(SS注意)サクラローレル妹概念

  • 1二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:21:27

    「朝ですよ、起きてくださーい」

     耳元で囁かれる小さな声と、優しく揺さぶられる感覚
     その合わせ技で覚醒した意識は、微睡みの中、一つの疑問を浮かび上がらせた。
     何故、あの子の声がするのだろう。
     布団の中にいるということは、ここは俺の部屋の寝室、ということだ。
     であれば、この場に、この声の持ち主はいるはずがないのだけれど。
     つまり────これは夢だな、俺はそう判断して、布団へと深く潜り込む。

    「あっ、ダメですよ、今日は私とお出かけをする約束じゃないですか」

     外から聞こえて来る、少し困ったような声。
     確かに、今日はあの子とのお出かけの予定だった。
     けれど、それはお昼過ぎからのはずだし、ここにいるはずがないという前提条件には変わらない。
     ……うん、もうちょっと寝た方がいいな、そう考えて布団の中で丸まった。

    「むう、それじゃあ、強硬手段に出ちゃいますからね?」

     直後、布団を捲り上げられて、冷たい空気が流れ込んできた。
     夢にしては随分とリアルだな、そう考えていると布団はぱさりと閉じられる。
     そして、目の前には明らかに異物の気配。
     湯たんぽのような温もり、桜の花のような甘い香り、そして小さな息遣い。
     ────俺は一気に目が覚めて、慌ててぱちりと目を開けた。

    「……bonjour♪ ふふっ、今日は寝坊助さんなんですね?」

     息がかかるくらいの距離にあったのは、一人のウマ娘の顔。
     栃栗毛のショートヘア、月桂冠の髪飾り、桃の花のように鮮やかな色の瞳。
     担当ウマ娘であるサクラローレルは、悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、布団の中に潜り込んでいた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:21:41

    「ロッ、ローレル? えっと、なんで、ここに?」
    「なんでって、家族のことを起こしにくるのが、そんなにおかしいですか?」
    「そりゃおかしいでしょ…………家族?」

     突然、意味不明な単語が入り込んできた。
     確かにローレルは大切な担当で、家族と同じくらい大切に想ってるつもりだが、家族ではない。
     ……やはり、まだ夢を見ているのだろうか。
     俺が困惑をしていると、ローレルは不満げに頬を膨らませて、両手を伸ばしてきた。

    「もう、まだ寝ぼけているんですか? 貴方の健気で、ひたむきで、心優しい妹が、起こしに来てあげているのに」

     そう言ってローレルは、俺の頬をぐいぐいと引っ張ってくる。
     割と、しっかり痛い。
     つまり、これは夢ではないということだ。
     ……状況はどうあれ、現実において彼女と同衾している状態は、非常に宜しくない。
     俺は彼女の手に軽く触れて、やめてもらうように声をかける。

    「ろーへる、いっはん、やへて」
    「ふっ、ふふっ、かわいい……!」
    「ろーへる」
    「はぁい……それじゃあ、ばっちり目も覚めたみたいので、もう一度改めて」

     ローレルは少し名残惜しそうな表情を浮かべながらも、手を離してくれた。
     そして、その美しい目を近づけて、じっと俺を見つめながら、彼女は笑顔で口を開く。

    「おはようございます────兄さん♪」

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:21:54

     これは、一体全体どういう状況なのだろうか。
     テーブルの前で正座しながら、俺は一人、思考を巡らせ続けていた。
     ちらりとキッチンの方を見れば、エプロン姿のローレルが尻尾を楽しげに揺らめかせながら、朝食の準備をしている。
     まず、情報を整理する。
     今日はローレルとお出かけの約束をしている、ということ。
     これは俺もちゃんと覚えているし、予定表にも書いてあって、間違いはないはずだ。
     次に、その彼女が俺の部屋まで起こしに来たこと。
     鍵の問題はあるが、彼女は一度ここには来たことがあるので、説明出来なくもない。

     そして、彼女が俺の妹であると主張し始めたこと────ここが明らかにおかしい。

     俺は一人っ子のはずだし、お袋にぞっこんの親父が他所で子どもを作るとか考えられない。
     というか、そもそも俺はローレルの両親に会っているわけで、義理だとしても彼女が妹であることはあり得ないのだ。

    「兄さん、お待たせしました、今日の朝食はフランス風にしてみました」
    「あっ、ああ、ありがとう……これはパンと、ゆで卵?」

     テーブルに置かれたのは、細めに切られたパンと、スタンドのような器に入った卵。
     ローレルはフランス風というが、日本でも見られるような組み合わせとしか思えない。
     そんな俺の疑問を見透かしたように、彼女は少し得意げな笑みを浮かべてみせた。

  • 4二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:22:10

    「これはoeuf à la coqueという料理なんです、その卵の上の部分だけを割って開けてみてください」
    「了解……あっ、半熟卵なんだコレ」
    「そこに塩胡椒を軽く振りかけて、mouillette……バターを塗って細切りにしたトーストを浸して食べてください」
    「なるほど、いただきます」

     俺はローレルに言われるがままにして、ムイエット、と呼ばれるパンを手に取った。
     卵をこうしてディップソース感覚で使うのは新鮮だな、と思いながらも浸しで、ぱくりと一口。
     
    「……っ! 美味しい! 定番の組み合わせなのに、こんな違う味わいになるなんて!」

     香ばしく小気味な歯ごたえのパンと、とろりとした卵の美味しさが絶妙にマッチしている。
     そんな俺の反応を見て、ローレルはきょとんとした表情を浮かべてから、くすくすと笑みをこぼす。

    「ふふっ、兄さんは本当に美味しそうに食べてくれますね?」
    「実際美味しいからね……自分でも作ってみたいな」
    「これはかなり簡単に出来ますから、今度一緒に作りましょう、あっ、サラダもありますよ」
    「そっか、じゃあその時を楽しみに……ってうわあ」

     どん、と二郎系ラーメンみたいな盛り方されたサラダが目の前に置かれ、思わず面を食らってしまう。
     そして、いただきます、と耳をぴこぴこさせながら言うローレルを見て、俺は顔を綻ばせた。
     色々と気になることはあるけど、今は彼女の用意してくれた朝食に集中するべきだな。
     俺は一旦疑問を忘れて、彼女との朝食の時間を楽しむこととした。
     ……ちなみに大量のサラダは9割方ローレルがぺろりと美味しくいただきました。

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:22:26

    「お待たせ、ローレル」
    「いえ、大丈夫ですよ……ふむ」

     食事を終えて、洗い物をして、着替えを済ませて。
     部屋を出た俺は、外で待っていたローレルに声をかける。
     彼女は出て来た俺の姿を、四方八方からじろじろと見回し、やがて笑顔で両手を合わせた。

    「うん、今日の兄さんもはなまるですっ! ちゃんと、格好良いですよ?」
    「おっ、おう、それは良かった」
    「ふふっ、ビシっとしてもらえると、妹冥利に尽きちゃいますね────それじゃあ、行きましょう?」

     そう言うと、ローレルは片方の手のひらを差し出してくる。
     意図が掴めず、ぽかんとしていると、彼女は催促するように手を振った。

    「もう、兄さんってば……迷ったら困るから手を繋いでください」
    「普通、兄と妹ってお出かけの時に手を繋ぐものなの?」
    「お姉さんに手を引かれるブライアンちゃんの写真を見たことがありますから」
    「それは姉妹だし、小さい頃の話なんじゃ」
    「……兄さんは、いや、ですか?」

     ローレルは、不安そうな表情で、少しだけ俯いてしまう。
     そんな彼女の顔が見たくなくて、気づいたら、俺は差し出されたままの手を握っていた。
     小さく、細く、柔らかく、そして暖かなローレルの手。
     彼女は耳と尻尾をピンと立ち上げて、目を丸くする。
     そして嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべて、手を持ち上げた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:22:41

    「えへへ……外れたら困るので、もっとしっかり握って欲しいなって、妹は思います」
    「強く握る、ってこと?」
    「それも良いですけど……こうです♪」

     そう言うと、ローレルは握る力を緩めて、そして指を一本一本絡ませてきた。
     普通に握るよりも手の感触がしっかりと伝わって来て、ちょっとだけドキっとしてしまう。
     彼女も同じなのか、じんわりと手のひらが熱くなり、パタパタと尻尾が忙しなく動いていた。

    「……これは、違う関係性の繋ぎ方だと思うんだけど」
    「うーん、そうだったかなあ? 兄さんは、これがどういう名前の繋ぎ方か、覚えていますか?」
    「…………行こうか」
    「ふふっ、はぁい」

     ……まあ、勝てるわけもなかった。
     俺は小さくため息をつき、ローレルと並んで、歩き始めるのであった。
     ────時折、彼女に手をにぎにぎとされながら。 

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:22:55

    「んー♪ C’est bon!」
    「うん、ここのクレープはかなりの当たりだね」
    「ええ、本場フランスの味を再現した、と銘打ってるだけはありますね」

     この日、俺達は駅前に新しく出来たクレープ屋さんに来ていた。
     かなり話題のお店らしく、結構な時間並ばされたのだが、それも納得する味である。
     俺はチョコバナナホイップ、ローレルはストロベリーホイップを選んでいた。
     近くにあったベンチに二人で腰かけて、クレープを堪能する。

    「ホイップクリームも絶品ですけど、苺そのものも瑞々しくて、甘酸っぱさも絶妙で……!」
    「果物そのものにもこだわってるのは良いよね、こっちのバナナも美味しくてさ」
    「……じぃー」

     物欲しそうに見つめて来るローレル。
     普段はあまりこういうことはしないのだが、妹という設定のせいか、今日は少し甘えん坊らしい。
     苦笑いを浮かべつつも、俺はクレープの包み紙を少し剥がして、彼女へと差し出した。

    「ちょっと食べる? こっちの方だったら口をつけてな」
    「兄さん、良いんですか? それじゃあ遠慮なく頂ぎますね────あむっ」

     喋っている途中でローレルは目を輝かせて、俺のクレープへと口を寄せた。
     ちょうど口を付けた場所を、狙いすませたかのように、ぴったりとかぶりつく。
     呆気に取られている俺を尻目に、彼女は頬に手を当てて、幸せそうな顔で咀嚼していた。
     やがてこくりと、その細い喉を鳴らして、顔をほころばせた。

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:23:08

    「わあ、こっちも美味しい! ほろ苦なチョコとバナナとクリームの甘味が相性抜群ですね!」
    「……そっ、そうだね」
    「……ふふっ、それじゃあ兄さんにもお返しです、さあ私のクレープを召し上がれ、あーん♪」

     そしてローレルは、自身の、真っ赤な苺がたっぷり入ったクレープを差し向けて来る。
     その表情には、いかにもからかっている、といった雰囲気が見て取れて、尻尾も楽しそうに動いていた。
     正面には、彼女が口をつけたであろう断面。
     俺は数秒だけかんがえながら、出来るだけ平静を装いつつ、そのクレープへと口を近づけた。
     そして────まだ口をつけてないであろう端っこを、ちょっとだけ食べる。
     ……端っこ過ぎて苺の味はほとんどしなかったが、まあそれでも美味しい。
     
    「……兄さんは、ずいぶんと器用な食べ方をするんですね?」
    「……その部分がクレープの一番美味しいところなんだよ」
    「あら、それじゃあ私も、兄さんを見習って……あむ」
    「あっ」

     俺が少しだけかじった部分、そこをローレルはぱくりと食いつく。
     もくもくと口を動かして、静かに飲み込むと、彼女はどこか蕩けた笑みを浮かべた。

    「……やっぱり、ちょっと甘すぎるかもしれませんね?」

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:23:22

    「ご馳走様でした♪ 今度は他のフルーツがメインのものを、食べてみたいですね」
    「それもいいけど、俺はあんことか入ったクレープも食べてみたいかな」
    「確かに、和風クレープも美味しそうでしたね、チヨちゃんやバクちゃんはそっちが好きそうかなあ」

     ローレルはこの場にいない友人の顔を思い浮かべながら、空を見上げていた。
     その顔は、いつも通りの優しい彼女の表情で、横から見ていると安心した気分になれるよう。
     ……別に今の時間が楽しくないわけではないが、いつもよりも別方向で距離が近く、どうにも落ち着かない。
     一体全体、ローレルはどういう意図を持ってこんな行動を────と、彼女の横顔を見ていて、ふとした違和感に気づく。

    「ローレル、少しこっちを向いてくれる」
    「はい、どうかしましたか、兄さん?」

     俺が声をかけると、ローレルは素直にこちらを向いてくれた。
     きょとんとした様子の彼女の顔を正面から見つめるものの、先ほどの違和感の正体を掴めない。
     
    「ちょっとごめんね」
    「……ひゃっ!?」

     失礼と思いながらも、良く見えるように顔を近づける。
     そして、ローレルの無防備な顎に触れ、くいっと持ち上げた。
     彼女の耳がピンと逆立ち、桜色の瞳が大きく開かれた。

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:23:36

    「えっ、なっ、トレー、あっ、いや、にっ、兄さん……?」
    「……ローレル、じっとしてて」
    「……っ!」

     俺の言葉に、ローレルの身体がびくんと跳ねた。
     そして、彼女はぎゅっと目を閉じて、ぷるぷると微かに震えながら、唇を尖らせる。
     ……目を閉じたりする必要はなかったが、そのおかげで違和感の原因を見つけることが出来た。
     薄く、赤く、そして柔らかそうな彼女の唇────その下にそっと指先を添えて、軽く拭きとってあげる。

    「唇の下のところに、ちょっとだけクリームついてたよ」
    「えっ」

     ぽかんとした様子で、目をぱちくりさせるローレル。
     次の瞬間、彼女はその顔を燃えるような勢いで、赤く染め上げ、瞳を潤ませた。
     そして、ふいっと目を背けると、少しだけ頬を膨らませて、ぽそりと呟く。

    「……兄さんの、ばか」

  • 11二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:23:52

     その後、何故か拗ねてしまったローレルを何とか宥めて、他の目的を済ませ、帰路につく。
     もう時刻は5時を過ぎているというのに、茜色はまだ見えてこない。
     結局、ローレルは俺のことを『兄さん』を呼び続けたまま、一日を過ごしていた。
     さすがに、そろそろ真意を問いただすべきだろうか────そう思った矢先、彼女は繋いでいた手を離した。
     そして、軽い足取りで俺の前へと歩み出すと、両手を後ろに組み、俺に背中を向けたまま、立ち止まる。

    「先日、たまたま、盗み聞きをしてしまったんです」

     そしてローレルは、語るように、言葉を紡ぎ始めた。
     どんな表情をしているのかは、こちらからでは、まったく見ることが出来ない。
     
    「あなたが、同僚の人とお話をしてるところ……ふふっ、私のこと、いっぱい褒めてくれましたね」

     ちょっと恥ずかしかったんですよ、とローレルはゆらゆらと尻尾を揺らめかせる。
     それは数日前の出来事、久しぶりに同期のトレーナーと顔を合わせて、少しだけ雑談をかわしたのだ。
     雑談、とはいえお互いの職業柄、話題は仕事、レース、そして担当ウマ娘のこととなる。
     同期の担当ウマ娘は中等部で、子どもっぽすぎて振り回されてばかりだと、満更でもなさそうな顔で言っていた。
     そして、お前はどうだ、と問いかけられて────。

    「健気で、ひたむきで、優しくて…………妹がいたらこんな感じなのかな、なんてお話してましたよね?」

     ローレルの尻尾は揺らめいたまま、その耳だけが力なく垂れてしまう。
     そうだ、そういう話をした覚えがある、なるほど、それを聞かれていたのか。
     気づいていなかったとはいえ、失礼なことを言ってしまったな。
     そう考えて謝罪を口にしようとするが、それよりも先に、彼女の言葉が俺の耳に届いた。

  • 12二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:24:12

    「聞いた時、嬉しかったんですよ? 家族のように想ってくれてるんだあって────でも少し、もやもやして」

     そう言って、くるりと、ローレルは振り向く。
     その顔には嬉しそうな、困っているような、少しだけ恨めしそうな、なんとも複雑な表情が浮かんでいた。
     彼女はゆっくりとした足取りで近づいて、目の前に立つと、身体を少しだけ前に傾けて、上目遣いでこちらを見つめる。

    「だから、今日は妹として振舞ってみました……どういう、感じでしたか?」

     ローレルの瞳が、一瞬だけ不安そうに揺らいだ。
     頭の中に、今日一日の記憶がリフレインする。
     朝起こしてもらって、一緒にご飯を食べて、街を歩いて、クレープを食べて、買い物をして。
     それは非日常で、何もかもが新鮮で、とても楽しい時間であったとは思うのだけれど。
     俺は熱くなった頬を掻きながら、正直な気持ちを口にした。

    「……ずっとドキドキさせられてて、まあ、少なくとも、妹って感じではなかったかな」
    「……!」

     ローレルの耳と尻尾が、ピンと立ち上がり、ぴょこぴょこと楽しそうに動き始めた。
     彼女の自身も嬉しそうに微笑みながら、軽やかなステップを踏み、俺の隣へと並び立つ。
     そして、するりとその腕を絡ませてきた。
     右腕がほんのりとした温もりと、柔らかな感触に包まれる。

    「ロ、ローレル?」
    「あはっ、妹ではないみたいなので、手は繋がず、これで我慢しますね? あーあ、残念だなあ♪」

     言葉とは裏腹に、全く残念ではなさそうな声の調子と表情で、ローレルは歩みを進めて行く。
     何がなんだか良くわからないが、彼女がとにかく楽しそうなので、とりあえず良しとするべきだろうか。
     俺は彼女に歩調を合わせながら────聞かなければならないことを、一つ、思い出す。

  • 13二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:24:29

    「そういえば、朝どうやって部屋に入ったんだ? もしかして、鍵かかってなかったとか?」
    「……もしかして、忘れてますか?」
    「……何を?」

     ジトっとした目つきで俺を見つめるローレル。
     しかし、何のことを言っているのか、全く見当もつかない。
     すると彼女はごそごそと鞄を探り、小さな金属の物体を取り出した。
     月桂樹の葉を模した飾りを付けた、一本の鍵。
     それには見覚えがあって、恐らくは、俺の部屋の鍵であった。

    「……結構前ですが、もしもの時には自由に使って良いって、合鍵を貰っていたんですけど」
    「……そういえば、そんなこともあったね」
    「…………私は貰った時からドキドキしていて、いつ使おうか、ずっと悩んでいたんですけど」
    「いや、キミなら悪用しないだろうし、気軽使って構わな……って、ちょっとローレル、尻尾当たってる」
    「………………お守りみたいに思えて、ずっと肌身離さず持ち歩いて、大切にしていたんですけど」

     ぺしぺしと、腰のあたりにローレルの尻尾が何度も当たる。
     それほど痛いわけではないが、何度も叩かれると、ちょっと気になってしまう。
     しばらくすると、尻尾の動きが止まり、大きなため息が聞こえて来た。

    「はあ、それじゃあ、仕方ありません」

     しゅるりと、脚に巻き付いて来る、ローレルの尻尾。
     彼女はこちらを覗き込みながら、どこか大人びた微笑みを浮かべ、口元に人差し指を立てる。

    「今後は有効活用させていただきますので、覚悟してくださいね────トレーナーさん?」

     ああ、やっぱり、それがしっくり来るな。
     とんでもない布告をされてる気がしたが、俺は暢気にそう思ってしまうのであった。

  • 14二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:25:23
  • 15二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 01:59:14

    へぇ……ローレルさん相変わらず真っ向勝負に弱すぎませんこと?
    いいぞもっとやれ

  • 16二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 02:04:48

    素晴らしいssでした
    やっぱりローレルさんはかわいい...

  • 17二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 06:08:12

    うーん最高
    ローレルは何やらせても映えるなあ

  • 18二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 07:50:39

    最初から最後までずっとイチャイチャしてる・・・

  • 19二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 17:15:37

    有効活用のしかたが良くわからないので書いてくださるとたすかります

  • 20二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 17:29:38

    これもう兄妹プレイでただいちゃつきながらデートしてるだけでは?

  • 21124/06/17(月) 20:16:30

    >>15

    真っ向勝負に弱いのではなくどんな攻撃も正面から受け止める気概があるだけなのです

    >>16

    どんな立ち回りさせても可愛いよね・・・

    >>17

    多分姉になってもらっても映えると思います

    >>18

    今見るとずっとイチャついてるだけですね・・・

    >>19

    多分こんな感じ

    (SS注意)サクラローレルが通い妻になる話|あにまん掲示板 まだ日が昇ったばかりで街中も静かな時間帯。 私はある部屋の前に立ち、手鏡で身嗜みの確認をしていた。 ……うん、髪の毛の乱れも、制服の乱れも無し。 一呼吸、私は月桂冠を模した小さな飾りがついたキーホル…bbs.animanch.com

    >>20

    ・・・そうですね

  • 22二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:42:38

    お姉さん系キャラが妹系になる…すごく良い

  • 23二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 23:45:46

    家族になる予行演習かな?

  • 24124/06/18(火) 09:40:22

    >>22

    新たな一面が見えて来る感じが良いです

    大人びた子だからたまには甘やかしたいですよね・・・

    >>23

    インターンシップみたいなものでしょう

オススメ

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