- 1二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:28:12
『お前はこの世に生きてちゃいけねェんだロビン!!!』
それは、聞き飽きた言葉のはずだった。
もう、言われ慣れた言葉のはずだった。
それでも、その記憶は凍りついた思考を溶かすのに十分な熱を持っていた。
暗い部屋の中、ベッドの上、人の気配。
ぼやけた意識のなかで自分が五体満足であることが確認でき、ようやく理解する。あぁ、私は助かったのだ、と。
音を立てないようにゆっくりと体を起こす。少し体が気だるいが、後遺症めいたものは確認できない。確かに全身凍らされたはずなのに……
寝息の聞こえる方に目をやると、航海士さんに枕にされるように抱きつかれる、この船の可愛い船医さんがいた。
お礼を兼ねて、頭を撫でようとして、やめた。もしそれで起こしてしまったなら、飛び上がって騒ぎになってしまうだろうから。
「無事で良かった」
そう言って心の底から安堵し、涙を流してくれる。
そう、今は、まだ……。
『次に選んだ隠れ家がこの一味というわけか』
『厄介な女を抱え込んだと、後悔する日もそう遠くねぇさ』
青キジの言葉が心臓を締め付ける。氷は溶けたはずなのに、体が異様に寒い。無意識に体をさする自分に、思わず笑ってしまう。 - 2二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:29:18
「……なにを、今更……」
わかっていたはずだ、今までだってそうだったのだから。
どれだけ優しくても、どれだけ私に利用価値があっても、今回のようなことが続けば、いつかこの人たちも私を──
わかってる。わかっている。
だから、今回だって平気だ。見限られることなんて、いつものことなのだから……
鉛のように重い体をベッドに沈める。再び眠気に誘われるままに目を閉じようとしたときだった。
「……歌?」
気のせいだろうか?いや、波と風の音に紛れて、それは確かに聞こえてくる。音源はそう遠くない……おそらく船のどこかだ。
けれど、一体誰が……?
この海賊船のクルーは全員……
いや、1人、いない。
明らかに誰かが寝ていた形跡のある隣のベッドが目に入る。再び体を起こして室内を見やる。
机に突っ伏しているのは長鼻君とコックさん。床に寄り添って寝ている船医さんと航海士さん。壁を背に、座るように眠っているのが剣士さん。
ということは……
歌声に誘われるように、私は部屋の扉を開ける。 - 3二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:32:02
ロングリングロングランドの気候は安定しているけど、夜は少し肌寒い。毛布を羽織ってきて正解だった。
快晴の星空の下、満月に照らされる船上、その可愛らしい船首の上に、彼はいた。
──ただ一つの夢、決して譲れない
隔てるものを失い、空気を伝い直に届くそれは、心をそっと包んでくれるような、陽だまりの中にいるような、暖かく優しい歌声だった。
茫然とする私の気配を察したのか、その歌声の主──麦わらの一味の船長、モンキー・D・ルフィが振り返る。
「ん……?おーロビン!目覚めたのか!よかったぁ!」
「え、えぇ……おかげさまで……」
太陽のようなその笑顔に、我に帰る。それと同時に、目眩のような感覚に襲われた。体調が優れないことが理由ではない。頭が混乱しているのだ。
この船に乗って数日、毎日見続けたその表情、彼の性格、これまでの行動その他もろもろが、先ほどの歌声とどうしても結びつかない。
「そっか、よかったなぁ……」
ほっと安堵のため息を漏らすルフィ。そしてその視線は私から外れ、再び前をむく。一瞬、悔しそうに口元が歪んだのが見えた気がした。
風が沈黙を奏でる。彼が無口なのも珍しい。青キジと一体どうなったのか、あの刹那の表情から聞くべきでは無いと考え、少しでも明るい話題をと、先ほどの歌について聞いてみることにした。
「驚いたわ。歌、うまいのね……?」
思わず聞き惚れたわ。と、何気なく言おうとした言葉は、何故か喉の奥につっかえて出てこなかった。
そんな私の賞賛に、ルフィはニシシッあどけなく笑う。
「小さい頃によ、すっげー歌の上手い奴がいて、そいつに勝ちたくて練習したんだ!」
月を見上げながらそう言うルフィ。その横顔はどこか昔を懐かしんでいるように見えた。“D”の文字を持つ彼の幼少期。非常に興味深い話ではある。 - 4二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:33:54
けど、それよりも今は──
「ねぇ……歌ってくれないかしら?」
あの歌声に、もう一度包まれたいと思った。
「おういいぞ!んぅ〜南の〜島〜は〜〜あったけぇ〜〜」
「そっちじゃないわ」
いつもの戯けた調子で歌い出す彼にきっぱり言い放つ。しかし今の歌も、歌詞はアレだが拳がきいててなんだか笑ってしまう。
「……“風のゆくえ”……好きなのよ、その歌……」
そう言って、近くの柵に背を預け、しゃがみ込む。私のリクエストに、ルフィは鷹揚に頷き、再び月を見上げると、息を大きく吸った。
──この風は、どこからきたのと
まるでその歌声に呼応するように、風がふわりと私の頬を撫でた。胸の中にある何かを、そっと手のひらで包んでくれるような優しい歌声に耳を傾けながら、目を閉じる。
昔、大好きな人の膝の上で、頭を撫でてもらいながら、その歌を歌ってもらったような気がする。そんな、あったかもしれない記憶を瞼の裏に映していると、ふとサウロの言葉が脳裏を過ぎる。
『いつか必ず!!!お前を守ってくれる仲間が現れる!!!』
それが彼らだったら、なんて。そんな淡い希望を抱くべきでは無いことは、分かっている。
(分かっているから……)
今だけは不安も恐怖も忘れて、この幸せな時間を堪能する。
いつか来る別れの時に。必ず訪れる絶望の日に。
「それでも楽しかった」と、そう思えるように──。 - 5二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:34:55
俺は……(文章力が)弱いっ……!!
お目汚し失礼しました。 - 6二次元好きの匿名さん24/06/11(火) 23:39:04
?
- 7二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 01:22:19
続けてくれ
- 8二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 01:45:10
もっと思いついたら書いてほしい