『毛虫の糸』 作:秦谷犍陀多美鈴

  • 1二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:03:12

    ある日の事でございます。会長様は初星学園の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。
    池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
    初星学園は丁度朝なのでございましょう。
    やがて会長様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。
    この初星学園の蓮池の下は、丁度1-1の教室に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、タオルの河やサイリウムの山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:04:59

    するとその1-1の底に、まりちゃんと云うアイドルが一人、ほかのアイドルと一しょに蠢めいている姿が、御眼に止まりました。
    このまりちゃんと云うアイドルは、ライブ中に息切れしたりユニットを解散させたりスマホを没収されたり変なニックネームを付けたり、いろいろ悪事を働いた大食漢でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:05:48

    また教養を怪文章に費やしてる・・・

  • 4二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:05:52

    と申しますのは、ある時この女がシャワールームを通りますと、小さな毛虫が一匹、路ばたを這はって行くのが見えました。
    そこでまりちゃんは早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、小さいけれど命のあるものに違いない。ことねへの言い訳に使えそうね。」と、こう急に思い返して、とうとうその毛虫を殺さずに助けてやったからでございます。
    星南会長は1-1の容子を御覧になりながら、このまりちゃんには毛虫を助けた事があるのを御思い出しになりました。
    そうしてそれだけの善い事をした報いには、出来るなら、このアイドルを1-1からプロデュースしてやろうと御考えになりました。
    幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、初星学園の毛虫が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。
    会長はその毛虫の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある1-1の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:06:47

    こちらは1-1の底で、ほかのアイドルと一しょに、浮いたり沈んだりしていたまりちゃんでございます。
    何しろどちらを見ても、まっ暗で、たまにそのくら暗からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、それは恐しいりーぴゃんの「足を引っ張らないでくださいね」なのでございますから、その心細さと云ったらございません。
    その上あたりは墓の中のようにしんと静まり返って、たまに聞えるものと云っては、ただ花海さんがつく微かな寝息ばかりでございます。
    これはここへ落ちて来るほどの人間は、もうさまざまな1-1のトラブルに疲れはてて、泣声を出す力さえなくなっているのでございましょう。
    ですからさすが大食漢のまりちゃんも、やはり(私、泣きそうですよ~)と咽びながら、まるで死にかかった蛙のように、ただもがいてばかり居りました。

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:08:04

    ところがある時の事でございます。何気なにげなくまりちゃんが頭を挙げて、1-1の天井を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色の毛虫の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。
    まりちゃんはこれを見ると、思わず手を拍うって喜びました。
    この糸に縋すがりついて、どこまでものぼって行けば、きっと1-1からぬけ出せるのに相違ございません。
    いや、うまく行くと、トップアイドルになる事さえも出来ましょう。
    そうすれば、もう花海さんに朝4時から追い上げられる事もなくなれば、藤田さんから暖を取る事もある筈はございません。

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:09:32

    こう思いましたからまりちゃんは、早速その毛虫の糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。
    元よりトップアイドルを目指していた事でございますから、こう云う事には昔から、慣れ切っているのでございます。
    しかし1-1とステージとの間は、何万里となくございますから、いくら焦って見た所で、容易に上へは出られません。
    ややしばらくのぼる中に、ペース配分のできないまりちゃんはくたびれて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。
    そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下を見下しました。

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:10:54

    元がめいさくなだけあって普通に面白いんだよな文章が

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:10:59

    すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた1-1は、今ではもう暗の底にいつの間にかかくれて居ります。
    それからあのぼんやり光っているりーぴゃんも、足の下になってしまいました。
    この分でのぼって行けば、1-1からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。
    まりちゃんは両手を毛虫の糸にからみながら、ここへ来てからすでに出し慣れた声で、「まあ、過ぎたことはいいよ。」と笑いました。

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:11:44

    この一部始終を美鈴が見ているってだけで笑える

  • 11二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:11:56

    リーぴゃん、リーぴゃんとは一体…?

  • 12二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:12:49

    ところがふと気がつきますと、毛虫の糸の下の方には、数限りもないアイドルたちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。
    まりちゃんはこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦のように(実際、莫迦なんですが)大きな口を開あいたまま、眼ばかり動かして居りました。
    自分一人でさえ断きれそうな、この細い毛虫の糸が、どうしてあれだけの人数の重みに堪える事が出来ましょう。
    ましてまりちゃんは1-1に落ちてから5kgも増量しているのでございます。
    もし万一途中で断れたと致しましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の1-1へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。
    そんな事があったら、大変でございます。
    が、そう云う中にも、アイドルたちはまっ暗な1-1の底から、うようよと這上って、細く光っている毛虫の糸を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。
    今の中にどうかしなければ、糸はまん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。

  • 13二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:14:05

    そこでまりちゃんは大きな声を出して、「糸を引っ張ったら、殺すから。」と喚きました。
    その途端でございます。今まで何ともなかった毛虫の糸が、急にまりちゃんのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。
    ですからまりちゃんもたまりません。あっと云う間まもなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。
    後にはただ極楽の毛虫の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。

  • 14二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:14:36

    美鈴…名前りーぴゃんで覚えてしまったの…?

  • 15二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:14:54

    藤田さん地獄に落ちても足ピトされてるのか

  • 16二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:14:54

    星南会長は初星学園の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがてまりちゃんが1-1の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。
    自分ばかりユニットからぬけ出しトップアイドルになろうとする、まりちゃんの無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の1-1へ落ちてしまったのが、星南会長の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
    しかし初星学園の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。
    その玉のような白い花は、星南会長の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。
    初星学園ももう午に近くなったのでございましょう。

    【Eエンド】

  • 17二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:17:44

    お釈迦様だから妥当なんだけどなんでこの会長、ことねちゃんを引き上げないんだろうと思ってしまう

  • 18二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:17:45

    Aエンドなら登りきれたのか…?

  • 19二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:20:34

    りーぴゃんを巻き込むな

  • 20二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:21:44

    清夏ちゃんは? 地獄落ちしなかったの?

  • 21二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:23:51

    ことねなら手突っ込んで拾い上げるから…

  • 22二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:24:17

    >>17

    藤田さんは星南会長に救われるくらいなら地獄で構わない、と…

  • 23二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:26:36

    原作が地獄だからって皆ナチュラルに1−1を地獄だと思ってるの笑う

  • 24二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:40:58

    >>13

    「糸を引っ張ったら、殺すから。」で笑った

    なんでこんなに手毬と親和性高いんだ

  • 25作者(※先2本とは別人)24/06/17(月) 20:48:20

    >>24

    ぶっちゃけこれがやりたかっただけの一発ネタでございます。

  • 26二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:49:29

    >>25

    ここで一番恐ろしいのはこんな怪文書を生産してる人が複数いることだと思う

  • 27二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:56:38

    学マス文学きちゃー

  • 28二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 20:57:04

    >>22

    最近あにまん民の私への評価が本当に酷い

  • 29作者(※先2本とは別人)24/06/17(月) 21:03:05

    >>28

    星南会長は…暇さえあればあにまんのような処を覗いてエゴサと藤田さんスレの保守をしているようなところが…

    藤田さんからドン引きされるのだと思います。

  • 30二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 21:07:26

    バンナムの学マスプロジェクト社員にもこの手の怪文書を見てる人っているのかな。気になるわ

  • 31作者(※先2本とは別人)24/06/17(月) 21:09:07

    怪文書の作り方
    1:羅生門先生のせいで平穏な日曜の昼間が潰された…許せない…俺も怪文書を書いて復讐してやる!
    2:芥川作品で程よく短くて有名なのと言えば…蜘蛛の糸だな
    3:カンダタ役とかどう考えても手毬じゃん
    4:脳内手毬「糸を引っ張ったら殺すから」

    ね、簡単でしょう?

  • 32二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 21:11:19

    復讐の連鎖に巻き込まれたのか俺は
    復讐は何も生まないと言われるけれど、こんな復讐ならいくらでも巻き込まれたい

  • 33二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 21:12:17

    青空学マス文庫の一覧をください

  • 34二次元好きの匿名さん24/06/17(月) 21:13:09

    >>31

    気軽に言ってくれるな(青狸)


    これであにまん民が文学に触れるならむしろプラスなのでは?

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