【SS注意・微ゴルジェン】大嫌いな日を楽しんで

  • 1二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:46:55

    雨が嫌いだ。暗くて、ジメジメして、気分が優れない。外を歩けば傘を指していても必ずどこかに水や泥が跳ねるし、雨水に濡れた場所はなぜか痒くなる。重バ場の練習をしようにも脚への負担が大きくそう多くはできないし、まして、今日のグラウンドは重バ場どころの騒ぎではない。不良バ場さえ通り越してもはや泥沼だ。混雑していて騒がしいプールやトレーニングルームに行くのも気が進まず、ルームメイトの誘いを断り、一人部屋で窓の外を眺めていた。大粒の雨が降りしきる休日。ジェンティルドンナは大きなため息をついた。少しでも気分を高めようと携帯で音楽をかけ、ローズマリーのハーブティーを淹れる。こんな日は、少し自分を甘やかしてもいいだろう。戸棚にしまっていた頂き物の焼き菓子に手を伸ばしたときだった。ふと、部屋の戸を叩く音がした。

    「はい……」
    「おう!邪魔すっぞー」
    「ふむ……悪くないな」

    急に入ってきた顔なじみ四人。咄嗟のことで止めることもできず、ただ見ているしかなかった。当然のように椅子に座るオルフェーヴルと、ベッドに腰掛けるゴールドシップ。一応遠慮しているつもりなのか、床に正座するヴィルシーナ。何だかんだ付き合いのある面々だ。こんなことをされても無下にはできず、立ち尽くすウインバリアシオンに椅子を勧め、ティーカップを追加で四つ取り出した。

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:47:53

    「おいジェンティル。客人に茶菓子の一つでも出さぬか」
    「なあ、豆あるか?」
    「良い香りですわね。ローズマリーかしら」

    いきなり押しかけておいて、なんとも図々しい。一応来客用の茶菓子はストックしてあるが、今出すのは何か癪に障る。しかし、あいにくコンビニ菓子のようなものは置いていない。悩んだ末、補食用の鬼胡桃を殻ごと皿に盛って出すことにした。これくらいの当てつけは許されるだろう。

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:48:20

    「ぐぬぬぬぬ……」
    「おい!食えねえじゃねえか!」
    「ふざけるのも大概にしろ」
    「ご不満なら帰って頂いて結構」
    「貴様……」

    ただでさえ雨で気分が落ち込んでいるのだ。本音を言えば、さっさと帰ってもらいたい。だがこの面々にそんな話が通じないことは、ジェンティルドンナが一番理解していた。別に彼女らのことが嫌いなわけではない。ただどうしても対戦機会が多く頻繁にぶつかる相手に、弱いところは見せたくない。ウマ娘として、ごく一般的な感情だ。とにかく悟られないよう、精一杯いつも通りを装う。

  • 4二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:48:43

    「ほんと、すいません!ジェンティルさんも誘おうって流れになったんっすけど、まさか部屋に押し入るとまでは……」
    「誘う?」
    「おう!こいつにな!」

    ゴールドシップがハンドバッグから取り出したのは、トランプと見るからにおどろおどろしい雰囲気のパッケージに包まれたチョコレート。これを賭けて、トランプで対決しようと言う訳だ。なんとも馬鹿馬鹿しい賭け事。けれど暇を持て余し、勝負ごとに飢えた兵たちを焚きつけるには充分だった。

    「いいでしょう。その勝負、受けて立ちますわ」

    勝負となっては、ジェンティルドンナも黙ってはいられない。ゴールドシップの手によって、トランプが五人に配られた。恨みっこなしのババ抜き一本勝負。戦いの火ぶたが切って落とされた。

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:49:12

    「………………」
    「どうぞ、お選びになって?」

    あろうことか、最後の二人まで残ってしまった。どうも顔に出やすいらしく、簡単に見抜かれてしまう。いつものように相手を煽ってはみるが、内心ものすごく焦っていた。ここで見抜かれてしまえば、あのチョコレートを口にする羽目になる。きっと無様な姿を晒してしまうだろう。そんなこと、プライドが許さない。だが、それは相手……ヴィルシーナも同じだった。平静を装ってはいるが、その額からは脂汗がにじみ出ている。

    「……こっち!」

    運命の一手。ヴィルシーナの選択は……

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:49:44

    「っ……!」
    「やっ……た……!」

    やってしまった。きっとヴィルシーナも、ジェンティルドンナの表情を見ている余裕はなかっただろう。運が彼女に向いた。それだけの話だ。意を決してチョコレートを口に入れる。噛んだ瞬間、口に強烈な辛みが広がる。目からは涙が溢れ、体中から汗が吹き出す。きっと酷い顔だ。絶対に見られたくない。ハーブティーの残りでどうにか流し込んで振り返った。床に置かれたチョコレートが目に入る。どうやら、まだ数があるらしい。

    「次は神経衰弱にしましょう」

    気付くとそんな言葉が口を突いていた。ババ抜きはどうしても顔に出てしまう。ならば、記憶力勝負の神経衰弱だ。これなら自信がある。何より、自分だけがこんな目に遭って終わるのは納得がいかない。

    「何度やっても同じだ。余が勝つ」
    「あたしだって、負けないっすよ!」
    「また罰ゲームになっても知りませんわよ?」
    「ええ。望むところですわ」

    五人はトランプを並べ始めた。二回戦をすることに意義を唱える者はいない。

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:51:41

    「ん。やっぱおめーはその顔だよ」

    ゴールドシップの言葉。その意味を理解するのに、時間はかからなかった。少し考えれば分かることだった。腐れ縁の彼女には、簡単に見抜かれるに決まっている。周囲からは理解不能だと言われる彼女の言動を、自分が理解できるように。その後は夕暮れまで、時間を忘れてトランプ勝負に明け暮れた。いつの間にか雨は上がり、眩しすぎるほどの夕日が、窓から差し込んでくる。大嫌いで、くだらなくて、大好きな。そんな休日。

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:52:14

    お わ り
    雨の話って意外と難しい。

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/23(日) 23:58:11

    ほんのり香るゴルジェンいいね

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/24(月) 00:08:49

    ありがとう……ありがとう……

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