『村月記』作：倉本袁傪千奈公

1倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:51:51

月村の手毬は、博学にして才知に長たけ、平成の最後の年に若くして虎榜に名を連つらね、その後、1年1組に配属されましたわ。

2倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:52:59

しかし、彼女は、他人に妥協しない性格な上に自分の才能を信じるところがはなはだしく、賤吏でもしかたなく受け入れることを許せはしなかったのですわ。
まもなく退学して、その後は故郷の京都に戻り、人と交わることなく、ひたすら歌を歌うことに耽ふけっていましたわ。
長きにわたり下級官吏として俗悪な大官たいかんの言いなりになるよりも、歌手として名を死後百年まで残そうとしたのでありましたの。

3倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:54:18

しかし、歌で名をあげるのは容易なことではなく、生活は日に日に苦しくなっていきます。月村さんは、とうとう焦燥に駆られました。
この頃から、容貌が険しくなり、肉が付き腹が目立ち、眼光だけがむやみに鋭く光り、かつて初星学園に合格した頃の肉付きの良い頬をした美少女の面影は、どこにもありませんでしたわ。

4二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 20:55:27

原作と逆に太ってて草

5倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:55:53

数年後、貧しく苦しい生活に耐えきれず、藤田さんの衣食のため、ようやく主義を曲げて再び北へ赴おもむき、地方官吏の職に就つくこととなったのですの。
一方で、己の歌手業に半なかば絶望したためでもありましたわ。
かつて自分と違わなかった者たちがメジャーデビューして、はるかに高い地位につき、以前は頭が鈍くて歯牙しがにもかけなかった連中の命令に従わなければならなかったのです。
過去には並外れて優秀だった手毬さんの自尊心をどれほど傷つけたのか、想像に難かたくないですわ。
彼女はいつも不満を抱えて面白くなく、道義にもとる性分を抑えるのが、ますます難しくなったのですの。

6倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:56:57

一年後、仕事のロケで石狩川のほとりに宿泊していた時、ついに、発狂したのです。
ある夜中、急に顔色を変え、布団から起き上がり、「シャワールームに毛虫がいる」とわけのわからないことを叫びながら、そのまま下に飛び降り、闇の中へ駆け出しましたの。
彼女は二度と戻ってこなかったのです。付近の山野を捜索しても、なんの手がかりもありませんわ。月村さんがその後どうなったかを知るものは、誰もいなかったのでした。

7倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 20:58:10

翌年、倉本の千奈というトップオブバラドルが、「学マ水曜ど、ど、ど、どうで生門」のロケでガガンボがサイコロで徒歩で倶知安町を出したためそこに向かう途中、赤井川村の地で宿を取りましたの。
次の朝、まだ暗いうちに出発しようとしたところ、麻央支配人が言うには「この先の道に人喰いクソ雑魚チワワが出るので人は昼間でなければ通れません。今はまだ朝早いからもう少し待ったほうがよいでしょう」とのことでありましたわ。しかし、わたくしは、お供のガガンボとゴリラがいることを頼りに麻央支配人の言葉を退しりぞけて出発したの。

8倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:00:01

残月の光をたよりに林の中の草地を通っていた時、まさに忠告されたとおり、一匹のかわいらしいチワワが草むらの中から躍り出ましたわ。
もう少しでわたくしに飛びかかるかにみえたが、たちまち身をひるがえし、もとの草むらに隠れましたの。
草むらの中から人間の声で「ダイエット中だから」と繰り返しつぶやくのが聞こえましたの。
その声にわたくしは聞き覚えがありました。わたくしは、驚きと恐れを感じながらも、とっさに思いあたって叫びましたわ。
「その声は、わたくしの友、月村さんではなくて？」
わたくしは月村さんと初星学園に入学し、友人の少なかった月村さんにとってはもっとも親しい友人であったのですの。
よくようもなくわたくしの教室に来ては煽ってくるもののわたくしは温和な性格で、月村さんの厳しい気性と衝突しなかったためでありますわ。

9倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:01:24

草むらの中からは、しばらく返事がありませんでした。忍び泣きかと思われるかすかな声がときどき漏れるばかりですの。少し間をおいて、低い声で返事がありましたわ。
「そうよ、自分は月村の手毬よ」と。
後で考えてみれば不思議なことなのですが、そのときの私は、この超自然の怪異を、実に素直に受け入れて、少しも怪しもうとしなかったのですわ。
わたくしはガガンボとゴリラに頼み旅の進行を止めて、自分は草むらのかたわらに立ち、姿の見えない声を相手に話をしたのですの。
初星学園のうわさ、秦谷さんの消息、わたくしの現在の地位、それに対する月村さんからの祝いの言葉。
学生時代に親しかった者どうしが、以前のように隔てのない語調で、それらを語った後、わたくしは、どうして今の姿になるにいたったのかを尋ねたのです。
草むらの中の声は次のように語りましたわ。

10二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 21:02:40

ちょっと待てその権利的に怪しそうな番組と仲間をガガンボゴリラ呼ばわりする根性はどっから生えてきた

11倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:02:51

今から一年程前、自分が旅に出て石狩川のほとりに泊った夜のことよ。
ひと眠りしてから、ふと目を覚ますと、外で咲季が私の名を呼んでいる。
声に応じて外へ出てみると、邪神アバターは闇の中からしきりに自分を招いている。
思わず自分は声を追って走り出した。
気がつくと、手先や肘のあたりに毛が生えているらしい。少し明るくなってから谷川に行き、姿を映してみると、すでにチワワになっていた。
自分は初め、目を疑った。「もしかして私がチワワすぎるってこと？」と。
その後、月村さんは「まあ過ぎたことはいいよ。」とおっしゃいました。

12倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:04:33

わたくしをはじめ、一行は、息をのんで草むらの中の声が語る不思議な話に聞き入っていましたの。声は続けて言いました。
他でもない。自分は元来歌手として名を成すつもりでいた。しかも、そうなる前に、この運命を迎えた。
最後に人間でなくなる前に今でも歌える歌を聴いてほしいのだと。そうでもしないと死んでも死に切れないのだ。

13二次元好きの匿名さん24/06/21(金) 21:05:04

学会まで取り込まれててあーもう滅茶苦茶だよ！？

14倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:05:44

わたくしは篠澤さんと花海さんと一緒にサイリウムを準備しましたわ。
草むらの中からは、音楽と月村さんの良く澄んで力強い歌声が響きましたわ。
皆で歌った『初』、『campus
mode』、そしてソロ曲の『アイヴイ』、『叶えたい、ことばかり』。
拝聴して月村さんの才能が普通ではないと思わせるものばかりである。
しかし、わたくしは感嘆しながらも漠然と次のように感じていた。なるほど、歌手の素質が一流であることに疑いはない。
しかし、このままでは、一流の歌手となるには、どこか欠けるところがあるのではないかと思いましたの。

15倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:07:15

一通り歌い終えた月村さんの声は、突然調子を変え、自らを嘲るかのように言った。
「そうだ。お笑い草ついでに、今の思いを即席の歌にしてみようか。このチワワの中に、まだ、かつての手毬が生きているしるしに。」
聞いてください『Luna say maybe』

16倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:08:19

どうか正真正銘のこの思いの
聴いて全身全霊で歌うから(ry

突然月村さんがデモ音源でもなくアカペラで歌い始めましたの。
あっけらかんとしていると「いきなりなしたん？」と騒ぎを聞きつけた3連撃…すいりゅうれんだを使える道産子ギャルの紫雲清夏さんが走ってきましたの。
このときわたくしは紫雲清夏＝れんげきウーラオス説を頭の中で閃きましたが空気を読んでグッとこらえましたわ。

>>21

17倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:09:47

よっぽどこの歌が気に入ったのか「今日は特別だから」と月村さんがもう一度歌い始めましたの。
こうしている間に、残月は冷ややかな光となり、白い露が地面を潤し、木々の間を風が吹き渡り、もう夜明けは近いと告げていましたわ。
4人はもはや、事の不思議さを忘れ、静かに、この歌手の不運を嘆きましたわ。

18倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:11:46

月村さんの声は再び続けましたわ。
なぜこんな運命になったか分からないと、さっきは言ったが、しかし、考えようによっては、思いあたることが全然ないこともない。
人間であった時、己は努めて人との交わりを避けなかった。人々は顔がいい、手毬は歌は上手いといった。
もちろん、かつて郷土の鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとはいわない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。
私は歌によって名を成そうと思いながら、進んでプロデューサーを探したし、練習も続けた。
嫌いな自分と決別し、自分自身を好きでいるためにレッスンに明け暮れた。しかし、性格が災いしてかしだいに世間と離れ、人から遠ざかった。
憤っては悶え、恥じては怒り、ますます私の内なる臆病な自尊心と体重を飼いふとらせる結果となった。
今思えば、全く、私は、私の持っていたわずかばかりの才能を無駄にしてしまったわけだ。
私にはもはや人間としての生活は出来ない。たとえ、今、私が頭の中で、どんなにすぐれた歌を作ったとして、どういう手段でライブができるというのか。
まして、私の頭は、日々、チワワに近づいていく。どうすればいいのだ。私の空費された過去は？
私は堪らなくなったときは向こうの村のにある大きな岩の上で空谷に向かって吠える。
私は昨日の夕方も、あそこで月に向かって吠えた。誰かにこの苦しみを分かってもらえないかと。

19倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:13:23

もう、別れを告げなければならない。チワワに戻らねばならない時が近づいたから、と、月村さんの声が言いました。
だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それはことねのことだ。
いうまでもなく、私の運命について知るはずがない。君が南から帰ったら、私はすでに死んだと彼女らに告げてもらえないだろうか。決して今日のことだけは明かさないで欲しい。
このままだと十王会長に連れ去られてしまう。倉本財閥の力でそれとなくフォローしておいてほしい。

20倉本袁傪千奈公24/06/21(金) 21:15:27

言い終わって、草むらの中から慟哭の声が聞こえました。わたくしもまた涙をうかべ、喜んで月村さんの意に添いたいと答えましたわ。
わたくしは、草むらに向かって丁寧に別れの言葉を述べてから、サイコロの旅に戻りましたわ。
草むらの中からは、また、こらえることができないかのような悲しい泣き声がもれましたの。
わたくしも、何度か草むらを振り返りながら、涙の中を出発しました。
わたくしたちが丘の上についたとき先ほどの林のなかの草地を眺めました。
たちまち、一匹のチワワが草の茂みから道の上に躍り出たのをわたくしたちは見ました。チワワは、すでに白くなり光を失った月を仰いで、二声三声吠えたかと思うと、勢いよく元の草むらに戻り、再びその姿を見なかった。

【True End】