- 1二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:45:47
トレーナー室のある廊下から、騒々しい足音が響き渡る。
トレセン学園の校則においては、廊下は静かに走らなければいけない。
とすれば、これは明らかの校則違反といえるだろう。
「……というか、近づいてきてないか?」
その一室で事務作業中だったトレーナーは、ふと、その事実に気づく。
徐々に大きくなる足音は、部屋の前で甲高いブレーキ音を鳴らし、停止する。
直後、勢い良く扉が開かれた。
「トッ、トレーナーさん、急ですいませんが、しっ、失礼します……っ!」
「シュヴァル? ああ、それは構わないけど」
音の出所は、肩で息をしながら扉を開けた、一人のウマ娘であった。
大きな白いマリンキャップ、淡い茶色のショートヘア、澄み渡った青空のような瞳。
このトレーナー室の主である彼の担当ウマ娘、シュヴァルグラン、その人である。
彼女はトレーナーの許可を得ると、いそいそと後ろ手で扉を閉め、壁に沿って移動を始めた。
あまりに挙動不審な行動に、彼は首を傾げつつ────あることに気づく。 - 2二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:46:02
「……さっきから尻尾を隠しているみたいだけど、なんかあった?」
「……っ!」
シュヴァルグランの耳がピンと立ち上がる。
先ほどから、彼女は尻尾を背後できゅっと掴んで、見えないように振舞っていた。
彼女はしばらく、視線を彷徨わせると、がっくりと肩を落としながら大きなため息をつく。
これ以上の誤魔化しは無理と判断したのだろう、彼女は諦めたように、トレーナーへ背中を向けた。
「……その、これを、隠していたんです」
「えっ」
顔を真っ赤に染め上げながら、壁に手をつくシュヴァルグラン。
彼女の腰の下からは────三つ編みにされた尻尾が、恥ずかしそうに揺らめいていた。 - 3二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:46:16
「えっと、これは自分でやったとかじゃ」
「僕には出来ません……これは、ヴィブロスの仕業なんです」
長椅子に腰かけて、シュヴァルグランは自分の尻尾に悪戦苦闘しながら、自身の妹の名前を出す。
釣り糸ならば巧みに操れる彼女だが、自身の尻尾となると勝手が違うらしい。
眉を少しだけ吊り上げながら、ここにいないヴィブロスへ文句を漏らす。
「僕が居眠りしている隙にやって、そのままいなくなるだなんて、何を考えているんだ……!」
これは、彼女ら姉妹が小さな頃から、定番の悪戯であった。
シュヴァルグランが寝ている時や何かに夢中になっているとき、こっそりヴィブロスが尻尾を三つ編みにする。
ただ、普段であればその場でネタをバラして、ヴィブロス自身が結びを解いて、尻尾の手入れをしていた。
しかし今回は、その手のフォローが一切ない。
怒りを隠せない彼女に対して、トレーナーは少し困ったような表情で口を開く。
「あー……多分なんだけど、ヴィブロスにも直す意思はあったんだと思う」
「……どうして、そう思うんですか?」
「さっき、放送で彼女が呼び出されてて……それで、直すことが出来なかったんじゃないかな」
シュヴァルグランのトレーナーである彼は、彼女の姉のヴィルシーナや妹のヴィブロスとも面識がある。
それ故に、ヴィブロスが呼び出された放送のことは、妙に印象に残っていた。
それを聞いたシュヴァルグランは、耳をぴょこぴょこ動かしながら、なんともいえない複雑な顔をする。
理解は出来るが納得は出来ない、そんな様子であった。 - 4二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:46:37
────まずは尻尾をどうにかしてあげないと。
そうしないと、彼女の怒りも解けないだろう、そう彼は考えた。
そして、一つの提案を口にする。
「三つ編みを解くの、俺が手伝おうか?」
「……えっ?」
トレーナーからの提案に、シュヴァルグランの全身はぴしりと凍り付く。
そして大きく目を見開いた彼女の頭の中で、様々な思いがぐるぐると廻り回っていた。
身内がやった悪戯の始末を、彼にさせるのは申し訳ない。
三つ編みのままの尻尾は見せるのも恥ずかしく、早くどうにかしたい。
だけど、先端の方ですらかなり苦労していて、それが根本になれば猶更、と予想できる。
でも、彼に自らの尻尾を触らせるのは、どうなのだろう。
しばらくの間、彼女は葛藤を繰り広げて、やがて、大きく深呼吸をする。
そして、くるりと長椅子の上で身を翻し、四つん這いのような体勢をとなった。
少しだけお尻を突き上げて、尻尾をふりふりと揺らしながら、ちらりとトレーナーを見つめる。
「…………そっ、それじゃあ、その、お願い、します」 - 5二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:46:52
「痛かったりしたら、すぐに言ってね」
「はっ、はい……!」
トレーナーは優しく微笑みを浮かべる。
対して、シュヴァルグランは緊張した面持ちで、心臓をばくばくとかき鳴らしていた。
たかが尻尾、されど尻尾。
ウマ娘にとって尻尾とは、それはもう、特別なところなのである。
家族くらいに信頼している相手にしか、触らせてはいけない場所。
だから彼には触れる資格がある────シュヴァルグランは、そう考えていた。
「じゃあ、触るよ」
「……んっ」
割れ物を扱うような丁寧な手つきで、トレーナーは尻尾を手に取る。
すると、今まで感じたことのない刺激が付け根に走り、シュヴァルグランは小さな声をあげてしまった。
「……大丈夫?」
「だっ、大丈夫です、僕はへっちゃらですから、続けてください」
不安げな表情を見せるトレーナーに対して、シュヴァルグランは慌てて弁明する。
実際、彼女は痛みなどは感じておらず、ちょっと驚いただけであった。
その言葉に彼は頷くと、三つ編みの結び目に手をかけていく。
やりやすい位置であれば、さほど時間のかかることではない。
彼は結び目を一つ、また一つと、順調にほどいていった。 - 6二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:46:54
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- 7二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:47:08
「もうちょっとだから」
真剣そのものの表情で、結び目に顔を近づけて、凝視するトレーナー。
シュヴァルグランは、この状況が、恥ずかしくて仕方がなかった。
────僕のお尻、すごい見られてる……っ!?
もちろん、そんなわけではないことは、彼女も良くわかっていた。
しかし、見られている側からすれば同じこと。
うら若き乙女にとって、自らの尻に顔を寄せられるのは、頬を染めるには十分すぎるものだった。
また、付け根に近づくほど、繊細な力加減で触れたとしても、ぴりぴりと甘い痺れが走ってしまう。
「ひゃっ……ふっ……!」
声を漏らさぬように努力しているものの、何事にも限界はある。
もっとも、トレーナーは結び目に集中していて、まるで耳には入っていないようだが。
そしてしばらくして、最後の結び目が、はらりと解かれた。
「ふぅ……お疲れシュヴァル、これでもう大丈夫だよ」
「はっ……はい……ありがと、ございました……」
「……顔真っ赤だけど、大丈夫?」
「大丈夫、です」
シュヴァルグランは少しだけ呼吸を乱れさせながら、そう答える。
顔が、頭が熱くて、ぽーっとしてしまう。
しばらくの間、彼女が謎の余韻に浸っていると、トレーナーは申し訳なさそうな声を出した。 - 8二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:47:30
「……ごめん、ちょっと乱暴に扱いすぎたかも」
「……えっ?」
「いつもはもっときれいなのに、今は、ちょっとくしゃくしゃだし」
確かに、トレーナーの言う通り、シュヴァルグランの尻尾は普段よりも乱れていた。
しかしそれは、三つ編みを解いた直後だからであり、少し手入れをすれば、元通りに出来るものである。
実際、彼女も息を整えたら、自分自身で尻尾を手入れするつもりであった。
そしてトレーナーは妙案を思いついたように両手を合わせ、笑顔を浮かべる。
「お詫び、になるかはわからないけど、このまま俺がお手入れもしようか?」
シュヴァルグランはその言葉を聞いて、再び凍りついてしまう。
寒暖差の激しい頭に、思考のみがぐるんぐるんと回りだす。
三つ編みを解いてもらっただけで申し訳ないのに、手入れまでだなんて。
さっきでも顔から火が出るような勢いだったんだから、今度は爆発してしまうかもしれない。
色んな意味で耐えられないから、これは丁重に、断るべきだ。
なのになぜ────身体は四つん這いの体勢から、動こうとしないのだろう。
尻尾は、求めるようにぶんぶんと、揺れ動いてしまっているのだろう。
この心臓は、ときめくように高鳴っているのだろう。
気が付けば、彼女は言葉を紡いでいた。
「…………お願い、します」 - 9二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:48:11
「シュヴァち、本当に、ごめんなさい……っ!」
その日の夜、栗東寮にて。
シュヴァルグランは、とあるウマ娘から頭を下げられていた。
茶色かかった青毛のツインテール、猫のような愛らしい口元、左目には泣きぼくろ。
シュヴァルグランの妹であるヴィブロスは、深々と、何度も頭を下げる。
「ちゃんと解くつもりだったんだけど、途中で呼び出されちゃって」
「そもそもやるなよ……頭上げてよヴィブロス、怒ってないからさ」
「……ホント?」
「本当」
ちらりとヴィブロスは、シュヴァルグランの様子を伺う。
その顔は優しく、穏やかで、どこか『お姉ちゃん』らしいものであった。
ヴィブロスは、ほっと安堵のため息をついて、顔を上げる。
「よっ、良かったあ……あっ、そうだ! お詫びに、シュヴァちの尻尾のお手入れしてあげるね♡」
「えっ、あっ、ちょっ」
ヴィブロスの行動は早い。
制止の言葉も間に合わず、あっと言う間にシュヴァルグランの背後を取る。
そして、ヴィブロスはぽかんと目を丸くさせた。 - 10二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:48:38
「あれ? ちょーツヤツヤじゃん? シュヴァち、こんなお手入れ上手だったっけ?」
「べっ、別にいいだろ……! ほら、お詫びとかもいらないから……!」
シュヴァルグランは顔を朱色に染めて、慌てた様子でヴィブロスを帰そうとした。
ヴィブロスは何かを察したものの、あえて何も言わず、あっさりと引き下がる。
今回の一件についてはヴィブロス自身に非があり、これ以上は突っ込むべきではないと、考えたからだ。
それぞれの部屋に戻る直前、ヴィブロスは再び、頭を下げた。
「今日は本当にごめんなさい、もう二度と、尻尾に悪戯はしないから」
その言葉を聞いて、シュヴァルグランはぴくんと身体を震わせた。
彼女は帽子を深くかぶり、耳をぴこぴこと動かし、尻尾をぱたぱたと振るう。
そしてもじもじとしながら、囁くような小さい声で言うのであった。
「…………ちゃんと事前に言ってくれれば、また三つ編みにしても良い、よ?」
────やっぱり根掘り葉掘り聞こうかな。
ヴィブロスはそう思いなおすのであった。 - 11二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:50:24
お わ り
三つ編みにされた尻尾を自分で解くのすごい大変そうですよね - 12二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:50:28
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- 13二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:51:28
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- 14二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:52:33
シュヴァちはか”わ”い”い”な”あ”
- 15二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:53:39
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- 16二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:53:52
ヴィブロス……閃いた!
これはじっくり質問ルートですわ
SS助かるぜ - 17二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:55:20
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- 18二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:57:02
しかしウマ娘の尻尾を三つ編みするのって中々難しそうだよね
これは興味深いですわ - 19二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:57:56
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- 20二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:58:50
シュヴァル姉妹達のお話は良いものだ……
- 21二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:59:20
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- 22二次元好きの匿名さん24/07/02(火) 23:59:34
いいぞヴィブロスぅ、次は三つ編みと一緒にアクセもつけよう!
あとコバエは叩き落していけ - 23二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 00:34:17
良きSSでした……
- 24二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 01:35:12
ウマ娘にハマってから尻尾に触れる行為がとんでもなくえっちに見えるようになってしまった
つまりこれはえっちなSSです(確信)
ありがとうございました - 25二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 01:52:26
結局シュヴァルも妹に甘いの良き
- 26124/07/03(水) 08:52:59
- 27二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 11:39:16
片方は別に意識してなくて片方が内心乱されまくってるのいいよね…
かわシュヴァち - 28二次元好きの匿名さん24/07/03(水) 22:07:27
かわよ
- 29124/07/04(木) 00:01:31