耳当てを買いに (ブルボン童話)

  • 1二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:09:58

    寒い冬が北方から、ヒトとウマ娘との親子の住んでいる田舎へもやって来ました。
     或朝家からこどものウマ娘が出ようとしましたが、
    「あっ」と叫んで眼を抑えながら父さんのところへころげて来ました。
    「お父さん、いじょうをかんち。目になにかささったものとおもわれます。ぬいてください早く早く」と言いました。
     父さんがびっくりして、あわてふためきながら、眼を抑えているこどもの手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。父さんは家の扉から外へ出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照していたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかったこどものウマ娘は、あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。
     こどものウマ娘はトレーニングに行きました。真綿のように柔かい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
     すると突然、うしろで、
    「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子ウマにおっかぶさって来ました。子ウマはびっくりして、雪の中にころがるようにして十メートルも向こうへ逃げました。何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。それは樅の枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
     間もなく家へ帰って来た子ウマは、
    「お父さん、耳がれいきゃくされてしまいました、きのうがせいげんちゅうです」と言って、濡れて牡丹色になった両耳を父さんの前にさしだしました。

  • 2二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:10:16

    父さんは、その耳に、は——っと息をふっかけて、ぬくとい父さんの手でやんわり包んでやりながら、
    「もうすぐ暖くなるよ、雪にふれると、すぐ暖くなるもんだよ」といいましたが、かあいい愛娘のお耳に霜焼ができてはかわいそうだから、トレーニングを一通り終わらせた夜になったら、町まで行って、愛娘のお耳にあうような毛糸の耳当てを買ってやろうと思いました。
     暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や田んぼを包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
     親子は家から出ました。こどもの方はお父さんとお手々を繋いで、雪明かりに輝く青い眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
     やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子どものウマ娘が見つけて、
    「お父さん、お星さまはあれほど低いところにも落ちてるのですね」とききました。
    「あれはお星さまじゃないんだよ」と言って、その時お父さんの足は止まってしまいました。
    「あれは町の灯なんだよ」
     その町の灯を見た時、父さんは、ある時愛娘に冗談を言ったら、とても愉快であったことを思出しました。寝る前にご本を読んであげていると雷が鳴りだして、愛娘があんまり怖がるものですからひとつからかってやりたくなって、「雷がなったらしっぽを隠さなくてはいけないよ。そうしないと取られてしまうからね。」と言いますと、途端にしっぽを握りしめて布団の中で丸くなって「えまーじぇんしーもーど!たいきちゅう…」と震えてしまったのです。

  • 3二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:10:31

    「お父さんどうしましたか。早くいきましょう」とこどものウマ娘が顔を窺って言うのでしたが、父さんはまたあることを思いついたのでした。そこで、愛娘だけを一人で町まで行かせることにしました。
    「ブルボン、これを羽織りなさい」と父さんがいいました。父さんは着ていたコートを愛娘に手渡しました。こどものウマ娘はふしぎそうにコートを羽織り、余ったコートの袖をにぎりしめたりフードをぱたぱたしたりしました。父さんは雪の上に膝をついて、愛娘のしっぽをコートの中に仕舞い込みました。
    「すてーたす「いわかん」をかくにん。おちつきません。」と言って、コートにすっぽり覆われたしっぽを手で気遣わしげにさすったりなでたりしました。
    「いいかいブルボン、町へ行ったらね、たくさんの家があるからね、まず表に円い帽子の看板のかかっている家を探すんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、今晩はって言うんだよ。そうするとね、店の人が中に入れてくれるから、この耳に合う耳当てをくださいと言いなさい。その時、コートを脱いではダメだよ。帽子屋さんにコートを脱いでいいと言われても、ダメだからね。」と父さんは言いきかせました。
    「どうして?」と坊やの狐はききかえしました。
    「帽子屋さんにとってウマ娘のしっぽの毛は格好の材料だからだよ。帽子屋さんにしっぽを見つけられたらちょん切られてしまうからね。帽子屋さんはほんとに恐いんだよ。」
    「ちょん切られ…」
    「決して、しっぽを出しちゃいけないよ、もし座ることになってもうまくやるんだよ」と言って、父さんは、持って来た二つの白銅貨を、愛娘の手に握らせてやりました。

  • 4二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:10:44

    こどものウマ娘は、町の灯を目あてに、雪あかりの野原をよちよちやって行きました。始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。ウマ娘のこどもはそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。父さんはやっぱり不安になってこっそり後ろからついてきているのでした。
     けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、ウマ娘の子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板が、あるものは、新しいペンキで画かれ、或るものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た子ウマにはそれらのものがいったい何であるか分らないのでした。
     とうとう帽子屋がみつかりました。お父さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈に照されてかかっていました。
     子ウマは教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
    「今晩は」
     すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
    「どうぞ、中へ」
     子ウマはその光がまばゆかったので、めんくらって、しっぽを、——お父さんが出しちゃいけないと言ってよく聞かせたしっぽをビビーンと立たせてしまいました。
    「お耳に、い、このお耳にちょうど、ちょうどいい耳当て、下さい」

  • 5二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:10:55

    きっと帽子屋さんにはしっぽが見えているでしょう。慌てて何を言っているのかわからなくなってしまいました。大変です。
     すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。ウマ娘のこどもです。奥からお父さんらしき人に見守られて、耳当てをくれと言うのです。これはきっとお父さんに「自分で買ってきてごらん」とでも言われたのだと思いました。そこで、
    「お金はありますか」と言いました。子ウマはすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを確認して、確かに足りているなと思いましたので、棚から子どものウマ娘用の毛糸の耳当てをとり出して来て子ウマの手に持たせてやりました。子ウマは、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めました。
    「お父さんは、ぼうしやさんはおそろしいものだとでーたをていじしましたが、わたしはひていてきです。だってわたしのしっぽを見てもどうもしなかったですから」と思いました。けれど子ウマは街に住む他のヒトがどんなものか見たいと思いました。
     ある窓の下を通りかかると、ヒトの声がしていました。何というやさしい、何といとおしい、何というあたたかい声なんでしょう。

  • 6二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:11:06

    「ねむれ ねむれ
      父の胸に、
      ねむれ ねむれ
      父の手に——」

     子ウマはその唄声は、きっとどこかのお父さんの声にちがいないと思いました。だって、子ウマが眠る時にも、やっぱりお父さんは、あんなやさしい声でゆすぶってくれるからです。
     するとこんどは、子どもの声がしました。
    「父ちゃん、こんな寒い夜は、田舎の子ウマは寒い寒いってないてるだろうね」
     すると父さんの声が、
    「森の子ウマもお父さんのお唄をきいて、布団の中で眠ろうとしているんだよ。さあ坊やも早くねむんなさい。子ウマと坊やとどっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早いだろうね。」
     それをきくと子ウマは急にお父さんが恋しくなって、お父さんの待っている方へ駆けて行きました。
     お父さんは、近道を使って愛娘の帰ってくるのを待っていましたが、そろそろ寒く感じていましたので、愛娘が来るとほっとしてコートを受け取りました。。
     親子は田舎の方へ帰って行きました。月が出たので、ウマ娘のしっぽが銀色に光り、その影はコバルト色に映りました。
    「お父さん、帽子屋さんは恐くありませんよ。」
    「どうしてだい?」
    「ほそく、わたしはえらーによりしっぽを出してしまいましたが、ぼうしやさんはちょんぎるなどしませんでしたので。きちんとこのようにあたたかい耳当てをくれました。」
    と言って耳を覆った耳当てを両手でパンパンやって見せました。お父さんは、目を細めて、
    「本当に良かったなあ。成長したねぇ。」とつぶやきました。

  • 7二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:13:54

    ロリボンかわいい(ステータス『語彙力の低下』を確認)

  • 8二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:17:34

    出来れば、出来ればでよいのですがどんぐりと山猫パロ貼っていただけませんでしょうか。。
    過去ログ漁りがちょっと辛く

  • 9二次元好きの匿名さん21/09/07(火) 21:31:44

オススメ

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