- 1二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 17:48:45
- 2二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 17:59:34
散歩
- 3二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:01:48
ソシャゲ
- 4二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:04:30
焼き肉
- 5二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:04:44
博打
- 6二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:04:47
チョキの世話
- 7二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:09:44
パチンコ
- 8二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:10:09
人間観察
- 9二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:10:36
ドラッグ
- 10二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:11:36
詐欺
- 11二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:11:37
- 12二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:12:00
デスゲーム
- 13二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:12:10
シャバ
- 14二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:12:23
矯正施設
- 15二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:12:26
エスポワール号
- 16二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:13:46
「博打よりも詐欺よりも面白いエスポワール号に連れて行ってやるよ」は草
- 17二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:14:15
この玲王元締めやってない?
- 18二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:14:24
あかんやつや
- 19二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:14:54
博打あたりから様子がおかしくなった
- 20二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:15:18
さすが好きな漫画がカイジなだけあるな
二人なら出来るよ
限定じゃんけんとかめっちゃ強そうだもん - 21124/06/23(日) 18:15:46
あの…なんで?
- 22124/06/23(日) 18:16:18
ここからスレを盛り上げるにはどうすれば(困惑)
- 23二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:16:57
エスポワール号無双する白宝にすれば…
- 24二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:17:01
俺より先に死ぬなよ(地下労働送り)
- 25124/06/23(日) 18:17:55
僕カイジ知らないんすよねえ
>>27にバトンタッチ!
- 26二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:18:11
凪なら鉄骨渡りとか余裕そうなんだよな…
- 27二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 18:33:10
二人でエスポワールに乗り込む話なのか借金まみれの凪を運営側の玲王が誘う話なのか…
- 28二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:08:43
元が昼寝とゲームだから、凪は博打と詐欺1日中してるって事に………やだよそんな凪………
- 29二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 00:43:25
これは帝愛の坊ちゃんと知り合いやってそうな玲王
- 30二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 00:51:16
スピンオフのハンチョウしか読んでないからチクショウ!!
- 31二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 01:22:04
201X年4月
東京に来て一年
凪誠士郎は最悪だった
正月があけてからびた一文働いていない
しょぼい博打としょぼい詐偽で小銭を稼ぐ日々
そんな毎日のうっぷんや退屈しのぎにふらっと外へ出向き
違法駐車をしている高級車にイタズラしてまわるという、非生産的なだけでなく他人の足までひっぱるという日々…
今日は凪が贔屓にしているベンツが見つからずしぶしぶ家に帰りかけたとき目に止まった白いリムジン
(どうせこんな車乗ってるヤツなんてろくでもない金持ちだろ…弱者を踏みつけて脱税とかしまくってるに決まってる)
リムジンの近くにはお誂え向きにサッカーボールが落ちていた
脚でボールを拾うと容赦なく白いリムジンに向け蹴り込む
凪はサッカーなんかやったことはないが、思いっきりボールを蹴るのは案外気分が良いということを初めて知った
車体はボコボコになり窓ガラスにはヒビが入った
(こんなもんかな…アンタが行ってきた悪事の報いは俺が返してやったよ 因果応報ってヤツね)
いくらか気が晴れた凪は鼻唄を歌いながら帰路についた
その姿を見ていた人間がいるとも知らずに…
??「へぇ…すげーじゃんアイツ」 - 32二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 02:39:21
家に帰った凪は着替えもせずに床に転がってぼーっとしていた
スマホ料金を滞納し続けたせいで回線が利用できなくなっているので、ゲームで暇潰しをすることすらできないのである
(金がない)
白リムジンにイタズラしたことでいくらか気分は晴れたが根本的な問題はなにも解決していない
冷蔵庫の中にストックしてあった食事代わりのゼリー飲料も底をつきようとしていた
(どうしてお腹が減るんだろう、減らなきゃ食べなくていいのに…お金もかからないのに)
金がないなら働けばいいと普通の人間なら思うだろう
しかし凪は極度のめんどくさがりやなので労働など可能な限りしたくないのだ
咀嚼すらめんどうなので食事もゼリー飲料しか摂取しないほどである
しかし生きるためには最低限の金が必要なこともわかっていた
だから博打や詐偽に荷担してどうにか日銭を稼いでいたのだ
倫理観などというものは生まれてこの方持ち合わせていないので楽に稼げればそれでいいと考えていた
しかし今年の冬は例年になく寒く、パチ屋に出向くために外に出るのも億劫だった
さらによくなかったのが昨今の世情の流れで、凪はSNSで募集している闇バイトの受け子やかけ子などをして小遣いを稼いでいたがその手口が明るみになるにつれ取り締まりが厳しくなってしまった
そんなこんなであっという間に金が底を尽きたのである
「生きるのってめんどくさ」
なかば思考放棄するように呟いた言葉に重なるようにして呼び鈴が鳴った
(…だれ? この家に訪ねてくる人なんていないはずなんだけど)
自分の親ですら来たことのない家だし、あいにく家に来てくれる親しい友人なども存在しない
隣の家と間違っているのだろう
凪は無視を決め込もうとしたが呼び鈴はしつこく鳴らされ、ついにはドアを強く叩く音までし始めた - 33二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 03:04:20
(うわっ…めんどくさ)
さすがにここまでされたら出ないわけにはいかない
ご近所さんとの騒音問題に発展したら困るのは凪である
こうみえて基本的には平和主義なので揉め事はさけたい
この安普請にカメラ付きインターホンなどという小洒落たものが搭載されているわけもないので外を確かめもせずドアを開けた
外にいたのは190cmある自分とそう変わらない高い身長の男だった
紫の髪に凪にはよくわからないセンスの派手な柄のシャツを着ている
「お前、凪誠士郎だよな?」
おまけに初対面からお前呼ばわりでフルネームまで知られているらしい
自分の知り合いにこんな派手な見た目の男はいなかったはずなのだが…
一瞬警察かとおもったがこんな格好の警官なぞいるわけがないし、なにより年齢も10代後半の自分とそう離れていないように見える
もしかしたら以前に請け負った闇バイトでなにかやらかしでもしてしまったのだろうか、それで上の組織の構成員が絞めにやってきたとか?
しかし男の顔立ちからはそこはかとなく育ちの良さが漂っており、そのへんのチンピラもどきにはとても見えなかった
(なんかどっかで見たことある顔のような気がするな)
基本的に他人にキョーミがないので会話をしたことがある相手でもない限り記憶には残らない
しかしこんな見た目の男と話したことがあるのなら記憶に残っていないはずはないと確信できる容姿をしていた
大きな目に細い顎が特徴的な、なかなかお目にかかれないレベルの美形である
困惑する凪をよそに男は話を続けた
「お前dice1d29=20 (20) のこと知ってるよな?」
- 34二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 03:26:35
「お前アレクシス・ネスのこと知ってるよな?」
そいつのことはすぐに思い出せた
少ない自分の知り合いの中でも目立つ外国人である
とある闇バイトで一緒になったドイツからきた留学生を名乗っていた男だ
「知ってるけど、最近会ってないよ ていうか連絡先も知らんし ネスがなんなの?」
「とりあえず家ん中入れてよ、外でする話じゃねえからさ」
「えっ、それはちょっと…」
家の中にはイタズラで盗んだベンツのエンブレムがその辺に転がっている
さすがに盗品を見られるのはよくないということくらいは凪にも理解できる
どうにかして家に入られるのは阻止したい
「外でなんか食べながら話そうよ アンタ金持ってそうだしなんか奢って」
家に入れるのを阻止するついでにワンチャン今日の食事も確保できたらラッキーだな、くらいのつもりで言ってみた
その言葉を聞いた男は目を丸くしている
凪が他人と会話をしたときによくある反応だった
突拍子もない凪の言動に驚き、そのあとは若干引いてキョリを置いてくる
この人も同じかな、と思って男を見るとなせがうれしいそうな顔をして目を輝かせていた
「おもしれぇ!お前はやっぱり俺の相棒になれ!」
そういって強引に抱きついてきた。
(え、この人何に熱くなってんだろ……俺に?)
凪は他人にキョーミを持ったことはないが他人からキョーミを持たれたこともなかった
この男、相当変わったヤツらしい - 35二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 04:02:54
「奢ってやりたいのはやまやまなんだけどさ、俺の車壊れてうごかせねーんだわ」
男は凪の肩から手を離して笑いながらそう言った
「このへん歩いていける飲食店もねーだろ? だからとりあえず家に入れてくれよ」
車、壊れた、金を持ってそうな雰囲気の男、そしてなぜが自分の名前を知っている…
(ヤバっ…こいつあの車の持ち主じゃ…?)
白いリムジンに乗るこの男を想像してみたら、びっくりするくらいしっくりきた
この短時間で自分の身元を調べてやってきたのだろうか?
あの長いリムジンに乗れるような金持ちならば不可能ではない気がする
これは絶対にお帰りいただくしかない…
「おっじゃましまーす♪」
なんと言うべきか言葉を探しているうちになんと男は強引に家の中に入って来てしまった
「え、ちょっと…」
止めるまもなくズカズカと家の中に押し入って部屋の中をキョロキョロと見回している
「なんだここ、刑務所? 人間の住むところじゃねぇ!」
なんとも失礼な感想である
少なくとも凪はここで一年暮らしてきたのだが
さすがにムッとして言い返そうとした凪をさえぎって男が言う
「へぇ~、ベンツのエンブレム集めてんだ?いい趣味してんね」
「高級車好きなのか? 俺も乗ってんだよな~、乗せてやりたかったわ 残念ながらさっき壊れたから無理なんだけど」
こちらを見てそういった男はにやにやとした顔をしていたが目は笑っていなかった - 36二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 04:17:27
(やばい…どうにか誤魔化さないと…)
「俺が好きなのはベンツだけだからオニーサンの車にはキョーミないよ」
「俺、自分の車がベンツじゃないなんて一言でも言ったか?」
墓穴である
さらに追い討ちをかけるように質問が飛んでくる
「お前サッカー部だったのか?」
もはや逃げることは不可能に近いようだ
そうなれば出来ることはただひとつ…
「ごめんなさいでした」
素直に謝ることである
「弁償するよ、いくらなの? あとサッカー部ではないよ そもそもサッカーしたことないし」
殊勝な態度を見せれば相手の怒りも和らぐのでは?
金持ちは心が広いというし、この人なんか変わった人っぽいし…
どうにか許して貰えないかな?
そんな気持ちで男の顔を伺うと、なぜか目をキラキラ輝かせていた
「たはっ♪ 弁償はいいんだよ てかお前それどころじゃねえし!」
「それどころじゃないってどういう…?」
「さっきちょっと聞いたネスのことだよ」 - 37二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 04:41:20
「は? 逃げた?」
男の話はこうである
ネスはサラ金を中心に十数件の焦げ付いた借金があった
あろうことかそれを返済せずドイツに帰国しまい、業者はネスから借金を回収することができなくなってしまった
そのうちの1つに凪が保証人になっているものがあり、その契約書が今目の前に差し出された紙である
たしかにそれは凪にも見覚えがあるものだった
あまりにもしつこくネスが頼むものだから断り続けるのがめんどうになってしまい、サインをしたのだ
ネスと一緒になった闇バイトの報酬が入ればすぐに返せる額だったし、ネスもすぐに返すから心配はいらないと言っていたのに…
(ふざけんなよあのクソ外人)
凪は自分の愚かさを呪った
そもそも魔法だなんだとわけのわからないことをしょっちゅう口走っているヘンテコな奴だったのだ
めんどくさいからといってサインなんかするんじゃなかった
後悔先に立たずとはこのことである
「俺金ないよ 今日のご飯もどうしようかと思ってるくらいなのに…30万も払えないよ」
「ははっ なに寝ぼけたこと言ってんだ? 借りた金には金利が付くんだよ 30万のままな訳あるか」
「え…」
「ネスはな、元金を一円も払わずドロンしたんだ 契約書にある金利は20% それが今月で14回転がったことになる」
「え、つまり今借金の金額は…」
凪は働くことやめんどくさいことは嫌いだが決して頭が悪いわけではなかった
むしろ他人よりも優れた頭脳を持っていると言ってもよかった
素早く頭の中で暗算をする
出たきた答えは…
「385万だ」 - 38二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 05:04:06
「いや、どう考えても違法でしょ しかもなんでここまで膨らむまで業者は黙ってたわけ?」
「お前はハメられたんだよ、昔からよくある手法だ ネスと金貸しは元々グルだったってこと」
そんな馬鹿な話があるか
「俺は鬼じゃない、こんなバカな金利は外してやるよ そうだな…年利15%の元利均等返済で月6万ずつ返していけば…約11年で返せるぞ! どうだ、意外と短いだろ?」
冗談じゃない
ただでさえ労働なんて真っ平ごめんなのに他人の借金のために10年以上働いて金を返せだって?
そんなものは無理に決まってる
ふざけているにもほどがある
「つーかアンタやっぱ悪い金持ちだったんだね そうだと思ったよ あんな車乗ってる奴がまともな商売してるわけない」
「お前なんか勘違いしてないか? 俺は金貸しじゃないぞ」
心外そうな顔で男が言う
「は? アンタさっき金利がどうのこうの言ってたじゃん」
「俺は債権を買っただけだ」
「どーゆー意味さ?」
「簡単に言えばお前が保証人になっている借金を立て替えたってこと! だからお前はこれから俺にたいしてその金を返してくれればいい」
「なんのためにそんなことを?」
全く訳がわからないといった表情で凪は聞いた
「うん、それが本題なんだ そもそも今日はその話をするためにお前に逢いにきた」
男は強い意志が籠った眼差しで凪を見つめ、肩を掴んだ
力が入りすぎていて少し痛いくらいだ
思わず顔をしかめた凪にハッキリとした声で告げる
「凪、お前の才能を俺にくれ」 - 39二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 06:10:55
「俺の名前は御影玲王 あ、呼び方はレオでいいぞ」
「俺ん家、御影コーポレーションって会社やってんだ」
御影コーポレーション…日本人なら誰でもしってる超大企業である
世俗に疎い凪でも当然耳にしたことがあった
(ゴリゴリの金持ちじゃん…)
レオが語った内容はこういうものだった
御影家に生まれたレオは両親から後継者として期待され、英才教育でなんでも与えられる人生を送ってきた
しかし親から与えられるものに満足して終わる人生は嫌で、自分自身で道を切り開きたい…
凪からすればなんとも贅沢な話であった
(てかレオのことどこかでみたことあると思ったら)
とあるネットの記事で目にしたことがあったのだ
総資産○千億円の御影コーポレーション御曹司の名前は?イケメンで超進学校に通う○歳!
有名人の肉親のことをおもしろおかしく書き立てた下世話な記事の一つである
そういった記事はネット上にありふれていて、凪は普段そんなものを見ることはほぼありえない
そのときはふとタイトルを見て自分と同い年でこんなにも違う人生を送っている人間がいるんだな、という興味でページを開いたのだった
そこには明らかに知り合いから流れたであろうプライベートで遊ぶ御曹司の写真が貼り付けてあって
有名人の家に生まれるのもいろいろ大変そうだな、なんて軽い感想を抱いて終わったのだ
それをぼんやりと覚えていたのだった
「そのおんぞーしサマがなんで俺を知ってるの? 俺の個人情報ってその辺にころがってんの?」
「この秋に晴海の埠頭から船が出る 船の名前はエスポワール、フランス語で希望って意味だ」
凪の質問は完全に無視されるようだ - 40二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 06:13:53
「その船に乗る参加者が今募られているところなんだ」
「そこで一夜うまく凌げれば、お前が10年以上かかって返す金額がチャラになる、それどころか1千万、2千万の金を持って船を降りる者が毎回数人いるらしい」
夢のような話である
「行き詰まった若者たちを集めて一夜限りのギャンブルクルーズが行われるんだ」
「そこでは己の才覚のみで他の参加者としのぎを削ることになる」
「俺はそこで自分の力を試してみたいんだ」
なんとも酔狂な考えだ
「だが俺には参加資格がない そもそも金持ちだしな」
桁外れの金持ちが言うならもはや嫌味にも聞こえない
「でも参加者の相棒としてなら誰でも参加できる だから俺はこの半年かけて俺を一緒に船に乗せてくれる人間を探してたんだ!」
そこで白羽の矢がたったのが凪だったということらしい - 41二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 06:51:14
「俺はこの半年でいろんな借金持ちの若者を調べてきた 相棒は誰でも言い訳じゃねぇからな ちゃんと実力のあるやつじゃねえと組んでも意味ねえし」
よくそんなことに半年も時間を使ったものだ
借金もちのクズの若者の情報を半年も見続けるなんて凪にはごめんだ
「いろいろ探してみたけどピンと来るヤツはいなくて、俺ももう諦めかけてたところだったんだけど」
「借金額が少なくて候補から避けてたやつらの書類の束から偶然おまえのやつがハミ出てたんだよ」
「意味ないだろうなと思いながらお前について調べたら、これがドンピシャだったワケ!」
385万円の借金は他の候補者と比べたら大したものではなかったらしい
(世の中にはすごいクズがたくさんいるんだなぁ…)
てかコイツ今俺の情報調べたってサラッと言ったけど本当にここ法治国家なの?個人情報ってそんなにお手軽に手に入るの?人権って概念はどこにいったんだ
「お前さ、ニュースとかみてる?」
「ネットで見ることはあるよ、この家テレビないし まあいまはスマホ止まってるから最近のニュースは知らないけど」
「お前がやってるような詐偽の下っ端の受け子が逮捕されてるニュースは知ってるよな?」
当たり前である
そのせいで凪は金がなくなり明日もかくやという暮らしをしているのだから - 42二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 07:09:08
「お前なんで自分が逮捕されてないかわかるか?」
「え…なんでだろう?」
そんなことは考えたことがなかった
え、てか俺って逮捕されるようなことやってたんだ
なぜかその意識が全く頭から抜け落ちていたことに自分でビックリしてしまった
「普通さ、ありえねぇんだよ 下っ端の闇バイトなんか切り捨てられるのが当たり前で、逮捕される前提で雇われてんだよ」
「お前みたいに全く足がつかずのうのうと暮らしてんのが異常なの」
「一応警察の方にも探り入れたけどお前の情報は全然上がってなかった」
「つまり、お前は警察の目を出し抜くほど完璧な仕事をやってんだよ すげー才能だろ? だから俺はお前を相棒にすることに決めたの!」
嬉しそうにレオは言うが、おかしな点がある
「おかしくない?それならなんでレオは俺がやってたことを知ってるの?」
人に知られず犯罪行為をやってのける凪の才能を評価しているらしいが、レオには知られてしまっているわけだからそれって矛盾しているのでは?
そもそも警察もつかんでないような情報をなぜレオが知れるのか…
「ん? そりゃうちにはばぁやがいるからな!」
(ばぁや…?)
まったく意味がわからないがなぜか誇らしげにレオは言った
そのばぁやとやらがいれば不可能なことも可能になるらしい
それがこの世の真理です、みたいな顔をして言われたらツッコミを入れることも出来ない - 43二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 07:51:53
朝起きたらめちゃくちゃな安価からめちゃくちゃ面白い神SSが…!?
- 44二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 17:24:15
続きくださいお願いします
お礼に玲王の笑顔をさしあげますから - 45二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 22:27:36
「聞きたいことが2つあるんだけど」
「なんだ?」
「まず、そのギャンブルクルーズってどんなことをやらされるの? それと負けた場合のペナルティとかは?」
レオが語った話は夢のようなものだったが、簡単に大金が手に入るとはとても思えない
それ相応のリスクがあるに決まっている
"ばぁや"のことも気にはなるが今はともかくレオの話の詳細を確かめるのが先である
「まず船の中で何をやらされるかだけど、これはわからねぇ 参加者に不公平が起きないように徹底的に隠されているらしい」
「次にペナルティの話だが、負った借金を返すために強制的に1、2年ほど労働をさせられるって話だ ただその強制労働の詳細はいくら調べてもわからなかった」
やはり裏があるとしか思えない
警察にまで探りを入れられるらしい"ばぁや"を使ってもわからないことなんて絶対にロクでもないことに決まっている
100%めんどくさいことになるとしか思えない
この話はナシだ
「悪いけど俺やらないよ」
「は? なんで? 大金が欲しくねぇのかよ?」
心底わからないという顔でレオが言った - 46二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 23:35:12
「なにやらされるかもわかんないリスク背負ってギャンブルクルーズに参加するとかどう考えてもめんどくさいじゃん 俺、めんどくさいこと嫌い」
夢を追うよりめんどうを避ける方がいいに決まってる
凪はそーゆー性格だった
「気持ちはわかるが安心しろよ この話は全然セーフティーなんだ」
「このクルーズを企画してスポンサーになってるのは大手のファイナンス会社だ、無茶なことはしねぇよ そんなことしなくても儲かってんだ」
レオはなおも熱心に勧誘を行ってくる
「参加者は勝てばチャラだし負けても数年の労働で借金が返せる」
「もちろん企画側にも旨味がないわけじゃない 若いうちから莫大な借金をつくるような大勢のクズ達からちまちまと何年もかけて借金を取り立てるより、借金を少ない人数にまとめてそいつらからキッチリ取り立てる方が効率もいいし余計な人件費もかからないわけだからな その証拠にクルーズは参加者同士の金の奪い合いになってる 企画側が儲けようって話じゃないんだ ようはWin-Winの関係ってコト!」
そう言われれば悪い話ではないように思えてきた
先ほどまではめんどうが勝っていたが、レオの話を聞いていると引き込まれるものがあった - 47二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 23:36:50
「どうだ? やる気になってきたか?」
「けどさ、勝つのも簡単な話じゃないでしょ? ギャンブルっていったって俺博打はぱちんこくらいしかやったことないし カジノみたいなのはルールもよく知らんし…」
「だいじょーぶ! お前は俺の言う通りにうごいてりゃいいから!」
そんな単純な話なのだろうか
けど、なんとなくレオが言うならできそうな気もしてくる
人をその気にさせるのがうまいみたいだ
やってみてもいいかな─凪はそう考えていたのだが
「それにさ」
先ほどまでの明るい雰囲気から一転し、レオは無表情になった
「今お前の元に取り立てが来てないのは俺が債権を抑えてるからだ まあこれもエスポワールに乗るときにはスポンサーのファイナンス会社に移るんだが」
「お前がもしこの話を断るっていうんなら、俺はこの債権を元の金貸しよりももっと悪質な業者に売ることだってできる」
「1ヶ月に20%の複利どころじゃない、もっとエゲつないことをやってる金貸しだって世の中にはゴマンといるんだ そういう真っ黒なトコロなら取り立ても当然厳しいだろうな」
「そうなったら一文無しのお前はどうなる? 内臓でも売るのか? 俺の車の修理代も払ってくれるんだよな?」
レオはただの夢見がちな金持ちの箱入り息子ではないらしい
交渉ごとにおいて一番最後に自分の有利な条件を突きつける方法はまるでやり手のビジネスマンのようだ
十秒ほどの沈黙、再び人好きのする笑顔を浮かべてレオは言った
「俺とお前でエスポワールの一番になる! それが俺の夢になった!」
「改めてよろしくな、凪! BOSSと呼べ!」
さっきはレオと呼べと言ったくせに
(思ったよりヤバいやつに目をつけられちゃったのかも…)
もはや断る術もないしぐだぐだ考えるのもめんどくさい
なるようになれ─そんな気持ちで凪はユルく答えた
「いえすぼーす」 - 48二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 01:10:17
翌日
(お腹空いたなぁ)
冷蔵庫にストックしてあったゼリー飲料が底をついたため空腹を満たすものはなにもなかった
(レオの話に乗ったはいいけど、船が出る秋までどうやって過ごせばいいんだ…)
先月まで家賃と光熱費はどうにか引き落とされていたが口座の残高はもう数百円しかない
このままでは住む家までなくなってしまう
なぜレオはお金を置いていってくれなかったのだろう
385万も借金があるならいまさら数万円は誤差の範囲だし貸してもらえるように頼むべきだった
今さらになって後悔が襲ってくる
連絡先も交換しなかった
交換したところでスマホが止まっているから意味がないのだが
(取り敢えず外に出るか…自販機の下に小銭でも落ちてるかもしれないし)
190cmもある自分が地面に這いつくばって自販機の下を覗き込む姿を想像したらあまりにも滑稽だった - 49二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 01:30:08
外出するときのクセで繋がらないスマホとほぼ空の財布を持って家を出た
どっちの方向に向かうか逡巡していると、『ププーッ』と軽快な音を響かせ白くて長いリムジンが隣に止まった
(この車は…)
「よっ! 凪! 乗れよ 迎えに来たぜ」
後部座席から出てきたのは案の定レオだ
(昨日の今日でもう修理できたの? それとも別の車?)
どっちにしろ驚きである
しかしその後運転席から現れた老女を見たらそんな驚きはすぐに吹っ飛んだ
「どうぞお乗りください 玲王ぼっちゃまのお友達様」
(魔女?)
最初に思った感想はそれだった
2メートル近い巨大な体躯に二つに分けてひっつめにした灰色の髪
極めつけはその鼻だ
大きく曲がった鉤鼻、こんな容姿を持つ生き物は幼い頃に読んだ絵本の中の魔女くらいしか思い付かない
いや某ジャンプ漫画に出てくる殺し屋一家の執事にも似てるかも?ジ○リ映画にもこんな感じのキャラがいたような…
「この人"ばぁや"! 俺の付き人!」
なるほどこの人が噂の…
それにしてもすごい鼻だと考えているうちにリムジンの後部座席に押し込まれていた - 50二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 01:55:05
「エスポワールではどんなギャンブルが行われているのかわからねぇ ギャンブルといわれているだけでカードゲームなのかスロットなのか… 未知のオリジナルなゲームの可能性もある」
「そこでだ! 船に乗る秋になるまでお前には俺と一緒にいろんなジャンルのギャンブルを研究する! ついでに教養やスポーツも身につけてもらう」
「えーめんどくさい」
凪は学校の授業でもほぼ寝て過ごしていた
勉強が嫌いなのだ、めんどくさいから
運動ももちろん嫌いだ、めんどくさいから
それに寝ていてもその気になればテストではほぼ満点に近い点がとれたので
でもまあ少しくらいはやってもいいかな、レオが言うなら…
「その代わり船に乗るまでの生活の面倒は全部俺が見てやる かかる金は別に返さなくていいぞ、投資みたいなもんだから ほら、スマホ」
そういって投げて寄越されたのは背面に特徴的なフルーツの型押しがしてあるメーカーの最新機種だった
気前がいい御曹司である
凪は遠慮などはしない質なのでさっそく元のスマホからデータを移す作業に入った
これでようやく暇潰しができる
しかも生活の面倒まで見てくれるとは万々歳だ
「その代わりに一つ条件がある」
「なーに?」
「他人の車を傷付けたりするのはもうやめろ あと闇バイトもな」
やはり車を傷つけたことは怒っているのだろうか
いやそれが当たり前か
「俺はダセェやつとつまんねぇやつが嫌いなの 他人の車にイタズラするとか情弱騙して金巻き上げるとかクソダセェことは二度とすんな 船降りたら全うに生きていけよ」
レオなりの美学みたいなものがあるらしかった
「んー、まあ、善処シマス」 - 51二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 02:06:02
「にしてもあんときはビビったわ!」
「…なんのコト?」
「お前が俺の車ボコってたときのことだよ!」
やっぱこの話詰められる感じなのかな?
もう一回謝っておいたほうがいいかもしれない
「お前ん家いったけど留守で しばらく待ってたんだけど帰ってこねぇから車戻ろうとしたらお前がボール蹴って車にぶつけててさ」
「ハイ…」
「何やってんだコイツと思って見てたら お前一回も手つかわずに戻ってきたボールトラップして何回も蹴りつけてたじゃん?」
たしかに凪は手を使うのがめんどくさかったからそうしたのだった
「ボールの威力もすげぇから車すぐボコボコになってさ まじスゲー!ってなったわ」
そこ感心するところなんだ、やはりレオは変なヤツみたいだ
「調べた情報には部活のことまでは載ってなかったからサッカー部だったのかと思って聞いたら違うって言うじゃん? てかサッカー部でもあんなコトなかなかできねーし!」
凪はサッカーに全くキョーミがないので普通のサッカー部員のスキルレベルなどは知るよしもないがレオがそう言うのなら凪のやったことはスゴいことだったのだろう
「俺はあれをみてビビっときた! いや、確信した!」
「お前にはスゲー才能がある! お前と俺ならエスポワールで一番になれる! そーゆー運命だ! 俺に見つかったことを誇りに思うのだ!」
ウオオオ!という効果音が聞こえそうなハイテンションでレオは言う
(マンガの読みすぎでしょ…てかノリめんどくさ) - 52二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 02:15:15
すごいね文章が読みやすい
- 53二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 08:49:56
カイジをマガポケで無料分の3話まで見てきたけどこれと白宝ミックスさせるの相当大変そう
違和感なく書けてるのすごいね - 54二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 14:28:00
このレスは削除されています
- 55二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 18:19:24
すげえ神がいるな!?
- 56二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 19:06:40
原作のセリフちゃんと使われてて凪が初対面から玲王に脳焼かれてるのに両方わかってなくてお金目当てに凪がやってると思ってるのも再現度高い
- 57二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 00:42:59
凄く面白い
- 58二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 03:17:20
帝愛の黒服
dice1d27=1 (1)
乗船案内人
dice1d27=20 (20)
エスポワールの参加者
dice3d27=15 20 17 (52)
(被ったときの予備dice3d27=4 6 12 (22) )
①潔 ②蜂楽 ③國神 ④千切 ⑤イガグリ ⑥凛 ⑦馬狼 ⑧斬鉄 ⑨オシャ ⑩時光 ⑪士道 ⑫烏 ⑬乙夜 ⑭雪宮 ⑮愛空 ⑯冴 ⑰閃堂 ⑱柊 ⑲黒名 ⑳我牙丸 ㉑雷市 ㉒氷織 ㉓二子 ㉔絵心 ㉕アンリ ㉖清羅 ㉗七星
- 59二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 09:45:22
続き気になる
- 60二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 13:24:06
全部それっぽい人選だ 女神すげぇ
- 61二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 15:31:03
- 62二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 20:09:08
- 63二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 22:56:25
季節は秋になっていた
ついにきたエスポワールへの乗船の日である
二人は晴海の埠頭におりたっていた
ここまで送り届けてくれたばぁやとは先ほど別れている
別れ際に玲王ぼっちゃまをよろしくお願いします、と頭を下げられたので
凪は「まあ適当にやってみるよ」とユルく返しておいた
この数ヵ月間、宣言通りレオは凪をいろんな場所に連れ出した
ルーレットやバカラ、テキサスホールデムなどの基本的なカジノのゲームから丁半博打、チンチロ、花札、麻雀
マーチンゲール法やモンテカルロ法などのようないわゆる“必勝法“に関する座学
チェスやオセロなどのボードゲーム
体力作りと称したバスケやテニス、サッカーの練習
その他にも本当にこれ必要?と思われるような分野までありとあらゆるものを経験されられた
その様々な分野で凪が才能を示すたび、レオは大袈裟におどろき褒めてくれた
基本的にダラダラした生活がしたい凪は外に連れ出されることはめんどくさかったが、レオが喜ぶならまあいいかな、くらいの気持ちでこなしていた - 64二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 22:58:55
「見つからねーな」
「だねー」
埠頭についてからすでに十数分は経っただろうか
二人はそれらしき船の影も形も見つけられないでいた
出港を控えた船なら灯りがついてるだろうし、遠目でもわかるはずなのだが…
「もう一回向こう見てみる?」
「そうするか」
まさかガセネタを掴まされたのでは?いやでもちゃんと乗船契約書書いたしそんなわけないはず
そんなことを考えながら行く先に目を凝らしていると暗闇にぼんやりと浮かび上がる船体のようなものが見えてきた
「ねぇレオ、あれ」
指をさして示すと、レオも気が付いたようだ
二人でそちらへ歩みよる
「…これがエスポワール?」
それなりに大きい船体であるのに、灯りはごくごく僅かにしかついていない
これでは近くに来なければ気付けないはずである
(めちゃくちゃ怪しい)
もうこの時点で不審度はマックスに近かった
いかにもここで良くないことが行われてますよ、と言わんばかりの雰囲気である
(マジでここに入るつもりなの?)
なんとも言えない心持ちで船を見つめていると、不意に後ろから声がかけられた
「失礼ですが、凪誠士郎さまとお連れの方ですか」 - 65二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 23:00:01
振り返ってみてみると黒いスーツをきた男が3人立っていた
口を開いたのは真ん中にいる男のようだ
「うん ソウデス」
凪は素直にそう答えながら男たちを観察した
おそらくはエスポワールの運営の人間であろう
左にいる男はサングラスをしており、右にいる男は懐中電灯を手にしている
右の男は少し異様な風体をしていた
光のない黒々とした丸い目に毛先が白い髪、凪と並ぶほどの長身
(手掴みで生肉とか食べてそう)
そんな失礼な感想を凪は抱いた
こんないかにも頭脳よりも身体能力を買われて雇われました、みたいな男が出てくる時点でキナ臭さしか感じない
帰りたい…さっきからずっとその言葉しか頭に浮かんでこない
「これがエスポワール?」
黙っている凪のかわりにレオが聞いた
「左様でございます 非合法の船になっておりますのでこのように目立たぬようにさせていただいているのです ご不便をおかけして申し訳ございません」
説明をするのは真ん中の男の役割らしい
丁寧な口調であるが、いかにも慇懃無礼といった感じである
こちらを値踏みするようなニヤケ面が妙に癪に触った
いけすかない奴…凪はじっとりとした目で男を見つめた
「別にいい それより他の参加者はいねえの?」
レオは大して気にもしていないらしい
軽い口調で質問を重ねた - 66二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 02:19:25
ドラッグ当たってたらどうやっても立て直し不可能だったから博打と詐偽でまだよかったのかも(錯乱)
- 67二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 11:23:08
☆
- 68二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 11:47:47
カイジミリしらだけどめちゃくちゃ楽しい
ありがとうSS職人… - 69二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 18:54:23
☆
- 70二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 19:52:53
カイジ読んでるワイ良質なSSに出逢い大歓喜
原作通りのギャンブルやるんかな - 71二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 20:13:13
天才!
続き待ってます - 72二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 00:17:26
「いっぺんに百余名があつまらぬようにするため、参加者の皆様には少しずつズラした集合時間をお伝えしているのです これも目立たぬようにという配慮からでございます」
「ふーん」
「では失礼いたしまして…」
真ん中の男は両端の男に目配せをした
右の男は凪に、左の男は玲王にズイッと近寄ってくる
凪は反射的に玲王を庇うように立ち、無意識に男達を威嚇した
「なんのつもり?」
「ボディチェックをさせていただきます」
「だーいじょうぶだって! ほら、下がれよ凪」
レオがそういうので凪はしぶしぶ引き下がった
ベタベタと無遠慮に身体を触られ、武器、危険物などの持ち込みがないか入念にチェックされる
凪はその間レオの方をじっと見つめていた
「携帯電話をお預かりさせていただきます」
そう告げられてスマホを取られそうになる
手放すのが惜しくてなかなか手を離さない凪をレオは窘めた
「スマホは諦めろー、凪」
レオが言うなら仕方ない、凪はスマホを諦めざるを得なかった
最後に再度契約書の確認をされ、本人確認を行う
「ご協力ありがとうございました ではこれより乗船していただきます 我牙丸、お連れしろ」 - 73二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 00:26:38
このレスは削除されています
- 74二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 00:28:26
我牙丸と呼ばれた男に先導される形で二人は船内へ入った
凪は注意深く周りを見渡しながら廊下を歩く
レオも興味深げに視線をさ迷わせている
外から見たときはわからなかったが随分と入り組んだ作りのようだ
内装はいたってシンプルで、ほぼコンクリートの打ちっぱなしのような感じである
「ギャンブルクルーズっていうからもっとゴテゴテした内装かと思ってたわ これじゃあどっちかっていうと」
「「デスゲーム始まりそー」」
声が重なった
二人とも同じような感想を持ったらしい
数分もたたぬうちに目的地にたどり着いたようだ
「ここだ 入れ」
先導の男は端的に告げ、目の前のドアをひらいた
部屋の中に入りながらレオは男に話しかける
「どーも 全部の参加者が揃うまでまだ時間かかるのか?」
「いや、お前達が最後の乗船者だ」
バタンと大きな音をたてて後ろの扉が閉められた - 75二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 05:56:57
(あちゃー…)
部屋に入った凪はゲンナリとした
目に入る者たちはどいつもこいつもマイナスのオーラに満ちている
多額の借金を抱えたダメ人間の集まりなのだからある意味当然であった
近くにいた者達は部屋に入った凪たちのことをチラチラと見ている
二人は明らかに浮いているようだ
部屋はさほど広くないようで、百余人が所狭しとつめこまれている
やはり若者が圧倒的に多いようだった
手持ち無沙汰で部屋の中を見回すと、奥の方に周りとは異なる雰囲気を持つ者がいた
(女?男?)
長い赤髪を鬱陶しそうにかきあげ、壁にもたれかかる人物
服装は男物を着ているが顔は女性のようにみえる
凪たちと同じように周りからの注目を浴びているようだが、本人はどこ吹く風といった表情だった
ああいう奴もいるんだな、その程度の感想で凪は視線を外した
ガシャガシャ…
奥の扉から耳障りな音を響かせる大きな台車と共に数人の男が現れた
いよいよクルーズが開始されるようだ - 76二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 06:16:12
「お待たせいたしました 参加者が揃いましたのでまもなくこちらのクルーズ船は出港します」
黒服を着た男が話し始めた
凡庸な見た目の男である
「その前に、皆さんには決定してもらいたいことがあります それはこれから行われるギャンブルの軍資金の多寡です ここにいる皆さんは基本的に無一文でしょうから我々の方で便宜をはかり、軍資金を用意しました これからその貸付を行いたいと思います」
その言葉と同時に台車に被せられていた布が取り払われる
現れたのは大量の札束だった
部屋の中は俄にざわついた
「資金は充分用意しましたが、それでも無制限というわけにはいきません こちらでいくつかルールを設定しました」
「まず貸付の下限は100万円、上限は1000万円です 全ての人間は最低100万円は借りなければなりません 利率は1.5%の10分複利…このクルーズが終わる4時間後には元金の約4割を上乗せして返してもらうことになります 非常にリーズナブルとなっています 次に…」
「待てこら!」
男の話を遮って参加者から怒声があがった
「4割上乗せで返せだと!? なめてんのか! 足元みるのもいい加減にしろよっ!」
「そうだ!ふざけんじゃねえ!」
「とんでもない 4割は非常に良心的です」
参加者の怒りをよそに黒服の男は落ち着いて返答した
「んだと!?」
「ぶちコロすぞてめぇ…!」
「暴利にも程があるだろが!」
「この悪党め!」
参加者たちは口々にワーワーと文句をいい立てている
凪とレオはそれを黙って眺めていた - 77二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 06:30:44
「若き負債者を救済するためにこのクルーズを企画した我々が悪党なわけがない 借金を一括返済できる未曾有のチャンス… それを買うのに4割の金利は非常にリーズナブル 良心的な金利だ」
口喧しい参加者たちに苛立ちを覚えたのか、男が纏う雰囲気が少し変わった
口調も先ほどまでとは異なっている
気圧されたのか、参加者たちは依然文句を言い続けているいるものの、そのボリュームは目に見えて下がった
「いいか? 説明を続けるぞ 次に、このクルーズの参加者の連れとしてここに来た者だが」
レオがピクリと反応した
「相方の正規の参加者が借りる軍資金の半分をそいつには背負ってもらう そしてもしこのクルーズに負けた場合、返済方法は強制労働のみとする 船の外にどれだけの資産を持っていたとしても、だ」
「このクルーズは負債を抱える若者の救済を謳って開催されている そこに金を持ったやつがノコノコやってきて面白半分にゲームに参加した挙げ句、負債者たちから金を巻き上げて帰っていく 負けた場合は金を払ってチャラ それじゃあフェアじゃないからな それ相応のリスクを背負ってもらう」
黒服の男はそう言うとレオのほうをチラリと見た
すぐに視線を真っ直ぐに戻し、話をつづける
「いいか、これは人生を賭けたギャンブルなんだ さっきから文句を言ってる奴ら、お前らはなにもわかっちゃいない」
「これはチャンスなんだ お前達のゴミみたいな人生を一夜で変えることができる最初で最後のチャンスだ そう考えると4割の金利は安すぎるくらいだと思わないか?」
男はそう問いかける - 78二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 06:33:14
「ふざけるな…ふざけるな! クズ野郎!」
「正義みたいなツラしやがって俺たちみたいな債務者を逆さに振ってまだ金を取ろうって魂胆だろが! この悪魔が!」
「あんまり無茶言うと降りるぞ! オレ達はみんな降りる!」
参加者たちの中ではかなり年齢が上の方であろうメガネをかけた大人しそうな男が涙声で叫ぶ
「ハァー……」
黒服の男は部屋中に響くくらい大きなため息を吐き出した
一度俯いて、顔をあげる
「なら帰れ 誰も止めたりしない 自由にしろ ここから今すぐでていって十年でも二十年でもかけてケチな労働をしながら少しずつ借金を返していけばいい そうやって歳を取って家も持てず、家族を養うことすらロクにできない中年になって一生社会のお荷物やってろ 誰もお前を助けたりしない お前と同じ世界で生きてくれる人間なんかどこにもいやしない 独りで沈んで逝ってろ泥舟共が」
ここにいる人間はそのケチな労働にすらありつけるかもあやしい人間ばかりである
選択肢などそもそも存在しないのだ
ここまで言われても「はいそうですかサヨウナラ」と船を降りる選択肢をとれる人間などここにはいはしない、基本的には…の話だが
「どうするんだよ、石田」
メガネをかけた男は石田というらしい、黒服の男は名指しで男に問いかけた
「くそ…くそっ……100万だ……!くそ野郎がっ!」
石田は泣きながらそう答えた
それを皮切りに参加者たちは次々と声を上げる
「吉田、100万」「沢村…100万だ」
「お次の方は?」
「閃堂、100万」「中根だ、100万で」
みな借りるのは最低額の100万である
わざわざ高い金利を出してこいつらに儲けさせる道理はないと考える者、そもそもこれ以上借金を増やしたくない者
理由は様々であった - 79二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 07:06:10
「やっべぇ狂ってる!」
その様子を見ながらレオは目を輝かせていた
人生を賭けたギャンブルとやらにすっかり魅いられてしまっているようだ
凪とは正反対である
「ねぇレオ、やっぱ帰ろうよ」
「は!? なんだよせっかくここまで来て 帰るとかありえねえだろ」
「あいつの話聞いてた? レオも借金背負わなきゃいけないんだよ? 負けたら強制労働だって… レオにはそんなん無理でしょ」
「勝てばいいだけだろ? 俺たちならいけるって!」
「別にここに拘らなくていいじゃん ギャンブルしたいなら海外のカジノにいけばいいでしょ」
「そういうことじゃねーんだよ 俺はこのエスポワールで一番になりたいの! それにお前ここ出てもどうやって借金返すつもりだよ」
レオはよほどこのギャンブルクルーズに参加したいらしい
「別にスマホさえあればどうにかできるし これまで通り博打と…詐偽の親玉にでもなってお金稼ぐよ 俺、才能あるんでしょ?」
レオと約束したのは他人の車へのイタズラをやめることと闇バイトをしないことである
弱者から金を巻き上げるなとも言っていたから社会的強者の金持ちから金を騙しとる巨大詐偽なんていいのでは?
凪はスローライフさえ送れればいいから余ったお金は寄付すればいい
目指せ現代版ネズミ小僧だ
うん、かっくいー、名前はダサいけど
天下の御影コーポレーションの御曹司が太鼓判を押してくれた犯罪の才能が凪にはあるのだからきっと上手くいくだろう
こんなイカれたクルーズにレオを参加させるよりよほどいい案だと凪は思った
「いや、お前…」
なおもレオが言い募ろうとするが、参加者たちからどよめきが起こったため遮られてしまった - 80二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 07:08:02
ざわ…ざわ…
一体何事だろうか
騒ぎの中心を見やると、無精髭を生やした男が札束を受け取っているところであった
1、2、3、4、、その束の数は全部で10個
上限の1000万を借りた人間が出たため他の参加者に衝撃が走ったらしい
札束を受け取った男は扉の向こうに消えていった
なにをそんなに驚くことがあるのだろうか
凪に言わせれば下限の100万しか借りない者達の方がよっぽど驚きである
これから何をやらされるのかもわからない状況で金と言う武器を持たずにクルーズに参加することがどれほど愚かなのか理解できないとは…
ポーカーなどのようにどれだけ金を積めるかがものを言うゲームだってあるというのに
人生をかけた勝負事に弱気を持ち込んだ時点で“負け“に等しい
凪ならノータイムで1000万を借りるだろう
冷めた目で騒ぐ参加者たちを眺めていると、次の者が声を上げた
「千切、1000万」
あの赤髪だ
騒ぎはさらに大きくなっていく
(あいつも男なんだ ということは参加者は全員男で、かつ若者…なるほどね)
負けたあとに科される強制労働とやらはおそらく体力が求められる仕事なのだろう
凪はそう結論つけた
なおさら参加する気がなくなった - 81二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 07:13:38
無精髭の男と千切に感化されたのか、その後に続く参加者たちが借りる額は300万、400万と増えている
(他人にひっぱられるのもそれはそれでどうなのさ)
気付けば部屋に残っている人間は二人だけになっていた
「いくぞ、凪!」
「いや、行かないってば」
「おい…」
二人の意見は割れたままだ
その様子をみた黒服が口を開いた
「凪誠士郎と御影玲王、お前たちは帰った方がいいぞ」
「他人に騙されて借金を背負うようなマヌケ、しかもリスクを恐れて目の前に転がるチャンスを物にしようとしない臆病者と物見遊山気分の金持ちのボンボン息子 お前らにエスポワールで勝ち残るのは無理だ これは青春ごっこゲームじゃないんだよ 泣きを見る前にさっさと帰れ」
向こうからお断りしてくれるとはなんて都合がいいのだろう
凪は「はーい」と返事をして踵を返そうとした
しかしレオに胸ぐらを掴まれ阻止されてしまう - 82二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 07:15:02
「ふっざけんな! 凪は、凪はそこら辺に転がってる人間とは違う! 本物の天才だっ! 俺とこいつならエスポワールで一番になれる!」
黒服の言葉がよほど気に触ったのだろうか、レオは随分とご立腹のようだ
声を荒げて啖呵を切った
「聞いてなかったのか? これはごっこ遊びじゃないんだよ」
「待ってレオ、俺やりたくないってば」
凪は拒否の言葉を口にするがレオは取り合わない
凪の胸ぐらを引き寄せて息がかかりそうなほど顔を近づける
その目は爛々と輝いていた
「うるせぇ黙れ 信じろ凪! 博打より詐偽より面白いエスポワールに俺が連れていってやる」
「うえー」
(はあ…断るのは無理だなこれは)
凪は観念した
「わかったよ…じゃあ信じるけど、1個だけ約束ね」
「さいごまで一緒にいてよ」
「ハッ なんだよそれ」
笑うレオに凪は念を押した
「約束だよ、レオ」
「ああ凪、約束な」
軽く請け負うレオから黒服に視線をうつし、凪は平坦な声で宣言した
「凪誠士郎と御影玲王、二人で1000万ね」 - 83二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 11:21:11
☆
- 84二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 11:26:47
題名回収きたー!盛り上げるねぇ
職人がいけるとこまで続けてくれー - 85二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 17:18:29
ノリでゴリ押していろいろ無理矢理になってるけど限定じゃんけんまで書くつもりです!
バトンタッチされたんで好き勝手やらせてもらってます、ごめんなさい - 86二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 17:23:29
一気読みしちゃった
「さいごまで」が平仮名なのは意図的なものだろうか oh... - 87二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 22:57:31
☆
- 88二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 23:09:12
自然にタイトル回収した!
面白い!限定じゃんけん楽しみ - 89二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 06:22:49
博打より詐偽より面白いエスポワールに連れていってやるを台詞に入れる難易度が高すぎるw
- 90二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 11:24:21
続きよみたい
- 91二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 20:31:48
2人が優秀だから苦戦するのが想像できないな
- 92二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 20:39:09
れおぴの強制労働って夜の土方するのかな
凪たのむぞ - 93二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 00:20:51
ワクワクしてきた
- 94二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 00:21:29
凪は鉄骨渡り余裕でこなしそうだけど鉄骨渡り送りになることがまずなさそうっていう
- 95二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 10:08:56
がんばれ
- 96二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 12:30:07
軍資金の貸し付けが終わると現金と共にホルスターが手渡された
そこに現金を入れて持ち歩けということらしい
さらに何のためか上着の右胸にマジックテープをつけられ、紙袋が2つ手渡された
紙袋にはA、Bとかかれている
「そちらはお二人で共有してお使いください まだ袋は開けないようお願いします ではこちらへ」
係のものに促され、扉を潜る
「そのまま先にお進み下さい 奥の扉を潜るとプレイホールになります その後は中の者の案内に従って下さい」
「はーい」
適当に返事を返し先に進むと船が動き出した
全員への貸付が終わったため出航したらしい
もう引き返すことはできないようだ
「俺たち以外に二人で参加してるやつはいねぇみたいだな」
「そりゃそうでしょ 普通の人はこんなところに来たがらないよ 来たとしてもさっきの説明聞いたら帰るでしょ」
「そーかぁ?」
レオは自分が相当変なヤツだという自覚がないらしい
「中では分かれる可能性もあるかと思ったけど、二人一緒にやるみたいだね」
「二人で総取りしちまおーぜ 他の参加者にはわりぃけど、俺らなら天下無双だろ♪」
レオのテンションの高さに若干呆れてはいるものの、二人なら負けるわけがないという意見には凪も同意だった - 97二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 12:39:03
奥の扉を潜ると広い部屋になっていた
内装も先程までとは異なり、華やかな仕様である
床には柔らかな絨毯が敷き詰められ、壁沿いにはソファーが点在し、部屋の中にはところどころに小さな台が設置されている
ルーレット台や大人数でカードゲームを行えるような大きなテーブルはないようだ
設置された台はせいぜい二人で使うのが目一杯という大きさで真ん中には穴が空いている
トランプか、大きくてもはがき程度のものしか通らないような大きさのスリットだ
(1対1で、おそらくカードのようなものを使用するゲームってことかな)
『全員の入場が完了いたしましたのでギャンブルの説明を開始します 各人すみやかに前のステージにお集まり下さい』
部屋の各所に設置されているらしいスピーカーからアナウンスの声が響いた
部屋の前方には一段高くなったステージがあり、大きなモニターが設置されている
「行くぞ、凪」
「うん」
二人は連れ立ってステージの方に近づいた
(ステージの上にいるのはdice1d22=16 (16) )
①七星 ②蜂楽 ③國神 ④アンリ ⑤イガグリ ⑥凛 ⑦馬狼 ⑧斬鉄 ⑨オシャ ⑩時光 ⑪士道 ⑫烏 ⑬乙夜 ⑭雪宮 ⑮二子 ⑯冴 ⑰絵心 ⑱柊 ⑲黒名 ⑳清羅 ㉑雷市 ㉒氷織
- 98二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 22:07:35
ほしゅ
- 99二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 05:14:15
程なくして参加者たちは全員ステージの前に集まった
ステージ上には壇があり、男が一人立っていた
周りに居並ぶ揃いの黒服たちとは違い、一目で高級そうだとわかる仕立てのよいスーツを着用している
全員揃ったことを確認すると、男は口を開いた
「揃ったようだな 俺はこのホールのマスターを仰せつかっている糸師冴だ さっそくだがギャンブルのルールを説明する」
淡々とした口調である
随分と愛想のない男のようだ
「時間もおしている 説明は一度のみだ 繰り返しはしないし、後に質問も受け付けない 集中力を持って聞くように まずは配られたAの紙袋を開けろ」
凪は説明に従い、Aの袋を開けた
(やっぱりカード…だけどこれは…?)
袋の中に入っていたのはトランプのようなカードだった
しかし、その絵柄は手をひらいたもの、握ったもの、握った状態から差し指と中指だけを開いたもの…要はジャンケンの『グー』『チョキ』『パー』の形を描いたものである
その3種類が各4枚ずつ、合計12枚あった
「これって…」
「ジャンケンだな」
「うん、ジャンケンだね」
ざわ……ざわ……
周りが騒がしくなる
困惑の表情を浮かべるものが多いなか、糸師冴は説明を再開した
「我々は考えた なにを扱えば全員平等に、公平にギャンブルが出来るのかを そして検討を重ねた結論がそれだ」
「その図柄が何を示すのかわからぬものはこの中にはいないだろう 全員が熟知して、かつ公平な種目 各人の運命はそれによって決っしてもらう」
「ただし手は無制限に出せるわけではない…各4回ずつとカードによってをその機会を絞らせてもらった 最初に『グー』を4回出してしまえばあとは『チョキ』と『パー』しか出すことが出来ない 可能性がやや絞られるこの種目は言うなら『限定ジャンケン』と呼べるだろう」 - 100二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 05:29:21
「なんとなくそんな気はしてたが、やっぱオリジナルなゲームで勝負させられるみたいだな」
「うん」
「手札が絞られたジャンケン…当然ただの運否天賦じゃない シンプルなゲーム性だけにその可能性は無限大…か おもしれえじゃん、エスポワール!」
「うえー、めんどくさそう」
レオは面白がっているが凪は相変わらずやる気がないのだった
ざわ……ざわ……
次第に大きくなるざわめきを無視して糸師冴が説明を続ける
「次はBの紙袋をあけろ」
指示に従い袋を開けると出てきたのは…
「星…?」
「なんだこれ」
横から覗き込んでいるレオも不思議そうな顔をしている
「中からは星が3つ出てきたはずだ 裏はマジックテープとなっている それを全員右胸につけろ」
軍資金の貸付の際に上着につけられたマジックテープはこのためのものらしい
指示にしたがって凪も星をつける
(なんかダサ…)
マジックテープに星を貼り付けた見た目はなんとなく間抜けな感じだった - 101二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 09:35:56
「以上で準備は終わりだ カードでジャンケンをし、星を奪い合う 単純明快だろ? 今から競技の実演を行う」
糸師冴の合図で黒服二人が進み出た
ステージ上には部屋にある小さな台と同様のものが置かれている
その台を挟んで二人が向かい合うように立った
「まず部屋の中にある14の台の前に一対一で対峙し、お互い戦う意思を確認したら『チェック』と発声する」
「次にお互いにこの後に出すカードを選び、『セット』と発声した後、台の上に図柄を伏せた状態で置く」
説明の通りに黒服が実演してみせる
「最後に『オープン』の発声と共にカードを表向きにする これだけだ」
「あいこならば星の移動はなし 勝ち負けがあった場合は勝ったものが負けたものから星を受け取り、自分の胸へとつける 使用したカードは台の中央にある投入口に入れる 一度使用したカードは二度と使用できないということだ」
「これをここにいる全員で自由に相手を決めただ繰り返してもらう 競技の説明は以上だ」
「最後にこのギャンブルにおける『勝ち』とは何かを説明する モニターを見ろ 3分間だけ説明を表示する その間に頭に叩き込め」
ざわ…ざわ…ざわ…
結局はこれが本題である
部屋の中には緊張が走った
凪とレオもスッと目を細めモニターに集中する - 102二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 10:13:25
表示された内容は以下の通りだった
───────────────────────
勝利条件:最終的に星を三つ以上確保すること
またその際、カードを全て使い切っていること
※星が5つになったから残りのカードは破棄する、などということは認められない
なお途中経過は一切問わないものとする
以下の状態になった場合、その者は敗北となる
①制限時間4時間内にカードを使いきれなかった場合
②時間終了時に星が2つ以下になっていた場合
③カードも制限時間も残っている状態でも、競技終了後に台から離れた際に星が0個になった場合
※③で途中退場者が出た場合、その退場者のカードはこちらの手で台の中に投入する
───────────────────────
ざわ…ざわ…
「ようは星が寿命でカードが機会ってことだな」
「だね」
(金の使い途について説明はナシ、か)
ちょうど3分たった頃、モニターの表示が消えた
「説明は以上だ 健闘を祈る」
そう告げた糸師冴は壇を降り、ステージの袖に向かおうとする - 103二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 10:22:24
「おい、金はどうするんだよ!」
参加者の一人が声を上げる
「そうだ!この金はギャンブルにどうかかわるんだよ!?」
「負けた時の処遇についても詳しく説明しろ!」
「これじゃあ全然わかんねぇよ!」
他の参加者たちも次々に質問を飛ばす
糸師冴は歩みを止めて短く答える
「金は好きに使え 質問は認めないと言ったはずだ」
「なっ…」
「バカにしてんのか!?」
「俺らには知る権利があるだろうよ!」
「そうだ!」
参加者はワーワーと好き勝手にまくし立てている
「黙れバカ共」
糸師冴は心底うんざりしたように言った
「お前ら全員ガキか? 求めれば周りが右往左往して世話を焼いてくれるといつまで勘違いしてんだ 負けたときに行き着く先が気になる? ぬりぃんだよ お前らが今いるここが既にもう地獄の釜の底だと思え」
「お前らはシャバでの戦いに負け続けてここにいる ここでさらに負けたヤツがどうなるかだと? そんなどうしようもない人間の運命なんか俺が知ったことか いいか? お前たちがここでやるべきことはただ一つ『勝つこと』だ それ以外考えるな ひたすら勝つことだけを心に刻め」
今度こそ話しは終わりだと言わんばかりに糸師冴は踵を返し去っていった
それと同時にフロア内には大音量で音楽が流れ始める
それを見送った凪はようやく口を開いた
音楽がうるさいためレオのすぐ近くに寄った
「おーぼーだね」
「結局金と負けたときの処遇については何も答えずいっちまったな まあ普通に考えりゃ金は星やカードの取引に使うってことなんだろうが」
「あれじゃあ負けた後はとてもじゃないけど口にできる状態にはなりませんって言ってるようなもんじゃない?」
「まぁな けどアイツの言ってた通り負けた後の事考えてもしゃーねぇよ いくぞ凪、俺らの夢の始まりだ!」
レオは凪の肩に腕を回すと「おー!」というように拳を上に突き上げた - 104二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 20:18:39
説明すること多すぎて大変そう
- 105二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 01:34:09
☆
- 106二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 11:03:37
ほしゅ
- 107二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 20:25:02
競技開始と共にモニターにはタイマーが表示され、4時間からカウントダウンが始まった
タイマーの下には『G 412』『C 412』『P 412』の3つの表示がある
見つめていると『G 412』『C 411』『P 411』へ表示が切り替わった
「あれは使用されてないカードの数みたいだな 俺ら以外に102人いて、カードは絵柄につき4枚ずつだからそれぞれ412枚あった 今どこかで勝負が行われてカードが消費されたってことだ」
「いつのまに人数なんか数えてたの?」
「あの糸師ってやつが話してるときだ」
話に夢中になっているように見えたが、レオは案外冷静だったようだ
「ねぇレオ、俺早く終わる方法思い付いたよ」
「お? ヤル気満々じゃねーか! 聞かせてみろよ」
いつもやる気の無さそうな凪が自分から言い出したことが嬉しいらしく、レオは目を輝かせている
「まず俺らがここを出るときにプラスにしとかなきゃいけない金額は10分複利で1.5%を4時間だから430万くらいでしょ?
だから430万以上持ってて協力してくれそうなやつを探して、12回連続あいこになるように示し合わせてカードを出しあってカードを消費する」
「その後相手から430万借りる これで俺らは問題なく船を降りられる 協力者にはいくらか上乗せしてお金を返す約束をすればいい どう?」
「そう簡単に協力者なんて見つからねえだろ それに上乗せするって言ったところで信じて金貸すやつなんかいるか?」
「そこは御影の名前出して契約書かなんか作ればいいじゃん お金のやり取りは好きにしていいってアイツも説明で言ってたし紙とペンくらいなら貸してくれるでしょさすがに それに、ここに来てるやつらは借金チャラにすることが目的なんだからノーリスクで勝って帰れてプラスでいくらか貰えるなんて話があれば飛び付くでしょ」
この条件は借金で首が回らない他の参加者にとっては願ってもみない話のはずである
しかしレオは首を横に降った - 108二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:49:23
ほしゅ
- 109二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 05:27:59
このレスは削除されています
- 110二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 05:33:32
このレスは削除されています
- 111二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 06:36:09
このレスは削除されています
- 112二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 06:39:17
このレスは削除されています
- 113二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:00:11
このレスは削除されています
- 114二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:32:39
「どう思う?」
レオはそう切り出した
「んー、リピーターがいるって言うのはマジな話っぽくない?」
「俺もそう思う あいつが話しかけてきたのは開始から十分も経ってなかったし 話の内容もその場で出任せに話したにしちゃ筋が通ってたし話し方に淀みがなかった」
「だね 処遇の話は多少盛ってるような気がしたけど…」
「新薬の実験体に関しちゃありえねぇだろな 昭和の世の中ならともかく、このコンプライアンスにうるさい時代にそんな怪しげな人体実験が明るみになるリスクの方が大きいし まずないだろ」
「売春云々もアイツがいってた通りあの千切って人やレオならまだしも、他の参加者なんてみんな冴えない顔してるしなんか汚い感じのやつが多いし…需要と合ってなさすぎるでしょ」
「おまえ結構辛辣なのな」
笑いながらレオが言った
「まあ、金を集める目的なら女を集めた方が手っ取り早く金になるはずだしな 可能性としてはかなり低いだろ」
「やっぱタコ部屋送りなのかな? 現実的なところを考えると…」
やはり凪は負けたときの処遇が気になるようだ
「負けたときのことなんか気にすんなって! 意味ねぇだろ?」
「そうだけど…」
「そんなことよりあの船井って男」
「うん、一番最初に1000万借りてたヤツだよね」
「ああ、それにわざわざ俺たちを選んで声をかけてきたってことは…」
「まあそういうことだろね んでどうするの?」
凪はレオを伺う
こうして船井との話を一旦保留して凪と話をしたがったと言うことは何か考えがあってそれを伝えたいのだろうと検討をつけていた
「俺に案がある」
レオはニヤリと笑って話し始めた - 115二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 08:13:48
「なるほどね いいんじゃないの」
「だろ?」
「勝負は俺がやるよ 俺の方が表情とか読まれにくいだろうし」
「たはっ♪ おまえマジでいつも何考えてるかわからねーもんな」
おかしそうにレオが言う
「んじゃいくぞ」
「へーい」
モニターは『03:41:47』を示していた
先程話した場所からほとんど動いていない船井を見つけ、声をかける
「待たせてわりぃな! さっきの話よろしく頼むわ」
「おお、わかってくれたんやな! ほなさっそく始めよか 時間が惜しいわ」
「おう」
嬉しいそうに船井は笑い、近くの遊戯台へ二人を促した
凪が船井と対峙し、レオは凪の少し離れた隣に陣取る
「不正防止のためそちらから動かないようにお願いします」
立ち会いの黒服がレオにそう伝える
「はいはい じゃあ始めてくれ」
「ええか? 出す順番はグー、チョキ、パーや テキパキやれば数分で終わる じゃあいくで『チェック』」
「『チェック』」
カードを一枚かざし、発声する
そして順に『セット』『オープン』、出たカードは両方『グー』である
「よし、あいこや! 次はチョキやで」
使用したカードを投入口に入れながら船井がいう
「おっけー どんどんいこー」
その後も順調にあいこを重ね、残りのカードは3枚となった - 116二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 11:25:47
ほしゅ
- 117二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 14:41:19
(さて、次だね)
10回目の勝負が始まる
『チェック』『セット』『オープン』
今回は『グー』のあいこの番である
しかし船井がめくったカードから表れたのは『パー』であった
「すまん! 勘違いしてしもた! なんちゅーミスを…って えっ!?」
わざとらしく頭を抱えて間違いを詫びた船井だったが、凪の出したカードをみて驚愕の声をあげた
「あっ 俺も間違えちゃった ごめんね」
凪が出したのはなんと『チョキ』のカードだったのだ
「なんでや! 出すのは『グー』のはずやろ!?」
「だから間違えたんだってば とりあえず星ちょーだい 次俺負けるからさ それで帳尻あわせしようよ」
「そんなアホな話があるか!」
「…なんで? アンタも間違えたじゃん つーかアンタが間違えてなかったら俺が負けてたわけでしょ? なんでそんなキレてるわけ」
「そっ、それはそうやが…」
なおも船井は食い下がる
「星の移動さっさとしなくていいのか?」
「船井、さっさと渡せ」
レオが促すと黒服から船井に注意が飛ぶ
「そんなっ…! はぁークソっ!」
「はー、めんどくさ じゃあさ、こうしようよ」
渋る船井に凪は提案する - 118二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 14:42:56
「次の勝負、星を二つ賭けよう 別にいいよね?」
凪は黒服に訪ねる
「参加者同士の決めごとにこちらは干渉しない」
つまりオーケーということだ
「いいんだって そしたらアンタは星四つになるでしょ? それを俺に一つ売ってよ その分とあわせて船から出たらお金払うし 値段は…500万でどう? それをお詫び代にするからさ この人お金持ちだからそれくらい余裕で払えるし」
凪はレオを指し示す
「は? おまえ何勝手に…」
レオは少し困惑している
「ねえどう? 悪い話じゃないでしょ?」
「…ほんまにそんな金払えるんか?」
「もちろん ねえ、レオ?」
「まあそりゃ払えるけど」
「ほら、大丈夫だよ」
船井は揺れているようだ
予想外に金が手に入るかもしれないチャンスと信じてもよいのか疑う心の板挟みになっているらしい
レオはしばらく黙って凪を見ていたがおもむろに口を開いた
「俺の家は御影コーポレーションって会社やってんだ そんくらいの金はすぐに用意できる なんならここを出てすぐに渡してやるよ 身分の保証はここの運営のやつらに聞けばしてくれるだろ」
船井は驚愕の表情でレオをみた
「てかさ、星を一つこっちに渡すのは決定事項なわけでしょ それもらってここを離れてもいいんだよ? そうなったら困るのはアンタでしょ こっちは譲歩してあげてるんだからさっさと決めてよ」
「くっ…わかった それでええわ」
船井は決心したようで、ようやく星を一つ凪に手渡した - 119二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 15:22:42
「オッケー、じゃあ賭ける星を二つ台にだそう 後で話が違うってならないようにね 俺は次この『パー』をだすからアンタは『チョキ』をだしてね」
凪はカードの絵柄を船井に向け、そのまま台に伏せた
それを確認した船井は星を二つ台に出し、同じようにカードを伏せた
『チェック』『セット』『オープン』
船井が開いたカードは当然『チョキ』だった
凪が開いたカードは…
「なんでや…」
船井は愕然として呟いた
凪が開いたカードは『グー』だったのだ - 120二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 15:23:20
「じゃあ星二つもらうね」
凪はサッと手を伸ばし星を奪った
「お前…なんでや! カードは『パー』やったはずやろ!?」
「んー、別に? カードを二枚重ねて持ってて台に置いたときに下の『パー』を回収しただけだよ 初歩的な技じゃん 気付かなかったの?」
「イカサマやないか! こんなん認められるわけあるかい!」
「ダメなの?」
凪は隣の黒服に確認する
「勝負は規定通りに行われた 問題はない」
「だってさ」
ほらね?とでもいうように凪は船井に言った
「そんな…なんでや…なんで…」
船井は現実を受け入れられないようだった
「もとはと言えばさ、アンタが俺達をハメようとしてきたわけでしょ? なんで自分がハメられてそんなショック受けてんの?」
「なっ! 俺は別に」
「本当に12回あいこにして仲良く終わろうとしてたってか?
白々しいにも程があるな 現にアンタ10回目に『パー』を出してきただろ」
レオが横から口を挟む
「それは…」 - 121二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 16:15:46
「つーか最初からおかしいんだよ お前、話をするときわざわざ離れたところから俺達に近付いてきただろ」
「はじめから俺達に狙いをつけてたみたいにね」
「この話はまともに話が通じそうな人間なら誰に持ちかけてもよかったはずなのに、だ」
「明らかに浮いてる俺達にわざわざ声をかけにきた時点でなにか企みがあると思うよね」
レオと凪が交互に話す
実際、エスポワールに入船したときから凪とレオは浮きまくっていた
特にレオは服装やその雰囲気からこんな場所にいる人間ではないことを本能的に周りは感じ取っていたようで、ある種の敵意のような視線を向ける者も多くいたのだ
「俺はボーッとしてるように見えるし レオはずっとハイテンションで浮かれてるし こいつらなら騙しやすそうって思ったんじゃないの? それにプラスして『どうせならこういう奴らに痛い目をみせてやりたい』って気持ちもあったのかもね」
「くっ…」
図星だったのだろう、船井が身じろいだ
「それにお前、一番最初に1000万円借りてただろ? しかもリピーターって言うじゃん わざわざリスクを犯してこのクルーズに参加してるのにほとんど利益がない『あいこ作戦』を提案するのがおかしいんだよ」
「俺らがここを無事に出るための利息分の貸し付けもそっちから言い出したしねー しかも上乗せは50万でいいとかいってたけどそれだとアンタの分の利息払ったら殆ど手元に残らないでしょ」
「そもそも一人参加のやつに声かけりゃ一時でも借金の肩代わりなんてしなくてすむしな ともかくウマい話をして丸め込んでやろうって魂胆がミエミエなんだわ」
「…っ!」
矢継ぎ早に凪とレオから責め立てられ、船井は返す言葉もないようだった
しかもその言葉がほとんど当たっているから尚更だった - 122二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 17:32:34
「ま、そーゆーことで バイバイ船井」
凪はそう告げて台を離れようとするが船井が追い縋ってくる
「待ってくれや! 確かにあんたらをハメようとしたことは事実や、それは謝る けどオレは星を1個とったらそれで終わりにしようと思とった あんたらはやりすぎやろ!」
「そうかな?」
「オレはこの台を離れたら別室行き確定なんやぞ? 心が痛まへんのか? 一時はパートナーとして手を組もうとした仲やないか!」
「…それやめてくれない? 俺はレオのパートナーだし アンタとはなんの関係もないよ」
凪は冷たく告げる
「まあ確かにちょっとやり過ぎかもな?」
そう言ったレオの方を凪と船井は同時に見た
「そうやろ!? 」
「えー…」
渡りに船とばかりに目を輝かせる船井とは逆に凪は不満そうだ
「さすがに星0個でこのまま放り出すっていうのも夢見が悪くなりそうだしな 星を一個売ってやるよ そうだな…800万でどうだ?」
レオがニコニコと笑いながら船井に提案する
船井は一瞬虚をつかれたような顔をしたが、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした
「アホか! どんだけぼったくるつもりや 残りカード一枚と星一つに200万の金で生き残れるわけないやろうが!」
しかし何でもないことのようにレオは言う
「出来るだろ、お前なら」
「なっ!…なにを根拠にそんな…」
「さっきはああ言ったがお前の話のうまさには驚いたんだぜ? それこそ本当にお前の言う通りにしたら助かるんじゃないかって思うくらいにはな 行動にうつすスピードの早さや迷いのなさも評価できる まあ、今回は相手が悪かったけどな? とにかく、お前はこんなところで埋もれる男じゃねえって!」
明るくそういうレオに船井の怒りは萎んでしまったようだ
それどころか手放しに褒められて満更でもなさそうな顔をしている
(あーあ、レオはこういうところなんだよな)
凪はレオと船井のやり取りをぼんやりと眺めていた - 123二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 18:15:54
「いやしかし…さすがに800万はぼったくりや この後勝ち上がりが決まった人間は余剰分の星を主催者側に買い取ってもらえるが、それでも400万や その倍はふっかけすぎやと思わへんか?」
「ほーん? なら600万ならどうだ?」
「…500万なら出す、それ以上は無理や 500万で勘弁してくれ」
「しゃーねーな、じゃあそれでいいよ その代わりお前の知ってる情報を洗いざらい話せ もし嘘や故意に伝えなかった情報があったとわかったらお前がここを五体満足で出たとしてもその後無事ですむと思うなよ? 金さえありゃ何でも出来るのはよくわかってんだろ?」
「…わかった、それで頼むわ」
交渉は成立したようだ
初めに論外な大きな金額を提示した後、現実的な値段を提示してまるでお買い得に錯覚させるという手法はよく行われるが
レオはそれに加えて情報を引き出すことにまで成功したようだ
この場に置いては情報が何よりも大切なはずである、それこそ金には変えられないほどに…
通常状態の船井であればそんな簡単なことに気がつかないはずもないが、今は生きるか死ぬかの瀬戸際であるためそこまで頭が回らなくなっている
むしろレオの『おかげ』で生き残る道筋が出来たと感謝してすらいるかもしれない
さらに最後に脅し紛いの言葉を足して船井に変な気を起こさせないように釘を刺してまでいる
(これが御影流人心掌握術ってやつ?) - 124二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 19:26:20
あとはカードを一枚処理してしまえば終わりである
星は二つ余剰があるから適当なやつを捕まえて勝負をして負けたとしても問題はない
それで余った一つの星を400万で主催者に買い取ってもらい、船井から支払われる500万を足して900万円
もし勝負があいこになれば+400万、勝てば+800万円がさらに加わる
モニターの表示は『03:25:17』のため利息分を払っても十分すぎるほど利益がでるだろう
この時点で勝ち確ぬるゲーになったのだ
レオはまだ何かをしようとしているらしいが、今度こそ説得してさっさと船を降りようと内心で決意しながら凪はレオが船井から情報を伝えられるのを聞き流していた
「カード一枚じゃ心もとないんじゃないか? 一回しか勝負出来ねえし 他のやつからカードを買うにしても金がいるだろ? 俺らはもうカードいらねえからついでにこれもやるよ」
そういってレオは一枚手元に残った『パー』を差し出した
「ああ…まあそうやな、恩に着るわ」
船井は一瞬逡巡したようだがこの状態では手札が多い方が良いと判断したのだろう、素直に受け取った
これでレオは不要なカードまで処分してしまったらしい
ならばあとはもう下船するだけだ
「じゃあな! また船の外で会おうぜ!」
本当にそんな気があるのかないのかはさておき、レオはそう告げて船井と別れた
手元には星が五つと現金1500万円がある - 125二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 22:44:05
船井が去っていくのを見送り、凪はレオに話しかけた
「カードあげちゃったんだ」
「おう 俺ら結構注目されてたし、話に聞き耳立ててる奴らもいたろ? 警戒されて勝負拒否られてカード処理できずに脱落なんてことになったらバカらしいからな リスクを排除したんだよ」
「ふーん」
別にカードを渡したことに不満はなかった
むしろ渡してよかったと凪も考えてはいた
「ねぇレオ、なんでアイツのことあのまま落とさなかったの?」
「ん? そりゃ、こうした方がさらに金になる可能性があると思ったからだろ」
「あんなやつそのまま落とせばよかったのに…」
凪は結果的に船井を救ったことになったことが気に入らないのだ
「そもそもいきなり星二つかけるとかそれを買取りするとかお前が勝手に言い出したんじゃねーか 元々は星を一つ奪ったあと負けるふりしてもう一個奪って終わりって話だったろ? 何を言い出すのかと思ったぜ」
「けどレオも途中から御影の名前出したりして俺の話に乗ってきたじゃん」
「そりゃ、お前がわざわざあんなこと言い出すからにはなにかしら案があると思ったからだろ」
「信用してくれてんのね、俺のこと」
「当たり前だろ? おまえは俺の相棒(パートナー)なんだから」
何てことないような口調でレオが言う
それを聞いた凪は少し溜飲が下がったような気がした
船井と話し始めて以来、なんともいえない不快感をずっと抱えていたのだ - 126二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 23:40:20
「結局もとの予定通り星二つとさらに500万が手に入ったんだからいいだろ?」
「うーん…、まあそうだね…」
「そんなに船井が気に入らなかったのか?」
「だってアイツムカつくじゃん レオに変なこと言うし」
「あんなん俺は気にしてねぇって! もう忘れろよ 次の作戦にうつるぞ!」
「えー、もう帰ろうよ」
凪はもうやる気がひとつも残っていなかった
「帰るのはもったいねーって! お前船井の話聞いてなかったのか? ゲームが終わった後に参加者同士の星の売買タイムが設けられるってやつ!」
「聞いてたけどそれまで待ってたら結局利息が膨らむんだしそこまでプラスにできないでしょ」
「その間に他で稼げばいいだろ? 方法はいくらでもある 例えば…」
レオは上機嫌にペラペラといろんな案を語りだした
やれカードの売買仲介が~、裏情報の切り売りが~、果ては行き詰まっている参加者へのコンサルティングがどうのこうのなど
凪には到底理解できないビジネス的な目線でコツコツとお金を積みあげる案が山ほどあるらしい
(あー、めんどくさ)
凪は適当に相槌をうちながら話をきいた
こうなったらレオは止めても聞かない、それはこの半年でよく理解している
こういうときはむしろ…
「てかさ、レオ そんなチマチマしたお金の稼ぎ方で本当にいいわけ」
「は? なんだよ? リスクなしで確実に金稼げる方法を考えてるんじゃねーか」
「一番お金になるのってその星でしょ? ゲーム終わりに売買があるっていってたけど、そこで皆と同時に売り買いするより先手を売って高値で売る方がよくない? 大人数が参加すればその分相場の操作はしにくくなるわけだし」
「それはそうだけど…」
「それとも星を高値で売れる自信がないとか? 船井にも結局値切られてたもんね」
「は? んなわけねーし 見てろよ、売ってきてやるから!」
「はーい、がんばってね~」
レオはかなりの負けず嫌いなので焚き付けるとすぐにのってくれるのだ
これできっと星を売り切ってすぐに船を出ることができるはず…
凪はそばのソファーに腰を下ろしレオが戻ってくるのを待つことにした - 127二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:32:58
このレスは削除されています
- 128二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:34:42
「本当に二つとも800万円で売ってくるとはね」
「俺にかかりゃ余裕だっつの! 舐めんじゃねー」
あの後レオは数十分で星を2つとも800万円で他の参加者に売り付けてきたのだった
1500万円にプラスして合計3100万円が最終的な所持金だ
貸付金の1000万円とプレイホールにいた約1時間分の利息で100万円ほどを返済し、2000万円を持って下船することになっていた
今二人はプレイホールから出て下船待機室へと移っていた
他にも何人か同じ部屋で待機している
「あーあ、もっと稼げたと思うんだけどなぁ」
レオが未練がましく言う
「引き際も大事だって言うでしょ 俺たち目立ちすぎてたし、やりすぎると足元掬われることだってあるんだからさ いいやめ時だよ」
「俺ら二人揃ってて他のやつらに負けるとかありえねーって!」
「どっちにしろもう戻れないんだから諦めてよ」
「わーってるよ」
レオも本気で不満に思っているわけではなかった
ただ下船までの間暇なのでこうして雑談で時間を潰すしかないのだ - 129二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:35:42
「2千万って今までエスポワールで稼いだ金額で何番目くらいなんだろな」
「さあ…それはわかんないけど 船井は星の売買の相場は500~600万円だっていってたじゃん 800万円で二つ売った人はレオくらいでしょ 間違いなくナンバーワンだって」
「超優秀な俺にかかればこれくらい朝飯前よ♪」
レオはナンバーワンだと言われてご機嫌になったらしい
ちょうど船も埠頭に到着したようだ
まもなく下船のアナウンスが入るだろう
「お疲れさまでした 出口にご案内します」
黒服の先導で出口に向かう
行きと同じように入り組んだ道を通り、外に繋がる扉をくぐった
約4時間の長いのか短いのかよくわからないクルーズだった
もう来ることはないだろうが、終わってみればそれなりに面白かったように思う
埠頭に降り立ち、周りを見渡す
来たときととくに変わりがない景色だったが、久しぶりに動かない地面の上に降り立ったせいか少しフワフワとした感覚がする
レオは返却されたスマホでばぁやに迎えを頼んでいるようだった - 130二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:36:12
レオが電話を終えるのを待って凪は口を開いた
「ねえレオ、次は二人で何するの?」
「は? お前と俺はこれでお別れだろ?」
スマホから目線をあげたレオは予想外のことを言われたように目を丸くして答えた
凪からしてみればなぜレオがそんなことを言うのかわからなかった
「なんで? さいごまで一緒って約束したよね」
「さいごってエスポワールを出るときまでの話だろ?」
「…違うよ?」
「違うのか」
「うん」
どうやら約束の認識に齟齬があったらしい
「エスポワールは終わっちゃったけど、他に面白いこと一緒にやってくれなきゃ俺また博打と詐欺やっちゃうかもしれないよ それはダメなんでしょ?」
「お前なぁ…」
凪の言葉を聞いてレオは呆れたような顔をしたが、その後声を上げて笑い出した
一頻り笑い終えた後、凪の肩に腕を回す
「うしっ じゃあ次はサッカーでもやるか! おまえサッカーうめぇし!」
「その話めちゃくちゃ引っ張るよね やっぱりまだ怒ってるの? 今稼いだお金で弁償しようか?」
「怒ってねーって! 実際お前のトラップすごかったし! 世界一も目指せるって!」
「さすがにこの年齢からは無理でしょ」
ハイテンションのレオと対照的に凪は冷静に返答する
そうしているうちに白いリムジンが目の前に止まった
優秀な執事は主人を待たせることはしないらしい
「取り敢えず帰ってこれからのこと相談すっか!」
「いえすぼーす」
軽快に言葉を交わしながら二人でリムジンの後部座席に乗り込んだ
─終─ - 131二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 00:39:11
長くなりすぎたのでこの辺で終わります
他のキャラも出したかったんですが大体やられ役か運営側の悪い人になってしまうので出せませんでした
千切と閃堂がどうなったのかはご想像にお任せします
もしくは他の人よければ書いてください
愛空出すのは素で忘れてましたごめんなさい
保守してくれていた方、続き読みたいと言ってくれた方、ありがとうございました! - 132二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 10:55:35
職人さん乙!
楽しませてもらいました - 133二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 11:26:51
お疲れ様でした!
めちゃ面白かったです!凄いよ職人! - 134二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 11:32:52
読み応えあった!楽しみをありがとう
- 135二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 17:47:49
カイジちゃんとしらなかったけどこれだけでも読んで楽しかったよ
- 136二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 02:34:25
すごく楽しませてもらったよ
ありがとう