魔法少女を集めてバトロワするスレ5

  • 1◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 17:38:09

    皆さんから魔法少女を集めてデスゲームに参加させるスレ(5スレ目)です。(本編は1が書きます)


    キャラクターの生死などはダイスで決めますが、安価はあまり取らない(アイデアをお願いすることはちょくちょくあります)ので、そこだけご了承いただけると幸いです。


    詳細はこちらから


    https://w.atwiki.jp/mahousyouzyobr/pages/1.html

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:40:16

    おかえり、待ってた

  • 3◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 17:40:42
  • 4二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:40:56

    このレスは削除されています

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:41:14

    このレスは削除されています

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:42:32

    このレスは削除されています

  • 7◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 17:44:12

    前スレは中断してしまい申し訳ありません

    おかげさまで仕事がひと段落ついたので、続きから再開します

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:46:41

    うおおお!復活!まってた!!

  • 9◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 17:47:24

    投下します

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 17:47:47

    バーストハートがブレイズドラゴンと戦って真っ二つにされたところまでは覚えてる
    この期に読み返してくるか…

  • 11◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 17:56:03

     好機を逃した、とハニーハントは理解した。

     えっちであれば神様だって殺してみせる……ハニーハントの魔法は、「対格上性能」において参加者でも随一だ。

     ブレイズドラゴンを真にえっちだと思うことが出来れば、彼我の戦力差、ブレイズドラゴンのドラゴンをベースとしたフィジカル、隔絶した戦闘経験——それら全てを無視して、ブレイズドラゴンをバラバラにすることが出来た。

     だが、ハニーハントは真面目が過ぎた。
     ブレイズドラゴンの鍛え上げられた半裸に対し、「えっち」ではなく「ビューティフォー……」と尊敬さえ覚えてしまった。

     また、「解毒のために服を脱ぐ」という行為を「えっち」ではなく「治療」だと考えられる良識も、今回は足を引っ張ってしまった。

  • 12◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 18:02:36

     結果として、ブレイズドラゴンを即死させるには至らなかった。

     致命傷、ではある。

     遠からず、ブレイズドラゴンは死ぬ。

     ハニーハントとブレイズドラゴンの戦力差を考えれば、それは紛れもなく下剋上であり、ジャイアントキリングであり、偉業である。

     だが、ハニーハントは勇者志望ではない。
     
     女王のために刃を振るう兵士であり、ブレイズドラゴンは彼女にとって、排除すべき強敵Aに過ぎない。

     クィーンを生存させるための障害は、まだまだ多い。

     ここで死ぬわけにはいかない。

    「——っ!」

     ハニーハントは幸運だった。

     追撃するか、撤退するか。
     咄嗟の二択で、正解を引き当てた。
     冷静な判断によるものではない。無我夢中の中で、偶然にも選んだ一手。

  • 13◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 18:10:58

     全力で、後ろに下がる。
     魔法少女の脚力を生かし、反動でアスファルトに罅が入るほどのバックステップ。
     
     ハニーハントが咄嗟に選んだのは、撤退だった。
     致命傷は与えている。もはやこの勝負はハニーハントの勝ちであり、トドメの一撃で幕を下ろせる。
     そんな風に考えることだって出来た。

     そして、そんな風に考えていれば

     轟ッ!

     ハニーハントが今この瞬間まで立っていた場所が、——爆散した。
     地雷でも埋められていたかのように、アスファルトが粉々に砕け散り、コンクリートが混じった土煙が、高く立ち上る。

     衝撃波じみた爆風がハニーハントを直撃する。
     熱と風に翻弄されながら、ハニーハントは、視界が一気に開けたことに気づいた。

     割れたホッケーマスクが、風に煽られて飛んでいく。

  • 14◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 18:18:02

     素顔(変身態ではあるが)を晒したハニーハントは、数メートルほど吹き飛ばされ、ショーウィンドウのガラスに叩き込まれた。

     ガラス片と共にブティックの床に転がり、ハニーハントは苦痛に呻く。

     技を当てられた、わけではない。

     ブレイズドラゴンが放ったのは踵落としだ。

     それを咄嗟に躱したハニーハントは——その余波で、仮面を割られ、吹き飛ばされ、ダメージに苦しめられている。

     致命傷を、与えたはずである。

     だが、心臓に銃弾を浴びた羆は、数分間の活動を可能とする。

     そして、その状態であっても、人間が素手で羆に勝つことはできない。

     致命傷を与えた——それは、ハニーハントの生存を、何ら約束しない。

  • 15◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 18:25:05

    「化物め……!」

     ハニーハントは毒づき、この地で新たに獲得した魔法——自らの分身体を生み出す魔法を使い、ブレイズドラゴンにけしかけた。

     勝つための魔法ではない。
     少しでも逃げる確率を上げるための魔法である。

     ブレイズドラゴンが死亡するまでハニーハントが生存している——そんな『奇跡』を掴むための手段である。

     雀蜂に群がる蜜蜂のように、分身体はブレイズドラゴンに向かっていく。

    「邪魔じゃ」

     ブレイズドラゴンは、がばりと口を開いた。

     そして、『気を吐く』。

     威勢のいい言葉を吐いたり、やる気のある姿を見せること。

     それは、人間の話であり、ブレイズドラゴンにとっての『気を吐く』とは。

     ——口内から発射される、気を媒介とした火炎放射である。

  • 16◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:19:39

    「っ、あああああああああああああああああ!!」

     ハニーハントは、チェーンソーを投げ捨てた。
     少しでも身軽になるために、少しでも遠くに逃れるために。

     ブレイズドラゴンに群がっていた分身体は、一瞬で火達磨になる。

     三階建てのブティックは炎に包まれ、火柱と化す。

    「カッカッカ……」

     ブレイズドラゴンは高らかに笑った。

     龍は、依然健在である。

  • 17◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:25:41

    「嘘だろ……」

     ナイトメア★メリィの脳裏に、「絶望」の文字が過った。

     ブレイズドラゴンに弱点は無い——故に、その強者としての自負が、弱点である。
     メリィの策は、実のところ失敗していた。

     マギカロックを使った拘束は、首ごと切断という荒業で突破されてしまい。
     その後の毒攻撃(恐らくプアの魔法によるものと推測できるが)も、ハニーハントの一撃も、メリィの関与するところではない。

     メリィはあくまでインフルエンサーであり、情報強者であり——軍師や、策士ではない。
     軽犯罪は犯していても、荒事の経験など、殆どない。

     へけっ、と強がる余裕は、もう無かった。

  • 18◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:28:24

     殺される、とメリィは気づく。
     相手はゲームの参加者であり、傭兵であり、米国とも協力関係を結ぶ強者であり——こちらに殺意を抱いている。
     このまま順当に行けば、メリィは死ぬ。

     猫耳の魔法少女のように、バーストハートのように。
     ——魔法少女部部長・アルセーヌのように。

  • 19◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:37:38



     いつの日のことだったか。
     部室で、メリィはSNSを更新していた。
     今季の覇権と目されているアニメのコスプレを撮り、自身のホームページにアップ。
     寄せられる賞賛の声で自尊心を見たし、「イナゴ乙」「にわか乙」と現れたアンチとレスバを開始する。
     魔法少女として強化されたフィジカルは、人知を超えた高速タイピングを実現させ、意気もつかせぬ怒涛の長文レスをアンチにぶつけ圧倒的物量と速度の波状攻撃で相手を叩きのめす。

    「メリィが本気出したらお前のアカウントハッキングすることだって出来るんだからな、へけっ!」

     額に青筋を浮かべながら、メリィはリズミカルにキーボードを叩く。
     

  • 20◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:43:16

    「やめておきたまえ」

     と、その肩を叩いたのは、魔法少女部部長・アルセーヌであった。

    「貴重な青春を、空虚な喧嘩で浪費するなんて、もったいないと思わないかい?」

    「どいて部長、そいつ殺せないっ!」

    「落ち着きなよ、怒りで我を忘れるのは君の悪い癖だ」

     メリィは渋々キーボードから指を話す。

    「で、何の用なのだ? メリィは聖戦で忙しいのだ、へけっ」

    「用というほどのことではないんだけれど、メリィに依頼したいことがあってね」

    「依頼?」

     

  • 21◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 19:51:57

    「うん、風の噂で面白い話を耳にしてね。
     とある聖遺物の話なんだ」

    「聖遺物? ロンギヌスとか聖骸布みたいな奴のことなのだ?」

     部長・アルセーヌはそういうオカルトめいた話が好きだ。
     本当に好きなのか、あるいは「怪盗系魔法少女」というロールプレイングに過ぎないのか、メリィには分からない。
     特に、そこを探ろうとも思わなかった。

    「ああ、とある聖遺物が——魔法少女に埋め込まれた、という噂さ」

    「埋め込まれた? 改造手術でもされたってこと?」

     思っていたよりきな臭い話に、メリィは眉を顰めた。
     ハッキングなど軽犯罪はいくつも冒しているメリィだが、組織的な巨悪と戦ったこともなく、戦う気も無い。

     魔法少女に聖遺物を埋め込む——どう解釈しても猟奇的で、メリィの立ち入れる領域では無いように感じた。

  • 22◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:15:12

    「もしかして、部長はそれを盗もうとしているのだ?」

    「……手に入るなら、それに越したことはないかな」

    「危ない橋は渡りたくないのだ」

    「大丈夫、ちょっと調べてくれるだけでいいからさ」

     魔法少女に埋め込まれた聖遺物。
     その後。1時間程かけてネットの海をダイブしたメリィは

    「調べた結果……よくわかりませんでした。いかかでしたか?」

     と結果をアルセーヌに伝え、再びレスバへと戻って行った。

     何てことのない日常。
     魔法少女部の、活動の一ページ。

     今はもう居ない部長との、思い出。

  • 23◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:21:30



     メリィの足は、自然と其処へ向かって行った。
     勝算があるわけではない。
     確信も無ければ、考察すら無い。

     ただ、死ぬまで無為に過ごすことは御免だと、そういう思いで足を動かす。
     ブレイズドラゴンへ向かうわけではない。
     メリィの攻撃では、ブレイズドラゴンに痛みを与えることすら出来ないだろう。

     ハニーハントや、クリックベイトと合流するわけではない。
     今更メリィが加勢したところで、結果は変わらない。
     預けられる策も無ければ、支援できる情報も無い。

     ふらふらと、メリィは歩みを進める。
     美少女然とした体躯には傷一つ無いが、心はとっくに折れている。

     導かれるように、メリィは其処へと足を進め、辿り着いた。

     少女が、死んでいる。

  • 24◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:26:37

     バーストハート。本名、桐生ヨシネ。一子相伝の拳法を身につけた、無頼の魔法少女。

     死亡時に変身を強制解除されたためか、その死体は粒子化することなく、残っていた。

     ——死んでいる。

     素人が見ても、一目で死んでいると分かる。
     何しろ、上半身と下半身が千切れかかっている。
     まき散らされた血と臓物は放射状に広がり、噎せ返るような臭いを漂わせていた。

     普段のメリィなら悲鳴を挙げるような惨状。

  • 25◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:32:31

     メリィは——その場に跪いた。

    「助けてください……」

     平和に生きていた少女が、突如殺し合いに放り込まれた。
     恐怖を懸命に押し殺し、自身が魔法少女の中でも突出して弱いことから目を背け、自身の魔法に縋り、必死に余裕を保とうとしていた。

     たった六時間で、超然としていた部長が死んだと知ったとき、メリィは叫びそうになった。しかし、仲間の前でそういう素振りは見せず、さも自分がこのゲームのキーパーソンであるかのように振る舞い、懸命に自らのキャラクター性を保ってきた。

     ブレイズドラゴンに全てを壊され、メリィも守っていた虚飾は剥がされた。
     死の恐怖に怯える、どこまでもちっぽけな、14歳の少年が、そこにはいた。
     

  • 26二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 21:34:02

    うわーこれテンガイが欲しがってたのはロンギヌスか

  • 27◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:44:45

     メリィは、神に縋った。

    「助けて、助けてバーストハート……部長……」

     もしかしたら、とっくに気が触れていたのかもしれない。
     今は亡き部長の言葉を断片的にリフレインさせながら、メリィは懸命に、バーストハートの遺体に祈る。

     自分の行動にどんな意味があるのか。メリィ本人ですら、まるで理解できていない。
     ただ、涙を流しながら、一心に祈る。

    「助けてください……誰か、助けて……」

     救いの手は、来ない。
     ブレイズドラゴンを御せる魔法少女は、この周囲には存在しない。
     どれだけメリィが祈っても、死体は何も返さない。

    「このままじゃ……僕も……みんな、殺されちゃう……」

     既に、二人死んでいる。
     動く様子を見せないプアも、炎に包まれたハニーハントも、時間の問題だろう。
     姿を消したクリックベイトも、メリィも、ブレイズドラゴンの手にかかれば、いつでも命の火を吹き消されてしまう。

     ——今この瞬間にも、ブレイズドラゴンが僅かにでもその気になれば、メリィは死ぬ。問答無用で、碌に抵抗も出来ずに死ぬ。

    「誰か守って……ブレイズドラゴンから、僕らを……」

     ——上腕に、痛みが走った。

     掴んでいる。
     バーストハートの腕が、メリィを掴んでいる。

  • 28◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:51:29

    「ひっ——」

     恐怖でメリィはのけ反ろうとし、しかし腕を掴まれているため、腰を抜かすことしかできなかった。

     虚空を見つめていた死相が、両目を見開き、メリィを凝視している。

    「し、死んだはずじゃ……」

     バーストハートは、確かに死んだはずである。例え不死身の魔法少女といえど、変身を解除されてしまえば、死ぬしかない。
     ブレイズドラゴンの技は、そういう技であった。
     理不尽を、更なる理不尽で蹂躙する、そういう奥義であった。
     故に、バーストハートの死は、揺らぐことは無い。

     が、現に今、バーストハートはメリィの腕を掴み、強い意思が籠った瞳で、メリィを見据えている。

     そして、死体であったはずの口が、ゆっくりと動いた。

    「——今、『ドラゴン』って言った?」

  • 29◆xaazwm17IRZa24/06/25(火) 21:52:38

    本日の投下はここまでとさせていただきます……

    一か月近く放置して申し訳なかったです
    これから改めて、よろしくお願いします

  • 30二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 21:56:43

    続きも楽しみにしています!引き続き宜しくお願いします!!
    ロンギヌスがあったとしてもブレイズドラゴンに対抗できるのか…?

  • 31二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 21:57:28


    無事再開されてよかった

  • 32二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 21:59:26

    ネタバレになるかもしらんけど、質問したいんだけどウェンディゴよりもネコサンダーとバーストハートの方が生存値が高かったけど、同一シーン内で生存値高い方が死んで低い方が生き残ることがあるの?

  • 33二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:08:27

    バーストハートちゃんもこの後活躍して死ぬ可能性あるからどうだろうね〜

  • 34二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:14:40

    >>32

    「強者側がよほど低かったり弱者側が極端に高かったりしなければ弱者側の出目が高くても普通に死ぬよ、出目が60や70でも死ぬときは死ぬから覚悟してね(ガバ要約)」みたいなこと書いてあったからどちらもありえそうね

    ともかくスレ主さんを信じて待とう

    この後どうなるかわからないハラハラ感も次の更新まで待ついいスパイスになるからね

  • 35二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:16:47

    このレスは削除されています

  • 36二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:22:40

    このレスは削除されています

  • 37二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:22:46

    確定生存と確定死亡以外は高いと死ににくくて低いと死にやすいけど話の都合とか展開次第で変わるみたいなこと言ってなかったっけ

  • 38二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:28:26

    前回ロワでも幸運値が1桁高い子が展開的に死んだりもしたし断言はできないが…あまりないとは思うよ

  • 39二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:33:51

    まあ出目だけで生死が決まるわけでもないし(魔法相性とかアイテム運とか時の運とかもあるからね)、ネタバレっぽくなるのを嫌う人もいるからこのエピソードが終わったあとに改めて質問投げたほうがいいんじゃないかなって個人的には思ったりしてる
    あくまで個人の意見だけど

  • 40二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:44:37

    乙です、おかえりなさい&待ってました!!!!

  • 41二次元好きの匿名さん24/06/25(火) 22:52:21

    執筆乙です!
    無事帰ってきてくれてよかった…これからも楽しみにしてます!

  • 42二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 00:09:41

    アルセーヌも槍を回収したがってるのか…生前どんな奴だったのか俄然気になってくるな

  • 43二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 07:45:31

    一ヶ月経ったはずなのに前スレが昨日の事のように感じる。不思議

  • 44二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 12:08:33

    そうか一ヶ月ぶりか…

  • 45二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 18:33:07

    ほしゅ
    だいぶ先になるだろうけどニャルセーヌの再登場も楽しみだな…天上に至って変装能力が極まるとどんな風に強くなるのか

  • 46二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 22:57:05

    カパっと開くブレイズドラゴン毎回アゴが外れてそう(ナッパ感)

  • 47二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 02:53:59

    今夜はない感じかな…

  • 48二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 02:58:12

    >>42

    生前といえばアロンダイトの魔法で武器化されたであろう「魔法少女ロンギヌス」の詳細も気になってるのよね

  • 49二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 07:50:57

    情報で身を取り繕っていたメリィが最後にすることが「祈り」なの好き…

  • 50二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 12:22:23

    このレスは削除されています

  • 51二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 15:06:58

    やたら過剰反応するのもアレだと思うが
    前々から見てて鬱陶しいし 合わないなら余所行った方がいいよ

  • 52二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 15:20:39

    このレスは削除されています

  • 53二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 18:57:54

    再開以来誰一人言ってないタフ語録を幻視してるやばい人おるね
    ともあれ主には気にせず書きたい展開を書いてほしいとだけ

  • 54二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 23:36:24

    即死じゃない限り倒せないブレイズドラゴンの厄介な桁外れ生命力
    大抵の攻撃で倒せなくなったのでハニーハントの逃したチャンスはデカい…がこちらもまた
    誘発されて動き出した心臓がまた一つ…

  • 55二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 08:19:09

    ここ最近は忙しい人が多かったらしいしぼちぼち調子が戻ってきたねぇ

  • 56二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 08:19:26

  • 57二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 16:13:53

    物理面では勝てないけどハニハンの概念系が効いたから攻略するならそっち方面か…?

  • 58◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 20:29:05

    投下します

  • 59二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 20:36:19

    きたわね

  • 60◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 20:37:47

    「…………?」

     ブレイズドラゴンは、空を飛んでいた。

     繁華街のビルを見下ろしながら、ブレイズドラゴンは疑問を覚える。

    (……儂、いつから飛んどった?)

     『気が飛ぶ』……燃費は悪いがブレイズドラゴンは一時的に飛行能力を獲得することが出来る。自分が空中に居ること自体は、そうおかしなことではない。

     問題は、ブレイズドラゴンには「飛んだ」記憶が無いこと。

     ハニーハントが逃げ込んだ建物を燃やし尽くした所までは覚えている。

     さて、次はどうするかと思案し——空に居た。

  • 61◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 20:45:47

     おかしい。

     記憶が断絶している。

     もしや召されたのかとも考えたが、肉体はちゃんとある。

     ——衝撃と痛みが、全身に広がっている。

    (これは……)

     薄々、気づく。
     自分は飛んでいるのではない。

     飛ばされているのだ。
     
     何者かに——殴り飛ばされた。

     殴り飛ばされた衝撃で、数百m上空まで打ち上げられた。

    (……誰かわからんが、面白いのう)

     致命傷を負っているとはいえ、自分に一撃を与え、一時的に意識を飛ばすとは。
     ティターニアに匹敵する強敵の予感。

    (カカカ……地上に戻り、第二ラウンドと行こうかの)

  • 62◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 20:49:42

     殴り飛ばした相手は、勝ったと勘違いしているかもしれない。

     ダメージは大きいが、未だブレイズドラゴンは健在だ。まだまだ、まだまだまだ戦闘は可能である。

     戦いはこれからだ。
     この攻撃を何度も浴びていては身が持たないが、だからこそ戦闘のしがいがある。

     ブレイズドラゴンは空中で姿勢を制御し、下手人を探す。
     果たして、新たなる強敵はどんな魔法少女なのか。

  • 63◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:02:11

    「おい」

     と、声は——上から聞こえた。

     苛々していることが声色だけで分かる、年若い少女の声。

     ブレイズドラゴンは、見上げた。
     天の上に、少女が浮いている。

    「桐生の娘……」

     エジプト衣装に身を包んだ、猫をモチーフとした魔法少女。
     桐生ヨシネ、魔法少女名『バーストハート』。
     今しがたブレイズドラゴンが殺したはずの、死者。

    (違う……)

     姿かたちは同じでも、これは、『バーストハート』ではない。

    「誰じゃ貴様……」

    「——魔法少女」

     それ以降の名乗りは無かった。
     そんなものは無用だとでも言うように、バーストハートと同じ姿の魔法少女は拳を握り、無造作に振り下ろす。 

     

  • 64◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:08:45

     あまりにも稚拙。
     格闘技に熟達していたバーストハートと比較して、あまりにも未熟な動作。
     素人丸出しの、児戯のようなパンチ。
     当然、ブレイズドラゴンは難なく躱す。
     空中で身動きが取れないという常識は、彼女には通用しない。
     否、もしブレイズドラゴンが飛行能力を有していなくても、単純な体捌きでこの攻撃は回避できるだろう。

     それでもブレイズドラゴンが大袈裟に回避したのは、致命傷を負って弱っていたからではなく、拳が纏う気配に奇妙な違和感があったからだ。

     その違和感を言語化する前に、ブレイズドラゴンは本能に従って回避した。

     当然のように、拳は空を切る。

  • 65◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:26:33

     ——衝撃が、世界を揺らした。
     
     ビルや建物の群れ、道路や駐車場、鮮やかな看板。
     繁華街を構成していた数多の要素。
     それらが——消滅する。

     謎の少女が打ち込んだ拳の真下——およそ直径100mの範囲が、一瞬で、粉微塵に破壊される。

     巨大なクレーターが形成され、打ち上げられた残骸が、雨の様に地上に降り注ぐ。

    (何じゃ、その威力は……)

     ブレイズドラゴンは戦慄した。
     もし、受けていれば、ブレイズドラゴンのドラゴン由来の頑強さをもってしても、一撃で終わっていた。
     そう理解させる程の威力。

     ティターニアの全力ストラッシュ、あるいは天城千郷の渾身の一撃に等しい大破壊を前にして、しかし、ブレイズドラゴンは不敵に笑った。

    (大した魔法じゃ……しかし未熟なり!)

  • 66◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:42:51

     どれだけ強力な魔法があっても、それだけでは片手落ち。
     事実、一撃を放った少女は隙だらけであり、ブレイズドラゴンは容赦なく攻撃を当てることが出来る。

    (この後はティターニアも控えておる、さっさと終わらせようぞ)

    「『絶招』」

     相手の物理攻撃耐性を無効化し、ブレイズドラゴンの一撃をそのまま通す、ブレイズドラゴンの必殺技。

     攻防もなく、駆け引きもなく、あっさりと、ブレイズドラゴンの拳は、少女の心臓へと突き刺さる。

     既にバーストハートはこの技で殺したはずである。
     何故生きているのか。

    (死体の皮を被る魔法、死体を使役する魔法、他者の姿を真似る魔法……いくらでも仮説が思いつくわ。大破壊の魔法と死体に干渉する魔法、どちらかが支給されたアイテム由来ならば、納得もできる)

    (威力は凄いが、技術が未熟。他の魔法少女と連携を取っているならともかく、単体ではあまり大したことのない魔法少女であったのう)

     落胆と共に放たれた一撃は、少女を一撃で変身解除させ、死体を落下させ——。

    「……何じゃと?」

     
     

     
     

  • 67二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 21:42:54

    当たらなければどうということはない

  • 68◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:52:08

     何も起こらない。
     物理耐性を無効化している以上、例えこの少女が防御系の魔法を有していようと、貫通するはずである。
     何も起こらないことなど、ありえない。

     技の不発? 失敗? ブレイズドラゴンに限ってそんなミスは無い。
     無敵の魔法? ——それを突破する魔法である。

     しかし、現に少女は一切の痛みを感じていないように見える。

     エジプト衣装が解除される気配も無い。

     原理は不明だが——ブレイズドラゴンの魔法は、少女に一切通用していない。

     いくら龍が天を目指しても、その外側に辿り着くことは無いように。
     
    「ドラゴンがのさばることは……」

     再び少女が拳を握る。

    「魔法少女が許さないよ」

     二度目の大破壊が、繁華街を襲った。

  • 69◆xaazwm17IRZa24/06/28(金) 21:52:26

    投下を終了します

  • 70二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 22:02:54

    暴力には圧倒的破壊力で対抗。これが弱肉強食か…

  • 71二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 22:09:15

    ヨシネちゃん、頑張って欲しいけど覚醒したしここでブレイズドラゴン倒して終わっちゃいそうな気もする
    ブラックブレイドという前例があるし

  • 72二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 22:39:55

    あーそういうことか
    確かにドラゴンを狩るのは"魔法少女"の役目だわ

  • 73二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 02:41:01

    このレスは削除されています

  • 74二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 09:42:05

    >>71

    残り火、全て燃やし尽くしてる感じが…ね…

  • 75二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 12:45:04

    このスレはもはや覚醒が死亡フラグなんだな…

  • 76二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 13:07:44

    ティターニアvsブレイズドラゴンも見たかったけど因縁の相手が多すぎて先生が過労死してしまう…

  • 77二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 14:22:40

    桐生ヨシネちゃん、タフかと思ったら名前がドラゴン殺しの伏線だったの面白すぎるな

  • 78二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 20:06:35

    >>71

    そういえばブラックブレイドもバーストハートもそうだけどバトロワ参加者で天上に至った魔法少女たちはみんな(n=2)武術交流会出身なんだよね

    これは遺されたハイエンドにもなにかあると見た(まだヨシネの死が確定したわけじゃないけど)

  • 79二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 00:54:06

    このレスは削除されています

  • 80二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 07:55:05

    保守

  • 81二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 13:55:00

    因縁の相手が多い中、ダークホースに持っていかれる展開も好きなんだ

  • 82◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:03:37

    投下します

  • 83◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:10:40

     クリックベイトは経験豊富な魔法少女だ。顔が広く、スピードランサーとコンビを組んで、魔法の国のあちこちを冒険したこともある。

     そんな彼女でも、目の前で起きている戦いには立ち尽くすしかなかった。

     繁華街は消失している。

     建物も道路も信号機も車も看板も、何もかもが瓦礫の山と化している。
     空中で二人の魔法少女が戦い、一秒にも満たない攻防で、これだけの被害が出る。

     それは、クリックベイトの常識を超越した出来事だった。
     スピードランサーも、今しがた戦っていたブレイズドラゴンも、あのティターニアにしたって、ここまで出鱈目ではないはずだ。

    「いったい、何が起こっているんだ……」

  • 84◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:17:31

     ブレイズドラゴンの隙を突くため身を隠していたが、もはやそんなことは言っていられない。
     戦闘の余波で死にかねない。
     隠れる場所がもう少しズレていれば今頃建物と一緒に消えていた。

     まるで、魔法少女の戦いに巻き込まれた一般人の気分だった。

    「あれは、バーストハート……なのか?」

     姿かたちは確かにバーストハートそのものだ。
     クリックベイトが知らないだけで、バーストハートはこれ程の実力者だったのか。
     あるいは、何らかの条件を揃えることで発動できる奥の手……なのだろうか。

    「違う……」

     本気を出すには遅すぎる。
     奥の手を切るにしても、タイミングが妙だ。

     それに、魔法少女と呼ぶには奇妙な空気を、バーストハートは纏っていた。
     クリックベイトたちとは存在を逸するような、そんな奇妙な雰囲気。

  • 85◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:22:52

     件のバーストハートが、地上に降りてくる。
     その体にも、衣装にも、傷ひとつ、汚れひとつない。
     バーストハートは、クリックベイトを視界にも居れずに、平らになった繁華街を一瞥する。

     そして、指をぱちんと鳴らした。

     ——奇跡が起きる。

     瓦礫と化した繁華街は、再生してゆく。
     時間を巻き戻すかのように、建物はもとの形へ、道路も車も看板も、あるべき姿に戻っていく。

    (……魔法少女じゃない)

  • 86◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:28:48

     クリックベイトは、確信する。
     彼女は、魔法少女ではない。もっと別の、もっと上位の存在だ。
     あまりにも——規格外過ぎる。
     正しく——神。

     クリックベイトの心に、希望が浮かんだ。
     夢物語だ。この世の摂理を捻じ曲げる行為だ。しかし、彼女なら。

    「な、なぁ……」

     声をかけた後で、彼女の名が分からないことに気づいた。
     バーストハート、でいいのだろうか。
     それとも、別の名を持つのか。

  • 87◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:33:40

     クリックベイトの言葉を無視するかのようにバーストハートはきょろきょろと周囲を窺っている。
     眉間に皺を寄せ、目は戦意と怒りで滾っている。
     野良猫のような雰囲気のかつてのバーストハートとは、やはり纏う雰囲気が違う。

    「君に頼みがあるんだけど」

    「ドラゴン……どこに隠れた?」

     クリックベイトの言葉は、この少女に届いていない。
     存在の格が違い過ぎるのか。
     何らかの制約なのか。
     あるいは、怒りで周囲の声が届いていないのか。

  • 88◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:42:34

    「……向こうで私の友達が死んでいるんだ。君なら、治せるんじゃないか?
     頼む、助けてくれ……」

     クリックベイトの痛切な願いも、少女には届かない。

    「隠れた……逃げたか? 臆病者め、醜い蜥蜴め、絶対に逃がさない……」

     ぶつぶつと、呪詛のように恨み言を垂れる。
     常軌を逸しているのは、魔法の規模だけではないのか。

    「君なら、出来るんだろ!?
     自分を治したみたいに、街を治したみたいに、ネコサンダーを治すことだってできるはずだろ!?」

     クリックベイトらしからぬ、悲鳴にも似た言葉を、少女は黙殺した。
     届いていない。
     どれだけ祈っても、願っても、少女には届かない。
     彼女は決して、人の願いを叶える慈愛なる神ではないのだから。

  • 89◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:50:54

    「頼む……友達なんだ……僕の目の前であいつに、ブレイズドラゴンにやられて……」

    「今、ドラゴンにやられたって言った?」

    「え?」

     唐突に反応を返され、クリックベイトは面食らう。
     バーストハートは、初めてクリックベイトの存在に気づいたかのように、彼女を凝視している。
     緊張のあまり、クリックベイトは唾を呑み込んだ。

    「ドラゴンにやられたのは誰?」

    「私の友達のネコサンダー、魔法少女だ。そこに倒れてる……」

     クリックベイトが指差した方向に、バーストハートは視線を向ける。

    「ドラゴンめ……」

     ぱちり、と再びバーストハートは指を鳴らした。

     街を治したときと同じように。

     いてもたってもいられず、クリックベイトは走り出した。
     人の形を保っていなかったネコサンダーの死体のもとへと。
     

     

  • 90◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:54:40

    「ネコサンダー……」

     そこには、そばかすにボサボサな髪、眼鏡をかけた垢ぬけない少女——轟 猫耳が無傷で横たわっていた。

     クリックベイトは猫耳を抱き寄せる。
     鼓動はある。脈もある。呼吸もある。

     生きている。

    「良かった、本当に良かった……」

     クリックベイトはバーストハートの方に向き、感謝の言葉を述べようとして。

     ——バーストハートの顔に、ブレイズドラゴンの蹴りが刺さっていた。

  • 91◆xaazwm17IRZa24/06/30(日) 17:58:46

    投下を終了します

  • 92二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 18:06:44

    おつです
    勝負はこれからか…

  • 93二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 18:17:28

    神というよりかつての誰かの亡霊って感じのバーストハート?だ
    「ドラゴン」に反応するだけのbotみたいな

  • 94二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 19:15:31

    ブレイズドラゴンがなりふり構わなくなった。いよいよ望んでいた挑戦者になってきた…

  • 95二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 20:42:16

  • 96二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 21:56:24

    乙です、さぁ戦いが加速するぞ…!
    そしてクリックベイトがまだ無事で良かった…。

  • 97二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 02:27:20

    このレスは削除されています

  • 98二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 07:51:59

    ドラゴンと関連付ければなんでもやってくれるかどうか分からないけど
    今のところ、このバーストハート(?)だけが頼りなんだよな…

  • 99二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 13:10:08

    天上、思ったより良いものでもない可能性?
    パラさんとニャルセーヌがどうかにもよるけど自我とかあるのかね

  • 100二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 20:05:08

    魔法の国の建国神話にも人心を操る黒龍を伝説の魔法少女が倒した話があるし天上もおそらくそれ絡みのなにかがあるんだろうなと考察

  • 101二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 23:43:46

    この蹴りが効いてるかどうか…

  • 102二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 02:17:55

    このレスは削除されています

  • 103二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 07:47:21

    このレスは削除されています

  • 104二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 17:05:40

    しまった「やったか!?」と言いそびれた

  • 105二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:13:06

    まだバーストハートにはやってもらいたい事があるが流石に目の前にブレドラがいるとそっち優先か

  • 106二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:51:27

    最終的に直してくれるとはいえ今度はクリックベイトも巻き込まない?

  • 107二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:54:39

    >>105

    今戦ってるのがバーストハートのガワだけ借りた別人っぽいんで望み薄というほかない

    最後に奇跡の一つくらい起きてくれればいいけど

  • 108二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 17:08:13

    続きは今夜あたり来るかな

  • 109二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 22:34:07

    >>107

    心臓に自我を乗っ取られてる感じあるよね天上バーストハートって

    …そういえば仮に桐生ヨシネの心臓を手に入れられたとしてテンガイはこの辺りどうするつもりだったんだろうか?

  • 110二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 23:35:53

    >>109

    だからこそそれをどうにかする魔法の開発に心血を注いでたのかもしれない

  • 111二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 07:48:33

    脱落者はブレドラにやられるもんかと思っていたけどバーストハート(?)攻撃の余波の規模からして十分死因になり得る威力だな…(フレンドリーファイヤー)

  • 112二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 08:02:18

    保守

  • 113二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 08:03:55

    >>112

    無駄保守しちまった ごめん

  • 114二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 17:55:14

    これは心臓のもとの持ち主(魔法少女ロンギヌス?)は黒龍絶対殺すガールだったのかな

  • 115◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 18:59:40

    投下します

  • 116二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 19:09:14

    来たわね……

  • 117◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 19:10:26

     獣が怯えている。

     霊都エメラルド、魔法王の城。中央部、渡り廊下にて。
     運営魔法少女の一人、『狩人』パトリシアは会場を映すモニターを眺めていた。

     運営側魔法少女は城内ならば自由にモニターを展開、鑑賞が出来る。
     殺し合いそのものには興味が無いが、参加者は誰もがパトリシアの狩りの対象に成り得る。実戦の前に少しでも情報は入手しておきたい。

     特に、ティターニア、スピードランサー、テンガイ、ブレイズドラゴンの四人は、無策で挑むのは危険だと判断している。
     山林部ならともかく、リングのような場所で戦えば、勝つことは難しいだろう。

     故に、強者の一人、ブレイズドラゴンの戦闘をパトリシアはじっくりと観察することにした。

    (やはり、遠距離戦が有利か? って、うわ、火とか吹くのか……。ならば戦闘の場を森とするのは悪手か……)

  • 118◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 19:48:11

     ブレイズドラゴンの戦闘を観察しながら、パトリシアは彼女の本質を掴む。

    (あれは、獣だ)

     魔法少女には、動物モチーフの者が多い。
     変身者が少女である以上、身近の可愛いものを変身イメージに加えるからか、あるいはコスチューム作成者、オートクチュールの趣味の偏りによるものか。

     参加者にも犬モチーフ、猫モチーフが多数参加しており、ブレイズドラゴンと交戦したネコサンダーやバーストハートはこれに該当する。

     だが、それはあくまでモチーフに過ぎない。
     パトリシアの価値観では、魔法少女は「人」と「獣」に区分される。

     人の倫理で動くものと、獣の道理で動くもの。

  • 119◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 19:54:01

     ネコサンダー、バーストハートは「人」なのだろう。
     運営側で言えば、グレンデルも「人」だ。悪人だが。

     オオカワウソは「獣」。
     ブレイズドラゴンもまた、「獣」。

     そして、「彼女」も……。

    「パラサイトドール」

     と、パトリシアは同じモニターを眺める運営魔法少女に声をかけた。
     

  • 120◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 20:03:54

    「貴様もブレイズドラゴンが気になるのか?」

    「うーん……まぁね……」

     怠そうな、ギャル。
     経歴も得意な魔法もよく知らぬ、パトシリアと同じ、途中参加組。
     
     よくも悪くも目立つトート・アリアやグレンデルと比較し、影が薄い魔法少女。

     だが、パトリシアの狩人としての本能が、パラサイトドールのガワの中に隠された、本質を嗅ぎ取っていた。

    (こいつは……獣だ)

     人の皮を被った獣。
     狩人として最悪の相手。

     件の彼女は、面倒そうな表情でモニターを見ている。
     外見は、今時の無気力なギャルにしか見えない。
     中身は、何を想っているのか。

  • 121◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 20:16:06

     モニター内で、動きがあった。
     バーストハートの蘇生。
     空中に打ち上げられるブレイズドラゴン。
     隕石でも落下したかのように破壊される繁華街。
     巻き戻すかのように修復される繁華街。
     ネコサンダーの蘇生。

    「何だ……これは……」

     パトリシアの常識では考えられないような、奇跡の連続。
     あれが——魔法少女?
     パトリシアが純粋な戦闘力なら自らより格上と考えているブレイズドラゴンを一方的に蹂躙し、拳の一振りで街を消し飛ばす。

    (あんなものが、この世に存在していいのか?)

     世界観(スケール)が違う。
     ブレイズドラゴン級ならまだやりようはあるが、あんなものを狩れと言われてもパトリシアには無理だ。
     純粋火力なら魔法国最強——アグネア・ミストリルが匹敵するかもしれないが、破壊した街を一瞬で元通りにし、死んだ者を生き返らせる芸当は、彼女にだって不可能だ。

  • 122◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 20:26:30

    「もしこれが我々の所に攻め込んで来たら——対処は不可能だ。
     パラサイトドール、君はどう思う……っ!?」

     カタカタカタカタ……。

     パラサイトドールは震えていた。
     顔は血の気を無くし、目には涙を溜め、口元を手で覆っている。
     常に怠そうな、マイペースを貫いてきた彼女とは思えないほどの醜態。

    「大丈夫……絶対、大丈夫……何とかなる……同じ『天上』だし……あの時とは条件違うし……あの時だってトータル私の方が優勢だったし……一番幸運値高い個体厳選したし……」

    「お前……あれを知っているのか?」

     パトリシアの問いかけに、パラサイトドールは、彼女の存在を今思い出したかのように二度見した。
     そして、ハンカチで目元を拭うと、皮肉気に笑う。

    「たぶん……君も知ってるんじゃないかな……うん、魔法の国の住民ならみんな知ってると思うよ……」

  • 123◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 20:40:50

     知らない。あんなものをもし知っていたら、意識しないはずがない。

     だが、パトリシアの脳裏に、一つの固有名詞が浮かび上がった。
     知り合いではない。仮想敵でもなければ、尊敬の対象でもない。
     ただ、一般常識として、その存在を知っている。
     前提として、教養として、押さえている。

     神に匹敵する魔法少女。即ちそれは、伝説であり、王権の由来でもある。

    「まさか……そんなことがあり得るのか?
     あれは……」

     かつて、妖精の世界は黒い龍が支配した。
     妖精たちは支配され、殺し合いをさせられた。
     だが、暗黒の時代を追わらせた、救世主が現れる。
     人間の世界からやって来た、一人の少女。
     黒竜を打倒し、新たな時代の魁となり、王権の由来となった英雄。

     真名不明。魔法少女名、無し。
     
     故に後世の人々は、彼女をこう呼称する——。

     『始まりの魔法少女』と。

  • 124◆xaazwm17IRZa24/07/04(木) 20:41:07

    投下を終了します

  • 125二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 21:17:16

    原初の存在か〜っっっ

  • 126二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 21:57:29

    この魔境でパラさんは最後まで生き残れるのか…

  • 127二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 00:23:57

    乙です、今憑依してるのが推定で始祖さんで頭竜殺しだったのか...

  • 128二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 02:12:13

    同規模の破壊なら出来そうな子たちはそれなりにいるけど"魔法も使わないただの攻撃で"やってるのがヤバいんだろうな

  • 129二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 07:52:43

    >>128

    奇跡の連続、と揶揄される程だしね…

  • 130二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 12:44:05

    >>128

    しかも再生もやってるからできることの範囲が広すぎる

  • 131二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 14:29:16

    かつての黒竜戦が描写される回が待ち遠しいな
    運営組とか長生きな奴らは関わっててもおかしくないし

  • 132◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 14:30:47

    投下します

  • 133◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 14:42:13

    「ねぇ、約束してよ」

    「約束?」

    「生き残った方が、お互いの夢を叶えるの。
     龍明ちゃんが生き残ったら、私の代わりに、お店を開いて。料理でも、雑貨でも、本屋さんでも、何でもいいからさ……。
     私が生き残ったら、龍明ちゃんの代わりに……大人たちが作り出そうとしている、『始まりの魔法少女』と戦う。
     そうすれば、そうすればきっと……私たちの死にも、意味が生まれるから……」

    「よく分からんが、まぁいいじゃろ。
     カカカ、では始めようぞ」

    「うん……始めよう……」

     ——そして、ブレイズドラゴンは生き残った。

  • 134◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 14:52:03



     ブレイズドラゴンの蹴りは、『始まりの魔法少女』の顔面を蹴り抜いた。
     並の魔法少女なら、首から上が吹き飛ぶ一撃。
     碌にガードも、反応すら出来ず、『始まりの魔法少女』の顔は無惨にも——傷一つつかなかった。

    「カカカ……」

    「鬱陶しい……」

     蠅でも払うかのように、『始まりの魔法少女』は右手を振る。
     ただそれだけの動作で、今しがた再生したばかりの繁華街が、再び塵へと還る。
     冷や汗を流しながらブレイズドラゴンは射程範囲外に体を屈める。
     気によるガード、生来のフィジカル……一切無駄。
     ただ、磨いた技術と培われた経験だけが、彼女をぎりぎりで生に留めている。

    (こやつ……『対人経験』が無いのか……)

     その辺の小学生でももう少しマシだと思うほど、敵の動きは素人くさい。
     一般人でも下位層……いわゆる運動音痴のレベルだ。
     だが、一撃一撃の破壊力が、かつて戦ったティターニアのマジカルストラッシュに匹敵する。
     ……それだけなら、まだ対処できる。
     どれだけ強力な火力を有していようと、ブレイズドラゴンの技術なら一度も被弾せずに、袋叩きにできる。
     現に、敵の攻撃は一度もブレイズドラゴンに当たらず、ブレイズドラゴンの攻撃は全てが少女に当たっている。

  • 135◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:00:16

     当たっているのだ。
     並の魔法少女なら一撃で即死させる一撃が。
     あるいは相手の物理耐性を狂わせ、確実にダメージを与える『絶招』が。
     何度も何度も何度も、当たっている。
     ——何も起こらない。
     当たってなどいないかのように。
     ブレイズドラゴンは敵に干渉できない。

    「参ったのう……」

    (どうすれば勝てるのか、まるで分からんッ!)

     ブレイズドラゴンの口角が吊り上がった。
     頭上を大破壊が通り過ぎる。

     ブレイズドラゴンの周囲は地獄絵図だった。
     華やかなネオンビルが、磨き抜かれた外車が、けばけばしい桃色の看板が、一瞬で消し飛び、微塵になる。
     ——次の瞬間には、それは修復されている。
     ——次の瞬間には、再び崩れ去っている。

     一瞬で切り替わる破壊と再生。
     それらに巻き込まれないよう細心の注意を払いながら、ブレイズドラゴンは敵に攻撃を当て続ける。

     

  • 136◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:03:09

     千日手だ。
     お互い、敵にダメージを与えられない。
     『始まりの魔法少女』の技術では、ブレイズドラゴンに攻撃を当てられず。
     ブレイズドラゴンの領域では、『始まりの魔法少女』に干渉できない。
     あまりにも不毛な戦い……それは、ブレイズドラゴンの詰みを意味していた。

     彼女は、既に致命傷を負っている。
     このまま戦えば、いずれ限界が来る。
     更に言えば、『始まりの魔法少女』の攻撃は、徐々にキレを増してきている。
     学習したのか。
     あるいは、遠い過去の戦いの記憶を、思い出し始めたのか。

  • 137◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:39:47

    「ドラゴン……しぶとい……鬱陶しい……」

    「カカカ、なんじゃ、せっかくの戦いじゃ、もっと楽しめ」

     ブレイズドラゴンが生き残る方法は、ある。
     『始まりの魔法少女』が憎悪を向ける対象は竜(ドラゴン)であり、ブレイズドラゴンは龍(ドラゴン)こそモチーフにしているが、種族は人間である。
     つまるところ、人違い。

     仮にブレイズドラゴンが変身を解除し、必死に自身が人間であることをアピールすれば、『始まりの魔法少女』はブレイズドラゴンへの関心を失う。
     そして、今までの言動から、ブレイズドラゴンは相対している敵が『ドラゴン』に執着していることは察せていた。

     故に。

    「どうした? ドラゴンはここにおるぞ? 儂を殺したいんじゃろう?」

     両手を広げ、自ら名乗る。
     それどころか。

    「早く儂を殺さんと、ぬしの大切なもの……根こそぎ奪ってしまうぞ?」

     ニタリと邪悪な笑みまで浮かべた。

    「ドラゴンッッ!」

    『始まりの魔法少女』は激昂する。

  • 138◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:45:33

     怒りと共に振るわれた一撃。
     ブレイズドラゴンはその場を飛び退いて一撃を躱し。

    「ぬ……?」

     右腕が根本から抉られる。
     『始まりの魔法少女』の動きが加速している。
     ブレイズドラゴンの死が徐々に迫ってくる。

    「カカカ……良いのう」

     残った左腕で少女の頬を殴り抜く。
     ノーダメージ。

    「やはり、ぬしがそうなのか」

     超越者。
     絶対的存在。
     全ての始まり。

    「ぬしが、儂の夢か」

     一人の少女が、脳裏をちらつく。

    (ならば、勝たんとのう——)

  • 139◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:55:00



    「何なんだよ、あいつ……!」

     この世のものとは思えない光景だった。
     一瞬ごとに破壊され、再生されていく世界。
     その中心部で拳を交わし合う二人の魔法少女。
     情報通を自認するメリィでも理解が追いつかない、異次元の領域。

     バーストハートに偶々聖遺物が埋め込まれており、それが覚醒した。
     そこまではいい。偶然にしても出来過ぎているし、どうして自分がそれを知っていたのかまでは、考えている余裕がない。
     バーストハートは覚醒し、神に匹敵する力を手にした。そこまでは都合がいいので、受け入れよう。

    「何であいつ、まだ死んでないんだ……!?」

     ブレイズドラゴンは決して無傷ではなかったはずだ。
     毒を浴びたような反応を示していたし、チェーンソーで斬られていた。
     いくら強いといっても、まともに戦えるコンディションではないはず。格闘技の試合なら棄権どころか直ちに救急車を呼ぶレベルだ。
     ましてや一撃一撃が周囲を消し飛ばす威力のバーストハートと戦って、渡り合っている方がおかしい。
     それどころか。

    「あいつ、どんどん速くなってないか……?」

     バーストハートの動きが徐々に洗練されていってることは、メリィでも分かる。
     動きに無駄が無くなり、拳にキレが増し、立ち方が堂に入ってきた。
     唯一持ち合わせていなかった戦闘技術を、急速に獲得している。あるいは——思い出している。

  • 140◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 15:59:35

     ならば、均衡は崩れるはずだ。
     初期も初期なら、圧倒的格闘センスの差でブレイズドラゴンが生き残ることは出来たかもしれない。
     だが、バーストハートの動きが洗練されていくのなら、ブレイズドラゴンとの技術差は縮まり、ブレイズドラゴンの生存条件は削られていくはずだ。

     そうはならない。
     バーストハートの動きに比例するかのように、ブレイズドラゴンの動きもまた、キレを増していく。
     技術力の差が縮まらない。

    (今まで本気を出していなかった……違う、少なくとも覚醒したバーストハートと戦い出してからは、ずっと本気だったはずだ……)

     メリィの目からそうやって見えた。
     ならば答えは一つ。

    (あいつ……くそっ、そんなのアリかよ……あいつ、『成長』してやがる……!?)

  • 141二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 16:04:43

    暫定内通者はトートアリアか…?
    まだ証拠としては弱いけど

  • 142◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:08:01

     空手有段者レベルにまで成長した『始まりの魔法少女』の回し蹴り。
     周囲の世界が、真横に両断される。
     身を屈めたブレイズドラゴンに、アッパーカットが襲いかかる。タイミング、切れ味、共に一級品。雲が裂け、天が割れるかと錯覚するほどの一撃。
     ブレイズドラゴンの前髪が跳ねた。
     攻撃範囲の僅か外側を見切り、紙一重で躱す。
     その動きに、致命傷の影響は見られない。
     魔法少女であろうとも、とっくに死亡しているはずの身でありながら、ブレイズドラゴンの動きは洗練されていく。
     それは、万全の時よりも更に。

    (じゃが、これでは勝てんのう……)

     避け続けても、じり貧だ。
     不死ではない。先延ばしにすることは出来ても、死を踏み倒すことは出来ない。
     その前に、勝利を。

    (さぁ、始めようか)

  • 143◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:11:50

     撃ちだされる正拳突き。
     山すら穿つその一撃を——ブレイズドラゴンはわざと回避を遅らせ、撃ちだされた右腕に、自身の右腕を這わせた。
     五指で、『始まりの魔法少女』の腕に、そこから溢れ出す次元の異なる魔力に、指を這わせる。

     『気を探る』……その応用。
     ブレイズドラゴンの目が見開かれる。
     手首が、消失する。
     左腕喪失。右手首喪失。もはやブレイズドラゴンは拳を打ちこむことは出来ない。
     

  • 144◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:16:47

    (…………なるほど、なるほどのう……そういう絡繰りか)

     やはり、次元が違う。住む領域が違う。
     ブレイズドラゴンの攻撃では、この絶対者にダメージを通すことが出来ず、またブレイズドラゴンではその領域に辿り着けない。

    (ふむ、同格になるのは無理じゃな)

     だが、ブレイズドラゴンは——戦闘の天才である。
     両手を破壊したことで好機と捉えたのか、敵が追撃をかけてくる。
     大振りの一撃を、ブレイズドラゴンは難なく躱してのける。

  • 145◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:31:19

     そして——瞬時に両腕を再生させた。
     魔力は瞬時に枯渇する。
     もはや、変身を維持するのがやっとの状態。
     トドメとばかりに、『始まりの魔法少女』の一撃が、ブレイズドラゴンを貫き。

     世界が衝突した。
     『始まりの魔法少女』の一撃は、ブレイズドラゴンの掌で弾かれた。

     少女の顔が、驚愕で歪む。

    「カッカッカ、なるほど……こうするのか」

     世界の理が乱れる。
     龍の爪が、天蓋を砕き、天へ届こうとしている。

    「至近で何度も観察し、一度触れ、掴めた……。
     あまりにも次元外れの力。拳の先だけ再現するので精一杯じゃが……」

    「お前……ドラゴン……ドラゴン……!!」

    「我が生涯最期にして最強の一撃、受けて見せよ、勇者よ!」

     掌に灯されるは、今までとはまったく異質な魔力。
     『始まりの魔法少女』と比較しあまりに矮小な、されど同質の力。

    (名付けて——『天招』)
     
     

  • 146◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:39:00

     ガチャン。
     と、ブレイズドラゴンの首に金属の輪が嵌められた。
     掌に込められた魔力が霧散する。

    「——は?」

     マギカロック。魔力操作以外の、相手の魔法を使えなくする。
     ブレイズドラゴンは首輪を掴んだ。
     もはや、首を切断し再び繋げる魔力など残っていない。

     瓦礫の中に立つのは、バイザーを付けた一人の魔法少女。

    「横入り失礼するよ」

    「貴様は……」

     ブレイズドラゴン。性格。豪放磊落。死のやり取りを心から楽しむ戦闘狂。卑怯な手段も自分はやらないがオールオッケー。
     故にこの結末も彼女は受け入れ——。

  • 147◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:50:26

    『生き残った方が、お互いの夢を叶えるの。
     そうすれば、そうすればきっと……私たちの死にも、意味が生まれるから……』

    「巫山戯るなあああああッ! よくも、よくも儂の夢をッ!」

     漏れたのは、怒号。悲願を踏みにじられ、ブレイズドラゴンは幼子のように癇癪を起した。
     そして。

    「滅びろ、ドラゴン!」

     放たれるのは、『始まりの魔法少女』の一撃。
     避ける余力も、余裕も、ブレイズドラゴンには残されていなかった。

     直撃。

     ブレイズドラゴンの肉体は瞬時に微塵となり、存在の痕跡すら残すことなく、この世から消失した。

    【王 龍明(ワン・ロンメイ)/ブレイズドラゴン 死亡】
    【残り 28人】
     
     

  • 148◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:58:25

    「儂の夢を……か。
     ブレイズドラゴン、君は今まで誰かの夢を顧みたことがあったのかい?」

     クリックベイトは皮肉気に呟く。
     その言葉は、風に消え、誰の耳にも届くことはなかった。

     『始まりの魔法少女』は荒野となった場所に佇んでいる。
     その背中はどこか寂し気であった。

    「それで、君はいったい何者なんだ?」

    「…………くそっ、くそっ、くそっ!」

    「……どうしたんだい?」

     ぱちり、と『始まりの魔法少女』は指を鳴らす。
     街はあるべき姿を取り戻す。
     しかし、少女の顔は悔し気に歪んでいた。

    「嵌められた、嵌められた、嵌められたっ!」

    「いったい何を……」

    「あれは、囮かっ! くそっ、ドラゴン、ドラゴン、黒竜め、許さない、絶対に許さ——」

     
     

  • 149◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:58:35

     ふっと、憑き物が落ちたかのように、バーストハートは崩れ落ちた。
     クリックベイトは慌ててそれを抱える。
     何がどうなっているのか、まるで分からない。
     ただ、今分かることは。

    「僕たちは、生き残ることができた……のか」

  • 150◆xaazwm17IRZa24/07/05(金) 16:59:09

    投下を終了します

    途中でブレイズドラゴンの右腕と左腕がごっちゃになっているのでウィキ収録時に修正します……

  • 151二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 18:02:48

    完全に忘れてたけどまだクリックベイトが生きてるから終わらないんだ…多分運営幹部とかが心臓を回収に来るんだ

  • 152二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 19:34:23

    パラさんの怯えようからしてこれ万一が起こらないよう気絶中に始末とかしそうだな……

  • 153二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 19:43:55

    同じ強度なら面の小さい方に分がある、拳の先しか再現出来なかったけど当たれば勝ってたのだろうな…
    勝ってたとは思うがリソース全て捧げた一発なので動き自体は単純で横槍も入りやすかった

  • 154二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 20:28:23


    亡者同士でこんな熱戦が繰り広げられることあるんだ

  • 155二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 20:47:26

    >>152

    次回はパトリシアちゃんが初戦闘になるかな…?

  • 156二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 00:01:13

    よく見たらwikiの本編に第一回放送まで追記されてるな…お疲れ様です

  • 157二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 08:02:32

    保守

  • 158二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 08:47:17

    欠損部位の回復、極めた魔法少女ならできるものなのか気を使う魔法特有の効果なのか

  • 159二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 08:51:53

    >>158

    と思ったけどそもそもきれた首を繋いでたわ

    そのレベルの再生もできるのね

  • 160二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:44:12

    >>158

    ミョルニル固有>ブレイズドラゴンの気功かなんか>(高い壁)>一般魔法少女


    治癒力で言ったら大体このくらいの差だろうか

    『怪我の治りがすごく早いよ』の真価もいつか見たいねえ

  • 161二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 15:08:16

    しかしついにブレイズドラゴンが墜ちたか…
    悪因悪果と言われればそれまてなんだけど勇者養成施設で死んだ少女の夢は叶ったのに生き残ったブレイズドラゴンの方が夢を道半ばで絶たれるという結末にはなんというか運命の皮肉を感じるよね

  • 162二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 17:58:32

    >>160

    今のところジャックザリッパーとちょっと会話しただけだしね

    まだスポットの当たっていない他の魔法少女達の出番が楽しみだ

  • 163◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 22:36:11

    投下します

  • 164◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 22:41:22

    「お、終わったのか……」

     ブレイズドラゴンは死に、『始まりの魔法少女』もまた姿を消した。
     パトリシアは安堵の息を零す。
     運営側に身を置く彼女にとって、ブレイズドラゴンは難敵であり、『始まりの魔法少女』は絶望だった。

    (もっとも、ブレイズドラゴンと違い、『始まりの魔法少女』は死んだわけではない……いや、そもそも遥か昔に死んだはずの存在だ。
     どうして現代に出現を……)

     分からん、と結論をつける。
     伝説・歴史にそう詳しいわけではない。
     パトリシアが従うべきは狩人の掟のみ……。

    (ならば、事情通から詳しい情報を得るか)

     そう思い、パラサイドドールに視線を向ける。

  • 165◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 22:48:20

    「イェーイ……やったね、えへへ、大勝利、ぶいっ!」

    「お、おう……」

     うきうきと伸ばされた掌に、パトリシアは面食らいながらも掌を合わせる。
     二人の魔法少女はハイタッチを決めた。

    「今回の儀式の、最大の障害は解決した……!
     本当に良かった……やっと、安心できるよ……」

    「そうなのか? あれは、まだ消えて無いんじゃないのか?」

     死んだはずのバーストハートが蘇生し、『始まりの魔法少女』に転じた。
     ならば呪いによる死も、『始まりの魔法少女』には無意味ということになる。
     一時的に姿を消しただけで、依然脅威のままでは……とパトリシアは思う。

  • 166◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 22:55:08

    「消えてないよ……けど……最低でも1000年はもう出て来れないよ……あれは、そういう存在だから……」

    「どうして、そんな風に言い切れる? 何か根拠があるのか?」

    「あれが顕現するには、条件が厳しいんだよ……数千年単位で魔力を集めないと、顕現できない……そして『ドラゴン』を殺したら、直ちに霧散する……そうしないと、『世界』の方が、耐え切れないから……そういう、ひどく不自由で、惨めな存在だから……いい気味だよ」

     まぁ、だから根絶は不可能なんだけどさ……とパラサイトドールは憂鬱な表情を見せる。

  • 167◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 23:02:26

    「このゲームが破壊されるシナリオで……一番可能性が高かったのが、あいつの介入だった……。呼ばなくても、勝手に乱入してくるだろうし……ゲーム始める前に殺しても、藪蛇になるかもしれないし……。
     だから、ゲームに招いた上で、近くに仮想敵を設置して……引きずり出して、偽りの敵で『ドラゴン殺し』を果たしてもらって、1000年後までバイバイしてもらう……うん、上手く行って良かった」

     色々、不安があったからね……とパラサイトドールは肩を落とす。

    「ブレイズドラゴンが降伏したり……彼女を始末する前に、こっちの存在に気づいて魔法王の城に突撃されたり……あるいは、全然出てこなくて、ブレイズドラゴンが別の理由で死んだ後に遅れて登場したり……全部、杞憂に終わって良かったよ……」

  • 168◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 23:12:12

    「だが、まだティターニアが居る。他にも、ゲームに積極的でない、我々運営に反旗を翻そうとする魔法少女は多いぞ。
     それに、邪神教団……。我々の中に紛れた裏切り者の件も……」

    「ああ……その辺は……どうにでもなるから。面倒だけどね……」

     確かに、とパトリシアは思う。
     『始まりの魔法少女』と比較し、その他の脅威は、対処の仕様がある。
     難敵だが、狩れない獲物ではない。

     そして、更に考える。
     パラサイトドール、ここまで事情通の彼女は、パトリシアが思う以上に、このゲームの中枢に位置する人物なのかもしれない。

    「……ところで、パトリシア。君にちょっと、頼みたいことあるんだけど……」

    「……何だ?」

     パラサイトドールは、パトリシアの耳元に顔を近づける。

    「——————を、殺してきてくれないかな……?」
     

  • 169◆xaazwm17IRZa24/07/06(土) 23:12:26

    投下を終了します

  • 170二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 23:18:15

    パラサイドドールのチャートを一瞬で崩壊させる天敵。結果的には全てが美味しい方向に転んだが…

  • 171二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 23:18:54


    クリックベイトがコレで狙われるのか他の誰かなのか

  • 172二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 01:01:59

    お疲れ様でした
    そういえば時系列的に放送前のノーブルサヴェージ回がwikiの本編に乗ってませんね…

  • 173二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 01:39:51

    >>162

    ジャックの本格戦闘もかなり楽しみなんだよな

    ティターニア流格闘術継承者だからあのなりでマジカルアッパーとか撃つんだろうか

  • 174二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 01:44:31

    ここから2回戦か…パトリシアは実力者だろうし、もう戦える子がろくに残ってないことを考えると厳しいバトルになりそうだ

  • 175二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 08:28:42

    想定外の事態にガチ焦りするパラさんからしか摂れない栄養素がある

  • 176二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:46:39

    ジャック、魔法のわかりやすいイメージとしてfateの狂スロが挙げられていたけど終末のワルキューレのジャック・ザ・リッパーも近しい物を感じる…本当にジャックの全力戦闘が楽しみ。

  • 177二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:55:24

    そういえばティターニア弟子グループは全員面識あるんだろうか
    それとも個別に講習受けてたんだろか

  • 178二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 10:22:01

    全員歳も近いし同じ高校の生徒だろうから顔見知りでもおかしくないかもね

  • 179二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 19:24:56

    今夜はあるかな

  • 180二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 23:01:05

    ダイス的にはむしろここから本番だったの忘れてた…クリックベイトぇ…

  • 181二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 02:07:02

    このレスは削除されています

  • 182二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 07:47:01

    保守

  • 183二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 17:27:35

    このレスは削除されています

  • 184二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 00:13:24

    保守

  • 185二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 03:26:58

    始まりの魔法少女はもう出てこない…と言いつつ出てくるんだろう
    オシウリエルと内通者の裏切りが絡んでくるのかな
    案外ラスボスって線もあるかも知れない

  • 186二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 08:49:11

    王龍明の最期。人に憧れた化け物の末路って感じがしてすき

  • 187二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 18:06:42

    このレスは削除されています

  • 188二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 00:08:15

    このレスは削除されています

  • 189◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 00:40:03

    投下します

  • 190◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 00:44:52

     プアは酩酊していた。
     魔法少女の命を奪う毒。
     毒物に一定の耐性があるブレイズドラゴンを追い詰めた、究極の猛毒。
     その代償は、大きい。
     かつてボムシェルを始末したときは、一週間ほど麻薬中毒のような状態に追い込まれた。(そのため宮島優香には娼館で薬漬けにされていたと誤解されている)。
     今もまた、プアは変身を解除し、ミアのまま、その豊満な肢体を大地に投げ出して荒く息を吐いていた。

     世界が、ぐるぐると回天している。
     街が消えたり現れたりを繰り返していたが、どうやら強い幻覚を見ているようだ、とミアは自覚した。

  • 191◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 00:51:12

    『ぬしはまた、人を殺したのかえ』

     蜃気楼のように揺れる影。
     赤地に金色の刺繍が施された高級着物に身を包んだ、長身の美女がミアを見下ろしている。

    『よくも人殺しの身で、宮島家に転がり込めたものでありんすねぇ』

    「ボムシェル……さま……」

    『使ってやった恩を忘れて、とんだ疫病神。
     ぬしにはもう、帰るところはありんせん』

    「分かっています……」

     これは、幻覚だ。
     ボムシェルが、格下であるミアに声をかけるはずがない。感情を向けるはずがない。
     ボムシェルの幻覚が語る言葉は、ミアの偽りざる本心だ。

    「私は……所詮、人殺し……」

  • 192◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 00:58:12

    「けど……」

     魔法少女だと明かしたときの、宮島祐樹のわくわくとした瞳を覚えている。
     ただの人殺しに過ぎないミアを、変身ヒーローかのように扱ってくれた。
     幼い故に、現実を知らないだけなのかもしれない。
     非日常に憧れるあまりに、ミアに勝手な期待を押し付けているのかもしれない。

     けれど、あの瞳にミアは確かに救われたのだ。

    「この……殺し合いは……一刻も早く……終わらせないと……」

     40人を超える魔法少女の殺し合い。
     その余波でどれだけの無辜の人々が死んでしまうのか。
     宮島家にどれだけの厄災が降りかかるのか。

     周囲に、人が集まっているのを感じた。
     誰かは、判別がつかない。
     ただ、戦闘は終結したらしい。
     ミアがどれだけ勝利に貢献できたかは分からないが、一戦を乗り越えたことに、安堵する。

  • 193◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:03:57

     ゲームに乗っていないのは、ミアだけではない。
     メリィも……クリックベイトも、他にも多くの魔法少女が乗っていないはずだ。
     大丈夫、このゲームは絶対に破壊できる。

     だから。

    「みなさん……私たち、これからも……」

     頑張っていきましょう、と言おうとして。

     ミアの額に、風穴が空いた。

     ミアの唇が、それ以上動くことはなかった。

    【ミア/プア 死亡】
    【残り 27人】

  • 194◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:10:56

    「——嘘だろ」

     思わず、喉からそう漏れた。
     嘘だと思う出来事が連続していた。
     殺し合いに巻き込まれて、部長が死んで、くそつよ厄介戦闘狂魔法少女に襲われて、仲間が死んで、生き返って、インフレバトルをして、くそつよ厄介戦闘狂魔法少女が死んで。
     衰弱しているミアの元に、メリィとクリックベイト、そしてホッケーマスクを被っていた魔法少女が集まっていたのだ。傍らには意識を取り戻さないバーストハートとネコサンダーも連れて来ていた。
     ついでに、ペストマスクの魔法少女もひょっこり顔を出していた。

     全員が全員混乱していて、ひとまず大規模な戦闘を起こしてしまったこの場所から離れようということで意見がまとまっていた。
     皆で手分けしてミア、バーストハート、ネコサンダーを負ぶって、ティターニアと天城千郷が目撃された学生街を目指そうと意見を纏めたときだった。

     ミアが、額から血を流して死んだ。
     貫通した痕から、血が放射状に広がる。

    「だ、誰が……何で……」

    「狙撃だ!」

  • 195◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:18:18

     みんな散れ! とクリックベイトが叫んでいる。
     メリィはバーストハートを抱えた。身体能力は他の魔法少女より劣っているが、常人よりは強い。
     少女一人、大した重荷ではない。

     だが。
     肩に痛みが走った。
     撃たれたのだ、と知る。
     生身ならばともかく、変身しているのなら、多少の銃撃は耐えられる。
     だが、当たり所が悪ければ、命に関わる。個人差はあるが、少なくともメリィは銃で殺せる魔法少女だ。
     悲鳴を挙げながらメリィは建物の中に逃げ込む。バーストハート(?)が街を修復してくれたおかげで隠れる場所はたくさんある。

     そして、クリックベイトはただ、隠れるだけでは終わらなかった。

    「そこか!」

     電気屋の四階に、乗用車をぶつける。
     経験豊富なクリックベイトは、二度の銃撃から狙撃手の場所に予測をつけることができた。
     ネコサンダーを抱えながら避難し、同時に攻撃。
     そして——魔力の枯渇を感じた。

    (くそっ、さっきバーストハートにお願いして回復させてもらうべきだったか)

     街と違い、ブレイズドラゴン戦の疲労が、未だ体に残っている。
     状態は、絶不調だ。

  • 196二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 01:25:16

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  • 197二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 01:25:53

    狙撃系魔法少女は強い
    現にあのテンガイやブラックブレイドも狙撃で苦しめられたし、ましてや魔法国最優のスナイパーなら満身創痍のクリックベイトたちを全滅させるくらい訳ないだろう…

  • 198◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:27:26

     早期に決着——あるいは撤退をしなければならない。

    (まったく、休む暇も無いのか)

     今の攻撃で仕留められていればいいか。
     そう願うクリックベイトの頭上に、落下する物があった。

     視覚を塗り潰す光。

     クリックベイトは思わず顔を覆った。
     経験豊富な彼女だが、今行われた攻撃が何なのか、咄嗟に判断できなかった。
     
     もしブレイズドラゴンが生きていれば、すぐに感づいただろう。
     DRC——特殊閃光弾。
     
     潰れた視界の中で、クリックベイトは抱えていたネコサンダーを遠くに放り投げた。
     攻撃の正体が分からなくても、この後の展開を推測することは出来たからだ。
     ガードするべくリールを振り上げ——轟音と共に、身体が抉られたのを感じた。

  • 199◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:32:44

     仮に、もしブレイズドラゴンに襲撃されず。
     深夜と同じように、メリィが他の魔法少女の動向を余裕をもって調べることが出来れば。
     気づくことが出来たのかもしれない。あまりに異常事態のため、公のニュースにはなっておらず、戒厳令が敷かれていたが、メリィの魔法ならばそれらのセキュリティを容易く蹂躙できる。

     だが、そんな余裕は無かった。
     ネットにダイブしたときは、ブレイズドラゴンの弱点を探るのに精いっぱいで、他の動向など探る時間などなかった。

     故に、彼女たちは知らなかった。

     『警察署を、奇妙な格好をした少女たちが襲撃し、対糧鮴特殊部隊の装備一式が強奪された』ことを。

  • 200二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 01:33:58

    パトリシアじゃねえ!!オオカワウソだ!三つ巴だ!!

  • 201◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:43:20

    「きゃは」「きゃは」「きゃはは」

     Eチームは武装を欲していた。何しろ優勝を狙うのだ。他の魔法少女と協力できる他チームと違い、Eチームは基本的にチームだけで戦い、勝利しなければならない。
     ならば強い武装を手に入れることは責務であり、あにまん市で最も強い武器が集まるのは——治安を守る警察署である。
     市内各地で起こった異変の調査に多くの人員が駆り出されていたこともあり、Eチームは一匹の犠牲を出すことなく、特殊部隊の装備を強奪することに成功した。
     狙撃銃、閃光弾もその一つであり。

    「きゃははははは、ライフル鬼つええ!」

     対物ライフル。
     ナサリーブラウンが学校に隠したものとは別物であるが、その威力は傭兵が対異能者(つまり魔法少女)用に準備するもの。
     つまりは——大抵の魔法少女は、対物ライフルは致命的だ。
     そして、クリックベイトもまた、例外ではなかった。

  • 202◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:52:15

    「きゃはははは、一網打尽だ」
    「とつげきー」
    「どうなるかな、どうなるかな」

     自動小銃に防弾チョッキを装備した数匹のオオカワウソが、周囲のビルから降りてくる。
     クリックベイトは彼女たちを睨み、割れたバイザーを投げ捨てた。

     右腕が、肩から抉れている。
     胴体も、傍目で分かるほど——減っている。

     致命傷だ。

    「……引きが、悪いからなぁ……僕は」

     思慮深く、心配性な彼女だが、今際の際では、もはや自身のことは心配していなかった。ただ、苦笑が漏れる。

    「隠れているペストマスク君。ネコサンダーをお願いしてもいいかな」

     柱の陰から、おずおずとウェンディゴが姿を表す。

    「……すまない。たぶんこれも、私のせいだ」

    「よく分からないけど、元々僕は引きが悪いんだ。気にしなくていいよ」

     この場に居る知り合いたちに何か言葉を遺すべきだろうか。
     クリックベイトは思案し、そんな時間は無いと諦めた。

  • 203◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 01:56:01

    「うん、僕の知り合いに会ったら、今までありがとうと伝えておいて」

    「お、おい、何をするつもりなんだ!?」

     と、バーストハートを抱えたまま、メリィが声を張り上げる。

    「一緒に逃げるんじゃないのかよ!」

    「随分キャラが崩れてるじゃないか、メリィ。
     ……僕はもう助からない。ここで足止めするから君たちは逃げろ」

    「そんなの……」

     メリィはバーストハートに視線を送った。
     もう一度奇跡を起こせば。

    「さっき何やっても起きなかっただろ。
     世の中そんなに甘くないよ」

  • 204◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:00:02

     クリックベイトは諦めたように言う。

    「け、けど……」

    「……君の魔法と、バーストハートが起こした奇跡は、このゲームを壊す鍵だ。
     それに……一時期、ゲームに乗っていた負い目もあるしね。
     僕はここでかっこよく決めさせてもらうよ」

    「……分かったのだ。クリックベイト! これだけで許してあげると思ったら大間違いなのだ! 生きてまた会ったらお説教なのだ、へけっ!」

     メリィとウェンディゴは、バーストハートとネコサンダーを抱えてその場を去っていく。
     オオカワウソは追撃をしようとし。

    「おっとそこは禁漁地だ」

     クリックベイトの糸が自在に動き、オオカワウソの動きを止める。

  • 205◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:06:45

    「きゃはは」
    「おもしろーい」
    「ボスキャラかな、ボスキャラかな」
    「それって英雄気取りだね」

     口調こそ少女のように姦しく、されど彼女たちもまた探索者。
     クリックベイトの難敵さに気づいたのか、アイコンタクトを躱しながら、油断なく陣形を作っていく。

    「……まったく、ただの雑魚エネミーなら楽なんだけどなぁ」

     つくづく、引きが悪い。

    「……まぁ、悪くないけど」

     父親の死と引き換えに魔法少女となり。
     様々な人間と絆を紡ぎ。
     18年間の人生は、そう悪いものではなかった。

    「僕みたいな魔法少女には——出来過ぎた末路さ」

     オオカワウソの銃口が光る。
     クリックベイトの糸が自在に動く。

     10匹と一人の戦いは、熾烈を極め。

  • 206◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:09:54

    【佐々利 こぼね/クリックベイト 死亡】

    【残り 26人】


    【オオカワウソEチーム残りdice1d10=4 (4) 】-4人

  • 207◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:11:56

    【桐生 ヨシネ/バーストハート? 復活】
    【轟 猫耳/ネコサンダー? 復活】

    【残り28人】

  • 208◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:12:29

    投下を終了します

    繁華街パートはこれで終わりです

  • 209二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 02:13:01

    壊滅…次はどこパートかな

  • 210二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 02:21:19

    繁華街編面白かった!
    そして場面転換も思えば久々だな…

  • 211◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:55:30

    ここまでたくさんの感想ありがとうございます、一か月近く休んで新スレになっても読んで感想を書いてくださる方ががいて、とても嬉しいです


    それでは、2巡目次の舞台はdice1d4=2 (2)


    1【あにまん中央エリア/中心街】

    《ハスキーロア、スピードランサー》


    2【あにまん市北エリア/山岳地帯】

    《ジャック/ジェイルフィッシュ/ミョルニル/ドレッドノート/クレアボヤンス/ハイエンド/クィーン/AIWOTD/ノーブル・サヴェージ》


    3【あにまん市東エリア/学生街】

    《ティターニア/慈斬/天城千郷/ミストアイ/テンガイ/ワンフロムアウター/抜刀金》


    4【あにまん市西エリア/糧鮴】

    《バルバロイ/ジャスティスファイア/冨島千秋/ハートプリンセス》+オオカワウソDチーム

  • 212◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:57:29

    舞台は北エリア……山岳地帯です


    ジャックdice1d100=63 (63)

    ジェイルフィッシュdice1d100=41 (41)

    ミョルニルdice1d100=9 (9)

    ドレッドノートdice1d100=17 (17)

    クレアボヤンスdice1d100=54 (54)

    ハイエンドdice1d100=42 (42)

    クィーンdice1d100=68 (68)

    AIWOTDdice1d100=21 (21)

    ノーブル・サヴェージdice1d100=66 (66)

  • 213◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 02:59:26

    以上の情報を元に山岳編を投下します
    引き続きよろしくお願い致します

  • 214二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 03:02:30

    ミョルニルさん…そしてドレッドノートとAIWOTDも危険値か…
    同盟の少ない北エリアだけど、なんやかんや生き残りは対運営で纏まりそうな雰囲気だな

  • 215二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 03:05:28

    ジャックvsティターニアの師弟対決が見たいので両者ともになんとか生き残れ………

  • 216二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 08:03:22

    乙でした レイドバトルこと繁華街編も終わって一区切りですね

    満身創痍の状態から単身カワウソE班を全滅させたクリックベイトにあのスピードランサーの脳を焼いた女の底力を垣間見た

  • 217二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 09:54:52

    乙ですー!
    たった一人の最終決戦だったけど腫れ物がとれたかのように清らかでしたね…クリックベイトちゃん

  • 218二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 11:51:26

    数値的にハイエンドとジェイルフィッシュまでは普通に退場あり得るのが怖いところ

  • 219二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 11:52:52

    学生街地獄やんけ

  • 220二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 12:06:03

    >>219

    学生街はここにグレンデルとかアロンダイトも来るかもしれないから更にカオスになりそう

  • 221二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 13:39:13

    ・治安悪化の原因がいなくなった
    ・オオカワウソは対運営のDチームなのでその気なら協力関係を築ける
    ・ジャスティスファイアと冨島千秋は対運営側かつ協力関係
    ・バルバロイは好戦的だが対話及び戦闘の回避ができる

    今現在だと魔法少女にとっては糧鮴が一番安全な場所になっている皮肉

  • 222二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 19:10:57

    ミョルニルがクリックベイトの後を追ってしまった…
    他者回復持ちだしバトロワ的には早めに退場しそうなキャラではあったが

  • 223二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 19:30:13

    ハイエンドの魔法『ありとあらゆる武術を操るよ』って解釈によってはかなり化けそうな魔法だよね
    今後に期待

  • 224◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:33:58

    投下します

  • 225◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:38:37

     桐ヶ谷裂華……魔法少女、ジャック・ザ・リッパー。
     どうして切り裂きジャックと名乗るのか。ジェイルフィッシュには分からない。

     ただのオシャレ、あるいは中二病の発露であるなら、ジェイルフィッシュも気にしない。
     自分ももう少し年を取れば、そういう時期が来るのだろう。
     
     だが、かっこつけではなく、桐ヶ谷裂華の本質が『切り裂きジャック』……殺人鬼なのだとしたら。
     
     そうであるなら、裂華はジェイルフィッシュの、否、全ての魔法少女の敵だ。

     この『地雷』を、どう処理するべきか。
     

  • 226◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:42:29

    「裂華……いや、ジャック・ザ・リッパー」

     木陰に座り込み、顔を覆っていた彼女が、こちらに視線を向ける。
     能面のような顔。
     七海真美に見せていたしっかりとした年上の少女の仮面は脱ぎ捨て、裂華本来の表情をジェイルフィッシュに見せている。

    「……魔法少女名には、深くツッコまないの」

    「………………」

    「でも、物騒だから、警戒はしておくの。
     元々、私たちは真美っちが繋いだ仲。
     真美っちがいなくなった以上、仲良しこよしというわけにはいかないの」

    「あ、そう」

  • 227◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:50:13

     興味がない、とジャックの顔は雄弁に語っていた。
     心底ジェイルフィッシュがどうでもいいのだ。

    「その上で提案なの。
     ……一緒に、真美っちの仇を取りに行かない?」

    「嫌よ」

     明確な拒絶。
     ジャックは苛立たしそうに髪を掻きむしる。

    「どうして私が、あんたみたいなこまっしゃくれたガキと協力しなきゃいけないわけ?
     足手まといだし、絶対あんた、私の行動にいちいちケチつけるでしょ」

    「当たり前なの。
     ジャック・ザ・リッパーなんて名前の魔法少女、ほっといたら何するか分からないの」

     それは、ジェイルフィッシュも妥協できない部分だった。
     ただのかっこつけ魔法少女なら、同行しても安全だし、守ってあげられる。

     ガチ殺人鬼ならテンガイを倒すまで監視できるし、道中に弱点なども探ることができる。

     どちらにせよ、同行は決定事項。
     ジャックがどれだけ嫌がっても、ジェイルフィッシュは諦めるつもりもない。

     それに、ジャックもまたテンガイの出鱈目さは目撃したはず。
     戦力は少しでも多い方がいい。
     嫌がりながらも、ジェイルフィッシュの同行を納得するだろう。

  • 228◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:54:42

    「テンガイを倒すまでは一緒に行動する、それがベストな選択なの」

    「嫌だっつてんだろ」

     ジェイルフィッシュの頬に、痛みが走った。
     手で触れると、べっとりと血がついた。

    (嘘……攻撃されたの。
     こいつ、やっぱりゲームに乗って……いや、違う。
     もっと最悪なの……)

     ジェイルフィッシュの命を奪おうとしたのではない、と彼女は気づく。
     投げつけたのはリング観客席で取り出していたナイフだろう。
     それを恐るべき速度で投げた。
     完全に不意を突かれたこともあり、もし刃先が首筋、あるいは脳天に当たっていたら、死んでいたかもしれない。
     その絶好のタイミングを、ジャックは逃したのだが、殺意があるわけではないのだ。

     

  • 229◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 20:59:32

     だから、今のジャックの行動は。

    (癇癪……なの。
     え、マジなの? 本当に年上?)

     苛ついたからナイフを投げるという、あんまりにあんまりなジャックの行動に対して、ジェイルフィッシュは戦慄を覚えていた。
     思春期の少年少女は非行に走りやすいというが、自分もそのうちああなるのかな、ああ年は取りたくないものよ……。

     ジェイルフィッシュは知る由もないが、本来のジャックは殺人鬼であることを完全に……それこそ、あのティターニアにだって隠し通せる程の秘匿能力を持っている。
     癇癪でナイフを投げるような、目立つ真似はしない。
     だが、今のジャックは人生初めての挫折を味わい、神経が苛立っていた。

  • 230◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 21:04:31

    (これは……例え殺人鬼じゃないにしても、野放しには出来ないの)

     何としても、同行しなければならない。
     殺しまではいかないしても、しっかりと反省させなくては。
     テンガイ相手には大同盟で挑む気でいるのに、ジャックの性格がこうもアレでは、まともにチームも結成できない。

     戦闘態勢に入ったジェイルフィッシュを目にして、ジャックは苛立ちを隠そうとせず、億劫そうに息を吐いた。
     
     ジェイルフィッシュは好みではない。故に殺さない。
     だが、向こうが喧嘩をするつもりなら、今に限っては望むところだ。

     ゆらりとジャックは立ち上がる。

     殺し合いではなく、相手の心を折る勝負。
     二人の若き才能は磨き上げた魔法をいざぶつけあわんとし。

    「何だ、たった二人か」

     地獄の底から響くような声が聞こえた。

  • 231◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 21:09:49

    「余は、魔王ドレッドノート。
     最恐の魔法少女である」

     巨大な角に王冠、髑髏を象った大剣の魔法少女が、木々を掻き分けて現れる。

     ジャックも、ジェイルフィッシュも、ドレッドノートが纏う殺意に、当然のごとく気づいた。
     否、もし仮に二人が鈍くても、どれだけ鈍感でも、ドレッドノートの殺意には気づいただろう。

     ドレッドノートが左手で握っているのは——少女である。
     金髪碧眼、ツインテール。
     魔法少女ミョルニル——彼女の生首が、ドレッドノートの手元で微かに揺らめいていた。

  • 232◆xaazwm17IRZa24/07/10(水) 21:10:05

    投下を終了します

  • 233二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 21:16:07

    癇癪を起こすジャックに草

  • 234二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 21:27:10

    ドレッドノート、精神攻撃持ち以外には殆ど無敵と言っていい能力か…
    北エリアで彼女を倒せるとなるとAIWOTDさんくらいかな?

  • 235二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 21:38:09

    脳と心臓を潰されなければ大丈夫らしいミョルニル、脳と心臓で切り分けられた場合はどうなってしまうのか
    首より下は再生できないのかバグってプラナリアみたいに2人になるのか

  • 236二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 22:22:03

    乙です、ダイスが平均して渋いからここもまた簡単にはいかない戦場になってくるな…ワクワクする

  • 237二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 08:05:44

    保守

  • 238二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 09:13:24

    斬り分けられた場合ジオングみたいに独立行動する可能性もある

  • 239二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 14:43:09

    ティターニアさん、ジャックを殺人鬼と知った上で更生を狙ってたとかじゃなく偶然だったのね…ポンコツ……

  • 240二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 22:43:08

    ほしゅ

  • 241二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 02:33:33

    乙です
    ここのところ2日に一回くらいは更新があってとても嬉しいペース

  • 242二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 07:46:05

    どっと更新が来るからお得感あるね

  • 243二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 16:45:31

    そういえば生首で残ってるということは確実に生きてるのか
    ドレッドノートは承知の上で持ってるのか気付いてないのか

  • 244二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 22:57:16

    生存ダイスが下振れし始めてる…戦闘が激化する予感…

  • 245二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 23:11:34

    >>243

    変身状態で死亡すると光になって消えるんだっけか

    なら確定死が待ってるにしてもしばらくは持ちこたえてくれそう

  • 246◆xaazwm17IRZa24/07/12(金) 23:12:21

    投下します

  • 247二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 23:14:16

    よしきた

  • 248◆xaazwm17IRZa24/07/12(金) 23:21:21

     放送で呼ばれた死者に、ドレッドノートの心を震わせる対象は居なかった。
     
     かつての仲間は、みんな死んでいる。
     クラスメイト——田中 空/スカイウィッチの死に、思うところもない。
     魔法少女なのは意外であったが、それだけだ。

     それより、問題は名簿にあった。
     クラスメイト、桐ヶ谷裂華が魔法少女であった。
     あるいは名物教師、妃咲希が市内最強を謳われるあのティターニアの正体だった。

     それは、別にいい。
     さして思い入れもない。仲間を取り戻すためなら、一切の容赦なく大剣を振り下ろすことが出来る。

     記されたのは、一つの名前。

     王 龍明/ブレイズドラゴン。

     かつて、仲間を皆殺しに、夜祖神髑髏の心をへし折った、闇の世界を生きる魔法少女。

    「そうか、貴様も……貴様も、ここに来ているのか……!」
     

  • 249◆xaazwm17IRZa24/07/12(金) 23:28:58

     魔王の仮面で取り繕わなければ、ドレッドノードは憎悪と歓喜で絶叫していただろう。

     仇を討つ。
     サブカル系魔法少女髑髏ちゃんではなく、最恐の魔法少女・魔王ドレッドノートとして、ブレイズドラゴンを討つ。

     どの道参加者は皆殺しだが、ブレイズドラゴンだけは絶対に自分の手で仕留める。

    「そして、アルセーヌは逝ったか」

     ドレッドノートの無敵性を破る可能性のあった魔法少女、墓場で相対した怪盗は放送で名を呼ばれていた。
     天敵も退場し、もはやドレッドノートの無敵を突破できる存在は居ない——ドレッドノートはそう信じる。

     これは、慢心ではない。
     むしろ、恐怖すれば無敵でなくなるドレッドノートは、「もしかしたら余ってあんまり無敵じゃないのかもしれない……」と考えれば考えた分だけ弱体化する。

     傲慢こそが、魔王の強さを支える土台である。

  • 250◆xaazwm17IRZa24/07/12(金) 23:37:44



    「ドレッドノート……夜祖神さん、魔法少女だったのね。しかも自称魔王て。
     自分で言ってて恥ずかしくないのかしら」

    「ジャック・ザ・リッパーを名乗ってる奴に言われたくないぞ桐ヶ谷裂華」

     ドレッドノートとジャックは、クラスメイトである。
     互いに魔法少女であることは知らず、名簿によって始めて事実を知った。

     もう一学年の上、ネコサンダーならば赤面してのたうち回る状況だが、ドレッドノートとジャックも、もはやそんなメンタルではない。

     決意を込めて、美学を持って、二人は自らの魔法少女名を名乗っている。

    「知り合いなの?」

    「クラスメイトよ」

     クラスメイトが、殺意を自分にぶつけている。
     デスゲームものならよくある悲劇だが、ジャックに動揺する様子は見られなかった。

     その態度が、ますますジェイルフィッシュの不信感を募らせるが、今この状況ではそれはジェイルフィッシュに有利に働いている。相手がクラスメイトだからといって、ジャックのパフォーマンスが下がることはないからだ。

  • 251◆xaazwm17IRZa24/07/12(金) 23:41:40

    「ふん、我が覇道の糧となるがいい」

     ドレッドノートが、先ほど『殺した』魔法少女、ミョルニルの生首を持って登場したのは、残虐趣味ではなく、相手に恐怖心を与え、戦局を有利に進めるためであった。

     もしそれがミョルニルの知り合いであるならば、発狂、戦意喪失まで追い込めるかもしれない。

     が、ジャックも、水着のロリ(ジェイルフィッシュ)も、取り乱した様子は見せない。
     作戦は、失敗に終わったらしい。

     ならば、生首はもはや必要ない。
     ドレッドノートは生首を放り捨てる。

     そして、大剣を構え、二人の魔法少女を両断せんと進軍を開始する。

  • 252◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:18:03

     カン、とその額にナイフが当たった。
     ジャックのコートから放たれたナイフ。ジャックの魔力が浸蝕したこのナイフは、市販品でありながら、魔法少女も貫く威力を秘めている。

     が、無敵のドレッドノートには、意味を為さない。
     ナイフは勢いを失い、地に落ちる。

    「はぁ?」

     ジャックは不満の声を上げた。
     ドレッドノートはその隙に距離を詰める。
     駈け出さない。むしろ堂々と着実に歩みを進める。
     ドレッドノートには遠距離の攻撃手段が無い。必要ない。距離を詰めるまでにどれだけ攻撃を当てられても、ドレッドノートには傷一つつかないのだから。

  • 253◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:26:28

     ドレッドノートの視界を、無数のシャボン玉が遮る。
     ジェイルフィッシュの魔法によるものだった。
     帽子から伸びる無数の触手が、それぞれ魔法陣を展開し、シャボン玉を繰り出す。
     シャボン玉に、殺傷力はない。もしあってもドレッドノートを突破できない。

     視界を遮られたドレッドノートの顔が、不快そうに歪む。
     ——シャボン玉に紛れて、ナイフが側面から襲来する。
     ドレッドノートの死角からの攻撃。ナイフはドレッドノートの首に刺さり——勢いが殺され、地に落ちる。

     ジェイルフィッシュとジャックの連携は、上手く機能していた。
     ジェイルフィッシュが視界を塞ぎ、ジャックが死角から攻撃する。
     『ドレッドノートは何らかの手段で攻撃を無効化している』
     『意識外からの攻撃なら無効化できないのでは?』
     言葉を交わさなくとも、天才と秀才の二人は、互いの思考を理解し、魔法の解明のために動いていた。

     だが、過程は良くても、結果は無惨。
     ドレッドノートの無敵は、その程度では突破できない。

  • 254◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:31:11

    「無駄だ、余は無敵である」

    「無敵の魔法少女なんて、この世に存在しないの」

     ジェイルフィッシュは臆することなく、堂々と答えた。

     そして。
     ドレッドノートの周囲を、円を描くように泡が走る。

     泡による目隠し。
     死角からのナイフ攻撃。それらは囮であった。(ジャックにそんな意識は無かったが)。
     本命は、ジェイルフィッシュの真骨頂。

    『シャボン玉に相手を閉じ込めるよ』

     ドレッドノートを中心に泡が広がり、ぱちんと閉じられる。
     ドレッドノートは、大きなシャボン玉の中に閉じ込められた。
     

  • 255◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:35:22

    「縮小!」

     ジェイルフィッシュは掌をぎゅっと握る。
     しかし、何も起こらない。
     シャボン玉に閉じ込め、そのまま小さくしてしまうのが、ジェイルフィッシュの本来の攻撃である。
     だが、ドレッドノートを包んだシャボン玉は大きなままである。
     ドレッドノートの無敵は、『縮小させる』ことを『攻撃』と判断した。故に、その効果はドレッドノートに及ばない。

    「無駄だ、余は無敵の魔王・ドレッドノートである」

     鬱陶しいとばかりにドレッドノートは大剣をシャボン玉に振るう。

     ぶよん、と柔らかい音がして、ドレッドノートの剣は押し戻された。

  • 256◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:44:49

    「……何?」

     ドレッドノートは訝し気に泡を睨む。
     そして——高速の剣撃を自身を覆うシャボン玉に浴びせかけた。
     ブレイズドラゴンに敗北して数年、地獄のような訓練と掻い潜った修羅場により、ドレッドノートの剣捌きは一流レベルに達している。
     だが、シャボン玉は変形するだけで、割れる気配が無い。

    「……どういうことだ」

     ドレッドノートは、無敵である。
     恐怖さえしなければ、核ミサイルを撃ち込まれても傷一つつかない。
     だが——あくまで無敵なのは、ドレッドノート本体であり、自身にかけられた魔法効果は弾くことは出来ても、自身を対象としていない魔法は無効化の対象外だ。

     ジェイルフィッシュのシャボン玉は、外側からなら簡単に割れるが、内側からは破ることが出来ない。
     いわば、シャボン玉の内側はドレッドノートと同じ『無敵』である。

     ドレッドノートの『無敵』は、他者の『無敵』を無効化できない。

  • 257◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:49:24

     ——ドレッドノートがどれだけ剣を振りまわしたところで、シャボン玉の外に出ることは出来ないのだ。

     ジェイルフィッシュ。アルセーヌ以上に、ドレッドノートにとって天敵といえる存在だった。

    「…………ふん」

     ドレッドノートは取り乱さない。
     大剣を地に刺し(そこもシャボン玉なので、ぶよんと刺さることはなかったが)、二人の魔法少女を睨みつける。

    「メルヘンで可愛いわよ、夜祖神さん。卒アル用に一枚撮ってあげようかしら?」

     ジャックは軽口を叩くが、ジェイルフィッシュの額からは——汗が垂れていた。
     それを見て、ドレッドノートは笑みを浮かべる。

    「何分だ?」

  • 258◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:53:46

     ジェイルフィッシュは応えない。その顔は焦燥に満ちている。

    「貴様がこの泡を維持できるのは後何分だ?
     そう長い間維持できるものではないのだろう?」

     ——ジェイルフィッシュの魔法は、失敗している。
     本来は①泡に閉じ込め②縮小&魔法無効化③触手の一撃!→相手は戦闘不能。
     という一連の流れがある。

     外側から簡単に破れる、一瞬で割ってしまうという縛りがあるからこそ、内側から破れないシャボン玉というチートなものを生成できるのだ。
     それをずっと維持するなど——尋常ではない魔力消費となる。

  • 259◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 00:59:41

     ほとんど呼吸を止めているかのような疲労が、ジェイルフィッシュに襲いかかっていた。
     だが、泡を解除したところで、ドレッドノートの無敵を突破する手段は無い。先ほどドレッドノートが見せた剣捌きは、ジェイルフィッシュに脅威を感じさせていた。
     近接戦に持ち込まれれば、ジェイルフィッシュは手も足も触手も出ない。そう理解させる。

     頼みの綱はジャックだ。
     シャボン玉を維持するだけで脳の酸素まで消費されているのか、ジェイルフィッシュはまともに思考を働かせることが出来ない。
     クラスメイトのよしみで説得するか。
     ドレッドノートの無敵を突破する解決策を見つけるか。
     先ほどのように上手く連携を取らねば。

  • 260◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 01:04:17

    「じゃあ私テンガイ殺しに行くから、そのまま足止めよろしく」

    「ふざけんじゃねーのっ!?」

     その場を去ろうとしたジャックに、ジェイルフィッシュは思わずブチ切れた。
     集中が乱れ、泡が弾ける。

     自由の身になったドレッドノートが、一足でジェイルフィッシュへの距離を詰める。
     おくびにも出さないが、ドレッドノートの中で、ジェイルフィッシュの脅威度は跳ね上がっている。
     少しでもドレッドノートを脅かす存在は——確実に排除する。
     魔王の一撃は、ジェイルフィッシュに振り下ろされる。

  • 261◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 01:10:46

     金属音が響く。
     ドレッドノートの大剣は、ジャックが両手で構える二本のサバイバルナイフで、受け止められていた。

    (図られたか)

     わざとジェイルフィッシュの集中を乱し泡を割らせ、ドレッドノートの突撃のタイミングをコントロールされた。
     その結果、大剣をナイフで受け止められるという、ドレッドノートにとって不愉快な状況が発生する。

    (だが、それでは余を殺せん)

     仮にジャックの近接能力がドレッドノートに匹敵、あるいは上回っていても、ドレッドノートの勝利は揺るがない。
     先ほど『殺した』、些か回復力に優れていたプレートメイルの魔法少女も、ドレッドノートに匹敵、あるいは凌駕する近接技術を示してみせた。
     だが、ミョルニルのハンマー攻撃はドレッドノートに傷一つつかず、ドレッドノートの攻撃は、ミョルニルの鎧やそこから露出した素肌に傷を与えていく。
     結局、ドレッドノートがミョルニルの首を斬り落としたことで、戦いの決着はついた。
     ジャック戦もそうなると、ドレッドノートは予測を立てる。

     

  • 262◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 01:18:23

     刃渡りも質量もまるで違うナイフで大剣を受け止めたジャックの、漆黒に染まった顔は——歪な笑みを浮かべる。

    (何故笑う?)

     ドレッドノートが訝しんだときだった。
     ジャックの顔を覆っていた漆黒が、コートからどろりと姿を表す。

     ジェイルフィッシュの二の轍は踏まない。ドレッドノートは警戒し、距離を取ろうとするが、漆黒は大剣に向かって伸びた。
     咄嗟に剣で斬り払う。
     
     だが、漆黒はぐにゃりと形を変え——刀身に纏わりついた。

    「ぬぅ……!」

     生理的嫌悪感を覚え、ドレッドノートは剣を振る。だが、漆黒は振り払えず、じわじわと刀身から柄へと昇っていく。

    (恐れるな……どんな攻撃であろうと余には通じない)

     柄まで漆黒に染まった大剣を、ドレッドノートは強く握る。
     この漆黒がドレッドノートの肉体に触れたところで、彼女を脅かすことはない。
     無敵のドレッドノートは、いかなる魔法でも傷つかない。

     だが。
     無敵なのは、ドレッドノートであり——剣ではなかった。

  • 263◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 01:23:54

     するり、と剣が一人でドレッドノートの手から離れた。
     
     そして、そのままドレッドノートの首を刎ねる。

     効かない。
     ナイフのように、大剣もまたドレッドノートに傷をつけない。
     諦めたのか大剣は地面を這うように進み——ジャックの手元に収まった。

    「プレゼントしてくれてありがとう夜祖神さん」

    「……余の武器なら余を殺せると思ったか?
     所詮は殺人鬼の浅知恵だな、ジャック・ザ・リッパー」

     ジャックの漆黒が浸蝕した物質は、ジャックの支配下に置かれる。
     剣の経験が無いにも関わらず、ジャックはその場で剣舞を披露してみせる。
     天才ゆえか、その動きは堂に入ったものだった。

     ドレッドノートの身体に未だ傷一つつかず。
     されど彼女は徒手空拳に追い込まれたのだった。
     

  • 264◆xaazwm17IRZa24/07/13(土) 01:24:07

    投下を終了します

  • 265二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 02:07:52

    効きさえすれば道具頼りのやつはアウト…格闘戦得意な相手だったらどう戦うんだろうな

  • 266二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 08:56:48


    防御面は強いけど攻撃面では魔法の効果がないのか

  • 267二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 08:58:59

    実はドレッドノートの弱点って無敵化の穴よりも攻撃性能の低さにあるのでは?
    まあそれを言ったらすぐ横で生首になってるお嬢様も同じだが

  • 268二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 10:40:25

    「大剣を持っている」ことがドレッドノートに無意識の縛りを課しているな
    無敵の=弾いたり防ぐ手段がないその拳で攻撃した方が100倍強いだろうに

  • 269二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 11:07:40

    この山奥だと武器に適したものもないだろうが、市街地に降りたらさらに化けそうな魔法
    自動車とか電柱とか武器にしたら面白そうなものは溢れかえってるし

  • 270二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 11:34:26

    >>267

    ゆっくりになってるお嬢様は自分の魔法少女名と持ってるハンマーから完全に攻撃系っぽいのに

    実際には他者回復も出来る治療特化なのがなんか面白い

  • 271二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 20:15:23

    今日は更新あるかな

  • 272二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 00:30:01

    大剣が封じられ徒手空拳に切り替わった事で強化された…のかな?無敵を振るいやすい意味で

  • 273二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 01:22:19

    ドレッドノートの固有魔法でいう"無敵"は防御面に限った話で攻撃力には一切関与しないんだ
    ただジャックザリッパーを相手にする上で徒手空拳が最も理に適ってるのはそう

  • 274二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 09:40:08

    保守

  • 275二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 17:58:58

    一周目では殆ど出番の無かったミョルニルやクレアボヤンス、マクハクの動向も気になるところ……

  • 276二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 23:30:40

    ドレッドノートに揺らぎが生じさせれるかの勝負
    漆黒の生理的嫌悪感が割と効果ありそう

  • 277二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 08:32:26

    保守

  • 278二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 14:30:57

    見直すと北部は殺し合いに乗ってる組が多いんだな

  • 279二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 15:38:35

    拳の威力に「無敵」は影響しない
    ただ拳の軌道を逸らしたり弾いたりが攻撃と見なされる場合どうなるか

  • 280二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 23:19:49

    保守

  • 281二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 07:47:11

    ハニーハントもそうだけど概念系の魔法は振れ幅がデカくて癖が強いのよね

  • 282二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 15:20:17

    概念系は解釈とか上限次第で格上食える時もあればそもそも使用出来る条件下にない場合もあるからね

  • 283二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 22:40:53

    今夜はあるかな

  • 284◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 01:26:58

    投下します

  • 285二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 01:35:01

    まってました

  • 286二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 01:36:24

    yeah

  • 287◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 01:37:18

    あーん!麦ちゃんが死んだお!

    麦ちゃんよいしょ本&麦ちゃんF.Cつくろー!って思ってたのに…

    くすん…美少女薄命だ… あーん


    うっうっう…ひどいお…ふえーん!!

    ゲームが始まってまだ八時間くらいじゃないか!

    どーして、どーして!?あれで おわり!?嘘でしょ!?

    信じられないよおっ あんなジャスティスファイアごときに殺られるなんてっ!! 生き還りますよね?ね?ね? ……泣いてやるぅ

    クレアボヤンスはあの忠犬って感じの彼女が(たとえ殺し屋でもさ!ヘン!)大好きだったおっ!!

    麦ちゃあんっ!死んじゃ嫌だああああああっ!!

    魔法王のカバッ!!え~ん

  • 288◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 01:41:19

     クレアボヤンスは意気消沈していた。
     ゲーム開始当初は何らかの制限か、あるいは本調子でなかったのか、彼女が密かに推している魔法少女、殺し屋の犬・麦/ヒートハウンドを『千里眼』で捕捉することが出来なかった。

     だが、しばらくするうちにヒートハウンドの様子も千里眼で追えるようになり。
     地下鉄での2キル、放送後のジャスティスファイアとのデスマッチ。それらをクレアボヤンスは鑑賞していた。

     結果、推しは死んだ。

    「辛いお……何もする気になれないお……」

  • 289◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 01:48:43

     麦の死がショック過ぎたあまり、彼女はそれから一歩も動くことが出来ず、また、千里眼も発動させていない。
     そのため、テンガイVS七海真美、あるいは病院を襲ったダークワンや、警察署を襲ったオオカワウソ、何より繁華街のブレイズドラゴンの大暴れと『始まりの魔法少女』の降臨、他各地域で起こった戦闘を、一切把握していない。

    (ティターニアがゲームに呼ばれる時点で……参加者のレベルは恐ろしく高いお……だから麦ちゃんが死ぬ可能性は十分にあったお)

     何より、クレアボヤンスは優勝を考えていた。
     自分より格上の魔法少女が拉致されている時点で、魔法王には絶対に勝てないと考えたからだ。

     そして、麦は優勝する上で大きな障害になる。
     何しろクレアボヤンス単体では歯が立たない。また、修羅場を潜り、敏い彼女を騙すことは、かなり難しかっただろう。

     優勝を考えるなら麦の死は朗報だ。
     が、クレアボヤンスはそこまで割り切れない。
     そこまで悪人になり切れない。
     

  • 290◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 01:58:13

    「失礼するわ」

     木小屋の扉が開かれ、クレアボヤンスは弾かれたように立ち上がった。

    (し、しまったお……! 周囲を見張っておくのを忘れていたお!)

     クレアボヤンスの魔法は千里眼。木小屋の周辺を監視しておけば、危険な魔法少女が近づいても早めに逃げられる。山岳地帯なので、人込みに紛れられて気づかない可能性も無い。

     が、それを怠り、ここまで近づかれてしまうと、クレアボヤンスの打つ手は限られてしまう。放送時に支給されたマジックアイテムはあるが、どこまで頼れるかは考え物だ。

    (だ、誰が来たお……? この近くに居た魔法少女は……)

     全てを把握しているわけではない。
     だが、千里眼のクレアボヤンスは、電子機器を媒介としなければいけないナイトメア★メリィと違い、監視能力に制限は無い。(その代わりメリィのような情報改竄能力は持っていないが)
     メリィ以上に、魔法少女の居場所や、その得意魔法、ゲーム開始から日が昇るまでの動きをある程度把握している。

    (もし来たのがドレッドノートなら……終わりだお)

  • 291◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 02:06:50

     現れたのは、お嬢様風の衣装に身を包んだ魔法少女。

    「私の名前はクィーン……魔法王を打倒し、新たな魔法の国の女王となる女よ!」

     幼き女王は、力強くそう宣言する。

    (クィーン……確か、ドレッドノートと戦って、負けた奴だお……)

     戦力としては、些か心もとない。
     が、クレアボヤンスソロプレイとは、比べるまでもない。

    (場数も踏んでないだろうし、肉壁としてはいいかもしれないお……)

     クレアボヤンスは極悪人ではないが、善人ではない。
     主催者打倒を掲げる魔法少女を、ローブの下から計算高く観察する。

    「クレアボヤンスは、クレアボヤンスだお……。
     ゲームには、乗ってないお……」

    「なら貴女は私の騎士団に入団する資格があるわ。
     恰好もファンタジーっぽいし」

  • 292◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 02:10:49

     千里眼を怠っていたことは失敗だったが、ファーストコンタクトの相手は上々だった。
     程々の戦力があり、善良で、平和な世界の人間。
     クレアボヤンスが利用するにはちょうどいい。

     これからよろしく、とクレアボヤンスは右腕を差し出した。
     その手をがしりと握ったのがクィーンではなく、チャイナドレスから伸びた、細く引き絞った右腕だった。

     女王ではなく、拳法家の腕だ。

    「おい」

     いつから其処に居たのか。
     ハイエンドが、クレアボヤンスとクィーンの傍に立っている。

  • 293◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 02:16:07

    「君たち、麦という犬知らないカ? ゴールデンレトリバー、あるいは犬耳の魔法少女ヨ」

     ハイエンド。殺し屋。麦の飼い主。

     クィーンが知らないと言う前に、クレアボヤンスがこの局面でどうやって他の魔法少女を動かすのか策を練る前に。

    「お前今、麦という名前に反応したナ?」

     僅かな眉の動き、肩の震え。
     それを殺し屋は見逃さない。

    「麦の場所知ってるのカ?」

    (どう言えばいいお……死んだなんて正直に言えば、こいつがどんな動きするのか予想がつかないお……)

     クレアボヤンスは悩む。
     そして、ゆっくりと口を開いた。
     

  • 294◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 02:16:21

    投下を終了します

  • 295二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 06:31:32

    地雷踏むなよ!絶対踏むなよ!

  • 296二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 07:44:22

    優しい嘘…がハイエンドの神経を逆撫でしないか心配である
    やはり正直に言うべきか…

  • 297二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 11:11:43

    クレアボヤンス、魔法の国の出来事まで見渡せるなんて固有魔法は随分と当たりの部類なんだな

  • 298二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 16:35:20

    正直に言ったら言ったで爆発しそうだし誤魔化せば爆発しそうだしで凄い厄介な存在

  • 299◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:09:47

    投下します

  • 300二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 23:15:58

    まってました

  • 301◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:20:59

     人は、呆気なく死ぬ。
     職業凶手・魔法少女ハイエンドはそれを誰よりも知っている。
     敏い者も、強い者も、富む者も、幸運の者も。死ぬときは死ぬ。
     『はい、お終い』と言わんばかりに、当たり前のように人は死ぬのだ。

     ただ、それでも予想外だった。
     まったく覚悟も無く、その名は呼ばれた。

     『陣内 葉月/ブラックブレイド』

    「はぁ……!?」

     幼馴染が、死んだ。

     

  • 302◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:28:16

    (何で……何で葉月の名が呼ばれたヨ?
     魔法少女だけの殺し合い、違うネ……?
     ……葉月も、魔法少女になっていた?)

     陣内道場で共に切磋琢磨した頃。
     ハイエンド、第一黄金時代。(第二は麦との生活)

     ハイエンドは殺し屋だ。裏の世界を生きる者だ。実戦的な武術を学んでいるとはいえ、葉月もヨシネも表の世界の人間。もう会うことはないだろうと、寂しさを抱えながらもそう自身を納得させていた。

     会いたい気持ちはあった。
     同じ高校に通ったり、ゲーセンでプリクラ撮ったり、カラオケ行ったり。
     が、殺し屋の自分と関わることで、葉月やヨシネに危険が及ぶかもしれない。
     そう考え、二人との関係を絶った。

     

  • 303◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:36:31

     だが、関係は断たれていなかった。

     魔法少女。
     姚莉鈴が魔法少女ハイエンドに成ったように。
     陣内葉月も魔法少女ブラックブレイドに成っていた。

     そして。

    「ヨシネ……」

     桐生ヨシネもまた、魔法少女バーストハートに。

     幼馴染三人は、それぞれが魔法少女になっていたのだ。
     名簿を握り、ハイエンドは怒りで震えた。

    「魔法王……!」

     愛犬だけではない。ハイエンドにとっての聖域を、魔法王は踏み荒らしたのだ。

    「お前は、生まれてきたことを後悔させてやるネ」

     この報復は、必ずする。
     葉月を殺し合いに放り込んだ魔法王と、葉月を殺した下手人を、絶対に始末する。

     

  • 304二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 23:44:01

    同一人物…

  • 305◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:47:03

    「……けど、それは後回しネ。
     まずは、麦を探すことが第一ヨ……」

     ハイエンドの知り合いで今も生きているのは四人。
     ブレイズドラゴン、麦、桐生ヨシネ、抜刀金。

     このうち、抜刀金は武術交流会で顔を合わせた程度で、特に思うところはない。向こうも莉鈴のことは忘れているだろう。戦闘力という面で見るなら、あの神業と言ってもいい居合術に固有魔法まで付いてくることを考えると、戦闘は避けたいところだ。ゲームに乗っているかどうかは未知。

     

  • 306◆xaazwm17IRZa24/07/17(水) 23:52:56

     ブレイズドラゴン、師匠については、読めない。気紛れで人でなしで適当な性格である。
    『これから強くなる若人を殺し合わせるとは無粋な奴よ。儂が魔法王を成敗してくれようぞ』と言って弱者を保護しているかもしれないし
    『カカカ、殺し合いとは面白い。さぁ、儂を楽しませてみせろ』と無差別に暴れまわっているかもしれない。
     何なら、数時間おきに上と下が入れ替わる可能性すらある。

     ハイエンド、及び麦についての行動も未知数だ。

    『カカカ、莉鈴、麦よ。無事だったか。お主らをここで死なせるのは惜しい。共に脱出しようぞ』かもしれないし
    『カカカ、莉鈴、麦よ。無事だったか? 今こそ収穫の時、見事儂を倒してみせよ、卒業試験じゃ!』と襲いかかってくるかもしれない。

    (殺し合いなくても、そのうち師匠は私を殺しにかかったはず……。麦に危害が及ぶ前に殺そうとは思ってたけど、殺し合いはいい機会かも知れないネ……)

     純粋な拳法の技術はともかく、総合的な戦闘力はまだ差が開いているとハイエンドは理解している。
     だが、他の魔法少女の協力や、魔法王の呪いなどを上手く利用すればブレイズドラゴンを排除できるかもしれない。

    (昔師匠と引き分けたティターニアも居る。上手くぶつければ勝機はあるナ……)

     が、ひとまずそれも後回し。
     

  • 307◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:00:20

     桐生ヨシネと麦。
     幼馴染と家族。
     どちらも死んでほしくない。

    (私は、どっちを優先する……?)

     二兎を追う者は一兎も得ず。
     どちらも捜索するにしても、そこには必ず優先順位をつける必要がある。
     例えばヨシネは北、麦は南に居ると分かった時、ハイエンドはどちらに向かうのか。

    (私は…………麦を優先するヨ)

     苦渋の決断だった。だからこそ事前に決めておかなければならなかった。
     もし、麦とヨシネの命を天秤にかけるときがあれば、ヨシネの方を切り捨てる。
     心がぎしぎしと悲鳴をあげる。嫌な状態だと思った。心身を健康に保つことは、殺し屋をやる上で最も重要なことだ。
     師匠ならば、悩んだりしないのだろう。故に彼女はハイエンドの知る限り、最強の魔法少女なのだ。ハイエンドには、その強さは無い。

     二人の無事を祈りながら、ハイエンドは地を蹴った。

  • 308◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:08:00



    「麦なんて……知らないお」

     クレアボヤンスの日課は、千里眼で麦という魔法少女を覗くことだった。
     故に、目の前のチャイナ少女——ハイエンドが麦の飼い主であることも、殺し屋であることも把握している。

     が、クレアボヤンスが麦を覗き見していたことなど、ハイエンドは知っておらず、またクレアボヤンスはそれを自白するつもりはない。

     だからこそここはシラを切る。
     その上で、『今から千里眼で観てやるお』などと言って有用性をアピール、かつ麦の死を上手く伝えてジャスティスファイアにぶつけ、共倒れを狙う。
     あるいは、下手人はティターニアだと嘘をついてもいい。強者は強者同士で殺し合わせるべきだ。

     動揺を押し殺し、クレアボヤンスは生き残るための策を練る。

     返答を聞いたハイエンドは、掴んでいた手を緩めた。

  • 309◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:16:30

     瞬間、クレアボヤンスの右手の親指に、激痛が走った。

    「ぎゃあああああああああああっ!?」

     突然の痛みにクレアボヤンスは一瞬でパニックに陥り、泣き叫びながら悶える。
     だが、ハイエンドが手を掴んでいるため、逃げることができない。

     ハイエンドは——噛み千切ったクレアボヤンスの親指を、床に吐き捨てた。

    「嘘をつく度に、お前は指失う。
     ——麦を知ってるナ?」

    「あんた、何してるのよ!?」

     事態を静観していたクィーンは慌てて止めに入る。
     
    「いくらなんでもやりすぎよ!」

    「どこがやりすぎ? 嘘ついたら針千本飲ますの、この国のやり方でしょ? 指一本くらい、何てことないネ」

    「ふざけないで、そんな野蛮な……!」

     

  • 310◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:24:29

     クィーンの背後に鎧騎士が出現する。
     ドレッドノートのように明確にゲームに乗っているわけではないとしても、このチャイナ少女は危険だ。人を傷つけることに一切の躊躇が無い。大切な人を探すために必死になっている……と見るには、あまりにも暴力に慣れ過ぎている。

     不良、半グレ、ヤクザ……否、もっと血生臭い、あの魔王とはまた異質な空気だ。

     ハイエンドは、現れた鎧騎士を面倒そうに睨んだ。

    (……勝てるのかしら、私が。
     けど、怖くて見過ごしたら、いつまでたっても私は本当の女王になれない……!)

    「クレアボヤンスを放しなさい! その子はもう、私の臣下よ!」

    「おままごとは余所でやててな」

     ハイエンドはクレアボヤンスの腕を掴み、引き寄せる。
     そして、彼女の首元に、ぴたりと指を合わせた。

    「攻撃したら、こいつには死んでもらうネ」

     

  • 311◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:30:18

    「何ですって………この、卑怯者!」

    「正々堂々殺し合い、馬鹿のすることヨ。
     それに私は、お前たちの命、どうでもいい。
     ——麦はどこ? 教えてくれたら開放するネ」

    「くっ……!」

    「言うから……言うから、もう痛いのはやめてお……」

     しゃくりあげながらも、クレアボヤンスは言葉を絞り出す。

    「麦って子は……あにまん市の真ん中の……プロレス会場に居るお!
     言った、言ったから助けて……ぎゃああああああああああああ!?」

     ハイエンドは、クレアボヤンスの人差し指を床に吐き出す。

    「どうしてぇ……言ったのに、ちゃんと言ったのにぃ……!」

    「お前、まだ嘘ついてるナ?」

  • 312◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:36:18

     ハイエンドには、嘘を見破る魔法や、読心魔法を持っているわけではない。
     だからこそ、痛みと恐怖をクレアボヤンスに与えた。
     訓練を積んでいない限り、この状態に陥った者は、考えがすぐ顔に出てしまう。

     クレアボヤンスも、麦の居場所を伝えた後、自分の嘘がバレていないかという焦りが顔に現れていた。それを、ハイエンドは見逃さない。

    「正直に、全部伝えろ」

     少しでも早く、少しでも確実に、麦と会うために。
     ハイエンドは、そのために一切手段を選ばなかった。
     殺し屋として、粛々と任務を達成してみせた。

     だからこそ。

    「麦ちゃんは、もう死んでるおっ!」

     あまりにも早く、残酷な事実に到達した。

  • 313◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:44:33

     クレアボヤンスを掴む手が、離れた。

    「死んだ……」

     掠れ声と共に、ハイエンドは壁に背中を預け、糸が切れたように腰を抜かした。

    「麦が、死んだ……」

    「動くな!」

     クィーンの騎士が、ハイエンドの眼前に刃を突きつける。
     しかし、ハイエンドの目はそれを追っていなかった。
     ただ混乱と、恐怖と、焦燥と、絶望がない交ぜとなって、美貌を醜く歪めていた。

     クレアボヤンスに痛みと恐怖を与え、本心が手に取るように分かる状態にした。
     だからこそ、嘘をついていないと分かる。分かってしまう。

     麦/ヒートハウンドは、死んだ。
     もう二度と、彼女と会うことは出来ない。

     ハイエンドの目から涙が零れた。

  • 314◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:48:08

    「ごめん……ごめんよ、麦……」

     薄々、分かっていた。
     麦が殺し合いに呼ばれたのは、飼い主である自分が殺し屋だからだろうと。
     もし麦の飼い主がカタギの人間だったなら、今頃麦は魔法少女になっておらず、幸せなゴールデンレトリバーのままだった。

    「私が飼い主でなければ……わ、私のせいで……」

     膝を抱え、ハイエンドは嗚咽を零した。

     クレアボヤンスもまた、痛みに呻き、泣きじゃくっていた。

     二人の少女の泣き声が響く小屋の中で、クィーンはどうしていいか分からず、ただ呆然とするしかなかった。

  • 315◆xaazwm17IRZa24/07/18(木) 00:48:22

    投下を終了します

  • 316二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 01:25:14

    麦ちゃん、同情もできるけど魔法少女二人ぽっち殺しただけで血も涙もねぇ…とも思う

  • 317二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 01:49:42

    乙です、指を噛み切るとはなんてニッチな趣こ…嫌な拷問だ
    しかし流石殺し屋だなぁ。駆け引きもある程度できるし状況判断を冷静で行える。それが果たして大切なものを失ったら爆発力はどれほどなのか…

  • 318二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 07:51:18

    うぉ…野生的だなぁ…

  • 319二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 08:06:57


    幼馴染も愛犬もハイエンドを置いて逝った中で
    『一番どうでもいい』と評した金ちゃんだけが皮肉にも唯一生き残ってるの最高だよ

  • 320二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 15:46:19

    死の原因になったデュエルの対象に選ばれたのは殺し合いに乗ったせいで誰のために乗ったのかというと…

  • 321二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 23:06:25

    保守

  • 322二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 02:00:36

    このレスは削除されています

  • 323二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 07:45:38

    >>320

    知れば知るほど自分が苦しむ羽目になるのホンマ…けこれも巡り巡ってなんだよね…

  • 32431924/07/19(金) 08:16:46

    >>319

    バーストハートがあの後生き返ったの完全に忘れてた

    (莉鈴の知るヨシネ本人かはまだ分からんけど)

  • 325二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 14:36:47

    あとはAIWOTDとノーブル・サヴェージか
    どちらかのグループに突っ込んでくるのか二人で衝突するのか

  • 326二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 22:24:40

    拷問が急いでいるように見えたので焦りがあるのでは…と思っていたが
    ハイエンドは正直者だ

  • 327二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 01:16:39

    このレスは削除されています

  • 328二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 09:45:06

    保守

  • 329二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 10:16:52

    思えばトータルで上回ってたはずのパラサイトドールが始まりの魔法少女にビビるのヤバいね
    突出した”何か”で他の弱い部分をチャラに出来るってことだから

  • 330二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 17:00:22

    破壊だけでなく復元もしてたし出来ることの範囲がデタラメっていうのはありそうね

  • 331◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 21:02:13

    投下します

  • 332◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 21:17:56

     薬師院怜那/ミョルニルは、クリックベイトのことが好きだ。

     友愛であり、敬愛であり、親愛であり——恋愛だ。

     何故こんなにも好きになったのだろう、と思う。
     劇的なものは無かったはずだ。
     街を巡回して犯罪者を取り締まるうちに、街のあちこちをぶらついているクリックベイトと仲良くなり、取り締まりに協力してくれるようになり、用も無いのに見かけたら声をかけるようになり——気づいたら、大好きになっていた。

     自分の性的嗜好が同性であることは、幼い頃から理解していた。
     初恋は小学校の担任の先生だし、初めて告白したのは二歳上の女子の先輩だった。
     男性嫌悪の裏返し、ではない。恋愛対象としては視れないが、大学にも男性の友人は何人もいる。

     クリックベイトは、派手な美少女でもなければ、理想の王子様でもない。
     けれど顔立ちは整っているし、身なりも綺麗だ。
     自己主張はあまりしないが、自分をしっかりと持っていて、話していると心地よい相槌を打ってくれる。一緒にいると落ち着く。

     だから、好き、なのだろうか。
     

  • 333◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 21:25:12

    (……よく、分かりませんわね)

     そもそも、恋愛感情を言語化できる、などと考えるのは思い上がりなのだろう。
     簡単には出来ないからこそ、人は愛を語るのだ。
     そして、ミョルニルには、クリックベイトへの愛を語る余裕は無い。

     何しろ、今の彼女は首から下が無いのだ。

    (まさか、首だけでも生きてられるなんて……)

     驚きましたわ、とミョルニルは思う。

     無造作に放り捨てられ、木々の根本に転がっているそれは、傍から見れば無惨そのものといった様相だが、ミョルニルの内面は五体満足の頃とそう変わるものではなかった。

  • 334◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 22:33:47

     むしろ、ジャックにあしらわれ、ドレッドノートと戦闘していた頃より、いささか落ち着いている。

    (わたくし、死んだのかしら。
     死んだらどうなるのかなんてまるでわかりませんし、実は科学的に証明されていなかっただけで、人は死んでも物を考えることができる……ということもありえますわね)

     試しに舌を動かしてみた。
     れろれろ。普通に動いた。
     あ、生きてるわこれ。

    (何となく、心臓と脳を壊されたら死んでしまう、という感覚はあったのですけれど。
     この二つを切り離しても生きていられるなんて、魔法というものは想像以上に奥が深いですわね)

     御年19歳。魔法少女としては中堅、ややベテランの域に達したミョルニルだが、自分の回復性能を試すために斬首チャレンジなど、やったことはない。
     そこまでイカレてはいない。

    (けど、これからどうなるのかしら)

  • 335◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 22:40:43

     頭から体を生やすことができるのだろうか。
     想像するとかなりグロテスクだ。

     では、身体と頭をくっつけることは出来るのだろうか。
     体を一から生やすより、それなら治す部位は僅かで済む。何となく、ミョルニルの中でも「それはできる」という感覚がある。

     が、ドレッドノートに首を切り落とされ、持ち運ばれた関係上、身体は少し遠くにある。そこまで首を転がしていくのか。考えると嫌になる。

    (身体をこっちに持ってこさせることは出来るかしら)

     試したことはない。
     敵から受ける傷を回復しながらハンマーで粉砕するのがミョルニルの戦闘スタイル。
     体をバラバラにして自由に動かすといった、トリッキーな戦闘を、考えたことは無かった。

    (クリックベイトならもっと柔軟に技を開発できたんでしょうけど)

     釣り竿一本で様々な局面に対応してみせる彼女のことを思う。
     

  • 336◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 22:51:24

     無事、なのだろうか。

    (……とにかく、身体を呼ばないと話になりませんわね)

     とりあえず、念じて見た。

     すると、何やら身体を動かしているような感覚が来た。
     奇妙な感覚だ。
     実際に首と繋がっている身体を動かしているのとは少し違う。
     車を操作しているような、そんな感覚。

    (あ、走りだしましたわ)

     どうやら上手くいったようだ。

     ミョルニルを斬首した下手人、ドレッドノートは、二人の魔法少女と戦闘を展開している。
     三人とも、強い。ドレッドノートは言うに及ばず、水着の魔法少女も、コートの魔法少女も、かなりの強者だ。
     コートの魔法少女は数時間前に襲おうとした。結局殺し合いに踏ん切りがつかず、戦闘にはならなかったが、もし戦っていれば、確実に勝てたかは怪しい。
     水着の魔法少女も殺傷力は低そうだが、シャボン玉に閉じ込める魔法は驚異的だ。

    (本当に、わたくしは殺し合いに乗るべきなのかしら)

     クリックベイトを優勝させるために殺し合いに乗る。
     そう決めたが、たった数時間で生首にされてしまった自分が、多くの魔法少女を相手取れるだろうか。
     何年も魔法少女をやっていて、大抵の相手に勝てる自信はあったが、この殺し合いの平均レベルはかなり高いように感じられる。
     

  • 337◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:02:46

     クリックベイトには死んでほしくない。クリックベイトが死んだ世界で生きていたくはない。
     けれど、闇雲に襲いかかっても、返り討ちに遭うだろう。
     何より、覚悟が決まっていない。
     クリックベイトは守りたいが、誰かに死んでほしいわけではない。
     人を殺したことなど——無い。

    (このままずっと生首なら、悩まなくていいのかしら)

     問題を、ずっと先送りに。

    (でも、今この瞬間も、クリックベイトは危険な目に遭っているのかも……)

     ならば駄目だ。
     乗る、乗らないは踏ん切りがつかなくても。
     五体満足にならなければ。

    (だから、来なさい。
     わたくしのボディ!)

     

  • 338◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:02:56

    首から下が走っているのを感じる。
     完全体に戻れたら、ひとまずコートと水着の二人に合流し、ドレッドノートを倒そう。ドレッドノートは明確に危険な魔法少女で、タイマンでは敗北した相手だ。
     もっとも、あの理不尽な無敵ぶりをどう突破していいのか、見当もつかないが……。

     と、身体が静止した。
     あれ? と思う。
     操作できなくなったのか。
     否、未だに動かしている感覚はある。

     ただ、進んでいない。
     脱輪したかのように、四肢が空を切っている。

    (これ、わたしくの身体、どうなってますの……?)

     身体だけ先に天に召された?
     そんな馬鹿な。

    (もしかして、誰かに持ち上げられてる?
     え、わたくしの身体、誰かが拾ったということですの?)

     じだばたと動かす。
     だが、何やら身体全体を縄のようなもので縛られているようで、拘束から脱出できない。

    (……もしかして、ものすごく不味いことになっているんじゃないかしら)

     この先ずっと生首かもしれない。
     来るべき未来を想像し、ミョルニルは恐怖した。

     それは、彼女の首を斬り落とした魔王には、許されていない感情だった。

  • 339◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:08:58



     ニマンア族の少女マク=ハク、魔法少女名ノーブル・サヴェージは、電話ボックスを後にした後、山岳地帯を散策していた。
     自然と共に暮らし、文明人を嫌悪するノーブル・サヴェージは、都市部に向かうつもりはなかった。
     アマゾンとは随分と違う日本の植生に感嘆しつつも、ノーブル・サヴェージは異郷に自らを適応させていき。
     その過程で、奇妙なものを発見した。

     木々が切断され、ひしゃげ、嵐が通り過ぎたような跡。
     そこに、見慣れない鎧を纏った体が、倒れている。
     ノーブル・サヴェージは、死体は見慣れている。文明人と違い、彼女たちニマンア族は、死を生活から遠ざけていない。

  • 340◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:18:46

    (この鎧は……石じゃないな)

     鉄を、彼女たちは知らない。
     また密猟者の纏う洋服は知っていても、中世のプレートメイルなど知っているはずが無い。
     だが、自分たちの部族ではなく、密猟者側の人間……獣の皮を被る奴らと同族だと察しがついた。
     ニマンア族は、直感に優れている。
     そうでなければ、厳しいアマゾンで生き残れるはずがない。

     獣の皮を被る奴らは嫌いだ。
     だが、この者はもう死んでいる。装束から戦士だったのだろう。周囲の様子から激しい戦闘の末に敗れたのだろう。

     頭部が無いのは、勝利者が持ち替えった故か。
     ニマンア族の中にも、戦闘で勝利した相手の頭部を飾る者がいた。
     ワニ、ヘビ、ジャガー、他部族の戦士、密猟者。
     相手への敬意を示す、一つの儀式。

    (獣の皮を被った奴らの一員だろうと、この者もまた戦士……。
     死者は丁重に葬らねば……)

  • 341◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:23:34

     膝をつき、ノーブル・サヴェージは部族に伝わる歌を歌った。
     敗れた戦士を讃える歌である。
     いつか、この戦士を倒した者と、ノーブル・サヴェージも相対するかもしれない。
     齢9歳といえど、女であろうと、ノーブル・サヴェージも誇り高きニマンア族の戦士。
     精霊より賜りし力を持って、全力で受けて立つ。
     
     そう決意を込めながら、ノーブル・サヴェージは祈りを捧げ。

     むっくりと首無し死体は起き上がった。

    「ギャー!」

  • 342◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:26:59

     獣のような悲鳴と共に、ノーブル・サヴェージはその場を飛び退く。
     
     死者が蘇る……! 部族に伝わる怪談に、そういう類のものがあった。
     捕まれば、自分も死者の国へ連れていかれてしまう。

    (逃げねば……)

     と思う。
     が、思い直す。

     今の自分には、精霊より賜りし力がある。
     例え蘇った悪しき魂であろうと、負けるはずがない。

     ダンダン、と地面を踏みしめ、ノーブル・サヴェージは死者に向かって威嚇の雄叫びをあげた。
     

  • 343◆xaazwm17IRZa24/07/20(土) 23:34:50

     すると、臆したのか、死者はくるりと背中を向け、ノーブル・サヴェージから逃げようとする。

    「ゴブヂョグロボレ……!(臆病者め……!)」

     ノーブル・サヴェージの足元に魔法陣が展開する。
     見る者が見れば、他の魔法少女とは微妙に異なる、極彩色で幾何学的な文様に興味を惹かれるかもしれないが、あいにくこの場に居るのは他の魔法少女の存在を知らないノーブル・サヴェージとミョルニルの首から下である。

     魔法陣から展開するのは触手……否、蔦である。
     それが縦横無尽に動き、ミョルニル(身体)を絡めとり、持ち上げる。
     ただの蔦であれば、魔法少女、それも近接戦を得意とする相手を拘束することはできない。
     だが、魔力が込められているのか、はたまた別の絡繰りがあるのか、ミョルニル(身体)は拘束を解くことは出来ず、じたばたと空中でもがいた。

  • 344◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 00:20:58

     かくして、ノーブル・サヴェージは悪霊との戦いに勝利した。
     
     喜びの舞を舞おうとして、はたと気づく。

    (ここからどうする?)

     生き物ならば、殺し、儀式を行う。
     だが、相手は既に死んでいる。
     儀式の対象ではない。

    (悪霊が死者の国へ帰れるよう祈るべきか)

     だが、先ほどは、祈っていたら悪霊が出てきた。
     つまり、この悪霊にノーブル・サヴェージの祈りは効果が無いのだ。

    (太陽に当たっているのに動いている……この悪霊、無敵か?)

     困ってしまった。
     いつまでも縛っていたら疲れる。
     集落以外で疲れ果ててしまうことは、死を意味する。
     どうしようかと思案する、ノーブル・サヴェージの嗅覚に

     ——樹木が燃える臭いが届いた。

  • 345◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 00:21:11

    投下を終了します

  • 346二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:42:04


    北エリアに火を扱う魔法少女は居ないから誰かが物理的に火をつけた?

  • 347二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:46:21

    樹木が燃える匂い…今度は誰だ?
    あと出てきてないのはアリスだけだが…

  • 348二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 00:49:32

    ノーブルサヴェージ、自然を操る魔法ってめちゃくちゃ当たり枠だよな
    おそらく植物だけではないだろうし

  • 349二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 02:29:44

    火を扱うどころか山岳エリアの魔法少女たちのメインウェポンって素手かよくて近接武器とかだしね…
    ハイエンドとかなら摩擦で炎の拳!みたいなことができるかもだけど

  • 350二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 09:02:17

    保守

  • 351二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 10:00:11

    ジオングお嬢様…

  • 352二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 14:19:31

    樹木燃やすだけならガソリンかっぱらって来てライターとか使えばいけるか

  • 353二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 17:59:56

    もしミョルニルの首から下(ョルニル)がコンニチハしてくればドレッドノートへの一つの打開策になるかもしれないな…(拘束されてる現状から目を背けながら)

  • 354二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 21:52:10

    ヘッドオンお嬢様…

  • 355◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 22:29:32

    投下します

  • 356◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 22:38:05

     木小屋の中に、泣き声が響いている。

     クィーン——王城 姫子は、途方に暮れていた。
     ローブの少女——クレアボヤンスは痛みに泣き、チャイナドレスの少女は喪失に泣いている。

     召喚した騎士はチャイナドレスの少女に刀を突きつけている。何故ならチャイナドレスの少女は危険だからだ。
     人の指を噛み千切った。
     そんな発想は、クィーンには無い。
     明らかに、クィーンが今まで居た世界とは違う場所から来ている。

     だが、危険なはずの彼女は、喪失にすすり泣いている。
     麦、という少女を探していたらしい。家族、友人、恋人?
     ゴールデンレトリバーと言っていたが、犬に変身できる魔法少女、ということだろうか。

     その麦は、死んだのだという。

  • 357◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 22:45:37

     人は死ぬのだ。
     アルセーヌのように。
     星月夜のように。

    (なによ、クラスメイトだったなら、そう言ってくれたら良かったのに)

     星月夜と王城姫子は同じ中学、同じ教室で過ごす仲だった。
     殺し合いが始まって真っ先に出会い、互いに正体を明かすことなく意気投合し——アルセーヌはクィーンを庇って死んだ。

     他にも四人、クラスメイトが殺し合いに招かれている。
     皆、魔法少女だったのだ。

     他者を喪失した感覚は、クィーンにも分かる。
     だがそれは、チャイナドレスの少女と比べれば浅いのだろう。
     星月夜とはそこまで親しい関係だったわけではない。
     クィーンとも、濃くはあったが短い付き合いだ。

     家族を、親友を、恋人を失うは、クィーンには分からない。

  • 358◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 22:52:12

    (今のうちにチャイナドレスを始末する……? 
     それは……嫌だわ)

     危険な少女だ。けれど、ドレッドノートのように明確にゲームに乗っているわけではない。
     何より、泣いている女の子を斬ることは、クィーンの王道に反する。

    (とりあえず、様子見、かしら……。
     後はクレアボヤンスの治療も……)

     もっとも、指を噛み千切られた場合の対処法などまるで知らないが。
     患部を冷やせばいいのか。119をするべきなのか。

     クレアボヤンスは、ローブから注射器を取り出していた。

     クィーンは嫌な予感がした。

  • 359◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:03:31

     クレアボヤンスは二の腕に針を刺す。そして、中の液体を体内に取り込んだ。

     変化は劇的だった。

     ずん、とクレアボヤンスの身体が膨れ上がる。

     ローブから覗く腕は逞しく膨れ上がり、上背も二倍程になる。
     足も太く長く伸び、ぱつぱつになったローブの上から、筋肉が浮かび上がる。

     マッチョがそこに立っていた。

     驚愕するクィーンを他所に、クレアボヤンスは掌をぐーぱーと広げる。
     指が、生えている。

    「一体、何をしたの……?」

     クレアボヤンスは、やはりクィーンの言葉を無視し。
     蹲るハイエンドに視線を向けた。
     先ほどまでの弱弱しい表情は消え失せ、怒りと戦意に満ちた顔で、睨む。

     

  • 360◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:09:28

     そして。

    「倍返しだおおおおおおおおおおおおおおおお!」

     蹴りを、ハイエンドに叩き込んだ。

     クィーンから見ても素人丸出しの動きだったが、その威力は凄まじく、ハイエンドがもたれていた壁は粉砕され、ハイエンドは外に転がっていく。

     ドンッという爆音と共に、筋骨隆々のクレアボヤンスも外へ躍り出る。

     後に残されたクィーンは、状況についていけず、その場で立ち尽くした。

    「うわああああああああ!? 山火事だおおおおおおおお!?」

    「何ですって!?」

     慌ててクレアボヤンスが開けた穴から外に飛び出す。

     

     

  • 361◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:18:43

    「嘘でしょう……!?」

     頭を抱えているクレアボヤンスを視界の隅に収めながら、クィーンは呻く。
     渓谷を覆いつくすように、炎が広がっている。
     いつのまにここまで火が広がったのか、今しがた小屋に入ったときは、何も起きていなかったはずだ。

     自然発火ではありえない。
     ならば——魔法少女か。

    「麦……?」

     と、ハイエンドは呟いた。

  • 362◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:18:54

    「麦……!」

     そのままチャイナドレスの少女は炎の中に飛び込んでいく。

    「炎上は怖いお! 自宅を特定されるのはごめんだお!」

     クレアボヤンスもまた、訳の分からないことを言いながら、ハイエンドとは反対方向、まだ燃えていない場所へと駆けていく。

    「ちょ、待って、待ちなさいよ!」

     どちらも、異様に足が速い。
     フィジカル特化ではないクィーンでは、二人に追いつくことは出来ない。

     何より、どちらを追えばいいのか。

    (ああもう、私はどうしたら……)

     若き女王は、状況に翻弄され続けていた。
     

  • 363◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:23:47



     くるるーん、くるるるるるるるるるるるるーん、くるるるるるるるるるー。

    「全ての魔法少女は、死ななければなりませぇん」

     柩枢(ひつぎくるる)/アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッドは、歌うようにそう言った。

    「全ての魔法少女は、灰にならなければなりませぇん」

     炎の中でアリスは踊る。
     その周囲には、同じ顔の魔法少女が三十人程集まっている。生気が無い彼女たちは、幽霊のように、アリスの独演会の観客を務めている。

  • 364◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:26:18

    「アリス」

     と、呼びかける声があった。

     周囲の魔法少女から発せられたものではない。
     彼女たちに、アリスに呼びかける知性は残っていない。

    「何かしら、愛しのジャバウォック?」

     アリスは、それに笑いかける。

    「こちらに向かってくる奴らがいるぜ」

    「あら、とうとう来たのね、お客さんが」

  • 365◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:32:32

    「複数の方向から来ている。
     全員迎え撃つのか?」

    「ええ、そのために火をつけたのだもの」

    「まったくアリスは人使いが荒いな。
     いや、機械使いかな」

     それは、人型ではなかった。
     竜……前足が退化した、ワイバーンのような形状をしている。
     インテリジェンスウェポン。所有者によって形を変えるマジックアイテム。
     アリスの要望により、この兵器は『鏡の国のアリス』に登場する怪物、ジャバウォックを模していた。

    (もっともジャバウォックは正体不明の怪物であり、より厳密にはアリスがかつて愛読していた文庫本の挿絵に描かれたものをイメージしているが)


     

  • 366◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:37:01

    「楽しいお茶会になるわ、灰になった魔法少女はお空に昇るの。そして雨になって降り注いで、新しい世界を形作るのよ」

    「ふーん、僕には理解不能だな。
     まぁアリスの言うことだし、間違ってはないんだろうな」

    「…………ねぇ、あなたのその性格って、私が無意志に求めてる性格なのよね?」

    「ああ、そうだぜ。そう説明しただろ。
     ……何か顔赤くなってないか?」

    「なってないわよ……」

     その口調は、かつて同じ小学校に通い、馴染みの中華屋でアリスの言葉を真剣に聞いてくれたとある少年を思い出させるものであり。

  • 367◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:44:05

    (私が逢魔くんを無意識に求めてる……?
     そんなのあり得ない。
     私には使命があるんだから)

     この世界は間違えているのだから、インテリジェンスウェポンが間違うことだってある、と雑に結論付けて、アリスは俗な考えを振り払った。

     名簿に描かれた、逢魔愛裏という名前は無視した。
     男が魔法少女になれるはずがないのだから。
     同姓同名の少女が居るのだろう。

     まさか自分の幼馴染が、男なのに魔法少女になっていて、更にこの殺し合いに招かれているなんて——そこまで世界が狂っているはずがない。

    「さぁ、咎人を救ってあげましょう。
     世界を救えなかった者たちを灰にして、正しい世界に作り替えましょう」

     業火の中で彼女は笑う。
     不条理劇の幕が、上がろうとしていた。

  • 368◆xaazwm17IRZa24/07/21(日) 23:44:20

    投下を終了します

  • 369二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 06:38:03

    結局お前が犯人なんかーい

  • 370二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 09:07:11

    このエリアは数の暴力vs現状無敵状態vs他の魔法少女って感じか
    広範囲攻撃系がいないから三十人相手は大変そう

  • 371二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 11:23:27

    AIWOTDすごく良いキャラしてるな
    ノーブルサヴェージ相手だと手数がいても少々分が悪い気もするがどう戦うのか

  • 372二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 20:35:41

    メリィくんは枢ちゃんのこと覚えてるのかな?
    友達と比べて地味な自分が…っていう彼が魔法少女になったきっかけにも関係してるのかな

  • 373◆xaazwm17IRZa24/07/22(月) 23:32:16

     投下します

  • 374◆xaazwm17IRZa24/07/22(月) 23:39:49

     ノーブル・サヴェージは激怒した。
     必ずあの邪知暴虐な『野蛮人』を倒さねばならないと決意した。
     獣の皮を被り、『火の武器』で獣を狩る者たち。
     神聖なる儀式を汚す、神を知らぬ未開の者たち。

     とうとう彼らは森を焼いた。
     ここはノーブル・サヴェージの故郷ではないが、生かしておけぬ。

     ゼギバスゲゲル(聖戦)を開始する。

    「ボゾグ……!」

     炎の中を、ノーブル・サヴェージは駆ける。
     魔法少女として強化された肉体は、多少の炎は通さない。

  • 375◆xaazwm17IRZa24/07/22(月) 23:47:36

     拘束していた悪霊は、後回しだ。
     何より優先するのは、森を焼いた悪を討つことである。

    「うわああああああ、炎上が止まらないお! このインターネットはもう終わりだお!」

     前から走って来る屈強な体格の戦士——クレアボヤンスの強化形態——を、ノーブル・サヴェージは見逃す。

     獣の皮を被った奴らは嫌いだが、森を焼いた悪しき者と比べ、優先順位は低い。

     クレアボヤンスもまた、強化アンプルの副作用により、一時的な錯乱状態に陥っていた。……もし錯乱していなくても、魔法少女の平均を大きく逸脱する、ノーブル・サヴェージの疾走を捉えられていたかは怪しいが。

     かくして、二人の魔法少女はすれ違う。
     クレアボヤンスは着火地点から離れ、ノーブル・サヴェージは着火地点に近づき。

     千里眼と自然の申し子は、今この場では交わることなく離別する。
     

  • 376◆xaazwm17IRZa24/07/22(月) 23:56:51



     クィーンは、ハイエンドの後を追った。
     
     明確な理由は無い。

     強いて言えば、ハイエンドの方がクレアボヤンスより危険だと判断したからか。
     あるいは、クレアボヤンスよりハイエンドの方が放っておけないと思ったからか。

     彼女にも分からない。
     
     ただ、より危険な方を選んだのは確かだった。

     炎上する樹木が此方に倒れ込む。
     召喚された騎士が剣を振るい、女王を守る。

     

  • 377◆xaazwm17IRZa24/07/22(月) 23:57:06

     十人の騎士に守護されながら、クィーンは熱気の中を進んでいく。

    (いくら魔法少女が頑丈だといっても、限度があるわね)

     人間より耐熱性に優れているが、火を無効化できるわけではない。
     倒木に押しつぶされ、炎に包まれれば、死んでしまう。

    (煙は……大丈夫かしら?)

     火事の際も、煙で意識を失う人が多いと、学校の避難訓練で言っていた気がする。
     果たして魔法少女は一酸化炭素中毒への耐性も人間より優れているのか?
     今までクィーンは考えたこともなかった。

    (……ええい、体調悪くなったら撤退すればいいわ!
     命がけで探す義理はないもの!)

  • 378◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:06:01

     今のところは大丈夫なのだからたぶん大丈夫、という避難訓練では0点の発想をしながら、クィーンは歩みを進める。

     彼女が不運だったのは、着火点の近い場所に居たことだ。
     山岳地帯に居た魔法少女で、最も早く、彼女は狂気の魔法少女の前に立つことになった。

    「何……これ……」

     異常な光景だった。
     木々が切り倒され、円形に造られたスペース。
     その中央に、身体のラインがくっきりと分かる程のワンピースを着た少女が立っている。
     その傍らには竜が翼を羽ばたかせている。
     そして、少女と竜を囲む、同じ顔の魔法少女集団。

     炎上する森の中で、避難することなく集まるその集団は、どこかカルトじみていて。
     クィーンの心胆を凍えさせる。

  • 379◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:11:55

    「お客さんが来たぜ、アリス」

    「えぇ、愛しのジャバウォック。魔法少女同士、まずは挨拶ね」

     そう言って、中央のワンピースの少女はくすりと、妖艶な笑みをクィーンに向けた。

    「私はアリス。アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド。
     世界を救う、魔法少女よ」

    「僕はジャバウォック。アリスの忠実な使い魔」

    「周りにいるのは愉快な仲間たちよ。さぁ、あなたのお名前を教えて?」

    (……狂ってる)

     常軌を逸している。
     魔法少女としてロールをしているにしても、山火事の最中で呑気に自己紹介をするのは異常者か愚者だ。

     そして、アリスと名乗った少女は異常者の類いだと、クィーンの本能は告げている。

  • 380◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:17:27

    「……私の名前はクィーン。愚王・魔法王を倒し、魔法国の新たな女王を目指す女」

     アルセーヌの死を切欠に決めた目標を、眼前の異常者に語る。
     それは、クィーンなりの決意表明。

    「この火事はあなたの仕業かしら」

    「くすくすくす……。えぇ、魔法少女に相応しい舞台でしょう?
     悪い魔法少女は魔女と同じ、みぃんな火炙りよ……!」

    「令和の時代に魔女狩りなんて、時代錯誤も甚だしいわ。
     火遊びが好きなら庭で花火でもしてなさいな」

     クィーンの言葉に答えるように、周囲の騎士が剣をアリスへと向ける。

  • 381◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:28:56

    「あらあら、女王様はお怒りのようね。
     駄目よ、パーティは楽しまなくちゃ。王様だって生き抜きは必要でしょう。
     くすくすくす……王宮が燃え落ちて、灰の上で踊りましょう」

    「足が汚れるから嫌よ」

     先手を切ったのは、二人の魔法少女ではなく、ワイバーンだった。
     一息で空へと飛びあがると、業火をクィーンに向けて発射する。

     すかさず召喚された騎士が盾で炎を防ぐ。
     クィーンは騎士の背後に隠れ、新たな騎士を召喚するが。

    (くっ……思った以上に火力が強い)

     盾で炎を受けた騎士たちは力なく崩れ落ちる。
     長期戦は不利だと悟る。

     ならば、と弓を構えた騎士がワイバーンを射落とそうとするが、高速軌道を展開し、矢は掠ることさえ無い。

    「あんまり舐めるなよ。
     魔法少女ならともかく、魔法少女の使い魔程度に撃ち落とされるほど、僕はノロマじゃないぜ」

     

  • 382◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:32:23

     ワイバーンの軽口に、クィーンは顔を歪める。
     このワイバーンはアリスの使い魔だという。アリスの魔法は、ワイバーンを召喚・操る魔法なのか。
     ならば、同じ顔の魔法少女たち、未だ動くことなく、意思を感じさせない瞳でクィーンを見つめる彼女たちは何なのか。

     燃え盛る森。
     狂った少女。
     火を吐き、飛ぶ竜。
     幽霊のように佇む少女たち。

     まるで悪夢。

    (ん、悪夢といえば……?)

     

  • 383◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:37:58

     この殺し合いには、クィーンのクラスメイトが、四人参加している。
     星月夜。
     刈屋伊織。
     天城千郷。
     逢魔愛裏。
     彼女たちが魔法少女であったことは、クィーンは知らなかった。
     そして、その中の一人、逢魔愛裏の、名簿に記載されていた魔法少女名は。

     ——ナイトメア★メリィ。

    「どうしたんだ? もう矢は射なくていいのかい?」

     上空からワイバーンが揶揄う。
     芝居がかったアリスと違い、その口調にはどこか馴染み深いものを感じる。
     まるで、毎日聞いていたかのような。

  • 384◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:44:22

    「……あなた、もしかして逢魔くん?」

     このワイバーンこそが、ナイトメア★メリィの本体であり、アリスはあくまでカモフラージュ。幽霊のような少女はクィーンの騎士のような、召喚された者。
     そう、クィーンは推理をした。

     その推理は、的外れである。
     ナイトメア★メリィはこのエリアに居らず、ワイバーンはアリスに支給されたマジックアイテムに過ぎない。

     だが、その錯誤は状況を変化させるトリガーになった。

    「…………は?」

     アリスの喉から声が漏れる。
     芝居がかった、妖艶なものではなく。
     年齢相応の、地の声が。

    「今、あなた……逢魔くんって言った……?」

     年齢も、境遇も、信念も、目指す物も。
     何もかもが違う二人を繋ぐ言葉が、戦場に浮かび上がった瞬間であった。

  • 385◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 00:44:36

    投下を終了します

  • 386二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 02:08:57

    乙です、炎上してる中でエンジョイしてるわけにもいかないよね…!今新たな火種が生まれそうですが。

  • 387二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 03:09:53

    乙でした
    ワイバーンに変身する魔法少女…実際似たような例にジャスティスファイアがいるしあり得なくはないんだよな…

  • 388二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 03:23:26

    クレアボヤンスの強化剤、今説明見返したら相当物騒なこと書いてあってびっくりしちゃった…
    死の神獣の血とやらはそれこそアリスみたいなタイプの固有魔法だったりするのかな

  • 389二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:18:08

    これでクレアボヤンスは安全圏に脱出かな?
    運営さえこなければだけど

  • 390二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:25:42

    眼鏡のオタク女が突然筋骨隆々と化す絵面だけなら面白いのに……
    というか薬打つ前から180cmあるわ デカいなオタク

  • 391二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 10:37:54

    生存値的に望み薄だけどメリィをきっかけにAIWOTDとクィーンが一時対運営同盟を組む展開も見てぇ…

  • 392二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 18:05:02

    このレスは削除されています

  • 393二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 18:34:00

    クレアボヤンス、口調や性格はどちらかと言うとやる夫なのにビジュアルだけならむしろやらない夫の方が近いんだよね
    神獣の血で強化&狂化したSMC(スーパームキムキクレアボヤンス)の明日はどっちだ

  • 394二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 18:37:09

    このレスは削除されています

  • 395◆lsT7MxWz0624/07/23(火) 20:08:09

    できましたわ

  • 396二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 20:27:18

    >>395

    ゆっくりミョルニルお嬢様だ…!

  • 397二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 20:44:14

    >>395

    「できましたわ」じゃないが


    とりあえずあにまん市の魔法少女を解説するチャンネルでもやってもらうか…

  • 398二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 21:15:05

    >>395

    くぅこれこれこのロールこそお嬢様って感じ

    ありがとう大将、この子は新愛を込めてミちゃんと呼ぶね

  • 399二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 21:16:56

    >>395

    ミョルニルお嬢様が退場してもミちゃんはこのスレのマスコットとして生き続ける…

  • 400二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 21:20:41

    ゆっくりミョルニルですわ!
    メリだもんなのだ

    今回はあにまん市をナワバリにする魔法少女について解説していきますわ!!

  • 401◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 21:49:05

    >>395

    まさか、ゆっくりミョルニル(ミ)が生まれるとは……!

  • 402◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 21:51:27

    lsT7MxWz06さん、可愛いイラストありがとうございます

    今回もいつものように、ゆっくり投下します

  • 403◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:04:29

     好みではない、というのは逢魔愛裏に対する王城姫子の所感である。

     姫子の理想の男子像は、白馬の王子様だ。
     次点で、誇り高い騎士様。

     勿論、中学校に王子様も騎士様も存在しない。猿みたいな男子ばかりだ。クラスで一番王子様系だったのは今思えば星月夜だったように思う。女子だけど。

     ただ、逢魔愛裏が猿かと訊かれれば、違う、と答えざるを得ない。

     もし逢魔愛裏を猿と表現するなら、悔しいが姫子だって猿側になってしまう。

     何故なら、髪を桃色に染め、ゆるふわインフルエンサーをやっている逢魔愛裏は、女の姫子でもたじろぐ程に『可愛い』からだ。

  • 404◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:15:21

     どんなコスメ使ってんの? と思う。
     調べたらそういう動画もしっかり上げていて、参考にしようかと思ったけれど、なんだか癪なので止めた。

     まぁ、姫子のような一般人がインフルエンサーに敵うはずはないだろうと、自分を納得させた。それに白馬の王子さまは有名インフルエンサーではなく、一般人である姫子を選ぶはずだ。シンデレラや白雪姫が自分の美をSNSで発信していたらまったく違う物語になってしまう。

     そういう諸々を含めて、好みではない、で話がつく。
     もしかしたらこれは嫉妬なのだろうか。
     まさか。クィーンの目指す女王と逢魔愛裏が目指すインフルエンサーは似て非なるものだ。

     単に、方向性が違うだけ。
     それはそれとして、人を小馬鹿にしたような話し方はちょっとムカつくけど。
     だから炎上するんだよ、と言いたくなるけれど。

  • 405◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:20:43

     けど、殺し合いに乗るような性格ではない。
     だから、魔法少女ナイトメア★リリィという名前と口調から、火を吐くワイバーンを逢魔愛裏と考えたとき、心がずきりと痛んだのは事実だ。

     アルセーヌが、星月夜が死んだときとは、また違う痛み。

    「今、あなた……逢魔くんって言った……?」

     アリスの喉から漏れた言葉に、内心、安堵する。
     ああ、良かった。
     そんな言い方をするってことは、彼女は逢魔愛裏ではない。

     ただの知り合いだ。

     ……クラスメイトの知り合いと、私は殺し合いをするのか。

     狂人だと思っていた相手が、人型エネミーのような感覚で捉えていた相手が、急に血肉の通った人間のように思った。
     

  • 406◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:29:35

    「あら……逢魔くんとどういう関係なのかしら? 恋人?」

     それを聞いてどうするの? と自問自答する。
     向こうはこちらの命を奪う気だ。
     相手の情報を増やして、戦意を鈍らせてどうする。

    「…………赤の他人よ。だって、私の知る逢魔愛裏は男の子だもの。魔法少女になっているはずがないわ」

    「どうかしら。私の知る逢魔愛裏も男の子よ。けど、私と同じクラスから、私を入れて五人の魔法少女が参加している。逢魔くんだけ同姓同名の別人と考える方が、筋が通らないと思うけど」

     男の子も魔法少女になれるのか、という疑問は不思議と浮かばなかった。
     あれだけ可愛いなら、確かに魔法少女になれるかも、という妙な説得力があったからだ。

    「違う……そんなのありえないわ……世界はそんなに狂っていない……」

  • 407◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:38:06

    「あら、随分と原理主義なのね、アリス。
     いいじゃない、男の子が魔法少女になっても」

    「黙りなさい……お前が、魔法少女を語るな……!」

     いいじゃない、語っても。私だって、魔法少女なんだから。

     アリスの怒りに呼応するかのように、ジャバウォックが火を吐く。
     今度は片手剣(右手に剣、左手に盾)の騎士ではなく、大盾を構えた騎士たちを召喚する。
     背後に隠れていても、熱が届く。
     魔法少女は日焼けするのかしら、と場違いなことを思う。
     大盾の騎士たちは、一撃で消滅しなかった。
     後、二回程度は耐えられると目算する。

     弓の騎士を二倍に増やし、ジャバウォックに射かける。
     逃げ場のない包囲射撃。
     それでもジャバウォックはすり抜けるように矢を交わしていく。

     遅いのだ、と気づく。
     クィーンの召喚する騎士の矢では、ジャバウォックを捉えられない。
     
     
     

  • 408◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:45:11

     ——そして、その必要は無い。

     弓の騎士の放った一矢は、上ではなく、地を走った。
     狙うはアリス。
     ジャバウォックを執拗に狙ったのはブラフ。本命はアリス殺し。

     矢はまっすぐアリス目掛けて飛び——射線を遮るように飛び出した、同じ顔の魔法少女の額を貫いた。

    (思ったより動きが早い……!)

     そう簡単に勝てるとは思っていない。が、30人も居るのだから、一人一人の戦闘力は大したことはない、雑魚だと高を括っていたのは確かだ。

     だが、少女の動きはクィーンに匹敵するものだった。平均的な魔法少女並の身体能力——超人的フィジカルを有している。
     それが、30人。

    (手強いわね……)

     逃げることも考えた方がいいかもしれない。
     アリス+30人の魔法少女+ジャバウォックは手に余る。
     女王一人ではなく、臣下と共に挑む相手だったか。

  • 409二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 22:54:18

    ハイエンド参戦あるかな…?

  • 410◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 22:55:27

    「くすくすくす……」

     と、アリスは笑った。
     先ほど前の人間味は、もう感じられなくっている。
     精神を立て直したのか……手駒を一人失ったのに?
     何はともあれ、まだ戦いは始まったばかりである。損失はクィーンの方が大きいが、ドレッドノート戦のような「どうしたら勝てるのかわからない感覚」は無い。
     クィーンの強みは、戦術の広さにある。
     同じ顔しか居ないというのは、アリスの戦術の狭さを示すはずだ。

     まだ逃げるタイミングではない。女王はそう簡単に逃げたりしない。
     そんな風に決意して。

     矢で倒した魔法少女の姿が変わる。

     ——小学生くらいの男の子だ。パーカーに長ズボン、健康的に日焼けした肌。頬には絆創膏が貼ってある。……額に突き刺さった矢は、頭部を貫通していて。
     硬直した顔は、少年が死んでいることを示していた。

    「……嘘、でしょ…………」

    「くすくすくす……! 酷いことをするのねぇ……」

    (私が、殺した……?)

     違う、と心の中で否定する。
     私はアリスを狙った。アリスはあの子で防いだ。殺したのはアリスであって私ではない。
     どうして気づけなかった? 気づけるはずない! ヒントなんか無かった!
     

  • 411◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 23:02:56

    「敵対する者は子どもだろうと殺してしまうのねぇ、酷い女王様だわ……。
     この子、さっきまでは生きていたのに……クィーンのせいで、二度とお家に帰れない……」

    「違う、違う違う違う……! 私は悪くない! お前のせいじゃない! お、お前がこの子を盾に……」

    「そうかもしれないわねぇ。けど、あら、この刺さっている矢は誰が撃ったのかしら」

    「お前……!」

     怒りに答えるように、騎士が弓を引き絞る。
     
     アリスを守るように、同じ顔の魔法少女たちが、射線に入る。

     クィーンの視界に、少年の死体が飛び込む。嘔吐感、罪悪感、恐怖恐怖恐怖。

     矢を、射れない。

  • 412◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 23:08:18

     脂汗を流しながら、クィーンは膝をついた。
     大声で悲鳴をあげたかった。それをしないのは女王の矜持か、あるいは——。

    「さようなら女王様。貴女の罪を炎で清めてあげましょう」

     直上から放たれるのは今までで最大火力。
     大盾の騎士は主を守るべく盾を掲げるが、その動きは酷く緩慢で。
     火柱が挙がった。

     両手を広げ、アリスは高らかに歌った。
     新世界誕生の第一歩を踏みしめたことを祝うために、狂人は炎の前で、喜びを表現した。

  • 413◆xaazwm17IRZa24/07/23(火) 23:09:10

    投下を終了します

    素敵なイラスト、たくさんの感想、いつもありがとうございます
    今後とも、ゆっくりしていってね

  • 414二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 23:16:04


    まともな精神性だと相手するのがキツい戦術だけど全く気にしないであろうジャックとドレッドノートが同じエリアにいる不運

  • 415二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 00:19:12

    アリスちゃんキャラがブレなくて好き
    そして連日投下お疲れ様です、スレ主さんこそゆっくりしていってね!!

  • 416二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 01:58:08

    AIWOTDちゃん、ぶっちゃけ勝ちに行くならオオカワウソみたいに武器調達なりして味方を強化すべきだったよな
    もし生存したとしても現状だと圧倒的に火力不足でティターニアや運営幹部には歯が立たなそう

  • 417二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 10:19:55

    ティターニアはゴリ押しでなんとかなる範囲が広すぎる
    やはり魔法少女も最後はジツでなくカラテか

  • 418二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 15:41:07

    火が回ってミちゃんが燃えるのが先か
    ボディがやって来てミョルニルに戻るのが先か

  • 419二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 20:33:14

    そういえば姫子→アリスの好感度はかなり高めだったよね
    今後回収されることはあるのか

  • 420◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 00:09:32

    投下します

  • 421◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 00:24:35

     魔法少女は、あらゆる面で人類を超越している。筋力、瞬発力、持久力。
     それは、耐火性能も同様であり、人間ならば堪えられない高温環境でも、生命に支障なく活動することが出来る。

     だが、それにも限度はある。
     耐火性能が常人より高いことは、熱の無効化を意味するわけではない。
     
     対物ライフルで致命傷を負うように。
     火炎放射器もまた、魔法少女に有効な兵器である。

     そして、インテリジェンスウェポン——ジャバウォックの炎は、火炎放射器を遥かに超える火力であり、正面から浴びれば魔法少女とて、即死する。

     にも関わらず、クィーンの防御は間に合っていなかった。
     初めて人を——自分より幼い子どもを殺してしまったという事実は、クィーンを苛み、パフォーマンスを大きく落とすことになる。

     フィジカルは人間を超越しても、精神はその限りではない。少なくともクィーンは。

     ジャバウォックの炎は哀れな女王を呑み込み——。
     

  • 422◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 00:38:00

     ——無数のシャボン玉が、炎を受け止めた。

     炎をシャボン玉で防ぐ。
     物理的に不可能な事象も、しかし『魔法』ならば叶えてしまう。
     事実、ジャバウォックの炎はシャボン玉の壁に塞がれ、クィーンまで届かない。

     とうとうジャバウォックは顎を閉じた。
     アリスもまた独演会を中断し、忌々しそうに、クィーンの前に立つ少女を睨む。

     シースルーのワンピースにスク水、頭にはクラゲを模した帽子を被った、クィーンやアリスと比較すると異様な格好の少女が立っている。

    「……くすくすくす、私はアリス、あなたのお名前は?」

    「ジェイルフィッシュなの」

     眠たげな表情で、少女は言った。
     

  • 423◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 00:48:09



     時は僅かに遡る。
     ジェイルフィッシュ・ジャックVSドレッドノートの戦いは、ドレッドノートが退いたことで幕を下ろしていた。
     追い払った、撃退した、と言う言葉はそぐわないと、ジェイルフィッシュは思う。
     ただ、三方がそれぞれの利益を追求した結果、戦いが一時的に終わったというだけのことだ。

     ジェイルフィッシュには、ドレッドノートを倒す手段が無い。
     ジャックは、ドレッドノートに興味が無い。
     ドレッドノートもまた、素手で二人と戦う旨味が無い。

     ドレッドノートはその場を離れ、ジェイルフィッシュもジャックも、追おうとはしなかった。

     ——そして忌々しいことに、ジャックはジェイルフィッシュを置いて、さっさとその場を離れてしまったのだ。
     どこまでも自分勝手な態度にめちゃくちゃ文句を言いたいジェイルフィッシュだったが、ドレッドノート戦を見る限り、ジャックの危険度は低いかも知れないとは考え始めていた。

     気に入っていた素振りを見せていた七海真美はともかく、行動の邪魔をしたジェイルフィッシュ、そして明確に殺意を向けていたドレッドノートに対しても、ジャックは怒りこそ向けるが、一度も殺そうとはしていない。

     ただ、自分勝手なだけで、殺人鬼ではない。確定はしていないが、ジェイルフィッシュはジャックをそう判断し、必ずしも自分が監視しなくてもいいのではと思い直した。

  • 424◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 00:54:49

     実際は、単にジェイルフィッシュもドレッドノートも、ジャックの好みでは無かっただけなのだが、いくら聡明とはいえそこまで推理することはジェイルフィッシュには不可能である。

     大技を使って消費した体力及び魔力の回復を待っている内に、山が燃えていることにジェイルフィッシュは気づき——火元の消火を行うためにやって来た。

     かくして、女王の元に、白馬の王子様ではなく、人魚姫(水着ロリ)が駆け付けることとなったのだった。

  • 425◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:03:52

    「くすくすくす、ふざけた格好ねぇ。お遊びで魔法少女をやっているのかしら」

    「火遊びしてる奴に言われたくないの」

     山火事を引き起こすジャバウォックの炎を切って捨てるジェイルフィッシュの背中は、クィーンには大きく見えた。

     人殺しの自分とは違う、本物の魔法少女。

    「あなたは、お名前は何て言うの?」

    「私は……クィーンよ。助けてくれてありがとう、ジェイルフィッシュ」

    「困った時はお互い様なの……それに、一方的に助けてあげられるほど、余裕があるわけでもないの」

     ジャバウォックの炎を難なく受け止めて見せた。
     クィーンには図抜けた強者に見えたが、ジェイルフィッシュの顔には余裕は視られない。

    (単にボーボー火つけるだけのタイプなら、相性勝ちも出来たの。けど——空飛べるタイプだとは想定外だったの。
     それに……)

     アリスを囲む、同じ顔の魔法少女集団。
     さすがに残った参加者がこの場に大集合しているとは思えないので、あれもアリスの魔法によるものか。ならば火を吐くワイバーンは、反魂香のようなマジックアイテムと考えるのが妥当だろう。

  • 426◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:14:33

    (私の必殺技……『シャボン玉に相手を閉じ込めるよ』は外界からの干渉に弱い。
     最近修行して、一回までなら耐えられるようになったけど……。
     あの人数を一度に囲むのは難しいの、だったらまずはモブを排除しなきゃいけないんだけど……)

     一対一ならともかく、対集団戦は苦手とするところだ。
     相手が雑魚なら通常攻撃でどうとでもなるが、ジャックや真美、テンガイ、ドレッドノートから鑑みるに、このゲームに参加する魔法少女のレベルはかなり高い。
     あの不気味な集団がただの人間レベルの身体能力しか無い……なんて甘い期待は捨てるべきだろう。

    (それに、あの子どもの死体は何なの……? 額を矢で撃ち抜かれてるけど)

     嫌な予感がする。
     今しがた助けたクィーンの周囲に展開されている、騎士たち。
     そして明らかに精神的に消耗しているクィーン。

    (まさか……)

  • 427◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:24:55

    「ジェイルフィッシュ……あの魔法少女たちの中身は……生きた人間よ」

     最悪の想像が、現実のものとなった。
     息も絶え絶えな様子で話すクィーンの様子から、自分が来るまでに此処で何があったのかも察する。

    「くすくすくす……駄目じゃない、クィーン。サプライズが台無しよ」

    「どいつもこいつも……」

     自分や真美のような魔法少女はここでは少数派なのか?
     アリスに強い嫌悪感を覚えながらも、ジェイルフィッシュは頭を働かせる。

    (私の閉じ込め魔法は、相手に魔法を使えなくさせる。
     一人一人閉じ込めてノックアウトさせれば、殺さずに無力化はできる……。
     けど、あの数を、一人一人閉じ込める魔力は無いし、少しでも邪魔が入ったらシャボン玉が割られてしまうの……)

     顔を青白くさせながら立ち上がりクィーンを見る。
     人格的には信用できる。
     だが、戦時のサポート役としてはどうか。
     上手く連携できれば良いが、恐らくコンディションは最悪のはずだ。

     ジェイルフィッシュは溜息をつく。
     つくづく上手くいかない。
     どれだけ持ち上げられたところで、自分はただの10歳だと思い知らされる気分だ。

  • 428◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:36:41

    「逃げるの」

    「え、でも……」

    「今の私と貴女じゃ、あれには勝てないし、あの人たちも救えないの」

     ジェイルフィッシュは撤退を選んだ。
     テンガイ、ドレッドノート、そしてアリス。いずれもレイドボスだ。今必要なのは戦果ではなく、信頼できる仲間。一人で無茶をするより、複数人で連携する方が確実だ。……七海真美も、一人で戦わせるべきではなかった。

    (ゲームに乗った魔法少女の情報は集まってきてる。これを、対魔法王の魔法少女と共有できれば、ゲームクリアに大きく近づくの)

    「逃がすと思う?」

     退路を塞ぐようにジャバウォックが炎を吐く。
     そして、10人程のアリスの犠牲者たちが、虚ろな表情のままジェイルフィッシュとクィーンに向けて疾走する。

    (最悪……あれだけ居てフィジカルは私と変わらないレベルなの……)

     ジェイルフィッシュはシャボン玉で退路の消火を行う。
     クィーンは悲鳴を上げながら、盾の騎士を展開する。

     地獄の撤退戦が始まった。

  • 429◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:40:46

     ジェイルフィッシュの頭上を、黒い影が遮った。
     ジャバウォックより遥かに大きな影。

     思わず、そちらに意識を向けてしまう。

     ——空中より撃ち込まれたそれは、アリスの従僕とクィーンの騎士団の、中間地点に落下した。
     2、30mはありそうな巨木である。
     異なるのは、根が複雑に絡み合い、鋭く尖っていたこと。
     大地に深く突き刺さったそれは、周囲に地響きを与え、従僕たちの足を止めさせる。

    (新手……!)

     果たして敵か味方か、ジェイルフィッシュはその姿を探し。

  • 430◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 01:52:19

    「■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

     先ほどの地響きを軽く超える程の雄叫びに、思わずその身を硬直させた。

     どれだけ文明を築き、知恵を蓄え、魔法を得ようと——所詮は生物。

     その場の誰もがそれを思い出せる程の迫力が、その声には籠っていた。
     木々の中から獣のような動きで飛び出した『その少女』は、存在を誇示するかのように、力強く大地に着地する。

     巨大な葉を外套のように羽織り、赤色の刺青に彩られた少女。ジェイルフィッシュと比較してもなお異質なその姿。

    「ロシゾロジャギダボパゴラゲバ(森を燃やしたのはお前か)」

    「え……何て?」

     ロールプレイではない、本当に異郷からやって来たことを思わせる言葉に、アリスでさえも面食らう。

    「……くすくすくす、貴女も魔法少女なのかしら? 楽しいパーティだわ、こんなにもお客さんが来てくれて」

    「ザギヂゾグジャラゲバギジャダンジンレ、ギボヂゼヅグバゲ(大地を敬えない野蛮人め、命で償え)」

  • 431◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 02:05:44

    「……くすくすくす、怒っているのかしら?
     でも、私の世界に対する怒りは貴女の比じゃないのよ……。
     それを思い知らせてあげる……」

    「パガバパマク=ハク、ゾボシダバビニマンアゾブンクウガ。ボセジョシゼギバスゲゲルゾバギギグス。(我が名はマク=ハク、誇り高きニマンア族の戦士。これより聖戦を開始する)」

    「………………」

     どれだけ言葉を重ねたところで通じなければ意味が無い。
     儀式の一環として高らかに吠えるノーブル・サヴェージと違い、アリスは押し黙ってしまった。

     ジェイルフィッシュもまた色々規格外の乱入者に困惑しながらも、今後の対応を思案する。

     混沌とした状況の中で——四人の魔法少女を木陰から見据える一つの影があった。

     

  • 432◆xaazwm17IRZa24/07/25(木) 02:06:33

    ドグバゾギュグショグギラグ(投下を終了します)

  • 433二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 03:02:25

    乙です
    最後のはハイエンドか運営の刺客か…

  • 434二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 08:59:12

    おつ
    新キャラかな

  • 435二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 09:17:37

    ゴヅバセガラゼグ
    反文明思想にさえ目を瞑れば根は良い子そうなノブ子すき

  • 436二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 15:40:49

    最後のはハイエンドor運営の誰かorミョルニルかね

  • 437二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 18:07:53

    そういえばwikiのお出迎えをミちゃんがしてくれてて草

  • 438二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 18:48:04

    ゆっくりミョルニル見てたら

    NGシーン『マギカロック外そうと自分の首切ったブレイズドラゴンの所にミョルニルの頭飛んできて合体してブ(生首)とミレイズドラゴンになっちゃう』

    とか思い浮かんじゃった…

  • 439二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 21:25:53

    その場合心臓か脳を破壊されない限り戦闘継続できて気を操るモンスターが誕生…
    いや頭がミョルニルなら人を殺せない普通の倫理観を持ったクソ強お嬢様になるのか?

  • 440二次元好きの匿名さん24/07/25(木) 21:39:42

    「王龍明(ワンロンミン)!新しい顔よ!」

  • 441二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 00:23:01

    >>440

    クスッときた

  • 442二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 07:50:42

    そして余ったパーツ(ブレイズドラゴンの生首)
    吸血鬼お嬢様…

  • 443二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 13:49:18

    ・首を切り落とされているのに不思議がるだけで危険な変化がない
    ・魔力を大量消費している様子もない
    ・それなりに首とボディの距離が離れているのに問題なく身体の方を動かせる
    やっぱり特化型は分野が絞られる分性能凄いな

  • 444二次元好きの匿名さん24/07/26(金) 23:45:50

    言葉が通じない狂人ばかりで胃に穴が空きそう…
    それよりも胴体に穴が空きそうで怖いけど

  • 445二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 08:24:54

    保守

  • 446二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 14:06:59

    ノーブルサヴェージ語ってなんか法則性があるのか適当なのか

  • 447二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 14:13:37

    >>446

    グロンギ語よ

  • 448二次元好きの匿名さん24/07/27(土) 23:05:08

    規格外が多すぎてジェイルフィッシュのヘイトが逸れそうなのが不幸中の幸いか…集中砲火だけは避けてぇなぁ

  • 449◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 02:54:11

    投下します

  • 450◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 03:06:38

    「何故生きている?」

     と、ドレッドノートは問うた。

     何故? とミョルニルは考える。
     何故生きているのだろう。
     首を切断されれば生き物は死んでしまう。魔法少女だって例外ではない。
     にも関わらず、自分は死ななかった。
     
     首から下も——ちゃんとある。

     周囲が燃え出した時はマジでヤバいと思ったが、炎が首に到達する前に、ボディが駆け付け、事なきを得た。

     もっとも、燃えていたところで死んだとは限らないが。

     心臓と脳に傷が無かったとはいえ、生首でも長時間生きていられたことは……それどころか魔力を殆ど消費しなかったことは、ミョルニルの価値観を大きくぐらつかせた。

    (わたくし、本当に人間ですの?)
     
     思った以上に、魔法少女は、ミョルニルは人外だった。
     その事実は、ミョルニルを惑わせる。


     

  • 451◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 03:13:16

    「……答えぬか。当然だな。手の内を晒す馬鹿はおるまい」

    「いえ、そういうわけではなく……わたくしにもよく分かりませんのよ」

     ドレッドノートは訝し気な顔をする。
     その手に握られているのは、槍。
     身の丈よりも長い真紅の聖槍。

    「それを、取りに行っていたんですの?
     あの物騒な剣を、ジャックという名の魔法少女に取られたから……」

    「貴様、見ていたのか。
     ……なるほど、首を斬り落とした程度では死なんらしい」

     穂先を向けられる。ドレッドノートの立ち方、構え方、視線の動き。
     ミョルニルは、どこか冷めた感情でそれを追う。
     そして。

    「あなた、槍は素人ですのね」

     煽りや挑発ではなく、小テストの自己採点をするようなフラットな気持ちで、ミョルニルは断じる。
     伊達に、魔法少女を数年やってはいない。

  • 452◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 03:19:52

     ドレッドノートは黙している。
     その顔に動揺は見られない。

    「普通、一定以上の力量の魔法少女は得意武器を生成できますわ。どうしてあなたはあのかっこいい剣を生成しないのでしょう。
     その槍は、魔法王から配られたマジックアイテムですわね。
     大方、持て余してどこかに隠していた、というところかしら」

     ドレッドノートは剣の生成が出来ない。
     と、ミョルニルは結論づける。
     その理由は。

    「あの剣は、他の魔法少女が作ったものなのでしょう。
     あなたはそれを大事に使っていた。愛用していたと言ってもいいですわね」

     だから、奪われても再生成できなかった。
     

  • 453◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 03:23:37

    「もしかしてあなたは、あの剣を作った方を守るためにゲームに乗っているのではなくて?」

    「違う」

     と、ドレッドノートは即座に否定した。

    「守るためではない——取り戻すための戦いだ」

     その言葉に、ミョルニルは察してしまう。
     

  • 454◆xaazwm17IRZa24/07/28(日) 03:24:07

    中途半端ですが、一旦投下を終了します
    続きは明日で……

  • 455二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 07:58:12

  • 456二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 10:12:06

    「手の内を晒す馬鹿はおるまい」に自分も何が起きたか分からないと返ってきて一瞬空気が固まってますね…

  • 457二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 13:41:25

    性格が正直だからこういう時駆け引きができないのか…

  • 458二次元好きの匿名さん24/07/28(日) 22:24:40

    まぁ勝手に相手が思考を巡らせていればミョルニルが動きやすくなるかなぁ
    既にミョルニルの方が情報のアドバンテージがありそうだし

  • 459二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 02:37:29

    おつ

  • 460二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 07:52:06

    保守

  • 461二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 17:31:29

    ドレッドノートとミョルニルが対峙中ということは向こうの影は別人か

  • 462二次元好きの匿名さん24/07/29(月) 23:10:21

    首を切断されても生きているだけでドレッドノートには驚異だね
    ミョルニルは駆け引きが出来ないけど相手の駆け引きに応じなさそうだし

  • 463二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 01:57:40

    今夜あたりあるかな…
    そして魔法少女が具現化した武器は本体の死後も消えない設定はどこかで活きるのか…

  • 464◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 03:50:39

    投下します

  • 465◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 03:58:51

     目の前の少女は、失ったのだ。
     自分にとってのクリックベイトに当たる者を。

    「——同情しますわ」

    「無用だ。貴様らに求めることは——速やかなる死、のみ」

     ドレッドノートは槍を構える。
     ミョルニルもまた、自分の背丈ほどのハンマーを構える。

     先に動いたのは、ドレッドノートだった。
     穂先をミョルニルに向けたまま、ずん、ずんとミョルニルに近づく。
     駆け引きも何もない、迷いのない足取り。
     
     隙だらけの姿に、ミョルニルはハンマーを振り被り——側頭部に叩きつける。
     ヘッドの部分が、ドレッドノートの顔よりも大きい。
     当たれば魔法少女といえど、頭部は粉砕されるだろう。

     だが、それは相手が普通の魔法少女であったならの話。
     ドレッドノートは無敵である。
     

  • 466◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 04:11:06

     顔を粉砕するかと思われた一撃は、ドレッドノートに触れた所でぴたりと止まった。
     傍から見れば、ミョルニルが寸止めをしたように見えるかもしれない。
     もちろん、ミョルニルは本気で、ドレッドノートの顔を粉砕するつもりでハンマーを振るった。

     この少女はゲームに乗っている。
     ミョルニルは一度殺されている。
     クリックベイトに危険を及ぼす、最優先で排除すべき存在だ。

     しかし、ミョルニルがどれだけハンマーに殺意を込めようと、ドレッドノートの魔法は突破できない。

     ミョルニルの心臓目掛けて、槍が突き出される。
     門外漢(少女だが)のミョルニルから見ても、ドレッドノートの槍捌きは拙い。

     だが、魔法少女の身体能力は常人の十倍。
     超人的フィジカルから繰り出される一撃は、素人の攻撃とは思えない程、速く、鋭い。槍の性能もあり、鉄程度ならば容易く貫通、頑丈な魔法少女の肉体でも致命傷を与えることが出来るだろう。

     ミョルニルは、身体を僅かに捻って槍の一撃を回避する。
     生首になっても死なないことは、ドレッドノートに知られている。(ミョルニルも今日知ったが)
     ならば、こちらの息の根を止めるために、脳か心臓を狙うはずだ。

     そこまで狙いが絞られるのなら、回避は可能だ。
     趣味はアーマードバトル、日課は犯罪者の取り締まり。ミョルニルは、魔法少女暦今年で10年の——歴戦の魔法少女である。

  • 467◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 04:24:27

     身体を捻って回避し、その勢いのままハンマーを振るう。
     
     ハンマーは破壊力は高いが、隙は大きい。
     対物、対大型エネミーならばともかく、等身大の相手と渡り合うには不向きな武器だ。

     だが、ミョルニルはハンマーでの戦闘に熟達している。
     大振りの攻撃の勢いでそのまま攻撃に転じ、回避した勢いでも攻撃に転じる。
     あらゆる状況下でも、ミョルニルのハンマーは振るわれ続ける。
     
     結果は、無為。
     二度目の攻撃も、やはりドレッドノートに干渉できない。

    「無駄だ」

  • 468◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 04:24:41

     ドレッドノートがミョルニルの脳天目掛けて槍を突き出す。
     脳天と心臓しか狙わないことを知っているため、ミョルニルはこれも首を捻って回避し
     ——回避した先に、刃があった。

    「え……」

     自ら首を差し出したような形で、ミョルニルの首が宙を舞う。
     ドレッドノートの左手には、ある武器が出現していた。
     ——髑髏印の大剣。

    「いつでも具現化は出来た。あのコートの女を確実に葬るために、生み出したブラフだ」

    (なるほど、どうやらすっかり騙されてしまったようですわ)

     ドレッドノートは剣を具現化できる。
     クリックベイトが釣り竿を、ミョルニルがハンマーを具現化できるように。
     わざわざ慣れていない槍に持ち替えたのも、相手を騙すためか。
     

  • 469◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 04:30:16

     ミョルニル、再び生首状態。
     そして、今度はドレッドノートも徹底していた。
     アーマーの隙間から剣をねじ込み——心臓を貫く。

    「あ……!」

     ミョルニルは悲鳴を挙げる。
     心臓と脳を破壊されれば死ぬ。
     そして、ドレッドノートは徹底していた。
     
     無造作に剣を振るう。
     ミョルニルの頭部が縦に二つ、文字通り頭を割られる。
     
     心臓を穿たれた首から下が、力尽きたように倒れる。

  • 470◆xaazwm17IRZa24/07/30(火) 04:30:43

    やはり中途半端ですが、投下を一時中断します

  • 471二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 07:41:55

    乙です。まだだ!まだ終わらんよ!

  • 472二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 07:57:31

    なんてタイミングで焦らしてくれるんだ

  • 473二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 10:21:05

    心臓と頭部やられたから駄目そうだが、どうか

  • 474二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 11:16:46

    ありゃ〜死亡表記まだってことはいきてるんだよな…?
    次回逆転が始まるのか死ぬ前の回想か……

  • 475二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 20:25:29

    続きを待つ

  • 476二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 22:58:24

    ミョルニルの「力尽きたように倒れる」って事は空気が抜けたような感じかな。これもギミックの匂いがする…

  • 477二次元好きの匿名さん24/07/30(火) 22:59:52

    ミョルニルがミ/ョルニルになってミ/ミ/ョルニルになっちゃった…

  • 478◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 01:58:13

    投下します

  • 479◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:21:11

     薬師院怜那は、資産家の家に生まれた。令嬢(おじょうさま)である。
     
     薬師院家の歴史は古い。その祖は日本書紀に記され、「薬師院」と名乗るのは奈良以降である。
     多くの貴族が没落、衰退していく中で、薬師院家だけが、変わることなく一定の権力を持ちづけた。

    「親父の代までは」

     と、父は吐き捨てた。
     憎しみさえ感じさせる声色に、怜那は怯えた。

     山道である。
     父と一緒に、四歳になった怜那は石段を登っている。
     

  • 480◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:26:34

    「親父には商才がまるでなかった。
     借金ばかりを増やし、資産を何一つ増やさなかった。
     薬師院家の恥さらしさ」

     普段の父は、もっと温和で、声を荒げるところを三田ことさえ無かった。
     それが、今日の父はおかしい。
     四歳の怜那はたまらなく嫌だった。

     いつもの父に戻って欲しい。そう思って、握った手に力を籠めた。
     
     父は、怜那を引っ張るように歩みを進める。
     いつしか二人は、洞窟の前に立っていた。

    「お父様……怖いわ……」

    「安心しなさい、お前はここに来るのは初めてじゃない」

  • 481◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:38:54

     洞窟の中は薄暗かった。手を放したら二度と明るい場所に戻れない気がして、怜那は縋るように父の手を握っていた。

    「ここだよ」

     それは、四歳の怜那のボギャブラリーでは表現できない場所だった。
     仏壇、のようにも見える。
     丸形にくりぬかれた場所に台座が埋め込まれ、仏像のようなものが置かれている。
     
     その下には石のベッドがあった。

     もし、19歳の怜那……魔法少女ミョルニルが、この場所を見れば、きっとこう表現するだろう。
     此処は、祭壇だと。

    「お前は此処で産まれたんだ」

     と、父は言った。

  • 482◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:39:08

    「薬師院家を再興するために、私は一族に伝わる伝承を紐解いた。
     そして知った。我々一族の祖は、神代の頃、『決して損なわれない』という祝福を授かっていたんだ。
     親父が罰当たりだったせいで、その祝福は消えかけていたが……お前が生まれた。薬師院家を損なわさせないために、神から遣わされたんだ」

    「お父様の言ってること、わたくし、わかりません……」

    「今は分からなくていい。ただ、お前が生まれてから薬師院家は再び上向き始めたんだ。ははは、あの岸村家にだって、いつかは追いつけるはずさ」

     だからね、怜那。
     お前も神様に祈りなさい。

     背中を優しく押され、怜那は神像の前に一歩近づいた。

     その神像は、神というにはあまりに冒涜的な——。

  • 483◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:44:17

    「あー……親がスピリチュアル系かぁ……」

     怜那……魔法少女ミョルニルは、年下の友人、クリックベイトに幼い日の思い出を語った。
     あれ以来、あの山には一度も足を踏み入れていない。何処にあるかも思い出せない。狂気を感じさせる父の言動も、すっかり収まっている。

    「魔法少女って親絡みでトラウマ抱えてる人多いけど……君のところも大変だな」

    「そうですわねぇ。なんだかすっかり薬師院家の次期当主みたいな扱いされてますけど、わたくし、あんまり家を継ぐつもり無いんですのよ……」

    「そうなのかい? それにしては帝王学とか経営学とか、しっかり勉強してるじゃないか」

  • 484◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:49:41

     学ぶことが好きなだけですわ、とミョルニルは返した。
     
     魔法少女も騙されるような形でなってしまい、それでも続けているのは、学びが多いからだ。

    「僕は勉強、そこまで好きじゃないな。
     あくせくするのが嫌い。静かに釣り糸を垂らしてのんびりしていたい」

    「枯れてますわねぇ」

     けど、そういうところが好きなのだろうと思う。
     薬師院家の令嬢という立場は、周囲に普通に接することを許さない。
     服従か憧憬か嫉妬か敵対か。いずれかの立場を強制的に選ばせる。
     
     だから、魔法少女同士で談笑する時間が好きだった。
     今は薬師院怜那ではなく、魔法少女ミョルニル。ハンマーを武器にして、回復を得意とする魔法少女。

    (スピリチュアル……ですか)

  • 485◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:53:28

     その言葉は、ミョルニルの気をいささか楽にした。

     が、ただのありもしないものを信じている素敵な人、という評価を父に下すには、懸念があった。

     魔法は、実在する。魔法少女だって、存在する。

     ならば、父が願った神とは……その結果、生まれた自分は……。

    (考えても仕方ありませんわね)

     いつもミョルニルはそこで思考を打ち切る。
     元々、ミョルニルは魔法少女なのだ。
     これ以上、属性が増えたところで、大した問題ではない。

    (どうやって、生まれようが、わたくしはわたくしですわ)

     

  • 486二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 02:54:29

    全ての魔法少女は次期神候補…でもあるんだろうな
    本人が望もうが望むまいが

  • 487◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 02:57:52

    投下を中断します

  • 488二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 07:50:17

    乙です
    スピリチュアルと片付けたらどれだけ楽か
    出来ない辺りが人としての限界を感じるけどそれがまた怜那が人間である証だね

  • 489二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 08:21:50


    日本書紀が出来た時代は720年ごろらしい

  • 490二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 08:33:24


    SAN値チェック入りそうな神様の落とし子?

  • 491二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 17:22:47

    本来は治すというより損なわれない=ダメージをなかったことにするみたいなタイプだったんだろうか

  • 492◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 22:34:48

    投下します

  • 493二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 22:44:57

    wktk

  • 494◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 22:47:13

     ミョルニルを完全に殺し、ドレッドノートは小さく息を吐いた。

     手に持つのは、髑髏印の大剣と、身の丈よりも長い真紅の聖槍。
     
     ——何故、ドレッドノートはジャックに大剣を奪われた際に、直ちに再具現化しなかったのか。
     再戦時にジャックの不意を突くため、という狙いもある。
     だが、最も大きな理由は。

    (……いつもより、魔力消費が多いな)

     大剣の再具現化は、かなりの魔力を失うからである。

     無敵のドレッドノート最大の弱点は、魔力消費にある。
     無限の空間を作るためには無限の魔力が必要なように、永遠に無敵で居るためには永遠の魔力が必要となる。

     ドレッドノートの無敵魔法は、破格の性能にも関わらず魔力消費は少ない。
     その絡繰りは、無効化した攻撃の大小を問わず、魔力消費が一定なことにある。

     極端なことを言えば、熱核攻撃も、人間のデコピンも、無効化の際に消費する魔力は同じである。

    (同じ特性は、運営側の魔法少女ああああの拒絶魔法も持っている。)

  • 495◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 22:56:48

     今までのクィーン&アルセーヌ戦、ミョルニル戦、ジャック&ジェイルフィッシュ戦、ミョルニル再戦。これらの連戦でドレッドノートは無敵を使い続けてきたが、未だ魔力には余力があった。

     だが、大剣の具現化はドレッドノートの想定以上に魔力を奪った。消費量がいつもの三倍は違う、と感じる。

    (そう何度も具現化はできんな……。やはり、コートの魔法少女を優先的に始末するか)

     戦うたびに武器を奪われていては面倒だ。

    『み……見て、見て……大剣具現化できた……!」
    『おー、かっこいいぜー、いかすぜー』
    『やっぱ我らが魔王様には魔王っぽい武器で戦って欲しいもんねー、剣の名前何にする?』
    『えっと、髑髏だからスカルキングソードとか……』
    『普通に髑髏ちゃんソードで良くない?』
    『あえて名も無き剣というのもいかすよねー』

    「…………」

     ドレッドノートはしばし郷愁に浸った。
     

  • 496◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:07:03

     轟轟という音が耳に響く。
     山が燃えている。
     そんなものはドレッドノートに何ら危険を及ぼさないが、無駄に魔力を消費するのも馬鹿馬鹿しい。
     次なる獲物を探し、ドレッドノートはその場を後にしようとし。

    「——驚きましたわ」

     女の声が響いた。

    「わたくし——まだ、死んでないんですのね」

     ドレッドノートは振り返る。
     黄金の鎧を纏い、ハンマーを握る魔法少女が、そこに立っている。

     確かに心臓を貫いた。脳を頭蓋ごと叩き割っった。
     ドレッドノートの経験上、これで死なぬ魔法少女は居ない。

    「お前……どうしたら死ぬんだ?」

     思わず、ドレッドノートは聞いていた。

    「さっきまでは、脳か心臓を破壊されたら死ぬと、言えたんですけれど……」

     ミョルニルの顔は、陰っていた。
     見て見ぬフリをしていたものに直面したような、己の暗部を覗いてしまったような。
     どこか諦念にも似た苦笑が、彼女の顔に浮かび上がった。

    「今となっては、どうしたら死ぬのか、わたくしにもわかりません」

     

  • 497◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:17:19



     炎はますます燃え広がる。
     人間ならば高まる温度に意識が朦朧とする環境で、二人の魔法少女が殺し合っていた。

     一人は槍と剣を装備し、もう一人はハンマーを振り回す。
     あにまん市で行われる魔法少女同士の殺し合い。今まで数多くの戦いがあり、数多くの死者を出してきた。

     だが、両者の戦いは、異様なものだった。
     この二人にしか出来ない戦いが、そこでは展開されていた。

     ミョルニルがハンマーを振る。
     遠心力さえも武器にして振るわれる一撃は、常人の十倍程度のフィジカルなど、一撃で粉砕する。
     その破壊力は、敵対した魔法少女が戦わずして降伏してしまう程である。

     それを、ドレッドノートは真正面から受ける。
     横薙ぎに衝突するヘッドは、しかしドレッドノートを微塵も揺るがすことはない。

     ドレッドノートが大剣を振り下ろす。
     その切れ味は、魔法少女であろうと致命傷を与える。
     ミョルニルの頭部が縦に裂かれる。
     ——裂かれた端から再生する。

     再度、ミョルニルがハンマーを振るう。ドレッドノートも負けじと大剣を振るう。

     ミョルニルの攻撃はドレッドノートに通じず、ドレッドノートの攻撃はミョルニルを損なえない。

  • 498◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:24:59

     二人はノーガードで攻撃を当て続けている。
     例え格上の魔法少女だろうとただでは済まない攻撃を二人は浴び続け、それを意に介することなく戦い続ける。

    (狙うは魔力の枯渇ですわ……連戦している向こうの方が早く消費するはず!)
    (ただの回復ならともかく、蘇生ならば莫大な魔力を消費するはず、それが貴様の弱点だ!)

     狙いは同じ。故に我慢比べをするかのように、魔法性能を誇るかのように、二人は無為とも思える行為を続ける。

    (いったい、いつになったら無敵が解除されますの!? マリオだって、無敵時間は短いでしょうに……!)

    (こいつは、後何回蘇生するんだ……? マリオだって、残機はあるだろ……!)

     焦りを押し隠し、二人はもう何度目になるか分からない潰し合いをする。
     

  • 499二次元好きの匿名さん24/07/31(水) 23:28:25

    真理央「マンマミーア」

  • 500◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:33:53

     先に諦めたのは、ドレッドノートだった。
     
     認めざるを得なかった。

    (こいつ、蘇生に殆ど魔力を使ってないんだ)

     そんな摂理を外れた存在が居るなど、認めたくは無かった。
     だが、ドレッドノートは知っている。ブレイズドラゴンという、常軌を逸した魔法少女が居たことを。
     そして、常軌を逸しているのは自分も同じだと理解している。

     ならば、自分が自分を攻略するならどうするか考える。
     方法は、ある。

     ドレッドノートは大剣を腰だめに構え、ミョルニルに突進した。

    「なっ」

     今まで斬り払いの動きが多かったために、いきなりの突きの動きにミョルニルの対応が遅れる。
     鎧を引き裂き、ずぶりと腹に刃が突き刺さる。

     最早、その程度の攻撃は、問題にならない。
     ミョルニルの傷は瞬時に回復を始め。

     そのままドレッドノートの突進にされ、ミョルニルは姿勢を崩しながら後退する。
     そして、ひと際激しく燃えていた炎の中に、両者は突っ込んだ。

     

  • 501◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:39:58

     剣を刺したまま、ドレッドノートはミョルニルに馬乗りになる。

    「貴様の詰みだ」

    「何を馬鹿な——」

     ミョルニルの顔に叩き込まれたのは、槍。
     魔法王から配られたマジックアイテムは、やはり魔法少女に致命傷を与える強度を持っていた。
     脳天を貫かれ、ミョルニルの言葉は止まる。

    「私はまだ負け——」

     一瞬で蘇生する。
     すかさず槍を貫く。
     蘇生。刺殺。蘇生。刺殺。蘇生。刺殺。

    「いい加減に——」

     苛立ったミョルニルはハンマーを器用に動かし、倒れたままドレッドノートを殴りつけた。
     ——無敵であるため、ドレッドノートはビクともしない。
     片方の腕でドレッドノートを引き剥がそうとする。
     触れることは出来ても、どれだけ力を籠めても、殴りつけても、ドレッドノートは微塵も揺るがない。

     その間も、ドレッドノートの槍はミョルニルの頭部を貫き続ける。

  • 502◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:45:43

     ドレッドノートは無敵である。どれだけ破壊力のある攻撃も彼女には通じないし、どれだけ剛力で締め上げようとびくともしない。

     すなわち、馬乗りになったドレッドノートをどかす手段は、無い。
     彼女は無敵で在るがゆえに、誰も彼女に干渉できない。

     ドレッドノートがもしドレッドノートを攻略するのなら、逃げられない状態に追い込んだ上で、ひたすら攻撃を与え続ける。いずれ魔力が尽きるまで何度も何度も攻撃する。

     槍で刺し続けながら、ドレッドノートは思う。

    (これでいい)

     さっきまでのような、互いに一撃を与え続ける攻撃では拉致が空かない。

     一秒間に何度も何度も殺し続け、一方的に相手の蘇生回数を増やし続ける。

  • 503◆xaazwm17IRZa24/07/31(水) 23:52:43

     100回では死なないかもしれない。だが1000回なら? 10000回なら? 100000回なら?

     何より、ドレッドノートと違い、この少女は一度攻撃を受けてから蘇生している。
     痛みはあるのか。
     もし痛みを無効化しているとしても、何百回も脳を破壊され続けて、果たして無事で居られるのか。

     その証拠に、徐々に抵抗は弱まってきている。魔力に限界が来たのか、あるいは心が折れたのか。

    (余の覇道の礎になれ、不死身の魔法少女よ……)

     ドレッドノートの顔に、ミョルニルの手がかかった。
     ハンマーを握っていた方の手だ。武器を手放し、いよいよ最期の時が近いのか。

    「わたくしが——」

     刺し続ける。完全に息の根を止めるまで油断しない。

    「治せるのは——」

     まだ口を動かす余力は残っているのか。存外しぶとい。

    「自分だけじゃ、ありませんのよ」

     再生魔法が、発動した。

  • 504◆xaazwm17IRZa24/08/01(木) 00:01:34

     瞬間、ドレッドノートの心に溢れたのは——癒し。
     湯船にどっぷりと沈んだような、全身を包み込む暖かな感覚。
     仲間を殺されたあの日から、復讐に猛り狂った心が、凪いでいく。
     全てが終わったかのような安堵。
     ドレッドノートの目から、涙が流れた。

     そして、沸き上がったのは——激怒だった。

    「お前、まさか……っ!」

     槍を握る手が止まる。再生を終えたミョルニルが、申し訳なさそうに微笑んだ。

    「ええ、貴女の心の傷——治してさしあげますわ」

    「やめろ、やめろっ!」

     抱えていた喪失感。ブレイズドラゴンへの怒り。絶対に仲間を取り戻すという執念。それらが、癒えていく。仲間が居た時の、穏やかな気分が帰ってくる。
     損なっていた心が、急速に癒えていく。

     その現象に——ドレッドノートは心の底から、恐怖した。

    「私から、傷を奪うなっ!」

  • 505◆xaazwm17IRZa24/08/01(木) 00:12:16

     この傷が癒えてしまったら。怒りを忘れてしまったら。ドレッドノートは二度と仲間を取り戻せない。魔王ドレッドノートが、ただの夜祖神髑髏に。引っ込み思案でサブカル好きで、仲間と一緒に居るのが大好きの、普通の女の子に戻ってしまう。

     ドレッドノートはミョルニルから離れようとした。
     逃がさないように、ミョルニルはドレッドノートの腕を掴む。
     本来なら、ミョルニルはドレッドノートに干渉できない。
     だが、恐怖してしまったドレッドノートは、既に無敵ではなく、干渉可能な存在に成り下がる。
     
    「こんな残酷をしたくありませんが——大好きな人を守るためです。
     貴女の願い、踏みにじらせていただきますわ」

     ドレッドノートは絶叫した。悲願を絶たれる、恐怖の悲鳴だった。癒しと赦しの中で、魔王ドレッドノートは死ぬ。

     死に物狂いに暴れ、ミョルニルから逃れようとした。
     そして、手にもった槍を、ミョルニルの頭部に突き立てる。

     この槍で、何度ミョルニルを殺しただろう。
     にも関わらず、依然健在。
     すなわち、この攻撃も、意味を持つものではなく。

    「ロンギヌスぅうううううううううううううううううう!!」

     ドレッドノートの叫びに応じるかのように槍は輝き。

     ——ミョルニルの手から、力が抜けた。

  • 506◆xaazwm17IRZa24/08/01(木) 00:17:46

     聖杖ロンギヌス
     身の丈よりも長い真紅の聖槍。
     固有魔法『神を殺す魔法』の効果から聖なる加護を打ち破る攻撃が可能だが、魔法少女や妖精・悪魔など魔性の者たちには殆ど効果がない。
     妖精郷の外敵どもを討ち滅ぼすために作られたアロンダイトの最終兵器。

     マジックアイテムと一緒に配られた紙には、そう書かれていた。魔法少女には効果が無い。外れ武器だとドレッドノートは判断し、ただのサブウェポン、魔法少女にも通じるただの槍として振るってきた。

     土壇場で縋ったのは、夜祖神髑髏が元々サブカル女子だったからか。あるいは、何度殺しても蘇るミョルニルに神を見出したからか。

     名を唱えることで発動した聖杖は、一刺しでミョルニルの息の根を止め、二度と復活させることは無かった。

     肩で息をしながら、ドレッドノートは立ち上がる。
     そして、ミョルニルの死体から、大剣を引き抜いた。

  • 507◆xaazwm17IRZa24/08/01(木) 00:25:08

     袖で涙を拭う。
     恐ろしい相手だった。もしこの少女が神に連なる者でなければ、敗北していたのは自分だった。心の傷が癒え、仲間の死に折り合いをつけ、復讐ではなく日常を選ぶ、そんな自分になってしまうところだった
     断じて御免だ。

    「余は……余は、魔王ドレッドノートだ……!」

     血を吐くように叫ぶ。
     奪った命はこれで二つ。ドレッドノートは悲願のために進み続ける。

    【薬師院怜那/ミョルニル 死亡】

    【残り 27人】

  • 508◆xaazwm17IRZa24/08/01(木) 00:25:21

    投下を終了します

  • 509二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 01:15:16

    乙ですわ~
    ・想像よりも曰くつきっぽいミョルニルの出自
    お父様の言う「神から遣わされた」が比喩表現じゃない可能性が出てきた
    ・ブラックブレイド現象再び
    死の淵まで追い詰められた魔法少女は能力の拡大解釈に目覚めがち
    放っておいたら"あにまん市の概念"を再生させてデスゲームを無かったことにしていたかもしれない
    ・ロンギヌス、偉すぎる
    自前の武器を使うと逆に継戦能力が削がれるドレッドノートにとってサブウェポンの存在は棚ぼたもいいところ
    ついでに厄ネタ判別機としても働くため読者にもありがたい

    情報量が……情報量が多い……!!
    感想書く側としては小分けにして投下される今のスタイルが逆にありがたいかもです

  • 510二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 08:47:38

    保守

  • 511二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 12:03:01

    乙でした
    ついに北部でも死者が出たということはもう終盤に差し掛かってるのかね
    続きも楽しみにしてます

  • 512二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 13:49:06

    この槍なら始まりの魔法少女やパラサイトドールにもダメージが通るのかね…
    参加者サイドに渡ったのは運営にとってかなり致命的だな

  • 513二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 19:07:23

    完全でなくとも癒やされた分ドレッドノートの出力落ちそうだがどうか

  • 514二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 19:49:11

    ミョルニル…
    傷を治して概念系に傷を付けれるのは土壇場の覚醒みたいですき
    この癒えた箇所が後々、良い方面か悪い方面に作用するか…

  • 515二次元好きの匿名さん24/08/01(木) 20:36:30

    来るか…セラピーされたドレッドノート対主催化!
    冗談は置いといて互いに傷を抱えて戦ってるのが伝わる分なんとも哀しい戦いだったなあ

  • 516二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 02:12:32

    このレスは削除されています

  • 517二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 07:45:47

    メンタルが揺らぐと概念系は脆い
    けど癒された事で魔法が補強された可能性も無くはないな…

  • 518二次元好きの匿名さん24/08/02(金) 16:09:20

    他人のメンタルまで回復できるならミョルニルとドレッドノートが組めば無敵だったな

  • 519◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 22:24:36

    投下します

  • 520◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 22:36:34

    「だからさ、学校なんか行く意味ないよ」

     と、愛裏は言った。

     生意気だな、と枢(くるる)は思った。

     この幼馴染の、現在『小二』の少年は、不登校児である。
     
     ずっと部屋に籠ってパソコンばかりしている、将来心配な現代っ子だ。

     日本の未来は暗いなぁ、と枢は思った。

     そんなことを思う彼女も未だ『小六』である。ただの小六ではない。実のところ……彼女は魔法少女なのだ。未だ覚醒していないが、近いうちに覚醒し、家族の、教室の、地域社会の、国内の、世界の、あらゆる問題を解決する予定である。

     今はまだ、モラトリアム。といっても、魔法少女の卵であることは確定していのでこうやって、不登校の少年を外に連れ出して、一緒に散歩をしたりする。これも魔法少女の立派な活動だ。

  • 521◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 22:47:47

     学校に行くことがいかに無駄か、学歴がなくてもネットで好きなことをして生きていけるとぐちぐち言う愛裏の話を適当に聞き流しながら、枢は街のパトロールをする。

     迷子の子どもは居ないのか、ゴミは落ちていないのか。犯罪は行われていないのか。
     覚醒してない身では、これしか出来ない。それを、歯がゆくも思う。

    「くるるねぇ、僕、腹減ったんだけど」

    「もうそんな時間かぁ」

     少し歩いたところに、若い中国人のお姉さんがやっている、中華屋がある。餃子が絶品。

     店の名前を告げると、愛裏のテンションが目に見えて上がった。小難しいことを言っていても、所詮中身は小二だ。
     
     可愛い奴め、と思いながら枢は商店街の方へ足を進めようとし。

     女の子の泣き声が耳に入り、浮いた足を戻したのだった。

  • 522◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 22:56:01



     森が燃えている。
     『18歳』になった枢——魔法少女、アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッドは入れ墨の少女を睨む。

     巨大な葉を外套のように羽織ったその姿は、野生児そのものといった風貌だが、どうやら中身も同様らしい。

     端的に言って、会話が通じない。
     ハイエンドとは価値観の相違から会話にならなかったが、この少女は、もっとシンプルに互いに相手の話す言語が分からないという普遍的な問題によって、会話が成立しなかった。

     言葉巧みに相手を揺さぶるアリスの戦略は、刺青の少女には通用しない。

    (けど、同じ魔法少女なら、これの意味は分かるはず)

     差し向けるは、魔法少女に変えた眷属。

     獣のような速さで、一人の魔法少女が刺青の少女に迫る。

  • 523◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:09:50

     普通、30体もの使い魔を召喚したら、一体一体は雑魚である。まさか、魔法少女と同等の身体能力を発揮するとは、大抵の相手は思わない。

     だが、刺青の魔法少女——マク=ハク/ノーブル・サヴェージは魔法少女戦のセオリー……否、他の魔法少女が半ば無意識に前提にしているゲームや漫画、アニメの知識すら無い。

     数が多いから、弱い。そんな法則は、ノーブル・サヴェージには無い。
     
     群れているかそうでないかと、獣としての強さ、戦士としての力量は、まったく別の問題だ。

     故に、油断も無く、自分に迫る魔法少女の速さにも動じることはない。
     獣のような速さ——それは、普段狩ってくる獲物と同じ速さでしかない。

     極彩色の魔法陣が展開し、ノーブル・サヴェージの手元に拳大の黒く光る岩石が出現する。

     そして、それを間髪入れずにノーブル・サヴェージは投擲する。

    「駄目なの!」

     あまりにも速いその動きに、ジェイルフィッシュの注意が遅れる。
     もっとも、間に合っていたとしても、言葉が通じない以上、静止することは難しかったが。

     投げつけられた岩は、迫っていた魔法少女の額に当たり——血飛沫と共に少女の顔を弾けさせた。

  • 524◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:18:58

     勢いを殺せずに、少女の死体はごろごろと転がる。

    「あーあ、殺しちゃったのね……」

     アリスが楽し気に言う。

    「死んだものは取り返しがつかないのに……」

     転がった少女は、変身が解除され、その姿を晒す。
     制服を着た、10代後半の少年。
     
     ノーブル・サヴェージは、姿を変えたことに僅かに驚きを見せた。

     それだけだった。

    「……言葉が通じなくても分からないかしら?
     あなたは、人を殺してしまったのよ。
     まさか、自己正当化しないわよねぇ」

  • 525◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:19:10

     ありすの脳裏に浮かぶのは、精神病院で戦った中華服の魔法少女。魔法少女失格の嫌悪すべき者。

     果たしてノーブル・サヴェージは——雄叫びを上げた。

     それが後悔や悲しみといったネガティブなものではなく、喜びや高揚を表すポジティブなものだと、アリスも、ジェイルフィッシュも、理解できてしまった。

     奇しくも、二人の思考は一致する。
     
     アリスの脳裏に浮かぶのは、ハイエンド。
     ジェイルフィッシュの脳裏に浮かぶのは、テンガイ。

     『この刺青の少女も、アレと同類か』。

  • 526◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:28:38

     ならば、これ以上の問答は必要ない、とアリスは判断する。
     ハイエンドの時は眷属の数が心もとなく撤退したが、今はジャバウォックが居る。
     魔法少女の風上にも置けない、この刺青の少女は排除する。

     ジェイルフィッシュもまた、この場は入れ墨の少女と共闘してアリスを倒すのではなく、この場を離れることを優先することを決意する。

     意思疎通も出来ず、殺人に何ら抵抗を見せない少女。もし協力してアリスを倒したとしても、次の標的がジェイルフィッシュや、騎士を操っている少女になるかもしれない。

     再び行われた殺人にフラッシュバックを起こしたのか、騎士を操る少女は顔を青白くし、身を震わせている。
     その肩を優しく撫で、ジェイルフィッシュは少女の手を握った。

     そのままアリスと刺青に少女を背を向け、走り出す。

    「おっと、逃がさないよ」

     空中で事の推移を見守っていたジャバウォックが、再び口から炎を吐き、ジェイルフィッシュの退路を断とうとするが。

    「おっと!」

     ジェイルフィッシュから投げつけられた槍を慌てて回避し、炎を吐く機を失う。

    「ロシゾロジャグバ(森を燃やすな)」

    「すいません、よくわかりません」

     

  • 527◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:48:23

     木々を駆け抜けて逃げていくジェイルフィッシュとクィーンを目で追いながら、ジャバウォックは、アリスの指示を待つ。

    「いいわ、二人の子羊は後回しにしましょう。
     今は、この失格者を」

    「わかったよ、アリス」

     ジャバウォックは、ノーブル・サヴェージに向けて炎を放つ。
     ノーブル・サヴェージは獣じみた動きで炎を避けると、再び槍を放った。
     ジャバウォックはひらりと身を翻し、槍を交わしてしまう。
     その隙に、アリスの眷属たちがジャバウォックに迫る。

     ノーブル・サヴェージの背丈の、2倍程の大きさの極彩色の魔法陣が展開される。
     出現するは、倒木。
     一軒家一つ圧し潰す程の大きさのそれに、少女たちは巻き込まれる。

     

  • 528◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:49:43

    だが、一人一人が超人。
     一時的に動きこそ止められるが、その程度では死に至らない。

     ——だが、一瞬動きを止めることは、ノーブル・サヴェージと相対する上で死を意味する。

     下敷きになった身体を脱出させる前に、眷属たちの首が抉られる。
     更に速度を増したノーブル・サヴェージの両腕は『ジャガー』のそれに酷似していた。鋭利な爪で、同じ顔の規格品のような少女たちは命を落とし、本来の姿を取り戻していく。

     下敷きから免れた眷属の少女の一人が、ノーブル・サヴェージに向けて飛び掛かる。
     素手とはいえ、その五体は魔法少女に確実にダメージを通し、当たり所によっては命さえ奪う。
     大人が大人を殴れば死亡事故に繋がるように。

     だが、眷属の少女の両手は空を切る。
     ノーブル・サヴェージの顎が——鋭利に尖った犬歯が、少女の頸動脈を食いちぎる。

     一瞬の攻防で、眷属の少女10人が死亡する。
     アリスは不快そうに顔を歪めた。

    「ボンバロボバ、ジャダンジン(こんなものか、野蛮人)」

     対照的に、ノーブル・サヴェージは聖戦に酔う恍惚とした笑みを浮かべた。

  • 529◆xaazwm17IRZa24/08/02(金) 23:50:05

    投下を終了します

  • 530二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 00:27:41

    乙です!
    言葉が通じないサヴェージと意思疎通の出来ないアリスが支配している環境からひとまずは抜け出せれて安心…

  • 531二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 07:40:46

    少なからず『無辜の一般人なら人質として機能する』と信じてる辺りAIWOTDはまだまだピュア

  • 532二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 09:28:46

    ノーブル・サヴェージは戦い方を臨機応変に変えてくるので数が多くても弱くならないんですね
    そりゃ2人に構ってもいられないな

  • 533二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 15:41:55

    やれることの範囲が広いタイプの魔法だからね

  • 534二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 22:33:50

    保守

  • 535二次元好きの匿名さん24/08/03(土) 23:28:14

    >>518

    ドレッドノートの無敵は傷の深さで決まるみたいだし…普通に相性悪いかもと思ったけど

    魔法は解釈次第で変わるからその可能性もありえたなぁ

  • 536◆xaazwm17IRZa24/08/03(土) 23:59:29

    投下します

  • 537◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 00:17:42

     ノーブル・サヴェージは両手を広げ、吼える。

    「魔法少女はそんなはしたないことしない」

     不愉快そうにアリスは吐き捨てると、更に十人の眷属をノーブル・サヴェージに差し向ける。

     ノーブル・サヴェージも四肢を獣のそれに変化させ、眷属たちに飛びかかる。

     攻防……とはとても呼べない一方的な殺戮を目にしながら、アリスは神経質そうに頬を掻いた。

    (この魔法少女……出来ることが多すぎないかしら?)

     植物を召喚し武器として使役する。四肢を獣に変化させる。岩石を生成する。更に素のフィジカルも高く、戦闘センスもある。

    (魔法少女の常識から外れてる……いえ、ある意味スタンダードなのかしら……)

     魔法少女は世界中の人間全てを救わなければならない。ならば、魔法も一芸特化ではなく、万能でなくてはならない。——あるいは全知全能に。

    (この子が、私の理想とする魔法少女……ありえないわ)

     血に飢えた獣のような少女だ。
     野生児だ。アリスの理想とする魔法少女とはあまりに縁遠い。
     アリスの理想は、街の困りごとを解決し、そうやって世界全てを救う魔法少女。
     ターザンではない。

  • 538二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 00:31:28

    パラサイトドールタイプのハイスタンダード魔法少女だな…

  • 539◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 00:47:32

    (けど、底が見えないものまた事実だわ)

     どこまで出来るのか。何が出来ないのか。
     差し向けた10人が次々その数を減らしてくのを見ながら、アリスは一つの決断を下す。

    (奥の手を切るわ)

     ぱん、とアリスは両手を合わせた。
     それは、メルヘンの終わりを意味する合図。
     これより始まるのは、悪夢の時間。

    「私の名前は——アリス・イン・ワンダー・オブ・『ザ・デッド』」



     後方で膨れ上がった気配に、ノーブル・サヴェージは敏感に反応した。
     咄嗟にその場を飛び退く。下手人の姿を確認し、ノーブル・サヴェージの顔は、驚愕で歪んだ。
     
     死体が、そこには立っていた。
     ノーブル・サヴェージが岩石で頭を砕き、少年に姿を変えた個体である。
     それが、再び魔法少女に変身し、半壊した顔をノーブル・サヴェージに向けている。

     彼女(彼)だけではない。
     今しがたノーブル・サヴェージが殺し、人間の姿に戻っていた者たちが、再び魔法少女の姿になっている。
     

  • 540◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 00:58:58

     これこそが、アリスの奥の手。
     アリスが体液を与えた者は、屍になっても命令が完遂されない限り動き続ける。
     殺した程度では止まらない。
     不死の軍勢。悪夢の軍団。魔法少女の千年王国。
     
    「ガブショグレ……(悪霊め……)」

     ノーブル・サヴェージは死者の軍団を前に臆したりはしない。

    (さっきの悪霊の仲間か)

     首無しミョルニルをアリスの眷属と同類だと勘違いはしつつも、ノーブル・サヴェージの動きに迷いはない。

     首が抉られている死体が、生前と遜色ない動きで迫るが、俊敏に躱し、すれ違い様に、獣に変化させた右腕で、頭を抉り取る。

     だが、頭を無くした死体は、そのままノーブル・サヴェージに掴みかかり、これには肝を冷やしたのか、ノーブル・サヴェージはジャガーのような跳躍で、首無し少女の手の届かない場所まで逃げる。

    (どうすればこの悪霊は鎮めることが出来る……?)

     ノーブル・サヴェージは頭を働かせ、一番最初に遭遇した悪霊のことを思い出す。
     召喚するは、蔦。
     それで、悪霊を縛り上げようとするが。

    「おっと、僕を忘れてもらっちゃ困るぜ」

     すかさず、空から炎が飛来し、蔦を燃やしてしまう。

     ノーブル・サヴェージは怒りの声をあげた。

  • 541◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 01:22:01

     蔦で拘束しようとすれば、ジャバウォックに燃やされてしまう。ジャバウォックを先に狩ろうとすれば、眷属が邪魔をする。一方的に蹂躙しているように見えるが、素の身体能力では眷属とノーブル・サヴェージに隔絶した差があるわけでもなく、複数に取り押さえられると、一気に形勢は不利になる。

     不死の軍勢を前に、ノーブル・サヴェージは攻めあぐねる。
     
     荒い息を吐きながら、アリスはその様子を眺め、ノーブル・サヴェージの力量を把握する。

    (なるほど……死なない相手への対処法は、さっき燃やした蔦くらいしかないのね……)

     戦術は幅広いが、どれも『生き物』を狩ることを前提としたビルドだ。

    (何よりこの魔法少女……さっきから、明らかに本体である私を狙おうとしない……。戦いには慣れてるけど、魔法少女戦には、明らかに不慣れだわ……)

     体液を摂取させた相手の支配・操作だけでなく、死体操作まで含めると、その魔力消費は計り知れない。
     ハイエンド戦で使わなかった理由もそれだ。

     

  • 542◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 01:22:20

    裏を返せば、ノーブル・サヴェージはそこを突いてきてもおかしくはない。
     不死身の魔法少女軍団は、永遠に不死身というわけではない。
     魔力には、限りがある。

    「だから、駄目押しを……」

     アリスが更なる一手を打とうとしたときだった。

     アリスの背後から、突如西洋剣を構えた騎士が出現した。

     剣は真っすぐアリスへと振り下ろされ。

     横合いからタックルした眷属の魔法少女によって剣の騎士は吹き飛ばされる。 

  • 543◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 01:23:20

     アリスは余裕を持って振り返る。

    「あら、逃げなくて良かったのかしら、女王様」

    「——逃げない。だって私は、魔法少女だから」

     周囲に騎士団を従えて、クィーンは戦場へと舞い戻る。

    「私が憧れた魔法少女は、きっとこんな時に逃げたりなんかしなかったわ」

    「……ええ、魔法少女ならそうするべきだわ」

     アリスの言葉には強い情念が籠っていた。
     クィーンは騎士団に進撃の号令を下す。
     アリスもまた、未だ生者である眷属たちを向かわせる。

     戦いは、佳境へと入っていった。

  • 544◆xaazwm17IRZa24/08/04(日) 01:23:33

    投下を終了します

  • 545二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 07:44:03

    死体は脳を使えない分AIWOTDが逐一指示を出すしかないのかね
    そう考えると奥の手というより破れかぶれ?

  • 546二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 13:31:35

    殺した相手がずっと向かってくるのは殺しに忌避感がない相手でも精神的に来るだろうし奥の手ではあると思う
    数的にあと何人殺せば終わり、って思ってるところに残りの数が分からなくなるのもマラソンでいきなりゴールが遠ざかるようなキツさがあるし
    奥の手=必殺の隠し玉ではなく「追い込まれた時に使うあんまり使い勝手の良くないカード」ってだけなんだろう

  • 547二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 19:46:06

    目の前の敵に全力で挑むサヴェージと正面戦闘は避けたいですねー… 如何せん盤面を無視した戦法をするし

  • 548二次元好きの匿名さん24/08/04(日) 22:59:06

    クィーンの帰還に思わずアリスもニッコリ

  • 549二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 07:50:14

    土壇場で使い勝手よくないカードを切る程、リスキーな行動は無いからね

  • 550二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 15:43:00

    残り27人
    他の場所の出目とここの死者数次第だけど2ターン終了時には生存者はだいたい半分になりそうだな

  • 551二次元好きの匿名さん24/08/05(月) 23:07:35

    ここからの駄目押しとはいったい…
    搦手の出番かね?

  • 552◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:15:36

    投下します

  • 553◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:23:50

     時は僅かに遡る。

     ジェイルフィッシュはクィーンの手を引き、山林を駆けていた。
     その足は、遅い。

     呆然自失な様子のクィーンは、魔法少女本来の脚力を発揮できず、無理やり引っ張るジェイルフィッシュも、剛力に優れるわけではない。

     炎に巻かれることこそ無かったが、かかった時間のわりに、アリスからの距離は稼げていなかった。

     引きずられるように動いていたクィーンの足が止まり、ジェイルフィッシュはつんのめりそうになる。

    「どうしたの?」

     心配半分、苛立ち半分の声色。
     
    「……やっぱり私、戻るわ」

     クィーンの言葉を、ジェイルフィッシュは予想していたのだろう。

    「行ってどうするの?」

     と、間髪入れずに問い詰める。


     

  • 554◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:32:42

    「アレと戦うってことは、操られてる人たちと戦うってことなの。
     それに、乱入してきた原住民みたいな魔法少女も、味方かどうか分からない。
     ……危険過ぎるの」

     ジェイルフィッシュとて、良心が無いわけではない。
     一般人を魔法少女に変え、操り、肉壁として消費する魔法少女に対する怒りは強いし、絶対に倒さねばならないとも思う。

     ただ、このゲームに参加している危険な魔法少女は、アレだけではない。
     テンガイやドレッドノートという、ジェイルフィッシュ単体では勝てない魔法少女。
     彼女たちとの今後の戦闘を考えれば、今ここで無理してアリスと戦うより、信頼できる仲間と連携して、安全かつ確実に各個撃破していきたい。

    「でも、放置すれば、もっと被害者が増えるかもしれないわ。
     それは同時に、あいつの戦力が増えることも意味する」

     ジェイルフィッシュは目を丸くした。
     もっと感情的な言葉が返ってくるかと思っていた。
     あるいは泣き喚き、駄々をこねる可能性さえ想定していた。

    (思ったより、ずっと理知的なの)

     どうやら善性が強いだけではないらしい。
     クィーンの評価が、ジェイルフィッシュの中で大幅に上昇する。

  • 555◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:41:15

    「でも、戦力を増やせるのはこちらも一緒なの。今焦って倒すより、やっぱりパーティーメンバーを多く……最低でも四人は必要なの」

     クィーンが感情的に暴れ出すなら、一度シャボン技で気絶させてから抱え上げて逃げようと考えていた。
     だが、精神を立て直したのなら、そんな強硬策は必要ない。
     相手の知性を信じて、こちらも「理」を説く。

    「いえ、あの魔法少女……アリスは早急に倒した方がいいわ」

    「断言する根拠を教えて欲しいの」

    「アリスの魔の手が、私たちの大切な人にまで伸びる可能性がある」

     今度は、ジェイルフィッシュが硬直した。
     脳裏に、一人の少年の顔が思い浮かぶ。

     ……アリスの魔法の絡繰りが分かった段階で、そのことは考えていた。

     だが、あえて考えないようにしていた。

     そもそも魔法少女同士の殺し合いが始まった時点で、街はどこも危険なのだ。
     アリスだけを特別視する理由は無いし、そんな風に考えることは目を曇らせる行為だ……とジェイルフィッシュは内心で自重していた。

     

  • 556◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:56:13

     だが、いざ他者に突きつけられると、恐怖で身を凍らせざるを得ない。
     矢が頭に刺さって死んでいた少年のように、ジェイルフィッシュの想い人、宮島祐樹が死ぬ。
     想像するのも辛い光景だった。

    「……っ、でも、戻った所で戦えるの?
     あいつはきっと、肉壁戦法使うに決まってるの。
     ……巻き込まれた人の、命を奪うことになるの」

    「……分かってるわ」

     クィーンの顔は苦渋で歪んでいた。
     完全に回復したわけではない。無理もない。命を奪ってから数分も経っていないのだ。

    「私の騎士団なら、本体を倒すまで、殺さずに足止めはできる。
     けど、絶対じゃない。……命を奪うことも、あるかもしれない」

     

  • 557◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 00:56:29

     でも、とクィーンはジェイルフィッシュを見据える。

    「私が憧れた魔法少女なら、ここで逃げない。
     人の嫌がることは進んでやる……こういう役目も、きっとあの人は引き受けるはずだから」

     クィーンの決意は固いのだと、ジェイルフィッシュはようやく認めた。
     どれだけ言葉を紡いだところで、どれだけ「理」や「利」を示したところで、クィーンは一人でも戻るのだろう。

    (まったく、ゲームが始まってから全然マイペースでいられないの)

     クィーンは頼りになる。
     善性だけでなく、理知的な思考も出来る。
     ——汚れ役になる覚悟もある。
     ここで見捨てるには、惜しい人材だった。

    「……分かった。私も協力するの」

    「……いえ、貴女だけでも逃げた方がいいわ。見たところ、私より年も下みたいだし」

    「二人で行った方が勝率も上がるの。言っておくけど、何を言われても、一人で行かせないから」

     クィーンは申し訳なさそうに微笑んだ。ジェイルフィッシュは気にするな、といった風に笑った。

     かくして二人の魔法少女は戦場へと舞い戻る。
     

  • 558◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:06:26



     騎士団を率い、クィーンはアリスと相対する。
     帰還した女王を、アリスはどこか誇らしそうに眺めていた。

    「ふふふ、けどいいのかしら。
     戻って来ても、良かったのかしら」

     今しがた、クィーンの騎士を一人、突進で倒した魔法少女が。今度はクィーン本人目掛けて、突進する。
     魔法少女の平均を逸脱したその速さは、ノーブル・サヴェージが瞬殺した眷属たちとは一線を画している。
     
     ガァアンと金属質な音が響き、少女の突進が停止する。
     大盾を構えた騎士、三人がかりで、少女の突撃を止めたのだ。
     その背後から、長槍を構えた騎士たちが、少女を打擲する。
     槍で貫くのではなく、ダメージを与えて戦闘不能を狙う。

     その隙に、クィーンは騎士団と共に、更にアリスへと近づく。


     
     

  • 559二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:06:51

    このレスは削除されています

  • 560二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 01:21:29

    このレスは削除されています

  • 561◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:22:11

    「うふふふ……」

     アリスが右手を掲げる。
     アリスの周囲を囲んでいた、九人の眷属たちが一斉にクィーンへと襲いかかった。
     
     いずれも、ノーブル・サヴェージが倒した者たちとは違い、それぞれが独特の個性を有している。

     背から羽根を生やしている者。
     引っ掻きをメイン攻撃とする者。
     手足で絡めとろうとする者。

     一人一人が、クィーンの騎士より強い。

  • 562◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:32:37

     だが、クィーンの騎士は、決してアリスの眷属に対して一対一で戦おうとしない。
     一人の眷属に対し、およそ三人。
     三対一で挑み、眷属たちと均衡状態を形成していた。

    「幕を下ろすときが来たわ、アリス」

    「いいえ、まだまだまだまだまだ、世界は救われていないんですもの。こんなところで終わるはずが無いわ」

    「貴方を守る使い魔たちは私の騎士が押さえている。
     ——もうあなたを守る者は居ない!」

     騎士の一人がクィーンに剣を捧げる。
     受け取ったクィーンは、丸腰のアリスへと斬りかかった。

     その時、突如地中から、眷属の一人が躍りでた。

     不意を突かれたクィーンの顔が、驚愕に歪む。
     

  • 563◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:32:51

    「さぁ……どうするのかしら、女王様」

    「舐めるな!」

     クィーンは、立ち塞がった眷属を、袈裟切りに斬り捨てた。

     避ける、無力化する、いずれも、ここまで接近されては、致命的な隙になる。
     女王本体に至近まで近づかれた以上——処刑するしかない。

    「なっ……!」

     クィーンの顔が焦りで歪む。
     斬り捨てられた眷属は命を落とし、その本来の姿を晒す。
     現れたのは、小柄で毛むくじゃらの生物だった。……人ではない。

    「これって、モグラ……?」

     

  • 564◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:36:54

     瞬間、クィーンの中である仮説が浮かび上がった。
     もしや、アリスの眷属の中には。

    「人間だけじゃなく、動物も混じっているのね!」

     通りで、妙に突進に固執したり、羽根を生やしたり、手足で絡めとろうとするわけだ。
     恐らくそれらの固体は、猪だったり、鳥だったり、蛇だったりするのだろう。

     無暗に生き物を殺したくはない。
     だが、人間と比べれば——その精神的苦痛の、何と軽いことか。

     騎士団の勢いが増していく。モグラの眷属も、傷はそのままに再び魔法少女へと変化したが、ゾンビ化はむしろクィーンの心理的抵抗感を薄めるだけだった。

  • 565◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:45:55

     クィーンを剣を構えたまま、アリスへと肉薄する。

    「くっ……!」

     クィーンは、決して剣の達人ではない。
     大振りの剣先を、アリスは回避する。
     だが、アリスもまた、肉弾戦の心得は無い。

     避け方も不格好なものであり、腰を引きながら後ろに下がるというものだった。

     だが、その顔には——冷や汗こそかきつつも、未だ微笑が浮かんでいる。

    「哀れな女王様。民の怒りに気づかない。哀れな哀れな女王様。ギロチンの音に気づかない」

    「いいえ、首を刎ねられるのはあなたよ、アリス」


     
     

  • 566◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 01:57:55

     もはや、状況はクィーンの有利に傾いていた。
     30はいた眷属のうち、20はノーブル・サヴェージの相手で忙しく、10はクィーンの騎士団に制圧され出している。
     頼みの綱のジャバウォックは——ジェイルフィッシュによって、押さえられていた。
     アリスを守る者はなく、不条理劇に幕が——。

    「ねぇ、どうして私のお友達が——たったこれだけしか居ないと思ったの?」

    「え……」

     地響きが鳴り響く。
     土砂崩れの音だろうか。それとも燃え落ちた木が倒れる音だろうか。
     否、これは、移動の音である。
     少女たちの、疾走の音である。

  • 567◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:06:41

     燃え盛る森を抜け、同じ顔の少女たちが次々と姿を表す。
     その数、70。
     戦いの天秤は、再びアリス側に傾き始めていた。



    「これはちょっと、洒落にならないの……!」

    「ははは、どうして逃げなかったんだい?」

     上空を旋回しながら、ジャバウォックが嘲笑う。
     先ほどまで、ジェイルフィッシュとジャバウォックは、シャボン玉と火炎をぶつけ合っていた。
     だが、新たに投入された70人の魔法少女の対処に負われ、ジャバウォックを抑える余裕が、ジェイルフィッシュには無くなっていく。
     純粋なフィジカルでは、眷属たちとジェイルフィッシュに、そう大きな差は無い。

     掴まれ、引き倒されてしまえば、嬲り殺しにされる可能性さえあるのだ。

     ノーブル・サヴェージもまた、吼えながらも、大群に立ち向かう。
     だが、切り裂いても、噛みついても、貫いても死なず、拘束しようにも蔦を炎で燃やされ、消耗戦を強いられる。

     

  • 568◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:11:22

    (不味いの……何とか、逃げる手段を編み出さないと)

     100人の不死身の魔法少女と、火を吐くワイバーン。
     ジェイルフィッシュのキャパシティを超える相手だ。
     ただでさえ、対集団は相性が悪いのだ。
     クィーンと共に舞い戻った時は、想像以上に善戦でき、勝てるかもと思ったが、どうやら甘い想定だったらしい。

    (けど、流石にここまでの大軍。魔力消費も相当のはず。何とか凌げれば……)

     逃げるか、凌ぐか。
     どちらも難易度は非常に高いが、できなければ死ぬ。

     クィーンもまた、急激に増えた眷属たちに、騎士団が追いつかなくなり、アリスとの距離が遠のいている。

  • 569◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:16:29

    (せめて、このワイバーンだけでも)

     眷属たちの猛攻を掻い潜りながら、ジェイルフィッシュはジャバウォックに向けてシャボン玉を飛ばす。
     ジャバウォックはそれを難なく回避する——この機動力が、非常に厄介だった。

     実質的に、魔法少女がもう一人いるようなものだ。

    「僕とアリスは最強コンビだからな。お前たちの冒険もここまでだ」

     木々を背に、ジャバウォックはホバリングしながらジェイルフィッシュとノーブル・サヴェージを見下ろす。

     ジャバウォックが浮かべた表情は、口調のトレース元である逢魔愛裏が絶対にしない、ひどく邪悪なものだった。

  • 570◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:21:29

     その背に、飛び乗った者がいた。

    「つーかまえた」

     コートを纏い、顔の半分を漆黒に染めた魔法少女。
     ジャック・ザ・リッパー。

    「ジャック!」
    「うわ、何だお前、放せよ」

     首をぐるりと回し、ジャバウォックは自らの背に飛び乗った不届きものに、炎の鉄槌を浴びせようとする。
     なるほど、奇跡的に燃え残っていた木を登り、自分の背後を取った手腕は見事。
     だが、ジャバウォックの背は安全地帯ではなく、奇策は灰燼と帰す。

     飛び乗ったのが、ジャックでなければ。

     ジャックの手が、ワイバーンの首に伸びた。
     そのままがっちりと締め上げる。
     炎を吐くのに、タイムラグが発生し、ジャバウォックは苦し気に唸った。

     ならば、と翼をはためかせ、機動力で振り落とそうとしたときだった。

     コートから伸びた漆黒が、ジャバウォックを包んだ。

     

  • 571◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:26:52

    「ジャバウォック!」

     アリスは悲鳴を挙げる。

     漆黒に包まれたジャバウォックはじたばたともがいたが——数秒もしない内に、だらりと全身から力が抜けた。
     そして、その場で姿が変わっていく。
     翼は消え、尾は消え、竜を模した姿が変わっていく。

     胴からは腕が生え、脚は柔らかくしなやかに。2mほどの体躯は縮んでいき。
     ジャバウォックは、漆黒に包まれた、小型の人型に変化していた。

     その丸みから、それは少女を模したものだとジェイルフィッシュは気づく。

    「よし、やっぱり生き物じゃなかったわね」

     ジャックはにやりと笑みを浮かべ。

    「さぁマミちゃん——テンガイを殺しに行きましょう」
    「うん、ジャックお姉ちゃん!」

    ジャバウォックの声とは似ても似つかない、可愛らしい少女の声を発し、インテリジェンスウェポンはジャックを背中に乗せ、その場を飛び去って行った。

  • 572◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:35:56

     呆然とした表情で、アリスは去っていた方角を見送る。
     そして。

    「ふざ、ふざけるな! 返せ、ジャバウォックを返して!」

     目に涙さえ浮かべて、去っていた方角に手を伸ばす。
     それは、あまりにも明確な隙。
     だが、クィーンもまた乱入者の予想外の行動に隙を突くことが出来ず、ジェイルフィッシュもまた、明らかに命の危機に陥っている自分たちを歯牙にかけることもなく去っていたジャックに怒りのあまり立ち尽くしてしまい。

     動けたのは、ノーブル・サヴェージだけであった。

     極彩色の魔法陣から召喚されたのは、蔦。
     燃やす者がいなくなった以上、それらは俊敏に動き、眷属たちを絡めとる。
     50を超える眷属を一度に拘束し、ノーブルサヴェージは更に蔦を増やそうとして。
     ——その場に倒れた。

    (動けない……馬鹿な)

     精霊から力を与えられた自分が、この程度で疲れるはずがない。
     未だ魔法少女の概念すら知らないノーブル・サヴェージにとって、自らの絶対性を疑うことは、信仰を疑うことに等しい。

     故に、訪れるのは当然の結末……ガス欠である。

     この場で誰よりも戦闘の熟練者であるノーブル・サヴェージは、この場の誰よりも魔法少女として未熟な存在だった。

     それでも、一度拘束した蔦を解除しなかったのは、彼女の強靭な精神が為したものか。

  • 573◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 02:43:01

    「クィーン!」

     ジェイルフィッシュは叫ぶ。

     群がる眷属たちにシャボン玉をぶつけ、触手で打ち据えながら、クィーンに向かって、言葉を投げかける。

     リングの中に居た、七海真美には聞こえなかった。
     けど、此処なら、声が届けられる。

    「勝つの!」
    「ええ!」

     クィーンもまた、ジェイルフィッシュの言葉に応える。
     剣を高々と掲げ、未だ残っている騎士と共に、アリスへと突撃を開始した。

    「許せない、あのコートの女、絶対に許せないわ……!」

     血涙さえ流しかねない程の怒りを見せながら、アリスはクィーンを睨む。

    「どうして、どうして邪魔をするの……! 私は、世界をあるべき姿に戻したいだけなのに……!」

  • 574◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:03:40

     騎士団に囲まれながら、クィーンはアリスに迫る。
     アリスの傍にも、眷属たちが集まる。
     大多数をノーブル・サヴェージに拘束され、残りもジェイルフィッシュが押さえている。
     その数は、3人。騎士の数は10人。
     
    「私は、こんな世界を認めないわ! 魔法少女として、正す義務がある! そのために、魔法少女は存在するの!」

    「——魔法少女を、お前が語るな」

     眷属と騎士が激突する。
     ぐちゃぐちゃの乱戦の中、クィーンは剣を構え、飛び出す。

     振り下ろした剣を、アリスは右腕で防ごうとした。
     剣先は、容易くアリスの右腕を切り裂く。
     血が噴き出る。
     
     アリスは、その血をクィーンに浴びせようとした。
     クィーンは、思わず回避行動を取る。
     血で汚れるのを嫌がったわけではない。アリスが使い魔を作る工程を、クィーンは知らない。だが、血を与えるというのは、現実的に考えられるラインだった。そして、それが『魔法少女』を対象にしていないとは限らない。

     クィーンの取った行動は、誤ったものだった。
     アリスの魔法は、魔法少女を対象には出来ない。

     だが、そのブラフによって生まれた隙は、アリスへ行動の余地を与える。

     

  • 575◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:08:35

     アリスは叫びながら、クィーンへ突進した。
     二人とも、決してフィジカルに優れた魔法少女ではない。
     クィーンはバランスを崩し尻もちをつく。アリスはクィーンの持つ剣を奪おうと、その柄を握った。
     二人の少女は、剣の柄を握り合ったまま、奪い合いを始める。
     拮抗状態。だがその均衡は、増援が来れば容易く傾く。

     騎士、眷属。どちらが主の元へ駆けつけるのか。

     アリスは片手を怪我している。にも関わず、鬼気迫る表情で剣を握り続ける。流れ出る血は、二人の袖口を濡らしていく。

     

  • 576◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:22:07

    「……答えなさい、女王。貴女は、この世界が正しいと思っているの? 学校ではいじめが蔓延って、家庭では虐待が頻発して、大人の世界では詐欺と搾取と殺人が横行する! 世界は戦争ばかりで格差は拡大し続けるばかり! それもこれもどれも全部! 全部! 魔法少女が不甲斐ないからじゃない!? お前たちが、もっと早く何かをどうにかしていれば! 世界はもっと正しくて、私のクラスもあんなことにはならなかった! だから、私が救うの! 私がこの世界を綺麗にして清くして本当の世界にするの! 邪魔をするな! 邪魔をするな!」

    「質問しといて一方的に喋ってんじゃないわよ! あなたの過去なんか、私は知らない! 世界が駄目なんて、あなたにいちいち言われなくても、わかってるわよ! だからって不貞腐れて拗ねて外道に堕ちたあなたなんか認めない!
     そんなのは魔法少女じゃない! だいたい、魔法少女がいくら頑張ったところで、世界がどうにかなるわけないでしょ!? 世界を良くするのは、世界に生きる全ての人の責務よ、馬鹿! 少しずつ良くしていくしかないじゃない!」

    「それじゃ遅い! 永遠に、幸福な世界はやってこない!」

    「勝手に焦ってんじゃないわよ!」

     舌戦を繰り広げながら、二人は剣の奪い合いを続ける。

  • 577◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:31:12

    「私は魔法少女……アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド! 世界を正す魔法少女だ!」

    「私だって魔法少女……魔法少女クィーン! こんな狂ったゲーム主催する魔法の国なんか乗っ取って、もっとマシな国を作ってやる!」

     喉を震わせ、魔法少女名を名乗り合う。
     
     そして、変化が訪れた。
     剣を奪い取ったのは——アリス。

     すかさず、アリスはクィーンの脳天めがけて、剣を振り降ろし。
     ——それを予期していたかのように、クィーンは前方に転がった。

     その手には、新たな剣が握られ。

     銀の一閃が走った。

     アリスの頭が地に転がった。
     
     クィーンの視線とアリスの視線が交じり合う。

     アリスはクィーンを恨めしそうに睨んだが……ふっと目を細めると、どこか諦めたように目を閉じた。

     その表情は、どこか肩の荷が下りたかのようにも見えた。

    【柩枢/アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド 死亡】
    【残り 26人】
     

  • 578◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:35:41



     泣いている女の子を見つけ、枢は、渋る愛裏を宥めながら、声の方へ向かった。
     公園のベンチで、愛裏と同じくらいの歳の女の子が、しくしくと涙を流していた。

     魔法少女の卵として、泣いている子は放っておけない。

    「君、どうしたの? 迷子になったの?」

     身体を屈め、話を聞く。
     ……誕生日に貰ったブレスレットを、公園のどこかに落としてしまったらしい。

    「お姉さんが、一緒に探してあげよっか」

    「まじかよくるるねぇ、僕もうお腹空いたんだけど」

    「すぐに見つけるから待ってて」

     不安そうにこちらを見上げる女の子に、枢はウィンクする。

  • 579◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:41:48

    「すごーい、すごい、すごい、すごい! どうしてここにあるってわかったの!?」

     五分後、嬉しそうにはしゃぐ女の子を前に、枢は内心安堵していた。
     単純に、少女が遊んだ順番に遊具の周辺を調べただけだ。
     少女の記憶違いで公園以外の場所で落としていたらどうしようかと思ったが、杞憂で済んで良かった。
     いや、やはり魔法少女の卵だからこそ、不都合なことは起きないのだな、と枢は内心納得する。

    「ねぇ、どうしてわかったの? おしえて、おしえて!」

    「うふふ、それはねぇ、お姉さんが魔法少女だからだよ!」

     枢が胸を張る。
     隣で愛裏がジト目で見ているが気にしない。

    「まほうしょうじょ?」

    「そう、魔法少女。魔法少女は魔法で困っている人を助けて、世界をよりよくするの」

    「すてき!」

     

  • 580◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:49:17

    「そう、魔法少女は素敵な存在なんだよー」

    「馬鹿みてぇ」

     肩を竦める愛裏に拳骨をお見舞いしたくなるのを我慢しながら(魔法少女はそんな暴力的なことはしないから)、枢は少女とお別れをして公園を後にする。

     振り返ると、母親がちょうど迎えに来ていたのか、上品そうな妙齢の女性に、少女が駆け寄っていくのが見えた。

     ポッケに手を突っ込んで歩く少年と見比べる。年は同じくらいだろうに、この落差は何だろう。

    「くるるねぇ、なんかむかつくこと考えてない?」

    「考えてない考えてない」

     慌てて首を振る。
     後ろから、少女の嬉しそうな大声が聞こえてくる。

    「それでねーママ、おひめさまもいいけどねー、ひめこね、まほうしょうじょもいいかなってねー!」

    (こうやって世界は段々よくなっていくといいんだけどなー)

     12歳の枢はそんなことを思いながら、愛裏と共に馴染みの中華屋へ今度こそ足を運ぶのだった。

  • 581◆xaazwm17IRZa24/08/06(火) 03:49:32

    投下を終了します

  • 582二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 05:50:20

    つ と
    ら て
    い も

  • 583二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 07:49:30

    窮地から脱した瞬間が一番無防備
    剣を振り下ろす際にアリスも色んな事を考えていたんだと思うと…ねぇ

  • 584二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 13:41:55

    >やはり魔法少女の卵だからこそ、不都合なことは起きないのだな、と枢は内心納得する


    この手の万能感・全能感を有している間がやっぱキーというか魔法少女としてのピークなのかね

  • 585二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:15:47

    ミョルニルを例にすると最後の無限回復は例外としても出来ると思って首や四肢切断を試していれば
    単に回復するのではなくバラバラに動かすことはできそうだったから全能性を疑わずにいるほうが出来ることの範囲は広がっていきそう
    案外自分の能力は青天井であると心の底から思い続けるのが天上に至る条件かもしれない
    逆に自分のできる範囲を知ってしまってその範囲内で技術を磨くと完成度は上がるけど限界突破が不可能になるみたいな

  • 586二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 21:41:35

    >>584

    分かりやすいとこだと『えっちなのは許さないよ』なんて本人の解釈次第でいくらでも化ける魔法なのに

    (もしかして解毒のために服を脱ぐ行為はえっちじゃないのでは?)Oo🤔で出力落ちるくらいだもんね

    有力説

  • 587二次元好きの匿名さん24/08/06(火) 22:15:04

    そういえばフライフィアーって固有魔法そのものは弱かったのにミサイルとか飛行とか耐久とか他の要素でめちゃ強だったよね、ああいうタイプは珍しいのかね
    元が人間じゃないからってのもあるだろうけど、戦闘経験ゼロ万能感も芽生える前っぽいという伸び代ありげな感じだし、固有魔法の可能性に気付いたら更に化けてたりしたんだろうか
    色々考えてくと結局パラさんが対策しない訳ないよなってあの初期配置に帰結するんだけど

  • 588◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 01:22:06

    投下します

  • 589◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 01:24:52

     ドレッドノートは、荒い息を吐いた。
     その身に傷は無い。
     だが、心は、ミョルニルによって深く傷つけられていた。

     『癒し』という名の猛毒が、ドレッドノートの心を蝕む。
     脳裏をよぎるのは、あの日の記憶。

     魔王が生まれた日。

     

  • 590◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:18:57



     夜祖神髑髏率いる『魔王軍』が、郊外の廃工場に逃げ込んで、もう1時間は経とうとしている。
     髑髏は、体育座りのまま、自分から伸びる影をぼんやりと見つめていた。

    (どうしてこんなことになったの?)

     今しがた自分たちに起きた悲劇を、現実のものとして受け入れることが出来ない。
     悪い夢を見ている気分だった。
     
     それなのに、肉を斬った感触だけは、ずっと手に残り続けている。

  • 591◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:26:56

     『魔王軍』は躍進していた。
     エネミーの討伐のみならず、魔法少女同士の仲裁や、トラブルの解消。悪人を自主的に捕まえる自警団のような活動もやっていた。メンバーも増えた。三人だったチームは四人になり、五人になり、今では七人になっている。

     髑髏も、数多くのエネミーを倒し、数人の魔法少女との戦いで勝利していた。

     このままダークヒーローとして、かっこよく活躍していく。

     そんな風に思っていたのに。

  • 592◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:33:38

     仲間の一人が持ってきた仕事は、多少の危険は考えられたが、報酬が高く、リーダーの髑髏は受けることを選んだ。

     仕事の内容は、『ある人物の護衛』。ボディーガードのような仕事だと考え、現地に行くと、そのある人物とは顔を合わせることもなく、敷地の外、とある区画を守るように言われた。

     防衛陣の一番外側。

     他にもボディーガードをしているチームが複数いるらしく、思ったより大規模な事態に、その時の髑髏は僅かに怯えていた。

     が、同時に、これだけたくさんの魔法少女が集まる場で『魔王軍』の強さをアピールできれば、更に知名度がアップするのでは、という打算もあった。

  • 593◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:40:29

     ——魔王軍は、ぬるま湯に居た。

     魔法少女の中身は、すべからく平和な日本を生きる少女たちであり、その戦いはスポーツ、格闘技……あるいは不良の喧嘩が派手になったようなものである。

     そう言う風に、髑髏は認識していた。

     今回の護衛任務も、負けるリスク、怪我をするリスク、恥を掻くリスクは考えていた。

     それだけだった。

     それ以上のことは考えなかった。だって、私たちは、どれだけ強くなっても、どれだけ物理法則を捻じ曲げても——少女であり、人間なのだから。

     

  • 594◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:51:31

     ——魔王軍は、敗走した。
     守るはずの陣地も、守るはずの人も、何もかもを放り出して逃げ出した。

     襲撃をかけてきた魔法少女は一人だった。

     恐ろしく強かった。
     そして、それ以上に残忍で、容赦が無かった。

     血を自在に操るその少女は、瞬く間に魔王軍の仲間を一人、殺してしまった。

     あまりにも呆気なく、あまりにも容赦の無い、その姿に、魔王軍は恐慌状態に陥った。

     不慮の事故でも、リング禍でもなく、明確に、殺意と悪意を持って行われた攻撃。

     殺しに酔ってさえいた。

  • 595◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 02:55:51

     パニックに陥る仲間を守るために、髑髏は無我夢中で戦った。相手は遥かに格上だった。歳は髑髏の方が上に思えたのに、あまりにも場数が……殺し合いの経験が違い過ぎた。

     だが、勝ったのは髑髏だった。

     途中から、相手の攻撃は髑髏に効かなくなり、相手が動揺している隙に、髑髏は、相手を斬り殺した。

     その後、どうなったのかは、よく覚えていない。

     気づけば、廃工場に居た。
     
     依頼も、依頼主も、何もかもを放り捨てて、髑髏たちは逃げ出したのだ。

  • 596◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 03:01:01

    「髑髏ちゃんは、悪くないよ」

     仲間の一人が、そう言って明らかに無理をしていると分かる、作り笑いを浮かべた。

    「髑髏ちゃんが頑張ってくれなかったら、私たち、みんな死んでた」

    「でも、私、人を……」

    「正当防衛だよ!」

     仲間たちは口々に髑髏を慰めた。

     それでも、髑髏の心は晴れなかった。

     あの少女にだって、親が居て、友達が居て、普段は学校に通っていたはずだ。
     それを、髑髏は終わらせてしまった。

     仲間を殺された怒りと、これ以上仲間を殺されてたまるかという決意と——死にたくないという本能。

     それがない交ぜになって、髑髏は相手を殺してしまった。

  • 597◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 03:05:19

    「私たち、これからどうなるのかな」

    「こんなに危険な仕事だったなんて、聞いてない! ちょっとした喧嘩の手伝い、って話だったのに……!」

     リーダーとして、仲間を纏めなくてはならない。
     そう思っても、仲間を殺されたショックと、殺してしまったショックで、髑髏は動けなかった。

     その時、工場内に、軋んだ重低音が響いた。

    「誰か来た……」

     仲間たちは、即座に防御陣形を取る。
     敵側か、味方側か。
     味方側としても、逃げ出した髑髏たちへ制裁を与えに来たか。

  • 598◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 03:10:08

     影から浮かび上がるかのように、二人の魔法少女が姿を表した。

     ボディースーツの魔法少女と、チャイナドレスの魔法少女。

    「ブラッディイェーガーを殺したのはうぬらか?」

     笑みを浮かべながら、ボディースーツの魔法少女は言う。
     チャイナドレスの魔法少女は、無表情でじっと魔王軍を見据えている。

     魔王軍は口々にボディースーツの魔法少女に言葉をぶつけた。

     正当防衛であったこと。
     依頼に嘘が混じっていたこと。
     この抗争に関わる気はないこと。

  • 599◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 03:18:06

    「そうか、騙されておったのか、難儀じゃのう」

     ブレイズドラゴンは同情するかのように首を縦に振る。

     刺客か、と浮き足立っていた仲間も、想像以上に話が分かる雰囲気に、安堵が漏れる。

    「……師匠、こいつら素人ネ。構うだけ時間の無駄ヨ」

     チャイナドレスの少女は、表情を変えずにボディースーツの少女に言った。

    「しかし、敵陣営は皆殺しにせよと依頼されておる。気は乗らなくてもこれは仕事、傭兵として依頼は遂行せねばならんじゃろう」

    「……あー、今日の師匠はそっちなのネ」

    「それに、あのブラッディイェーガーを殺しとるのは事実。こちらの陣営の魔法少女の命を奪った者を、部外者として見逃すのも不味かろう」

  • 600◆xaazwm17IRZa24/08/07(水) 03:18:30

    回想途中で中途半端ですが、投下を中断します

  • 601二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 05:39:28

    ハイエンド、愛犬と師匠を失って哀れではあるけど普通に因果応報でもある良い塩梅のキャラ…

  • 602二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 07:46:24

    オンオフが分かりやすい師匠
    やっぱあの時興奮してたんだな…

  • 603二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 14:00:09

    突然の襲撃に怯えていたのにどうして無敵が発動したんだろうね

  • 604二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 19:51:50

    無我夢中で戦った=恐怖心も忘れるほど必死だった って解釈でいいのだろうか

  • 605二次元好きの匿名さん24/08/07(水) 20:27:38

    心の傷で魔法の強度上げてたし自分を脅かす存在なら無敵になるんじゃないか
    ミョルニルの再生魔法が真っ向から対抗できるっぽい

  • 606二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 00:58:13

    おつおつ

  • 607二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 07:53:03

    話は分かるけどそれはそれとして殺しを行う。そういう人だよね…

  • 608二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 17:08:02

    危険人物すぎる

  • 609二次元好きの匿名さん24/08/08(木) 23:07:19

    保守

  • 610二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 07:10:09

    あさのほしゅ

  • 611二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 07:27:30

    ブラッディイェーガー、説明読んだけど13歳でこれはヤバいな…固有魔法ってある程度本人の好みが反映されるものなのかね

  • 612二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 07:43:02

    これから起こる傷が治るのは確かに拒絶反応起こすのも止む無しかもしれん…

  • 613二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 08:03:30

    血を操るというと最近ならリュグナーや脹相みたいな感じなのかな
    説明文見るに足して毒抜いて+αってところかな
    高レベルなバランス型って感じみたいだから倒すなら対応してくより魔王様がやったように理不尽を押し付ける方が楽

  • 614二次元好きの匿名さん24/08/09(金) 16:50:11

    概念系と違って出力が安定している+解釈で弱体化がない代わりに理不尽な相手には勝てないタイプ

  • 615二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 00:03:58

    まるで始まりの魔法少女とパラさんの関係みたいだあ…
    そりゃ「トータルでは上回ってたから…」としか言えないよね…

  • 616◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 01:36:04

    投下します

  • 617◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 01:58:31

     来訪者の言葉を、髑髏はよく理解できなかった。
     慣れ親しんだ、ラノベや漫画に登場する、裏社会のキャラクターのようなことを言うんだな、とぼんやりそんなことを思った。

    「しかし、ぬしらが不憫なのも事実」

     ボディースーツの女が、髑髏たちを見渡し、言った。

    「さて、どうしたものか」

    「とりあえずブラッディイェーガー殺した奴だけ殺せば、仕事は完了でいいんじゃない? 師匠も、こんな雑魚共より、同業者と戦った方が楽しい、違うカ?」

    「さすが我が弟子、儂より儂のこと分かっとるのう」

     感心したように頷くボディスーツの女。

    (……今、私の話をしたの?)

     仲間たちの視線がこちらを向く。
     ……どうやら仲間は見逃してもらえるらしい。

    (死にたくない、けど、殺しちゃったのは事実なんだから……)

     ならば殺されるのは仕方ないのかもしれない、と髑髏は思う。

     大剣を持って、彼女は立ち上がった。
     不思議と、怖くはなかった。

  • 618◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 02:04:58

    「貴女たちの仲間を殺したのは……私です。
     私が死んだら、皆は見逃してもらえるんですか?」

    「さぁ? 依頼主に確認取らないと分からないナ」

    「まぁその辺は儂らの現場判断でいいじゃろ」

    「師匠、前それでトラブって結局依頼主まで命取る破目になったの忘れた? 報告・連絡・相談は大事よ」

    「仲間は、見逃してください!」

     二人だけで会話をしようとする魔法少女たちを遮るように、髑髏は大声を出す。

    「私は、責任を取りますから」

     緩いサークルのような集まりで、上下関係など無いような集団だったが、それでも、リーダーは髑髏である。
     そして、仲間を守るために敵を殺したのも髑髏なのだ。
     その結果、起ったことも、髑髏が引き受ける。

    (だって、私は魔王だから)

  • 619◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 02:20:46

    「ふむ、その意気や良し。
     ブラッディイェーガーを下した実力、見せてみるがいい」

    「待てよ、勝手に話を進めんな」

     古参メンバーの一人が立ち上がる。

    「魔王様にだけ戦わせて逃げる幹部が居るかよ。あたしも戦うぜ」

     彼女に釣られるように、他の仲間たちも髑髏を守るように臨戦態勢を取る。

    「駄目だよ、下がってて……!」


     

  • 620◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 02:39:00

    「冷静に考えろよ、魔王様。あのイカレ女の仲間が、あたしらだけ見逃すと思うか?
     だったら全員でかかって、あの二人をのしちまう方が早い。
     さっきは戸惑って連携が機能しなかったが——もう腹は括れた。
     みんなそうだろ!?」

     仲間たちは互いを鼓舞するように口々に大声をあげる。

     髑髏はそれを頼もしく感じ——同時に不安も覚えた。

    (でも、この子の言う通り、本当に見逃してもらえるかは分からない。
     だったら、皆で戦った方が、勝てる可能性は高い……!)

     髑髏は知っている。
     連携の取れた魔法少女の集団は、相手が格上でも倒してしまうと。
     それこそが魔王軍の強み。
     二人の魔法少女が強いことは雰囲気で察せられるが——勝てない相手ではない。

    (私が、皆を守る……!)

  • 621◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 02:55:23



     戦いは、一瞬で終わった。
     否、戦いにすらならなかった。

     魔王軍最強を誇った、馬上槍を操る古参メンバーは、素手で槍を砕かれ、そのまま殴殺された。

     仲間を強化する魔法を持っていた仲間は、粒子化する前の馬上槍の少女の死体を投げつけられて即死した。二人の死体は消えるまで混ざり合ってどちらがどちらか分からなかった。

     火を操る仲間は、放った火を息だけで吹き返され、焼死してしまった。

     相手の影に潜む魔法を持つ仲間は、振り返ることもなく放たれた蹴りで、上半身が吹き飛んだ。

     髑髏は、戦い続けた。
     何度も何度も剣を振るい、何度も何度も殺された。

     
     

  • 622◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:00:03

    魔法少女になってから毎日練習した剣技は、ボディースーツの少女に軽くいなされ、その度に魔法少女をぐちゃぐちゃに壊してしまう一撃が来る。

     ——効かない。
     だから、まだ戦える。

     仲間が次々に死んでいく中で、それでも剣を振るい続けた。
     
     髑髏は叫んでいた。悲鳴だったのかもしれない。

     自分が前に出続ければ、もうこれ以上仲間が殺されなくて済むと、そう願い続けて戦い続けた。

    「面白いのう」

     と、敵は言った。

  • 623◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:06:11

    「ここまで無敵の魔法少女は見たことが無い。
     だが、他の部分はまるで話にならんな」

     髑髏は剣を振るい続けた。
     敵は、人差し指と中指で剣を受け止め、ぺきりとへし折った。
     そして——物陰に向かって投げつける。
     隠れていた仲間の額に、剣は深く刺さった。

     髑髏は吠える。
     獣のように吠え、折れた剣を敵に突き立てる。

     合気のように受け流され、髑髏は地を転がる。

    「まだ戦うのか」

     と、チャイナドレスの少女は呆れたように言った。

    「もう生きてるのはお前一人ヨ」

     髑髏は後ろを振り返った。

  • 624◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:16:09

     最後の仲間が、粒子化していくところだった。
     他の仲間は、もう居ない。生きた痕跡すら残さず、消失している。

    「………………あっ、」

     魔力が尽きた。
     変身を解除した髑髏はその場に崩れ落ちた。

    「ああ、あああああああああ……」

    「ぬ、思ったより早く魔力切れになったな」

     敵は、髑髏を見下ろす。

    「ふむ、ここで殺してしまうのは惜しいのう。
     ブラッディイェーガーを殺したのは別の奴だったことにしておくかの」

    「……師匠、もうここまでやったら、殺してやった方がこの子のためヨ」

     カカカと敵は笑った。
     髑髏は見上げる。
     毛先が炎のようなポニーテールになっている、長身の女。
     髑髏の仲間を虐殺した女。

    「仲間の死を乗り越え——強くなるのじゃ、小娘。
     仇を取ってみせろ」

     

     

  • 625◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:21:51

     自分たちは、お遊びでしかなかった。
     今、目の前に立つ魔法少女こそが、本当の悪。

     期待に満ちた笑顔で笑いかける女の瞳に広がるのは——全てを塗り潰す闇。

    「ぅう、ぅぁぁぁあああああああああ……」



    「ブレイズドラゴンッ!」

     怒りに任せて、近くの大木を斬り倒す。
     フラッシュバックした地獄の記憶が、ドレッドノートを苦しめていた。

    「絶対に、絶対に、殺してやる……! ブレイズドラゴン……!」

     

  • 626◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:26:08

     激情を抑えきれぬまま、ドレッドノートは次なる贄を探し求め。

     彼女は目を見開いた。

     燃え盛る森の中を、ふらふらと歩く魔法少女が一人。

     チャイナドレスに黒のカンフーパンツ、肩に双手剣を背負った少女。

     あの時、ブレイズドラゴンと一緒に居た、魔法少女である。

     ドレッドノートは吠えた。
     あの時のように、絶叫しながら斬りかかる。

     燃え盛る山岳地帯で、最後の戦いが始まろうとしていた。

  • 627◆xaazwm17IRZa24/08/10(土) 03:26:20

    投下を終了します

  • 628二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 09:36:20

    無敵だけど攻撃性能ないから最強にはなれないんだよねドレッドノート

  • 629二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 09:58:23

    師匠、始まりの魔法少女のデモンストレーション戦ここで経験していたのか…
    無敵で倒せないからって戦わずにいる訳ない人とは思っていたけど、この様子だと本当に終活でドレッドノートに挑むつもりだったんだな…

  • 630二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 10:01:14


    師匠今後出ってくるんだろうか

  • 631二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 18:50:10

    人の知識はあるけど心は分からない人だ、師匠は…

  • 632二次元好きの匿名さん24/08/10(土) 23:54:46

    これが因果応報なんだ…ハイエンドよ

  • 633二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 01:12:35

    まあ他ならともかくハイエンドに関しては本業が本業ですしおすし

  • 634二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 08:45:11

    どうなる

  • 635二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 13:33:52

    魔力消費量的にドレッドノートは戦闘を避けるべきなんだけどこれは回避出来んわな
    心の傷を癒されかけた直後だし

  • 636二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 13:51:36

    >>635

    下手したらこのまま放置でも自然修復されるかもしれないしな

  • 637二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 21:16:49

    保守

  • 638◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 21:34:27

    投下します

  • 639◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 21:44:42

     火に、親しみを持つようになったのはいつからだったか。

     物心ついたときから、嫌悪感は無かった。
     香ばしい匂いと共に、中華鍋の底で揺らめく火。
     火は危険だが、同時に、生活を豊かにする。普段は意識していないが、人間の生活そのものを支えているとも言える。

     火の使い方を覚えるのは、きっと同年代の少女たちより速かった。手取り足取り料理の仕方を教わり、年が二桁になる前には、ある程度の中華料理を作れるようになっていた。

     それに、十五の頃には、一般では使われない火の使い方も教わった。
     痛みと恐怖を与えるものとして、火は効果的だった。
     
     

  • 640◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 21:50:19

     あくまで道具に過ぎなかったものが、そうではなくなったのが、ここ最近のことだ。

     麦という「家族」が魔法少女になり、火を操るようになって。
     少しずつ成長していく彼女を見守るうちに、思い出の中に「火」が増えていく。

     無関係な場所でも、炎の揺らめきを見るだけで、記憶が浮かび上がる。
     
     だから、姚莉鈴……魔法少女ハイエンドは、燃え盛る炎の中に飛び込んでいった。

     その熱に、その揺らめきに、家族の面影を求めて。

     名を呼びながら駆け抜けて、その末に、彼女は発火源まで辿り着いた。

     ——火を吐いていたのは、飛竜だった。

     麦、ではない。

  • 641◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 21:54:44

     最早、其処で行われていた戦闘に、興味は無かった。

     ハイエンドは複数の魔法少女に背を向け、その場を後にした。

     それから、彼女は無為に炎の森を彷徨っている。

     本当に、麦は死んだのだろうか。

     遺体を見たわけではない。

     だが、嘘ではないことは、凶手の経験で分かる。

     ならば、麦は亡くなったのだろう。

     仇を討つ。ヨシネを探す。魔法王を始末する。

     何も決められず、ただハイエンドは彷徨い続ける。

     

     

  • 642◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 22:14:01

     唐突に、ハイエンドは濃密な殺意を感じ取った。否、どれだけ鈍感な者でも怖気が走るほど、それは濃く、指向性を持っていた。

     ハイエンドは、意に介さなかった。視線一つ送らなかった。

     草木を掻き分け躍り出たのは、有角黒衣の、大剣を振り上げた魔法少女。魔王、ドレッドノート。

     獣じみた叫声と共に、魔王は凶手の脳天に大剣を振り下ろす。

     荒涼の大地が大きく深く抉れた。

     体軸を僅かに傾け、紙一重で躱してのけたハイエンドは、ドレッドノートの首に貫手を打った。

     一撃で頸動脈を切り裂き、対象を絶命させる殺し技の一つ。

     襲撃者に無関心のまま、ハイエンドは積み上げた死者の数を一つ増やし——。

    「……哇?」

     喉から、驚愕が漏れた。
     相手を絶命させる一撃が、見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。

     ようやく、ハイエンドは、襲撃者の全身を捉える。

    「……ああ、あの時の」

     数年前に一度顔を合わせた程度の間柄の者を、再び見かけた時のような。
     その程度の反応(リアクション)。

     
     

  • 643◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 22:23:10

     計略や戦術ではなく、余裕が無い故の素の反応。

     ——それが、ドレッドノートの逆鱗に触れた。

    「お前……お前は、よくも、よくもよくも、仲間を、私の仲間を……!!」

     嘲られる方がマシだった。
     ドレッドノートにとっては世界が絶望に染まったあの日が、下手人の仲間である少女にとっては、何ら特別な日では無かったという事実が。

     無理やり押し殺していた激情を溢れさせ、魔王を狂乱へと導く。

    「殺してやる……みんなの分だけ、何回も何回も何回も、殺し続けてやる……!」

    「……だから師匠に殺しておけ言ったのに……」

     愚痴を吐くハイエンドに向かって、ドレッドノートは大剣で斬りかかる。

     かつて、仲間を率いていた頃と比較して、別人レベルで鍛え上げた剣技。

     死線を潜り、数多くの魔法少女を斬殺してきた、地獄の中で磨いた技術。

     
     

  • 644◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 22:34:47

     ハイエンドは、微かに下がる。
     僅かに右方に飛ぶ。
     頭を屈める。

     それだけで、剣閃は空を切る。

     演武をしているかのように、魔王の剣は、凶手を捉えない。

     魔王は吠え、更に動きを加速させる。

     常人ならば目で追うことは不可能な攻防。
     ——ハイエンドの身体に、傷は付かない。

     武術とは——常に対武器を想定されて構築されている。
     『ありとあらゆる武術を操るよ』……純粋な武術の技量ならば師匠を上回るハイエンドは、この程度の攻撃は容易く見切れる。

     ドレッドノートの剣技は、死闘の中で磨いたものだ。——だが、ハイエンドが重ねた死闘の数は、ドレッドノートを上回っている。更に彼女は独学ではなく、師匠まで付いていた。

     その結果、純粋な技量差が、そこには生じていた。

     もっとも、ドレッドノートがもし冷静であれば、こうも一方的な展開にはならなかったが。

  • 645◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 22:42:19

     積み重ね、磨きあげた、数多の戦闘経験に裏打ちされた技量を、今のドレッドノートは喪失している。

     怒りのままに、激情のままに、彼女は剣を振るう。
     
     だから、読まれてしまう。見切られてしまう。

     剣閃と剣閃の合間に挿しこまれるのは、ハイエンドの一撃必殺。
     背負った双手剣を抜くことすらせず、彼女の貫手は的確に急所を打つ。

     ドレッドノートが無敵で無ければ、既に十は死んでいる。

     脱力したかのように身を捻り、銀の一閃を躱したハイエンドは、微かに息を吐いた。

    (……面倒ネ)

     降りかかる火の粉を払うだけで、ハイエンドには、ドレッドノートと戦う理由は無い。

     

  • 646◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 22:47:45

     だが、背を向けて簡単に逃げ出せる程、甘い相手では無いのも事実だった。

     ここまで有利に戦いを進められているのは、ドレッドノートが冷静でないからだと、ハイエンドは理解している。

     二人の身体能力に大きな差は無く、ドレッドノートの攻撃はハイエンドを絶命できるが、ハイエンドの攻撃はいくら重ねてもドレッドノートに傷一つ付かない。

     相性は——絶対的にハイエンドが不利である。

     背中を向けて逃げ出せば、ドレッドノートは追ってくるだろう。追う内に冷静になられれば、勝負の天秤はドレッドノートに傾いていく。

    (本当に、面倒ネ……)

     いっそ、辞めてしまうか、と唐突にそう思った。
     
     

  • 647二次元好きの匿名さん24/08/11(日) 23:20:25

    コントローラー投げたくなるような選択肢

  • 648◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 23:24:48

     麦は、恐らく死んだのだろう。
     ならば、後を追うというのも悪くない。
     ヨシネのことが心配なのはある。けれど、麦のいない世界を生きていくのは、嫌だ。

     思いとは裏腹に、ハイエンドの身体は、積み上げた経験に従って、攻撃を躱していく。

    (どうして私は生きようとしている?)

     麦の死が、確定していないから?
     一縷の可能性に縋っているのか。

    「お前」

     と、ハイエンドはドレッドノートに声をかけた。

  • 649◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 23:32:16

    「お前は、何のために剣を振るうカ?」

     聞くまでも無いことだった。激情と共に振るわれる剣は、言葉以上に雄弁に、ドレッドノートを詳らかにする。

     ——復讐。

     それは、ハイエンドにもある。
     魔法王、麦を殺した奴。憎悪の炎が、内心を焼き尽くす。
     だが、それを掻き消さんばかりの——虚無。
     復讐を為したところで、麦は帰って来ない。
     復讐は空しいだけ。綺麗ごとではなく、事実として、ハイエンドは理解している。

     ドレッドノートは、動きを止めた。
     遭遇して僅かにだが、時間が経過した。
     ——激情に、脳が慣れていく。
     理性が、思考が、戻り始める。

    「何のために、剣を振るうか、だと?
     愚問だな」

     剥き出しの夜祖神髑髏ではなく、魔王ドレッドノートの仮面を被る余裕が、彼女には生まれていた。

  • 650◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 23:39:12

    「余は——失った仲間を、取り戻す」

     予測を外れた言葉に、ハイエンドは瞠目した。
     魔法王が提示した、優勝報酬。どんな願いでも叶えられるという、口約束。

    「お前……それ、本気で信じたのカ?」

     どんな願いでも叶える魔法など、あるはずが無い。
     ハイエンドが知る最強の魔法少女、ブレイズドラゴンに至っても、そんなことは出来ない。

    「たとえ僅かな可能性でも——仲間を取り戻せるのだ。
     臆する理由が何処にある?」

     魔王の瞳は、ハイエンドを射抜いた。
     ハイエンドは、溜息をついた。

    (ああ、そうか。私が生にしがみついた理由は——」

  • 651◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 23:54:09

     麦は、きっと死んだのだろう。
     ならば、取り戻せばいい。
     人は死んだら終わりだと、凶手は理解している。それは摂理であり、常識であり、法則だ。

     ——それを踏み越えるからこそ、『魔法』である。

    「私は、魔法少女ネ」

     ハイエンドは、呟いた。

    「魔法少女が魔法信じなくてどうするヨ……」

     凶手としての理性が、押し留める。
     まやかしだ。幻想だ。都合の良い嘘に過ぎない。ただ、殺し合いを円滑に進めるための餌に過ぎない。
     分かっている。誰よりも、ハイエンドはそれを理解している。

     

  • 652◆xaazwm17IRZa24/08/11(日) 23:54:45

    だが、1%でも、0.1%でも、0でないのなら。
     ——ハイエンドが拳を振るう理由になる。

     ハイエンドは、ドレッドノートに微笑んだ。
     ドレッドノートの顔に険が走った。

     それまで柳のように無造作だった、ハイエンドの雰囲気が変わっている。
     相対して初めて、ハイエンドは殺意をドレッドノートに向けていた。

     身体に染み付いた、半ば自動的な一撃必殺ではない。

     明確に、ドレッドノートを殺しにかかる。
     それを理解し、ドレッドノートの心に熱が籠る。
     無関係の魔法少女を徒に苦しめようとは思わない。
     だが、この少女とブレイズドラゴンだけは、仲間たちの無念を味合わせて、殺してやる。
     さっきまでの、気の抜けた魔法少女ではなく。
     戦闘意欲に溢れたハイエンドを殺し、贄にする。

     

  • 653◆xaazwm17IRZa24/08/12(月) 00:05:21

     魔王と凶手は同時に地を蹴った。
     相手を殺し、仲間を/家族を 取り戻す。

     それだけを胸に、鍛え上げた技を披露する。
     ドレッドノートの剣が空を切る。今までと同じ攻防。だが、冷静さを取り戻したドレッドノートは、それだけでは終わらない。

    「チッ!」

     ハイエンドは舌打ちと共に、後方に飛び退く。
     ドレッドノートの足が、僅かに前に出ている。

     起きた事象は単純である。
     剣を振りながら、同時に——ハイエンドの足を踏もうとした。
     小手先の技だ。だが、繰り出したのがドレッドノートの場合、致命傷に繋がる。

     何故なら、ミョルニルに馬乗りになった時と同じく、無敵のドレッドノートは、外部に干渉されないため、足を踏まれただけで、脱出が困難になる。

     ハイエンドはそれを察し、紙一重ではなく、大袈裟にその場を飛び退いたのだ。

     踏まれただけで、掴まれただけで、乗られただけで——詰む。

    (まったく、本当に厄介な魔法ネ……)

     

  • 654◆xaazwm17IRZa24/08/12(月) 00:08:00

     だが、逃げない。
     信条だけではない。戦略的な理由が、明確にある。

    (いちいち弱点探しも不合理ネ。
     そんなことをしなくても——アレは、もうすぐ沈む)

     ドレッドノートは、肩で息をしていた。
     目は血走り、呼吸も荒い。

     魔力切れは——近い。

    (逃がすわけには行かない。
     確実にここで仕留めるヨ)

  • 655◆xaazwm17IRZa24/08/12(月) 00:10:40

     投下を中断します、続きは後日書きます

  • 656二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 09:01:56

    攻撃手段に乏しくても一度相手の首さえ掴めば確実に絞殺まで持っていけるのえげつない能力してるわ

  • 657二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 14:41:48

    存在自体が脱出不可の拘束具。うーんこれは魔王

  • 658二次元好きの匿名さん24/08/12(月) 23:45:56

    保守

  • 659二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 08:18:29

    さゅほ

  • 660二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 08:57:48

    ハイエンドが報いを受ける日は来るのか…もう大分受けまくってる気もするけど

  • 661二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 14:37:15

    魔力切れは近いが、惨たらしく葬る方針に変わりはなさそうだし
    ミョルニル戦みたいな無敵の拘束とサブウェポンの一撃は使わなそう?

  • 662◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 16:10:58

    投下します

  • 663二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 16:21:03

    おお〜こんな時間に!ありがたい

  • 664◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 16:24:50

     昂り乱れていた思考が沈静化していく。

     ドレッドノートもまた、現状を理解していた。
     
     魔力切れは近い。ロンギヌスの使用が、想像以上に魔力を奪っていた。

    (だが、退かん)

     仲間を奪った者に、背中を向けることなどあり得ない。
     技量は負けていることを呑み込む。だが、小手先の技量差など、圧倒的な魔法性能で覆せる。それが魔王。それがドレッドノート。

     力強く大地を踏み込み、加速する。
     
     ドレッドノートが最も得意とするのは近接戦闘だ。大剣だけでなく、一挙手一投足が相手を行動不能にする鎖と化す。
     そして、中華服の魔法少女もまた、近接戦闘を得意とするタイプ。
     しかし、ドレッドノートの攻撃は中華服の魔法少女に致命傷を与え、中華服の魔法少女の攻撃はドレッドノートに干渉できない。

     絶対的な相性差。
     
     

     

  • 665◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 16:33:48

     ハイエンドの拳が脳天を打つ——効かない。
     ハイエンドの蹴りが鳩尾を叩く——効かない。
     ハイエンドの手刀が目を貫く——効かない。

    「無駄だ、貴様の魔法では余を突破できん! 魔法性能において、貴様は圧倒的に格下だ!」

    「格下、ねェ……」

     ハイエンドは目を細め、口角を上げた。

    「——自分だけしか守れない魔法を、そんなに誇るとは……滑稽ネ」

     その言葉は、ドレッドノートの行動を一瞬停止させた。
     ハイエンドの拳が、腹部を撃ち抜く——効かない。

     ——ドレッドノートの口から、血が、糸のように滴った。

    「……貴様」

    「——効いたナ」

     

  • 666◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 16:44:21

     ハイエンドの首を刎ねるように、ドレッドノートは剣を水平に凪ぐ。
     ハイエンドは上体を逸らして躱し、同時にドレッドノートの足首に蹴りを放つ——効かない。

    (……魔法が消えたわけじゃない。
     それに、私の一撃を浴びて、あの程度のダメージで済むのもおかしい。
     あの一瞬は、無敵が消えたのじゃなく、弱まったと考えるべきネ)

     そして、弱まった理由は。

    「無敵はメンタルに依存する。種さえ割れれば、大した魔法じゃないヨ」

     むしろ凄いのはお前ネ、とハイエンドは感心したように言う。

    「仲間殺されてるのにメンタル保てるの、中々出来ることじゃないヨ。……実は死んで清々してたり?」

    「黙れッ!」

     直線的な動きで飛び掛かる魔王を、難なく躱し、すれ違い様に背中に肘を落とす——効いていない。

    (単純に怒らせるといいってわけでもないカ。もう少し試すネ)

  • 667◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 16:53:14

    「無敵になったのは師匠と戦った時カ? それともブラッディイェーガー殺したときカ?」

     再び冷静さを失い、単調になった攻撃を、ハイエンドは的確に捌いていく。

    「もし、発現したのが『自分だけ助かる魔法』じゃなくて『敵を倒せる魔法』だったら、仲間は死なずに済んだヨ?」

    「それ以上、喋るな……絶対に、殺してやるッ……!」

    「発現する魔法って、本人の本質が反映されやすいネ」

     朗々と、詩吟をするかのように、ハイエンドは言葉を紡ぐ。
     悪意を持って、殺意を持って、魔王を滅ぼす呪文を謳う。

    「——仲間はどうなってもいいから自分だけ助かりたい。それが、お前の本質」

     人差し指と中指を立て、ナイフのように首を切り裂く。——ドレッドノートの首に、朱の線が走った。

     ハイエンドは、指についた血を口に含み、妖しく微笑んだ。

    「なるほど、『恐怖』カ」

     

  • 668◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:00:34



     嵐が吹き荒れていた。
     
     ハイエンドの言葉は、ドレッドノートの心を的確に抉っていた。

     発現したのが無敵で無かったのなら、仲間を助けられたかもしれない。
     そんな仮定を、今まで何度行っただろうか。

     例えば、万能になる魔法。
     例えば、武器を無限に射出できる魔法。
     例えば、どんな相手でも切り裂ける魔法。
     例えば、相手を変身解除させる魔法。

     例えば、近代兵器を具現化できる魔法。例えば、周囲一帯を氷結できる魔法。例えば、灼熱の炎を操る魔法。例えば、例えば、例えば——。

     ドレッドノートの無敵は、ドレッドノートを守り抜く。
     だが、ドレッドノート以外の者は守らず、ドレッドノートの敵に直接害することはない。

     絶対安全の盾。ドレッドノートだけに生存を確約する安全装置。

  • 669二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 17:01:48

    逆に覚醒させちゃうパターンだこれ

  • 670二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 17:04:50

    さっき殺したミョルニルが神様由来っぽいとはいえ「他者も癒せる」な魔法だから
    精神性の話をされると深く刺さりそう

  • 671◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:11:02

     土壇場で発現したのは、そんな保身に塗れた、生存欲求に忠実な、どこまでも浅ましい魔法だった。

     仲間を守るために血を操る魔法少女と立ち向かった。仲間を逃がすためにブレイズドラゴンと戦った。

     本当に? 最前線で戦ったフリをしていただけで、実際は仲間の中で誰よりも安全圏に居たのは夜祖神髑髏だ。

     ずっと、見ないフリをしてきた。その事実から目を背けていた。

     何故なら、これこそが、ドレッドノートの恐怖の象徴なのだから。

     彼女を心の底から怯えさせる、残酷な事実なのだから。

    『あの時、夜祖神髑髏は自分が助かることしか考えていなかった』

     どれだけ言葉で取り繕うと、本心を誤魔化そうと、発現した魔法が、雄弁にその内面を物語っている。

     そんな人間がリーダーをやっていたから、仲間たちは、魔王軍は、ああも無惨な末路を迎えたのではなかったか。

     恐怖が浸蝕する。四肢が痺れ、息が出来なくなる。
     

  • 672◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:27:01



    『え、髑髏ちゃん、リーダー辞めたいの?』

     そんな相談をしたのは、いつだったか。

    『うん、だって私……剣を出すだけだし。皆は、色々素敵な魔法使えるのにさ……。私、運動も苦手だし、剣の使い方なんてわかんないし……みんなの足手まといだから』

    『そんなの気にしなくていいし、髑髏ちゃん、全然足手纏いじゃないよっ!』

     そう言う風に励ましてくれることを、相談前から髑髏は分かっていた。
     そういう自分の打算的で陰気な性格が、時々嫌になる。

    『魔法って、その人の本質が、出るって説、あるよね……。
     剣道部でもないのに髑髏の剣出しちゃう私って……要はガワだけ取り繕って、中身がまるでないってことなんだと思うの……』

     

  • 673◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:32:49

    『違うよ』

     と、仲間は力強く否定した。優しさからくる同情ではなく、間違ったことを正す誠実さが、その瞳には籠っていた。

    『それは髑髏ちゃんの早とちり』

    『は、早とちり?』

    『まだ私たち魔王軍は始まったばっかりでしょ? 今の段階で本質が~とか気が早すぎ!』

    『でも、実際に魔法が……』

    『そんなの、今の段階の話でしょ?
     髑髏ちゃんが、自分に満足してないのも事実なんだから——レベルアップすればいいんだよ!』

     魔王がレベル上げしちゃいけないなんてルールは無いんだからさ、と仲間の一人は笑った。

  • 674◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:39:55

    (そうだ……私は……余は、未だ不完全だ)

     だから、仲間を守れなかった。
     今もこうして、仇を前に、追い込まれている。

    (だけど、だが、まだ、終わりじゃない……ここで終わったら、何も取り戻せない……!)

     ハイエンドがこちらに迫っている。無敵の弱点を暴かれ、恐怖心を引き摺りだされ、今、正に殺されようとしている。

    (終わってたまるか……! 仲間を取り戻すまで私は……!)

     ドレッドノートに、新たなる感覚が芽生えた。
     奇妙な感覚だった。臓器が一つ増えたかのような、以前に一度感じた、不思議な感覚。

    (そうだ、確か血を操る魔法少女の時にも、こんな感覚を——)

     次に何をすればいいのか、ドレッドノートは本能的に悟っていた。
     剣を振り上げる。
     

  • 675二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 17:42:52

    魔王様、生存値的にハイエンドを道連れにできる可能性はワンチャンあるのよね

  • 676◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 17:57:59

     ドレッドノートの技量は、ハイエンドには及ばない。
     たった数年、凡人が生死を超えた鍛錬をした程度では、かのブレイズドラゴンが「高性能(ハイエンド)」と名付ける程の天才には届かない。

     一度、気持ちを立て直したところで、じわじわと嬲り殺しにされるだけだ。
     そう簡単に振り払えるほど、恐怖は軽くない。

     だが、今のドレッドノートには——まだ、出来ることがある。

     振り上げた剣に——漆黒の光が集まる。
     ハイエンドの顔色が変わる。
     爆発的な魔力の奔流が、ドレッドノートを中心として発生しているのだ。

    「——余の仲間を殺めたことを、悔いながら死んでいけ!」

     ドレッドノートは剣を振り降ろした。
     放たれるのは、魔力の洪水。
     剣から放たれる閃光が、木々を、大地を、炎を、破壊の渦に巻き込んでいく。
     
     この恐るべき魔法は、他者に干渉されない。
     『無敵の攻撃』。
     シャボン玉で包もうと、空間を具現化して相殺しようと、『拒絶』さえも不可能な、最恐の一撃。

     あらゆる防御を、減衰を、無効化を無視する、魔法少女を逸脱した一撃。

     今此処に、ドレッドノートは真なる魔王として再臨したのだった。

  • 677二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 17:59:50

    ここで来たか!無敵付与の攻撃!

  • 678二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 18:06:35

    ドレッドノートが一気に最強議論に上り詰めて来たな

  • 679二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 18:14:16

    最強の矛たるマジカルストラッシュと衝突したらどうなるのかめちゃめちゃ気になるやつ……

  • 680◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 18:31:46

     胸に、衝撃が走った。

    「何……っ!」

     ハイエンドの拳が、ドレッドノートの胸部を撃ち抜いている。

    (躱したというのか……っ!?)

     ドレッドノートに戦慄が走る。
     だが——問題は無い。無敵は継続している。

     ハイエンドもまた、呼吸は荒く、その顔に余裕は無い。
     そう何度も躱せるわけではないのだろう。

    (余の……勝ちだ!)

     ハイエンドは、ドレッドノートに背を向けた。
     その背中にもう一度、無敵の攻撃を叩きこもうと、魔王は剣を振り上げ。

    「…………絶招」

     剣が地面に転がり、乾いた音が響いた。

     
     

  • 681◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 18:38:03

    (何だ……何をされた……?)

     去っていくハイエンドに手を伸ばそうとし、ドレッドノートは膝から崩れ落ちた。

     視界が霞む。意識が明滅する。叫ぼうとして、口内が血で満たされ、吐くことしかできない。

    (動け……動け、魔王ドレッドノート! 余は、私は、無敵だ! こんな攻撃何ともない! だから、動け、立て、戦え……!)

     どれだけ奮い立った所で、四肢に力が入らず、末端から冷えていく。

    (嫌だ……まだ、取り戻してないのに……! 取り返してないのに……! ここで死んだら、何のために……!)

     魔王として、最恐の魔法少女として振る舞ってきた。無辜の魔法少女を、たくさんの人間をその手にかけた。
     全ては、取り戻すため。

     

  • 682◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 18:45:51

    (まだ、死ぬわけには……こんな、ところで……嫌だ!)

     魔王は渾身の力を振り絞り、起き上がろとした。
     視界に、自らの身体が映る。
     ——既に、粒子化は始まっている。

    (ああ……)

     視界が滲んだ。

    (みんな……ごめん、ごめんなさい、私、取り戻せなかった……)

     その思考を最後に、ドレッドノートの肉体は、光となって消えたのだった。

    【夜祖神髑髏/ドレッドノート 死亡】
    【残り 25人】

  • 683二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 18:48:59

    敗因はガス欠か?

  • 684◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 18:51:49



     ドレッドノートの一撃は、樹木ごと周囲の炎を消し飛ばしていた。
     恐るべき一撃だったと、ハイエンドは戦慄する。

    (少しでも判断ミスしてたら死んでたネ……)

    『剣からビームを打つ』

     それは、ハイエンドの師匠、ブレイズドラゴンが生涯最強の相手と語る、ティターニアが得意とする魔法だ。

    『絶対に受けてはいかん。何らかの手段で無効化できると思っても、全力で避けるのじゃ』
    『というか相手が剣持ってたらまずビームを想定しておけ。撃たれてから避けとったら間に合わんからのう。撃つ前から相手の目線や剣の向きから、ビームを撃って来たらどこに避けるか想定しておくのじゃ』

    (実際には剣からビーム撃つような魔法少女と戦うことなかたし、ティターニア意識し過ぎな教えだったと思ったけど……救われたネ)

  • 685二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 19:11:15

    師匠の知恵袋で回避したか…ブレイズドラゴンも大振りな技の対処法はしっかりしてたしな

  • 686◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 20:44:05

     だが、一気に全身を加速させ、安全地帯に逃げ込むのは、ハイエンドの体力を削った。
     魔力切れの兆候こそ見せていたが、何らかの絡繰りでビーム攻撃を連発されるとハイエンドでは対処できない。

     速攻で片をつけるために、ドレッドノートの心臓に「絶招」を打ち込んだ。
     『無敵』で防がれる可能性は十分にあったが、ビーム攻撃で魔力を消費した可能性、あるいは無敵の攻撃と防御、瞬時に切り替えは出来ないのではないか? と推測し、半ば祈るように師匠の技を発動した。

     結果として、魔王は死に、凶手は生き延びている。
     

  • 687◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 20:53:10

    (まったく、防御性能といい、攻撃性能といい、とんでもない相手だったネ……魔力が十分だったら、師匠でも勝てなかったかも)

     ハイエンドは、はっきりと覚えていた。
     仲間を守るために必死に剣を振るった、黒衣の魔法少女が居たことも。
     黒衣の魔法少女を守るために命を賭した彼女の仲間たちのことも。

    (確か、仲間からは『魔王様』と呼ばれてたな……)

     あの時は、些か名前負けしていると思ったが、再び姿を見せた少女は、魔王の名に相応しい格を備えていた。

    (今まで色んな相手殺してきたけど……)

    (お前が一番怖かったヨ、魔王様……)

     魔王は死んだ。しかし、『取り戻す』ために修羅を選んだ者が、ここに一人。

     殺し合いは、未だ終わりを見せる気配が無かった。
     

  • 688◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 20:53:29

    投下を終了します……!

  • 689◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 20:56:24

    山岳編はこれで終了です……!


    2巡目次の舞台はdice1d3=2 (2)


    1【あにまん中央エリア/中心街】

    《ハスキーロア、スピードランサー》


    2【あにまん市東エリア/学生街】

    《ティターニア/慈斬/天城千郷/ミストアイ/テンガイ/ワンフロムアウター/抜刀金》


    3【あにまん市西エリア/糧鮴】

    《バルバロイ/ジャスティスファイア/冨島千秋/ハートプリンセス》+オオカワウソDチーム

  • 690◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 20:59:49

    次のエリアは学生街です……!


    ティターニアdice1d100=86 (86)

    慈斬dice1d100=26 (26)

    天城千郷dice1d100=76 (76)

    ミストアイdice1d100=45 (45)

    テンガイdice1d100=89 (89)

    ワンフロムアウターdice1d100=5 (5)

    抜刀金dice1d100=11 (11)

  • 691◆xaazwm17IRZa24/08/13(火) 21:04:25

    ……以上の情報を元に、学生街編を投下します!

    たくさんの感想・考察・支援画像ありがとうございます!
    皆さんの言葉からアイデアを頂くことも多いので、とても感謝しています!
    まったりペースの進行でありますが、今後とも、お手すきの時に読んでいただけると幸いです

    それでは、本日もありがとうございました~

  • 692二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 21:53:11

    山岳編お疲れ様でした!
    ミョルニルの回想を通じて魔法少女の起源に軽く触れつつも、ドレッドノート周りの因縁にフィーチャーした回だったなと
    あと武器だけ堂々とひったくって消えるジャックザ漁夫の利ッパーで笑った お前マジなんなん

    続く学生街編のダイスではOFOがファンブルときた
    他魔法少女との絡みが少ない中、ようやく動き出せるこのタイミングで出鼻を挫かれたのは素直に惜しい

  • 693二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 22:04:17

    そういえばこれ本体も死ぬんよね
    もしかして参加者と一切関わり持たないまま運営組と戦わされるパターンある?

  • 694二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:25:16

    しっかりダイスが別れてるな…
    ミストアイの立ち回りが重要そうになりそうですね?

  • 695二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:29:48

    OFOの本体……どんな奴なんだろう

  • 696二次元好きの匿名さん24/08/13(火) 23:46:51

    山岳エリア編お疲れ様でした…!
    召喚系魔法と無敵系魔法と無効化技の飛び交うこれまでとは一味違ったギミック攻略的な戦闘も良かったけど、やっぱりハイエンドが魔王の姿勢に影響されて闇堕ち(と言うと語弊があるかもだけど)してしまったのがかなり印象深いね
    いずれもまだ生きているかもしれない愛犬と親友を天秤にかけて苦渋の思いで前者を選ぶのとは違う、死んだ愛犬を蘇らせるという限りなく薄い可能性のためにおそらくそれよりは高い確率で生きている親友を手に掛ける茨の道を進む、そんな自己矛盾を起こすほどに麦の死が衝撃的だったのだろうなと

    そして次の学生街編ではOFOと抜刀金、そしておそらく慈斬も死亡圏内か…
    ミストアイと慈斬(裏人格)の間にある因縁が回収されそうで今から楽しみ

  • 697二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 08:44:00

    保守

  • 698二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 10:06:18

    学生街は順当に強者が生き残るダイス目だ

  • 699二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 16:33:31

    ミストアイまでが生存怪しいラインかな
    他の地区でも脱落者出そうだしこのターンで残り20人切りそうだ

  • 700二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 19:17:54

    わぁ…うちの子ぼっちのまま死亡確定しちゃったぁ
    まぁ決まっちゃったもんは仕方ないのでどうかスレ民たちに忘れられない最後の輝きを焼き付けてほしいな

  • 701二次元好きの匿名さん24/08/14(水) 23:33:00

    師匠が言った「隙と言うのはチャンスと思った瞬間に生まれるもの」っと…(大嘘)
    戦い慣れしているブレイズドラゴンの知恵袋は今後もハイエンドを活かす…気がするねぇ

  • 702二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 10:02:21

    保守

  • 703二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 17:19:55

    学生街のキャラはどういうスタンスだっけ

  • 704二次元好きの匿名さん24/08/15(木) 23:25:34

    ドレッドノートの敗因を振り返ると相手が攻略法を知ってたのが悪かった
    今後もハイエンドは冷静な観察眼で魔法少女を攻略していくか…

  • 705二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 07:53:25

    珍しくダイスが綺麗に割れておる

  • 706二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 08:38:35

    >>703

    明らかになってる分だと


    生徒を守りながら敵全員殴ってゲームを終わらせたい脳筋がティターニア

    バーストハートの心臓さえ手に入れば他はどうでもいいのがテンガイ

    全部壊すぜ天城千郷

  • 707二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 17:10:58

    そうなると戦闘仕掛けそうなのはテンガイと天城か?
    運営側がやってくる可能性もあるけど

  • 708二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 19:34:40

    バーストハート、イレギュラーな事態が起こった後だけど心臓のほうは大丈夫(※テンガイの目的に適うもの的な意味で)なのかな 

  • 709二次元好きの匿名さん24/08/16(金) 23:41:36

    心臓が変質してて爆弾と化してたらご愁傷様…

  • 710二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 08:19:11

    バーストハートの心臓に関しては現状分からないことだらけで何とも言えない
    第一に本人の固有魔法すらお披露目がまだなんで……

  • 711二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 16:25:52

    保守

  • 712二次元好きの匿名さん24/08/17(土) 23:51:37

    最初の魔法少女はイレギュラーな事が起きない限り今度こそ出てこないし、遂に固有魔法のお披露目か…

  • 713◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 03:44:23

    投下します

  • 714◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 03:50:53

    『もういっそ全部壊れればいいのに』

     小六の時、千郷はそう思った。
     千郷の両親は、敬虔なクリスチャンだ。千郷も、幼い頃から聖書のお話を聞いて育った。
     一番好きなお話は、ノアの方舟だ。

     ノアがどんな人物だったのか、何故神様は洪水を起こしたのか、このお話の教訓は何か。

     それらにはあまり関心が無く、興味を惹かれたのは「どうやって世界は海に沈んだのか」だった。

     世界は広くて複雑だ。千郷が一生をかけて歩いても、世界の全てを訪れることはできない。そして千郷がどれだけお勉強をしても、世界の何もかもを理解はできない。

     それが、全部沈んだ! 千郷はそれを思い浮かべる度に、痛快ささえ感じた。

  • 715◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:01:03

     歳を重ねる度に、千郷の心は複雑になっていた。大好きだった両親の嫌な所が見え始め(例えばそれは、千郷の友達の親を熱心に勧誘するところとか、特定のニュースに対して過剰な反応をするところとか)、宗教に対しても軽い忌避感を覚えだした。 周囲の人間関係も、「ともだち」と「まだともだちじゃないこ」だった園児の頃から、「〇〇さんのグループ」とか「一軍・二軍」といった概念が出てきて、窮屈さを感じていた。

     小六の時、息の詰まりそうな教室で、千郷は思ったのだ。

     もういっそ全部壊れればいいのに。

     そして、気づく。どうして神様が洪水を起こしたのか。
     人間社会が複雑になって、それが嫌になって、ぶっ壊したくなったのだ。

     千郷は神を崇めるのではなく、生まれて初めて神に「共感」した。

     その瞬間、千郷は魔法少女になっていた。

  • 716◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:08:55

    (あれ、私、何してたっけ……)

     微睡みから醒める。
     千郷は瞼を開く。

    (知らない天井だ……)

     狭い和室だ。布団に寝かされていたらしい。

     千郷は布団から這い出ると、詰みあがった雑誌や新聞紙の束を避けながら、ガラス戸を開けた。

     こちらに背中を向けたジャージの女が居る。
     彼女は座卓に載せた白い皿に、雑草のようなものが載せられている。
     ジャージの女はおもむろに、その雑草にマヨネーズをかけ始めた。

     そして、箸で摘まみ、それを口に運ぶ。

    「……やっぱ不味いわね、これ」

     そして、ジャージの女は咀嚼しながらこっちを振り返った。
     20代中盤~後半辺りの女性だ。

  • 717◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:19:26

     ごくり、とジャージの女は口に入れた雑草を呑み込んだ。

    「私の名前はティターニア……本名は、妃咲希。高校教師よ」

    「あ、はい、私は……天城千郷って言います……」

    「どうして自分がここにいるか、わかる?」

    「……はい。だんだん思い出してきました」

     天城千郷は……変身すると、はっちゃける。
     一人称も私から俺様になるし、何でもかんでもぶっ壊すデストロイヤーへと変貌する。

     デスゲームに巻き込まれた千郷は恐怖から逃れるためにさっさと変身し、メリアという魔法少女と口論(というか一方的にキレて襲いかかった、と今の千郷は自省する)になり、ティターニアの介入を受けた。そして、ティターニアをぶっ壊そうとして返り討ちに遭い、その後は……。

    (なんか、色々あったな……)

     妙に気の合う剣士系魔法少女と戦ったり、ガーゴイル(親がキリスト教徒なのでその辺の知識は豊富だったりする)の大軍勢をぶっ壊して超気持ち良かったり。

     時間にすれば1時間も無かったはずだが、濃密な時間を過ごした。

  • 718◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:25:45

     そこまで思い出して、ふと気づく。

     あれ、もしかして私、この人と敵対してることになってない? と。

     一度はぶっ壊そうとしたし、ガーゴイルの大軍を破壊したときも、一緒に巻き込んだような記憶がある。

     というか、それらの経緯が無かったとしても、今は殺し合いの真っ最中であり、ティターニアと千郷は同じ参加者である。

    (え、やばくない? すぐ変身しないと……っていうか、駄目だ、さっき発散したから魔力全然溜まってない……)

    「そんなに怯えなくてもいいわよ、千郷ちゃん。私はゲームに乗ってないし、千郷ちゃんを退治する気もないから」

  • 719◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:35:53

     にっこりと笑うティターニアに、千郷は胸を撫でおろす。

    「だから千郷ちゃんも今後は好き勝手暴れちゃ駄目よ」

    「えっ!?」

    「えっ、何で驚いてるの……? 私めちゃくちゃまっとうなこと言ってるよね……?」

     とにかく駄目よ、と念押しするティターニアに、千郷は渋々頷く。

    「よし、じゃあ情報交換しましょう。貴女が意識を失っている間に、放送と名簿・アイテムの配布があったから」

    「それより、後二人、居ませんでしたっけ……」

     メリアと名乗った少女と、剣を扱う兎耳の少女。
     会話らしい会話も交わさなかったので、どういう人物なのかはまるで分からないが。

    「メリアは……死んだわ。
     そして、山田さんは……まだ見つかってない」



     

  • 720◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:46:21



     ヒャハハハハハハ……という笑い声が脳裏に響き、山田浅悧はゆっくりと目を開けた。

    (あれ、ここは……)

     どこかの民家の一室のようだ、と浅悧は思う。

    (私、どうしてこんなところに……)

    「目は覚めたか」

     浅悧を見下ろすように立つのは、一つ目の仮面に、灰色のローブを纏った少女……恐らく、魔法少女だと、浅悧は察する。

    「私はミストアイ。ゲームには乗っていない。裏路地に生き倒れていたお前をここまで運んできた」

    「ありがとう……私は、山田浅悧。あなたと同じ、魔法少女よ」

    「山田浅悧……」

     ミストアイは一歩後ろに下がった。

    「——お姉ちゃんを、壊した奴か」

     浅悧の心に影が射す。
     自分の中の第二の人格、慈斬は多くの犠牲者を生んでいる。
     あるいは、昨夜の発現でも、浅悧が与り知らぬところで、犠牲者を生んでいるかもしれない。

     

  • 721◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 04:53:41

    「……ねぇ、ミストアイ、あなたのお姉さんのことを私に教えて……っ!?」

     長杖の先端を、ミストアイは浅悧に向けている。

    「山田浅悧……お前は、規律を破る、悪だ」

    「違う、あれは私じゃなくて……」

     第二の人格がやったことだ、と浅悧は言おうとして、口を紡んだ。

     被害者家族がそれを聞いて、信じるだろうか。
     否、被害者家族でなくても、信じる者は少ないだろう。
     あまりにも荒唐無稽だからだ。一応診断は下りているが、診断書を携帯しているわけではない。

    (ましてや、今のタイミングじゃ、生きるために言い訳しているようにしか受け取られない……)

     ——じゃあ、もう斬るしかないのでは?
     殺し合いの最中なのだから。
     メンダシウムのような、強者が居るのだから。

     もういい、斬ってしまえ。
     その方が、簡単だ。

     ヒャハハハハハ……という笑い声が脳裏に響く、ような気がした。

  • 722◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 05:00:22

     ミストアイは、長杖を降ろした。

    「……許してくれるの?」

    「優先順位が、違う。それに、私が撃つのは悪党だけだ。復讐のためには撃たない」

     ましてや、お姉ちゃんは悪党だった。
     と、ミストアイは感情の籠らない声で言った。

    「……そう、ありがとう。……それで、優先順位っていうのは、このゲームからの脱出でいいんだよね?」

    「……それもある。だが、何より優先するべきは」

     浅悧は瞠目した。無感情に見えたミストアイが全身を震わせたのだ。……怯えている。冷静沈着に見えた、兵士のような雰囲気の少女が。

    「テンガイの暗殺だ。七海真美の尽力で奴は弱っている。叩くなら、今しかない」

     今度こそ、奴を討つ。と、ミストアイは言った。

  • 723◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 05:10:43



     団地の屋上に、複雑な文様の魔法陣が描かれている。
     その中央で横になるのは、緑色の髪の小柄な少女。
     彼女は目を開くと、緩慢に起き上がった。

    「……よし、やっつけ作業だけど調整は出来たな」

     まったく、真美はやってくれたよ、と少女——テンガイはけのびをする。

    「僕様のリストを穴だらけにしちゃってさ。色々シナジーとかあったのに……ここまでボロボロにされると、いっそシンプルにした方が強いからな」

     まぁ、心臓が手に入るまではこれで凌ぐとするか、とテンガイは独り言を続ける。

    「ふん、僕様はこんなピンチを幾度も乗り越えてきたんだ、何てことはないさ。
     あ、いや、違うな。僕様は全知全能だから、こんなピンチは生まれて初めてだぜ。まったく面白くなってきやがった! あー、これも何か違うな……」

     うーん、とテンガイは腕を組み、首を捻る。

  • 724◆xaazwm17IRZa24/08/18(日) 05:10:55

    投下を終了します

  • 725二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 09:13:56

    最初のアプローチはミストアイ→テンガイか
    あんまり積極的に仕掛けに行くタイプには見えなかったから予想外
    (浅悧&千郷の二重人格組が鳴りを潜めている影響もあろうが)

  • 726二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 09:16:49

    学生街爆弾多すぎない?

  • 727二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 09:18:59

    学生街組の所有アイテムなんだっけ
    アイテムって時々爆弾混じってるからそっちも警戒しとかないと

  • 728二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 10:14:00

    今のテンガイはむしろ暗殺に強い(警戒している)…か

  • 729二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 17:22:17

    保守

  • 730二次元好きの匿名さん24/08/18(日) 23:25:44

    魔法陣もシナジー効果が得られにくい分
    テンガイも苦労してそうではある

  • 731二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 07:45:27

    ほしゅ

  • 732二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 16:27:47

    保守

  • 733◆xaazwm17IRZa24/08/19(月) 23:32:04

    投下します

  • 734二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 23:39:14

    よしきた

  • 735◆xaazwm17IRZa24/08/19(月) 23:41:26

    次の瞬間、テンガイは目を見開き、『繁華街』の方角をじっと見つめた。

    しばらく呆然と立ち尽くした後、彼女は緑色の髪を掻きむしりながら呟いた。

    「おいおいおいおい、嘘だろ……!? え、ヤバい、マジでどうしよ……」

    手すりに身体を預けると、テンガイは深いため息をついた。

    「どうしてこうなるかなぁ……」

    その声には、明らかに『老い』を感じさせる重さがあった。
     
     

  • 736二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 23:51:21

    1度目の死亡時か、それともアレの顕現時か…?

  • 737二次元好きの匿名さん24/08/19(月) 23:58:43

    動けるのに動かないこと考えれるのに考えないとはこの事

  • 738◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 00:09:24

     テンガイはそのまま肩を落とし、がっくりとうなだれた。口には自嘲の笑みが浮かんでいる。

    (おいおい……もしかして、これマジで詰んだのか……?)

    花畑の向こうで七海真美が笑顔で手招きしているイメージが頭に浮かび、テンガイは慌ててそのイメージを振り払った。

    (悪いな、真美……まだ死んでやらねぇぜ、僕様は)

    「全知全能を舐めるなよ、プランAが駄目ならプランBだ。僕様のプランはZまであるんだからな!」

     その言葉には確かな根拠があるのか、それともただの強がりなのかは傍目には分からない。

     テンガイは立ち直ったのか、若さを感じさせる身のこなしで屋上の階段を下りていった。

  • 739◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 00:19:01



     どんな人にも守護霊がついている、という話をスピリチュアル好きな友達から聞いたとき、素鈴はそれに納得したのを覚えている。

    自分が誰かに見守られている感覚は、物心ついたときから確かにあった。一人でいるときも、一人ではないと感じ、常に誰かが傍にいるような感覚があった。

    「なるほど、あれは守護霊だったのか」と素鈴は理解し、それ以上その『見守られている感覚』について不思議に思うことはなかった。

    それから数年後、デパートで魔法少女同士の戦いに巻き込まれ、生死の境を彷徨った末に、素鈴は魔法少女となった。

    素鈴の世界は大いに広がったが、少し残念だったのは、魔法少女になっても守護霊が見えるようになったり、お話できるようにはならなかったことだ。

    魔法少女の中には、魔法を現実として受け入れた結果、魔法以外のオカルト(超能力・宇宙人・都市伝説・宗教・スピリチュアル)を否定する者もいるが、素鈴は魔法の存在と守護霊の存在を両方素直に受け入れていた。

  • 740二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 00:21:35

    ≻≻笑顔で手招きしているイメージ
    素で思い浮かぶあたりだいぶ影響強いな…

  • 741◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 00:28:01

     デスゲームに参加することになっても、素鈴の『見守られている感覚』は変わらなかった。彼女がのんきにコンビニで夜食を食べたり、明け方に出会った魔法少女に気兼ねなく話しかけたり、その少女と共に行動できたのも、この『見守られている安心感』によるものだった。

    「……落ち着きました?」

     素鈴は裏路地に身を隠し、近くのコンビニで買ったペットボトルのお茶を差し出した。

     受け取ったのは、侍風の袴と着物を纏った魔法少女だった。出会ったときは憔悴しきっていたが、今は顔色も良くなり、雰囲気も穏やかになっている。

  • 742◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 00:39:27

     少女は「抜刀金」と名乗った。18歳で、15歳の素鈴より三つ年上だ。

     最初の六時間が平穏そのものだった素鈴と比べ、抜刀金の六時間は激動そのものだった。特級の危険人物、テンガイを討つために攻撃を仕掛け、人知を超えた魔法に翻弄された。撤退を選ぶも、共に逃げていた、対象を透明化させる魔法少女が目の前で殺される場面に直面した。彼女が最後にかけた魔法によって、なんとか抜刀金だけが逃げ延びることができたという。

    (殺し合い……本当に起きているんだ)

    素鈴は、恐らく参加者の中で最も暢気な思いを抱いていた。

    最初の六時間で他の魔法少女と遭遇しなかった参加者は、素鈴を含めて三人いる。だが、ジェシカ・ロドリゲス(魔法少女『バルバロイ』)はエネミーと遭遇し、マク=ハク(魔法少女『ノーブル・サヴェージ』)は命をかけた戦いが日常である。

    素鈴だけが、生死をかけた戦いとは無縁の日常を送り、デスゲームも平穏無事に過ごしていた。ある意味、参加者随一の幸運の持ち主と言えるだろう。

  • 743◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 00:52:46

     もっとも、放送で呼ばれた名前には、素鈴の余裕を崩すような名が含まれていた。

    「木羽マミ」
    「陣内葉月」

     クラスメイトだ。クラスメイトが魔法少女だったという事実も驚きだったが……彼女たちはすでに死んでしまったという。

    (正直、あまり実感が湧かないんだよね……)

     木羽マミといえば、クラス随一の変人で、屋上で宇宙人にメッセージを送っていたり、グラウンドにミステリーサークルを描いたりと、エピソードには事欠かない。中学時代には生徒会長をしており、そこで数々の伝説を残していたらしい。

     一方、陣内葉月はクールで、何でもそつなくこなす完璧超人だった。剣道部には所属していなかったが、ものすごく有名な剣術道場の跡取り娘で、すでに大人顔負けの天才剣士として知られていた。

     もし素鈴の通う高校が学園漫画なら、二人はきっとメインキャラで、素鈴はモブキャラ。単行本を買わないとフルネームすら分からないような存在だろう……と素鈴は卑屈なことを考えた。

    そんな二人が、死んでしまったのだという。

    (本当に……?)

     実際に魔法少女だったというのは素直に納得できる。それだけの格がある。しかし、たった数時間で死んでしまったと言われると、どうしても首を傾げざるを得ない。
     

     

  • 744◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 01:02:36

     こんな序盤で死ぬようなキャラではない。

     というか、死ぬの?という疑問が先に浮かぶ。

     こんな「魔法王」というよく知らないおじいさんが開いた、よくわからない殺し合いで死んでしまうのは、悲しいとか寂しいの前に、ただただ戸惑いが勝ってしまう。

     何となく、将来高校を卒業して大人になり、二人の活躍を新聞やニュースで目にしたときに、夫や娘に「実は私、この人と同じクラスだったんだよ」と自慢する未来を想像していた。

     それなのに……

    (でも、死んでしまったということは……もう会えないんだよね)

     もしかしたら、卒業までに仲良くなる未来もあったかもしれない。住む世界が違うと勝手に諦めていたけれど、まだ青春は始まったばかりだったのだ。

     素鈴は息を吐き、シュマちゃん(触手)とスラ君(軟体)が気遣わしそうに、素鈴の肩を撫でた。

    「……放送で親しい人の名前が呼ばれたので御座るか」

     抜刀金もまた、心配そうに素鈴を見つめた。

  • 745◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 01:15:16

     素鈴は木羽マミと陣内葉月の話を、抜刀金に聞かせた。

    「そうか……素鈴殿は、陣内葉月のご学友であったか……」

     複雑な表情で顔を伏せる抜刀金に、素鈴は「お知り合いなんですか?」と尋ねた。

    「昔……色々とあったのだ。色々とな……。ひとつ聞きたいのだが、陣内葉月はクラスでどんな様子だった?」

    「クール系の完璧超人で、天才剣士~って感じのキャラでした。あ、でも、思ったより軟派な人で、クラスでファッション雑誌を回し読みしていたり、休み時間に友達とTikTokを観てたりしてました」

    「楽しそうだったか?」

    「見た感じ、楽しそうでしたよ」

    「剣の道は捨ててはいなかったか?」

    「え? うーん、剣道部には入ってなかったけど、稽古は毎日してるって言ってた気が……」

    「そうか……」

     抜刀金は何かを決意した様子で、素鈴に向かい合った。

  • 746◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 01:22:50

    「拙者はかつて、陣内葉月を傷つけたことがある」

    「傷つけたって……稽古で怪我させたってことですか?」

     もっとも、素鈴のイメージの陣内葉月が、例え相手が年上だからといって、稽古中に怪我を負うイメージは無かったが。

    「……肉体ではない。拙者は、陣内葉月の心に傷をつけたのだ。否、この言い方はまだ逃げておるな。
     ——拙者は、陣内葉月を斬り殺した」

    「斬り殺した……?」

     あまりにも剣呑な言葉だった。
      

  • 747◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 01:32:28

    「……あの時、拙者が通う道場は金欠で苦しんでいた。居合術というのは中々門下生が集まらぬのよ。金策に苦しんだ父上と拙者は、親交のある陣内道場を頼った。
     ……だが、道場主の男は、あまり褒められん男であった。かつて拙者たちが陣内道場の剣士に他流試合で勝利したことを根に持っており、あの勝利を『抜刀道場の騙し討ちと認めろ』と拙者たちに迫ったのだ」

    「……え、ひっど……。
     ……って、もしかして、抜刀さん、陣内葉月に他流試合で勝ったんですか……?
     あの大人の男よりもずっと強いって評判の、天才剣士に?」

     素鈴の尊敬と畏怖が込められた視線を向けられ、抜刀金は居心地の悪そうな顔をした。

    「陣内葉月は紛れもなく天才で御座った。あの試合で拙者の自信はへし折れたので御座るよ。まさか三つも年下の女の子が、あそこまでやるとは思ってもおらなんだ。居合術の物珍しさから拙者が有利だっただけで、後、一、二試合多くやっていれば、対応されていたであろうよ」

     あの試合を機に、拙者は驕りを捨て、一生懸命稽古をしたで御座る、と抜刀金は懐かしそうに言った。

  • 748◆xaazwm17IRZa24/08/20(火) 01:32:41

    投下を終了します

  • 749二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 07:45:53

    花畑の向こうどころか三途の川がチラッと見えてましたよね…

  • 750二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 07:50:07

    スペックは普通の人間並だし本人も気付いてないとはいえ邪神が尊敬と畏怖の眼差ししてるのちょっと愉快

  • 751二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 14:35:54

    (軟体)(触手)の存在感よ

  • 752二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:29:48

    保守

  • 753二次元好きの匿名さん24/08/20(火) 23:32:42

    才能ある者から先に逝ってしまう…

  • 754二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 07:42:29

    「当時は若く、お金がどうしても必要であった」

  • 755二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 09:23:10

    >>727

    テンガイの武器はアロンダイトの愛刀、天城ちゃんのアイテムはパンデモニカの魔書の1ページなのでアイテム地雷にも事欠かない

  • 756二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 09:33:20

    邪神&剣豪ペアは誰とぶつかることになるんだろう
    全員でテンガイに挑むものかと思ってたけど生存値的にそうはならないかも知れないし、運営幹部の誰かがくるのかな?

  • 757二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 18:19:37

    邪神繋がりで9話ラストのニャルラト何某もそろそろ絡んでくる気がしないでもない

  • 758二次元好きの匿名さん24/08/21(水) 23:53:49

    対応能力がピカイチの子に初見殺しで勝った
    そりゃ両者共に納得はいかん試合だったろう

  • 759二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 07:50:08

    素に戻って老いた後も何とか鼓舞させて若作りするテンガイすき

  • 760二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 15:56:56

    このレスは削除されています

  • 761二次元好きの匿名さん24/08/22(木) 23:05:03

    保守

  • 762◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:11:22

    投下します

  • 763◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:20:52



    『陣内葉月は、試合では無敗なんだ。そういうことにならなきゃ、駄目なんだよ……!
     あんたも娘を持っているなら、俺の気持ちが分かるだろ!』

     斬らねばならない、と抜刀金は思った。
     目の前で喚く男を、ではない。
     その背後、襖の向こうから此方を覗く、少女の心をだ。

     陣内葉月。年下ながら優れた剣士だ。
     齢を重ねれば、歴史に名を遺す剣客になる素養がある。

     だが、未だ幼い。
     そんな幼気な少女が、目を涙で潤ませてこちらを覗いている。

     もし、と抜刀金は思う。
     もし、自分が陣内葉月の立場ならばきっと耐えられない。
     自刃してしまうかもしれない。
     それほどの苦しみに、葉月は苛まれている。

  • 764◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:26:59

     負けることは、恥ではない。
     だが、負けを無理やり勝ちに歪められることは、剣士にとって致命傷となる。

     男の怒号を浴びる抜刀金以上に、陣内葉月は地獄に居る。

     男の言葉を跳ねのければ、陣内葉月は救われる。

     年上として、一人の剣士として、抜刀金はそうするべきだ。

    (済まぬ)

     だが、抜刀道場は経営難である。
     ここで金を借りれねば、道場を畳まなくてはならない。
     
     祖父から受け継いだ道場を、潰さなくてはならない。

     嫌だ、と抜刀金は思った。

     襖の向こうの、震える眼と、視線が合う。

     

  • 765◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:32:03

     今から自分が行う動作は、陣内葉月の心を斬る。

     それを理解したうえで、抜刀金は、道場を選択した。

     ——金のために、少女を斬り殺した。

     頭を下げた時、抜刀金の耳に、少女の押し殺した悲鳴が届いた。
     音ではなく、気配で感じ取ったのだ。

    『騙し討ちをして、申し訳ありません』


     ◇

     金を受け取り、応接間を出たとき、抜刀金は廊下の端が微かに湿っていることに気づいた。
     この場で少女が流した涙を想い、抜刀金は陰鬱な息を吐いたのだった。

  • 766◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:42:35



    「以上が、拙者と陣内葉月の顛末だ」

     抜刀金の告白を受け、素鈴は神妙な表情で視線を伏せた。

    (重い……)

     毎日暢気に暮らしていた素鈴では受け止めきれない言葉だった。

    (陣内さんにそんな過去が……)

     そんな過去があったから、完璧超人になれたのか。
     あるいは、そんな過去があったから、完璧超人にならざるを得なかったのか。

     そして、陣内葉月はそのことをどう思っていたのか。

     今となっては、知るすべもない。

    「聞いてくれてありがとう、素鈴殿」

  • 767◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:42:45

    「えっと、その、何て言っていいのか……」

    「無理に取り繕う必要は無い」

     と、抜刀金は自嘲の笑みを浮かべた。

    「以前、この話を友人に話したときは、『君の不幸には同情するけど、君がその子を不幸にしたのも事実だろ』とばっさり言われてしまった。今思えば、浅慮だった。子どもの空回りだった。陣内葉月を傷つけずとも、金を手にする手段はいくらでもあったのだから」

     その一週間後、拙者は魔法少女になり、金に困ることはなくなった。

     と、抜刀金は淡々とした調子で言った。

    「頭を下げずに帰ったところで、道場は潰れずに済んだのだ」

  • 768◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 03:52:05

    「……暗い話をして、悪かった。
     今後の方針を話し合おう」

    「はい……」

     いくら素鈴が形状記憶メンタルの持ち主だからといっても、そういきなり気持ちを切り替えれたりはしない。
     どんよりした心を引き摺ったまま、素鈴は強引に思考を殺し合いに戻そうと試みる。

     といっても、今まで一度も修羅場を潜ったことがない素鈴は、殺し合いでもどこか浮ついているが。

    「まず、最優先に倒すべきはテンガイで御座る。邪悪さ、強さ、どちらも参加者でもトップクラスであろう。拙者と素鈴殿だけでは、戦力が足りない。
     ゲームに乗っていない魔法少女と連携し、複数人で当たるべきでござる」

     顔が広く、人格、強さ、共に信頼できる魔法少女に当てはある、と抜刀金は言った。

    「それに、素鈴殿のクラスメイトも、まだ生き残っておるのだろう?」

    「……あんまり喋ったことないから、仲間になってくれるかは分からないですけど……むしろ、妃先生があのティターニアだったことに驚きっていうか」

    「ティターニア、名は聞いておる。打倒テンガイには、ぜひともチームに必要な人材でござるな」

  • 769◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 05:00:40

     テンガイ。ティターニア。素鈴では想像も及ばぬほどの強者たち。

     そんな奴らと殺し合いをさせられているという最悪の状況にも関わらず、素鈴の心には微かに余裕があった。

     何か、大いなるものに見守られている感覚。

     44人の魔法少女が跳梁跋扈する魔境で、誰とも遭遇しなかった幸運。

    (きっと、自分は大丈夫)

     根拠もなく、そんな風に思う。

     そして、それは唐突に訪れた。

    (……あれ?)

  • 770◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 05:04:06

     命綱が、切られた。

     見守っていた誰かが、姿を消した。

     素鈴の心に去来するのは、不安と孤独。

    (あれ、どうして……?)

     素鈴はきょろきょろと周囲を探った。
     シュマちゃんとスラ君も素鈴の動きにあわせて右往左往を始める。

    「どうしたで御座る?」

    「わかんない、わかんないですけど……なんか私」


    「大丈夫じゃなくなったかもです……」

  • 771◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 05:11:20



     かつて妖精郷と呼ばれる世界があった。そこでは妖精と呼ばれる種族がいくつかの国に分かれて暮らしており、人間の歴史と同様に、戦争と平和を繰り返しながら、歴史を進めていた。

     だが、冒涜の竜と呼ばれる邪悪な存在が出現し、妖精の歴史は終わりを迎えた。

     まるで世界全体で殺し合いをしているかのように、妖精たちは互いに憎み合い、妬みあい、殺戮に次ぐ殺戮、虐殺に次ぐ虐殺でその数を瞬く間に減らしていった。
     貴族妖精の中でも叡智に優れたる者は、この惨状の黒幕が「竜」であり、この竜を「冒涜の竜」と呼んだ。
     直ちに討伐隊が組織され、竜を討たんと向かう。

     ある部隊は駐留した村で騙し討ちに遭い全滅した。
     ある部隊は痴情の縺れで愛憎の果てに殺し合った。
     ある部隊は陰謀を錯誤し、自国の王宮へ攻め込んだ。

     誰もが、竜に辿り着くことなく死んでいった。

  • 772◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 05:19:24

     転機は、一人の妖精が起こした。

     異界から招き入れた一人の少女。彼女に魔法を授け、戦士として世界の平和を取り戻すことを願った。

     人間とは、下等な存在であり、妖精が暇つぶしに揶揄う程度の存在でしかない。魔法を授けたところで、妖精ほど上手く扱えるはずがなく、ただの無駄な足掻きにすぎない。

     誰もが最初はそう愚弄した。

     しかし、少女は狂わなかった。

     妖精を狂わせる竜の魔法は——人間には効かなかったのだ。

     かくして、哀れにも竜の眷属に成り下がった妖精たちは次々に討伐され、世界は少しずつ安全領域を増やしていく。

     人間の少女こそが、妖精郷を救う鍵である。
     それに気づいた妖精たちは、異界から次々に少女を招き、魔法を授けていった。

     『魔法少女』の始まりである。

     そして、魁となった最初の少女の名を、■■■という。

  • 773◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 05:19:39

    投下を終了します

  • 774二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 07:35:38

    >『君の不幸には同情するけど、君がその子を不幸にしたのも事実だろ』

    >佐々利 こぼね/クリックベイト:4→大嫌い


    【悲報】故・佐々利こぼね、デリカシー皆無

  • 775二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 07:50:47

    とんでもない規模で狂気をばら撒いてたんだな、冒涜の竜って言われる訳だ

  • 776二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 17:28:27

    このレスは削除されています

  • 777二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 18:57:41

    本体の気配なくなったっぽいけど、まだ死んでないか?

  • 778◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 20:44:40

    投下します

  • 779◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 20:56:07



     荒涼とした景色が広がる『妖精郷』の火山地帯。ここで最も標高の高い場所には、冒涜の竜が潜んでいる。かつてこの地を縄張りにしていた鍛冶を得意とする妖精たちは、殺し合いの末に数を減らし、ごく一部が他の地域に逃げ延びたが、大部分は全滅してしまった。

    草木も生えず、妖精や魔法生物も死に絶えた大地を、数人の少女たちが昇っていく。空は赤く輝き、立ち上る熱気は人間ならば耐えられないが、彼女らには涼風のように感じられた。

  • 780◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 21:20:27

    「異世界まで来て、山登りなんてなぁ——」

     と、赤色の長槍を肩に担いだ少女が言った。

    「小学校の頃に学校行事で山昇らされてよぉ、母親が心配して1リットルの水筒なんか渡したもんだから重くて仕方なくてよぉ、それ以来、俺は山より海派になったんだぜぇ」

     知りませんよ、と少女の前を歩くローブを目深に被った少女が、呆れた様子で言った。

    「ラスボス前にパーティーメンバーが海派だったみたいな情報、マジでどうでもいいですよ。そういうのは、攻略本の隅にでも書いといてください。だいいち、私はダーマットさんみたいな昭和生まれじゃない、甘やかされて育ったインドア平成女子なんですから、ダーマットさん以上に山登り嫌いですよ、ゆとり舐めんな!」

    「急にキレんなよ、若者怖ぇ~」

     けたけた、とダーマットと呼ばれた少女は笑った。
     その様子に、ローブの少女は頬を膨らませる。

  • 781◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 21:41:23

    「若者も何も、ダーマットだって、実年齢はマーリンとそう変わらないだろう?
     『生まれた時代』が違うだけで」

     私からすれば、どの子も妹みたいなものだよ、と騎士装束の少女は言った。

    「実年齢からしても、呼ばれた時代からしてもね。『魔法少女』なるものも、私の時代には存在しない概念だ」

    「さすが、ランスロットの姉貴は大人の余裕だねぇ。後輩として尊敬の念に絶えねぇぜ~」

    「大人、か……。そうだな、上手く演じられているといいのだが」

     ランスロットは涼やかに微笑んだ。

    「それにしても、やはり興味深いな、妖精の魔法は。
     様々な時代から魔法少女の才に溢れた子を召喚するとか。
     そんな発想、考えたこともなかった……」

    「そっか~?
     『戦国自衛隊』とか『十二国記』とか『レイアース』とか、違う時代だったり、異世界だったり、あることね~?」

    「ゼロ魔もそうだし、それこそそれぞれが違う時代なんてこの前発売された『Fate』がそうですよ、聖杯戦争ですよ、聖杯戦争!」

    「うーん、私にはダーマットも、マーリンも、何を言っているのかさっぱり分からない……」

     ランスロットは曖昧に微笑んだ。

  • 782◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 21:50:16

    「ロンギヌスは、二人の言っていることが分かるかい……?」

     ランスロットは、前を歩く、小柄でボディースーツを纏った少女に声をかける。

    「……異世界召喚といったら、『小説家になろう』だ……」

     ロンギヌス、と呼ばれた少女は振り返ることなく、ぽつりと呟いた。

    「「何それ?」」

     と、ダーマットとマーリンの言葉がハモる。

     その様子にロンギヌスは鼻を鳴らした。

  • 783◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 22:01:55

    「……お前達には、緊張感が無いのか。
     今まで倒してきた悪堕ち妖精や、魔法生物ではない……いよいよ本家本物の、冒涜の竜だ。
     遠足の話とか、アニメの話とか、後でやれ……」

    「緊張してれば強くなるのかよ。むしろ色んな時代の少女の中で、俺達が一番強いってことは、この『余裕』が大事なんじゃねーの? 戦国時代から来た奴とかいたけど、あまり強くなかったじゃん。平和な日本でぬくぬく暮らしてた俺らの方が強いって、それって要するに、魔法少女はピリピリしてる奴より、自然体でだらだらしてる奴の方が強いんだぜ、きっと。
     ランスロットの姉貴もそう思うだろ?」

    「そんな単純な話でもないようだが……どちらかというと『魔法使い』『魔法少女』なるものへのイメージ力が重要な気がするね。
     うん、この戦いが終わったら、調べてみるのも面白そうだ」
     

  • 784◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 22:23:44

    「それにしたって、限度はある……」

     これだから陽キャは嫌いなんだ……とロンギヌスは小声で文句を言った。
     陽キャ、という言葉も、やはりダーマットやマーリンには聞き覚えがないらしく、顔を見合わせている。

    「■■■を見習え。黙々と前へ進んでいるぞ……」

     ロンギヌスの言葉に、三人は前を向く。
     五人の集団の先頭を行くのは、これといった特徴のない少女であった。
     ランスロットのような大剣もなく、ダーマットのような槍も持っていない。
     恰好も魔法少女らしいフリルをあしらったドレスだが、五人の集団の中ではそう目立つものではなく、魔法少女と聞いて、万人が想像するものを、そのまま体現したかのような格好だった。

     

  • 785◆xaazwm17IRZa24/08/23(金) 22:23:54

     ランスロットは足早に歩を進み、先頭の少女に追いつく。
     影が射したその顔に、確かな憂いを見つけたからだ。

    「どうしたんだい、■■■?
     やっぱり、不安?」

    「……違うんです、ランスロット。
     メリアを置いてきたことを、後ろめたく思いまして……」

    「彼女は……優しすぎる。根本的に、戦闘に向いてないんだ。
     『冒涜の竜』の支配魔法は、私たち魔法少女には効かない。
     それでも、相手は竜。単純なフィジカルだけで、今まで戦ったどんな敵より強者のはずだ。
     はっきり言って……メリアを守る余裕が無い」

    「ええ、ですが、今までずっと旅をしてきたのに……」

    「……少しだけ離脱しただけだ。冒涜の竜を倒したら、皆で平和になった妖精郷を旅しよう。メリアも一緒にね」

    「……それは、良い考えですね、ランスロット」

     

  • 786二次元好きの匿名さん24/08/23(金) 23:51:49

    相手が強いとピリピリしてしまう悪循環
    やはり常日頃の鍛錬が大事だな

  • 787二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 00:35:57

    メンダシウム、メリアの成れの果て説…?仮にそうなら自分の分身いじめがグロくなるな…

  • 788◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:11:06

    (まったく、奇妙なものだな)

     と、ランスロットは内心で思う。

    (こんな、普通の女の子が『始まり』だなんて)

     一番最初に、妖精郷に召喚された女の子。
     そして、今までの戦いで最も戦果を挙げた魔法少女。
     妖精たちや、後続の魔法少女たちは彼女を様々な名で呼ぶ。
     英雄、勇者、始まりの魔法少女。

     何度か、此処に来る前の話を聞いたことがある。
     ■■■もまた、ダーマットたちと同郷であり、時代は更に未来、らしい。
     市井を生きる、普通の少女だったようだ。勉強も普通、運動も普通、人間関係も普通。強いて個性をあげるなら、魔法少女のアニメが好きだった。
     そんな凡俗な少女。にも関わらず少女は妖精郷で活動する魔法少女の中で最強で、文句なしのトップメンバーが集まったこのパーティーでも、なお突出していた。

  • 789◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:15:52

    (彼女ならばあるいは、冒涜の竜を倒してしまうかもしれない)

     竜の強さは計り知れない。
     支配の魔法は魔法少女には通じないことから、明確に相性は有利だが、それを差し引いても肉体性能の差、竜としてのフィジカルは驚異的だとランスロットは推測する。
     実際に冒涜の竜と接触した者は居ない。
     いずれも、其れと相対する前に支配され、殺し合いの果てに死んだのだから。

     だが、妖精たちに伝わる古来からの伝承によると、元々この世界を創り出したのは竜であるらしい。
     いわば、創造神。
     それが何故妖精たちを苦しめるのか、ランスロットには計り知れない。

  • 790◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:27:56

     と、前を歩く■■■の足が止まった。

    「どうしたんだい?」

    「いえ……」

     ■■■は何も言わず、冒涜の竜が潜むという火山の頂きを見上げる。

     後ろを歩いていた三人も足を止め、皆無言で自分たちの行きつく先を見上げた。

    「もうすぐ着くなぁ、おい」

     ダーマットは低い声色で言った。

    「ゴールですよ、ゴール!」

     マーリンが上ずった声をあげる。

     ロンギヌスは、口を開かなかった。

    (ああ、そうか……私たちは)

     最終決戦の前に、妙に浮ついていた三人。
     麓に残してきたメンバーを気にする■■■。

    (怯えているんだな)

  • 791◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:28:06

     今まで戦ってきたのは、支配の魔法で狂ってしまった妖精であり、あるいは危険な魔法生物であった。
     今から戦うのは敵の親玉。世界を一つ滅ぼそうと企む巨悪である。

     足が竦み、平常心を失い、思考が鈍る。

    「……ざまぁないぜ。魔犬殺しの英雄、ダーマット様がすっかりビビっちまってる。
     でもな、仕方ねぇだろ。ランスロットの姉貴はよくわかんねーかもしれねえけどよぉ、俺はこっちに召喚される前は、ただの不登校児だったんだぜ?
     それがとうとうドラゴンとバトるとこまで来ちまった。
     ……平常心じゃ、いられねぇよな」

  • 792◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:30:45

     ダーマットの弱音に、マーリンとロンギヌスは、渋々ながら頷いた。

    「私も、怖いです」

     と、最強は言った。

    「戦うときは、いつも怖い」

    (それは、間違ってない。けど、怖がり過ぎるのもよくない。
     ここは大人として、最年長として、フォローに周るべきか)

     ランスロットがそう思い、皆を鼓舞する言葉を紡ごうとする前に、でも、と■■■は続けた。


     

  • 793◆xaazwm17IRZa24/08/24(土) 02:30:57

    投下を終了します

  • 794二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 07:02:00


    冒涜と違ってパラさんの魔法は人間にもバッチリ効いてるし、プロフィールにも一族の"末裔"って書いてあるしで
    本人(本竜?)よりもその子孫か転生先っぽい雰囲気

  • 795二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 08:58:54

    このレスは削除されています

  • 796二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 12:52:42

    メンダシウムの設定からこの後仲間たちとメリアがどんな結末を迎えるのか既に薄々察せて悲しい
    メリアちゃん、どんな気持ちでパンデモニカと契約して記憶を消したんだろうね?

  • 797二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 13:06:16

    始まりの魔法少女、名前が伏せ三文字なのはもう決まってるのか、既に出てる名前だからなのか

  • 798二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 17:04:00

    始まりの魔法少女は魔法国視点でのはじまり、つまり現実の時間軸だとこれから誕生する可能性がありそうなのよね…

  • 799二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 20:14:49

    おそらくまだ一切情報が出ていないと思われるマーリンに期待
    どんな魔法使うのか

  • 800二次元好きの匿名さん24/08/24(土) 21:30:07

    この時点ではこんな感じの始まりの魔法少女ちゃんが竜末代まで殺すべしブチキレドラゴンスレイヤーシステムになるのが確定してるのがおそろしい

    あと色々と普通な始まりちゃんが特別性のある(心臓とか)バーストハートに宿ったの興味深いね

  • 801◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 01:48:38

    投下します

  • 802◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:04:47

    「でも、皆さんと一緒ならきっと乗り越えられる。私は、そう信じています」

     さぁ、行きましょうと、■■■は声をかける。

    (敵わないな……)

     実力だけではない。仲間たちを引っ張る力が、■■■にはある。
     ランスロットには持ち合わせていないものだ。

    「へへっ、■■■ちゃんがそう言うなら仕方ねぇなぁ~」

    「私はビビッてませんよ! 大魔法使いマーリンは怖がったりしません!」

    「……ふん」

     ダーマットも、マーリンも、ロンギヌスも、三者三様の反応を示しながらも、■■■の後に続く。

    (私たちなら、きっと勝てる)

     世界を平和にして、仲間たちと妖精郷をのんびり観光する。
     そんな予定を立てながら、ランスロットも仲間たちの後に続く。

    「ああ、そうだ」

     と、ロンギヌスは振り返った。

     
     そして、槍をマーリンの胸に突き刺した。

  • 803◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:15:01

     マーリンの背を突き破って、穂先が飛び出した。

     ランスロットは、動けなかった。
     槍が引き抜かれ、即死したマーリンがその場に倒れても、ランスロットは動けなかった。

    「っ……! テメェっ! ロンギヌスっ!」

     ダーマットは槍をロンギヌスへ向け、突進する。
     ロンギヌスは柄で受け止め、衝撃を殺しきれず、吹き飛ばされる。

    「竜の手下だったんだな、絶対許さねぇ!」

     そのままダーマットは槍を振り上げ——■■■に振り下ろす。

    「ま、待て!」

     間に割って入ったランスロットは、大剣で槍を受け止める。

    「どけ、ランスロット! この裏切り者を、ぶち殺してやる!」

    「な、何で■■■にまで攻撃するんだ!? 裏切ったのは、ロンギヌスだろ!?」

    「俺ははっきり見たぞ! その女、ロンギヌスにアイコンタクトを送ってやがった! こいつらグルだったんだよ!」


     

  • 804◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:21:05

    「そんな馬鹿な……!」

    (一体何が起きているんだ? 私は、いったいどうすれば……)

    「……ダーマット、それがお前の本性か!」

     ロンギヌスが体勢を立て直し、ダーマットに挑みかかる。

    「冒涜の竜に辿り着く前に、不穏分子を始末したのは正解だったな! 裏切り者をもう一人炙りだせた!」

    「抜かせ! 裏切り者はてめーだろうが!」

    「やめるんだ、お前達! 落ち着け!」

     ダーマット、ロンギヌス。何れも強者。二人の戦いに割って入り静止させるなど、ランスロット一人では不可能。

    「待ってください! 争うのはやめてください!」

  • 805◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:30:11

     しかし、この場には最強が居る。
     互いの穂先を握り、■■■は顔を悲痛に歪めながら二人に問いかける。

    「いったいどうしたと言うんですか!? お、落ち着いて話をしましょう! それに、まずは皆でマーリンさんの治療を……!」

    (いや、マーリンは死んでしまった。白兵能力はともかく、相手を弱体化させることなら、魔法少女でも随一の使い手だったのに……。
     ……■■■だって、マーリンがもう死んでいることは、気づいているだろうに)

     甘いな、と思った。

     ランスロットの足は動いた。
     最年長として、唯一の大人として、為すべきことを為そうと思った。

     ずぷり。
     最強の背に、ランスロットや刃をねじ込んだ。

    (■■■は甘い。優しすぎる。対冒涜の竜戦では、その甘さが仲間の足を引っ張るかもしれない。——大人として、ここは排除するべきだ)

     ランスロットの影が歪に蠢いた。
     それは、竜の姿を象っていた。

  • 806◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:37:27



     目を、覚ます。
     抜けるような青い空が、視界いっぱいに広がっていた。

    (私は、一体何を……)

     ランスロットは、ゆっくりと身体を起こした。
     全身に痛みが走っている。
     纏っていた鎧が変形し、穴が開き、血で汚れている。

    (何を……していた……?)

     背後から■■■を刺した。
     そこから先は泥沼だった。
     ダーマットの顔を斬りつけたことは覚えている。
     ロンギヌスの腹を殴打したことは覚えている。
     蹲った■■■に大剣を何度も突き刺したことは覚えている。

     ダーマットの槍で右目を貫かれたことは覚えている。
     ロンギヌスの槍で右手首を持っていかれたことは覚えている。

     右目を撫でる。右手首に視線を送る。
     どちらも、ある。

    (本当に、何があったんだ……?)

  • 807◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 02:37:43

    短いですが、投下を終了します

  • 808二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 08:16:00

    とりあえずマーリンの魔法がデバフに特化してることが分かった
    分かったはいいがそれどころじゃない

  • 809◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 14:42:06

    投下します

  • 810◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 14:49:30

     ランスロットは周囲の魔力を探り、残された痕跡を感じ取った。

    (マーリンだけじゃない。ロンギヌスも、ダーマットも、ここで死んでいる……)

     魔法少女が死亡すると、肉体は消滅しても、その魔力の痕跡は残る。ほとんどの魔法少女はそれに気づけないが、ランスロットは魔力の探査に長けていた。

    (だが、分からない……どうして私たちは、殺し合ったんだ……?)

     渦中にいるときには合理的な理由があったように思えた。しかし、今になって振り返ると、その理由はあまりにも歪んでいた。

  • 811◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 14:57:29

    (……思考を狂わせて、殺し合いをさせる。
     心当たりはある。だが……ああ、クソ、そういうことか……っ!)

    「冒涜の竜……! お前は、最初から魔法少女を支配できたんだな……!
     今までそれをやらなかったのは……私たちに希望を持たせて、弄ぶために、わざと……!」

    全ては茶番だった。 魔法少女は特別な存在などではなかった。 ただ、竜の楽しみのために支配されることなく成長させられ、ここまで辿り着かされた。 ——そして、妖精たちと同じように、竜に辿り着く前に同士討ちで命を落とす運命にあったのだ。

  • 812◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 15:05:36

    「ふざけるな……私たちは、一体、何のために……!」

    妖精郷は救えなかった。 冒涜の竜は依然として健在で、ランスロットもいつ支配されるか分からない状況だ。

    希望は、どこにもなかった。

    ——本当に?

    (■■■は……?)

    ダーマットとロンギヌスの死は残滓から明らかだった。 しかし、■■■が死亡したことを示す残滓は見つかっていない。

  • 813◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 15:11:42

    (■■■はまだ、生きているのか……?)

     ■■■に大剣を突き刺した感触は、今もはっきりと残っている。いくら■■■が強いとはいえ、それは致命傷のはずだ。

    (生きていてくれるのか……?)

     ランスロットは必死に魔力の痕跡を探し続けた。トップクラスの魔法少女による殺し合いで四人の魔力が散乱している状態だったが、身を屈め、一滴の水を求める遭難者のように、唯一生き残った仲間の痕跡を追い求めた。

    (あった……)

     か細く、今にも途切れそうな痕跡が残っていた。ランスロットはその痕跡にしがみつくように、追いかけた。

     蜘蛛の糸よりも細い、微弱な魔力の残滓。その糸は——火口へと続いていた。

  • 814◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 15:22:42

     ランスロットは疲労困憊の身体を引き摺りながら、その糸を辿った。魔力はあまりにも儚く、やはり致命傷だったことが明らかだった。それでも、使命を果たそうと、■■■は一人、竜の元へと向かった。

    (■■■……君は、君という子は……)

     魔法少女は竜に支配される。それを考慮しても、致命傷を負った体で竜の膂力に立ち向かうのは無謀だ。まるで死にに行くようなものだった。

    (今更追いついたところで、きっと全ては手遅れだ……)

    それでもランスロットは足を止めなかった。 仲間の仇を取るためか。 ■■■を助けるためか。 それとも、命を投げ出すためか。

    (ああ、どんどん薄くなっていく……きっと■■■は、火口に辿り着けなかった……途中で力尽きて……)

     ■■■の無念を想い、ランスロットは目尻を拭った。そして、ついに糸は途切れた。

    (■■■は、ここで死んだ……)

     火口までおよそ200メートルの距離があった。万全ならば、すぐにでも詰められる距離だが、■■■にとっては遥かに遠いものだっただろう。

    (ああ、■■■。私が、君の分まで……)

     ランスロットは足を進めた。 ——■■■の痕跡が先にあった。

     あまりにも濃密で、あまりにも異質で、あまりにも強大な。

    「何だ……これは……!?」

  • 815◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 15:31:08

     魔力の質から、これが■■■のものであることはすぐに理解できた。

     だが、違う。蜘蛛の糸より細いはずの魔力が、大樹のように太くなっている。

    (回復したのか……? いや、万全の時の■■■と比較しても、明らかに上回っている……! ■■■に何が起こったんだ……)

     ランスロットは足早に痕跡を辿った。もはや探る必要すらなく、火口に近づくにつれて、魔力はますます濃くなっていく。

     そのあまりにも巨大な魔力量に、ランスロットは戦慄を覚えていた。一歩一歩、火口に近づくたびに■■■の魔力は際限なく上昇している。

     残滓の後を追うだけで、ランスロットの身体は熱に襲われた。火山の熱気や傷の痛みを遥かに上回る——■■■の怒りが、ランスロットには鋭敏に感じ取れた。

    (君は一体……どうなってしまったんだ?)

     そして、ランスロットは——火口に辿り着いた。

  • 816◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 15:31:39

    投下を終了します

  • 817◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 17:56:58

     投下します

  • 818◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:09:15

     冒涜の竜、その姿を見た者はいない。

     討伐に向かった者たちは、いずれも辿り着く前に命を落としてしまったからだ。

     ただし、古くからの伝承が残っている。

     黒い鱗、広い翼、街を覆い尽くすような巨躯——そして、七つの首。

    「これが……冒涜の竜……」

     吹き上がる熱気に燻されながら、その竜はその身を横たえていた。

     爪先だけで、魔法少女の体躯をはるかに超えている。

     もし仮に、本当に魔法少女に『支配』が効かなかったとしても、この竜に勝つことができたのか——そう疑わずにはいられないほど、冒涜の竜は巨大だった。

    だが。

     

  • 819◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:17:10

    (死んでいる……)

     竜の身体は傷だらけだった。古傷ではない。今しがたつけられたばかりのものばかりだ。
     強い力で殴打され、抉られ、斬り刻まれていた。
     周囲には、竜から剥落した鱗が飛び散っている。
     
     竜の翼はへし折られ、右足は千切り取られている。
     七つの首は全て切断されており、泣き別れになった頭部がそれぞれ、苦悶の表情を浮かべながら硬直している。

    (そうか……■■■……)

    「勝ったのか」

     たった一人で、冒涜の竜を殺してのけた。
     偉大な行為に、しかしランスロットは喜ぶ気にはなれなかった。

     

  • 820◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:29:07

     魔力の残滓を見れば分かる。
     ここで、死闘があった。
     もはやランスロットでは想像もつかない規模の戦いがあり、■■■は冒涜の竜を討伐した。

     だが、■■■もまた、無事では済まなかった。

     ランスロットの常識を遥かに超えた現象が起こり、■■■は死の淵から強化……否、『覚醒』し、邪竜を討った。そして、英雄はこの世界から姿を消した。

    (生き残ったのは、私だけ、か……)

     

  • 821◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:29:18

     これで、妖精郷は救われた。魔法少女たちは勝利したのだ。
     にも関わらず、ランスロットの心には、苦い敗北感が残った。

     改めて、仲間の仇であり、旅の目的であり、世界の危機であった竜の、死骸を眺める。

    (……ん?)

     違和感があった。七つの首を切り離された、邪竜。
     徐々に粒子化が始まっている、完全に絶命しているはずだ。

     だが。

    (首の数が、合わない)

     切り離された、首と胴。
     散らばる頭部は、四。
     冒涜の竜は、伝承では七つ首だったはず。
     三つ、足りない。

    (戦闘の渦中で消失したのか……)

     それとも……。
     ランスロットの胸中に、徐々に不安が広がり始めていた。

  • 822◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:35:06



     かくして、『始まりの魔法少女』は『冒涜の竜』を討伐した。
     暗黒の時代は終わった。妖精たちは、この功績を讃え、戦闘職を貴族妖精から魔法少女へと移した。
     かくして妖精郷は『魔法の国』へと名前を変え、新たな歴史を始めることとなる。
     そして、魔法の国のただ一人の王、『魔法王』は、始まりの魔法少女の子孫から選出された。

     時代は流れ、伝説は変化していく。
     始まりの魔法少女の名は忘れ去られる。彼女と共に旅をした仲間も、その存在は風化していく。
     黒竜の恐怖と、それを倒した始まりの魔法少女の偉業だけが、後世に残っていく。

     全ては、過去となる。

  • 823◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:45:36



    「……以上が、私たちの旅の顛末だ」

     ランスロットの淡々とした語り口を、メリアは黙って聞いていた。
     目に涙を滲ませながらも、仲間たちの末路を必死に受け止めようとしていた。

    「……ごめんね、私は大人なのに、皆を守れなかった」

    「いえ、ランスロットさんが帰って来れただけでも、私は嬉しいです……。アロンダイトちゃんも、きっと喜びますよ」

    「……私も、メリアが無事で良かったよ……本当に」

     ランスロットたちが火山で殺し合っていたと同刻。妖精郷全域で、魔法少女は殺し合っていた。突如沸き上がった疑心暗鬼で、あるいは愛憎が暴走し、あるいは僅かに持っていた異常性が表出して。妖精をも巻き込んだ大殺戮の果てに、魔法少女はその殆どが命を落としていた。

     

  • 824◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 18:56:39

    「……せっかく、妖精たちから魔法を授けられたのに、私は何の役にも立てなかった。だから私は、もう少し妖精郷復興の、お手伝いをしようと思っています。………弱い私にできることは、それくらいだから……。
     ランスロットさんは、どうされますか」

    「私は——故郷に帰るよ。
     悪いが——妖精には、愛想が尽きた」

    「そう、なんですか……」

    「冒涜の竜が散々荒らしまわって荒廃した妖精郷で……誰が妖精郷を統べるか、水面下で各勢力が動き始めている。一番被害が少なかった北の王国が最有力だけど、南の王国は、生き残った魔法少女を戦力として囲い込み始めた。そして……西の王国は……あはは、■■■の子どもを立てるつもりらしい! ■■■に子どもなんか居なかったって、みんな知っているだろうにっ!」

     腹を抱えてランスロットは笑い始めた。
     

  • 825◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 19:02:07

     メリアはそれを、痛ましそうに見つめる。

    「……冒涜の竜が居なくなっても、この世界は平和になんかならないよ。
     私たちの世界と同じようにね」

     あの子たちの時代になっても、戦争は無くなっていないみたいだからね。
     ランスロットはそう言って、席を立った。

    「じゃあ、私はもう行くよ。
     あの剣は、アロンダイト辺りにでもあげといて。もう、私には必要ないから」

    「ま、待ってください、ランスロットさん!」

     メリアは、慌てて仲間を呼び留めた。
     ランスロットの捨て鉢な雰囲気は、臆病な少女に、勇気を奮い立たせていた。

    「元の世界に戻って、ランスロットさんはこれから何をするんですか?」

     自ら命を絶つつもりなら、絶対に引き留める。そんな覚悟と共に、メリアは問いかける。
     ランスロットは、皮肉気に笑いながら、振り返った。
     

  • 826◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 19:12:38

    「まだ、決めてないよ。
     でも、やらないことは、もう決めてる」

    「やらないこと……?」

    「私はね、君たちより年上で、君たちより古い時代から召喚された。
     だから、大人として振る舞ったんだ。この世界で知った『アーサー王物語』に登場する、騎士の名前を名乗ったりしてね。
     でもね、それは間違いだった。
     ダーマットが言っていたよ。魔法少女に必要なのは余裕だって。
     私はね、それはちょっと違うと思うんだ。
     必要なのは——子供であること」

     ■■■は誰よりも純粋だった。
     真っすぐで、正直者で、幼かった。

    「だから、——僕様は、大人にならない」

     そう言って、ランスロットはメリアに背を向けた。
     一度も振り返ることなく、彼女はメリアと別れ——二度と会うことは無かった。
     
     

  • 827◆xaazwm17IRZa24/08/25(日) 19:13:03

     投下を終了します

  • 828二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 19:29:06

    ……これが彼女のオリジンかぁ……

  • 829二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 19:30:36

    衣装や口調、それにスピードランサーっぽい子もいるせいか
    今の今までランスロット=クリックベイトのご先祖様だろうと思い込んでたのは自分だけじゃないと信じたい

  • 830二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 19:46:01

    マジックアイテム配布で魔杖ランスロットがかつての持ち主の手に収まったの運命…
    というか『非常に気難しい性格で誇り高い騎士道を持つ者にしか扱えない』はずなのに今現在扱えてる時点で…Oh…

  • 831二次元好きの匿名さん24/08/25(日) 23:24:53

    もうこの頃から呪いが始まってるんか…

  • 832二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 07:50:22

    一度死んでからの覚醒がまんまバーストハートと同じく現象だけど
    始まりの魔法少女自体に何か入り込んでない…?

  • 833二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 10:20:05

    伏線回収が凄すぎる…
    パラサイトドールは確定として竜の生首×3はそれぞれ誰になったのか…

    そして今回を踏まえてみるとデスマッチ第二試合の見え方も全然違って見えるし、テンガイが真美ちゃんと戦いにくかった理由も分かるような気がするな…

  • 834二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 10:35:21

    ランスロットとかメリアが数千年頑張ったのに対して
    ティターニアはたかだか27年で拮抗してくるの才能の差って残酷よな

  • 835二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 11:06:15

    テンガイの真の固有魔法は「湖の上を歩けるよ」だとすれば全知全能の方は何なんだ…と思ったけど理論上魔法をストックできるアロンダイトの力を借りてたり?
    現在の二人の関係性が気になる

  • 836二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 20:41:05

    3スレ目 933より

    >「貴女と戦っているとき——亡くなった友達の声が、確かに聞こえました」


    >それだけで、良かった。

    >テンガイは、目を見開いていた。

    >私に追い込まれていた時にさえ見せなかった動揺が、顔いっぱいに広がっていた。


    ここさあ!!!!!!!!(クソデカ大声)

  • 837二次元好きの匿名さん24/08/26(月) 23:47:02

    >>834

    才能というか強いてそうあろうとしてるものと自然な状態でそうあるものの差というか

    天然物って強いよね…って感じ

  • 838二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 07:34:50

    ランスロットの不安、ごもっとも過ぎる
    あり得る不安は魔法によって実現するからな…

  • 839二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 17:15:59

    このレスは削除されています

  • 840二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 18:24:59

    始まりの魔法少女の子供を王にした西の王国が今の魔法国なのかね

  • 841二次元好きの匿名さん24/08/27(火) 23:51:17

    以前のドレッドノートの強化を見るに一度精神的な弱体化をしてから再起すると強くなるっぽい?

  • 842◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:06:05

    投下します

  • 843◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:14:16

     人間というものは面白い、と常々パンデモニカは思っている。

     一般的に、人間は妖精と比べて脆弱で短命で低能である。
     
     にも関わらず、生み出す文化は妖精を圧倒している。
     
     例えば、岩を切り取り加工することなど、妖精は簡単に出来る。

     だが、それでピラミッドを作ろうという発想は、妖精からは出てこない。

     妖精郷のあらゆる文化は、人間世界の模倣に過ぎない。

     そんな、発想力に長けた種族である人間が、妖精の十八番である魔法まで扱えるようになったのだ。

     面白くならないはずがない。

     だからパンデモニカは魔法少女が好きだ。

  • 844◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:23:21

     あにまん市で開かれたバトルロワイアルは、パンデモニカを大いに楽しませていた。

    (一観客としては楽しんでいるが——運営としては辛いところだな)

     想像以上のペースで殺し合いは進行している。
     三日、あるいは四日はかかると思っていたが、このペースだと本日中に決着かもしれない。
     しかしそれはペースだけを見た場合。

    (断言はできないが、このままだとこのゲーム、停滞するな)

     市内各所で激闘があった。多くの魔法少女が命を落とした。
     その中には、他者に積極的に襲いかかる、『ゲームに乗った者』、『マーダー(殺人者)』も含まれている。

     第一放送前にクライオニクスが、放送直後にヒートハウンドが、日が昇ってからはブレイズドラゴン、ドレッドノート、アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッドと、参加者を減らし、ゲームを進行させることを期待していた者が立て続けに脱落した。

     
     
     

  • 845◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:40:39

     それだけならば、まだいい。どのみち、優勝者は一人なのだから。

    (問題は、未だティターニアやジャスティスファイアが脱落していないってことだ)

     特に、ティターニアは強い。パンデモニカと同格であるメンダシウムと互角に渡り合ったその実力は、参加者でも最強格だろう。

     本来なら、ティターニアと並ぶ実力者、ブレイズドラゴン、テンガイ、スピードランサーとゲーム内でぶつけ合わせ、共倒れを狙っていた。

     だが、ブレイズドラゴンは死に、テンガイは大幅に弱体化、スピードランサーもまた、病院内での戦いを見る限り、ゲームに乗っているとは言えない状況である。

     ハニーハント、ハイエンド、ハートプリンセス辺りに期待したいし、大物喰いを果たすポテンシャルはあると思うが、展開次第では彼女たちの方が対運営魔法少女に包囲され、各個撃破される可能性もある。

     開幕で提示した餌に釣られて、ハイエンドのように蘇生のために戦う魔法少女が何人出てくるか、これも未知数である。
     
     あるいは期待に反して殺人をする気配が無いジャック、野蛮なノーブル・サヴェージ、危険な人格を備える慈斬や千郷が、大暴れをするかもしれない。

     もう少し静観するのも手だ。というか、一観客としては例え停滞してもいいから、このドラマに手を加えたくはない。
     

  • 846◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:54:51

     だが、パンデモニカは運営側の魔法少女であり、この儀式を完遂するという契約を交わしている。

    「まぁいいさ。不自由なのも楽しいからね」

     悪魔らしい、残忍な笑みを浮かべる。

     モニターに映るのは、学生街の魔法少女たち。テンガイ以外はそれぞれがコンビを組んで行動している。そして、優勝を目指しているのはテンガイ一人であり、当人は七海真美との戦いで戦力を大幅に低下させている。

    (どこまで上手くいくかは分からないが)

    『あー、幹部の皆さん、聞こえるかな。パンデモニカだ。儀式が停滞していることは、君たちも重々承知だろう。そこでだ——テコ入れのために、学生街の魔法少女を皆殺しにしようと思うんだけど、どうだろうか?』

     

  • 847◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 01:55:17

    投下を終了します

  • 848◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 02:06:27

    ティターニア&千郷の刺客


    ■グネ■・■スト■ル

    dice1d15=12 (12)

    1ヴェンデッタ /2アロンダイト/3ゲルニカ/4フロストハウンド/5ナイナイホテプ/6勇者/7グレンデル/8トート・アリア/9パトリシア/10デッドマンズ・ハンド/11パンデモニカ/12ああああ/13オートクチュール/14魔法王/15エネミー

  • 849◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 02:11:08

    ミストアイ&慈斬の刺客


    dice2d15=10 10 (20)

    1ヴェンデッタ /2アロンダイト/3ゲルニカ/4フロストハウンド/5ナイナイホテプ/6勇者/7グレンデル/8トート・アリア/9パトリシア/10デッドマンズ・ハンド/11パンデモニカ/12ああああ/13オートクチュール/14魔法王/15エネミー

  • 850◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 02:12:03

    テンガイの刺客


    dice1d15=15 (15)


    1ヴェンデッタ /2アロンダイト/3ゲルニカ/4フロストハウンド/5ナイナイホテプ/6勇者/7グレンデル/8トート・アリア/9パトリシア/10デッドマンズ・ハンド/11パンデモニカ/12ああああ/13オートクチュール/14魔法王/15エネミー

  • 851◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 02:12:57

    ワンフロムアウター&抜刀金への刺客


    dice2d15=9 15 (24)


    1ヴェンデッタ /2アロンダイト/3ゲルニカ/4フロストハウンド/5ナイナイホテプ/6勇者/7グレンデル/8トート・アリア/9パトリシア/10デッドマンズ・ハンド/11パンデモニカ/12ああああ/13オートクチュール/14魔法王/15エネミー

  • 852二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 06:23:31

    デッドマンズハンドとアグネア・ミストリル、満を持してついに登場か…学生街編②も大作になりそうだ

  • 853二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 06:47:06

    パラさんがパトリシアに始末を依頼したのはOFOで確定かな
    そしてテンガイに単独で差し向けられたエネミーの刺客は影女かオムモグあたりがくる感じだろうか…

  • 854二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 07:05:07

    今のところ幹部級の中でパンデモニカだけ由来や出自が分からず過去編にも居ないのすごく違和感…どのタイミングでメリアやアロンダイトの保護者ポジに収まったんだろ

  • 855二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 07:43:24

    エネミー2体も来るのか…エネミーと言っても強いからな…

  • 856二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 08:21:14

    生存値的にワンフロムアウターと抜刀金の二人(+α)を実質パトリシア単騎で二タテするのか
    OFOの正体を知ってるであろうパラサイトドールが直々に任せるだけあってやはり猛者なのか

  • 857二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 09:16:24

    この人数を全員まとめて描写するのが連続するとスレ主の負担がヤバそうだし流石に長引きすぎるんでここで少人数戦を複数やるのは良いアイディア

  • 858二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 09:16:39

    敵も味方も最高戦力でまさに頂上決戦って感じだな…
    そしてこの感じだとパトリシア以外の幹部の戦闘は最終決戦までお預けか

  • 859二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 09:44:00

    刺客側も登場する時は生存ダイス振るんだっけ?

  • 860二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 12:23:35

    どうせ巻き込まれても死なないからってバ火力対決に味方バーサーカーの制御役かサポーターとして放り込まれたであろうああああちゃん可哀想で可愛い
    ダイス次第で死んじゃうけど

  • 861◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 18:46:14

    今のうちに(?)エネミーの選出と刺客陣の生存ダイス振ります


    テンガイへの刺客(エネミー)

    dice1d13=10 (10)

    1タイプ・ケルベロス/2おいていかないで/3巨大化昆虫/4パラサイト・エネミー/5影女/6オムモグ/7ブレーン・スイーパー/8ゴリアテ・ネオ/9CENSORED(修正済み)/10大君蟹王/11ダークハンター/12ドミナートル/13冒涜の竜

  • 862◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 18:47:44

    抜刀金&OFAの刺客(エネミー)


    dice1d12=3 (3)

    1タイプ・ケルベロス/2おいていかないで/3巨大化昆虫/4パラサイト・エネミー/5影女/6オムモグ/7ブレーン・スイーパー/8ゴリアテ・ネオ/9CENSORED(修正済み)/10大君蟹王/11ダークハンター/12ドミナートル

  • 863◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 18:49:43

    ■グネ■・■スト■ルdice1d100=23 (23)

    ああああdice1d100=46 (46)

    デッドマンズ・ハンドdice1d100=81 (81)

    パトリシアdice1d100=30 (30)

  • 864二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 19:26:14

    強キャラ二人がわりと危険な値で死にそうなキャラが安全そうな数値を出すダイスの妙

  • 865二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 19:40:15

    スレ主さん曰く「運営側のキャラは通常時は死ににくいけど参加者側との戦闘では死にやすい」とのことなので生き残れる可能性が高いと言えるのはデッドマンズ・ハンドだけかな

  • 866二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 19:54:57

    蟹魔の姐御かて魔法少女歴21年の大ベテランやぞ

  • 867二次元好きの匿名さん24/08/28(水) 20:09:00

    デッドマンズ・ハンドの魔法はあえて縛りを設けて尖った性能を底上げしてるのがハンターハンターとか呪術廻戦っぽくて好き(縛りの抜け穴があるのも)
    是非とも初対面時にはゲンスルーよろしく自分の魔法を大事な箇所は隠しながらペラペラ解説して欲しい

  • 868◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 23:42:29

    投下します

  • 869◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 23:48:17

    「部長が……死んだ?」

     名簿を見た、千郷の第一の感想がそれだった。

    (嘘……部長って、死ぬんだ……)

     星月夜。魔法少女部部長。
     気分屋で嘘つき、自由に姿を変えることができ、年齢さえ不詳な怪人物。

     そんな彼女が、もう居ないのだという。

    (本当に?)

     とも、思う。
     デストロイヤー状態なので記憶は曖昧だが、確かにティターニアだったりそれと互角に戦う奴だったりと、この殺し合いは魔境で、バトルが強いタイプではない部長が死ぬのも、あり得ない話ではない。

     けれど、やっぱり、部長が死んだなんて信じられないのだ。

  • 870◆xaazwm17IRZa24/08/28(水) 23:54:08

    「……信じたくない気持ちは分かるわ」

     と、ティターニアは千郷の背を摩った。

    「私も、教え子が死んだなんて、受け入れたく無いもの……」

    「ティターニアさん……」

    「けど、人は簡単に死んでしまうのよ……魔法少女だって例外じゃない」

     どれだけ人知を超越しても、魔法少女は人なのよ、とティターニアは言った。

    「私たちに出来ることは、遺志を受け継いで、前に進むだけ……」

     ティターニアは静かに語り掛ける。

     千郷は頷いた。

    (綺麗ごとじゃん、それって)

     静かにデストロイゲージを溜めながら。

  • 871◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:00:29



    「嫌だ」

     と、千郷は言った。中学に上がってすぐの頃だ。
     魔法少女であることを一目で看破され、アルセーヌと名乗った謎の魔法少女に勧誘された。
     魔法少女部に入らないかという誘いに、千郷はNOを叩きつけた。

     しがらみが嫌いで、閉塞が嫌いで、全部ぶっ壊すために、魔法少女になったのだ。
     どうしてわざわざ新たなしがらみを作らなければならないのか。

    「私、全部ぶっ壊したいの、だから、魔法少女部なんて……」

    「いいよ、ぶっ壊して」

    「……え?」

    「魔法少女部は君が全部ぶっ壊すことをサポートする。
     それぞれのやりたいことを応援し合うのが、魔法少女部の役割だからね」

    「でも、ぶっ壊すのって——悪いことだよ?」

  • 872◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:06:17

    「悪いことの、何がいけないんだい?」

     千郷は、言葉に詰まった。
     中学に上がったばかりの彼女では、その問いへの答えが思いつかなかった。

    「悪いことすると……警察に、捕まるから」

    「捕まらないように皆で助け合おう」

    「あ、あと、人に、迷惑かけちゃうから」

    「魔法少女なんて存在が迷惑だろ」

    「えぇ……」

     千郷は、黙ってしまった。
     言いたいことがあるのに黙っていたことは数えきれないほどあった。
     けど、何も言い返せなくなって、黙らされてしまったのは初めてだった。

    (なんか、この子、いいな)

     堕落へ誘う蛇。
     千郷は、アルセーヌにそんな印象を持った。

     かくして、天城千郷は、魔法少女部のメンバーとなったのだった。

  • 873◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:14:41



     ティターニアは正道だ。正義の味方で、学校教師だ。
     だから、だろうか。
     千郷は、ティターニアに相容れないものを感じていた。
     デストロイヤー状態の時は、ぶっ壊しがいがあるので好感を持っていたが、素面の今では堅物で理想主義な感じが相容れないと思った。

     まぁ、仕方ないのかなぁ、と千郷は思う。
     千郷は、属性としては『不良』、あるいは『アウトロー』に位置している。魔法の国に一度逮捕された前科持ちだ。
     大人は苦手だ。

    (もし、魔法少女部のみんながティターニアに会ったら、全員説教されそうだなぁ……)

     怪盗、ハッカー、ヴィジランテ。
     そして、破壊者。

    (まぁ、でも、だからといって襲う勇気も気概も無いわけですが……)

     相容れないから襲いかかる、といった危険な嗜癖があるわけではない。
     デストロイゲージが溜まればまたエネミーやゲームに乗った魔法少女をぶっ壊しに向かうが、今はティターニアの元で安全を確保するべきだろう。

    「さ、次は支給されたマジックアイテムを共有しましょうか。
     私のアイテムは巨大ロボで——危ないっ!」

  • 874◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:22:57

     一瞬で、ジャージの女は、気品溢れる鎧の騎士に姿を変えた。
     そして、即座に天井に向かって剣を振りかざした。

     放たれるのは、光の奔流。

    (まさか、急にこのマンションを破壊したくなったの……!?)

     一気にティターニアへの共感と好感度を爆上げする千郷。
     だが、ティターニアの狙いは破壊ではなく——相殺にあった。
     屋根を投下し、上階の住居スペースを光で満たしながら、上昇していく『マジカル・ストラッシュ』。
     それは、マンションの屋上をも通過し。

     ——天より放たれた、業火と衝突した。

     

  • 875◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:37:36



    「ほ、本当に見ているだけでいいんすよね!? バトルとか一切やんなくていいんですよね!?」

    『ああ、ああああ、君は見ているだけでいい。
     特等席で最強VS最強を見物できるんだ、羨ましい限りだよ』

    (じゃあお前が来いよ、パンデモニウム!
     くそ、くそ、くそォ!
     何で私ばっかりこんな目に……!)

     地団太を踏みながら、帽子の少女……運営側魔法少女ああああは、光と業火の衝突を眺める。
     あにまんマンションで蠢く、初見殺しで、理解不能で、奇々怪々な脅威。
     それらと比較し、上空に佇む其れは、あまりにも分かりやすい存在だった。

     『魔法国最強』アグネア・ミストリル。

    (大丈夫、私の魔法なら、拒絶できる……!
     こんなところで死んでたまるか……!)

     ああああは悲壮な決意を固めていた。

  • 876◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:45:52

    「千郷ちゃん。これ、ロボを動かすキー。これ使って、周囲の人たちをすぐにここから避難させて。多少脅してもいいし、強引に連れ出してもいいから。任せたわよ」

     と、早口で指示を出すと、ティターニアは窓から外に出て、そのまま屋上の壁を駆け上って行ってしまった。

    (……え? ロボ? どういうこと?)

     千郷の思考は追いつかない。

    (まず、ロボってどこ?)

     部屋の中を見回すが、ロボらしきものは置いてない。

    「ティターニアさん、ロボって何処ですかー」

     窓から身体を乗り出し、ティターニアに声をかけるが。
     屋上から響く轟音で、掻き消されてしまう。

    (はぁ、そういえば、小学生の時も、先生に学級委員押し付けられそうになってさぁ、私、きっとそういう星の元に産まれてきたんだ……)

     

  • 877◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 00:52:09

     とりあえず、変身した。
     ゲージはまだ溜まっていないが、強いことに越したことはない。
     壁の駆け上りかたは良く知らないので(壊し方は知っている)、普通にドアを開けて、外に出る。
     何とか屋上に上がり、ティターニアにロボの場所を聞かねばならない。

     そう思ったのだが。

    「あ、これ?」

     ドアの前に、1m程の、鋼色のロボットが立てかけてあった。
     鈍器としては使えそうだが、これを使って避難を呼びかけろ、とはどういう指示なのか。ロボットを使った寸劇でも披露すればいいのか。

     とりあえず、渡されたキーを、鍵穴らしき場所に差し込む。

     突如、ロボットは巨大化を始めた。
     2m、3mを超え、頭がコンクリを突き破り、足がコンクリを踏み抜く。

  • 878◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 01:05:10

     ロボットが10mでその成長を止めたとき、足元では車がスクラップにされており、マンションの一部は崩れ去っていた。
     下敷きになった住民は居なかったが、不幸中の幸いか。
     そんな惨状を前にして、千郷の口角は徐々に上がっていき。

    「ぎゃはははははははは! やっぱり破壊は最高だぜぇ~!!!」

     一気にロボットの頭頂部まで飛び上がると、千郷の身体は瞬時にロボットの体内、コクピットにワープする。

     レバーを握った千郷は

    「ぎゃは!」

     鉄の拳を振り下ろし、マンションの一角を破壊する。

    『ぎゃはははははは! 今からこのマンションは俺様がぶっ壊す! 死にたくない奴はとっとと避難するんだな~!』

     ロボットから響く暴力的な宣言に、住民たちは我先にとマンションから飛び出し、避難を始める。

    『ぎゃははははは! そうだそうだ、破壊されたくない奴はとっとと逃げろ~! おいこらそこのおっさん、撮影してる場合じゃねぇだろ! 俺様に踏みつぶされたいのか!』

     着々と避難が進んでいく光景を見下ろしながら、千郷はコクピット内で満足そうに頷く。

    「指示はこなしたんだ。無人になったマンションは、破壊してもいいよなぁ~」

    (聞こえるか、部長。これが俺様からのレクイエムだ)

     千郷は、剛腕をマンションに振り下ろした。

  • 879◆xaazwm17IRZa24/08/29(木) 01:05:27

    投下を終了します

  • 880二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 01:15:53

    ちゃんと言われた通りに避難勧告できてえらい

  • 881二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 07:51:08

    ハイになってる…

  • 882二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 09:55:35

    そういえばああああはティターニアとの戦闘に巻き込まれるの二回目か…

  • 883二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 17:39:47

    周りにいる住民を遠くに避難させるにはマンション破壊は有効。だがああああ、そこまで考えてない

  • 884二次元好きの匿名さん24/08/29(木) 23:31:06

    千郷がここで吹っ切れるといいね。早死しなければ一皮剥けるよ

  • 885二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 07:45:46

    まあ一度ド派手に吹っ切れた結果が今の千郷なんですけどね

  • 886二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 14:55:49

    テンガイを始末するのに送り込んでくるのは強めのエネミー単体なの、運営側は正体に気付いてないのか勘づいた上で煽ってるのか

  • 887二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 14:59:02

    アグネア・ミストリル、今の時間帯だと話が進むごとに強くなる訳で、早く倒したいが流石にティターニア単騎ではどうにもならなさそうだが…

  • 888二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 15:07:06

    まさか私の投げた大君蟹王君がテンガイに当たるとはね…美味しい鍋になってテンガイの血肉になるんだよ…

  • 889二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 17:36:27

    テンガイさん、最初の固有魔法は「湖の上を歩けるよ」っぽいしある意味蟹さんと同属性対決になるのか…

  • 890◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 21:34:56

    投下します

  • 891◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 21:50:38

     太陽を背に、一人の魔法少女が在る。
     飛ぶ、とも、浮く、でもなく、在る、としか表現できない。
     太陽を、飛んでいるとか浮いているとは表現しないように、この魔法少女も「在る」としか表現できない。

     アグネア・ミストリル。
     魔法王近衛騎士団長。魔法王の姪。
     魔法の国で、最強の魔法少女。
     それはつまり、『世界最強』を意味している。

     見下ろされるだけで、ティターニアは自身の肌が焼け焦げるかと錯覚した。

    (アグネア『様』が私に攻撃する理由は、まぁ、心当たりはあるけど……)
     

  • 892◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 21:56:29

    (やっぱ、近衛騎士団バックレたのは不味かったかな……)

     若気の至りを後悔するが、後の祭りだ。

    (けど、制裁で燃やしに来たとしても、一般人巻き込んだ攻撃するような人じゃない。……というか、魔法王の暴走を、静観するような人じゃない。
     ってことは……うわ、最悪)

    「操られてるってわけかぁ……」

     目から流れる赤い雫は、キレ過ぎて血涙流しているわけではないようだ。
     恐らく、脳に負荷が掛かるほどの洗脳処置。

    (そうでもしないと、この人操れないものね……)

     どういった洗脳か、までは分からない。
     だが、それが魔法によるものであれば、『マジカル・ストラッシュ』で吹き飛ばせる。

  • 893◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:05:59

    (仲間になったら勝ち確だし、ぜひとも洗脳は解きたいところね。
     けど、問題は——来たッ!)

     アグネアの剣から、業火が放たれる。
     人間が見れば、剣先から漏れる光だけで失明する程の、熱量。
     聖剣〝デュランダル〟から放たれる業火の斬撃は、戦略兵器に匹敵する。

    (けど、それが魔法であるならば——)

    「マジカル・ストラッシュ!」

     ティターニアの剣から放たれる光。
     自室で放った時と同じく、光と業火は直撃し、相殺される。

    (よし、消し飛ばし完了……!)

     アグネアはティターニアより格上の魔法少女だ。
     年期が違う。技量が違う。保有魔力が違う。装備が違う。
     だが——相性は、良い。

     自らの魔力を太陽の炎熱に変換し放つアグネアの攻撃は、ティターニアの『マジカル・ストラッシュ』で吹き飛ばすことが出来る。
     そして、消し飛ばした魔力は、そのままティターニアの魔力へと変換される。

    (制限掛かってるから、いつもより変換効率悪いけど……)

     ビームの撃ち合いをしている限り、しばらくは戦闘を成立させることが出来る。

    (問題は、近づかれて技量でごり押しされることだけど……理性がどこまで残っているかによるわね)

  • 894◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:14:40

     近づいて斬りあいをしてこようとする様子は無い。

    (まぁ、このまま撃ち合いしてたら、先に倒れるのは私なんだけど……何とかその前に、マジカル・ストラッシュを当てなくちゃ……けど)

     三度目の業火。やはりマジカル・ストラッシュで吹き飛ばす。

    (一度でも相殺できないと、学生街が焦土になる。
     向こうの攻撃を消すので手一杯で、こっちのペースに持っていけないわね……)

     アグネアに攻撃を当てることに意識を傾け、少しでも防御が疎かになれば——何千単位で人が死ぬ。
     いくら千郷に避難勧告をしてもらったところで、アグネアの攻撃範囲は遥かに広い。

    (まったく、デスゲームするなら無人島とか用意しなさいよ)

     と、愚痴っても仕方ない。
     打開策を頭の片隅で考えながら、ティターニアはアグネアの動きに神経を集中させた。

  • 895◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:26:00



     呼び鈴が鳴り、ミストアイと浅悧は顔を見合わせた。

    「……一応確認するけど、この部屋ってミストアイの部屋じゃないよね?」

    「ああ、勝手に使わせてもらってる」

    「……家主が帰って来たのかな」

    「アホかお前。自分の部屋に帰ってきて呼び鈴を押すわけがないだろ」

    「……じゃあ郵便の人?」

    「だとしたら、居留守だな」

     ミストアイと浅悧は息を殺し、訪問者が帰るのを待つ。
     短時間で呼び鈴は何度も鳴る。配達人にしてはあまりに横柄。
     そして、ドアを強く叩かれる。
     
    (なんか、配達の人って言うよりは……)

     浅悧の脳裏にヤのつく自由業が思い浮かんだ瞬間。

     轟音と共に、ドアが廊下に倒れ込む。

    「居留守なんて、おいちゃん傷つくなぁ~」

  • 896二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 22:27:45

    バックれてなければティターニアが運営にいたかも知れないのか……

  • 897◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:32:34

     踏み込んできたのは、西部劇のガンマンのような衣装を纏った少女。

     すなわち、魔法少女。

    「動くな」

     ミストアイは、長杖の先端を来訪者に向ける。

    「おっとっと~、怖がらせちゃったかな~」

     ガンマンの魔法少女は両手を上げる。

    「おいちゃん喧嘩弱いからさ~、物騒なもの向けないでよね~」

    「妙な真似をしたら、撃つ」

    「妙な真似、ね~。具体的にどんな行動なのかな~。何を妙とするかは、個々人で異なるわけだから、まずは擦り合わせ作業だね~」

  • 898◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:35:41

    (……場慣れしてる)

     と、浅悧は思った。

     既に場の空気は、一瞬即発のものとなっている。
     浅悧もまた、いつでも剣を抜ける構えを取っている。

     だが、緊張の様子を見せる浅悧やミストアイと比較し、ガンマン少女の、自然体な様子は何なのか。

     

  • 899◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 22:38:46

    「おいちゃんの名前は、デッドマンズ・ハンド」

     その名は——名簿に無かった。

     参加者ではない。ならば、部外者なのか。

    「んー? ああ、誤解しないで? 君たちがデスゲームやってることは、おいちゃん知ってるよ。 若いのに大変だねぇ」

    「ってことは、貴女はメンダシウムと同じく——運営側の魔法少女、ってことですね」

    「まぁ、広い意味ではねぇ~」

  • 900二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 22:42:22

    ヴィジランテに成り切ろうとしてる一般魔法少女ミストアイに老獪なガチ悪党がぶつかるのは不味いですよ!
    またメンタルブレイクさせられる予感しかしねえ…

  • 901◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:25:04

    「広い意味って、どういうことですか?」

    「いやさー、おいちゃんが君たちに会いに来たのは、君たちに情報を売ろうと考えてのことなんだよね~」

    「情報?」

    「そう。例えば——運営側にどんな魔法少女が居るか、とかさ」

     浅悧は、黙った。
     運営側の魔法少女。その人数も、各自の強さも未解明だ。
     だが、メンダシウムは強かった。あれで運営側最強レベルなのか、匹敵する魔法少女が他にも居るのか。

    (もし情報が手に入るなら、先生がもっと有利に戦えるかも……)

    「売るって、何?
     金でも払えと?」

     ミストアイの声は冷め切っている。
     仮面で顔は見えない。肉親を再起不能にした浅悧も許容し、一切の動揺無く杖を突きつけられるミストアイの精神は、浅悧には測りかねた。

  • 902◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:26:20

    「んー、おいちゃん貯金はそれなりに溜まってるからね~。
     そうだな~」

     ガンマンであるにも関わらず、銃口(長杖)を突きつけられ、実質無力化されているにも関わらず、デッドマンズ・ハンドの余裕は崩れない。
     浅悧は、それをとても不気味に思った。

    「うん、決めた。
     参加者を一人殺したら、情報一つ提供はどうかな」

    「くたばれ」

     ミストアイの言葉が聞こえ、側方で魔力が放たれるのが分かった。
     それを目視することなく、浅悧は抜刀し、デッドマンズ・ハンドへと距離を詰める。
     デッドマンズ・ハンドはその場を飛び退いていた。
     部屋の壁に、大穴が空く。ミストアイの狙撃は躱された——なんて動体視力。

    (けど、私が近づいた)

     銃は、剣より強い。なんてのは、人間界の常識だ。

  • 903◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:27:20

    (近接戦なら、魔法少女の剣は、魔法少女の銃より強い)

     剣の届く距離まで、踏み込んだ。
     飛び退いたことで、デッドマンズ・ハンドの体勢は崩れている。
     ホルスターに掛かった銃を抜いている時間は無い。その前に、浅悧が斬る。

    (情けは、かけない)

     暴力は、嫌いだ。
     けれど——クラスメイトの、玉柳水華が死んだ。いい子だった。
     一時行動を共にした、メリア・スーザンが死んだ。いい子だった。
     躊躇えば、善良な者から死んでいく。
     だから。
     浅悧は、デッドマンズ・ハンドの喉元目掛けて、突きを放った。
     悶絶程度では済まない。マジカル竹光とはいえ、技量だけなら師を超えている浅悧の、本気の突き。
     相手は、死ぬ。
     ヒャハハハハハハハ、と笑い声が聞こえる。

  • 904◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:28:25

     デッドマンズ・ハンドはホルスターに手を伸ばせない。そんな猶予は与えない。

    「おいちゃんはね~」

     ——手首と肩に、衝撃が走った。

    「ベテランなんさ~」

     デッドマンズ・ハンドの手に握られているのは、拳銃だ。

    (いつ、抜いた……)

     たたらを踏みながらも、浅悧はデッドマンズ・ハンドのホルスターを見る。
     未だ、銃は入っている。

    (……!? そうか、先生と同じで)

     ——武器の具現化。なるほど、一部の魔法少女はそれを可能にする。
     だが、こうも素早く具現化するなど、常軌を逸している。
     何しろ、突きの動作に入ってから、実際に竹光が喉に届くまでのほんの一瞬。その一瞬に、割り込まれたのだ。
     そして、竹光の先端に弾丸を当てられた。
     正しく、神業。

  • 905◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:29:28

    (けど……!)

     浅悧は、壁を蹴り、再びデッドマンズ・ハンドに肉薄する。

    (それでもこの距離は、私が有利……!)

     速さを優先したため、弾丸一つで押し返されてしまった。
     次に狙うは、上段。
     渾身の力を籠めた振り下ろしを、デッドマンズ・ハンドに放つ。
     ——連続した衝撃が、剣先に伝わり、浅悧の体勢はブレた。

    (嘘でしょ、私の剣に、弾丸を何発も……!)

     デッドマンズ・ハンドの口角が上る。
     その後頭部へ、ミストアイの魔弾が迫る。
     デッドマンズ・ハンドは、片方の手に、銃を具現化すると、魔弾に向けて連射した。
     浅悧の剣と同じように、魔弾もまた逸れていき、部屋に穴を開ける。

    (……この人、とんでもなく強い)

     浅悧の背に、緊張が走った。

  • 906◆xaazwm17IRZa24/08/30(金) 23:29:44

    投下を終了します

  • 907二次元好きの匿名さん24/08/30(金) 23:49:54

    魔法に頼り切らず体術と射撃能力の基本技で圧倒するの好き
    そこに加えてゲイ・ボルグみたいな魔法が切り札だから相手が再生能力持ちでもない限りは理論上絶対に仕留められるのも非常に厄介か

  • 908二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 00:26:11

    悪を憎むスナイパーと多重人格剣士VS悪のガンスリンガー

    ファイッ!

  • 909二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 08:11:06

    保守

  • 910二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 11:31:41

    流石刺客になるだけの実力はある

  • 911二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 17:11:11

    保守

  • 912二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 18:18:32

    デッドマンズハンド、かなりの影響力はあるはずなのにティターニアなどと違って名前があにまん市全域に轟いてたりはしないのか

  • 913二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 21:53:36

    糧鮴に籠もってて外には名が知られないタイプだったのかもしれない

  • 914二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 22:45:02

    そりゃまぁ裏社会のボスの名前が一般に知れ渡ってるのはおかしな話ではあるな

  • 915二次元好きの匿名さん24/08/31(土) 23:36:27

    抜刀金&OFOVSパトリシア楽しみ
    親に祝福されて剣術教えてもらった金ちゃんと、親に祝福されなかった弓兵パトリシアの戦い凄く見たい

  • 916二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 07:49:47

    保守

  • 917二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 08:12:00

    デッドマンズ・ハンドがまだ運営への理解に乏しいって部分も重要かもな…
    現状詳しくないってことは逆に言えば、パラサイトドールのことなどを詳しく知れば利害を計算して寝返ってくれるかもしれないし

  • 918二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 14:09:18

    どうだろ
    利害を考えたら逆らわない方が得って考えるかもしれない

  • 919二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 17:04:44

    スナイパーなのにだいたい白兵させられんのな

  • 920二次元好きの匿名さん24/09/01(日) 23:30:20

    自分が不利なはずの盤面で技量だけで有利を取るのを見てると上位の層は厚いなぁ…

  • 921二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 07:48:54

    近接戦に強い射撃使いってだけでイカしてる

  • 922二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 08:02:26

    保守

  • 923二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 13:52:17

    しゅほ

  • 924二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 19:53:53

    このレスは削除されています

  • 925二次元好きの匿名さん24/09/02(月) 23:28:03

    >>900

    これ戦法としても滅茶苦茶有効なのヤバい

    魔法の内容次第で大なり小なりメンタルに左右されそうだし

  • 926◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:29:13

    投下します

  • 927◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:33:02

    「おいちゃんは喧嘩弱いからさ~、いきなり襲われると困るんだよね~」

    「殺人を強要しておいて、よくそんなことが言えたもんですね!」

    「強要はしてなくない~?」

     デッドマンズ・ハンドが苦笑する。その足元にはマガジンが落ちていた。

    (しまった……!)

     会話を挟んだのは、リロードの時間を稼ぐためだった。

     銃口を向けられ、浅悧は右に跳ねる。

    (駄目だ、相手のペースに呑まれてる……先生の教えを思い出さないと)

    『対魔法少女戦闘の鉄則——相手が固有魔法を使う前に倒せ』

    (この人の固有魔法は銃の具現化だ。つまり、銃を具現化する前に倒すべきだった……今更どうしようもない!  他の教えは……)

  • 928◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:35:04

     山田浅悧、とミストアイが言った。

    「ここはお前のフィールドだ。私のフィールドじゃない」

    「はい?」

    「じゃ、そういうことで」

     そう言って、ミストアイは窓を割り、外へと飛び出した。

    (逃げた?)

     嘘でしょ、という気持ちと、賢明だ、という気持ちが同時に沸き上がる。

    (私も逃げないと……いや、ちょっと待って)

    『私のフィールドじゃない』

    (……そういうことか)

     剣(マジカル竹光)を扱う浅悧、狙撃銃(長杖)を扱うミストアイ。

  • 929◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:35:42

     浅悧は、窓へと駈け出した。
     退路を塞ぐように、銃弾が飛ぶ。
     浅悧はすかさず方向転換をした。
     逃げる動作はフェイント。三度目のインファイトを試みる。

    「面!」

     裂帛の気合いと共に、頭に向かって竹光を振り下ろす。
     デッドマンズ・ハンドは体軸を捻って回避。
     すかさず、振り下ろした勢いを利用し、胴を狙う。

    「おっと!」

     これも、回避される。
     胴を狙った勢いを利用して再び面。
     デッドマンズ・ハンドの顔から余裕が消えた。
     ——攻撃が途切れない。

  • 930◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:36:31

     剣道部エースである浅悧は、この技術を体に沁み込ませ、顧問を上回る技量を有している。
     生身ならば三分程度しか持たないが、変身した今なら三十分は隙の無い連撃を続けられる。

    「うひゃあ、さすが、現役運動部……」

     今は帰宅部だよ、とは指摘しない。
     相手に銃口を向けさせる余裕も無い程、攻め込み続ける。
     浅悧が振っているのは、あくまで竹光。
     刀とは違い、斬られれば致命傷とは成り得ない。
     多少のダメージを覚悟すれば、銃を構えることが出来る。
     ——と、考えるのは、浅悧の魔法を知らない者だけ。
     「かならず首をはねられるよ」……当てた攻撃が全て首への攻撃に変換される。
     つまり、小手だろうと、胴だろうと、当たれば首にその衝撃がいく。

  • 931◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:37:09

    (この人は、それを分かってる。だから、こんなにも必死になって、回避に専念してる……!)

     だけど、これでいい。
     このまま戦い続ければ、勝機が見いだせる。
     だから、このまま連撃を。
     突如、デッドマンズ・ハンドは足元に向けて銃を連射した。

    (苛ついている? 思った以上に、私はこの人を追い込んでる!)

     余裕を無くしたデッドマンズ・ハンドの行動に、浅悧の攻撃はますます勢いづき。
     ——眉間から、血が迸った。

    (……え、何で、私、撃たれて……)

    「おいちゃんの魔法はね~、五発のうち一発は、必ず命中するんだ~。
     どれがそうなのかは、おいちゃんも分からないんだけどね~」

     読み違えた、と浅悧は後悔する。

  • 932◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:38:07

     後悔と共に、浅悧の意識は闇に沈む。

    「ヒャハ」

     そして、第二の人格が表出する。

    「ヒャハハハハハハハハハ!」

     狂笑と共に、第二の人格・慈斬はマジカル竹光を振り下ろす。否、既にマジカル竹光は、刀へと変化していた。

    「出たな~」

     苦笑しながらも、デッドマンズ・ハンドは白刃を躱す。
     額には、僅かに汗をかいている。

    「さぁ、ここからが本番だね~」

    「ヒャハハハハハハハハハハ」

     誘うように、デッドマンズ・ハンドは一歩引き、挑むように慈斬は一歩前に出る。
     轟音が響いた。

     「これはいったい……どういうわけかな」

     慈斬は、沈黙している。
     その胸には、大穴が空いていた。

  • 933◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:39:00


     
     ミストアイがその場を離れたのは、逃げるためではなく、仕留めるためだった。
     ミストアイは、狙撃を得意とする魔法少女だ。
     狭い室内では、本領を発揮できない。だから彼女は浅悧に戦闘を任せ、絶好の狙撃ポイントを確保、見事ターゲットを仕留めてみせた。

    「うん、仕留めた」

     満足気に、そう呟く。
     数時間前、ミストアイはテンガイに脅され、殺人を強要された。今まで、誰に命令されるまでもなく、撃つ相手は自分で選んできた。悪人しか撃たない。そんな信念を持って私刑を行ってきた。その信念を、テンガイに踏みにじられた。

  • 934◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:39:29

     自分を取り戻すためには、悪人を撃つ必要があった。
     そして、山田浅悧は——悪人だった。
     装備が竹光から、刀に代わり、狂気の表情を見せた。あれが、浅悧の本性。ならば、撃つしかない。

    (姉の敵討ちをしたかったわけじゃない。ただ、テンガイのような悪人がのさばるのは許せなかっただけだ)

     悪人は、まだ居る。
     ミストアイはデッドマンズ・ハンドに長杖を向けるが。

    (逃げたか……)

     場所を割られた可能性もある。ミストアイはその場を移動した。

  • 935◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:41:23



     頬に、木張りの感触がある。だが、どんどんぼんやりしていく。

    (どうして……)

     と、慈斬は、疑問を覚えた。
     自分がデッドマンズ・ハンドを引きつける間に、ミストアイが狙撃する。そういう作戦だと思っていた。けど、撃たれたのは自分だった。

    (どうして……?)

     と、思う。
     どうして自分は

    (素の自分で思考が出来るの……? 今の私は、慈斬なのに……)

     浅悧と慈斬は別人だ。慈斬は加害者であり、浅悧は被害者だ。
     今は慈斬のはずだから、こんな風に思考できるはずがないのに。

  • 936◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:41:35

    (ああ、そっかぁ……)

     もし、慈斬なのに浅悧として思考が出来るのなら。
     それは、一つの答えを示している。

    (どっちも、私だったのかぁ……)

     最初から、慈斬という人格など居なかった。ただ浅悧が、慈斬という狂人になりきって、暴力を振るっていただけだった。

    (あはは、救いようが無いなぁ、私……)

     ミストアイの経歴を思い出す。彼女の姉は、慈斬の被害者だった。

    (じゃあ、撃たれても、仕方ないかぁ………………)

    【山田浅悧 死亡】
    【残り 24人】

  • 937◆xaazwm17IRZa24/09/02(月) 23:41:51

    投下を終了します

  • 938二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 07:25:06

    裏切るにしてもデドハン倒して気が緩んでるとこを狙うなりすればもっと楽できただろうに……
    頭が固ぇ奴なのか……!?

  • 939二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 08:24:13

    なんかしらのストッパーが外れちゃった感じはある

  • 940二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 10:01:30

    今思えば最初のテンガイの指摘が的を得てたな
    ミストアイは自覚なしの異常者な分、殺人鬼自認のあるジャックとかよりもよほどヤバいのかもしれない…

  • 941二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 17:08:40

    「自分を取り戻すため」って不純物混じりの動機で悪人殺したのを正当化してる時点で道を外れた感じあるね
    このままだと悪を殺す悪…以下になりそうで怖い

  • 942二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 18:12:55

    何らかのきっかけで善悪どっちでも振り切れてたんなら「成ったな…」ってなるけどタイマンやらなんやらでもずーっとウダウダ言ってた挙句理屈つけてコレだからミストアイはもう本当に悪党以下にのナニかになっちまった

  • 943二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 19:42:28

    >>「うん、仕留めた」

    これ言ってから8行くらい浸ってる…あまりのことにデッドマンズ・ハンドも困惑してたしその隙に撃ってれば当てられてたかもしれないね(テンガイ殺の時の足場崩しを慈斬殺しに変えたようなやつ)


    と思ったけどこの子テンガイの頭撃ち抜いた時も「──よし、仕留めた」(以下略)と同じような感じだったな…

  • 944二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 19:59:52

    デッドマンズ・ハンドめっちゃ困惑してそう

    (自分を斃しに行くと言ってる相手差し置いて一応の共同戦線張ってる子から撃つ理由は?)

    (ていうか結局殺しちゃうんなら1回こっちの提案蹴る必要あった?)

    みたいな

  • 945二次元好きの匿名さん24/09/03(火) 20:12:45

    VSデッドマンズ・ハンドこれで終わりだと中途半端すぎるしまだなんかあるでしょう多分きっと
    問題はこれで終わりだと酷すぎるが、続くと生存値的にもっと酷いことになりそうな点だ

  • 946二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 01:06:45

    おつ

  • 947二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 07:51:34

    ミストアイも自身に振り回されているから誰にも悟られなかったな…

  • 948二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 16:20:51

    保守

  • 949二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 20:44:58

    このレスは削除されています

  • 950二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 20:47:10

    このレスは削除されています

  • 951二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 21:00:12

    このレスは削除されています

  • 952二次元好きの匿名さん24/09/04(水) 22:01:01

    心なしかミストアイが鳴らしたのは地獄の始まりの合図な気がする感じですねぇー

  • 953二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 01:44:33

    ホストアイ

  • 954二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 07:51:55

    興を削がれたかのような反応のデッドマンズ・ハンドを見る限りこのまま継戦してたとしてもイイ線いってたみたいで惜しいね…

  • 955二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 16:52:32

    保守

  • 956二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 17:37:51

    保守

  • 957◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 21:32:58

    投下します

  • 958◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 21:53:22

     世の中には、持つ者と、持たざる者が居る。
     妃咲希や槍ヶ崎舞矢は持つ者で、蟹魔万は持たざる者だ。

     万は——デッドマンズ・ハンドは、それを正しく理解している。

    (おいちゃん、喧嘩弱いし、勉強も苦手だし、おまけに——運も無いからねぇ~)

     今しがた戦っていた魔法少女、山田浅悧が死んだ。仲間に裏切られて。

     それは、デッドマンズ・ハンドにとって想定外の出来事であり、かつ望みに反するものだった。

     デッドマンズ・ハンドは、実のところ、山田浅悧を始末する気は無かったのだ。

     
     

     

  • 959◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 22:10:27

     それは、ヒューマニズムではなく、打算から来るものだ。

     デッドマンズ・ハンドは、傭兵としてデスゲーム運営陣に雇われた身である。
     幹部のパンデモニカから、学生街の魔法少女を始末するように命令を受けている。

     だが、デッドマンズ・ハンドは、このゲームが運営の勝利で終わることに全BETする気は無かった。

    (のぞみちゃん(※ティターニア)やマヤちゃん(※スピードランサー)がこのままいいように殺し合わされて終わるとも思えないしな~)

     小学校以来の戦友の顔を思い浮かべ、デッドマンズ・ハンドは身震いした。

     山田浅悧の額に当てた銃弾も、即死を狙ったものではなく、あくまで慈斬を呼び出すためのものだった。
     慈斬と戦い、頃合いを見て撤退、『浅悧には勝ったが慈斬には歯が立たなかった』という建前を作る。
     そして、時間を置いて、浅悧、あるいは浅悧の仲間(ティターニアはなるべく会いたくないが)に接触、『勝った褒美』として、運営の情報を渡し、味方だと印象づける。

     そうやって、上手く立ち回ろうとしたのだが——結果は失敗。
     浅悧は死亡し、浅悧の仲間は殺人者となった。
     直接手を下したわけではないが、デッドマンズ・ハンドも浅悧の死の遠因へとなってしまっている。

    (やっぱ、蝙蝠みたいに立ち回るとか、おいちゃんには向いてなかったか~)

    「ままならないもんだよね~」

    「え、なんすか、誰すか?」


     
     

  • 960◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 22:25:18

     困惑するああああを無視し、デッドマンズ・ハンドは、空を見上げる。

     炎と光の衝突。
     アグネアとティターニアの撃ち合いを眺め、デッドマンズ・ハンドは溜息をついた。

    「それにしてものぞみちゃん——弱くなったなぁ……」

    「え、マジで誰? 参加者とかじゃないよな? 私これどうしたらいいんだクソが」

    「んー、とりあえず一緒に蟹せんべい食べようよ~ おいちゃん、蟹が大好きなんだよね~」

    「あ、あざっす」

     差し出された蟹せんべいをおずおずとああああは受け取る。

    「あ、そういえばさ、数時間前においちゃんのシマをカワウソモチーフの魔法少女が襲撃したんだけどさ——何か知らない?」

    「カワウソ……?」

     ああああの手から蟹せんべいが滑り落ちる。
     その額には、帽子ごしに銃が突きつけられていた。

    「言っとくけど、『拒絶』は意味ないぜ。おいちゃんの魔法は『必中』だから」

     さ、オオカワウソのこと、色々聞かせてもらうよ~、とデッドマンズ・ハンドは笑みを浮かべた。

  • 961二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 22:41:37

    デッドマンズハンドの固有魔法は本当に刺しボルグ的な因果律逆転弾なのか…命中箇所も指定できるっぽいし

  • 962◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 22:55:29



    「ふー、やっぱ風呂は命の洗濯だよな~」

     緑色の髪が温風で靡く。

     当初計画していたテンガイラッシュが頓挫し、メンタルダメージを負った結果ちょっと二千年以上前のことを思い出したりもしていたテンガイだったが、一度心身をリラックスさせたことで、ペースを取り戻していた。

     ドライヤーを机の上に置くと、冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。

     傍若無人に振る舞っているが、勿論此処はテンガイの私室ではなく、無関係な一般人の部屋である。

  • 963◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 22:55:49

    「優勝したらもう少し背を伸ばすか。この姿もキュートだけど、大魔法使いの威厳がちょっと足りないからな」

     牛乳を飲みながら、ベランダに出る。

    「うん?」

     巨大ロボットが、500m程離れた場所に出現し、マンションを破壊していた。

    「え、何あれ……」

     屋上では、光と炎が激突している。

    「うわ、ゴリラとゴリラが戦ってる」

    (好奇心は惹かれるが……今の僕様があの戦場に行くのは危険だな。
     巻き込まれるのは御免だ、もう少し距離を……)

     ——テンガイは、ベランダの縁に額を叩きつける。

    「……それは、雑魚(おとな)の思考だろ……!」

     

  • 964◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 22:59:43

    破損したコンクリートが落下していく。
     苛立たし気に牛乳を飲み干すと、テンガイは下の駐車場へと飛び降りた。
     難なく着地を決めると、テンガイはロボット、そしてティターニアとアグネアを見据える。

    「行くか……」

     余裕そうな笑みを張り付けて、テンガイは足取り重く戦場へ向かおうとし。

     駐車場いっぱいに魔法陣が浮かび上がった。

    「おいおい、またコロシアムか?」

     呆れた口調を示しながらも、テンガイはその場を飛び退く。
     魔法こそ失ったが、知識まで失ったわけではない。
     この召喚陣は。

    「使い魔の召喚……それもボスエネミーか。……上等だぜ、新生僕様ちゃんの噛ませ犬にはちょうどいい……いや」

     現れたエネミーの姿を見て、テンガイは口角を上げる。

    「噛ませ蟹か。踏みつぶしてやるよ」

     大君蟹王。マンションを破壊する巨大ロボに匹敵する体躯を誇る、巨大な蟹の化物。恐らく、並の魔法少女では数人がかりでも倒せない強敵を前に、弱体化しきった怪物は、歓迎するように両手を広げ、傲慢に笑った。

  • 965二次元好きの匿名さん24/09/05(木) 23:03:22

    テンガイのカニのポーズ!

  • 966◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 23:11:56



     学生街の参加者を殺せ。
     そう命じられたとき、パトリシアは困惑した。
     魔法国のために、儀式は滞りなく進行しなくてはならない。

     そのためには、ある程度参加者同士で殺し合う必要がある。
     運営側の魔法少女が参加者を殺し回っては、儀式の純度が落ちるのではないか。

    (……あっちにはあっちの都合があるのだろう。今の私は、ただ命じられたことに従うだけだ)

     それが、狩人の流儀。

    (不満があるとすれば、狩るならティターニアが良かった)

     参加者でもトップクラスの実力者。狩人として自信に溢れるパトリシアでも、真正面から戦って勝つのは難しい、と認めざるを得ない。逆に言えば、真正面から戦わなければいくらでもやりようはある。
     楽しい狩りになると内心期待していたが、ティターニアの相手はかの『魔法国最強』が務めるのだという。

  • 967◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 23:26:48

    (どうやら魔法王は……拮抗した戦いが好きではないようだ。
     万が一にも負けない組み合わせで、確実に殺しにかかる。
     市内最強には、魔法国最強を。
     そして私の相手は……あの二人か)

     パトリシアは目を凝らす。
     『10㎞』先の裏路地で、二人の魔法少女が言葉を交わしている。
     ワンフロムアウターと、抜刀金。
     偶々生き残った弱者と、全知全能に敗走した剣士。
     どちらも、パトリシアの敵ではない。

     パトリシアは幼少期の虐待で右目を失っている。だが、その代わりに眼窩に埋め込んだ千里眼は、パトリシアは裸眼の時代を遥かに超える強さを手にした。

     その狙撃範囲は——20㎞。
     

  • 968◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 23:33:01

     パトリシアは、矢を持たない。
     具現化するのは弓だけだ。
     パトリシアにとって、万物が矢となる。
     水も、炎も、土も、雷も、生命さえも。

     それは、空気であっても例外ではない。

     周囲の空気に魔力を流し込み、矢へと変化させる。
     真空の刃。
     透明であり、軽く、しかし当たれば魔法少女の肉体さえ容易く貫通する。

     10㎞先からの狙撃。

     パトリシアは狙いをつけた。
     
     ——弦が震えた。
     既に、矢は放たれていた。

  • 969◆xaazwm17IRZa24/09/05(木) 23:33:14

    投下を終了します

  • 970二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 07:41:26

    両手で持っていた蟹せんべいが滑り落ちるああああが見える見える…

  • 971二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 07:48:11

    学生街の参加者を殺せ
    パトリシアにも指摘されてるけどやっぱり矛盾してるよなぁ…これ実はパンデモニカこそ運営に潜む真の内通者って説ない??

  • 972二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 08:04:20

    デッドマンズハンド、ティターニアがアグネアさんに勝ったりすれば思ったより簡単に寝返ってくれそうね

  • 973二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 08:40:58

    やっぱり知ってる人間から見ると弱体化してるのか

  • 974二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 15:24:56

    そういえばテンガイに向けられるエネミーはダイス被りということでエネミー1体になるんだろうか
    それとももう一匹隠し玉がいるのか

  • 975二次元好きの匿名さん24/09/06(金) 23:51:36

    次の投下が終わったら6スレ目に移るのが無難かね

  • 976二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 08:30:40

    保守

  • 977二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 09:42:33

    >>972

    だから、愛弟子の死の遠因にしておく必要があったんですね

    魔法王すべて考えてると思うよ

  • 978二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 12:31:13

    >>977

    うーんこの詰め将棋…

  • 979二次元好きの匿名さん24/09/07(土) 21:46:50

    最初から全力で的確に潰しに来てた魔法王だからね
    どう状況が転んでいくかより、自分で駒を動かしてコントロールする感覚

  • 980二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 00:53:50

    保守王

  • 981二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 08:30:53

    保守

  • 982二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 17:02:22

    ほし

  • 983二次元好きの匿名さん24/09/08(日) 23:44:48

    優勝してやる事が「少し背を伸ばす」なの、超越した精神性と幼稚さを感じるな…

  • 984二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 07:49:54

    「山田浅悧を始末する気は無かった」
    うーんデッドマンズ・ハンドの口下手…

  • 985二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 13:05:54

  • 986二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 22:17:19

    残り15レス未満で足りるか……?

  • 987二次元好きの匿名さん24/09/09(月) 22:31:30

    なぁに新しくスレを建てるから問題ないさ

  • 988二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 03:14:31

    せやな

  • 989二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 11:13:09

    こっちどうする?

  • 990二次元好きの匿名さん24/09/10(火) 19:04:51

    ギリギリまで待つでいいんじゃない?

  • 991◆xaazwm17IRZa24/09/11(水) 00:15:39
  • 992二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:31:34

    立て乙

  • 993二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 07:53:34

    建て乙です!ありがてぇ…

  • 994二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 08:34:16

    建て乙です!
    次スレも応援してます!!!!

  • 995二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 12:01:26

  • 996二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 17:24:53

    たておつ梅

  • 997二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 19:18:45

    ウメ

  • 998二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 22:26:50

    うめ

  • 999二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:32:13

    埋めます

  • 1000二次元好きの匿名さん24/09/11(水) 23:32:31

    埋めた

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