吾輩はカワイイである:前編【ss】

  • 1 流石に長いのでたまには分割21/09/07(火) 12:00:58

    吾輩はカワイイである。名前はカレンチャン。
    どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも生まれた時からカワイイであり、両親を笑顔にさせた事だけは記憶している。

    その昔、吾輩は両親に遊園地へ連れられた折、母からはぐれてしまった。吾輩はそこで始めて、お兄ちゃんというものを見た。しかもあとで知ったところ、それは後にトレーナーという人間中で一番意志の固い仕事になったそうだ。このトレーナーというのは時々我々を押し倒してうまぴょいするという話である(願望)。
    しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
    ただ彼に手を握られてスーと引っ張られた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。手を握られている間、少し落ちついてその顔を見たのがいわゆるお兄ちゃんというものの見始であろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。

    このお兄ちゃんの掌の感触でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくするとお城の前に来た。短い会話が終わった後、お兄ちゃんが動いたのか自分から動いたのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が痛くなる。もう到底会えないのかと思っていると、ぽつりと音がして眼から涙が出た。それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。

    ふと気が付いて見るとお兄ちゃんはいない。母親が迎えに来て、別れたのだったか。その上今までの心とは違って無暗に明るい。じっとしてはいられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、両親がおろおろして見る様子は非常に胸が痛い。それでも吾輩はカワイイのため、藁の上から世間という大波の中へ出なければならなかったのである。
    ようやくの思いで世へ這い出すとすぐに大きな山が立ち塞がる。吾輩は山の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。しばらくして泣いたらお兄ちゃんがまた迎に来てくれるかと考え付いた。うる、うると試みにやって見たが誰も来ない。非常に心細くなって来た。

    泣きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいからカワイイのある所まであるこうと決心をしてそろりそろりと山を登り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに這って行くとようやくの事で何となくトレセン学園へ這入った。

    ここへ入ったら、もっとカワイイであれると思って這入ったトレセン学園で、お兄ちゃんに再びあった。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:01:15

    縁は不思議なもので、もしこの時たまたまお兄ちゃんに再開出来なかったのなら、吾輩はついにお兄ちゃんをトレーナーとすることは出来なかったのかも知れんのである。
    縁は異なもの味なものとはよく云ったものだ。このお兄ちゃんは今日に至るまで吾輩がカワイイであり続けるための根幹となっている。

    さてそうしてトレセン学園へは這入り月日はたったもののこれから先どうして善いか分らなくなった。お兄ちゃんが耐える、マジで耐える、それはもう耐える、え、まだ耐えるのという始末でもう一刻の猶予が出来なくなった。このままでは現役引退まで未うまぴょいである。仕方がないからとにかく押して攻めてうまぴょいの方へ方へと誘導して行く。今から考えるとその時はすでに迷走しておったのだ。

    ここで吾輩は今一度お兄ちゃん以外のトレーナーを再び見るべき機会に遭遇したのである。第一に逢ったのがファルトレである。これはお兄ちゃんより一層クソボケだが危機管理は上手い方で吾輩を見るや否やいきなり本気で逃げ出した。いやこれは駄目だと思ったから吾輩はつい縄を使って縛り上げていた。

    しかし惚気とクソボケのにはどうしても我慢が出来ん。吾輩は再びファルトレの隙を見て縛り上げた。すると間もなくまた抜け出された。吾輩は抜け出されては縛り上げ、縛り上げては抜け出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。

    その時にファルトレと云う者には流石に申し訳なく思った。この間ファルトレの担当を偸んでこの返報として百合営業をやりつつ色々アドバイスをお互い交換してから、やっと胸の痞が下りた。

    そしてしばらくしてある時吾輩がトレーナー寮からつまみ出されようとしたときに、タキトレが騒々しい何だといいながら出て来た。警備員は吾輩をぶら下げてタキトレの方へ向けてこのカワイイカレンチャンがいくら出しても出してもお兄ちゃんの所へ侵入して来て困りますという。

    タキトレは頭を光らせながら吾輩の顔をしばらく眺めておったが、やがてそんならもう内へ置いてやれといったまま奥へ入ってしまった。タキトレはあまり口を聞かぬ人と見えた。警備員は口惜しそうに吾輩を抛り出した。かくして吾輩はついにこのトレーナー寮へ自由に侵入出来るようになったのである。お兄ちゃんはキレた。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:01:28

    吾輩のお兄ちゃんとは毎日吾輩と顔を合せる。職業はトレーナーだ。学園から帰ると終日トレーナー室に這入ったぎりほとんど出て来る事がない。同僚のものは大変な鋼の意志だと思っている。当人も鋼の意志であるかのごとく見せている。

    しかし実際に同僚のものがいうほどには鋼の意志であった。吾輩は時々忍び足に彼の部屋へ侵入するが、彼はよく昼寝をしている事がある。時々読みかけてある本の上に涎をたらしている。

    そこでとりあえずベッドに運んでついでに一緒に寝るが、お兄ちゃんは先に起きる。その癖に耐える。耐えた後でアドマイヤベガに回収を頼む。二三分経つとアヤベさんが来て、吾輩が栗東寮に持ってかれる。これが彼の毎昼繰り返す日課である。

    吾輩はカワイイながら時々考える事がある。トレーナーというものは実に鋼の意志を持つものだ。人間と生れたらトレーナーとなるのは難しそうだ。こんなに鋼の意志を持たねば勤まらぬものならカワイイにでも出来ぬ事は…いやそれはないかと。

    それでもお兄ちゃんに云わせるとトレーナーほどつらいものはないそうで彼は同僚が来る度にもう無理耐えられないよカワイイカレンチャンとか何とかかんとか不平を鳴らしている。よし。

    吾輩がこのトレーナー寮へ侵入していた始めの方は、お兄ちゃん以外のものにははなはだ不人望であった。猫かぶり腹黒キャラだと思われ、どこへ行っても跳ね付けられて相手にしてくれ手がなかった。いかに珍重されなかったかは、最初しばらくは名前さえ呼んでくれなかったのでも分る。

    吾輩はまあ仕方がないからと、出来得る限り吾輩を受け入れてくれるようにとカワイイである事につとめた。そうしているうちに、お兄ちゃんの同僚達も徐々に吾輩を受け入れるようになり、お兄ちゃんの場所を教えてくれたり鍵をこっそり渡してくれたり侵入に見て見ぬふりをしてくれるようになった。

    朝お兄ちゃんが新聞を読むとき時間があれば必ず彼の膝の上に乗る。彼が昼寝をするときは必ずそのベッドに潜る。これはあながちお兄ちゃんが好きという訳ではあるがうまぴょいがなかったからやむを得んのである。その後いろいろ経験の上、時間さえあるならば朝は膝の上、夜はベッドの上、天気のよい昼もベッドで寝る事とした。

  • 4続きは夜に21/09/07(火) 12:02:58

    しかし一番心持の好いのは夜に入ってここのお兄ちゃんの寝床へもぐり込んでいっしょにねる事である。このお兄ちゃんというのは夜になると一間で寝る。吾輩はいつでも彼の中間に己れを容るべき余地を見出してどうにか、こうにか割り込むのであるが、運悪くお兄ちゃんが途中で眼を醒ますが最後大変な事になる。
    お兄ちゃんは、夜中でも何でも無言で遠隔式の防犯ブザーを鳴らすのである。すると同室のアドマイヤベガは必ず眼をさまして栗東寮の部屋から飛び出してくる。現にせんだってなどは物指で尻ぺたをひどく叩かれた。ひどい。でもお兄ちゃんも時々黙って受け入れてくれる時もある。

    吾輩はトレーナーと同じトレセン学園に住み、彼等を観察すればするほど、彼等はクソボケなものだと断言せざるを得ないようになった。ことに吾輩が時々同衾するお兄ちゃんのごときに至っては言語同断である。自分の勝手な時は人を落とし、バレンタインでは焦らさせ、幼い頃に女の子一人の人生を左右するレベルの思い出をつくり、沼の中へ押し込んだりする。しかも吾輩の方で少しでも手出しをしようものなら寮長総がかりで追い廻して回収される。

    吾輩の尊敬するエイシンフラッシュのトレーナーなどは逢う度毎にクソボケトレーナーほど不人情なものはないと言っておらるる。フラトレは先日同僚のタイトレを二泊三日の温泉旅行へ送ったのである。ところがそやつがうまぴょいがどうこう以前にあまりに度を超してクソボケだったので三日後に帰ってきた暑苦しいそいつを四五人で裏の池へ持って行って棄てて来たそうだ。
    その後流石に反省文を書かされたフラトレは涙を流してその一部始終を話した上、どうしてもそやつの担当の気持ちを思うと我慢できなかったと言われた。一々もっともの議論と思う。

    元来我々同族間ではメジロの婿でもファインの嫁でも一番先に見付けたものがこれを食う権利があるものとなっている(※嘘)。もし相手がこの規約を守らなければ腕力に訴えて善いくらいのものだ(※善くない)。
    いくら鋼の意志トレーナーだって、そういつまでも耐えられる事もあるまい。まあ気を永く時節を待つがよかろう(※待てるとはいってない)。

    そしてお兄ちゃんは────耐えた。

    カレンチャンはキレた。

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:11:53

    そろそろお兄ちゃんの胃に穴が開くぞ

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:15:03

    フラトレナイストライ!

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:29:11

    >お兄ちゃんが耐える、マジで耐える、それはもう耐える、え、まだ耐えるの


    カレンチャンも流石にちょっと引いてて草

    お兄ちゃんが耐えるせいで段々掛かっていったんだろうな…

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:34:54

    クソボケを池に突き落とすフラトレで耐えられなかった

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:35:26

    他のトレーナーを懐柔してる…!

  • 10二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:53:08

    警備員やアヤベさんたちにつまみ出される猫カレンチャン想像するとカワイイ

  • 11二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 12:56:07

    タイトレ池に投げられる場面容易に想像できてなんかダメだった

  • 12二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 13:00:29

    タキオンいないのにタキトレは相変わらずのレギュラーで草

  • 13二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 13:03:36

    >>12

    元の我輩は猫であるが猫の視点から人間観察する物語だからな…


    ファルトレとタイトレがクソボケでフラトレが恋愛強者でカレトレが理性と戦っててタキトレが光ってるという風潮

  • 14二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 13:22:13

    遂に前後編になったか・・・

  • 15二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 15:20:29

    >ところがそやつがうまぴょいがどうこう以前にあまりに度を超してクソボケだったので三日後に帰ってきた暑苦しいそいつを四五人で裏の池へ持って行って棄てて来たそうだ。


    ひどくて草

    地味に単独犯じゃなく4、5人でやってるのも草

  • 16二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 15:38:19

    お兄ちゃんがきれてる!?めずらしい。

  • 17二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 15:41:39

    この古めかしい文体に問答無用でぶち込まれるクソボケの破壊力が高すぎる

  • 18二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 15:42:36

    >>3

    >>それでもお兄ちゃんに云わせるとトレーナーほどつらいものはないそうで彼は同僚が来る度にもう無理耐えられないよカワイイカレンチャンとか何とかかんとか不平を鳴らしている。よし。


    よしじゃないが。

  • 19二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 16:28:28

    アヤベさんにものさしでお尻ぺんぺんされるカレンチャン…………
    ふむ

  • 20二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 16:34:25

    後編がたのしみだ

  • 21二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 16:59:44

    珍しくお兄ちゃんがキレててワロタ

  • 22二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 17:14:20

    違法投棄されるタイトレほんと草

  • 23二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 18:00:16

    タイトレがクソボケで暑苦しいとかいう共通認識
    いやまあアプリまんまな気がしないでもない

  • 24二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 18:14:32

    >>21

    そら他人に迷惑かけたからね

  • 25二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 19:20:47

    毎日のようにカレンチャンを引き取りに来たり真夜中に叩き起こされて回収に来るアヤベさんが可哀想になってきたぞ

  • 26二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 20:52:42

    >>25

    それでも放置できないアヤベさんのやさしさが五臓六腑に染み渡る

    それはそれとしてカレンチャンはもっと反省しなさい

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