- 1124/06/26(水) 01:58:35
- 2124/06/26(水) 01:59:02
何事があったのか、急いで裏手に回ってみるとそこには
鹿毛のウマ娘「ひ、ひぃ…」
?????「私がちょっと小柄で軽いから何だって言うんです?
もう一度言ってみて頂けません、か?
……………チッ」
大きくひび割れた地面の前に涙目でへたり込むウマ娘が一人、そしてその前に灰色のインナーメッシュが特徴的なとても小柄なウマ娘が、顔だけでこちらを振り返って睨み付けるように立っていた
鹿毛のウマ娘「ご、ごめんなさい!!
アタシ何も見てませんからあ!!」
悲鳴のような叫びと共に跳ね起きた鹿毛のウマ娘は、一目散と言う言葉に相応しい様子で校舎の方へと逃げていってしまった
?????「…………………」
後に残されたのは、無言でこちらを見つめるインナーメッシュのウマ娘と俺の二人だけ
さて、トレーナーとして何も見なかったことにする訳にはいかないのだが、どうやってこのウマ娘に声をかけようか? - 3124/06/26(水) 02:00:19
「…………」
?????「…………」
どのようにこのウマ娘に声をかけるべきか、そう悩みながら辺りの様子を観察する俺に対して
?????「はぁ、こうしていても仕方ないですね」
ため息をつきながら貼り付いたような笑顔でこちらに向き直るインナーメッシュのウマ娘
その第一声は
?????「言っておきますが、先程逃げていった彼女と私は何か関係があるわけではありません」
どう考えても、それには無理があるだろうと言う内容だった
「いや、まず何も関係がなければ逃げるって事はないよね?」
思わずそんなツッコミが口をつく
?????「おや、彼女は先程去り際に『何も見ていない』と証言しましたよね?
それなのに貴方はこの無辜のウマ娘を疑うのですか?
ああ、何ということなのでしょうか」
大げさに嘆いてみせるその姿からは、何か悪いことをした、と言うような引け目のある様子は一切見受けられない
しかし
「じゃあ、この足跡はなんだい?」
逃げ去ったウマ娘がへたり込んでいた隣の地面に入った大きな亀裂
その中心部には小さな足跡があった - 4124/06/26(水) 02:00:53
そう、ちょうどこのインナーメッシュのウマ娘のサイズにぴったりと合いそうな小さな小さな、しかし深く刻まれた足跡が……
?????「あら?何なのでしょうね?これは?」
しれっとシラを切ってみせるが、そうは行かない
「いや、この足跡のサイズ、どう見てもさっきの彼女のものじゃないよね?
君くらいの小ささじゃないと合わないよね?
それにさっき君もあの子に何か言おうとして…?」
と更に問い詰めようとしたその時
?????「……あ゛ぁ??」
それまでと全く違う声が響いた
?????「貴方、今、なんと言いましたか?」
インナーメッシュのウマ娘は顔を伏せて、うつむき加減にこちらにゆっくりと歩み寄る
「この足跡は君くらいの小ささじゃない、と!?」
言いかけたその時、ぐるりと世界が反転するとともに背中に強い衝撃が走り
ダアァァン!!!
右耳のすぐそばで轟音と砂煙が舞った - 5124/06/26(水) 02:01:29
「がっ?!ゴホッゴホッ?!」
?????「今、なんとほざきやがりましたか、貴方」
右手で俺のネクタイの先を掴んで頭を地面から浮かせて
?????「今?私のことを?小さいと?ほざきやがりましたか??」
そのまま首元を締め上げつつ、俺の耳のそばにあるローファーの爪先で側頭部をゴン、ゴン、ゴンと軽く蹴ってくる
?????「ああ、何が起こっているかわからないのですか?
ならわかるように今からそのマヌケ面を踏み潰して差し上げましょうか?」
ゴン、ゴン、ゴン
大して力の入っていない蹴り
だが、ひっきりなしに揺さぶられる視界と不安定に振り回される頭が不快感を増幅する
?????「で、誰が小さいんですか?もう一度そのお上品なお口で歌ってみて頂けませんか?」
ゴン、ゴン、ゴン
側頭部を揺さぶる打撃の威力がだんだんと増してくる
?????「こんな使われてない旧トレーナー棟の裏手にわざわざトレーナーさんみたいな格好で入ってきてるなんて、大方貴方覗き目的の変態野郎か不法侵入の下着泥棒でしょう?
そんな奴の証言とばったり出会ってしまった善良なウマ娘の『ちょっとした過剰防衛』、どちらが警察や学園の関係者に信用されるんでしょうね??」 - 6124/06/26(水) 02:02:33
そう俺の目を覗き込みながら冷たく嗤った顔は
「…綺麗だ…」
不覚にもそう漏らしてしまうほどに凄絶な美しさを湛えていた
?????「気持ち悪い上に人の話を聞いてないんですか?このクズ」
ガンッ!
一際強い打撃が側頭部に加えられると同時に俺の意識は暗闇に堕ちていった…
なんだか頭が痛い…
側頭部から伝わってくるズキズキとした痛みと、冷たい感触で俺は目を覚ました
目を開くと、余り見覚えのない無機質な教室の天井が眼に入った
?????「ああ、目が覚めましたか
先程は大変失礼しました」
どこかで聞いたような声の方を向いて寝かされていたベッドから起き上がってみると
?????「貴方、本物のトレーナーさんだったんですね
先程は勘違いから『過剰防衛』してしまいまして誠に申し訳ありませんでした」
あの、小柄なインナーメッシュのウマ娘が
先程とはうってかわった神妙な表情でパイプ椅子から立ち上がってこちらを覗き込んでいた
「ああ、その…」
?????「本当に申し訳ありませんでした
気絶した貴方を運んでもらおうとお呼びしたたづなさんから、貴方が旧トレーナー棟に新しく部屋を割り当てられたトレーナーさんだと伺いまして、それで私が貴方を不審者だと勘違いして護身術で気絶させてしまった事がわかりまして…」 - 7124/06/26(水) 02:03:19
深々と頭を下げる姿は、あの暴力を振るっていた時の嗤う顔とはかけ離れており
「いや、もうそれは良いよ、不審者だと思ってたならあの対応もわからなくは無いしさ」
?????「貴方の寛容なるお言葉に感謝いたします
ありがとうございました」
「それより、最初に一緒にいた鹿毛の子は…」
?????「はて?何のことでしょうか?
あの場には私しかいませんでしたが?」
「え?いや、もう一人居ただろう?」
?????「トレーナーさん…、犯人は私ですが、頭を地面にぶつけられた時に記憶が混濁されているのではありませんか?
他には誰も居ませんでしたよ?」
「そんなはずは…」
あれは、俺が投げられて気絶していた間に見た夢だったのだろうか??
いや、しかしそれにしてはこのネクタイの先端の、握りしめたような汚れ方は…
?????「ああ、申し訳ありません、目を覚まされたのですから、保健の先生を呼んできますね
もう少し、そちらで寝ていて下さい」
「あ、ちょっと待ってくれ!」
そう言って去ろうとする彼女を呼び止めて
?????「どうなさいました?トレーナーさん」
「考えてみたら、俺はまだ君の名前を聞いてもいないんだ」
?????「あら、これはとんだ不調法を」 - 8124/06/26(水) 02:03:36
そう言って保健室から出ていこうとしていた彼女はこちらに向き直って
「ドリームジャーニー
私はドリームジャーニーと申します、どうか今後ともよろしくお願いいたします」
そう微笑んだ顔は朧気な頭を蹴られていたときの記憶と同じように美しかった - 9124/06/26(水) 02:04:10
第2話『百聞は一見に如かず‐趙充国』
あれからしばらく経ち側頭部のケガも完治した頃、スカウトしたくなるような才能あるウマ娘が居ないだろうかとデビュー前のウマ娘達の模擬レースを見に来ていた中に、見覚えのある小柄なインナーメッシュの姿があった
ドリームジャーニーだ、彼女も今日の模擬レースで走るのだろうか
ベテラントレーナー「あー、今日も出るのかドリームジャーニー…」
サブトレーナー「あの子良い走りするんですがねえ…
惜しい才能ですねえ…」
惜しい才能?
一体どういうことだろうか
とりあえず、ドリームジャーニーのレースを見てみようか、そう思った
ガシャンッ
ゲートの開く音とともにウマ娘達が一斉にスタートを切る
ドリームジャーニーは…、
居た、中段の後ろの方で控えている
サブトレーナー「あの子本当にレースセンスなんかは良いんですよね
差し脚の鋭さだって相当なもんだし」
ベテラントレーナー「本当にそうなんだよなあ…
だからこそ、お前の言うように惜しいな…」
それは見ているこちらからも伺えた
集団の外目につけて逃げるウマ娘を狙うポジション調整は、完璧と言って良い
ただ、それにしては位置取りが後ろ過ぎるようにも思えるのだが…?
ベテラントレーナー「ここからだな」 - 10124/06/26(水) 02:04:39
最終コーナーを回って各ウマ娘が一斉にスパートを掛け始めた瞬間、
ドリームジャーニー「………ふっ!!」
ドリームジャーニーが爆ぜた
脚の回転数を恐ろしい勢いで上げてゆき、グングンと加速して瞬く間に先頭を射程内に捉える
その華麗な走りに俺はあの日の嗤い顔のような美しさを見た
しかし、
先行ウマ娘「くっ、抜かせない!」
ドリームジャーニー「……!このっ!」
ドリームジャーニーに並び掛けられた先行ウマ娘が肩を擦るようにして競り合うと、ドリームジャーニーの華奢な身体は外側に振られるようにしてヨレていき、爆発的な加速もそこで一旦終わってしまう
ベテラントレーナー「アレが無けりゃなあ…」
サブトレーナー「『小柄過ぎるし軽すぎる』、だから競り合いで身体が当たると一気にバランス崩して減速しちゃうのは、もう本当にどうしようもないですもんねえ…」
ドリームジャーニー「くっ……!!このぉッ!!」
それでもヨレた姿勢を立て直して先頭を狙うドリームジャーニーだが、彼女が先頭を差しきったのはゴール板から10mも過ぎた辺りだった - 11124/06/26(水) 02:05:08
サブトレーナー「結果は3着ですけれど、やっぱりドリームジャーニーよりも才能ありそうなウマ娘は居なかったですねえ…」
ベテラントレーナー「だからと言って、アレだけ明確な欠点があるウマ娘をスカウトした所でなあ…
オープンクラスまでは間違いなく行けるだろうが、重賞となると厳しいしあの華奢さだ
最高速度で接触なんぞしたら、ヘタをすればレース中に故障や最悪の事故まであり得る
惜しいよなあ…」
サブトレーナー「惜しいですねえ…」
走り終えて、荒い息を落ち着かせるように深呼吸を繰り返すドリームジャーニー
一着のウマ娘を睨むその目線は、どこまでも鋭く闘志に燃えていた
そんな姿を見ていた俺は
「ドリームジャーニー!」
たまらず彼女に声をかけていた - 12124/06/26(水) 02:05:33
ドリームジャーニー「あら、あの時のトレーナーさん
恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね」
そう言ってこちらを向く彼女に
「君を、スカウトしたい!」
俺は胸の中の熱のままに彼女に語りかけた、しかし
ドリームジャーニー「ありがとうございます、そう言って頂けるのは大変光栄なのですが、お断りいたします」
あっさりとスカウトを断られていた
「……俺ではダメかい?」
ドリームジャーニー「ええ、私がトレーナーさんに求めるのは、この体でも勝てるだけの能力を身につけさせて頂ける戦略と経験、そして肉体改造とそのケアの知見と技術
貴方はそれをお持ちですか?」
たしかに、駆け出しの自分ではそれは足りていない…!
でも!
「確かに持っていないが、それでも俺は君のその速さと強さに惚れたんだ!
頼む、俺と契約してくれ!」
ドリームジャーニー「ならばお断りします
私の目的にはそれではたどり着けませんので
では、失礼いたします」
そう言って軽くこちらに礼をして颯爽と去ってゆくドリームジャーニー
その後ろ姿には、誰も近寄れないような鋭い覇気が漂っていた - 13124/06/26(水) 02:05:49
ドリームジャーニー、どうにもあのウマ娘の走りが気になる
本人の言うように彼女が必要としている経験と技術は今の俺にはないものだが、それでもあの鋭い差し脚が、デビュー前とはおもえないクレバーなポジショニングが、目をつむればまぶたの裏にありありと浮かんでくるのだ
ダメだ、トレーナー室で籠もっていても仕方ない
外へ出てみよう
グラウンドを歩いていると、校庭の隅でトレーニングに励むドリームジャーニーを見かけた
「…ふっ!!」
やはりあの脚の回転数は素晴らしい、短い距離でもグングンと加速していくあの末脚はクラシック級ですら通用するだろう
そんな彼女の走りを見ていると
おかっぱのウマ娘「あ、ドリームジャーニーさんじゃん
あの子またスカウト断ったんだって?」
黒髪のウマ娘「みたいですね、全く贅沢な事言っちゃって」
おかっぱのウマ娘「でもさ、あの華奢さを何とかしたいからそこら辺鍛えてくれるトレーナーじゃなきゃやだってのは無理難題じゃない?」
黒髪のウマ娘「ですよねえ…本格化したからと言ってそんな急に背が伸びたり筋肉量が増えたりするわけではありませんし
今のままでもスカウトされているなら十分なのでは?」
おかっぱのウマ娘「やっぱりG1獲らなきゃ妹に負けるって思ってるのかなあ、そんな簡単に獲れるような甘いもんじゃ無いでしょうに」
妹?ドリームジャーニーには妹さんが居るのか - 14124/06/26(水) 02:06:23
黒髪のウマ娘「何というか、身の程知らずというか」
おかっぱのウマ娘「ま、あんな小っさい体で頑張ってるのは凄いと思うんだけどねー」
ざわり
そう野次馬が言った瞬間空気が粘り気を帯びた
ドリームジャーニー「あら?今何か言われましたか?」
…!あの顔だ!
やっぱり初めて会ったときのあの記憶は間違いじゃ無かった!!!
おかっぱのウマ娘「ひっ?!ドリームジャーニーさん?
き、聞こえてた…?」
ドリームジャーニー「ええ、それはもうはっきりと
で、誰が華奢で身の程知らずで小っさいのですか?」
ざわりざわりとドリームジャーニーから塗り潰されるような濃密な暴力の気配が立ち上る
以前俺が見たようなその獰猛な笑みを向けられて
黒髪のウマ娘「い、いやですわあ、一般論ですよ一般論
それでは、私達もトレーニングありますので!!!!」
おかっぱのウマ娘「そ、それじゃあまたねー!!」
野次馬達はドリームジャーニーの怒りを避けるようにして、そそくさとその場を離れて行った…
『小っさい』『華奢』はドリームジャーニーの逆鱗…
覚えておこう… - 15124/06/26(水) 02:06:41
「やあ、ドリームジャーニー、こんにちは」
ドリームジャーニー「あら、こんにちは
…スカウトについてはこの前お断りさせて頂いたと思うのですが?」
「今日は単なる見学だよ、君の邪魔をするつもりは無いさ」
ドリームジャーニー「そうですか、ならばまあよろしいのですが…」
せっかくの機会だ、この前聞けなかった彼女の『目的』について聞いてみよう
「ドリームジャーニー、君、妹さんが居るんだ?」
ドリームジャーニー「…あの人達の話を盗み聞きしてました?趣味が悪いですよ?」
「聞こえてしまったものでね、気を悪くしたならすまない」
ドリームジャーニー「はあ、構いませんよ
以前ご迷惑もお掛けしていますし」
「俺は迷惑だなんて思ってはいないけどね」
そういった俺の顔を呆れたような表情で見上げつつ
ドリームジャーニー「ええ、飛びきりの天才ですよ
オルフェーヴル、と言えばトレーナーさんでしたら聞いたこと位はあるのでは?」
…!オルフェーヴル!
あの本格化前にも関わらず三冠すら射程圏内だと言われる有望なウマ娘の! - 16124/06/26(水) 02:07:04
ドリームジャーニー「その様子ですとご存じのようですね
ええ、あの子は私の妹です
ですから私は、あの子の姉として誰にも恥じない力を身につけなくてはいけないのです」
そう言って拳を握るドリームジャーニーの横顔は語調と相反するように優しかった
「君達は、姉妹仲が良いんだね」
ドリームジャーニー「それは勿論、可愛い妹ですもの
そんな妹に先にデビューする姉として格好いい所を見せたい…
そう思って努力するのは間違っていますか?」
そう言ってこちらを覗き込むドリームジャーニーに
「いいや、素晴らしいモチベーションだと思うよ」
俺は心からの賛辞を投げかけた
ドリームジャーニー「ありがとうございます
あ、でももしオルフェーヴルをスカウトしたいというのなら」
ざわり
ドリームジャーニーからまたもや粘ついた暴力の気配が立ち上る
ドリームジャーニー「私の面接を最初に受けて頂かないと困りますね?」
そんな心配性なお姉さんであるドリームジャーニーに
「俺は、君が走る姿が一番美しいと思ってるから君と契約したいんだけどね」
心から正直に俺は応えたのだった
ドリームジャーニー「お断りいたします」
そういったドリームジャーニーの表情も、晴れ晴れとした良い笑顔だった - 17124/06/26(水) 02:07:27
第3話『旅の恥は掻き捨て‐日本の諺』
またもや模擬レースを見に来ている
勿論俺が見に来ているのはただ一人、ドリームジャーニーだ
レースの展開は前回と同じように中段で脚を貯めるドリームジャーニーを、先行、差しのウマ娘が警戒して進む
そして最終コーナー、早めに脚の回転数をあげてするりと直線に入る前に中段から抜け出したドリームジャーニーだが
先行ウマ娘「やらせないっ!」
逃げウマ娘「こっちは通さない!」
またもや前回と同じように前にいるウマ娘達にコースを塞がれ、ロスを承知で大外に回るかそれとも身体をぶつけて競り合うかの二択を強制されていた
ドリームジャーニー「チッ…、ここだ!」
そんな中でも比較的ブロックの薄い所を目がけて加速しながら切り込んでいくドリームジャーニー
ドリームジャーニー「はああああ!!!」
そのまま狭い隙間を切り裂くように抜け出してゆく!!
ドリームジャーニー「どうだっ!」
そのまま先頭を見事に差しきって一着でゴール板を通過したドリームジャーニー
しかし… - 18124/06/26(水) 02:07:51
審判役のトレーナー「えー、今の模擬レース、6番ドリームジャーニーさんは斜行で3番に不利を与えたと見なされて降着、三着扱いとなります」
狭い隙間を上手く抜け出したのは良いものの、抜け出した時に相手の進路を妨害したと認定され、降着になってしまった…
ドリームジャーニー「…………クソっ!」
声をかけようとしたがドリームジャーニーはこちらに気付かず体操服のままで無言でどこかへ行ってしまった…
ドリームジャーニーはここまでの模擬レースで好走はするものの勝利は出来ていない
やはり相手にその鋭い末脚を警戒されて、抜き去るルートをブロックされているのがその原因だ
これを何とかするためにドリームジャーニーは、肉体改造とレース戦略とに詳しい老練なトレーナーを求めているのだろう
しかし、それにはどれだけの時間が必要なのだろうか
ウマ娘の全盛期は短い、そんな期間が肉体改造だけで終わってしまったら?
ドリームジャーニーがレース後にカリカリしていたのもそこらが理由だろう
彼女をスカウトしたいということもあるが、それ以上に彼女の悩みを解決する手助けをしたくて、俺はその後を追いかけた - 19124/06/26(水) 02:08:13
居た…!
ドリームジャーニーは、最初に俺が彼女と出会った旧トレーナー棟の裏手に佇んでいた
あの時と違うのは、彼女は一人で、更に言うなら何かを堪えるように肩を震わせていたことだった
「ドリームジャーニー!」
俺が声を掛けるとともに振り向いた彼女だが
ドリームジャーニー「来ないで下さい」
能面のような無表情で告げられたその声はぞっとするほどに冷たかった
ドリームジャーニー「来ないで下さい
私は今とても機嫌が悪いんです」
「模擬レース、残念だったね」
ドリームジャーニー「見ていたんですか、なら、私が不機嫌なのもおわかりでしょう」
「だから、少しでもそれを解決する手助けがしたいと思って来たんだ」
そう俺が告げると
ドリームジャーニー「手助け?貴方が?!私に!!!???
は、ハハ、ハハハハハハハハハ!!」
ドリームジャーニーは狂ったように笑いだした
ドリームジャーニー「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
巫山戯るなよ、おい」
そう言って俺の顔を睨め上げるその顔は、初めて会ったときよりも更に険を増し、それ以上に痛々しかった - 20124/06/26(水) 02:08:33
ドリームジャーニー「経験もスキルも足りない半人前のトレーナーが、私のこの悩みを解決する手助けをしたいと?
この、貧相で軽く、当たり負けするどうしようも無い身体を何とかすると?
それはそれは、そんな見事な手腕を発揮して頂けるのなら、貴方は今まで現れた全てのトレーナーの中でもぶっちぎりの天才なのでしょうね、出来るんだったらヨオ!!!!」
ズダン!!!!!
以前のように天地がひっくり返る、覚えのある痛みが俺の背中に走る、そして懐かしさすら覚える圧迫感が俺の首を締め上げた
ドリームジャーニー「そんなことが出来るんなら、今すぐ私のこの身体を何とかして見ろ!!
出来もしないことを簡単に言いやがって!!
何様だよお前はヨオ!!!」
ネクタイの先端を右手で握り締め、自分の胸元に引き寄せるようにして俺の首を締め上げる、
そして大粒の涙を零しながら噛みつくように俺の眼を覗き込むその姿は相変わらず凄絶に美しくて
「は、ハハハハハハ」
塗り潰されるような濃密な暴力の匂いの中、俺は思わず笑っていた - 21124/06/26(水) 02:09:33
ドリームジャーニー「何がおかしいっ!!」
ガンッ!
彼女の額と俺の鼻柱が激しく衝突する、目の前に火花が散る、鼻から生温い感触と共に激痛が走る
「ハハハハハハ!!ハハハハハハ!!ハハハハハハハハハ!!」
ああ、これだ、これだよ
ドリームジャーニー「何がおかしいってんだテメエはァ!!!」
ガァン!
頬に激しい衝撃が走る
何かがズレたような感覚がアゴに走る
「ハハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハ!!」
ドリームジャーニー「テメエは!何なんだよォ!!!!」
ズダン!!!!!
再び世界が回る
背中に走る再びの痛み
息が詰まる
ドリームジャーニー「もういい、テメエ適当な事ばっかり言いやがって、お前は、ここで、」
「やっとだなあ」
必死に絞り出した声は、みっともなく掠れていた
ドリームジャーニー「あ゛?」
「やっと、俺に、本気の目線を向けてくれたな、ドリームジャーニー」
ドリームジャーニー「……あぁ?」
「その目だよ、俺が、惹かれたのは、その、激しい、感情のほとばしる眼だ、自分が世界の王様だって、無条件で信じてて、そうじゃない世界が、許せないって瞳だ」
ドリームジャーニー「テメエ、ヤクでもキメてんのか?
何を訳わからねえ事を言ってやがる?」
震える手を、ドリームジャーニーに向かって伸ばす - 22124/06/26(水) 02:10:11
「俺は、俺なら、俺とお前なら」
ドリームジャーニーの、頬にそっと触れる
「その激しさを普段の冷静さで制御しきれたのなら、誰にも負けない、無敵のウマ娘、ドリームジャーニーになれる
オルフェーヴルの姉として、誰にも指さされない、本当の、本物の、夢を叶える道を踏破できる」
ドリームジャーニー「お前…」
もう片方の手も、頬に伸ばす
「なあ、ドリームジャーニー、小さいとか、華奢だとか、軽いだとか、そんな小っさい事でイライラさせて来やがるこの世界に腹が立つか?」
ドリームジャーニー「…ああ、腹が立って仕方ねえ」
両手でしっかりとドリームジャーニーの顔を固定して、己の顔に引き寄せる
「この世界に、『ドリームジャーニー』を認めさせてやりてえと思うか?」
ドリームジャーニー「ああ、何時だって、思ってるぜ」
こつん
今度はゆっくり、そっと優しく俺とドリームジャーニーの額が触れる
「なら、俺を信じてくれ
俺はもう、『夢への旅路』ってクスリが身体中にキマっててどうしようもないんだ」
ドリームジャーニー「バカかよテメエ」
俺の両手と、ドリームジャーニーの両手とが、お互いの頬を包み込む
「ああ、バカなんだ、今お前につけられたこの傷ですら、ドリームジャーニーって存在の証明だと思えば愛しくてしょうがないんだ」
ドリームジャーニー「なら、コイツをやるよ」
ドリームジャーニーが軽く身を起こして俺の頭を胸に抱え込むようにする
俺の視界が、嗅覚が、触覚が、ドリームジャーニーで包まれる
惜しむらくは血のニオイがキツい事か
がり
右耳に音と共に激痛が走る
ドリームジャーニー「動くなよ、変にズレると余計痛えぞ」
カチャ、カチャ、ヌルリ、パチン
耳元に重い違和感が着いた
ドリームジャーニー「お前、それだけ言うんなら、私を連れて行けよ、どこまでもどこまでも、夢への旅路の、終着点まで」 - 23124/06/26(水) 02:10:32
俺の頭をゆっくりと己の膝の上に横たえたドリームジャーニーの、右耳から耳飾りが無くなっていた
「ドリームジャーニー、これは…」
ドリームジャーニー「私の存在を、ずっと証明し続けられるように、それは外すなよ、トレーナー」
「……!!ああ、一生証明し続けてやるさ!!
これからよろしくな!」
ドリームジャーニー「こちらこそよろしく、ですよ
私の、トレーナー」
体操服のまま俺の血に塗れて微笑むドリームジャーニーの姿は、やっぱり最高に美しかった - 24124/06/26(水) 02:11:00
第4話 『旅に出ると性格が表れる‐中東の諺』
俺の耳に旅路の証明が着いた次の日、トレーナー室で俺達は次の模擬レースの作戦を練っていた
「まず、今までの戦法を変えよう」
ドリームジャーニー「…何故ですか?
確かに今の差しだと前の相手にブロックされやすい事は事実ですが」
自分が得意とする戦法を否定されてやや不満顔のドリームジャーニー
「その通り、君の末脚なら、ブロックさえされなければ今の戦法でも困ることは無い
でも逆に言うなら、前の相手にブロックさえキチンとすれば君は抑えられるとナメられているという事でもある」
ドリームジャーニー「それはそれで腹が立ちますね…」
あからさまにむっとした表情
それを宥めるために次の内容を説明していく
「だから、もっと差しに行くのを遅らせて、相手のブロックするタイミングをずらすんだ」
ドリームジャーニー「スパートを、遅らせると言うことですか?
それはもう、差しでは無くて追い込みでは?」
「そうだね、一般論として追い込み戦法は前の脚質の相手を捉えきれ無いリスクが高いと言われている、追い込みを選択するウマ娘が少ないのはそのためだ」 - 25124/06/26(水) 02:11:50
ドリームジャーニー「セオリーとしてはそうですね」
「ただ、ジャーニーの末脚なら、そんなことは心配しなくて良い
君の一瞬で最高速に辿り着くスパートは天性の物だ
君が嘆いていた軽い体、華奢な骨格、それら全てが『加速しやすさ』と言うメリットに変換されている」
ドリームジャーニー「事実の確認だとしてもそれを言われるとムカつきますね…」
「すまんが、ここはガマンしてくれ…
でだ、追い込み戦法の最大のメリットと言うのが、コース取りが最後に出来ると言うことだ」
ドリームジャーニー「それは一般論で言うと、コースの走りやすいところが既に埋まっていると言うデメリットなのでは?」
「ところがだ、これを見てくれ」
そう言って俺は彼女の前にタブレットを差し出した
ドリームジャーニー「これは、ミスターシービー先輩の?」
「そう、有名な彼女の菊花賞だ
淀の上りで仕掛けたことだけがクローズアップされるが、このレースでの注目ポイントはもう一つある」
ドリームジャーニー「それは?」
「相手のマークを無意味にした彼女のライン取りだ」 - 26124/06/26(水) 02:12:15
タブレットの画面では、ミスターシービーが坂の下りで次々と前を行く相手を切り捨てて行く
「こうやって相手が最終直線でコース取りに入る前に外側から捲るようにしてスパート体勢に入ったなら、逆に前のウマ娘達にどこをブロックすれば良いのかを迷わせる事が出来る」
ドリームジャーニー「なるほど…そう言った視点でこのレースを見たことは有りませんでしたね…」
「これが、君が無理な肉体改造を行う事無く勝つための俺から提示できるレースプランだ、お気に召したかな?」
ドリームジャーニー「ええ、素晴らしいと思いますよ
一点を除いて」
ドリームジャーニーがむくれたような顔をしている
何か怒らせるようなことをしてしまっただろうか? - 27124/06/26(水) 02:12:34
「一点とは?」
ドリームジャーニー「簡単です、例え真面目な説明のためとは言え、私をチビだと言ったことです」
がたり、椅子を引いて立ち上がるドリームジャーニー
「待て、ドリームジャーニー、これは君が勝つために必要な説明であって…」
ドリームジャーニー「ええ、そうですね、でも、それとこれとは関係ないんです、私がムカついたんですから」
そう言って俺のネクタイの先端を掴むドリームジャーニー
ぐい、と強く引かれたその後に広がるのは
がり
あれ以来生傷の絶えない右耳への痛み
がり、はむ、ぺろり
ドリームジャーニー「ふう、こんな物ですね
ではトレーナー、貴方の戦法が果たして実際に役に立つのか、練習コースで実践と行きましょう」
そう言って清々しい笑顔で立ち上がるドリームジャーニー
俺は右耳の傷を押さえながらそんな彼女に苦笑いで着いていく事しか出来なかった
その次の模擬レース、ドリームジャーニーは大差で一着となったことだけは最後に伝えておこう(了) - 28124/06/26(水) 02:13:54
以上、シナリオが発表される前に駆け込んだ偽ドリームジャーニーシナリオでございました
お楽しみ頂けるなら幸いです
それでは良い夢への旅路を - 29二次元好きの匿名さん24/06/26(水) 02:20:03
暴力的な愛情表現は好きよ
後はあれだな、擬音をもうちょっと省いたり台本形式から卒業する(セリフ回しだけで誰の言葉なのかわかるように意識しながら書く)とか段落を整頓したりするともっと純化してクオリティが上がってくると思うよ