(SS注意)納涼

  • 1二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:05:27

    「トレちゃーん……動いてないのにあっついよー……」

     この日は、記録的な猛暑日だった。
     ソファーの上には俺の担当ウマ娘だったのものが、アイスのように溶けてしまっている。
     鹿毛の短めの髪、引き込まれるような真紅の瞳、大きな赤縁の眼鏡。
     トランセンドはぐったりとした様子で、ハンディファンの風を顔に当てていた。
     時折、襟ぐりをひっぱりながら、風を服の中などに送っていく。

    「なーんで、こんな日に限ってエアコンが壊れるかなー?」
    「トレーナー室のある棟だけだったのが不幸中の幸いだったね」

     眉をひそめるトランの言葉に、俺は苦笑いを浮かべる他ない。
     トレーナー室のエアコンは、今日という日に故障してしまった。
     明日の午前中には修理が来るという話ではあるが、少なくともそれまでは使用不可能。
     本来であれば、こんなところに残っているべきではないのだけど。

    「……というか、トランは先に行ってても良いんだぞ?」

     俺は何度目になるかわからない問いかけを、トランへと投げかける。
     元々、俺の仕事が終わり次第、二人で新作のガジェットを見に行く約束をしていたのだ。
     今日提出締め切りの書類があるため、ぶん投げるわけにもいかない。
     カフェや図書室など、他に作業の出来そうな場所はとっくに埋まってしまっている。
     だからせめて、トランだけでも涼しい場所に居て欲しいのだけれど。
     すると彼女は少し呆れたようなため息を吐いた。

  • 2二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:05:38

    「ウチはね、『トレちゃんと』『一緒に』『見に行きたい』んだよ?」
    「うん?」
    「だから待ってるんじゃん、一つでも欠けたらダメっしょ」
    「……そっか」

     ただ見るだけなら、いつでも見ることが出来る。
     しかし、トランがしたいことは、そうではない。
     ワクワクしながら、ともに期待と想像を膨らませて。
     ドキドキと心臓を高鳴らせつつ、未知の領域に踏み入れて。
     まったく新しい体験をして────ゾクゾクを共有したい。
     もちろん、拍子抜けなことだってあるけれど、それもまた楽しい時間だ。
     そしてそれは、俺がトランとしたいことでもある。
     俺は両頬をぱちんと叩いて、改めて気合を入れた。

    「じゃあ、なるはやで終わらせるために、頑張りますか」
    「がーんば♪ …………でもやっぱあっついな、ねぇトレちゃん、薄着になっちゃダメ?」
    「……ダメ」
    「えー、ウチはトレちゃんに見られるくらい気にしな────」
    「俺も全然気にはしないけど、他の人が入ってくる可能性があるから、ダメ」

     画面に目を向けて、キーボードを叩きながら、俺はそう答えた。
     しばらくの間、カタカタという音のみが響き、トランの言葉が止まってしまったことに気づく。
     どうしたのだろうと思い、俺はちらりと、彼女の様子を覗き込んだ。
     トランは唇を尖らせ、耳を絞り、頬を膨らませていて、これはどう見ても。

  • 3二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:05:51

    「……なんか怒ってる?」
    「べっつにー? ウチはぜんっぜん、気にしてないよん?」

     トランはぷいっと顔を背けてしまう。
     それでもソファーから離れようとしない辺り、すごい怒ってるというわけじゃないのだろうけど。
     ……待たせたお詫びも兼ねて、新作のエナドリでもプレゼントしようかな。
     そう考えた矢先、彼女はピンと耳を立てて、再びこちらへと顔を向ける。
     しばらくジーっと俺を見つめた後、こてんと、不思議そうに首を傾げた。

    「トレちゃんさあ、なんか、あんま汗かいてないよね?」
    「……っ!」
    「割と涼しげというか、余裕そうというか」
    「……ソッ、ソンナコトナイヨ?」
    「…………トレちゃんのそーゆーとこ、だーいすき♡」

     トランはにやりとした笑みを浮かべると、むくりと起き上がって、駆け寄ってくる。
     誤魔化したり、逃げる隙などはありはしない、あっという間に、彼女は俺の背後へと辿り着いた。
     そして、その足元を、興味深そうに覗き込んでくる。

    「ほほう、まさかトレちゃんがこんな秘密兵器を秘匿していたとはねー?」
    「……別に隠しているつもりはなかったんだ」

     俺の足元にあるもの────それは、水で満たされたタライであった。

  • 4二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:06:03

     トレーナー室以外の仕事場所が見つからず、途方に暮れていた時、同期が薦めてくれたのだ。
     足を水に浸すという古典的でシンプルな行為だが、なかなかに効果は感じられる。
     トランにも用意しようと考えはしたが、タライやその代用品が見つからず、結局一人で使う形となっていた。
     
    「俺が使ったのを回すのもどうかなって思ってさ、えっと、水入れ替えて使う?」
    「いーよいーよ、ウチもそういうの気にしないし、ほれほれ、トレちゃん寄った寄ったー♪」
    「えっ? ちょっ、まっ、トラン!?」

     トランは楽しげに尻尾を揺らめかせながら、俺が座っている椅子に無理矢理座ろうとする。
     個人的な好みで購入した大きめのデスクチェアではあるが、二人用には作られていない。
     さすがにぎゅうぎゅう詰めで座る形となって────色々と、押し付けられる。
     彼女の柔らかな感触や、熱のこもった体温、汗の匂い混じりの香り、などなど。
     思わずドキリとしてしまうが、当の本人はどこ吹く風、といった様子であった。

    「ぽーいっと」

     椅子に収まったトランは両足の靴を脱ぎながら、遠くへと飛ばした。
     彼女は脚を抱えるように曲げて、ふくらはぎまで伸びているソックスのゴム口に手を伸ばす。
     そして、ゆっくりと、時間をかけて、見せつけるように、下ろされていった。
     力強い走りを支える、少し太めの美しい素足が、みるみるうちに晒されていく。

  • 5二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:06:16

    「……」
    「はあー、脱いだだけでも涼しいね……トレちゃん、そっぽ向いてどうしたの?」
    「…………なんでもないです」
    「……ふーん、そかそか、それじゃあもう片方も~っと」

     見てはいけないものを見ている気がして、俺は思わず目を逸らしてしまう。
     トランの何故か嬉しそうな声に次いで、聞こえて来るは、小さな衣擦れの音。
     しゅるりという響きととも、くっついている彼女の身体も動いて、伝わってくる感触も変化する。
     それだけのことなのに、妙に緊張してまうのだった。

    「にひひ、それじゃあ、お邪魔しまーす♪」

     ちゃぽんという音を立てながら、トランの白い足先が水の中に入っていく。
     俺は慌てて自分の足を出そうとするが、太腿にそっと添えられた彼女の手に阻止される。
     何とか足を端に寄せるものの、このタライに二人分はあまりにも狭かった。
     必然的に、俺と彼女の脚が、ぴとりと触れ合う。
     瑞々しくて、つるつるとして、艶やかで、ハリのある彼女の肌。
     それを文字通り肌で感じて、少しだけドキリとして、体温が上がってしまう。
     そんな俺の心境を知ってか知らずか、彼女は心地良さそうに目を細めていた。

  • 6二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:06:30

    「おお、これ気持ちいーね、メチャ涼しいじゃーん」
    「……そだね」
    「…………こーんなものを独占していたトレちゃんには、ペナが必要だよねー?」
    「えっ」
    「うりうり~、トレちゃんのおみ足をこちょこちょ~♪」
    「うお……トッ、トラン……やめっ……というか零れるから……!」

     トランの足先が蛇のように俺の足を這って、すりすりと甲や裏を撫で回していく。
     背筋がぞわぞわするようなくすぐったさと、妙に生々しい感触。
     ぱしゃぱしゃと、子どもが遊んでいるような水音が響かせながら、トランの足は器用に動く。
     お互いの指を間を絡ませてみたり、俺の脛を指先でつうっとなぞってみたり。
     お仕置きと言わんばかりにトランは散々に俺の足を苛めてくる。
     俺も何とか防ごうとするが、彼女の足技には敵わず、されるがままになってしまう。
     そして、数分後。

    「…………トレちゃん、あつい」
    「そりゃあ、あんだけ暴れてればね」

     お互いに息を切らしながら、椅子の上でぐてんとしてしまう。
     水の量は減り、気づけばすっかりとぬるくなっている。
     先ほどまで感じていた涼やかさはどこへやら、気づけばお互いの体温は上がってしまっていた。
     俺と、トランの汗の匂いが、むわっと立ち昇る。

  • 7二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:07:17

    「熱がこもるなぁ……トレちゃーん、早く終わらせてよ~」
    「キミが邪魔していたんで……しょっ!?」

     トランは制服のリボンを緩ませて、襟を摘まんで、ぱたぱたと中に風を取り入れていた。
     俺の方が身長が高いこともあり────広げられた彼女の胸元が、視界の中に入ってしまう。
     ちらりと見え隠れする肌着、浮き出る鎖骨、流れる一筋の汗、豊かな谷間。
     慌てて顔を背けるものの、あられもない、そして妙に色っぽい彼女の姿を、俺はしっかりと見てしまった。

    「ん~……?」

     不思議そうな表情で、トランは俺の顔を覗き込んできた。
     熱くなった頬を隠そうと、首をさらに回すが、可動域にはどうしても限界がある。
     そして、彼女はそんな俺の『秘密』を見逃してくれるほど、甘くはなかった。

    「……ふふっ♪」

     トランは耳をぴこぴこ揺らしながら、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
     拘束するかのように俺の腕へと絡みつき、尻尾をぱたぱた揺らしめかせながら、上目でじっと見つめて来る。

  • 8二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:07:33

    「おやおや~? トレちゃんは全然気にならないんじゃないの~?」
    「いっ、いや、それとこれとは話が別だから……っ!」
    「まっ、この件に関しては後でじっくり問い詰めるとして」
    「……問い詰めるんだ」
    「今はお仕事を終わらせてもらわなきゃだからね? さあ、がんばれ♡ がんばれ♡」

     俺の耳元に顔を寄せて、トランは甘ったるい声でそう囁いて来る。
     足をつんつんと小突いて、いつの間にか手に持っていたハンディファンで風を送りながら。
     脳に直接響くような言葉と、足先に伝わる感触と、勢いの良い風。
     その全てを身に受けながら、俺は小さくため息をついた。

    「…………君のことが、気にならないわけないでしょ」
    「…………てへり」

     トランは一瞬だけきょとんとした後、小さく舌を出して、はにかむのであった。

  • 9二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:08:56

    お わ り
    ほんとあつい

  • 10二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:10:47

    ほう、からかい上手のトランさんですか
    大したものですね

  • 11二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:10:48

    いろんな意味でアツアツですねぇ

  • 12二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 14:56:56

    トレトラの退廃的な雰囲気と猛暑がベストマッチ

  • 13二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 15:01:35

    いいSSだった、麦茶を供えておこう

  • 14二次元好きの匿名さん24/07/06(土) 15:22:07

    実質うまぴょい警察だ!
    よし通れ!

  • 15124/07/06(土) 21:10:49

    >>10

    それに距離の近さもそえてバランスも良い

    >>11

    夏だからね 仕方ないね

    >>12

    この子はなぜこういう雰囲気が似合うのか

    >>13

    暑いと飲みたくなるよね・・・

    >>14

    大健全です

オススメ

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