- 1二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:05:13
「ネオユニヴァースは、“PNPN”をしているよ」
それは、突然の出来事であった。
デスクを挟んだ目の前には、頬を膨らませて、少しばかり眉を吊り上げた担当ウマ娘。
金髪のロングヘアー、眠たげに細められた碧眼、どこか浮世離れした雰囲気。
ネオユニヴァースは、珍しく怒りをあらわにしながら、俺の目の前に立っていた。
「やっ、やあ、ユニヴァース……えっと、俺に怒ってるのかな?」
「アファーマティブ」
俺が恐る恐る問いかけてみると、ユニヴァースはこくりと頷いた。
どうやら、俺は彼女を怒らせてしまったらしい。
……まったく、心当たりはないのだが。
「なんか、まずいことをしちゃったかな?」
「ネガティブ、むしろ“アンチマター”、トレーナーは『なにもしない』をしていた、だね」
ユニヴァースの言葉に、俺はドキリとする。
つまるところ、俺がすべきことをしていなかった、ということだろう。
だとすれば明確に俺の非であり、早急に対策をしなくてはいけない。
そう考えて、思考を巡らせる。
必要な書類手続き────チェックは彼女と共にしたから大丈夫のはず。
誕生日プレゼント────ちゃんと手作りのプラネタリウムを渡したし、お祝いもした。
しばらく考えては見るものの、やはり、わからない。
もう数年の付き合いになり、意思疎通はかなり出来るようになったと思っていたのだが。
情けない、と思いつつも、彼女問いかけを発する。 - 2二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:05:32
「ごめん、ユニヴァース……俺が何をしていなかったのか、教えてくれないか?」
「ネオユニヴァースは“RCOL”したんだ……『東京レース場』『芝2400』『重バ場』『5月』……」
ユニヴァースは、単語を並べていく。
おそらくはレースの条件、そこに俺達が絡むとすれば、該当するレースは一つしかなかった。
「俺達が勝った、日本ダービー? 結構前の話だけれど」
5月、東京レース場、芝2400、重バ場。
この条件に合致する、ユニヴァースが走ったレースといえば、全ウマ娘、全トレーナーの憧れ、日本ダービー。
俺達は確かに、そのレースにおいて勝利を収めて、クラシック2冠を達成した。
……しかし、それはもう数年前の話である、そんな前のことと彼女の怒りになんの関係があるのだろうか。
「ダービーの後、『あなた』は『ぼく』を抱きしめてくれた」
「してないけど!? ……いや、違うか、この場合は────」
ネオユニヴァースには、特異な能力がある。
それは────別宇宙のネオユニヴァースの観測。
重なり、連なっている宇宙の中、もっとも近くにいる自分自身を見ることが出来る、とは彼女の言。
俺達の最初の三年間は、その道筋を辿りつつ、越えていくことが目的であったと言って良い。
……まあそれはさておき、つまり、彼女が言いたいことは。
「『わたし』は『あなた』に抱きしめられていない…………『めちゃムカつく』」 - 3二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:06:05
「……ネオ、キミが見た俺達はともかく、担当ウマ娘とレース場でハグするトレーナーなんていないよ」
「ネガティブ、ネオユニヴァースは“観測”をした、“MAZN”だね」
「…………うん、俺も見た覚えがあったな」
思い返してみると、割といる気がする。
おかしいなあ、レース場じゃないとしても、決して宜しくはない行為だと思うのだけれど。
俺が言葉に窮していると、ユニヴァースは身を乗り出して、顔を近づけた。
「とっても“INTI”、『わたし』も、『ぎゅー』をしてほしい……!」
ユニヴァースの、懇願するような目つき。
クールで掴みどころのない印象の彼女ではあるが、割と頑固で好奇心旺盛。
このテンションの彼女を説き伏せられるかといえば、かなり厳しい。
それに、ネオの望みならば、出来る限りは叶えてあげたい────どうしても、そう思ってしまうのだ。
俺は降参するように、ため息をついた。
「はあ……わかったよ、一回だけ、一回だけだからね?」
「……ふふっ、ネオユニヴァースは“APPR”をするよ、いっぱい、ありがとうだね」
そして俺が受け入れた瞬間、ユニヴァースは柔らかな微笑みを浮かべた。
……もしかして、騙されたのかな、俺。 - 4二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:06:21
「じゃあ、ほら、おいでネオ」
俺はユニヴァースの前に立つと、大きく両手を広げて、声をかけた。
すると彼女は大きく目を見開いて、尻尾をぶんぶんと揺らすと、踊るような足取りで近づいてくる。
そしてそのまま、俺の胸へと飛び込んで、顔を埋めた。
少し心配になるくらいの軽さ、細いけれど柔らかな体躯、ふわりと漂い甘い匂い、ほんのり感じる温もり。
彼女はすりすりと頬ずりをして、耳をぴこぴこ動かしてから、言葉を紡いだ。
「トレーナーに“REQU”を“送信”……“ホールドモード”に」
「……了解」
望み通りに、俺はユニヴァースの背中に腕を伸ばすと、そのまま彼女の身体を抱きしめた。
ゆっくりと、慎重に、力を込めていく。
ぴくんと、彼女の身体が一度震えてから、溶けるように力が抜けていき、重みが少し増した。
「うん……この『感触』は“COMF”」
「そっか、痛くはない?」
「“ART”、『丁度良い』を、しているよ」
「……温泉の時は額を合わせただけでのぼせていたけど、ハグは大丈夫なの?」
「…………『いじわる』」
胸の上にある、ユニヴァースの顔の温度が急上昇する。
彼女は顔を見られないようにするためか、押し付けるように、さらに顔を埋めてしまった。
その様子を微笑ましく見ながら────微かな違和感を覚えていた。 - 5二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:06:40
「“安定”……なのに、“DIFF”を感じる」
「…………ネオも、そう思う?」
「トレーナーも? “MABTE”、正しく“再現”が出来ていないのかな」
ネオユニヴァースは俺を見上げながら、こてんと首を傾げた。
どうにも、彼女も同じように、微かな違和感を覚えているようだ。
「“高度”、“座標”、“距離”……“DNEY”、これは────」
瞬間、ユニヴァースはピンと耳を立てた。
さわさわと尻尾で俺の手を撫で上げてきたので、俺はいったん、抱きしめていた腕を解く。
すると彼女は────くるりと、その場で反転した。
「────“ラジアン”、だね」
今度は背中を向けて、ユニヴァースは身体を寄せてくる。
先ほどとはまた違う感触、そして髪の毛から漂うシャンプーの良い匂いが、鼻先をくすぐってきた。
そして、彼女は催促するように、今度は俺の身体を尻尾でふぁさふぁさと触れてくる。
「トレーナー、“再試行”、『もう一回』をしてほしい」
「……これで、最後だからね?」
俺は、ユニヴァースを後ろから、優しく抱きしめた。
力はあまり入れずに、ただ包み込むように。
それは何故か、先ほどよりも、妙にしっくりと来た。
心の、魂の奥底から、溢れんばかりの歓喜の想いが、蘇ってくる感覚。 - 6二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:07:02
「…………幸せの“FELT”、『ぼく』が感じた、『あなた』の愛」
「……ネオ、俺も、わかる気がする」
「トレーナー、もう少しだけ、“重心”をネオユニヴァースへ」
「…………重くない?」
「“NPB”、それに、その方が、『近い』」
そして俺は、ユニヴァースに言われるがまま、少しだけ身体を前へと傾ける。
彼女の背中に身を預けるように、俺の全身で愛を伝えるように。
「なんか、おんぶされているみたいで恥ずかしいな」
「“ビギーバック”だね、でもきっと、『あなた』も、“共有”をしているはず」
「……ああ」
少し不格好なはずなのに、この体勢は、妙にしっくりとくる。
日本ダービーに勝利した時の喜びが、再び再燃して、思わずぎゅっと力が入ってしまう。
ユニヴァースはそんな俺の手の甲に、優しく自らの小さくて柔い手のひらを、そっと添えた。
「……スフィーラ」
彼女は小さく微笑んでから、そう呟くのであった。 - 7二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 02:07:35
お わ り
当時の写真を見て思いついたお話です - 8二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 05:55:28
すばらしいいいいい!!!!!
ありがとおおおおお!!!!! - 9二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 07:07:36
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- 10124/06/12(水) 08:07:29
- 11二次元好きの匿名さん24/06/12(水) 09:25:05
- 12124/06/12(水) 21:21:33
これですね