- 1◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 21:55:35
- 2◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:02:18
※注意事項
このスレは、ばんえい競馬を見に行って脳を焼かれたスレ主がなんとなく作ったダイスを使ったレースゲームのテスト用です。
スレ進行とノリでゲームルールが改訂/アップデートされます。
まだキャラの外見や特徴が未定な点が多く、最低限の特徴を捕らえただけなので、絵は今後も変わっていくかもしれません。
それでも良ければお付き合いください。
現在、テレグラフが正常に貼り付けられないため、まとめテキストも貼っていきます。
テレグラフはリンク先の、tの後ろの全角『あ』を削除してください。
tあelegra.ph - 3◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:02:50
3スレ目
【ばんえいウマ娘】オリウマ娘が北の大地を駆ける3|あにまん掲示板あたしは、特にこれといった特徴のない、どこにでもいる平均的なウマ娘!それでも、ウマ娘に生まれたからにはレースの世界に飛び込んでみたい!輝いてみたい!その念願がかなって、帯広トレセン学園に入学できました…bbs.animanch.com2スレ目
【ばんえいウマ娘】オリウマ娘が北の大地を駆ける2|あにまん掲示板あたしは、特にこれといった特徴のない、どこにでもいる平均的なウマ娘!それでも、ウマ娘に生まれたからにはレースの世界に飛び込んでみたい!輝いてみたい!その念願がかなって、帯広トレセン学園に入学できました…bbs.animanch.com1スレ目
オリウマ娘が北の大地を駆ける|あにまん掲示板※注意事項①このスレッドは、スレ主がなんとなく作ったダイスを使ったレースゲームのテスト用です。②バランスが悪い、あんまり面白くないと感じたら削除するかもしれません。③初スレ立てで進行が不慣れなのに加え…bbs.animanch.com - 4◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:04:05
キャラクター紹介
【概要】1/2
名前:カミノクニスノウ
種別:ばんえい種(日本輓系種)
耳飾り:左耳
目の色:濃い青灰色
学年:不明
毛色:青毛
身長:191cm
スリーサイズ(いずれも100に近いほど大)
B:dice1d100=31
W:dice1d100=9
H:dice1d100=50
脚質:先行
特技:未定
苦手な事:未定
ルックス:dice1d100=59(100に近いほど美形。1に近いほど可愛い)
雰囲気:dice1d100=9(100に近いほどボーイッシュ。1に近いほどガーリー)
髪の長さ:dice1d100=32(100に近いほど長い/100で腰以上。1に近いほどショート/1でシャカール並み)
髪の癖:dice1d100=91(100に近いほど直毛/ストレート。1に近いほど癖っ毛/ウェービー)
- 5◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:07:30
【概要】2/2
趣味:
イラスト描き
ほとんど熱中しておらず、暇な時にちょっと描いたりするくらい。
描き始めて5年ほどで腕前は人並みか、やや下。
得意な事:
・動物(特に猫)の扱いが上手い
・ヘアアレンジが得意
備考:
・出生地は北海道上ノ国町(かみのくにちょう)。檜山管内。
・実家はコメ農家。
・五人姉妹の長女。妹はヒトミミが二人。ウマ娘が二人。
・祖母はめちゃくちゃ強かった。通算成績109戦50勝の通称”上ノ国の女傑”。
・トレセン入学前の一時期が残念な環境だっただけで幼少期の実績はある。
・実は怪我からの復帰直後(入学前に肋骨を骨折。現在は回復済み)
・実はすごい寂しがり屋。
・愛用のどきゅーとタイシンを実家に置いてきている。二体目を寮にお迎えするのは断念した。代わりのぱかプチ六体の為にアルバイト奮闘中(一体は入手済み)。
・各種職業への適性がやたら高い。むしろレースより仕事した方がいいくらい。
・ジンギスカンはタレ派。
直近の戦績:
選抜レース (ばんえい200) 9着 模擬レース (ばんえい200) 3着 メイクデビュー (ばんえい200) 1着 ジュニア級Cクラス戦 (ばんえい200) 1着
ハイセイコーマート帯広駅前店リニューアル記念 (ばんえい200) 1着
白菊賞 (ばんえい200) 3着
いちい賞 (ばんえい200) 1着
BGⅢナナカマド賞 (ばんえい200) 1着
南北海道地区選抜特別 (ばんえい200) 1着
赤鼻のトナカイ特別 (ばんえい200) 8着 - 6◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:08:25
AIイラストのプロンプト:
《masterpiece》, 《best quality》, {{top quality}}, 《ultra-detailed》, (super-detailed), ((umamusume)), (horse girl, horse ears:1.2), ((horse tail)), ((Anime Style, Flat Design)), ((thick lines)), vibrant colors, sharp focus, 1girl, (solo), 18 years old, (black hair, medium hair, straight hair:1.5), (dark blue streaked hair), blunt bangs, bob cut, break, dark green eyes, ((freckles)), perfect detailed hands, perfect detailed fingers, ((tall)), athletic, medium breast, narrow waist, big hip, curvy, (BULKY:1.3), Biceps, (muscular girl:1.3), (muscular female:1.4), fit, ((leg muscles)), ((thigh muscles)), arm muscles, break, (hair ornament on the left head), break, {tracen school uniform, purple sailor suit, pleated skirt, serafuku:1.8},SLIGHTMUSCLE, BULKY, BODYBUILDER, summer uniform, thighhighs - 7◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:09:38
寮の同室
名前:シャコータングラム
種別:ばんえい種(日本輓系種)
耳飾り:左耳
目の色:暗緑色
学年:不明
毛色:芦毛
身長:208cm
スリーサイズ(いずれも100に近いほど大)
B:dice1d100=95
W:dice1d100=5
H:dice1d100=42
脚質:逃げ
特技:未定
得意な事:未定
苦手な事:未定
ルックス:dice1d100=18(100に近いほど美形。1に近いほど可愛い)
髪の長さ:dice1d100=4(100に近いほど長い/100で腰以上。1に近いほどショート/1でシャカール並み)
髪の癖:dice1d100=15(100に近いほど癖っ毛/ウェービー。1に近いほど直毛/ストレート)
備考:
・出生地は北海道積丹町(しゃこたんちょう)。後志管内。
・ジンギスカンは塩コショウ派。
戦績:
いちい賞 (ばんえい200) 3着
BGⅢナナカマド賞 (ばんえい200) 2着
南北海道地区選抜特別 (ばんえい200) 2着
- 8◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:10:34
カミノクニスノウのトレーナーさん
【概要】
名前:正式名は未定
種別:人間男性
年齢:27歳
実力:dice1d100=55(100に近いほどハイスペック)
ルックス:dice1d100=32(100に近いほど美形。1に近いほど地味)
体形:dice1d100=69(100に近いほどグラマー/デブ。50で標準。1に近いほどスレンダー/痩せ)
性格:dice1d100=46(100に近いほど明るい/ポジティブ。1に近いほど厳格/物静か)
人格:dice1d100=83(100に近いほど人格者)
人脈・コネ:dice1d100=41(高いほど広い)
趣味:
ゴルフとクロスワードパズル
どちらも結構ハマっている。ゴルフ歴7年、クロスワード歴3年。
腕前は不明。北海道だしゴルフはパークゴルフかも?
備考:
・カミノクニスノウを勧誘した理由は、たまたま模擬レースを見て、磨けば光るものを感じた。
・スレ主の解釈としては「チームのサブトレ上がりか新人トレーナー」「地味だけど爽やかな体育教師」。
ただし未定部分が多いので、大いに変化する可能性あり。
- 9◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:10:57
名前:クインルゴサローズ
種別:ばんえい種(日本輓系種)
耳飾り:左耳
目の色:ローズレッド
学年:不明
毛色:芦毛
身長:205cm
スリーサイズ(いずれも100に近いほど大)
B:dice1d100=69
W:dice1d100=44
H:dice1d100=67
脚質:先行
特技:未定
得意な事:未定
苦手な事:未定
ルックス:dice1d100=79(100に近いほど美形。1に近いほど可愛い)
髪の長さ:dice1d100=85(100に近いほど長い/100で腰以上。1に近いほどショート/1でシャカール並み)
髪の癖:dice1d100=81(100に近いほど癖っ毛/ウェービー。1に近いほど直毛/ストレート)
備考:
・出生地は北海道美唄市。空知管内。
・大輪の花のような雰囲気のほわほわ口調ウォーモンガー。
戦績:
白菊賞 (ばんえい200) 1着
いちい賞 (ばんえい200) 2着
北央地区選抜特別 (ばんえい200) 1着
- 10◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:11:31
名前:モチモッツァレラ
種別:ばんえい種(日本輓系種)
耳飾り:なし
目の色:マゼンタ
学年:不明
毛色:鹿毛
身長:219cm
スリーサイズ(いずれも100に近いほど大)
B:dice1d100=23
W:dice1d100=11
H:dice1d100=32
脚質:逃げ
特技:未定
得意な事:未定
苦手な事:未定
ルックス:dice1d100=38 (100に近いほど美形。1に近いほど可愛い)
髪の長さ:dice1d100=25 (100に近いほど長い/100で腰以上。1に近いほどショート/1でシャカール並み)
髪の癖:dice1d100=20 (100に近いほど癖っ毛/ウェービー。1に近いほど直毛/ストレート)
性格:dice1d100=47 (100に近いほど明るい/ポジティブ。1に近いほど厳格/物静か)
備考:
・出生地は北海道美深町。上川管内。
・粘り強い足腰が持ち味。
・試しにパラメータを振ったところ根性がほぼ最低値だった為に他ステと入れ替えられた。
戦績:
白菊賞 (ばんえい200) 2着
BGⅢナナカマド賞 (ばんえい200) 3着
- 11◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:12:04
【ルール説明】
・コースについて
――ばんえい競バで使用されるコースは、直線200メートルのダートのみ。
――スタートからゴールまで走るレーンが決まっているセパレートコースとなる。
――ばんえい競バで使用されるコースの直線200メートルは、五つのエリアから成り立っている。
――スタートから第1障害までの約35メートルの直線。『第1直線』。
――続いて、高さが1メートルになる『第1障害』。
――降りた後が、第1障害から第2障害間で約77メートルの『第2直線』。
――続いて、高さが1.6メートルになる『第2障害』。
――最後が、第2障害からゴールまでの約62メートルの『最終直線』。
なおゴール手前40メートル地点には、上り勾配5パーセントになる10メートルの坂がある。
・判定について
――対象エリアごとに2d6を振る。
――対象エリアは、それぞれ難易度に応じた基準値を持つ。これに『ばんえい重量補正』を加えた値が、その対象エリアの最終的な基準値となる。
――各エリアでは使用するパラメータが決められている。
( 2d6の出目 + パラメータ補正 + 根性補正 + 脚質補正 ) が、そのエリアでの自分の走りの値となる。
――( 2d6の出目 + 各種補正) - ( 基準値 + 『ばんえい重量補正』 ) = 成功量となる。
――成功量が大きいと、そのエリアでの走りが良かったことになり、小さいと悪かったことになる。
――5エリア分の成功量を出したら、最終着順ダイス1d10を振る。
――1d10の出目 - ( スタミナ補正 + やる気補正 + 天候/馬場補正 + 5エリア分の総成功量) = 最終着順となる。
――各エリアをスムーズにクリアしている(総成功量が大きい)と最終着順ダイスの出目が悪くても勝利となる。
――いずれかのエリアで成功量がマイナスになってスタミナ補正でカバーしきれなくなると、そこがスタミナ切れの表現となる。
――天候/馬場補正は、スキルの天候/馬場○×とレース状況にあわせて最終着順ダイスに補正値(-1~+1)を受ける。 - 12◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:12:19
・作戦について
――作戦は、そのレースで取る作戦となる。
――脚質と作戦が一致しないと、下記の脚質補正は得られない。
なお現状で作戦と脚質に関するスキル未実装なので脚質と作戦を変える意味は今のところ無い。
――脚質により得意範囲が決まる。脚質ごとに全5エリア中の2エリアを対象とする。
――対象エリアでのダイス判定への補正値+1を受ける。
――逃げ → スタート-第1障害~△第1障害 =『第1直線』+『第1障害』
――先行 → △第1障害~第1障害-第2障害 =『第1障害』+『第2直線』
――差し → 第1障害-第2障害~△第2障害 =『第2直線』+『第2障害』
――追込 → △第2障害~第2障害-ゴール =『第2障害』+『最終直線』
・各種補正について
――ばんえい重量500kgごとに、各エリアのダイス判定を行う際の基準値に対して補正(+1~+10)を受ける。
未勝利戦で重量2500kg、G1クラスは重量5000kgとなる。
――やる気(絶不調~絶好調)に応じて、最終着順ダイス判定への補正値(-2~+2)を受ける。 - 13◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:12:38
・スキルについて
――スキルごとに、発動するエリアや条件、発動するための基準値、効果がそれぞれ決められている。
――レース中に発動条件が一致すると自動的に発動判定となる。発動判定の際は、賢さの補正値がダイスの出目にプラスされる。
――( 2d6の出目 + 賢さ補正) ≧ スキルの基準値 で発動成功となる。
――レース中に行われる各種動作は、自分だけではなく他人も行っている(例えば、刻んだりする等)。
――本システムにおいては、他者よりも上手く「その動作を行える」と言うことがスキルの表現となる。
――今のところ実装されているのは『集中力』のみ。
スキル『集中力』
スタートが得意になり 出遅れる時間がわずかに少なくなる。
発動エリア:第1直線
基準値:8
効果:発動成功時に、第1直線での判定ダイスの出目に+1される。 - 14◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:13:16
・成長について
――パラメータ上昇判定
――パラメータは低いと上がりやすく、高いと上がりにくい。
判定は対象パラメータのランクによって変動し、
ランクA~B:2d6≧9
ランクC~D:2d6≧7
ランクE~G:2d6≧6
で+1となる。
――上がらなかった場合は、次回の成長チェック時に確率アップするヒントLvが付与される(ヒントLv1につき次以降の出目+1)。
――スキル習得判定
――対象スキルの発動基準値が、そのまま習得の基準値となる。
2d6+賢さ≧基準値
で習得する。
――習得できなかった場合は、次回の習得チェック時に確率アップするヒントLvが付与される(ヒントLv1につき次以降の出目+1)。 - 15◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/27(木) 22:13:38
【参考資料】
実際のばんえい競馬オフィシャルHP
【公式】ばんえい十勝/馬の一発逆転ライブショー世界で唯一の競馬【ばんえい十勝】オフィシャルホームページ。馬券購入、ライブ映像、騎手情報、馬券購入方法、レース協賛等、ばんえい競馬に関する情報が満載!banei-keiba.or.jpHBC制作の「ばんえい競馬」についての番組
- 16二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 07:11:41
新スレ乙!
- 17二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 17:35:58
ジュニアでまだ身体が成長中なら、シニア級の先輩達はどれだけマッチョなのか
- 18◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/28(金) 22:09:29
「グラムさん、今日は付き合ってもらって、ありがとうございます」
「いやぁ、冬で実習も減ってるし、ウチもスノウもレース前の調整入ってて練習もわりかし暇だし。
こうやってスノウとブラブラするのも楽しいしさー」
クリスマスも差し迫ってきたある日の放課後。
あたしは、グラムさんと一緒にイオンに来ました。
イオンに来れば、普段の生活から趣味のモノ、ちょっとした贈答品までほぼほぼ揃います。選択肢の量と質さえ問わなければ、だいたい何でもあります。帯広駅前の百貨店が無くなってしまっているので、何かちょっとお洒落なものを買おうとすると、駅前から少し離れた位置にある大型のイオンが頼みの綱となってしまっているのです。駅前が寂しい状態ですが、車で一時間かけて函館まで出なければいけない実家に比べれば、それでも便利さは段違い。
「いやぁ、助かりました。こういうものを選ぼうとすると、あたしのセンスですと自信が無くって」
片手にぶら下げた贈答用の少し見栄えのする紙袋を見ながら言いました。
中に入っているのは、いつもお世話になっているトレーナーさんへのクリスマスプレゼント。
中身はスポーツタオルです。色々と店を覗きながら考えましたが、結局、あげても貰っても困らない無難な物に落ち着きました。トレーナーという職業柄、輓曳するあたしに付いて走る事も多いのでタオルは消耗品に近いですし、いくらあっても困らないでしょう。
あたしもそれほど自分の感覚が変だとは思っていませんが、やっぱり誰かと一緒に見立ててもらう方が安心します。
それに、一人で選ぶより二人で選ぶ方が、楽しいです。
「いいってことさー、それくらいお安い御用よ」
「グラムさん、あともう一箇所、付き合ってもらいたいお店があるんですが、大丈夫ですか?」
「ん、いいよー。まだ門限が気になる時間でもないっしょ」 - 19◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/28(金) 22:11:14
広いイオンの一角。
目当ては、アクセサリーを扱っているお店です。宝飾品店ではなく、あくまでアクセサリーショップ。それもウマ娘向けの、です。
耳飾りそのものや耳飾りに追加する飾り、ラインストーンやリボンなどの尻尾を飾るテイルアクセサリーなど、様々な身を飾るアイテムの数々。
お店のスペース自体はそれほど広くありませんが、店内にはぎっちりと商品が詰まっており、豊富なラインナップが見ただけで分かります。
帯広はトレセンがある所為でもありますが、北海道開拓の歴史的にもウマ娘が多く住んでいる地域なこともあって、ウマ娘専用の商品を扱うお店もそれなりにあります。ここのようにテナントではなく独立したお店を構えているようなところですと、流石に商品が高価すぎてあたしのお財布では歯が立ちませんけど。
棚を飾る、無数のきらきらとしたカワイイ物達。
思わず満足げな溜息が漏れてしまいますが、それはグラムさんも同じ。
こうして眺めているだけでも、心が躍ります。
店内には、同じようなウマ娘達が、同じようにきらきらしたアクセサリーを手に取ってはショッピングを楽しんでいます。ちらほらトレセン生徒も見かけますが、市内だと行く場所も限られていますので、見知った顔に出くわす確率は高いです。
「これなんかどうです?」
「あー、いいねー。ちょっと付けてみよっか」
「いいじゃないですかー。可愛いですよー。グラムさん、そういう色も似合いますね。
ふむふむ……」
細い金細工の星型フレームで、中にはスワロフスキーっぽいクリスタルが嵌められているイヤリングを手に取ります。
繊細なフレームを、土とトレーニング器具を握り続けたおかげでごつくなってしまった指でそっと摘まんで、灯りにかざします。かざした先にいるのは、グラムさん。
芦毛の中に金色は上品さを感じさせるカラーリング。透明なクリスタルは普段は目立たず、光を跳ね返した時に映える。
よし。
これにしましょう。 - 20◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/28(金) 22:13:59
その後、思う存分に普段のトレセン学園での生活では摂取できないカワイイ成分とキレイ成分を取りました。普段は皆、トレーニングにレースに勉強に実習にとひたすらに汗を流す身のトレセン所属のばんえいウマ娘。軽種のウマ娘と比べればパッと見は丈夫そうな巨体ですけれど、それだって中身は同じ女の子。可愛いには魅かれます。
それにしても、買い物の後というのは、どうしてこう高揚するんでしょうか。お財布は軽いですが、満足感は十二分。
鼻歌が出そうなほどの上機嫌。
若い客のざわめきが満たす店内。
イオンほど近いハンバーガーショップでマックシェイクを啜ります。
本当ならもっとお洒落にイオン近くの十勝トテッポ工房で、と行きたかったのですが夕方までしかやっていないのです。あそこのワッフルプレートが美味しいのですが、仕方ありません。
「良いの買えて良かったじゃん」
テーブルの向かいで、同じようにジュースをチビチビ飲んでいるグラムさん。
「ええ、グラムさんがいてくれて助かりました!お陰様でぴったりのが買えましたよ」
あたしは、丁寧にラッピングされた手のひらに乗るほどの小箱を取り出しました。
「あれ?今出すと汚れっちまわない?」
「いえいえ。寮に帰ると、またドタバタして渡しそびれてしまいそうなので」
「ん?」
怪訝そうな表情のグラムさんに、スッとその小箱を差し出しました。
「メリークリスマスです、グラムさん。いつもお世話になっていますし、あたしからのクリスマスプレゼントです!」
鳩が豆鉄砲喰らったような、ぽかんとした表情。次第にそれが、次第にはにかんだような笑顔にゆっくりと変わっていきました。
伸ばしては引っ込めてを繰り返して、逡巡を見せた指先。
しばらくして、それもグラムさんの嬉しそうな微笑みと共に、終わりました。
「ありがと」
ラッピングを解いてケースを開ければ、そこに鎮座するのは一対のイヤリング。
つい、とグラムさんが片方を摘まみだします。
小さなイヤリングは、指先の揺れに合わせて照明を跳ね返しては、きらりきらりと輝く。 - 21◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/28(金) 22:21:14
と、それがあたしの方に差し出されました。
「ね、付けてくんない?」
手が届くようにと、そっと俯き加減になるグラムさんの頭と、下りてくるウマ耳。拒む雰囲気も、その気もありませんでした。
長く白いウマ耳に傷をつけないように注意深く触れます。温かく柔らかいビロードの手触り。
イヤリングは自分を主張し過ぎず、かと言って埋没もせずに左耳で光ります。所詮は学生のお小遣いで買える範囲の、安物と言っても過言ではないアクセサリーですが、なかなかどうして良いデザインです。
続けて右側にもつけようとケースに伸ばした手を、グラムさんの手が押し留めました。
「こっちは、ウチからスノウへのクリスマスプレゼント。もちろん、ちゃんと別に用意してあっけどさ」
いきなりで事態が飲み込めずに固まっているのをいい事に、グラムさんはあたしの左耳に残っていたイヤリングを付けてしまいました。
「ウチとスノウで片方ずつ。ほら、これでお揃いっしょ」
グラムさんが見せつける彼女の左のウマ耳に光る、買ったばかりの小さな金の星。
「一緒に入学して、一緒の部屋になって、デビューして、一緒にバカやって、一緒にレースして競い合ってる。
したっけ、これもウチとスノウは一緒さー」
そこまで言ってから、恥ずかしそうに視線を逸らせました。
「今はガラス玉の星だけどさ、そのうち本物が欲しいね」
グラムさんの言う"本物の星"。レースに出るばんえいウマ娘の口から出る言葉であれば、それが意味するところは一つでしょう。
「いつか取れます!」
そこにはなんの根拠もありません。
でも、あたしは断言しました。
「グラムさんも、あたしも。きっと、もっとキラキラした星を掴めます!
だから、一緒に取りましょう」
トレーナーへのプレゼント:スポーツタオル dice1d3000=2076 (2076) + \2,000
シャコータングラムへのプレゼント:イヤリング dice1d2000=86 (86) + \3,000
- 22◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/28(金) 22:23:53
カミノクニスノウのやる気は絶好調をキープしている
シャコータングラムのやる気がアップ!
(次走において強制的に絶好調として扱われる)
スノウちゃんのお財布の中身 \38,064 → \30,902 - 23二次元好きの匿名さん24/06/28(金) 22:56:19
なかなかにお高いタオルだ
アクセサリーは値段じゃなくてデザインだからね - 24二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 01:52:14
保守
- 25二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 12:28:23
保守
- 26二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 12:31:55
元帯広民です
買い物事情の解像度高くてすこ - 27二次元好きの匿名さん24/06/29(土) 14:02:34
なるほど
- 28◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/29(土) 17:22:01
一時期だけ北見民だったスレ主です。
今さらながらに北見競馬場に行っとけばよかったと後悔しています。
いい加減、レースに行きたいのですが、クリスマスは切るにはもったいないイベントが多くてなかなか進みません。 - 29◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/30(日) 00:24:59
クリスマスは、レース直前だというのに大騒ぎでした。
トレセン学園と帯広市共催のクリスマスイベントに駆り出されました。何台ものバ車を曳いて近くの幼稚園に訪問するのですが、そのうちの一台を曳く役を任されました。橇ではなくタイヤが付いているので、道路を進む分にはあまり負荷はかかりませんでしたが、それにしたって沿道からものすごく注目を集めるので恥ずかしかったのですが!
レース場でなら注目と声援を集めるのはむしろ望むところですが、それとこれとは別です。
まさか、赤鼻とトナカイの角をつけてトナカイのコスプレをしてバ車を曳くとは。
今にして思い返せば、赤鼻のトナカイ特別を前にしてのトレーナーさんの言葉。あれは、このイベントがあるのを知っていたのでしょう。
トナカイコスプレのまま寮に帰ってくれば、待っていたのはザンギ祭り。
ザンギとは北海道での鶏の唐揚げのこと。いわゆる普通の鶏の唐揚げと比べると味付けが濃く、揚げる前に鶏肉を醤油ベースの甘辛いタレに漬けこんでつくられるのが特徴です。このタレのレシピも地方や各家庭で伝統のとこだわりがあります。
今では鶏肉の唐揚げ以外にも、食材に衣を付けて揚げたものがザンギ扱いされています。
そして、帯広トレセン学園の寮では、ザンギ祭りの名の通りにクリスマスにはチキンではなく、あらゆる種類のザンギが振舞われます。鶏ムネ、鶏モモ、骨付き、骨無し、タコ、シャケ、珍しいところでは鹿肉まで。
レースに出るばんえいウマ娘には、人並みのクリスマスも年末年始もありません。
そんな普通の感覚を忘れてしまいそうになるウマ娘への心遣いなのでしょう。この時期にレースに出ない先輩方や寮母さん達が、帰省を遅らせてでも毎年開いてくれています。クリスマスと言えばケーキなのでしょうけれども、身体作りの一環でスイーツは制限している子達も多いので、肉です。 - 30◆Lj.vT9ErJJ7R24/06/30(日) 00:27:15
日常がそうしたドタバタで慌ただしく過ぎていき、臨むのはBGⅡヤングチャンピオンシップ。
ジュニア級三冠の二戦目。
当然ながら、勝ちを狙って走ります。既にあたしは一冠を手に入れていますが、二冠目を狙うのを贅沢だとは思いません。
ナナカマド賞の時と同じ。進み始めたからには、前に進むしかありません。
出走権のあるシャコータングラムさん、クインルゴサローズさんは既に出走登録しています。
モチモッツァレラさんですが、彼女は北央地区選抜特別でクインルゴサローズさんとぶつかりました。
北央地区選抜特別での1着はクインルゴサローズさん。
モチモッツァレラさんは2着でないと、ヤングチャンピオンシップの出走権が得られません。
モチモッツァレラさんは北央地区選抜特別で…
1-2.2着だった
3.3着以下だった
dice1d3=2 (2)
- 31二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 01:46:43
流石のハイレベルだな
ばんえい界隈大騒ぎじゃろ - 32二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 11:41:21
まっそー
- 33二次元好きの匿名さん24/06/30(日) 14:37:30
さすがモッちゃん、粘り強い
- 34二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 00:36:52
- 35◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 00:53:32
土日はなかなか時間が取れずで申し訳ないです。
たしかに今治タオルのふわふわ感は語彙がトプロ化します。 - 36二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 09:16:12
保守
- 37二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 12:54:20
パドックからゲートまで移動する時にはパシフィック・リムのテーマみたいな低音の効いたBGMがかかる妄想がぬぐえない
- 38◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:04:12
第11R、BGⅡ、ヤングチャンピオンシップ。
本日のメインレースです。
北海道各地の選抜レースを勝ち抜いた強豪が競い合う「ばんえい甲子園」の決勝戦。
シャコータングラムさん、クインルゴサローズさん、モチモッツァレラさんも出走です。
やはりと言うか、体も心の芯も強いメンバーが出てきました。良く知っているこの3人以外だって強い人が勢揃いしています。特に強豪地区の十勝出身者が怖い。
一冠所持者として出走するあたしを、他の9人全員が見ているような気さえしてきます。いえ、確実に見ているでしょう。
前走の赤鼻のトナカイ特別では、それが分かっていませんでした。でも、もうマークされるという事がどういう事なのか、分かりました。
こっちだって出来る限りのトレーニングは積んできているのです。敗北は喰らって栄養に出来ている筈です。受けて立ちましょう。
強者揃いの舞台ですが、それに応じるかのようにして胸の奥から湧き出す想い。
走りたい。
曳きたい。
勝ちたい。
走って、曳いて、こいつら全てに勝ちたい。
それらが入り混じったものが、ふつふつと胸の奥で煮え立っていきます。
煮え立つそれらが鍋が吹きこぼれるようにしてドロリと溢れ出てては、ゆっくりと頭の中を上書きしていく感触。
眼の奥が徐々に熱くなる。
およそまともから離れていくというのに、うっすらと笑いが零れるのが自分でも抑えられません。
「スノウ君、逸るなよ」
トレーナーさんが、あたしの肩を軽く叩きます。
あたしの肩に置かれたままのトレーナーさんの手。
そこから、微かな振動が伝わってきます。
そうです。あたしとトレーナーさんは二人で一つのチーム。新人が二人の、完璧には程遠いチーム。
GⅡに挑戦するのは、あたしが初めてであるように、トレーナーさんだってそれは同様です。
それに思い至った途端、頭の中がスーッと冷えていきます。ヒトは他人の拙いところを見せられると、スイッチが切り替わったように意外に冷静になるものです。先に不味いことになりかけていたのは、あたしですけれども。 - 39◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:06:11
「あたし、顔に出てましたか?」
「思いっきりね。やる気があるのは良いが、飲まれてはダメだ。落ち着いていこう」
ポンポンと数度、肩を叩きます。
その言葉は、トレーナーさんが自分自身に言い聞かせているようでした。いえ、事実、そうなのでしょう。
「助かりました、さすがはトレーナーさんですね」
すー。
ゆっくりと、大きく深呼吸します。冷たすぎる空気を一気に吸うと、冷たさに慣れていない喉と肺が刺激されて咽てしまうので、あくまでゆっくりと。
年末の十勝。すでに最高気温が氷点下なのも珍しくなくなってきています。第11Rともなれば出走時刻は、日はすっかり暮れた19時半過ぎ。
容赦のない冷たさの空気が肺に入り込みます。
パドックの手前。今いる装鞍所は、控室から出てきた各選手がいったん集合して、レース前のウォーミングアップやハーネスなどの装具の装着と調整などを行う場所です。
装鞍所は屋根と業務用大型石油ストーブがあるとは言え、壁二面が大きく開口されており、ほとんど屋外と変わりありません。パドックに出た時の温度差が選手に影響しないように、体を慣らすためにもわざとそうしてあるのです。
あまり広いとは言えない装鞍所の中で、各々が好き勝手に短距離ダッシュを繰り返したり、軽いHIITやストレッチをしたりと黙々と戦闘準備を整えています。
そういう意味では、こちらも身体の戦闘準備は完了しています。
身体中の筋肉には血と酸素が送り込まれて膨れ上がりつつあり、露出した肌にはうっすらと汗が浮かんでいます。
ふー。
緩やかに長く吐き出した息は熱く、マイナス10℃近くにまで落ちた外気に触れて足元まで届かんばかりの湯気となります。
そうして、今さっき、心の戦闘準備も完了しました。
「パドック入場でーす!」
係員さんの声が、装鞍所に響きます。
レースはもう間もなく。
装鞍所の空気が、一気に張り詰めます。
「さて、時間だな。積み上げられるものは積んだ。あとは積んだもの全て出し切れると自分を信じろ!
いっておいで、スノウ君なら勝てる!」
「はい!いってきます!」 - 40◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:06:40
ばんえい重量は、3000kg。
『ばんえい重量補正』 = 6(3000kg~3499kgは6で)
カミノクニスノウのやる気は『絶好調』です!
天気は、
1.晴れ 2.曇り 3.雨(雪) 4.悪天候
dice1d4=3 (3)
それぞれウマ番は…
1.カミノクニスノウ 2.シャコータングラム 3.クインルゴサローズ 4.モチモッツァレラ
dice4d10=10 10 1 5 (26)
です。
あたしの人気は…
dice1d10=8 (8)
です。
みんなのコンディションは…
1.クインルゴサローズ 2モチモッツァレラ
1.絶不調 2.不調 3.普通 4.好調 5.絶好調
dice2d5=2 1 (3)
――本レースでは、シャコータングラムは絶好調の固定となる。
- 41二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 23:28:42
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- 42◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:37:18
※カミノクニスノウとシャコータングラムのウマ番が被ったので、カミノクニスノウを9番とします。
レース場の砂を蹄鉄が噛み、音を立てます。
もうロードヒーティングが入っていますので、よっぽど雪が激しくない限りはコース内には積雪しません。その代わりに、降れば降るほどに雪は溶けて砂を濡らしていきます。
砂の上で蹄鉄をギュッギュッと捻って、足元の締まり具合を確かめます。
『粉雪が舞い散るあいにくの空模様、帯広競バ場。ダート直線200m、10人のばんえいウマ娘たちが挑みます。
本日のメイン競争は第11競走、ヤングチャンピオンシップ、BGⅡ。「ばんえい甲子園」決勝戦となります。
バ馬水分は2.5%。バ場状態の発表は良となっています』
『ジュニア級二冠目のレースとあって観客席には、多くのお客さんが来場しております。
日没を迎えてから雪が勢いを増してきていますが、皆さん、スタートを今や遅しと待ち構えている様子。
バ場が湿っていますので、スピードの出るレースになりそうですね』
流れるアナウンスに場内が、ワァッと沸きます。
人が多い。
ナナカマド賞の時よりも、いいえ、あたしが走ったレースの中で一番観客が多い。
出走する子達に頑張れ、負けるな、とかけられる声援が大きい。
その声援は今までのようにパラパラと礫のように投げつけられるのではなく、音の塊がぶつかってくるかのよう。スタンドそのものが迫ってくるかのような錯覚。
「あっは!あたし、大人気じゃないですか」
「いやいや、ありゃウチを応援してくれてるっしょ」
思わず零れ出ていたのが耳に入ったようで、グラムさんが応じます。
「あらあらぁ、皆さま、何か勘違いしてらっしゃいますわねぇ。
お客様方は私の勝利を祈ってくれているのですわぁ」
とは、クインルゴサローズさん。
「あの、あの、お客さん達は私に勝って欲しいと思ってるかなって」
応じるモチモッツァレラさん。
みんな面白いことを言いますね。
今日はばんえい甲子園の決勝戦。トライアルレースを勝ち抜いた相手です。誰も彼も手ごわいに決まっています。でも、それがどうしたって言うんですか。荷が重くたって、相手が強くたって、それは前に進むのを躊躇う理由にはならず、重荷を曳いて前に進んでこそのばんえいウマ娘。
勝つのは、あたしだ。 - 43◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:38:27
ふーっと大きく息を吐き、ゆっくり大きく吸う。ぶはーっと吐く。
吐き出した息は真っ白く、足元まで届きます。それが10人も並んでいるのですから、まるでゲート付近だけ霧に包まれているかのようです。
あたしは握った左右の拳で、自分の太腿をトントンと軽く叩きます。
十分に血流が送り込まれて膨れ、カットの深くなった大腿筋。
「日本の米はぁ……」
そのまま右拳で左肩、左拳で右肩を。
三角筋に上腕三頭筋。
パァン!
最後に両手が頬を張った乾いた音が、辺りに響きます。
「世界一ぃ!!」
熱くなった筋肉達。あたしとトレーナーさんが鍛えた仲間達が、ゆらりと湯気を立てて今か今かと出番を待っています。
眼の奥から後頭部にかけて、じわりじわりと熱くなる感覚。
出走が近づくにつれて、自分の眼付きが、どんどんきつくなっていくのが分かります。
それは周りも同様。ゲート内に納まって装具と橇が連結されるのを待っているばんえいウマ娘達の気迫が、まるで熱を帯びた空気のように広がっているのを感じます。
それが、さらにあたしの心を熱くします。
そうしている間にも肉体の方はスッスッと細かく浅い呼吸を繰り返して、血と肺と筋組織に酸素を詰め込んでいきます。
実況と解説は、上位人気の子達の紹介をしています。
『続いて8番人気ですが、注目の9番カミノクニスノウ』
あたしですか。
『前走は残念な結果に終わりましたがデビュー戦から好成績を収めており、ナナカマド賞、南北海道地区選抜特別を制しています。
その実力は侮れず、ジュニア級の台風の目である事には変わりありません。
あの”上ノ国の女傑”の孫が一強の時代を築くのか、はたまた三冠を取り合う乱世となるのか。
年末の寒さを吹き飛ばす熱いレースが見られそうですよ』
普段とは違う重賞競走のファンファーレ。
音もなく空から落ちてくる雪に吸われる事なく、勇ましく場内に響きます。
『さぁ各ウマ娘、ゲートイン完了の様子。
すべての係員が離れまして……出走の準備が整いました』
スターター台の上で、赤い旗が天を指します。 - 44◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:39:44
時間がゆっくり引き延ばされるような感覚。
世界に自分一人だけになったような静寂。
ガコン!
居並んだ10人のばんえいウマ娘達の視界を塞ぐ、金属の扉が一斉に開きます。
『各ウマ娘、一斉にスタートしました』
橇とウマ娘をつなぐ装具が一斉に、十二月末の冷えた空気を震わせて、盛大に鳴り響きます。
「だぁりゃあぁぁぁっっ!!」
10人のばんえいウマ娘が、怒号と共に一斉に飛びだしました。
『第1直線』 ばんえい重量補正基準値=10 判定 dice2d6=1 3 (4)
→スキル『集中力』 基準値=8 判定 dice2d6=4 5 (9)
『第1障害』 ばんえい重量補正基準値=12 判定 dice2d6=1 1 (2)
『第2直線』 ばんえい重量補正基準値=14 判定 dice2d6=3 1 (4)
『第2障害』 ばんえい重量補正基準値=16 判定 dice2d6=2 5 (7)
『最終直線』ばんえい重量補正基準値=14 判定 dice2d6=4 6 (10)
最終着順ダイス dice1d10=1 (1)
――本レースでは、ライバル補正が3人分(-3)かかる。
- 45◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:43:00
『第1直線』の成功量 = 出目(4) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(0) + スキル発動(1) - 10 = 1
→スキル『集中力』発動成功!
『第1障害』の成功量 = 出目(2) + パラメータ補正(4) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 12 = -5
『第2直線』の成功量 = 出目(4) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 14 = -3
『第2障害』の成功量 = 出目(7) + パラメータ補正(4) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 16 = -4
『最終直線』の成功量 = 出目(10) + パラメータ補正(6) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 14 = 3
最終着順 = 出目(1) - (スタミナ補正(6) + やる気補正(2) + 天候/馬場補正(0) + スキル発動(0) + 総成功量(-8) + ライバル補正(-3)) = 4
順位は……4着! - 46◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:45:56
※1~3着を決めたいので、それぞれのダイスを振ってみます
【シャコータングラム】
『第1直線』dice2d6=2 1 (3) 『第1障害』dice2d6=5 4 (9) 『第2直線』dice2d6=2 3 (5) 『第2障害』dice2d6=3 1 (4) 『最終直線』dice2d6=6 2 (8)
最終着順ダイス dice1d10=7 (7)
【クインルゴサローズ】
『第1直線』dice2d6=2 5 (7) 『第1障害』dice2d6=1 6 (7) 『第2直線』dice2d6=6 3 (9) 『第2障害』dice2d6=4 5 (9) 『最終直線』dice2d6=6 5 (11)
最終着順ダイス dice1d10=10 (10)
【モチモッツァレラ】
『第1直線』dice2d6=6 6 (12) 『第1障害』dice2d6=3 6 (9) 『第2直線』dice2d6=6 2 (8) 『第2障害』dice2d6=2 4 (6) 『最終直線』dice2d6=6 1 (7)
最終着順ダイス dice1d10=6 (6)
- 47二次元好きの匿名さん24/07/01(月) 23:49:54
綺麗にライバル補正分ぶっ刺さったなぁ
- 48◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:55:03
【シャコータングラム】
『第1直線』=出目(3)+パラメータ補正(6)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 10 = 0
『第1障害』=出目(9)+パラメータ補正(7)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 12 = 5
『第2直線』=出目(5)+パラメータ補正(6)+根性補正(0)+脚質補正(0) - 14 = -3
『第2障害』=出目(4)+パラメータ補正(7)+根性補正(0.5)+脚質補正(0) - 16 = -4.5
『最終直線』=出目(8)+パラメータ補正(6)+根性補正(0.5)+脚質補正(0) - 14 = 0.5
最終着順=出目(7)-(スタミナ補正(7)+やる気補正(2)+天候/馬場補正(0)+総成功量(-2)) = 0
【クインルゴサローズ】
『第1直線』=出目(7)+パラメータ補正(7)+根性補正(0)+脚質補正(0) - 10 = 4
『第1障害』=出目(7)+パラメータ補正(5)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 12 = 1
『第2直線』=出目(9)+パラメータ補正(7)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 14 = 3
『第2障害』=出目(9)+パラメータ補正(5)+根性補正(0.5)+脚質補正(0) - 16 = -1.5
『最終直線』=出目(11)+パラメータ補正(7)+根性補正(0.5)+脚質補正(0) - 14 = 4.5
最終着順=出目(10)-(スタミナ補正(4)+やる気補正(-1)+天候/馬場補正(0)+総成功量(11)) = -4
【モチモッツァレラ】
『第1直線』=出目(12)+パラメータ補正(2)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 10 = 5
『第1障害』=出目(9)+パラメータ補正(7)+根性補正(0)+脚質補正(1) - 12 = 5
『第2直線』=出目(8)+パラメータ補正(2)+根性補正(0)+脚質補正(0) - 14 = -4
『第2障害』=出目(6)+パラメータ補正(7)+根性補正(3)+脚質補正(0) - 16 = 0
『最終直線』=出目(7)+パラメータ補正(2)+根性補正(3)+脚質補正(0) - 14 = -2
最終着順=出目(6)-(スタミナ補正(4)+やる気補正(-1)+天候/馬場補正(0)+総成功量(4)) = 0 - 49◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/01(月) 23:58:02
※2着3着が同着になってしまったので、ダイスで決めます。
1d100で大きい方が2着とします。
シャコータングラム dice1d100=96 (96)
モチモッツァレラ dice1d100=3 (3)
- 50◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/02(火) 00:09:20
帯広第11競走、ヤングチャンピオンシップ、BGⅡの着順が確定いたしました。
1着 クインルゴサローズ
2着 シャコータングラム
3着 モチモッツァレラ
4着 カミノクニスノウ
と確定しました。
クインルゴサローズは不調にも関わらず終始良い曳きを見せ、終盤でも足が衰えない逃げで後続を突き放しました。
3着モチモッツァレラは序盤は見事な逃げを見せましたが、第1障害からじわじわと2着シャコータングラムに追い縋られ最終直線でのデッドヒートとなり、ゴール板に入線したもの足が止まってしまい、そこをシャコータングラムがかわす展開となりました。
カミノクニスノウは全般的に奮わず、最終直線で持ち直したものの前を行く3人を追撃しきれずに4着に終わりました。 - 51二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 07:21:24
ライバル補正がぶっ刺さってますなぁ…じゅるりら
- 52二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 08:03:03
前走から出目がひどいな
なんかアクシデントでもあったかな - 53◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/02(火) 15:26:53
- 54二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 20:58:48
落鉄かー……
- 55◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 00:56:03
- 56二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 07:19:38
ゆっくり待ってるよー
- 57二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 17:51:21
シャコータングラムのシルコレっぷり
書かれてないレースで勝ってるかもだけど - 58二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 20:49:41
保守
- 59◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:09:37
『お待たせしました、帯広競馬場。本日のメイン競争、第11レースはヤングチャンピオンシップ、BGⅡ。
天候は雪。馬場水分は2.5%。基礎ばんえい重量は、3000kgとなります』
盛り上げようとする、勢いのある場内に実況が響きます。
『予選を通過したそれぞれの地の代表ウマ娘が今宵集結。ジュニア級の二冠目、ばんえい甲子園、決勝戦です!』
実況に応えて、観客席から沸き起こる拍手と声援。
『10人全員ゲート内、入りました。
……さあ、係員が離れました。スタートしました』
「ふんぬっっっ!!」
目の前の扉が開くや否や、気合と共に一気に全身の筋肉をフル稼働させます。今までのトレーニングは、この瞬間の為。
濡れて締まった砂に蹄鉄がばんえいウマ娘のハイパワーで叩きつけられて、鳴き砂のように足元で鳴ります。地面を踏みしめ、地面から押し返されて歩を進めます。強化繊維で編まれたハーネスが軋み、装具と橇はあちこちがぶつかり合って甲高い金属音を立てて発進する貨物列車のようです。
3000kgは重い!
ですが、もう慣れた重みです。
猛前とモチモッツァレラさんが飛び出しました。
逃げの彼女ですが、今日はひと際速い。バ馬がしっかり濡れて締まっているのもあって、3000kgのばんえい重量を物ともせずにバ群から抜け出します。
無理には追いません。
ここで競り合う必要はまだ無い。
こちらの手の届く範囲内にいるようにして追走すれば十分です。
『各バ、一斉に第1障害に向かいます』
今日は雪で砂が濡れて良バ場です。バ馬が軽いという事は、パワーが無くてもスピードが出しやすいという事。つまりは、あたしの不利を帳消しにできます。
『押して押して5番モチモッツァレラ。それを1番クインルゴサローズがピタリと追う』
怒号と共にクインルゴサローズさんが押して出ます。逃げではなく先行の彼女が今から?
調子はそれほど良いようには見えませんでしたが、それだけ今日のバ場はスピードが乗ると判断しての事でしょう。
ならば、こちらも先頭が射程圏内に入る程度には追いましょう。
ピッチを上げて第1障害に進みます。隣のグラムさんも同じ考えだったようで、こちらよりやや早めの速度で追います。
『さらにあとから10番シャコータングラム。続いて9番カミノクニスノウ』
いける。
そう思った矢先。 - 60◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:12:13
足の裏に違和感。
右足を一歩踏み込むと、足の裏が何かに乗っかっているかのように僅かですが確かにズレます。それは例えるなら、床の上に落ちた紙を知らずに踏んで歩いた時のような感じでしょうか。
砂が凍ってスリップしているのではありません。事実、左足はしっかりと砂を掴んでいる。
『5番のモチモッツァレラ、先行して1障害を下りました』
第1障害を登り始めて、その違和感はさらに大きく激しくなりました。
斜面に蹄鉄がかかる。地面を踏みしめる。地面を踏んだはずの爪先がカクッと落ちる。
落鉄。
脳裏に浮かんだその単語に、ゾワリと背筋が粟立つ。
シューズ裏にしっかり固定されている筈の蹄鉄がズレている。
しかも完全に落ちてたのではなく、シューズとの固定が中途半端に外れて、蹄鉄がシューズから浮いている状態でしょう。
なんで、と思いかけましたが、瞬時にその疑問を放り投げます。今は状況に対応するのみで、原因を探るのは後でする事。今は一瞬の遅れが命取りとなる。
この中途半端にふわふわ滑る感覚は危険です。蹄鉄が砂を噛んでいるのかどうかがよく分からない上に、しっかり地面を踏んでいると思ってもガタついている分、踏ん張った途端にガクリと滑る。しかもいつ完全に外れるかが分からない。
ばんえい競バのルールとして、スタートして第1障害までは足を止めることが許可されていません。もしストップしてしまったら競争除外になる。
だったら!
『出遅れていた9番カミノクニスノウ、ハナ木に足が当たっている。これはアクシデントか?』
ガギン!という破壊的な金属音。
右足を一歩進めるたびに後ろ蹴りの要領で、橇の先頭の反りかえった部分に付いているハナ木を蹴りつける。蹴りつけた衝撃で外れかけの蹄鉄を完全に振るい落としにかかります。
数歩進んだところで、何かが飛んでいく感覚がありました。右足だけ軽くなったのが分かる。
違和感はなくなりましたが、これで右足はグリップ力を失いました。
『5番先頭、1番クインルゴサローズがこれに続きます。あとはほぼ一線。
なにかトラブルがあったようです、9番カミノクニスノウがやや遅れている』
それでも何とかして第1障害は越えました。
斜面に踏ん張ってパワーで橇を引き上げないといけない障害と違って、直線ならまだ何とかなる。
違う。
頭を振ります。何とかしてみせます! - 61◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:13:39
降りる勢いを利用しつつスピードを上げて曳きます。第2障害を考えると、ここで前に出ておきたい。
かなり曳きづらく余計な力を使っている感じはありますけど、まだまだ足は残っている。ここで前に出ておかないと差しの子達の末脚に負けかねない。
まだ、いける!
『うち2番、3番、外は8番。さぁ刻んだ。7番、間があいて9番カミノクニスノウが後ろです』
ここで8番手とは。
ずっと奥歯は喰いしばりっぱなしですが、内心、歯噛みします。
輓曳するのは3000kg。トレーニングで慣れてきたとは言え、腐っても重賞クラスのばんえい重量。
逸る心に任せての直行は無理です。
『一旦刻んで……また歩きます』
前は周りの動きに飲まれましたけど、今日は他の子達の動きは気になりません。正確に言えば、爪先に感覚を集中させているので気にしている余裕が無い。
「おぉ……りゃあっ!!」
ズズッと3000kgが砂の上を滑る。
繰り返しのトレーニングで、確かにあたしパワーは上がっていました。
パワーのかけ方が上手くなったのでしょう。バイキを掛けた時に、橇が動き出すまでの時間が早い。
『5番モチモッツァレラ苦しいか、苦しい。さあ1番クインルゴサローズが追い抜いた。
後ろを少し離して今、2障害の手前に来ました』
芦毛を振り乱し、咆哮しながらのクインルゴサローズさん。
『ここまで前半29秒で来ています』
長いようで短い30秒。
バ馬が良いだけに時計が早いです。
あたしも早めに追撃しないと間に合わなくなる。
『1番クインルゴサローズ。2番手で5番モチモッツァレラ来て、その後10番のシャコータングラム。続々と2障害前に集まってきました』
こちらも第2障害に到着。皆と並びます。
足を止めた途端、身体中から汗と熱が吹き出し、冷たい外気に触れては真っ白い水蒸気となってあたしを包み込みます。
浅く早い呼吸を繰り返します。酸欠と疲労の溜まった体に一刻でも早く酸素を送りたい。
コンマ一秒でも長く息を整えたい。その為に、コンマ一秒でも早く最大パワーで曳き始められる練習を積んだんです。
『さあクインルゴサローズいった。挑戦始まった。
第2障害上がってきた。緩やかな長い芦毛をなびかせて1番クインルゴサローズ』
ヤバい。 - 62◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:14:55
『先頭で2障害を降りていきます』
ヤバすぎます。クインルゴサローズさんが早すぎる。
『その後すぐ5番モチモッツァレラが降りる。一度抜かされましたがモチモッツァレラがねばるねばる』
モチモッツァレラさんはスピードは無いですが、その分、パワーと障害で足を止めない粘り腰がすごい。
彼女と障害では競い合えない。
『それからすぐに10番シャコータングラム』
焦ってはだめですよ、あたし。こうなっては得意のスピードを活かすために最終直線で一気に抜くしかない。差しスタイルは得意ではないとか言っている状況ではありません。
ふー。
はー。
十分に息を吸い込み、ググっと身体を下げて。
「……負け、ません、よぉおらぁっっっ!!」
ガツンと骨まで響く衝撃。バイキを掛けた途端、全身の筋肉が膨れ上がります。
『それから2番、3番、6番、9番カミノクニスノウ上がって来た。8番、7番。後続の挑戦始まった。
その後4番が第2障害に寄りました』
一人抜かした。
蹄鉄の無い右足が滑る。
ヨレそうになるのを懸命に左足で踏ん張って堪える。
びきびきと張り裂けんばかりに力を振り絞る太腿から脹脛から痛みが伝わってくる。ハーネスごと上半身を後ろに引きづり倒されそうな重量を、腕と背筋で引き戻し、全身全力で輓曳する。どこもかしこもが焼け付くように熱い。
ぐっ、と一歩。
ぐっ、と一歩。
「こ、れで、どう、だぁッ!」
『残り30メートル』
第2障害の稜線から見れば、先頭集団は一歩先を行っています。
『一団から抜けた1番クインルゴサローズ。早い早い、すでに三バ身のリード』
でも、ここからは平坦な直線。
『5番モチモッツァレラ追いかけて2番手。そのすぐ後ろ10番シャコータングラム』
第2障害を滑り降りた勢いもそのままにグギュッ、グギュッを濡れた砂を力強く踏みしめ鳴らしながら駆け、曳きます。
胸が苦しい。
『1番クインルゴサローズいったん刻んだ。が、すぐに歩き出す』 - 63◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:17:21
駆けるのはそう長くは続きません。下り坂では味方だった背後の重量はすぐ敵に変わって足を引っ張り、あたしの足の回転が落ちる。
それでも、歩みは、
「止める、ものかぁあぁっ!」
一人。
また一人。
『9番カミノクニスノウが追い上げる。2番、3番を、ここで抜いた!
6番逃げるが苦しいか』
喉はカラカラ。激しい呼吸を繰り返したせいでざらつくように痛い。
雪が降っている気温なのに全身汗だく。身体中の筋肉が熱い。
それでも刻みません。刻んでいる暇なんかありません。
足はまだ残っています。
あの三人に、前を行く皆に追いつくんです。追い抜くんです。
『先頭は依然3バ身離したまま1番のクインルゴサローズ。
残り僅か!入線しました。そのまま歩みを止めずに今……ゴール』
例え負けたとしても、追いつけないとしても1メートルでも近くに。一歩でもそばに。
「ぐ、ぬ、ああぁぁぁぁぁっ!!!」
『2番手争いはどうか。際どいか。5番モチモッツァレラ、懸命に懸命に歩く』
あと10メートル。
『5番モチモッツァレラ入線しました。が、ここで足が止まった。そこに10番シャコータングラムが追い付く。5番モチモッツァレラ足が動かない。
かわした、10番シャコータングラムがかわして入りました、ゴール』
喰いしばった口の端から、蒸気機関車のように白い息が吹き出します。
『5番モチモッツァレラも頑張りました3着でゴール』 - 64◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:19:05
あと5メートル。
『6番逃げるが、歩みが止まった。後ろを突き放せない』
もう実況はまともに聞こえません。
耳に歪んで響くのはゼハッ、ゼハッという自分の喉の唸りだけ。
でも、足は動きます。
『9番カミノクニスノウ止まらない、6番に並んできました。
6番懸命に逃げようとするが、動けない』
バランスの崩れた状態で歩き続けたせいで右足が痛い。が、無視します。
体がゴール板を過ぎる。
でも歩き続ける。あたしの、ばんえいウマ娘のレースは、橇を全部曳ききるまで終わりません。
『9番カミノクニスノウ、足は止まらない。かわした!6番をかわした。
今、入線してそのまま4着でゴール』
4着。
天を仰ぎます。
静かに静かに降ってくる無数の白い欠片が、肩と言わず顔と言わず降りかかります。ヒラヒラと落ちてはあたしに触れる端から溶けて水となり積もることはなく、あたしの顔を濡らします。
ごくごく小さな川があたしの顔に形作られ、鼻の両脇を一筋ずつ流れていきました。
顔を戻した時、目に入ったのは、駆け寄ってくるトレーナーさんの姿でした。 - 65◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/03(水) 22:50:16
※本日の進行はここまでといたします。
レース翌日は筋肉痛と疲労でまともに動けないでしょうし、翌々日の大晦日にでも反省会でしょうか。
そう言えばモチちゃんだけイラスト作っていませんでした。 - 66二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 07:34:41
落鉄しながらの怒涛の追い上げはたいしたもんだ
- 67二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 08:36:15
ルゴサちゃんが大声通り越して咆哮してるのすこ
- 68二次元好きの匿名さん24/07/04(木) 12:55:03
- 69二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 00:12:20
保守
- 70◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 00:46:29
- 71二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 09:46:49
保守
- 72二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 16:51:21
ウマ娘ばんえいレースではレースの格に関わらずおしゃれやメイクして出走するのはOKなの?
- 73◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 21:23:55
※実際のばんえい競馬ではクラスが低くても(初出走とかでも)鬣を編み込んだりリボン付けてお洒落して出走していますので、ばんえい競バでもレース格に関わらずお洒落して出走はアリと解釈しています。
なお、たまに作っているイメージイラストが体操服ではなかったりするのは、単にスレ主のプロンプトが下手なせいです。 - 74二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 22:14:09
- 75二次元好きの匿名さん24/07/05(金) 23:05:34
このレスは削除されています
- 76◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 23:08:15
「あー、くやしー」
もぐもぐもぐもぐ。
真っ白なご飯が美味しいです。
「クヨクヨしても仕方ありません。次です、次!次のレースは絶対に勝ちましょう」
はふはふはふはふ。
ほど良く焼けてタレが絡んだラム肉が美味しいです。
よく噛んでよく味わって、飲み下す。喉を温かいものが下りていき、ついでお腹の真ん中がぽわっと温かくなる。ふはぁっと胃から広がる満足が、真っ白な吐息となって昇っていきます。
臭みの無いラム肉は柔らかく、赤身で脂っこさもないので胃にも優しいです。焼けた端から、つるつると喉を滑り降りていきます。
肉は飲み物。
レースにより疲労が溜まってカロリーも使ったあとなので、体がタンパク質とエネルギーを求めています。
ただでさえ食欲旺盛なばんえいウマ娘ですし、身体を酷使した後とあっては、そうれはもういくらでも肉が入ります。
「ラム肉はねんぐんぐ、生で食べられるのもあるけど寄生虫がいたりもんぐんぐするから、しっかり火を通してあげるのんぐんぐが良いです。
でも焼き過ぎると風味が消えちゃうからんぐんぐ表五裏二って言ってねんぐんぐ、あ、お肉無くなったから乗せますね」
「モッチは食べるのか喋るのかどっちかにしなって」
「いや、モチモッツァレラさんがお肉食べるの速くないですか。ああ?!あたしがせっかく育ててたのが消えてるんですが!」
「スノウちゃんごめんなさい。でもジンギスカンは戦いだからんぐんぐ渡せないの」
「こいつ……プロか」
ジンギスカンのプロってなんですかね。
色々とジンギスカンの蘊蓄を話している間にも、モチモッツァレラさんの手は別の生き物のようにキビキビと動いて、肉が減れば補充をし、ラム肉をいい焼き加減に調整していきます。焦げ付くとか生焼けとか一切ありません。すべてを見事なバラ色に焼き上げていきます。そして自分で食べていきます。
こちらも、ウマ娘二人を含む五人姉妹の長女。
オカズの分捕り合いには自信がありましたが、モチモッツァレラさんの隙の無さは異常です。ここに来てレース以外のところで自信を折られそうです。
「えぇい、七輪もう一個出してあんだから、こっちに群れんな。ローズが独りで優雅に喰ってんじゃんかさー」 - 77◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 23:08:44
ヤングチャンピオンシップが終わってから二日後。大晦日の昼間。
寮の裏で七輪を出して、ジンギスカンです。大晦日ですが、肉です。どうせ一昨日まで自分達がレースしてて、明後日は先輩方の大きなレースがあるので、帯広トレセン学園に年末年始の厳粛な雰囲気はありません。普段通りと言うか、トレセン学園は冬休みなのでレースがないと実家に帰っている子もおり、やる事はあるのに人手は減っているので普段以上に忙しない雰囲気です。あたし達はレース明けの休養モードですけど。
鍋を見ると、焼けた肉が無くなったので、野菜も食べます。鍋の縁部分に垂れてきた肉汁とタレで煮えた野菜が美味しいです。
米も、肉も、野菜も、もうもうと湯気を立てています。
「長ネギ一本焼きいいですよねー。甘いですし、端っこから食べてくの好きですよ」
「ネギはウドンじゃないっしょ……。
うっはぁ、行者ニンニクくっさぁ。うめー。でも、くっさ」
しかし、なんでこんなに寒いのに外でジンギスカンなんでしょう。産まれてからずっと道内でも暖かい地方にいたので、思わずボヤキが出ます。
「仕方ないさー、こんな年末に店なんてやってないっしょ。でも肉は食べたいし。
だから、こうすべぇよ」
それは事実です。
加えて『今日は5度で暖かいからお外で食べたいかなって』というモチモッツァレラさんの希望もありました。
ただし、5度って言っていますがプラスではありません。マイナス5℃です。
寮の裏手は辺り一面は雪かきする意味もないので、降ってから溶けていない雪や投げた雪がそのまま残っているので、ほぼ真っ白です。
クインルゴサローズさんの出身地の美唄や、モチモッツァレラさんの出身地である美深と言えば、道内でも屈指の極寒地帯。マイナス10℃は当たり前。マイナス20℃も珍しくない。それからすればマイナス5℃は暖かいと言って良いでしょう。
確かに、年末年始の帰省組もいて寮の人口が減っている今なら寮の裏手で七輪を出してジンギスカン鍋をつついても、ご相伴にあずかろうとする寮生達も少ないでしょう。ましてや、寒い中に出てきてまでとなれば。
「そう言えば、今日はトレーナーさん達はいないんですね」
「いやぁ、あっちはあっち、大人同士でやりたい事もあるっしょ。これくらいなら準備も後片付けもウチらだけでどうとでもなるし。
お金はちょっと助けてもらったけどさ」 - 78◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 23:10:21
グラムさんが不可視のコップを傾ける仕草をします。
なるほど。
「しっかし一昨日のレース、スノウは不運だったなー。あれが無かったら、ウチらもどうなってたか分からんしょ」
「落鉄は、まぁ仕方ないで済ませたくはないですけど、あれはあたしのメンテ不足です。
それにトレーナーさんが言うには、あたしの力が増してきたのにシューズのセッティングが追い付いていなかったかも、だそうで」
蹄鉄をシューズに固定する固定具は、位置を変えたり、数を増減させられます。ガッチリ固定させたいなら固定具を増やします。あとから回収された蹄鉄とシューズを見たところ、あたしの蹴りだす力に負けた固定具が一本折れたのが原因だったそうです。折れた理由までは分かりません。踏み込みがまずくてその一本に力が集中してしまったのか、たまたま限界近くまで使われていたのが混ざっていたのか。
「負けたのは悔しいですけど、強くなったからこその負けと考えれば」
そんな言葉とは裏腹に、内心では振り切れたとはとても言えず。思わず俯き加減になりかける。
ほら、と目の前に差し出されたソフトカツゲンのパックが、あたしの首を挙げさせます。
「次は?」
「きっと」
「「「勝つゲン!」」」
紙コップに注がれるカツゲン。
モチモッツァレラさん、グラムさんの杯とをあわせれば、ポコンと気の抜けた音。
「そう言えば、スノウちゃんとグラムちゃんは帰らないの?」
ラム肉を食べるのを一段落させたモチモッツァレラさん。
「帰りませんよ。年越しが目前なのに、今から帰省するのも大変ですので」
「いや、まだ身体戻ってないのに汽車とバスに長時間乗るのはきついっしょ。
どうせ明後日にレースとイベントがあるし、帰るなら先輩のついた餅食ってから帰るさー」
年の明けた1月2日には四市記念競走の最後の一戦にして、ばんえい記念へのステップレースとなるBGⅠ帯広記念。
1月3日にはシニア級のチャンピオン決定戦、BGⅠ天馬賞。
年明け早々に大勝負が続きます。そこで一緒にお正月のイベントもやるのが、帯広競バ場の定番となっています。
そんな取り留めもない話が、ゆるゆると続いていきます。
寒気の中、燃える炭の香りと、肉とタレの煮える香りがふんわりと辺りに漂う。 - 79◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 23:12:47
「あぁ、雪の中で食べるお肉は、いつもと違う風情があって格別ですわぁ」
ヤングチャンピオンシップ優勝者のクインルゴサローズさん。
こっちに三人溜まってしまったので、優雅にお肉を食べ続けています。最初に七輪一個ずつ等分に肉を分けたので、こっちより取り分が多くなっている筈です。ちょっと、いや、だいぶ不公平ではないですか?
視線を移せば、ジンギスカン鍋の上ではラム肉が丹念に焼かれており、食欲をそそる色を見せています。
ザグッと踏みしめられた雪が音を立てました。
周りに積もった雪に適当に刺しておいたペットボトルと紙パックをそれぞれ手に取り、クインルゴサローズさんのもとに向かうあたしとグラムさん。
「ローズ~、優勝おめでとー」
「おめでとうございま~す」
「あらあら、ありがとうございますぅ」
「まぁまぁまぁまぁ」
あたしはクインルゴサローズさんの手に紙コップを半ば押し付けるようにして持たせて、そこにハイセイコーマートで買ってきたペットボトルのガラナを注いでいきます。
「さぁさぁさぁさぁ」
グラムさんが反対側の手に紙コップを押し付け、そこにさっきまで三人で飲んでいたソフトカツゲンのパックの残りを注いでいきます。
「あらあらぁ、ありがとうございます」
向日葵のような笑顔。
クインルゴサローズさんの両手が塞がります。右手にガラナ。左手にカツゲン。ジュースがなみなみと注がれた紙コップは、不用意に動くと中身が零れてしまうでしょう。
そう、今ならクインルゴサローズさんは動けない。
「よっしゃ!今だ。喰らえ!」
「いただきます!」
ひょいぱくひょいぱくひょいぱくひょいぱく。
「よし逃げろ!」
「ごちそうさまでしたー!」
「え、あ……あぁ、お肉がっ!ちょっと、お二人ともぶっ潰しますわよぉ!」
降り積もったままの雪をラッセルしながら、お互いに笑い合いながら、あたしとグラムさんは逃げ出しました。 - 80◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/05(金) 23:15:04
「やばいっしょ、スノウ、あいつしぶとい」
「いや、連続イッキして追っかけてくると思いませんでしたよ」
「あらあらぁ、お二人とも、お待ちになってくださいなぁ。
今なら雪にぶっ刺すだけで許して差し上げますわぁ」
積もった雪は表面だけは氷のように硬いですが、踏み割るとその下はふかふか。
足を上げると硬い表面を割るのに抵抗は受けますし、足を下げると足元が不安定で踏ん張るにも力がいる。
「やばいっしょ、スノウ、あいつ目がマジだ」
「いや、これいつ終わるんでしょうか」
いつ終わるとも知れない、汗だくになりながらの追いかけっこが続きます。
「三人とも元気なの。うーん、お肉がまだ残ってるけど、どうしようかな。
そうだ、勿体ないから食べちゃおうね」 - 81二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 02:10:03
サラッとお出しされる「肉は飲み物。」とかいうやべーワードw
モチちゃんもいいキャラしてますね
パワー系お嬢さんたちが姦しくわちゃわちゃしてるのすこ - 82二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 12:25:19
トレセン入学時に、妹達から贈られたリボンだと思うと尊い
- 83◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/06(土) 22:17:52
- 84二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 00:21:33
- 85二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 08:03:21
保守
- 86二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 10:29:41
ラムしゃぶ派はおらんのか…
- 87二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 20:38:59
保守
- 88二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 23:06:07
保守
- 89二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 08:38:44
ほ
- 90◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/08(月) 12:28:24
※遊びに出かけたらあまりの暑さにやられて何も進まないスレ主です。
帯広トレセン学園七不思議とか、本編と全然関係ないところが浮かびます。
・消えるトレーナーの怪
毎年、卒業式を過ぎた頃に消えるトレーナー。
仮にいなくなった理由を探ったとしても、まともな応えを得ることはできない。
真に賞賛されるべきは鋼の意思ではなく、それを最後まで隠し遂せてみせた周囲の友情の厚さである。
・叫び走り回る雪女の怪
吹雪の中から突如として現れては窓を激しく叩く、ばんえいウマ娘の姿をした雪女。
寮のサウナから雪中にその五体を投じた生徒の成れの果てと言われている。
これが示す教訓は、恥じらいを捨てた者が助かる道は、さらなる羞恥と共にしか得られぬということである。
・夜中に動くイレネー像の怪
夜明けを迎える度に向きが変わっている、帯広競バ場入口に飾られている銅像。
偉大なる母と称えられるばんえいウマ娘イレネーの銅像。その足は未だ歩みを止めぬと言われている。
数多のトレーナーに曰く、トレーニングとは然るべき場所で然るべき道具にて行われるべきものである。 - 91二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 22:57:59
保守
- 92◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 00:29:29
- 93二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 09:03:30
保守を兼ねて
1.ルーシーナインティ
2.サニーショコラ - 94二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 18:16:59
1.フェアリーナナセ
2.ライジンムーン
実際にいる馬をもじってみた - 95二次元好きの匿名さん24/07/09(火) 18:49:01
そういうフォーマットなのか
1.エリモナニモナイト
2.シシャモキングダム - 96◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 21:30:22
※すぐ登場するかは不明ですが、いざ登場となった際に決めているとテンポが悪くなりそうなので、名前だけでも予めて決めておこうかと。
1.装蹄所で悩みを聞いてもらったシニア級の先輩の名前ですが…
1.ルーシーナインティ
1.フェアリーナナセ
1.エリモナニモナイト
dice1d3=2 (2)
2.模擬レースで対戦したクラシック級の先輩の名前ですが…
2.サニーショコラ
2.ライジンムーン
2.シシャモキングダム
dice1d3=2 (2)
- 97◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:40:26
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう……首をどうかしたのかい?」
「いえ、大したことはないです。昨日、ちょっと捻ったみたいで」
「ふむん、大事になると厄介だから後で少し見ておこうか」
あの後、散々に逃げ回ったのですが結局はクインルゴサローズさんに追いつかれ、そのまま垂直落下式ブレーンバスターを喰らって上半身を積もった雪に打ち込まれました。
グラムさんも逃げ切れず、あちらは背後を取られて、そのままジャーマンスープレックスで雪に打ち込まれていました。クインルゴサローズさんは、レースを引退しても格闘家としてやっていけるんじゃないでしょうか。
四人でのジンギスカンパーティの翌日は、元旦。
元旦なのですが、帯広トレセン学園には年末年始の静かな雰囲気はありません。あたし自身はすっかり休養モードですが、それも普段のレース後のルーチン通りと言って良いので特別感はありません。帯広競バ場の正門には巨大な門松が置かれたりしてお正月ムードを盛り上げていますが、基本的にお客さんを迎え入れる側なので、年始早々のGⅠレースやイベントの準備などでドタバタしており忙しないです。
結局、寮にいてもあまりゆっくりも出来ないので、こうしていつもと同じようにトレーナー室に来ています。
目に見えての変化と言えば、トレーナー室のドアに小さな正月飾りが増えたくらいでしょうか。
ただ、普段とちょっと違うのは、
「さて、いこうか」
今日はトレーナーさんと一緒に帯廣神社まで初詣だという事です。
十勝の総鎮守である帯廣神社はトレセンからはさほど距離が離れていないので、徒歩です。レースで疲れた体をしっかりと休ませて、また動き始めさせるウォーキングには丁度良いです。
市内であれば除雪もしっかりされていますし、そもそもそんなに雪が多くないので、歩くのに余計な負荷はかかりません。 - 98◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:44:11
「やっぱり混んでますねぇ」
「元旦だしね。風はないが、さすがに待っていると冷えそうだな。
スノウ君、ちょっと待っててもらえるかい。そこらで甘酒でも買ってこよう」
トレーナーさんが示す指の先には、この寒空でも元気にお店を開いている無数の露店。
そう言うと、トレーナーさんは人混みに消えていきました。
人通りの少なそうな、出来るだけ邪魔にならなさそうな場所に立って人待ち状態に移ります。
一人になると、辺りから嬉しそうな楽しそうな、波のような喧騒がウマ耳に届きます。
うーん。
なかなかトレーナーさんが帰ってきません。混んでいるのでしょう。
手持ち無沙汰で人波を眺めて待ちます。
眺めていると、一方向にゆっくりと動いている人混みの中を、見知った顔が流れていったりします。楽しそうに笑っていたり、しっとりとした微笑みを浮かべていたり。そのたびに目線で会釈したり、軽く手を振ったり。友人同士も多いですが、こんな日にトレーナーと二人でいるクラスメイトや先輩方に声を掛けるのは野暮というものでしょう。
ふと翻って考えると、あたしはどう見られているのでしょうか。
「あ、あの……!」
思考がぐるぐる回り始めそうになった時、不意に声を掛けられました。
「ぅひゃ、ひゃいぃ?!」
目を下げれば、トレーナーさんではなく、見知らぬ女の子。
ヒトミミで眼鏡をかけた、年の頃は中学生くらいでしょうか。
「あの、カミノクニスノウ、さん、ですよね?トレセン学園の、レースに出てる?」
ばんえいウマ娘はウマミミも含めれば人より頭一つ分は高いので、こんな人混みでも、いえ人混みで比較物がすぐ周りにあるからこそ非常に目立ちます。テレビやネットでのレース中継もありますし、そもそも競バ場にはお客さんが来ますので、あたしの顔をあたしの知らない人が知っているのは十分にあり得ます。
目の前の女の子も、それであたしだと分かったのでしょう。 - 99◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:46:35
とは言え、先日のレースはジュニア級のGⅡレース。
我が事ながらにそこまで注目されているとは思っておらず、実際、これは完全に予想外。
虚を突かれてたどたどしく頷けば、女の子はキラキラと目を輝かせました。
「この前のレース見ました!最後の追込みすごかったです!
あとから蹄鉄が落ちたって聞いたんですけど、そんなに大変だったのにあんなに頑張ってて……それなのに諦めないのすごいなって!」
両の拳を胸の前で握りしめ、こちらがたじろいでしまうほどの純粋な眼差し。思わず気圧されてしまうほどの熱量。
どくん。
胸の奥が震えます。
体のど真ん中で生まれた震えは消えず、まるで波紋のように同心円状に体の隅々に向けて広がっていく。
それが頭までたどり着いた時、あたしは弾かれるようにお礼をしていました。
「ありがとうございます!あの時はもう必死でして!グラムさん達、前の子に追いつくしか考えてなくってですね……」
さすがにサインペンなんて持ち歩いていませんのでサインこそ出来ませんでしたが、一緒に写真を撮ったり、ブランコのように二の腕にぶら下げてあげたり。
そうして、しばらくお話したのち、女の子は何度も何度もお辞儀をして、人混みに消えていきました。
「……ふぅ」
「お疲れ様、スノウ君」
トレーナーさんが持ってきてくれた甘酒を受け取り、一口啜ります。
甘い。
しつこさは無く優しい甘みと、ふわりと広がる米の香り。鼻腔を抜けていく馥郁とした香りが心を落ち着かせてくれる。記憶を鮮烈に刺激しては、実家を思い起こさせてくれる優しく甘い香り。 - 100◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:49:37
半ば温くなってしまったそれ。
でも、甘酒は温い筈なのに、喉を通り抜けた後の胸の奥は熱く熱くなったまま。まるで熾火を飲み込んだかのように、ずっと火照っていました。
「ファンの声ってのは嬉しいもんだね。
ファンレターも読んではいるが、今みたいな生の声はなかなか聞けないし、実感が手紙とは別物だ」
「そうですね、あたしの曳きを見て、あんな風に言ってもらえるのは、嬉しいです。
こう言うとすごく偉そうな感じになっちゃいそうですけど、あたしの走りは誰かに何かをあげられたのかなって。
それが何かこう、胸の奥をグッと掴まれるって言うか……今すぐにでも思いっきり走りたい気分ですよ」
にっかり笑います。
胸の中で渦巻く感情は、上手く言葉に出来ません。それに仮に言葉で表現できたとしても、とても陳腐でありきたりな表現に落ち着いてしまいそうで、言葉にしたくない。今、あたしの心を満たしているこれは、このままが良い。
「それは今は勘弁してくれないかな」
苦笑して、ぐいっと甘酒を呷るトレーナーさん。
「でも、すぐに舞台は用意するよ。それがトレーナーである僕の役割だからね」
甘酒を一息で干したそこには、不敵な笑みが浮かんでいました。
「ばんえい競バは神事でもある。今日は神様にご挨拶して、レースで1着を奉納するのがどういう子なのか、覚えておいてもらおうじゃないか」
そうして、しっかりたっぷりと必勝と無事是名ウマ娘の祈りをこめて、ご祭神であるは大國魂神、大那牟遅神、少彦名神の開拓三神にお参りしたのでした。
北海道ご当地御神籤シリーズの一つ、鮭みくじを釣竿で引き上げて、帯廣神社のばんえいウマ娘型の絵馬に願い事も書きましたよ! - 101◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:51:07
御神籤ですが…
1.大吉 2.中吉 3.小吉 4.吉 5.凶
dice1d5=2 (2)
でした
レースでの敗北、友人達やファンとの交流はあたしの中に確かな経験として降り積もり、明確に力になろうとしていました。
今なら何かを確実に掴めそうな気がします。神様も応援してくれているのでしょうか。
1.スピードアップスキルの獲得
2.スタミナアップスキルの獲得
3.パワーアップスキルの獲得
4.根性アップスキルの獲得
5.バ馬系スキルの獲得
6.天候系スキルの獲得
dice1d6=2 (2)
- 102◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/09(火) 22:54:30
※スノウちゃんはスタミナアップスキル(回復系スキル)を獲得しました。
具体的な効果や難易度はこれから考えます。
バ馬系/天候系スキルの実装も考えていますので、次レースから天候ダイスの他にバ馬水分もダイスにします。 - 103二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 08:29:03
ほしゅ
- 104二次元好きの匿名さん24/07/10(水) 18:27:40
保守
- 105◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/10(水) 22:31:01
カミノクニスノウは、スキル『刻み○』を獲得した!
――スキル『刻み○』
レース中盤で無駄のない息の入れ方でわずかに疲れにくくなる。
発動エリア:第2直線
基準値:10
効果:発動成功時に、最終着順ダイスの出目に+1される。 - 106◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/10(水) 22:36:01
「まずは最大の目標を確認しておこうか。スノウ君、イレネー記念には出るかい?」
イレネー記念は、ジュニア級三冠競争の最後の一冠にして、ジュニア級では唯一のBGⅠレース。ジュニア級最強を決めるレースです。
模擬レースで胸を貸してもらったライジンムーン先輩が、去年優勝したレースでもあります。
最近は勝ちがないですが、出走資格に問題はない筈です。ローカルシリーズであるばんえい競バは、勝たないとクラスが上がらないトゥインクルシリーズとは違って、5着以内であればクラス分けや出走資格に関わってくる収得賞金が積み上がります。もっとも1着と5着では、賞金額の差が雲泥の差ですけれども。
体の方にも目立った不調や故障はありません。
ならば、出ない、目指さない理由がありません。
あたしは、食べ掛けのお汁粉を机に置いて、力強く答えました。セントラルヒーティングの温水ヒーターの上に放置して温めたメジロマックイーンコラボ仕様のお汁粉缶をマグカップに開けて、トレーナー室にあるトースターで焼いた餅を放り込んだ即席お汁粉はドロリと甘く絡みつく。
「でまひゅ」
「ああ、飲み込んでからでいいよ。聞いたタイミングが悪かったな」
トレーナーさんがポリポリと頭を掻きます。
なかなか噛み切れない餅をやっと飲みこんでから、あらためて、
「出ます」
「出よう」
そういう事になりました。
面持ちは真剣なのですが、如何せん、お汁粉の所為で部屋の中から真面目な雰囲気は消えています。
「さて、ではそこまでのスケジュール調整といこうか。
イレネー記念の開催は3月9日。まだ三が日も終わったばかりの今から直行するとなると、2ヶ月も開いてしまう。
トレーニングはたっぷり出来るだろうけど、大事なレース勘が鈍ってしまうだろうから、ここから直行するのは無しだと思う」
新しくなったカレンダーを、ペンのお尻でトントンと突つきながらのトレーナーさん。
あたしは頷きました。
「そうですね、それだけレース無しはなんか鈍っちゃいそうです。それに、もっと走りたいです」
模擬レースは出来ますが、やはり本物のレースと似てはいますが違うのです。 - 107◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/10(水) 22:43:06
トレーナーさんがペラリとカレンダーをめくれば、現れる2月。
「そこでだ。先日取り損ねたGⅡを取りに行く、というのはどうだろうか?」
ペン先がカレンダーの上を走り、2月上旬あたりに大きな丸を描きます。
「翔雲賞と黒ユリ賞、二つのGⅡレースが一週間おきに設定されている。三冠ではないけれど、立派にGⅡだ。
どうせならジュニア級の各グレードの優勝レイを取りこぼさないよう、いけるところはいこうじゃないか」
トレーナーさんの悪戯げな視線が投げかけられます。
今のところ、あたしはGⅢ勝者でしかないですからね。それがGⅡ勝者にランクアップするのは正直面白いです。GⅡ優勝レイを首にかけた自分を想像してみますが、これはだいぶ輝いてるんじゃないでしょうか。
それにしても、ずいぶんと欲が深いというか、トレーナーさんは意外に肉食系だったんですね。
「肉食系上等じゃないか」
トレーナーさんが肩をすくめます。
「世の中を渡るなら謙虚さは必要だけど、勝利の味は齧りつかないと味わえないのだったら、思いっきりガブリといこう」
翔雲賞と黒ユリ賞、共にあたしが4着に敗れたヤングチャンピオンシップと同じグレードのBGⅡ。
黒ユリ賞は半世紀近い歴史のある由緒あるレースです。基礎ばんえい重量は3200kg。
翔雲賞は近年創設されたばかりのレースで、基礎ばんえい重量は黒ユリ賞と同じく3200kg。黒ユリ賞の一週間前に開催されます。グレードも条件も同じですが、時期的にどちらかにしか出走できない。
そして、2月上旬あたりからであれば、そこからイレネー記念までの間隔は概ね1ヶ月になります。回復させるには十分な余裕があります。
ふむふむ……。
カレンダーを眺めること、しばし。そして、意を決して、きっぱりと言いました。
「トレーナーさん。黒ユリ賞に出ましょう」
「理由を聞かせてもらえるかい?」
「翔雲賞に出ると、イレネー記念との間が中途半端に長いです。気分的に一戦挟みたいところですが、間隔が詰まり過ぎになっちゃうのでGⅠ前にそれはキツそうです。
黒ユリ賞であれば無駄なく納まりますし、それに……」
ここからが本番。
「今から黒ユリ賞でしたら、間に一戦、挟めます。いえ、挟みたいです」 - 108◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/10(水) 22:49:57
トレーニングを積んだことで力の使い方も上手くなってきた。刻む時の息の入れ方を改善できる兆しがある。言葉にするのは難しいけれど、何かを掴んだ感じがある。
それになにより、身体を震わせるのは、走りたいという胸を突き上げる衝動。
自分を試したい。
走りたい。
そんな半分くらいはあたしの我儘にも近いようなスケジュール案を、拍子抜けなほどあっさりとトレーナーさんは了承してくれました。
「止めないんですね」
「好きなように走って、好きなように曳いて、勝負する。誰のためでもなく……ただ自分のために。
軽種でも重種でも、それはウマ娘の本能だろう。スノウ君が調子を崩しそうだったり本来の目的に影響が出るようなら話は変わるけど、そうでないのであれば、抑えるべきじゃない。
それにレースでの経験値はトレーニングでは得難いものだ」
ふむ、とトレーナーさんは顎を撫でて、ニッと笑いました。トレーナーさんはあまり華やかな容姿の人ではありませんが、こうしてたまに見せる油断した笑顔は意外に無邪気でカワイイと言うか。
「しかし、スノウ君がただトレーナーの言葉に従うだけの選手ではなくなってきてくれたようで、嬉しいよ。
なんだかんだ言ったところで、僕はウマ娘ではない。君らを衝き動かすものは感じ取れないし、本当の意味では理解できない。
で、あればこそ、ウマ娘とトレーナーは絆を密にして二人三脚で進むべきである……僕が師匠から教わったことだ」
再びペンでトントンとカレンダーを突っつくトレーナーさん。
その目は真剣で、あたしの意見をどう叶えるか、様々な事象を計算に入れて思考しているのが伺えます。
「疲労回復と調整から逆算すると……次走は1月中旬のAクラス戦か特別競走、だな。
前走から三週間。次走の黒ユリ賞まで三週間。これくらいならスノウ君は無理なく回復と調整がこなせる。これが二週間隔となると、いけなくはないが疲労残りが怖い」
トレーナーさんは、あたしに向き直りました。
その眼に宿る光は強く、けして担当バの意見にただ流されたのではなく、明確な意思を持っての選択と判断だと分かります。
これ以上の無理をしようものなら、即座に拒否されるでしょう。
「このスケジュールで良いなら、出走の調整に入る」
あたしは、その言葉と意志に、はっきりと力強く返しました。
「はい!お願いします!」 - 109◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/10(水) 23:02:46
- 110二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 00:20:07
おしるこ!!
- 111二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 11:09:50
インフラ保守に感謝しよう記念
- 112二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 12:04:01
インフラ保守は実際大切
自分はおしるこ!!あそばせ杯くらいしか浮かばんかった - 113二次元好きの匿名さん24/07/11(木) 20:46:52
北海道でのインフラ保守は意味が重いな
- 114二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 00:14:57
冬に電気か灯油が切れたら死ぬからなぁ
ばんえいウマ娘がいるから、雪かき事情はちょっと楽になってるかもしれない - 115◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 01:26:45
- 116二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 10:59:32
保守
- 117二次元好きの匿名さん24/07/12(金) 14:23:17
温泉とサウナ行ってきたが、帯広トレセンのサウナはキャッキャウフフじゃなくバーニャ!な感じがする
- 118◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 20:00:32
二人しかいない小さな部屋。
そこは、むわりとした熱気に、また鼻にかかったような押さえ込まれた苦悶にも似た声で満ちていた。
部屋の中には、水流で磨かれた岩のような、隆々とした筋肉をまとった若々しい女体が二つ。
肩も、腕も、腿も太い。二人のうち一人は乳までぶ厚い。
無数の打ち身に擦り傷に切り傷。それらに彩られた、いわば戦士の肌とも言える皮膚の下にはワイヤーを撚り合わせて作られたかのような強靭な筋肉が潜み、それが乙女の柔肌と表現するには些か難しいほどに肌をたくましく盛り上げている。掘りの深さも見事な筋肉はうっすらと汗に塗れ、天井の明かりをぬらりと照り返していた。
当然ながら、それらを包む薄衣も汗を吸い込んでしっとりと濡れる。濡れた小さな布切れはぴったりと肌に張り付いて、鍛えられた筋肉で彩られた見事なボディラインを露わにしていた。
二つに肉体が蠢く度、ぎしり、ぎしりと床が悲鳴を上げるが、夢中になって互いの肉と肉を触れさせている二人の耳には些事であった。
カミノクニスノウとシャコータングラム。
鍛えられたばんえいウマ娘の肉体が絡み合う。
がっちりと鍛えられた腕と足は片方の身体を抑え込み、動かせないようにしては、責めていた。しかし責めてはいるが単に苦痛のみを与えようとするのではなく、苦痛の中に気持ち良い状態も共存させるような絶妙な力加減がシャコータングラムを襲う。
「どうですか、グラムさん?」
片方の腕が動くたび、もう片方の半ば惚けたように開けられた口から、はふ、と熱い吐息が漏れる。
シャコータングラムの可愛らしい顔は苦悶に満ち、その豊満な胸は主の苦痛を代弁するかのようにふるふると震わせていた。しかし、そこにあるのは苦痛のみではなかった。
「待っ、て、スノウ……も、いけない、これ以上、きつい、から」
「大丈夫ですって。ほらほら~、もぉっといきますよ~」
カミノクニスノウの意図した通り、苦痛に隠されるようにして、彼女の大柄な肢体の関節と肉が引き伸ばされていく快感がシャコータングラムを襲っていた。 - 119◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 20:07:56
「あ、んぅ、んぁ、あ!いぃ、ぃいっ……いったあ、ふぁ!あ!い、いった!んがぁぁぁっ!!
あ゛あ゛ーー!あー、のびるー。ふ、あぁー」
「はーい、ゆっくり戻していきますよー」
「いっや、責め方きついっしょ。そう言えばさー、スノウの次走、なんだっけ?」
「え、次走ですか?『インフラ保守に感謝しよう記念』、ですね」
「インフラ保守ねぇ。実際、そーゆーお仕事してくれる人らのお陰でウチら生活できてっからありがたいっしょ。
しかしインフラの保守かー、確かに最近はバイトも雪掻きばっかしだしなー。あとは森仕事か。あんまり稼げてないべさ」
たしかに。
お財布の中身が増えないので、部屋にいるタイシンも三体から増えていません。
ベッドサイドにいるのは、ナナカマド賞優勝の時に貰ったぱかプチタイシン。トレーナーさんからクリスマスプレゼントに貰ったぱかプチタイシン。グラムさんからクリスマスプレゼントに貰った巨大ぱかプチタイシン
グラムさんが言っていたように林業、特に山からの木材の切り出しは冬が繁忙期です。とは言え、必然的に山間部での仕事になるので仕事場が遠く、気軽にやれそうな募集は争奪戦が激しくて、なかなか回ってきません。
除雪は募集数こそ多いのですが、豪雪地帯である札幌などの道央出身者に優先的に回されます。これは慣れている者で効率最優先でやらないとライフラインが止まりかねない仕事なので、仕方ないでしょう。上ノ国町は暖かいので雨は多いですが降雪は少ないので、あたしは雪掻きに慣れていません。実際、寮の前の雪掻きとかでも、出身地によって雪がどかされるスピードと気合の入り方が全然違います。
「うっし、んじゃ交代ね」
あたしとグラムさんは、寮の自室でトレーニング。
とは言ってもハードな筋トレではなく、既に夕食は終わっており自由時間中なので、お風呂に入る前のペアヨガです。
筋肉を鍛える上でも、パフォーマンスを発揮させる上でも、体の柔軟性はとても重要です。その為にヨガなどストレッチは大切なメニューの一つなのですが、どうしても痛みが伴う。
どうしても一人では限界手前で止めてしまう事も多いので、こうしてペアで行い、身体を限界まで追い込むのです。 - 120◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 20:10:10
部屋の床にお互いの持っているヨガマットを敷き詰めて、その上で向かい合って座って、今は二人で開脚前屈。
向かい合わせになり、互いに開脚。
これから前屈を行うあたしは大きく開脚し、グラムさんはあたしの脚の内側、足首あたりにそれぞれ踵を置く程度に開きます。入学してからトレーニングを重ねてきた成果で、180度まではいけませんが、それに近いくらいまでなら大きくガバリと開脚できます。
お陰で、グラムさんとの距離が近い。息がかかるくらいです。さっきまで動いていたせいで吐息が熱い。
指と指を絡め合わせるようにして両手をつないだら、深呼吸を数回。
息を整えてから、大きく息を吸って背筋を伸ばす。
そのまま、背筋を伸ばしたままで身体を前に倒す。グラムさんはローイングの要領で、あたしの手を引いていきます。
ゆーっくりと息を吐きながら前屈します。
しますが、
「ん?ん?!お゛っ!いや、早いです、よぉお゛っ!グラムさ、んほっ、ちょっと急で、ひぎぃぃ?!」
少しばかり慣らしが足らない体から、あがる悲鳴。
グラムさんの手が、あたしの腕を引っ張ります。
開いた両の脚はしっかりと彼女の踵でホールドされていて、両手は絡み取られています。襲ってくる痛みで身体がブレないよう逃げないよう、優しく丁寧に捕らえられていて、与えられる全てを受け入れさせられる。
二人の距離が近いので、引かれれば引かれるほどに、まるであたしがグラムさんに抱きつくような、彼女のバッキリ割れた腹筋に頭を預けに行くかのような姿勢になる。
「お゛っ!おお゛っ!い、いたっ!はぉ、ほお゛ぉぉっっっ!!」
「ちょっとー!スノウにグラム、うるさーい!!乳繰り合うならトレーニングルームでやりなさいよー!」
あまりに声が大きかったのでしょう。
隣室の子に乱入されて、部屋からトレーニングルームにと追い出されました。
あと、これはけっして、乳繰り合ってた訳じゃないですからね! - 121◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 20:10:51
次走に向けて
――レース間隔による疲労チェック
3週間間隔での出走で2d6≦3で疲労蓄積。調子1ランクダウン。2d6≦2でさらに調子1ランクダウン。
dice2d6=2 4 (6)
――『インフラ保守に感謝しよう記念』の出走人数は、
dice1d4=1 (1) + 5人 + カミノクニスノウ
- 122◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 21:53:49
あたしの出走レースは第8R、個人協賛競争、インフラ保守に感謝しよう記念。
本日のメインレースは第11Rのクラシック級の準重賞ですので、出走時刻はそれよりも早い17時頃。
基礎ばんえい重量は、2750kg。
ただし、あたしは重賞を勝っている為に重量を追加されて100kg増の、2850kg。
『ばんえい重量補正』 = 5(2500kg~2999kgは5)
カミノクニスノウのやる気は『絶好調』です!
天気は、
1.晴れ 2.曇り 3.雨(雪) 4.悪天候
dice1d4=2 (2)
バ馬水分は、
天気(晴れ 曇り 雨)の時は、dice1d50=3 (3) / 10 [%]
天気(悪天候)の時は、dice1d80=42 (42) /10 +2.0 [%]
バ馬水分 2.0%未満で重バ場 / バ馬水分 2.0%以上で軽バ馬
あたしのウマ番はdice1d7=2 (2) で、人気はdice1d7=2 (2) です。
レースの対戦相手の実力は…
40 + dice6d60=27 36 9 47 16 5 (140)
(80を超えるとライバル補正がかかる。ばんえい重量に大差がなく通常のAクラス戦の為に、対戦相手の力量にバラツキが多く、ライバル扱いとなる判定が厳しめ)
- 123◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 21:58:15
――本競争では、ライバル補正が1人分(-1)かかる。
ライバルの子は、赤鼻のトナカイ特別で負けたアンデスレッドやインカアウェイクンだったり…
1.する(アンデスレッドが出走)
2.する(インカアウェイクンが出走)
3-4.しない
dice1d4=2 (2)
- 124◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 22:11:55
『どんよりとして今にも雪が舞い降りてきそうな空模様、帯広競バ場。ダート直線200m、7人のばんえいウマ娘たちが挑みます。
第8競走、個人協賛競争、インフラ保守に感謝しよう記念。Aクラス戦となります。
バ馬水分は0.3%。バ場状態の発表は重となっています』
『電気ガス水道に道路と、我々のライフラインを保守してくださっている方々、いつも本当にありがとうございます。
今もお仕事中の方もいらっしゃいますでしょうし、是非ともご自宅についてから、レースを見返して楽しんで頂きたいところであります
曇り空とは言え、ここのところずっと晴れ続きでしたので、かなりの乾燥状態となっています。バ場が乾いていますから、曳くには力のいるレースになりそうですね』
流れるアナウンスに場内が、ゆるやかに沸きます。
メインレースは、かつてはBGⅢだったレースですが、今はクラシック級の準重賞。そこまで大きくはないので、お客さんも入り具合もそれなりです。
と言っても、声援の多い少ないで、あたしの気合の入り方は変わりません。
お客さんが少ないからって手を抜いて良い理由などありません。魅せましょう。
お日様は西の山の向こう。ナイター設備には、既に灯が点っています。
ふーっと大きく息を吐き、ゆっくり大きく吸う。
吐き出した息は真っ白。
それが選手の分だけ吐き出されれば、ゲート周りは照明を照り返してキラキラと白く煙ります。
あたしは握った左右の拳で、自分の太腿をトントンと軽く叩きます。
「日本の米はぁ……」
そのまま右拳で左肩、左拳で右肩を。
最後に両手が頬を張った乾いた音が、辺りに響きます。
「世界一ぃ!!」
すー。ふー。
重賞でもなんでもない普通のAクラス戦とは言え、皆、あたし同様にトレーニングを積んできている。けして侮っていい相手ではない。赤鼻のトナカイ特別で負けたインカアウェイクンさんも出走しています。
しかし、そんな事では足が竦んだりなんかしません。
走りたい。走りたい。勝ちたい。勝つ!
自分の頭の中に、1月の帯広の空気と同様に冷えた部分と、ドロドロに煮えたぎったマグマのように熱い部分が同時に存在しているような感覚。
自分の眼付きがきつくなっていくのが分かります。 - 125◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 22:22:07
ゲートインして居並ぶウマ娘の後方。各々が曳く橇は既に位置を整えられて、スタートラインに並べられています。正確なスタートラインの位置はゲートではなく、ゲートの後方にあり、そこに橇の最後端を揃えるのです。
『注目のウマ娘は、2番人気。2番カミノクニスノウ』
橇とハーネスとの接続も完了。
いつもの接続完了と感謝のボディランゲージを交わします。
『前走のBGⅡヤングチャンピオンシップは無念の4着に終わりましたが、落鉄と言うアクシデントがあった上での4着でしたからね。
その実力はけっして侮ることはできません。砂塵渦巻く中での熱い戦いが見られそうですよ』
ファンファーレが響きます。
トレーナーさんの姿が観客席最前列にあるのが目の端に引っ掛かりました。
『さぁ各ウマ娘、ゲートイン完了の様子。
すべての係員が離れまして……出走の準備が整いました』
スターター台の上で、赤い旗が天を指します。 - 126◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 22:25:46
細い細い糸がぴんと張り詰めたような、緊張感に満ちた静寂。
固唾をのむ余裕もない長い一瞬。
ガコン!
居並ぶ7人のばんえいウマ娘達の視界を塞ぐ、開閉扉が一斉に開きます。
『各ウマ娘、一斉にスタートしました』
橇とウマ娘をつなぐ装具が一斉に、盛大に鳴り響きます。
『第1直線』 ばんえい重量補正基準値=9 判定 dice2d6=3 5 (8)
→スキル『集中力』 基準値=8 判定 dice2d6=4 2 (6)
『第1障害』 ばんえい重量補正基準値=11 判定 dice2d6=3 6 (9)
『第2直線』 ばんえい重量補正基準値=13 判定 dice2d6=1 2 (3)
→スキル『刻み〇』 基準値=10 判定 dice2d6=5 3 (8)
『第2障害』 ばんえい重量補正基準値=15 判定 dice2d6=4 6 (10)
『最終直線』ばんえい重量補正基準値=13 判定 dice2d6=5 5 (10)
最終着順ダイス dice1d10=8 (8)
- 127◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 22:32:04
『第1直線』の成功量 = 出目(8) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(0) + スキル発動(1) - 10 = 6
→出目(6) + パラメータ補正(6)≧8 →スキル『集中力』発動成功!
『第1障害』の成功量 = 出目(9) + パラメータ補正(4) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 12 = 3
『第2直線』の成功量 = 出目(3) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 14 = -3
→出目(8) + パラメータ補正(6)≧10 →スキル『刻み』発動成功!
『第2障害』の成功量 = 出目(10) + パラメータ補正(4) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 16 = 0
『最終直線』の成功量 = 出目(10) + パラメータ補正(6) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 14 = 4
最終着順 = 出目(8) - (スタミナ補正(6) + やる気補正(2) + 天候/馬場補正(0) + スキル発動(1) + 総成功量(10) + ライバル補正(-1)) = -10
順位は、2着に大差をつけての1着! - 128◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/12(金) 22:37:57
- 129二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 01:32:06
派手に勝ったねぇ
- 130二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 11:25:57
怪我や病気で曇る展開になりにくい反面、盛り上がりづらくもあるか
- 131二次元好きの匿名さん24/07/13(土) 13:34:09
インカアウェイクン…インカのめざめ美味しいよね…
- 132◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/13(土) 23:39:08
名前のあるジャガイモ軍団はまだ8人いますので、いずれ折に触れて出てくるかもしれません。
次走の黒ユリ賞やそれ以降に向けて、どうお話を盛り上げていくか考え中です。 - 133二次元好きの匿名さん24/07/14(日) 09:01:46
朝の保守
- 134◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/14(日) 19:58:05
- 135二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 00:16:17
寝る前保守
- 136二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 09:33:36
保守
- 137二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 09:51:31
- 138◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/15(月) 16:32:02
8/19にJRAジョッキーDAY2024(ばんえい競馬にJRA騎手が参加するイベント)が開催されます。
ウマ娘に落とし込もうとすれば、出来るだけ軽くした錘を引っ張ってレースすることになるでしょうか。
- 139二次元好きの匿名さん24/07/15(月) 20:38:23
ばんえいってどんな体格なんだろう、身長がやばいほど高いのはわかる
- 140◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/16(火) 00:13:12
- 141二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 11:50:17
保守
- 142二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 18:36:00
この体格差と筋肉で、勝利のハグを要求されると死が垣間見えそうだ
「うわぁぁぁん!トレーナ~!やっと勝でだよ゛~!」 - 143二次元好きの匿名さん24/07/16(火) 21:04:49
でっか…
- 144二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 01:35:56
デカい上に筋肉もあって厚みがあるから、後ろから抱かれると包み込まれる安心感が凄そう
- 145二次元好きの匿名さん24/07/17(水) 12:22:48
北海道は、合法ロリ道産子ウマ娘と、大柄マッシブばんえいウマ娘が闊歩する(性癖的に)魔境
- 146◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:40:04
寮の一室。静かな寝息が二つ。
その静寂を破って、突如として流れ始めた、疾走感とどこか哀愁を感じる短いイントロ。
『♪制御不能なココロがある』
枕元にあるスマホが、ナリタタイシンさんの名曲『感情ノ黎明』を奏で始めました。
ばちん、とONのスイッチが入った電気回路のように、あたしの目が開きます。そのままスマホを弄って目覚まし時計代わりにセットしてある曲を止めようとしますが、スマホを握った手は動きを止めます。
そのまま曲に聞き入り、頭がテンションを上げて回転を始めたあたりでようやく曲は止まりました。
「んん~……ふ、ぁあぁ~、もう朝かぁ」
向かいのベッドの中からは、グラムさんの眠たそうな声。
カーテンの向こうから差し込む光は無し。
窓の向こうはまだ暗いです。夜明けはまだまだ遠い。
スマホの液晶画面が示す時刻は、朝の4時。夜と朝の境界に近く、まだ夜の領域と言って良いでしょう。けしてアラームの設定時刻を間違えたりしたのではありません。
普通であれば、まだ一眠りできそうな時間です。ですが、帯広トレセン生徒はその普通の範囲内にはいません。
温かく気持ちの良い布団に別れを告げて這い出せば、ばんえいウマ娘の巨躯が温度差にぶるりと一震えします。
寮の部屋は、かなり年季が入っているとは言え温水ヒーターで夜間も温め続けられていますが、窓辺からは二重窓とぶ厚いカーテンを貫通して暖房にも押し負けずに浸み込んでくる極寒の十勝地方の夜気が静かに床を這っており、これからの過酷さを予感させてくれます。
ばんえいウマ娘の朝は早いです。特にこの時期は。
でも、いくら実家が農家で朝が早い生活が長かったとは言え、4時起きは眠いです。
これが始まった当初は起きるのすら大変でしたが、流石にもう慣れたもので、頭は寝ぼけていても体が自動運転のように勝手に準備を整えていきます。
最低限の身だしなみを整え、着替え、だんだんと腹ペコが近づいてきたお腹を黙らせるためにチョコバーやプロテインバーなどでごく軽くエネルギーを入れておきます。
あたしとグラムさんが共同で使うお菓子ボックスからそれぞれ一本ずつ引き出せば、
「当たりですね、はちみー味でしたー!」
「こっちはラムネ味だわ……まぁこの間のコンポタ味よりかは、たぶん美味しいっしょ」 - 147◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:42:30
わざと相手に知らせずに色んな味のプロテインバーを買ってはお菓子ボックスに放り込んであり、御みくじ感覚の毎朝のちょっとしたお楽しみです。
廊下に出れば、そこは暗く、まだ皆は寝静まっているかと思いきや。
先客で溢れていました。半分くらい寝ぼけていて普段より少しばかり動きが緩慢な、ばんえいウマ娘の群れ。群れ。寝起きと夜明け前なのもあって、交わす言葉と雑談は控えめで、潮騒のように静かに姦しい。
揃ってトレセンのジャージに身を包み、普段はウマ耳の耳飾りが見えるようにしている子も多いですが、今はどの子のウマ耳も厚めのカバーですっぽりと覆われています。耳カバーだけではなく顔面を覆うバラクラバまで付けていて、ばんえいウマ娘の巨躯と相まって、そのままコンビニに入ると強盗扱いされそうな風体の子までいます。
「アンデスレッドさん、おはようございます」
「おー、アンちゃん、はよー」
「あ……おはよう、ござい……ます」
ゆっくり歩いていたアンデスレッドさん。
眼帯を付けているのは同じですが、彼女の様子はレース中と同じ人だと思えないほどに違います。なんでもレースになると、あんな派手な雰囲気になってしまうそうで。
ウマ娘の群れは、同じ方向を目指して緩やかに流れていきます。あたしとグラムさんも、その流れに合流。
行きつく先は、寮の玄関。
玄関ドアの手前、かなり広く取ってある風除けスペースを使って皆がウォーミングアップ中です。
あたし達もクインルゴサローズさんや同期の友人達と合流して小さなグループを作ったように 三々五々、クラスメイトやチームメイトなど見知った顔や仲の良い同士でグループを作ってはウォーミングアップをして、アップが終わったら表に出ていきます。
あたし達もそれに倣います。
ドアを開けて、一歩踏み出した、その途端。
露出していた顔面を引っ叩かれたのかと思わず勘違いしてしまいそうな、痛みが襲ってきました。
そこは寒い冷たいと言ったレベルを超えている空間です。
空気が痛い。
冷たさが刺さる。
まさに凍れるという表現が合う、厳冬期の十勝地方の暴力的なまでに冷え切った空気が頭蓋骨を締め付けるように、ぎしぎしと身に沁み込んできます。
「ぐっはぁぁ!さっぶぅぅ!相変わらず、やっべーっしょ」
「ああああ頬っぺたが痛い!寒い!」 - 148◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:43:47
きゃいきゃいと喚くたびに、もうもうと白い息が吐き出されます。
あたし達だけはありません。
あちらでキャー、こちらでワー。同期や先輩達が楽しそうにはしゃぐたびに、そこには水蒸気が霧のように立ち込めます。
鼻からゆっくりと息を吸うと、鼻腔に侵入した冷気に触れた所がパキパキと凍っていく感触が分かります。
天を仰げば、暗く、高く。
雲は少なく、地上の熱をどこまでも高く放り上げてやると言わんばかりに、澄み渡っている。
ウォーミングアップして温まったはずの身体から、急速に熱が奪われていきます。芯まで冷え切る前に、身体を動かして熱を生産して対抗しないと。
道内でも暖かい地方出身で道東の寒さに未だに慣れていないあたしやグラムさんは今にも凍りつきそうなのに、厳寒地帯出身のクインルゴサローズさんやモチモッツアレラさんは至って普通の顔をしているのが理解できません。
「それでは、皆さまぁ、準備はよろしいですかぁ?ロード行きますわよぉ」
ガッキ、ガッキとシューズ底の刻み蹄鉄に蹴られては、すっかり凍り付いた氷の地面が氷片を飛ばします。
先頭のクインルゴサローズさんの合図に、ぉー、といくつも重なる掛け声。
そのうちのいくつかはビブラートがかかっています。
「トレセーン!ファイ!!」
『オー!』
「ファイ!!」
『オー!』
帯広トレセン学園名物、冬季早朝トレーニング。
東の空がうっすらと紫からピンクに変わっていき、夜の黒が追い払われ始めた頃合い。夜明け前の静寂を破ってばんえいウマ娘の声が幾重にも響くのが、冬の帯広の名物です。
無数のばんえいウマ娘が地面を蹴りつける地響きが、払暁の帯広の空気を揺らします。
「スノウさー、最近なまら頑張ってるっしょ。無理しとらん?」
しばらく走っていると、隣のグラムさんが問い掛けてきました。
「ええ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。
たしかに負荷は上げてますけど、圃場の実習が少なくなってる分を増やしてるようなものですし」
「ふーん、したらば良いけどさー。なんとな~くスノウの尻尾の毛艶が悪くなってるような気がするんよねぇ」
「あらあら、お喋りとはだいぶ余裕があるご様子ですわねぇ。でしたらぁ、もっとペース、上げますわねぇ」
「ちょ、ま、ローズ!ちょっと速いべさ!」 - 149◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:47:57
この時期、冬季早朝トレーニングは、毎朝行われます。
トレーニング自体は毎朝行われていますが、体調と負荷からの回復もあるので、参加するか否かは各自とそれぞれのトレーナーの判断に任されています。その為、参加人数は一定しません。
あたしは、ほぼ毎朝の参加です。
レストが少ないトレーニングにトレーナーさんは良い顔をしませんでしたが、トレーナーさんの指示は絶対に聞く、隠れて自主トレしないという約束で認めてもらえました。
判で押したように、まずはロードワーク。体を温めて柔軟性と筋出力を高めてやるのは、とても大切です。
ロードワークでこの後に向けての体の慣らしと、冷えた空気を思い切り吸い込んでも喉と肺を傷めないような呼吸法の練習。
疲労物質と熱の溜まった筋肉に血流と酸素を送り込もうと大きく呼吸をしても、凍てついた空気がそのまま肺に入ると容赦のない冷たさが内臓を突き刺します。なるべく鼻からの吸気で喉と肺が痛まない程度に空気が温かくなるようにして吸い込み、出来るだけ早く呼吸して酸素交換を繰り返せるように。その自分なりのやり方とサイクルを探して、体に叩き込みます。 - 150◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:48:24
ロードワークが終わって学園のグラウンドに戻ってきた頃には、グラウンドは地平線から頭を覗かせた太陽の放つ温かみのないオレンジ色で染められています。
グラウンドで行うのは、ズリ曳き運動と攻めウマ練習。
合流したトレーナーさんと一緒に、一時間ほどみっちりとズリ曳き運動です。
トレーナーさんの合図に合わせて、曳き、止まり、また曳く。
身体中の組織を血が駆け巡り、脹脛も太腿も肩も腕もパンプして膨れ上がり、バキバキに張った筋肉には太く血管が浮き出ます。
平地競争で走るウマ娘、特にトゥインクルシリーズを走るようなウマ娘達のような伸びやかな、飛ぶように早く走れそうなすらりとした脚に比べれば、随分と太くごつく鈍重に見える事でしょう。何度となくハーネスを体に喰い込ませ、砂の上に膝を折る事も日常茶飯事で、肌には無数の打ち身に擦り傷切り傷があって当たり前。
でも、それらを全部ひっくるめて、ばんえいウマ娘達の、あたしの誇りです。
鍛えあげてきた証です。
そして、まだまだ鍛える余地のある未熟者の肉体です。
だから今もこうして、後ろにへたり込みたくなるほどの負荷を曳いて、これ以上は止めとこうと甘く脳裏に囁く声をトレーナーさんの叱咤がぶった切られながら、一歩ずつ足を前に進めます。この程度の負荷、先輩達ならいける筈。だったら、あたしも鍛えればいける筈。
いつもこの頃になると、もう体中が発熱して熱くてたまらず、ジャージなんて着ていられません。
ジャージを脱いでいつもの体操服姿だと、流れる熱い汗はすぐに水蒸気に変わって立ち昇っていきます。それをオレンジ色の朝日が横から照らし出すと、グラウンドで練習している誰もが揺らめく炎に包まれているようで、朝靄の中に幻想的な風景を描きます。
どうして冬季早朝トレーニングが行われるかと言うと、こうやってばんえいウマ娘の発達した筋肉をフル稼働させても、オーバーヒートの心配がないからです。寒さは厳しく容赦なく体力を削ぎに来ますが、あたしはしっかりとトレーニング出来る機会を逃したくありませんでした。 - 151◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:49:44
ズリ曳き運動が終われば、場所を移しての攻めウマ練習。
攻めウマとは、実際のコースに設置されているのと同じような障害が置かれている練習コースを走るトレーニングです。
ぐるっと橇を引いてコース出口から入口まで戻る必要があるので、載せた負荷は軽め。
それでも、何度も何度も障害を越えるのは、言葉が出てこなくなるくらいにキツイです。
一回、障害を乗り越えるたびに、心臓も、肺も、身体中の筋肉も、どこもかしこもどっぷりと疲れがたまってきます。
障害の途中で足を止めそうになるたびに、トレーナーさんの励ましに背を押されて、時には言葉の鞭で尻を叩かれて、歯を食いしばりながら坂を登ります。
所詮、あたしはどこにでもいる普通のウマ娘。
鋼のような意志もなければ、粘り切るだけの根性もない。あたし一人きりでは到底やりきれないトレーニングでしょう。でも、トレーナーさんがいれば、話は別です。へこたれそうな時には、あたしの足を進ませてくれる。本当に危ない時は、足を止めてくれる。
前走では、圧倒的な勝利を納める事が出来ました。
ヤングチャンピオンシップなどと比べると、ばんえい重量が軽いので得意のスピードを活かしやすく好走に繋がったのだろう、とはトレーナーさんの分析です。
それはある意味で、あたしの弱点も示していました。
ばんえい重量が増えた途端、他の選手以上に厳しくなる。
次走は、黒ユリ賞。
グレードはBGⅡ。
ばんえい重量は3200kg。
ヤングチャンピオンシップをしのぐ、今までも最もばんえい重量の重いレースになります。インフラ保守に感謝しよう記念より確実に厳しいレースになるのは想像に難くありません。
それでも、思う存分に走りたい。
レース場で曳きたい。
勝ちたい。観客席の前で輝いてみたい。あたしだってやれるところを見せたい。
だから、それまでに、多少の無理をしてでも積み上げられるものは積むんです! - 152◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:50:27
黒ユリ賞までの三週間。
トレーニングは、
1.オーバーワーク気味でした
2.なんとか回復は追いつく量なのでオーバーワークにはなりませんでした
dice1d2=1 (1)
- 153◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:50:56
次走に向けて…
――レース間隔による疲労チェック
3週間間隔での出走で2d6≦3で疲労蓄積。調子1ランクダウン。2d6≦2でさらに調子1ランクダウン。
――レース間隔による疲労チェック(トレーニングによるオーバーワーク時)
3週間間隔での出走で2d6≦4で疲労蓄積。調子1ランクダウン。2d6≦3でさらに調子1ランクダウン。
dice2d6=1 3 (4)
- 154◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/17(水) 23:53:55
オーバーワークにより、やる気が一段階ダウン!
カミノクニスノウのやる気 絶好調 → 好調 - 155◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 00:01:39
※本日の進行はここまでといたします。
スノウちゃんは焦り過ぎたのでしょうか。ざっくり9%を引き当てました。 - 156二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 08:07:02
保守
- 157◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 08:46:31
※寝ぼけてて成長判定を入れ忘れてたとか言えない。
- 158二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 17:39:59
保守
- 159二次元好きの匿名さん24/07/18(木) 20:35:14
保守
- 160◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 22:43:48
オーバーワークを押してまでのトレーニングの成果として…
1.攻めウマ練習を繰り返したことで、力の効率的なかけ方を習得した(パワーアップスキルの獲得)
2.ロードワークと呼吸法の改善で心肺機能が強くなり、スタミナアップの効果が得られた(パラメータ強化/スタミナ)
3.ズリ曳き運動を繰り返したことで、短時間での回復力が身に付いた(スタミナアップスキルの獲得)
4.極寒の中でのトレーニングを繰り返したことで、根性アップの効果が得られた(パラメータ強化/根性)
5.ここ一番となった時に心を奮い立たせるルーティーンを習得した(根性アップスキルの獲得)
6.毎日毎朝アイスバーンの路面からバ場まで走ったことで、様々なバ場への対応力が付いた(バ馬系スキルの獲得)
7.毎日毎朝どんな天気であっても練習したことで、天候への対応力が付いた(天候系スキルの獲得)
dice1d7=6 (6)
- 161◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 22:44:24
獲得したスキルは…
1.『道悪○』
2.『良バ場○』
dice1d2=1 (1)
- 162◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 22:52:30
カミノクニスノウは、スキル『道悪○』を獲得した!
――スキル『道悪○』
「重」のバ場状態が少し得意になる。
発動エリア:レース前
基準値:無し(バ馬水分による)
効果:レース開始時のバ馬水分 2.0%未満の重バ場の時に、最終着順ダイスの出目に+1される。重バ場で無条件発動する。 - 163◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/18(木) 23:58:45
次走の黒ユリ賞ですが、モチモッツァレラは…
1.出走する
2.出走しない
dice1d2=2 (2)
※実際の黒ユリ賞は牝馬限定、翔雲賞は牡馬限定なので、耳飾り無しのモチモッツァレラだけ選択肢が出てきます。
左耳飾りのシャコータングラム、クインルゴサローズは黒ユリ賞の方に出走確定です。
資料集めと読み込みが楽しくて、なかなか進まないスレ主です。
馬主協会でダウンロードできる「ばんえいまんがどくほん」がなかなか読み応えがあって…。
- 164二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 09:07:06
保守
- 165二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 12:52:26
地道にノーマルスキルを取得していってる
- 166二次元好きの匿名さん24/07/19(金) 23:04:00
ほしゅ
- 167◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/20(土) 00:24:22
第11R、BGⅡ、黒ユリ賞。
本日のメインレースです。
二月上旬の冷え切った空気が、設置されている業務用大型石油ストーブの熱気を押し返して、装鞍所に容赦なく入り込んでいます。
装鞍所にいる競バ場職員もトレーナーも、勿論これからレースに臨むばんえいウマ娘も、その誰もが息をするたびに白い湯気を吐く。
でも、まだ外よりかは、なにより早朝よりはだいぶマシな気温です。ウマ耳カバーも手袋もしなくて大丈夫ですからね。
レースを前にして装鞍所に入ったらまず行う事と言えば、装具の装着。
自分だけでは出来ないので、トレーナーさんや装鞍所の担当職員が手伝ってくれます。
立った状態では、小柄とは言えばんえいウマ娘の肩回りの作業を行うにはさすがに不便なので、あたしは背もたれの無い椅子に座って装着します。
まずはガラと呼ばれる、厚い革で出来た緩衝材を首と肩回りにかけます。首の後ろから脇の上を通り、胸の外側を回り込むように、端はアンダーバストの辺りまで垂れ下がる。左右と首に当たる感覚で位置を確かめながら、幅広の平べったいガラをマフラーか汗拭きタオルのように首から下げます。
ガチャリガチャリと重い音を立てて、ワラビ型が差し出されます。
ワラビ型とは、これを経由して橇の荷重を受け止める装具で、橇を曳く時の衝撃が全てかかるパーツなので強度がある鋼鉄で出来ています。
いわば、鉄で出来たマフラー。
ワラビ型を介する事で、点ではなく面で荷重がかかるようにして、ばんえいウマ娘は重い重い橇を肩と胸で曳きます。
ワラビ型はそれだけですと、単に首からかけただけです。当然、体を動かすにつれてズレてしまうので、胸の下にある端同士、アンダーバスト、首の後ろ、肩甲骨あたり、といくつもの箇所にハーネスを繋いで、左右に分かれたワラビ型を締め上げて体に密着させていきます。
トレーナーさんに手伝ってもらい、ガラの上から鋼鉄製のワラビ型が外れないように注意しながら、ガラと同じように首と肩回りに上手く乗るように位置を調整します。これがズレると、金属製のワラビ型が直に服や肌に当たって擦れたり、衝撃が分散できなかったりと怪我の元となります。その為、装着する時はどんなウマ娘もトレーナーも真剣です。
「スノウ君、後ろ、締めるぞ」
「はい、お願いします」
ワラビ型がズレないように前で抑えながら、
「よっ……と」 - 168◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/20(土) 00:25:02
ぎしっとハーネスが鳴ります。
トレーナーさんが後ろで締めるのにあわせて、あたしも両脇の先にあるワラビ型の左右の端同士に付けておいたハーネスを締めていきます。
「どうだい?」
「大丈夫だと思います、よ、と」
腰をねじってみたり、両肩を回してみたり。立って軽くジャンプしてみたり。
周りも同じように装着中なので、ガシャリガシャリとまるで鎧でも来ているかのような重厚な音が、装鞍所のそこかしこでします。
ワラビ型と固定用のハーネスにはシャックルが取り付けられるようになっていて、そこにシャックルを介してかじ棒、強化繊維製の呼び出しと胴引きを取り付けて橇と連結されます。
胸が左右からワラビ型に押されて、自然、前方に突き出します。ちょっと大きくなった気分ですよ。向こうで装具を付けている最中のグラムさんを出来るだけ視界に入れないようにしながら、そんな事を考えます。ただでさえ巨大な彼女の胸が左右から締め付けられて、さながらロケットの先端のように突き出している様は、そんなちょっといい気分を木端微塵にしてくれるので。
装具をつけていても、体は軽い。関節も痛くない。肉の芯が重い感じもそんなにない。悪くない調子です。
でも、最高の状態ではありません。
「トレーナーさん、ごめんなさい」
思わず、口をついて出る謝罪。
「いきなりだな、どうしたんだい?」
「……本番までに調子が戻せませんでした。せっかくプランを組んでくれていたトレーナーさんに無理を言ってまで練習したのに。
無理を言ったあたしがこんなザマでは、無理を聞いてくれたトレーナーさんに申し訳なくて」
「そう言う事か」
背中越しに飛んでくるトレーナーさんの声。
「謝るなら、そこはむしろ僕の方だ。君の熱意に押されて、君を抑えきれなかった。やりたいと言ったのはスノウ君だが、やらせてみたいと思ったのは僕だ。
何かを掴もうと懸命に足掻くスノウ君の姿に、スノウ君はどこまでやれるんだろうかと、どこまでもやらせてみたいと思ってしまった」
パンパンと肩甲骨のあたりを軽く叩かれます。
「ウマ娘とトレーナーは」
「二人三脚」
「その通り」
話しながら、トレーナーさんが後ろから前に回り込んできました。
「僕らは二人三脚でやらなければならないが、それは必ずしも片方のペースに合わせてもう片方も同じペースで突っ走れ、という意味じゃない」 - 169◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/20(土) 00:28:21
トレーナーさんは、あたしをジッと見つめます。
「たしかに、何かを目指す衝動に身を任せて全力で突っ走って、それが素晴らしい結果を生むケースはあるだろう。
だけど、それは今の僕らには博打だ。スノウ君はまだ自分の調整を見極めきれなかったし、僕も自分を抑えきれなかった。
互いに適切なペースになるよう合わせることが大切だった」
あたしの前に立ったトレーナーさんは慣れた手付きで、ワラビ型とハーネスの微調整をしていきます。
手を動かしながらも、あたしに語りかけます。
「たしかに、スノウ君は無理はした。けれども、それは無為ではなかったと僕は思うよ。
リスクを取らずにリターンだけもらおうってのは虫が良すぎる。それに、そこら辺のリスクとリターンの匙加減を見極めるのがトレーナーの仕事だ。
スノウ君がそこに責任を感じるのは違うさ」
さて、とトレーナーさんが、あたしの筋肉の張りを確かめるようにあちこちをタップしていきます。
「さあ!笑っていこうじゃないか。なんだかんだで、今回はリスクがちょっと大きかったに過ぎない。それに人間、かちかちに硬い方が良いってことは少ないもんだ。
スノウ君はいつも通りに、調子に乗って行けばいい。ちょっと無理はしたけど強くなったんですよ、と胸を張って笑って調子に乗ればいい」
「えー!あたし、そんなお調子者じゃありませんよ!」
たぶん。
トレーナーさんの言う通りです。けして無為ではありませんでした。
足遣いは上手くなりました。
力のいる悪いバ場での荷重のかけ方に慣れてきました。
元々、バ馬の状態は、あたしの走りにはほとんど影響していませんでした。トレーナーさんは、それは稀有な才能だって言ってました。
実家での畑仕事の手伝いで、田んぼの泥みたいな足場の悪い中で動く経験が豊富だったのと、トレセン入学後の経験が合わさって、足遣いに活きてきたのでしょう。
「この数週間、かなり苦しいトレーニングだった。
その分、スノウ君が掴んだものがきっとある筈だ。それを全力でぶつけてこい!」
「はい!……そうだ、調子乗りついでに、一つ、頼んでも良いですか」
もし勝ったら、何か一つご褒美にお願いをきいて下さい。
それを聞いたトレーナーさんは一瞬ポカンとして、ついで苦笑し、オーケーしてくれました。
うふへへへ言質は取りましたよ。
よっしゃー!頑張るぞー! - 170◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/20(土) 00:30:28
という事で、スノウちゃんが勝った時に、トレーナーさんに聞いてもらうお願いを安価で募集します。
下三つくらいからダイスでいきます。 - 171二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 08:44:23
温泉いこう
- 172二次元好きの匿名さん24/07/20(土) 15:29:43
約束された勝利の焼き肉
- 173◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/20(土) 22:37:31
- 174二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 08:42:38
保守
- 175◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/21(日) 14:17:55
- 176二次元好きの匿名さん24/07/21(日) 23:55:03
保守
まあ食べ盛りだからね…温泉行くならどこになるんだろう - 177◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 00:54:44
温泉の目を引いたら、水着着用で家族でもカップルでも一緒に入れる、ガーデンスパ十勝川温泉でした。
レース後だし回復させるために今ならホットヨガも付けちゃう。
なお、帯広競馬場から車で20分の模様。
トレーナーと温泉となって外泊届も提出して気合入れて出かけて行ったウマ娘が、ホカホカしながら門限前に死んだような目で帰されるのは風物詩。
www.tokachigawa.jp - 178二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 09:30:10
保守
- 179二次元好きの匿名さん24/07/22(月) 15:03:03
しっとり系イベントになりそうなのを食欲で粉砕する女
叙々苑とか高そうなお店じゃなくて、有名なすた丼行ってみたいです!とか言いそう
あと帯広に焼肉きんぐあるけどトレセン生は出禁になってそう - 180◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 21:36:45
帯広 第11R BGⅡ 黒ユリ賞
基礎ばんえい重量は、3200kg。
『ばんえい重量補正』 = 6(3000kg~3499kgは6)
カミノクニスノウのやる気は『好調』です!
天気は、
1.晴れ 2.曇り 3.雨(雪) 4.悪天候
dice1d4=4 (4)
バ馬水分は、
天気(晴れ 曇り 雨)の時は、dice1d50=26 (26) / 10 [%]
天気(悪天候)の時は、dice1d80=3 (3) /10 +2.0 [%]
バ馬水分 2.0%未満で重バ場 / バ馬水分 2.0%以上で軽バ馬
それぞれウマ番は…
1.カミノクニスノウ 2.シャコータングラム 3.クインルゴサローズ
dice3d10=3 2 7 (12)
です。
あたしの人気は…
dice1d10=2 (2)
です。
みんなのコンディションは…
1.シャコータングラム 2.クインルゴサローズ
1.絶不調 2.不調 3.普通 4.好調 5.絶好調
dice2d5=4 5 (9)
- 181◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 22:08:40
切りつけるように冷たい空気を、鼻からゆっくり長く大きく吸います。すっかり慣れ親しんだ砂の匂い。
数拍。
胸の中で溜めて、細く引き絞った息を、吸った時と同じようにゆっくりと吐いていきます。
ほんの少しだけ寒さが緩んだとはいえ、まだまだ最高気温はマイナスの日々。吐き出した息は真っ白く、長い蛇の舌のように揺らめきながら足元まで届きます。しかし、それも一瞬。強い風に舞い上げられた雪の白に溶けて消えます。
すたん、すたたん、とその場で軽くステップを踏むように足踏みします。
大きな蹄鉄に蹴散らされて、ステップに合わせてザシザシと砂が飛び散ります。
膝は滑らか。腿もしっかり上がる。痛みはない。少しばかり芯が重い。
あたしは広げた左右の掌で、汗が湯気に変わって白いオーラを放っているようにも見える、自分の太腿を軽く撫でます。
二月の凍れる空気にも負けず、十分に温まり、血流が送り込まれて心地よく大きくなってきているカットの深くなった大腿筋。
ついで脇腹に手をやり、指を沈めようと、ぐっと腹に力を籠める。体操服の内側では、力を籠めた途端にばっきり腹筋と腹斜筋に深い溝が入って硬く締ったゴムのようになり、沈めようとした指が跳ね返されました。
合掌ポーズの掌だけ互い違いにさせた反転合掌のポーズから、互いの掌を押し付け合うように力をかけて前腕部に上腕部に胸をほぐしながら、余計な考えを追い出していきます。
勝ったら焼肉。
あたしがトレーナーさんにあんな子供じみたおねだりと言うか、お願いをするなんて、自分でもびっくりです。トレーナーさんだって、かなり驚いていた様子でした。しかしテンションが上がったのは事実です。もしレース中に曳いていて苦しくなった時、約束が背を押してくれるかもしれません。
でも、それはスタートには関係ありません。とりあえずは意識の外に追い出します。
じょじょにこれから始まるレースに向けて、意識が集中していく。
あたしは握った左右の拳で、自分の太腿をトントンと軽く叩きます。
「日本の米はぁ……」
そのまま右拳で左肩、左拳で右肩を。
パァン!
最後に両手が頬を張った乾いた音が、辺りに響きます。
「世界一ぃ!!」
いつものルーティーン。
あたしのレース前の定番として知られてきたのか、観客席から同じタイミングで同じ掛け声が聞こえました。 - 182◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 22:09:55
朝からぐずつき気味だった空は、日没を持たずにとうとう雪を降らせ始めました。
雪の勢いは止まらず、しかも強い風まで吹いてきました。風に巻き上げられた雪は、まるど横方向に降っているようです。幸い、観客席には火炎放射器かと思うような爆発的な熱量を発するファンヒーターがいくつも設置されています。凍える心配はありませんが、如何せん視界は悪く、観戦と言う意味ではあまり面白くないでしょう。
そんな状態なのに観客席からの声は止みません。
ぐっと拳を握り締めます。この声に応えて魅せましょう。ファンの声が届くのは嬉しい限りです。ついでに言えば、あたしの動きだけではなく、言葉の方にも注目してくれるともっと嬉しいですよ。日本のお米は最高なので、お米を食べましょう!
観客席の最前列で、横殴りの雪を物ともせず、トレーナーさんが手摺を握りしめているのが目に入りました。
こちらを見つめて真剣な表情で頷く姿に、同じ動作で応えます。
前を向く。
思わず、笑みがこぼれます。それが柔らかいものではなく、レーススタートを目前に控えて、肉食獣めいた野蛮なものになりかけているのが自分でも分かります。
唇をチロリと一舐め。
テンションが上がり熱くなった頭と同じように、熱くなっている筋肉達。一途に一緒に鍛えた仲間達が、ウォーミングアップの熱も冷めずに今か今かと出番を待っています。
先ほどの笑み同様、自分の眦が緩やかに釣り上がり、日常からレースへと脳内のモードが切り替わっていく。
ゲートに納まって、おのおのが身に付けている装具と橇が連結されるのを待っているばんえいウマ娘達。あたし含めて10人分の気迫が、熱を帯びた空気のようにあたりに漂います。
互いに発するそれが、さらに互いを昂らせていく。
胸の奥の奥。自分でもよく分からないところから、ふつふつと熱が沸き立ちます。
普段は仲の良い同期やクラスメイト達であっても、レース場に立てば互いに競い合う相手です。
走り、歩き、進み、曳いて、そして後塵を拝ませてやるべく闘うライバル達。
皆、そう思っているでしょう。
でも、勝つのは、あたしだ。
あたし以外に、あたしの尻尾を見せつけてやる。 - 183◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 22:12:40
溢れそうな気合を示して、バサッと振られた尻尾の青毛を彩るのは、一筋の赤いリボン。妹達がプレゼントしてくれた特別なリボン。
レースの時だけ付けるようにしている、レース付きの赤チェックリボンです。
『折りからの強い風で吹雪いてきました、帯広競バ場。ダート直線200m、10人のばんえいウマ娘たちが挑みます。
本日のメイン競争は第11競走、黒ユリ賞、BGⅡ。バ場水分は2.3%。バ場状態の発表は良となっています。
降雪時間は短いのでバ場はそこまで濡れていませんが、スピードの出るレースとなりそうです』
『本日の1番人気……』
実況と解説が場内に響いている間にも橇が次々とスタート位置に並べられ、着々とスタート準備が整えられていきます。
『続いて2番人気ですが、注目の3番カミノクニスノウ』
橇と装具との接続も完了。
係員さんと、いつもの接続完了と感謝のボディランゲージを交わします。
目の前で閉じられたゲートの扉越しに、これから踏み越えるコースを幻視します。
『前走では前評判以上の走りで大差での1着となり、圧倒的な強さを見せつけました。
ヤングチャンピオンシップこそ取れませんでしたが、その実力は侮れません。乱戦の今年のジュニア級において、重賞二勝目で一際眩い輝きを見せるのか。
はたまたライバルがそれを阻むのか。2月の寒さを吹き飛ばす熱いレースが見られそうですよ』
重賞競走のファンファーレ。
びょうと吹く風音にも邪魔されず、盛大に舞う雪に吸われる事なく、それは勇ましく場内に響きます。
『さぁ各ウマ娘、ゲートイン完了の様子。
すべての係員が離れまして……出走の準備が整いました』
スターター台の上でスターター員が赤い旗を振りかざし、帯広の冷えた風はバサバサとスターターの持つ旗をなびかせます。
大きく振られた旗は止まって、天を指します。 - 184◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 22:15:25
ぴんと張り詰めた、緊張感に満ちた静寂がゲートに満ちます。気圧されそうになるほどの静かな気迫を含んだ静寂。戦士の顔となったばんえいウマ娘達の気迫は、あたしの体の奥から湧き上がる熱をさらに駆り立てます。
スタートの瞬間を前にして、大きな応援と歓声が沸き起こっている観客席。それらがすぐ近くで上がっているのに、妙に現実感が失われていて、どこかすごく遠い場所から投げかけられているかのように聞こえます。
時間が飴のように引き延ばされた、長い長い一瞬。
ねっとりと流れる時間。
ガッコン!
居並んだ10人のばんえいウマ娘達の視界を塞ぐ、金属の扉が一斉に開きます。
『各ウマ娘、一斉にスタートしました』
瞬間。
橇とウマ娘をつなぐ装具が、ワラビ型とハーネスに取り付けられたシャックル達と鎖が、一斉に盛大に巨大な鈴のような音を鳴り響かせます。
「だぁりゃあぁぁぁっっ!!」
10人のばんえいウマ娘が、怒号と共に一斉に飛びだしました。
『第1直線』 ばんえい重量補正基準値=10 判定 dice2d6=2 4 (6)
→スキル『集中力』 基準値=8 判定 dice2d6=5 5 (10)
『第1障害』 ばんえい重量補正基準値=12 判定 dice2d6=2 2 (4)
『第2直線』 ばんえい重量補正基準値=14 判定 dice2d6=2 5 (7)
→スキル『刻み〇』 基準値=10 判定 dice2d6=1 4 (5)
『第2障害』 ばんえい重量補正基準値=16 判定 dice2d6=5 1 (6)
『最終直線』ばんえい重量補正基準値=14 判定 dice2d6=6 2 (8)
最終着順ダイス dice1d10=1 (1)
→スキル『道悪〇』 基準値=バ場水分2.0%未満
――本競争では、ライバル補正が2人分(-2)かかる。
- 185◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 22:21:53
『第1直線』の成功量 = 出目(6) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(0) + スキル発動(1) - 10 = 3
→出目(10) + パラメータ補正(6)≧8 →スキル『集中力』発動成功!
『第1障害』の成功量 = 出目(4) + パラメータ補正(4) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 12 = -3
『第2直線』の成功量 = 出目(7) + パラメータ補正(6) + 根性補正(0) + 脚質補正(1) - 14 = 0
→出目(5) + パラメータ補正(6)≧10 →スキル『刻み』発動成功!
『第2障害』の成功量 = 出目(6) + パラメータ補正(4) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 16 = -5
『最終直線』の成功量 = 出目(8) + パラメータ補正(6) + 根性補正(1) + 脚質補正(0) - 14 = 1
最終着順 = 出目(1) - (スタミナ補正(6) + やる気補正(1) + 天候/馬場補正(0) + スキル発動(1) + 総成功量(-4) + ライバル補正(-2)) = -1
→スキル『道悪〇』 基準値=バ場水分2.0%未満 →スキル『道悪〇』未発動
順位は、2着に2バ身差をつけての1着! - 186◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/22(月) 23:21:45
※スノウちゃんは重賞2勝目、GⅡ初制覇です。
各エリアでのダイス目はやや下振れ気味でしたが、最終着順ダイスでひっくり返してスノウちゃんの勝利となりました。
第2障害で苦戦するもなんとか先頭集団に食らいつき、最終直線で溜めておいた足で得意のスピードを奮えた形となりました。
そして、バ場をひたすらバ馬と誤字っていたのを今さらながら発見しました。 - 187二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 09:08:16
ほしゅ
- 188二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 17:56:43
保守
- 189二次元好きの匿名さん24/07/23(火) 20:05:40
このイラストに反して身長は2mありそう
- 190◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:00:04
『お待たせしました、帯広競バ場。今日のメインレース、黒ユリ賞、ばんえいグレードⅡ。
天候は荒れ気味の吹雪模様。バ場水分は2.3%。基礎ばんえい重量は3200kgとなります』
荒れる風音に負けず、アナウンスが場内に響きます。
『ジュニア級オープン、帯広市の市花の名を冠する伝統の一戦』
頑張れと風に負けじと叫ぶファンの声。それぞれのトレーナーの、お前なら出来ると叫ぶ激励。
『ばんえいフルゲートです!』
アナウンスに、わぁっと、観客席が沸きます。
『10人全員ゲート内、入って揃いました。
……係員が離れまして、さあ10人スタートしました』
「だぁりゃあぁぁっ!!!」
連なって響く10個の鬨の声。それを彩る楽器は、それぞれが曳いている橇と装具です。
気合と共に、一気に全身の筋肉を全力稼働させます。ずしんと鋼鉄製の蹄鉄をばんえいウマ娘のフルパワーで叩きつけられても濡れた砂は飛び散らず、爪先をしっかりと受け止めます。
適度に硬い地面は、思い切り身体を前に進ませてくれる。
『揃って良いスタートを切った10人。ジュニア級には重い重い、全員が3200kgの橇を引きます』
その通りです。
重い!
流石の3200kg。足を進めるたびにハーネスとワラビ型を通して、肩と胸にガツンガツンと小刻みに衝撃が叩きつけられます。
でも、今日は幸いなことに砂が濡れて締まった良バ場です。ただでさえばんえい重量が大きいので、重いバ場ではないのは幸いです。
バ場が軽いのでパワー勝負にはならず、スピードが出しやすい。スピード勝負なら、あたしでも太刀打ちしやすいです。
『1障害を降りて5番アンデスレッドが先行します。
7番クインルゴサローズ。並んで4番シーニーグローム、6番マネーマーケット、8番ビッグアイアン』
しかし、スピードが出しやすいという条件は皆も同じ。
いつもの如く、レース前とは全く違うアグレッシブな様子を見せながらで、猛前とアンデスレッドさんが飛び出していきました。
逃げや、前のめりの先行を得意なスタイルとする子達も後に続いていきます。
『先頭集団は一団となって、1障害から2障害の中間過ぎています。
その後、2番のシャコータングラムです』
あたしも先行が得意なので前めに出たいところですが、無理には追いません。 - 191◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:02:15
トレーニングで曳いているとは言え、腐ってもばんえい重量3200kg。
あたし達ジュニア級にとっては最大級の重さです。その重さは伊達ではありません。無理にペースを掴む争いに加わろうと追いすがれば、後半に持たなくなるでしょう。
『あと1番、3番カミノクニスノウ、外に9番。
2番手以下もほとんど離れず、全ウマ娘、最初の障害を降りていきます』
実際、バ群は長めの一塊り。
順位自体は遅いですし、先行と言うにはやや後ろ気味になってしまいましたが、そこまで離されてはいません。
先頭のアンデスレッドさんまでだって、まだまだ十分にこちらの手の届く範囲内にいます。
この追走のペースで、
「いけ、ます!」
一呼吸ごとに、喰いしばった口の端から吐き出される白い息。
しっかり踏ん張れる頼りがいのある砂をザグ、ザグと踏みしめて走ります。
『一旦刻んだ先頭5番アンデスレッド。
2番手以降も一旦刻んでまた歩きます』
続々と先頭集団が足を止めます。
いくら良バ場とは言っても、ばんえい重量を帳消しにしてくれるほどではありません。皆、第1障害から第2障害への直行は無理だと分かっています。
『各ウマ娘の吐く息が白く見えます。
日中は最高気温プラスでしたが日が落ちて再びマイナスの帯広競バ場』
あたしも刻みます。
焦らず急いで、冷たい空気で咽ないように注意しながら、短い呼吸を繰り返して息を入れる。あちこちで足りないと叫んでいる身体中に向けて酸素を送り出す。ぼうっとしかけていた思考が見る見るうちにクリアになっていく。
足を止めていると、体内に籠った熱が一気に噴き出します。
全身、頭から足先まで肌から汗が吹き出し、吹きつける冷たい風雪で急激に冷やされては真っ白い水蒸気となります。左右を見れば、コースのそこかしこで真白いオーラに包まれているばんえいウマ娘達の巨躯。
「よぉ……い、しょおっ!!」
気合一発。
ズズッと3200kgが砂の上を滑る。以前は苦戦していた重量ですが、今なら振り回されずに扱えます。バイキを掛けた時に、橇が動き出すのが早い。
『10人がほとんど横並びで、今1障害と2障害の中間』
他の子が足を止め始めたのを見計らって、また刻みます。素早く呼吸を整えたら、また進みます。焦らずに一つ一つの動作を丁寧にやっていきます。 - 192◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:12:38
バイキを掛けるとガツンと襲ってくる衝撃。重いけれどスムーズに前に進む橇。
『各ウマ娘、刻みながら来ましたが5番アンデスレッドが先頭できました。
後ろほとんど離れず、集団まもなく2障害の手前』
長い芦毛を風に嬲られるに任せて、ネコ科の猛獣のように低く唸りながら先頭を追撃するクインルゴサローズさん。
『ほとんど距離をとらず10人一団で、さあ2障害の手前に集まります』
ぜはー、ぜはー、という荒々しい呼吸音が四方から聞こえます。
2月の風も、横殴りの雪も、レースを駆けるばんえいウマ娘の過熱した肉体を冷やすには足りません。
風も、雪も、あたし達の魂を冷やすには足りません。ばっきばきにアドレナリンがキマって昂った頭を冷やすのにも全然足りません!
『ここまで前半62秒で来ています!
2番手以下ほどなく集まった。さあ、問題はここから!』
その通り。問題はここから、です。
『各ウマ娘、息を入れて挑戦が始まった!』
さあ、さあ、ばんえいウマ娘の見せ場ですよ。
闘争心で盛った頭を冷やす方法は一つだけあります。それは、どいつこいつもぶち抜いて1着でゴールするという事。
『7番クインルゴサローズ、6番マネーマーケット、3番カミノクニスノウ、4番シーニーグローム。
外は2番シャコータングラム』
でも、焦りは禁物。心の中で吠える闘争心に縄をかけて乗りこなします。ここで逸って追いかけたところで、息の入れ方が足りません。
『クインルゴサローズが膝をついた!
6番マネーマーケットも膝をついている』
次々と挑戦を始めた子達に、3200kgが襲い掛かっています。
あのクインルゴサローズさんでさえ手こずる重量です。半端な準備では、あたしも膝を折るだけでしょう。
『ここで上がってきたのは2番のシャコータングラム!
いま2障害を越えて、先頭で下った!』
流石はグラムさんです。
溢れるパワーで、きっちり一腰で第2障害を越えました。
『立て直して7番クインルゴサローズ、6番マネーマーケット』
障害の頂きで魅せたグラムさんの誇らしげな横顔。グラムさんが障害を越えていく後ろ姿に、目の奥が燃えあがるようです。
「あっはぁ……」
口角が吊り上がって、楽しさと苦しさが混ざった奇妙な笑いがこぼれます。
休憩は十分。最後に調息して、ググっと身体を下げて。 - 193◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:13:53
「……いき、ます、よぉ。んーー、だぁらぁっっっ!!」
バイキを掛けた途端、全身の筋肉が膨れ上がります。肩と首周りに装具が喰い込みますが、それも一瞬。
じゃらぁん!と派手な音を立てて、橇が障害の斜面を上ります。
『前3人の後に4番シーニーグローム、3番カミノクニスノウが上がっていく』
一歩。
踏ん張る力は、鼻の奥から血を噴きそうになるほど。強烈な負荷を曳こうと踏ん張った足を伸ばそうとするたび、足のあちこちの筋肉が束ねたワイヤーが撓るように動くのが分かります。
一歩。
最大のパワーを振り絞ろうとして太腿とハムストリングスが震えます。後ろから引っ張られて広がろうとする肩と腕を締めようと大胸筋が、上半身を後ろに持っていかれまいと踏ん張る腹筋がこれまで以上にパンプアップします。
一人抜かしました。
全身を使って全力での輓曳。第2障害の稜線を越える。
『そして1番。開いて8番ビッグアイアン、9番。
5番アンデスレッドは第2障害に残っています』
第2障害を降りる勢いを殺さずに駆けます。濡れた地面を強く踏みしめ、砂を鳴らしながら曳きます。
身体中のあちこちが燃えるように熱い。
『前の一団、残り30メートル切りました。3番カミノクニスノウが上がってくる。苦しい6番マネーマーケット、4番手に後退します』
まだです。
まだ前にいます。でも、まだ力も残っています。
前にいるのは残り二人。クインルゴサローズさんとシャコータングラムさん。
酸欠で視界の端が暗くなっていても、ウマ耳に聞こえる音で分かります。
『内から7番のクインルゴサローズ抜けるか』
喉も肺も、新鮮な空気を求めて痛いほどに訴えます。欲望に負けて大きく吸ったら、咽て酷いことになる。頭の片隅で生き残っている冷静さが、迂闊な呼吸を押し留めます。
『外2番シャコータングラムが引き離す』
激しく流れる血潮が引き起こした耳鳴りの向こうから、トレーナーさんの叫びが聞こえた気がしました。
残っている力を出し切るなら、今しかない。
そうですよね。
奥歯を噛み締めて、溜め込んでいた全力を足に注ぎます。
腿をしっかり上げ、前傾して体重を踏み出す足に乗せる。足を打ち込み、反動で一気に足を伸ばして、曳く。
『その内3番のカミノクニスノウ!抜け出したか』
猛るクインルゴサローズさんに並び、抜きました。 - 194◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:14:51
『残り10を切った』
隣のレーンにいるグラムさんの背に並びかけます。
「いかせません、いかせんませんよぉっ!」
「負けねー……ウチは負けねーっしょ!」
あと5メートル。
ここからは、全てを振り絞ってスッカラカンになった先にある我慢比べ。
視界は狭く、色が失われた暗いモノクローム。ウマ耳に届く音は虚ろでどこか現実感がない。全て放り出したら、とても楽でしょう。それでも、胸の奥の奥から声がして、それがあたしの心と体を衝き動かす。
「「ぅうああぁぁぁぁっっ!!!」」
『3番のカミノクニスノウ。一歩、二歩、前に出た』
体中の酸素やエネルギーなんて、とっくの昔にガス欠です。
でも、これが、レース場を駆けるばんえいウマ娘の花道。
走りたい。
曳いていたい。
そして、勝ちたい。
「勝つのはぁっ!あぁたしだあぁっっ!!」
『3番カミノクニスノウ、いま1着でゴール。
ナナカマド賞に続いて、今期重賞二勝目です』
雄叫びと共にゴールラインを通過した途端、疲労が大波のように押し寄せてきました。崩れ落ちそうになるのを、膝に手をついてなんとか食い止めます。
『2番シャコータングラム2着』
ゼハッゼハッと心臓が激しく脈打ち、喉が鳴ります。
流れ落ちる汗は、吹き付けて溶けた雪と混ざって、全身を濡らしています。
『7番クインルゴサローズ3着』
あたしは、なけなしの力を振り絞ってグイと顔を上げ、それから両の拳を空に突き上げました。
こちらに駆け寄ってくるトレーナーさんの顔が濡れているのは、あたしと同じで、溶けた雪だったのでしょうか。 - 195◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:18:05
※スレの残りが少なくダイスを振っていると変にスレを跨いでテンポが悪くなりそうだったので、シャコータングラムとクインルゴサローズは着順は劇中の流れに任せて決めました。
また、せっかくなので出走選手の名前は1スレ目でのスノウちゃんの名前候補から頂きました。
(モンキーマジックとカローラは実馬がいたので残念ながら除外) - 196◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/23(火) 23:47:47
- 197二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 09:23:36
梅
- 198◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/24(水) 20:22:39
- 199◆Lj.vT9ErJJ7R24/07/24(水) 20:27:24
- 200二次元好きの匿名さん24/07/24(水) 21:56:05
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