- 1二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:19:44
「さあ、トレーナーさん、研究のお時間ですよ♪」
そんなことをのたまいながら、彼女はトレーナー室に突然現れた。
栃栗毛のショートヘア、鮮やかな桃色の瞳、月桂冠を模した髪飾り。
担当ウマ娘は、にっこりとした笑顔を浮かべていた。
いつもと違う点は二つ。
赤縁の眼鏡をかけている点と、白衣に身を包んでいる点だった。
あまりの急展開に理解が全く追い付かず、俺は彼女の名前を呼ぶ他なかった。
「……えっと、ローレル?」
「違います」
「えっ」
「今の私はサクラローレルではなく、ローレル博士です」
そう言いながらローレル、いや、ローレル博士は胸を張り、ドヤ顔を浮かべていた。
何の違いがあるのかはさっぱりわからないが、大事なことなのだろう、多分。
俺は苦笑いあを浮かべながら、再び、彼女の名前を呼ぶ。
「……ローレル博士、その、研究とは一体何なんだい?」
「はい、今日はトレーナーさんの疑問について、考えて行こうかと!」
「俺の疑問?」
ローレルの言葉に、俺は思わず、首を傾げてしまう。
彼女に対して質問した覚えはなく、まったく心当たりがなかった。
すると彼女は楽しげにくすりと笑うと、くいっと眼鏡を直し、その人差し指を口元に立てた。 - 2二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:20:00
「ふふっ────何故、サクラローレルに色気を感じるのか、でしたっけ?」
「……っ!?」
その言葉に、俺は血の気が引き、全身から冷や汗が吹き出しそうになった。
以前、ローレルが取材を受けた雑誌のゲラを確認していた時。
インタビュー内容も問題なし、写真の映りも良好。
先方にOKの連絡をした後、その写真を眺めながら、俺はふと思ってしまったのだ。
『……なんで、ローレルからはこんな色気を感じるんだろう?』
ローレルが美人であることには、何の疑問もない。
けれど、時折感じる妖美なまでの色気はどこから来るのか、それがわからなかった。
そしてそのことを、俺はついつい、口に出してしまった。
きっと、それを彼女は聞いていたのだろう。
…………何故口に出してしまったのか、少なくとも年下の教え子に言って良いことではない。
俺はすぐさま頭を下げて、彼女に謝罪を口にした。
「ごめんローレル、不用意な発言で、キミを不愉快にしてしまった」
「……」
「……ローレル?」
「……」
ちらりと見てみれば、ローレルはつーんとした表情で顔を逸らしてしまっている。
怒っている、というわけではなく、あえて無視しているという雰囲気。
俺はまさかと思いながら、再び、いや、正しく彼女の名前を呼びかけてみる。
「ローレル博士」
「いえいえ! 別に不愉快だなんて思ってませんよ、ただちゃんと疑問は解決していかないと!」 - 3二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:20:13
ローレルは目を細めて、前かがみになる。
そして俺と目を合わせるように、顔を近づけてきた。
「結論を導き出すには、まずは検証のためのサンプルが必要ですよね?」
「そっ、そうなのかな?」
「そうなんです、では、というわけでトレーナーさん」
ローレルはきらりと眼鏡のレンズを輝かせ、少し悪戯っぽい笑みを浮かべる。
そして面白がるようにじいっと上目遣いで俺を見つめると、軽やかな響きで言葉を紡いだ。
「どういう時に、私から色気を感じるのか────教えてもらえませんか?」 - 4二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:20:25
「そ、れは」
「んー? どうかしましたか?」
言い淀んでしまう俺を、ローレルは愉しそう、じっくりと眺めていた。
これは、完全に面白がっているというか、からかっている表情である。
……まあ、元を正せば、身から出た錆、自らの失言が原因だ。
俺は両手を降参するように掲げて、頬が熱くなるのを感じながら、小さくため息をついた。
「はあ……そうだな、例えば、今みたいな状況とかかな」
「……Je vois、こうやって顔を近づけられると、トレーナーさんはドキドキするんですか?」
「ちょっ……!」
俺の言葉を聞いて、ローレルはずいっと顔を近づけて来た。
目と鼻の先に、ぱっちりとして宝石のように輝く目、薄ピンクの形の良い唇。
ふわりと甘い香りが鼻先をくすぐり、微かな吐息が顔にかかって、心臓が大きな音を鳴らしてしまう。
「……どうやら事実みたいですね? これは良いサンプルが取れました♪」
「あっ、ああ、それは良かったね、それじゃあそろそろ────」
「では次です」
「次!?」
「ええ、サンプルは一つじゃだめですからね、もっと色気を感じるところを、教えてもらわないと」
「うぐっ」
ローレルの容赦のない追撃。
言葉に詰まってしまうものの、彼女の桜色の視線は逃してはくれない。
熱っぽく、それでいて惹きつけられるような、妖しい美しさを持つ瞳。
俺はそれに魅入られそうになりながらも、大きく深呼吸をする。 - 5二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:20:40
「……そうだな、良くキミがやる、人差し指を立てる仕草とかも、かな」
「こう、ですかね?」
「…………はい」
「ふふっ、他にはありますか、トレーナーさん?」
ぱちりとウインクを飛ばして、口元に人差し指を立てるローレル。
その仕草は年下とは思えないほどに大人びていて、妙に艶を感じさせる。
……いやいや何を考えているのか、と思うが、時すでに遅し。
全てを見透かしたような、少し意地の悪い視線を、こちらへ向けていた。
ああ、それもだな、と思いながら俺は問いかけに応える。
「その目、かな」
「……目、ですか?」
「うん、きれいで、優しくて、ちょっとだけ意地悪な目も、ドキドキする」
「……あはっ、私も、トレーナーさんの純粋な目を見てると、ドキドキしちゃいますよ?」
「そうは見えないけどなあ……あとは、アレ、かな?」
「ほうほう、アレ、とは?」
「驚いた時とか、素の表情になるんだけど、そういう時はなんか可愛らしいんだよね」
「えっ」
ぴくっとローレルの耳と尻尾がピンと立ち上がる。
そして彼女は、まるで無垢な少女のように、きょとんとした表情を浮かべた。
そこには普段纏っている大人びた雰囲気も、妖艶な雰囲気もない。
ただの、年頃の女の子の顔を見て、俺は少し嬉しくなってしまう。 - 6二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:20:54
「ああ、それ、その表情だよ」
「……えっ?」
「大人っぽくてきれいなキミも良いけど、歳相応で可愛らしいキミも好きかなあ」
「…………っ!」
ローレルの頬が、少し赤く染まる。
ああ、そういうつもりはなかったけど、子どもっぽいと言ったのが良くなかっただろうか。
発端もそうだが、言葉選びには気を付けないと────と思いながらも、何故か口が止まらない。
「後、これは最近気づいたんだけど、からかっている時に尻尾が楽しそうにパタパタ動くんだよね」
「うっ、うそ……!?」
俺の言葉にローレルは慌てて背後を振り向いて、尻尾を確認する。
今はただゆらゆらと揺れ動いているだけで、特におかしな点はない。
けれど、さっきまでの彼女の尻尾は、それはそれは大きく、忙しなく動き回っていた。
「落ち着いたローレルのギャップを感じられて、俺は好きだよ」
「……あぅ」
「それと、ヴィクトリー倶楽部の子達一緒にいる時のローレルも、いつもと違う可愛さがあって────」
その後、十数分ほど、俺はローレルの良さや可愛さについて語り続けた。
個人的にはそこまで饒舌な方だとは思っていなかったが、舌が回る回る。
もしかしたら、ずっと彼女に、彼女自身の魅力を伝えたいと思っていたのかもしれない。
そしてある程度話し終え、最初の趣旨から大分ズレたなと気づいて、言葉を止めた時に俺はようやく気付いた。 - 7二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:21:09
「えっと、ローレル?」
「……ちょっと、いまはだめです、みないでください」
「……見ないでというか、見えないんだけどさ」
いつの間にか、ローレルが白衣の袖で自身の顔を隠していることに。
耳をぴこぴこと反応させて、尻尾はぶんぶんと左右を行ったり来たり。
袖の間からわずかに覗ける口元は、緩んでいるようにも見えた。
ちょっとだけ珍しい状態だったので、ついつい、反撃をしたくなってきてしまう。
「サンプルはもう良いのかな、ローレル博士」
「……ドクターストップです、博士だけに」
「……キミからその言葉は聞きたくないなあ」
まあ、博士もドクターだけども。
やがてローレルは少しだけ袖を下ろして、その顔を晒す。
頬は赤く染まり、瞳は熱っぽく潤んでいて、はにかんだような笑みを浮かべていた。
そして彼女は、わざとらしく咳払いをする。
「こほん……さすがはトレーナーさん、私のことをたっぷり知っていますね」
「それはまあ、キミの担当トレーナーなわけだし」
「ともすれば私以上に私を知っています────つまりあなたも、ローレル博士、です!」
「いや、ローレル博士はキミでしょ……いや、そうか、そういうことね」
つまり、彼女はローレル博士で、俺はローレルの博士、ということか。
ローレルは俺の反応を見て満足そうに頷く、直後、困ったような表情になった。
ただ、それは妙に芝居がかっているようにも感じられた。 - 8二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:21:24
「うーん、しかし困っちゃいましたね、この白衣は一着しかありませんから」
「……もしかして博士=白衣の認識になってる? というか、それどこから貰って来たの?」
「カフェちゃんから頂きました、要らないのでって、まあそれはさておき」
「おっ、おう」
「というわけでローレル博士は、一手で問題を解決する手段を考えました」
「…………ローレル?」
────刹那、ばさっと羽ばたくような音。
それはローレルが、白衣の前を勢いよく開いた音だった。
白衣の下は当然、トレセン学園の制服がある。
しかし、この時期には暑かったのか、籠っていた熱と、濃い香りと、汗の匂いがむわっと広がった。
それに意識を取られている隙に、彼女はそそくさと俺の背後へと回り込む。
「えいっ♪」
「うわっ!?」
掛け声と共に、ふわりと、ローレルが背後から覆いかぶさった。
背中に感じる、女性らしい丸みを帯びた柔らかさと、春の日差しのような穏やかな温もり。
彼女は白衣を持ったまま、手を俺の前に回して、二人羽織のような体勢で抱き着いて来た。
ぱたぱたと、何かが激しく動く音が、鼓膜を揺らす。 - 9二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:21:38
「えへへ、これなら二人でローレル博士になれますね?」
「あっ、あの、ローレル、これはちょっと、近すぎるんじゃないかな、うん」
「…………さて、トレーナーさん、博士が二人揃ったら、やることは一つですよね?」
そう言って、ローレルはぴとりと、頬を合わせて来た。
彼女の頬は少ししっとりとしていて、それでいてキメ細やかで、そしてとても熱い。
その表情を俺が見る間もなく、彼女は耳元で、囁くように小さく呟いた。
「専門分野の叡智について────たっぷり、語り合わないと♪」 - 10二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:23:01
お わ り
下記のスレを参考に……はあんまりしてないかもしれませんが影響を受けて書きました
どうしてローレルはえっちなのか|あにまん掲示板俺には言語化出来ない思考の次元が低すぎるbbs.animanch.com - 11二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 02:25:39
こ……これがローレル博士……叡智
- 12二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 04:21:04
- 13二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 04:57:50
なぜローレルはえっちなのか学会に衝撃が走ったぞ
- 14二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 07:24:38
照れちゃうローレルは万病に効く
- 15二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 14:05:05
眼鏡ローレルはちょっと叡智すぎる
- 16二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 15:14:40
凄く凄いよかった
- 17二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 15:23:56
本当に十数分か〜?数十分の間違いじゃないのか〜?
- 18124/06/22(土) 20:19:17
- 19二次元好きの匿名さん24/06/22(土) 20:38:45
- 20124/06/23(日) 06:43:40
- 21二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 08:53:12
さすが