(SS注意)ちょっといいかも苫小牧

  • 1二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:11:11

     空港から、外へと出る。
     目を焼く眩しい日差しと、心地良い爽やかな風。
     雲一つない青空、丁度良い気温、まさしく今日は────。

    「うーん、今日は絶好の苫小牧日和だべ!」

     俺が考えていたことを、隣に並んで歩いていたウマ娘が口に出す。
     二つに分けて垂らした長い鹿毛の三つ編み、水色のメンコと白いベレー帽。
     担当ウマ娘のホッコータルマエは、ハスカップ色の瞳をきらきらと輝かせていた。
     直後、ハッと何かに気づいたように耳をピンとさせて、少しだけ困ったような表情を浮かべる。

    「あっ、もちろん、雨の苫小牧、雪の苫小牧も素敵なんですよ?」
    「ははっ、ちゃんとわかってるよ」
    「……でも、今日連れて行きたいところは晴れてないと行きづらいので、やっぱり良かったです」

     タルマエは改めて空を見上げて、ほっと安堵のため息をつく。
     この日のことを、彼女はとても楽しみにしていた。
     たくさん時間をかけてプランを練って、苫小牧の魅力を伝えられる、この日のことを。
     だから俺も、彼女が思う通りの天気でこの日が迎えられたことが、とても嬉しかった。

    「それじゃあ、時間が勿体ないし行こうか? 電車だっけ?」
    「あっ、はい! 苫小牧は空港から近くて、とっても行きやすいんですよ!」

     尻尾を大きくそして激しく動かしながら、タルマエは俺の手を取り、進んでいく。
     俺はそんな彼女の笑顔を、微笑ましく見つめながら、着いていくのであった。

  • 2二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:11:26

     ぐう。
     のんびりと寛いでいられる電車の中、俺の腹の虫が妙に大きく鳴いてしまう。
     ……実のところ、今日は寝坊しかけたため、朝を抜いてきてしまったのだ。

    「……やっぱり、お腹空いてるんですか?」

     きょとんとした顔をしたタルマエが、覗き込むようにして問いかけて来る。
     さすがに、鋭い。
     俺はお腹をさすりながら、苦笑いをした。

    「実は、ちょっとだけ」
    「……もしかして、朝ごはん抜いてきました?」
    「…………はい」

     ジトっとした目で見つめるタルマエに、俺は正直に答えるしかなかった。
     すると彼女は得意気な微笑みを浮かべながら、自らの鞄を探り始める。
     そして、自慢するように、小さな箱のようなものを取り出した。

    「そんなこともあろうかと、じゃじゃん☆ 本日の苫小牧グルメ、駅弁『ほっきめし』ですっ!」
    「おおっ」

     駅で何かを買っていると思ったら、まさかこんなものを用意してくれているとは。
     俺はそれをありがたく受け取り、包みから取り出して、蓋を開ける。
     炊き込みご飯の上に肉厚なホッキ貝が乗った、シンプルな内容。
     だがそれ故に、とても魅力的に見えて来る。
     再び、ぐうっとお腹が鳴ってしまい、俺はそれを誤魔化すように割り箸を割った。
     ぱきっと音を立てて割れた箸は、かなり歪な形となっている。

  • 3二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:11:40

    「……割り箸割るの、下手っぴですね」
    「……いただきます」
    「ふふっ、どうぞ、召し上がれ」

     くすくすと笑みをこぼすタルマエから目を逸らしつつ、炊き込み御飯をぱくりと一口いただく。
     一見するとシンプルな炊き込み御飯に見えたが、中には様々な具が混ぜ込まれていた。
     山の幸、海の幸、とても豊かな味わいがして、これだけでも大きな満足感がある。
     次いで、ホッキ貝。
     柔らかくもコリコリとした食感、噛めば噛むほど旨味がじわりと染み出してくる。
     炊き込み御飯とも相性抜群で、食べ始めると箸が止まらなくなってしまう。
     気が付けば、あっという間に食べ切ってしまっていた。

    「ふぅ、ご馳走様でした」
    「どうでしたか……なーんて、そのお顔を見れば一目瞭然ですけど」
    「うん、すごい美味しかった、上手く言えないけど優しくて、癒される味で、好きだな」
    「あっさりめの味付けが嬉しいんですよね……あなたも好きと言ってくれて、良かったです」

     俺の感想を、タルマエは嬉しそうに聞いてくれる。
     その尻尾はゆらゆらと、ゆっくり、小さく揺らめいていた。

  • 4二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:11:52

    「ふぅ、潮風がなまら気持ちいいべ~☆」

     苫小牧駅を降りて、しばらく歩いて、苫小牧港へとやって来た。
     たくさんの船が並ぶ中、タルマエは潮風に髪を靡かせながら、目を細めている。
     彼女の言う通り、流れて来る潮風と磯の匂いは、確かにとても気持ちが良かった。

    「夜になると船はライトアップされて、とてもロマンチックな景色が楽しめるんです」
    「へえ、これだけの船が明るく輝いていたら壮観だろうね、是非見てみたいなあ」
    「……それは、その、また別の機会に」

     何故か照れたように頬を赤らめるタルマエ。
     震えるように小さく動く彼女の尻尾は、どこか恥ずかしげに見えた。
     そんな中、遠目ではあるが、漁船とは雰囲気の異なる大きな船影を見かけた。

    「あれは、フェリーかな?」
    「えっ、あっ、そうですね、苫小牧には本州からフェリーでも行けるんですよ」
    「そっか、今度来るときはフェリーで来ても良いかもね」
    「あー……船、お好きですか?」

     タルマエは、少しだけ気まずそうな顔になった。
     そしてちらちらと周囲を見回してから、そっと俺の横に来て、耳元で呟く。

  • 5二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:12:13

    「実は私、長い時間船に乗るのが苦手で」
    「あっ」
    「……で、でもフェリーでの船旅もとっても素敵ですから!」 

     タルマエはすぐに離れ、何てこともなかったように笑みを浮かべ、尻尾を大きく動かす。
     俺は頭の中で、そういえばそうだった、と思い出した。
     船自体が嫌い、というわけではなく、船に乗るとすぐ酔ってしまうから、と以前話していたのだ。
     すっかり失念していたな、と頬を掻きながら、俺は答える。

    「船に乗るのも、船を見るのも好きだけど……でも、飛行機がいいかな」
    「……そうなんですか?」
    「うん、飛行機だったら元気な君と一緒に来れるからね、そうしている時間の方が、俺は好きだよ」
    「……っ!」

     びくっと、タルマエの耳が跳ねた。
     パタパタと彼女の尻尾が細かく揺れて、その頬が赤く染まっていく。
     ……海風で冷えたのだろうか、俺は心配になって声をかけた。

    「タルマエ? 寒いなら上着を貸そうか?」
    「……は?」
    「いや、急に顔が赤くなったから、そうなのかなって」
    「なっ、あっ……けっ、結構です! さあ、次は『ぷらっとみなと市場』に行きますからねっ!」

     タルマエは口をぱくぱくさせてから、ぷりぷりと怒って先に進んでしまう。
     怒らせてしまったかな、そう考えながらついていくと、突然、彼女は立ち止まる。
     そしてくるりと振り向き、俯きながら、小さな声で言葉を紡いだ。

    「…………寒くはないですけど、上着はちょっとだけ貸してください」

  • 6二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:12:32

    「ここ、『ぷらっとみなと市場』では北海道産の採れたて新鮮な食材を販売している市場や、世界最大規模のほっき貝資料館も見どころですが、苫小牧グルメの殿堂なんていわれるほどに並んだ飲食店も魅力なんですっ!」

     華やかで活気のある市場の中を歩きながら、タルマエはそう説明をしてくれる。
     まるで自分のことのように誇らしげで、見てるこっちが嬉しくなってしまうほどだった。
     彼女に連れられて、飲食店が立ち並ぶエリアへと辿り着く。
     美味しそうな匂いが流れていて、また腹の虫が鳴いてしまいそうであった。
     
    「どれも美味しいんですが、今日は『ぷらっと食堂』のホッキカレーを……あっ」

     その時、タルマエのロコドルスマイルがぴしりと固まる。
     ……うん、俺は朝に『ほっきめし』を食べたばかりなんだよな。
     多分、俺が朝を抜いて来て、お腹を空かせていたのが彼女の想定外だったのだろう。
     まあ、ホッキ貝は好きだし、構わないのだけれど。
     俺は停止してしまったままの彼女の背中を軽く叩いて、問いかける。

    「ホッキカレーは以前も食べたけど、ここのカレーの特徴とかはあるの?」
    「……! はっ、はい、こちらのお店はオリジナル配合のスパイスで少し辛口なんです、甘味のあるホッキ貝と相性抜群ですよ!」

     そこはさすが歴戦のロコドルといったところか。
     少し切っ掛けを作ってあげれば、タルマエはすぐに普段の調子を取り戻し、元の流れに乗ってみせた。
     慌ただしく大きく尻尾を揺らしながら、彼女はお店の中へと、俺の手を引く。
     微笑ましく見つめている店員さんに出迎えられながら、俺達はお店の中へと進んでいった。

  • 7二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:12:47

     カレーを堪能し、とまチョップの顔出し看板で写真を撮ったりして、市場を後にする。
     次に俺達が向かったのは、たくさんの緑に囲まれた美しい渓谷。
     草木が風に揺れる音色、流れる水のせせらぎ、清々しい自然の匂い。
     差し込む日差しに照らされたタルマエの笑顔は、どこかリラックスしているようにも見えた。

    「やっぱり、新緑の季節の樽前ガローは、本当にきれいで、落ち着きますね」
    「そうだね、あれは、苔……なのかな? それが崖一面に広がってて、幻想的というか」
    「ええ、ここには60種類以上の苔が生息しているんです」
    「そんなに」
    「ふふっ、野鳥なんかも見られるんですよ?」

     橋の上からで、そっと顔を出して覗き込む。
     垂直に斜面にはカーテンのように苔が広がっており、あまり見ない、不思議な景観となっていた。
     渓流には透き通るようなきれいな水が流れていて、日差しできらきらと輝いている。
     ガローとは、崖の間に川が流れる場所────という意味だと、先ほどタルマエが教えてくれた。
     まさにその通りの場所なのだが、それだけではない魅力に溢れていると思う。

    「出来れば、もう少し近くで見てみたいね」
    「一応降りることも出来るんですけど、危険なのであまりオススメはしません」

     タルマエは申し訳なさそうな表情で、けれど真剣な眼差しでそう告げる。
     苫小牧のプロフェッショナルともいうべき彼女が言うのだ、間違いないだろう。

  • 8二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:13:01

    「そっか、残念」

     惜しいな、という正直な気持ちが、言葉になって漏れてしまう。
     それにタルマエの耳がぴくりと反応して、彼女は顎に手を当てて、俯き、考え込んでしまった。
     ……ちょっと、困らせるようなことを言ってしまったかな。
     俺が謝罪を告げようとした直前、彼女はばっと顔を上げて、じっとこちらを見つめる。
     そして、少し口元の引きつった笑顔で、口を開いた。

    「そっ、その! 樽前ホコーなら! ちっ、近くで見放題だべさ!?」
    「えっ」
    「…………ごめんなさい、今のは忘れてください」

     タルマエは、即座にすんとした表情になり、顔を背けてしまう。
     しかし、その頬は真っ赤に染まり、身体はぷるぷると震えて、耳は力なく垂れてしまっていた。
     その様子があまりにも可愛らしく、心の奥底で良くない感情がゆらりと蠢く。
     そして、俺は回り込んで彼女の顔を覗き込み、少し意地悪をしてしまうのであった。

    「うん、こっちの景色も、とてもきれいだね」
    「……~~っ!」

     ────結果、俺はしばらく背中を尻尾でしばかれながら移動するハメとなった。

  • 9二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:13:16

    「この展望台からは、苫小牧全体をぐるりと見渡すことが出来るんですよ?」
    「本当だ、港に、市場に……」
    「はい、樽前山山麓も、さっき立ち寄った浜辺も、ぜーんぶここから眺められます」

     方向によって太平洋、樽前山、勇払原野、住宅地、工業地帯と様々な顔を見せてくれる。
     ここ、緑ヶ丘公園展望台は、苫小牧一の眺望を誇る展望台として、地元の人たちから親しまれているらしい。
     こうして上から見てみると、苫小牧の街並みが碁盤の目のように整備されていることがわかる。
     この街の魅力を改めて認識出来る、この展望台はそんな場所なのだろうと感じた。
     
    「なるほど、今日一日の締めには持って来い、ってところだね」

     俺は、何気ない気持ちでそう言った。
     先ほど、ここが最後の場所だという説明を受けていたからだ。
     本来はこの後にも行く予定だったのだが、諸般の事情で行けなくなってしまったとか。
     そちらはまたいつか別の機会に行けるといいな、そう思いながら彼女の顔を見やる。

    「……えっ?」

     タルマエは、大きく目を見開いて、俺のことを見つめていた。
     俺の言葉が信じられない、と言わんばかりに。
     しかし、俺や周囲の視線に気づいたのか、ハッとした様子で彼女は我に返る。

  • 10二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:13:32

    「あっ、そっ、そうですね! 今はまだ早いですけど、夜景も素晴らしいんです!」
    「……そっか」

     尻尾を右へ左へ激しく動かしながら、タルマエは外の景色に意識を向ける。
     多分、彼女の中には、俺と同じ感情が渦巻いているのだと思う。
     この時間が終わってしまうのが、寂しいという気持ちが。
     楽しい時間は、いずれ終わる。
     もちろん、学園で過ごしている時間も素晴らしいものだけれど、こういう時間はまた別格だ。
     じゃあ、せめて、この景色だけでも目に焼き付けておかないとな。
     俺も彼女の見てる方向へ視線を向ける────すると、くいっと、服を引っ張られた。
     タルマエは、こちらを向かないまま俺の服の裾を摘まみ、俺以外には聞こえないうような小さな声を出した。

    「……この後、少しだけ良いですか?」

  • 11二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:13:46

     1時間後。
     俺達二人は、展望台外のベンチに並んで腰かけていた。
     樽前ガローほどではないが、こちらも豊かな自然に覆われていて、空気が美味しい。
     時間のせいかはたまた偶然か、周囲には人がおらず、穏やかな静寂に包まれていた。

    「ふう」
    「お疲れ様、タルマエ……今日は案内をしてくれて、ありがとね」
    「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」

     俺の言葉に、タルマエはぺこりと頭を下げた。
     色々と趣向を凝らしたり、わかりやすい説明をしてくれたりと、頑張っていた彼女。
     それに対して、俺は着いて来て、聞いていただけなので、お礼を言われると少し困ってしまう。
     けれど、否定するのも違う気がするので、頬を掻きながら受け止めることとした。
     彼女は、茜色に照らされた空を見つめながら、言葉を紡いだ。

    「苫小牧の魅力を、伝えられましたかね?」
    「そりゃあもう、一番近くで見ていた俺が保証するよ」
    「……えへへ、それはとっても、心強いですね」

     タルマエは小さく尻尾を振りながら、照れたようにはにかむ。
     すると突然、彼女はきょろきょろと周囲を見ながら、耳をくるくると回し始めた。
     そして、深呼吸を一つ。
     彼女はそっと、身体をこちらへと傾けた。
     とん、と肩に重みと、そしてじんわりと温もりが乗っかる。
     ふわりと漂うハスカップのような甘い香りに、ほんのわずかに混ざり汗の匂い。

  • 12二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:14:04

    「タルマエ?」
    「……ちょっとだけ、肩を借りても、いいですか?」
    「……うん、俺なんかの肩で良ければ、いくらでも」
    「…………あなたの肩が、良いんですよ?」

     一瞬だけむっとしたように、タルマエはこちらを睨む。
     けれど、すぐに気持ち良さそうに目を閉じて、頭を俺の肩に預けてくれた。
     そして彼女は、独り言のように、ぽそりと呟き始める。

    「────温かくて、優しくて、居心地が良くて、幸せになれる場所なんです」
    「うん、キミがあれだけ頑張るのもわかるくらい、素敵なところだよね」
    「……それじゃあ、半分しかわかっていませんね」

     するとタルマエは肩に頭を乗せたまま、きゅっと腕を絡めて、身体を寄せた。
     俺の腕が、彼女の柔らかくて暖かな感触に包まれる。
     とくんとくんと高鳴る鼓動が響き渡るが、それがどちらのものかは、わからない。
     そして、タルマエは、囁くように告げた。

    「トレーナーさん────ここが、私の“ふるさと”なんですよ」

  • 13二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:14:17

     二人で苫小牧を巡ってから、数日後。

    「あれは、一体、どういうことなんですか!?」

     トレーナー室には、タルマエの怒号が響いていた。
     その相手は俺、ではなく、スマホでの電話先。
     彼女があそこまでヒートアップするのは珍しいが、理由ははっきりしていた。
     俺は苦笑いを浮かべながら、先ほどまで彼女とともに見ていた動画を、スマホで眺める。

    『うーん、今日は絶好の苫小牧日和だべ!』
    『ふぅ、潮風がなまら気持ちいいべ~☆』
    『こちらのお店はオリジナル配合のスパイスで少し辛口なんです、甘味のあるホッキ貝と相性抜群ですよ!』
    『ここには60種類以上の苔が生息しているんです、ふふっ、野鳥なんかも見られるんですよ?』
    『この展望台からは、苫小牧全体をぐるりと見渡すことが出来るんですよ?』

     画面には、苫小牧の様々な観光地を案内してくれる、タルマエの姿。
     先日の苫小牧巡り────あれは苫小牧PRとして依頼された、彼女の仕事の一環であった。
     とまこまい観光大使である彼女と観光名所を共に歩く、というコンセプトの動画撮影。
     先方から自然体な彼女も見たい、という話があったので、俺も一緒に招待されていたのだった。
     無論、動画の編集によって映っているのはほぼタルマエだけ、俺は腕とかがちょっと映るくらいである。

  • 14二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:14:31

    「映像自体は、まあ、はい、素敵な出来だとは思いますけど……っ!」

     その辺りは、俺も同じ意見だった。
     苫小牧の観光地をアピールしつつ、タルマエの可愛らしさも良く出ている。
     改めて見るとすごい説明口調だな、とは思うが、そういう目的なので仕方のないことだろう。
     素人の俺から見ても、苫小牧の魅力を十二分に伝えられている仕上がりになっていると思う。
     じゃあ何故、彼女が怒っているのかというと、それは動画のラストに原因があった。
     俺はシークバーをスライドさせて、問題のシーンへと飛ばす。

    「なっ、なんであの場面を、というか、撮っていたんですか!?」

     この動画の締め。
     それはベンチに腰かけて、夕焼けに頬を照らしながら、幸せそうな微笑みで腕を抱くタルマエの姿。
     彼女も周囲を確認してはいたみたいだが、がっつりと撮影されてしまっていたらしい。
     なお、この動画はすでに配信されていて、タルマエ自身も宣伝しまくっていたので、色んな人達の目に晒されている。
     ……相手が相手だっただけに『私は苫小牧を信頼してますので!』とか言って確認をしなかった俺達にも落ち度はあった。

    「声までは拾われてないですけど…………なっ、何を言っていたかは良いじゃないですか!」

     タルマエは顔を真っ赤に染めて、抗議を続けていた。
     とはいえまあ、別段おかしなところはないし、評判も上々なので動画の差し替えは不要な気がするのだが。
     俺は改めて、動画に移るタルマエの姿を見やる。
     苫小牧のため、尽力を続ける彼女の素が垣間見える、穏やかな表情。
     色んな顔を見せてくれる彼女から、あえてこれを持ってくる苫小牧のセンスは、さすがと言わざるを得ない。
     こっそりこのシーンを静止画で保存しつつ、俺は担当者を称えるように、そしてタルマエに聞こえないように、呟いた。

    「…………ちょっと良いかも、苫小牧」

  • 15二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 09:14:56

    お わ り

    元ネタはこちらの動画です


  • 16二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 17:51:07

    素晴らしい…

  • 17124/06/27(木) 19:51:21

    >>16

    ありがとうございます

    そう言っていただけると幸いです

  • 18二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 20:04:49

    なんだなんだ苫小牧のステマかと一瞬思うレベルの描写力でした笑
    照れ隠しに尻尾ではたくタルマエ…いい…

  • 19二次元好きの匿名さん24/06/27(木) 20:35:00

    飯テロで腹を空かさせてからダダ甘デートを食わせるとは恐ろしや苫小牧


    > 「…………寒くはないですけど、上着はちょっとだけ貸してください」

    > 「そっ、その! 樽前ホコーなら! ちっ、近くで見放題だべさ!?」


    ここすき、あざといカワイイ

  • 20124/06/27(木) 23:01:17

    >>18

    まあ実質ステマみたいなもんですね

    照れ隠しするタルマエはお気に入りのところです

    >>19

    書くに当たって調べてて食べたくなりましたね ホッキカレーどっかで食べれないかな

    さすがロコドルあざとい

オススメ

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