそんな風に考えていたのね」
「藤田さんはどう思っていますか」
「あの子が悪い……なんて、思うはずないわ」
「親として子どものアイドルになりたいって夢を応援するのは当然のこと」
「お金のことなんて本当なら子どもが気にすることじゃない」
「あの、藤田さん」
「その件について、一つ聞いておきたいことがあります」 - 78二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 16:22:43
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- 79倉本メロス24/06/21(金) 16:23:28
保守させていただく
- 80二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 18:51:25
それゆけ!ことねちゃんのコーナーは平和やね
- 81二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 00:10:32
今日もかわいいことねちゃん
- 82二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 11:14:56
お昼前の保守
- 83二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 21:57:58
ほ
- 84二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 22:57:59
「……なるほど。今の話、ことねさんは?」
藤田さんは黙って首を横に振った。
「あの子に話すかどうかはプロデューサーさんに任せるわ」
「私は言えなかった。言えば大切なものが壊れてしまうような気がしたから」
「…………」
「だから……ね。あの子の一番側にいるあなたが、『ことねは大丈夫』って思えたら」
「その時に伝えてあげて欲しいの」
藤田さんは静かに、俺の目をまっすぐに見てそう言った。
「…‥分かりました。話してくださってありがとうございます」 - 85二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 22:58:40
「お風呂上がりましたよー」
ちょうど話が終わった頃に藤田さんが戻ってきた。
シャンプーの良い匂い。
髪を下ろしている……風呂上がりなので当然か。
いつもの髪型も藤田ことねの可愛さを大きく引き立てるだけの魅力があるが、これはこれで新鮮で、いつもとはまた違った可愛らしさ。
「なんですか? 無言でじっとこっち見て」
「……もしかしてぇ、お風呂上がりのあたしに見惚れちゃいました?」
「はぁ。その通りですが」
「もぉ〜あたしのことほんと好きですよねぇ〜」
「そんなんじゃあたしがお風呂入ってる間も、ずっと悶々してたんじゃないですかぁ?」
「いえ、藤田さん……ことねさんのお母さんと話しに夢中で正直忘れていました」
「あたしの彼氏なのにぃ!?」 - 86二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 22:59:01
「まさかあたしよりお母さんの方が好きなんて言わないですよねっ!?」
「うわ、近い近い」
「ねーちゃ〜ん!まだー!?」
縋りついてくる藤田さんを振り解いていると、奥の部屋から弟妹達の呼び声。
ちょうどいいタイミング。 助かった。
「うぅ〜……ちびども寝かしつけてきまぁす!」
藤田さんは不満そうにしながらも部屋を出て行った。
「ふふっ。本当に仲がいいのね」 - 87福丸は俺24/06/22(土) 23:11:44
「そう見えますか」
「ええ、まるで本当の恋人みたい」
「…………」
……バレていたか。
「いつから嘘だと?」
「最初から分かってたわ。母親だもの」
「あの子のことだから私達に『楽しくやってるぞ』ってところを見せたかったんでしょうけど」
……母の力恐るべし。
「さっきの話……嘘の恋人だと分かっていたのに、俺にしても良かったんですか?」 - 88福丸は俺24/06/22(土) 23:12:09
「えぇ。プロデューサーさんなら良いわ」
「だって分かるもの。あの子あなたのことを本当に好きなのも」
「……あなたがことねを心から大切に思ってくれているのも」
「…………」
確かに俺にとって藤田ことねは特別な存在。
プロデュース契約を結び、俺の夢を叶えてくれるであろう存在。
幸せにしてあげたい女の子。
「…………ですが、この気持ちはきっと恋じゃない」
「俺はプロデューサーで、ことねさんはアイドルで」
そこに恋愛感情があってはいけない。
それは絶対に許されない。
「……そう。そうね」
「それでもいいの。今はきっと」 - 89二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 11:09:38
ほ
- 90二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 21:39:42
【それゆけ!ことねちゃん⑥】
「お姉ちゃん おしっこ出た〜」
「はいは〜い。も〜だから寝る前にトイレ行きなって言ったのに」
「ほら部屋に戻って寝るよ〜」
「はーい」
「…………あ」
「(プロデューサーが止まってる部屋……ドアちょっと開いてるじゃん)」
「(ひひひ……後でちょっといたずらしちゃえ〜)」
「お姉ちゃん? どうして笑ってるの……?」
「なんでもな〜い♪」 - 91二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 21:40:01
「ぷ〜ろでゅ〜さ〜♡」
「…………」
「(寝てる……よね……?)」
「(さ〜てどうしてやろっかな)」
「(顔つついてみたり……)」
「ん……んん……」
「(うわっ! やば……!)」
「(…………大丈夫。起きてないっぽい)」
「(あんま刺激しないようにしよ)」 - 92二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 21:40:35
「(とっさに隣で寝てるみたいな体勢になっちゃったけど……)」
「(うわ……ヤバい。なんかドキドキしてきた……)」
「(でも、しばらくこのままでいっか……)」
「(静かな部屋。いるのはあたしとプロデューサーの二人きり)」
「(聞こえるのはプロデューサーの寝息と……あたしの心臓の音だけ)」
「(今なら……チューしてもバレない……)」
「…………」 - 93二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:55:22
いけーーー!
- 94二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 06:42:28
「……あはは、やっぱできないや」
「トップアイドルになるまでは清い付き合いを……ですもんね?」
「…………」
「…………ねぇ、プロデューサー」
「……あたしが本当に『付き合って』って言ったら……どーします?」
「…………」
「…………なぁんて」
「あたしにそんな資格……ないよねぇ」 - 95二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 15:08:56
ことね
- 96二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 22:31:10
藤田さんと遊園地デートをした後、俺は考えていた。
もっと彼女の為にできることはないだろうか。
夢を叶える為に、助けになれることはないだろうか、と。
勿論少しでも多く、そして早く稼げるような仕事を見つけるのが最優先……
だがら今思うと……俺も浮かれていたのだろう。
彼女から向けられる好意に。
彼女から向けられる信頼に。
それも無理のないことだろう。
何故なら彼女は──
藤田ことねは……世界一可愛いのだから。 - 97二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 22:31:34
俺が藤田ことねの為に出来ること。
金銭面ではやれるだけのことはやっていると思う。
より効率的に稼げる仕事を紹介し、学園が用意した奨学金といった苦学生を救済する制度も最大限利用している。
生活面……無茶なアルバイトは辞めさせ、充分な休養に加え栄養も摂らせている。
……現状一番の懸念といえば学業だろうか。
藤田さんはあまり勉強が得意ではないようだ。
ただ、それも無茶なアルバイトとレッスンの疲れから勉強時間が取れず、授業中にも居眠りすることが大きな理由。
今では少しずつ改善に向かっているし、俺が勉強を教えることもある。 - 98二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 22:33:11
あれやこれやと考えている内に、俺は藤田さんの抱える大きな問題に思い至る。
どうしてもっと早く思いつかなかったんだろうか。
……ただそれは赤の他人が気安く首を突っ込んではならない領域。
藤田さんがそれまで誰にも相談せずに秘めてきた物。
あのデートの日、俺にだけ明かしてくれた秘密。
……そう、家庭の事情……家を出て行ったという彼女のお父さんのことだ。
藤田さんは言った。
自分のせいでお父さんは出て行ってしまったと。
それは彼女の中で大きな傷跡として残っていて──
だからこそ彼女はお父さんの分まで、自分が稼いで家族を養おうとしている。
……だったら、お父さんを見つけてあげることが彼女の助けになるんじゃないだろうか。 - 99二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 07:27:52
始まってからもう半月経っとる
- 100二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 19:21:36
100
- 101二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 01:11:59
こ
- 102二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 06:37:39
以前、藤田さんのお父さんについて調べたことがある。
プロデュースするにあたって、担当アイドルの経歴、家族構成、家庭環境を事前に調査しておくのは当然のこと。
しかし、『お父さん』については詳しい情報は得られなかった。
分かったのは真面目で優しい父親であったこと。
家族仲が良好であったこと。
藤田さんが初星学園の中等部に入学後……しばらくして会社を辞めたこと。
その後の消息が掴めない。 - 103二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 06:37:59
そして先日、藤田さんから直接聞いたお父さんのこと。
当時小学生だった藤田さんは、初星学園に通うには多大な学費が掛かることを知らずに、入学したいと両親にせがんだ。
最もそれはアイドルになって家計を支える為だったが。
両親はそれに応え、借金を背負ってまで藤田さんを初星学園に通わせた。
そして借金を残して藤田さんのお父さんは家を出て行った……と。
……本当にそれは真実だろうか。
果たして鵜呑みにしていいものだろうか。 - 104二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 06:38:24
藤田さんが嘘をついている……と言いたい訳じゃない。
ただ、彼女の認識が誤っていたとしたら?
当時の彼女はまだ13,14歳程度の少女。
大好きなお父さんが突如いなくなった。
それを聞かされた時、彼女はどんな精神状態でいただろうか。
そもそも彼女に伝えられた情報は正しいものだっただろうか。
……もしかすると既に亡くなっているのでは。
あくまで可能性の話だ。
何らかの理由で藤田さんにはそれを伏せられている……とか。
無理がある気もするが最悪の場合として絶対にないとも言い切れない。
何にせよ確証が得られない。 - 105二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 18:31:23
不穏
- 106福丸は俺24/06/27(木) 00:49:31
ならば、正確な事情を知っているであろう人物とコンタクトを取るべきだろう。
そう……藤田さんのお母さんに。
問題はどのように接触するかだ。
いきなり俺が藤田さんの実家を訪ねたとして……
「あなたの娘さんの担当プロデューサーです」と名乗る男に心を許し、家庭の事情まで包み隠さず話してくれる親などどこにいようか。
変態ストーカーと疑われても仕方ない。
かといって藤田さんに事情を説明し、同行してもらうのは避けたい。
お父さんについて話をするのは、充分な成果を得てからだ。 - 107二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 07:08:41
そんな時、藤田さんの元へ一件の電話が掛かってきた。
実家の弟妹からの電話だった。
電話の内容はさておき、週末に実家に帰ると言う。
まさに僥倖だった。
藤田さんが自主的に実家に帰るのであれば、事情を話さないでも同行することができる。
幸い彼女はチョロ……流されやすいところがある。
着いて行く理由なんて「親御さんに挨拶しておきたい」等と言っておけば納得してくれるだろう。 - 108二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 18:26:36
ほ
- 109二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 01:08:51
し
- 110124/06/28(金) 07:06:30
次は土曜の夜に書きます
- 111二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 08:49:25
もっと書くペース上げてくれ
- 112二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 13:40:07
ブォ…
- 113二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 23:26:22
ほす
- 114二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 06:40:03
ほ
- 115二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 16:45:25
しゅ
- 116二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 23:08:39
藤田家を訪ねる上で大切なのは信用を得ること。
俺はこれから家庭の問題に首を突っ込もうとしているのだ。
ただのアイドルとプロデューサーの関係では足りない。
できればそれ以上に仲の良いように見せておきたい。
そう思っていた矢先、藤田さんから「彼氏の振りをして欲しい」と頼まれる。
まさに渡りに船といったところだろうか。
俺は『藤田ことねの彼氏』として藤田家を訪れた。 - 117二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 23:08:57
藤田家に着くなり弟妹達に囲まれ質問責めに遭うも問題はない。
関係性が『担当プロデューサー』から『彼氏』に変わっただけで、特別それらしく振る舞う必要もなく『藤田ことねの彼氏』として信用されたようだった。
目的は藤田さんの母親から話を聞くこと……
だが、藤田さんや弟妹がいてはしたい話もできない。
サッカーに付き合ったり、食卓を囲んだりと自然に過ごしながら機をうかがう。
藤田さんの手料理はとても美味しかった。
そして、そのチャンスは藤田さんが風呂に入った時に訪れた。 - 118二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 23:10:10
「あの子がお金に執着している理由は聞いている?」
「本人から聞きました」
「……自分のせいで借金を作り、お父さんも出て行ってしまった……と」
「そう……やっぱりそんな風に考えていたのね」
「藤田さんはどう思っていますか」
「あの子が悪い……なんて、思うはずないわ」
「親として子どものアイドルになりたいって夢を応援するのは当然のこと」
「お金のことなんて本当なら子どもが気にすることじゃない」
「あの、藤田さん」
「その件について、一つ聞いておきたいことがあります」 - 119二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 23:10:33
「あら、何かしら」
「藤田さんの……お父さんのことです」
「…………っ」
藤田さんのお母さんの表情が、微かに強張ったように見えた。
……構わない。
言葉を続ける。
「お父さんは本当に借金を残して出て行ったんですか?」
「何も言わずに黙って、家族を捨てていなくなってしまったんですか?」
我ながら酷なことを聞いていると思っている。
それでも……
「プロデューサーさん。少し待っていてくれる?」
藤田さんのお母さんはメモ紙を取り出すと、何かを書き始めた。 - 120二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 23:11:37
「…………これを」
メモ紙を受け取ると……そこに書かれていたのは住所と電話番号。
「…………!」
これが意味するのは……
「あの人の居場所はね……ずっと分かってたの」
「では何故……」
「ことねの為よ。……いいえ、家族の為……かしら」
「……それ以上はあの人の口から聞いて。私からもあなたのことを伝えておくから」
「……なるほど。今の話、ことねさんは?」
藤田さんは黙って首を横に振った。
「あの子に話すかどうかはプロデューサーさんに任せるわ」 - 121二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 10:55:29
ほ
- 122二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 20:23:13
しゅ
- 123二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 01:13:07
藤田さんの実家へ泊まってから数日。
藤田さんがレッスンを受けている間、俺は遂に彼女のお父さんへの接触を試みる。
当然藤田さんには何も話していない。
「…………」
少しの緊張。
先日受け取ったメモ紙に書かれた電話番号を入力し、発信する。
お母さんは話を通してくれるとは言っていたが…… - 124二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 07:02:04
こ
- 125二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 18:31:03
と
- 126二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 19:08:15
ね
- 127二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 23:37:49
『……もしもし』
「…………!」
「もしもし。私は初星学園プロデューサー科の……」
『……あぁ。プロデューサー君か』
「妻から話は聞いているよ」
その声の印象は……家族を捨てて出て行った……という話から想像していたより落ち着いていて。
枯れているというか……くたびれたような感じがした。
「突然お電話して申し訳ありません」
「ご存知のこととは思いますが、私は娘さん……ことねさんとプロデュース契約を結んでいまして」
「ことねさんに関わることで、一度御両親と直接お会いしてお話したいことがあります」
「…………そうか」
「……あぁ。構わないよ」
「ありがとうございます。では都合の良い日にちや場所を……」 - 128二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 23:42:32
週末、2時間ほど電車を乗り継いで、とある寂れた町へやってきた。
目的はもちろん、藤田さんのお父さんに会うこと。
待ち合わせ場所に指定されたのは、お父さんの住む家だった。
事前に貰っていたメモ紙に書かれた住所を頼りに歩くと、古くて小さな団地のような建物へ辿り着いた。
外壁は薄汚れていて、敷地内は放置された雑草だらけ。
……お世辞にも管理が行き届いているとは言い難い。
……まぁ、そんなことはいい。
お父さんの部屋のインターホンを鳴らす。 - 129124/07/02(火) 06:53:19
- 130二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 13:55:59
せ
- 131二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:18:23
か
- 132二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:55:51
扉を開けて出て来た男は、やはりくたびれたような、老け込んだような……
幸の薄い印象を受ける、そんな細身の男性だった。
「……君がプロデューサー君か。よく来てくれたね」
「はじめまして。藤田さん」
「本日はお忙しい中お時間をとっていただき、ありがとうございます」
「……いや、妻から話を聞いて僕も話したいと思っていたんだ」
「こちらこそ遠いところを来てもらって悪いね」
「立ち話もなんだ。入ってくれ」
「お邪魔します」 - 133二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:56:16
「…………」
思わず言葉を失う。
部屋の中は6畳程度のワンルーム。
それは良いのだが、あまりにも物が少ない。
この部屋は最低限の暮らしに必要な家具があるだけだ。
ここにはテレビも本もない。
「悪いがお茶菓子を切らしていてね。お茶しか出せるものがないが」
「でしたら、よかったらこれを」
藤田さんがお茶を出してくれたので、こちらもお土産に持ってきた『はつみちゃん饅頭』を差し上げた。
「あぁ……ありがとう。気を使わせてしまって悪いね」 - 134二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:56:41
「……うん。けっこういけるよこの饅頭」
「このマスコットキャラクターはよく分からないけど」
「ならよかったです」
「…………」
藤田さんは饅頭を頬張り、お茶を一気に飲み干した。
そして言った。
「……じゃあそろそろ本題に入ろう」
「聞きたいことがあるんだろう? あの子の為に」
「……私に答えられることならなんでも答えるよ」 - 135二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:11:58
はつみちゃん饅頭
- 136二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 18:26:19
ブォ…
- 137二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:18:49
「……では、まずどうして家族を置いて家を出たんですか?」
「藤田さんのことは娘さん……ことねさんから聞いていました」
「借金を残して、出て行ってしまったと」
「正直……酷い父親だと思いました」
「ですが、今はそうは思えない」
「今の藤田さんを見て、『家族を捨てた父親』というイメージとはどうにも結びつかないんです」
「…………私は酷い父親だよ」
「全部私の不甲斐なさが招いたことだ」 - 138二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:19:25
「知ってるとは思うが、ウチは貧しくてね」
「私と妻……そしてことねの3人で食っていく分には問題なかったんだが」
「弟妹達が増えるに連れて生活は苦しくなっていった」
「ことねには不自由な思いをさせたなァ……遊園地だって小さい頃に一度連れて行ったきりだよ」
「それでもどうにか家族を養っていこうと必死に働いたよ」
「妻は私を支えてくれたし、ことねも小さいながら弟妹達の面倒を見てくれた」
「だが、働けども働けども金は増えず、食い繋ぐので精一杯だった」
「子ども達が大きくなれば学費も掛かる。食費だって上がる」 - 139二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:20:19
「正直言って八方塞がりだった」
「私達家族には先がなかったんだ」
「そんな時だった。……ことねが『初星学園に入りたい』と言い出したのは」
「『アイドルになって、大金持ちになって、家族みんなを養う』と」
「なんて優しい子だろう、と思った」
「ことねは小学生にして家族全員を養うことを考えていた」
「……だが同時に自分が情けなくも感じた」 - 140二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 07:11:11
ほ
- 141二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 18:40:54
ことーね
- 142二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 00:16:26
「ことねを初星学園に入学させるにあたって、大きな問題に直面した」
「学費……ですね」
「…………そう。私達はあの子を公立の中学に進学させるつもりでいたし、その為の蓄えはあった」
「……だが、初星学園の入学費用は、私達に払えるような金額ではなかった」
「…………」
実際のところ、初星学園の生徒は比較的裕福な家庭の子どもが多い。
苦学生の為の救済措置があるにせよ、家庭の経済事情による有利不利が大きいのは否めないのが現状だ。
「だからやむを得ず、借金をして学費を支払うことにした」
「ことねを初星学園に入れる為には……そうするしかなかった」 - 143二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 00:16:54
「ことねさんに初星学園を諦めさせる……という考えはなかったんですか?」
「学費のことをちゃんと話せば、ことねさんも諦めてくれたのでは?」
「……もちろんそれも考えた」
「だけど、どうしてもあの子を初星学園に行かせてあげたかった」
「『大金持ちのアイドル』になる可能性に賭けたかったと?」
「違う。借金なんて私が働いてなんとかするつもりだった」
「…………アイドルが……あの子の夢だったからだ」 - 144二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 00:17:30
「私はことねに何も与えられなかった」
「それどころか小さな頃から我慢ばかりさせてきた」
「何も文句も言わずに幼い弟妹達の面倒を見る良い子だった」
「アイドルは…………そんなことねの唯一の夢。唯一の憧れだった」
「重要なのは稼げることじゃない」
「アイドルになることこそが重要だったんだ」 - 145二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 07:13:37
世界一
- 146二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 08:00:43
親父ィ……