『変身は前提だから、諦める理由にはならない』 作:シウンツ・スミカ

  • 1シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:15:48

    ある朝、葛城リーリヤが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一体の巨大な思い出ロボに変ってしまっているのに気づいた。彼女は鋼鉄のように固い背中を下にして横たわり、頭を少し上げると、赤桃色に淡く光る胸部装甲が見えた。装甲の盛り上がりの上には、かけぶとんがすっかりずり落ちそうになって、まだやっともちこたえていた。ふだんの細さに比べると頼もしいくらい丈夫そうな脚部が自分の眼の前に爛々と輝いていた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 20:16:46

    このレスは削除されています

  • 3シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:17:23

    「私、どうしちゃったの?」と、彼女は思った。夢ではなかった。彼女の部屋、少し小さいがまともな部屋が、よく知っている四つの壁のあいだにあった。テーブルの上に先日購入したフックトイが未開封で拡げられていたが――リーリヤはロボットアニメのマニアだった――、そのテーブルの上方の壁には写真がかかっている。それは彼女がついさきごろ来日し、学園の入学式のときに撮ったものだった。写っているのは彼女とその親友で、おろしたての制服を着て、二人で身を寄せながら、暖かな笑顔とピースサインを見る者のほうに向ってかかげていた。

  • 4シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:19:07

    そして、たんすの上でカチカチ鳴っている目ざまし時計のほうに眼をやった。「やっちゃった!」と、彼女は思った。もう七時半で、針は落ちつき払って進んでいく。半もすぎて、もう四十五分に近づいている。目ざましが鳴らなかったのだろうか。ベッドから見ても、きちんと七時に合わせてあったことがわかった。

  • 5シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:20:33

    ベッドを離れる決心をすることができないままに、そうしたすべてのことをひどく急いで考えていると――ちょうど目ざまし時計が七時四十分を打った――、彼女のベッドの足のほうにあるドアをノックする音がした。
    「リーリヤー?」と、その声は叫んだ――清夏ちゃんだった――「そろそろ八時だよー?寝坊なんて珍しいね」

  • 6シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:23:23

    かけぶとんをはねのけるのは、まったく簡単だった。ただちょっとエンジンを吹かすだけで、ふとんは自然とずり落ちた。だが、そのあとが面倒なことになった。その理由はことに彼女の制御系がひどく複雑だったからだ。たくさんのバーニア(注:姿勢制御補助エンジン)がついていて、それがたえずひどくちがった動作をして、おまけにそれらを思うように動かすことができない。やっと一つのバーニアを自分の思うようにすることに成功したかと思うと、そのあいだにほかのすべてのバーニアがまるで解放されたかのように、なんとも工合の悪い大さわぎをやるのだった。

  • 7シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:24:29

    ―私はロボットに変身してしまった。でもそれは前提だから、諦める理由にはならない。―
    彼女は自分に言い聞かせながら、慎重にバーニアの制御を掴み始めた。
    「同じだ。こいつか?」
    「すごい、五倍以上のエネルギーゲインがある」
    「やってみるさ」
    「これだけか?」
    「こいつだ」
    「間に合うか?左と、右か」
    しばらくの試行錯誤の末、ついに彼女はベッドから降りることに成功した。

  • 8シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:26:00

    リーリヤは少しずつ自分の新しい体に慣れ、動き方を覚えていった。頑強な足で一歩一歩踏みしめながら、彼女は自室のドアを吹き飛ばした。そこには驚いた顔をしている清夏が立っていた。
    「リーリヤ…なの!?何その格好、コスプレ!?」
    「ごめんね、清夏ちゃん。私にもよくわからないの。かくかくしかじかで…」彼女は事の顛末を話した。

  • 9シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:27:22

    彼女らは今日という日は休息と空中散歩とに使おうと決心した。こういうふうにレッスンを中断するには十分な理由があったばかりでなく、またそうすることがどうしても必要だった。そこでテーブルに坐って二通の欠席届を書いた。清夏はPっち宛に、そしてリーリエはセンパイ宛に書いた。

  • 10シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:29:32

    それから二人はそろって学校を出た。もう何日もなかったことだ。それから清夏をコックピットに乗せて空へ飛び出した。彼女ら二人しかいない空には、暖かい陽がふり注いでいた。清夏は座席にゆっくりともたれながら、未来の見込みをあれこれと相談し合った。そして、これから先のこともよく考えてみるとけっして悪くはないということがわかった。こんな話をしているあいだに、清夏はだんだんと元気になっていくリーリヤをながめながら、彼女が最近ではめっきりと美しく強い子になっていた、ということに気づいたのだった。

  • 11シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:31:12

    いよいよ無口になりながら、そしてほとんど無意識のうちに視線でたがいに相手の気持をわかり合いながら、りっぱな舞台衣装を彼女のために探してやることを考えていた。目的地でリーリヤがまっさきに立ち昇って、その若々しいファンネルをばっと展開したとき、清夏にはそれが自分たちの新しい夢と善意とを裏書きするもののように思われた。
    「葛城リーリヤ、行きます!」

    【True End】

  • 12二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 20:35:50

    >>11

    若々しいファンネル•••?

  • 13二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 20:36:32

    思い出ロボ…立派になったな…

  • 14二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 20:37:21

    変身でTrueに持っていくリーリヤ強い

  • 15シウンツ・スミカ24/06/19(水) 20:49:13
  • 16二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 21:21:09
  • 17二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 21:52:03

    >>16

    なんで変身で被るんだよ

  • 18二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 22:11:13

    >>17

    まあ有名な作品だからしゃーない

  • 19二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 22:13:12

    読み比べると二度美味しい

  • 20二次元好きの匿名さん24/06/19(水) 22:14:27

    >>19

    ユニットの解散を暗示させるバッドエンドと、どこまでも強い光であるリーリヤTrueの対比が美しい

オススメ

このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています